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平成一一年(ネ)第一九六号商標権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成一〇年(ワ)第一三〇一八号事件)(平成一一年六月二日口頭弁論終結)
判       決
控訴人(原審原告)   【A】
控訴人(原審原告)   壁の穴フーズ株式会社
右代表者代表取締役   【A】
右両名訴訟代理人弁護士   寒河江孝允
同             浅香 寛
同             武藤 元
右輔佐人弁理士   【B】
同             【C】
被控訴人(原審被告)   株式会社壁の穴
右代表者代表取締役   【D】
右訴訟代理人弁護士   丹羽一彦
右訴訟復代理人弁護士   田中克幸
主       文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、スパゲッティ及びパスタ(以下「本件商品」という。)並びにそ
の包装について、原判決別紙被告商標目録記載の標章を付し、又はこれを付した本
件商品を製造、販売、展示してはならない。
3 被控訴人は、控訴人壁の穴フーズ株式会社に対し、金一〇〇万円及びこれに対
する平成一〇年六月二〇日から支払済みにまで年五分の金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 当事者の主張
当事者の主張の要点は、以下に付加するほかは、原判決「事実」の「第二 当事者
の主張」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人ら
 被告標章は、以下のとおり、商標として使用されており、自他商品の識別機能に
欠けるものではなく、①出所表示機能、②品質保証機能、③広告機能の三機能を具
有するものである。
1 被告標章の使用態様について
 同一商品内に表示される自他識別能力を持つ標章は、常に一つに限られるもので
はなく、他に商標表示が存在するからといって、被告標章の使用が商標権侵害とな
らないものではない。したがって、原判決認定のように、商品のパッケージに「ブ
コ ディ ムーロ」や「BUCO di MUrO」の表示が存在することを理由
に、被告標章が商標としての使用に当たらないとすることはできない。
 また、商号としての表示であっても、その使用態様によっては商標権の侵害とな
るのであり、法令により定められた表示の一環としての表示であっても同様であ
る。本件の場合、被告標章を含む販売者の表示部分は、矩形内に表示された他の表
示事項に比して、その文字の大きさにおいても(約四倍)、線の太さにおいても
(約三倍)、明白に異なり、需要者の目に留まる程度に強調されており、通常の表
示方法ではない。しかも、販売者の当該表示部分は、「株式会社」と「壁の穴」の
表示の間に若干のスペースを空けることによって、両者を一体でなく、「壁の穴」
を一塊りとして認識されるような形態がとられている。
 このことは、他社のスパゲッティの販売者の表示法方法(甲一二の一~一一)
や、本件商品以前の「ブコ ディ ムーロ」の表示形態(甲一一の一~三)と比較
しても明らかである。
 そして、本件商標「壁の穴」は、本件商品分野において、控訴人の商標として用
いられ周知となってきたものであるから、「株式会社」の文字を伴って表示されて
いても、この表示に接する取引者・需要者は、まず「壁の穴」に着目し、この部分
をもって自他商品の識別に当たることになる。また、本件商標は、単に商標登録が
なされているのみならず、広く知られて、強い顧客誘引力を有する商標であるか
ら、右の程度の表示態様においても十分に顧客誘引力を発揮するのであり、現実
に、本件商品の販売現場では、被告標章を付した商品が、「壁の穴」の商品として
認識されて販売されているのである(甲五、八~一〇)。
2 被控訴人の被告標章使用の意図について
 被控訴人は、本件商標「壁の穴」が、前示のとおり、本件商品分野において、控
訴人の商標として自他商品の識別力を有することを十分承知しており、しかも、強
い顧客誘引力を有する標章であって、この標章を用いることによって商品が売れる
ものであることを認識した上で、この顧客誘引力を利用しようとして、被告標章の
使用を行っているのである。
 被控訴人がこれまで、パッケージの表面から「壁の穴」の表示を消す一方で、商
号を「壁の穴」として、その販売者としての表示部分のみを、太く大きな文字で強
調して表示するに至った経緯からすれば、被控訴人が、「壁の穴」の表示を単に自
社の表示としてだけでなく、その商標としての顧客誘引力を利用しようとして、あ
えて意図的に強調した表示を行っていることは明白であり、その使用は不正競争の
目的を有するものである。
二 被控訴人
 被控訴人は、自己の商号をその販売者名として普通に表示しているにすぎず、被
告標章を商標として使用しているものではない。
 すなわち、被控訴人が製造販売する本件商品に使用している商標は、原判決が認
定するとおり、「ブコ ディ ムーロ」や「BUCO di MUrO」であるこ
とが一目瞭然であるのに対して、「壁の穴」の表示は、「販売者:株式会社壁の
穴」の表示の一部としてしか用いられていないし、この表示も、各包装や缶詰の裏
面に、法令上食品について定められた表示基準に則って、通常の方法と字体で販売
者名等として表示されているにすぎないのである。
 控訴人らが、本件商品の販売現場で「壁の穴」の商品として販売されている旨を
主張する証拠は、被控訴人商品の陳列棚に、販売者たるデパートや量販店が作成掲
示した「定価表」の写真であり、被控訴人自身が表示したものではない。被控訴人
は、各取引先に対して、定価表等の表示には「壁の穴」を商標的に用いないよう注
意してきているのである。
     理     由
一 原判決の引用
 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。
 その理由は、項を改めて、当審における控訴人らの主張について判断ほか、原判
決の「理由」と同じであるから、これを引用する(ただし、原判決九頁四~五行
目、八行目の各「BUCO dIMUrO」は、「BUCO di MUrO」に
改める。)。
二 当審における控訴人らの主張について
1 被告標章の使用態様について
 当審における、被告標章を含む販売者の表示部分が、通常の表示方法ではなく、
商標としての使用に該当する旨の控訴人らの主張は、原審における主張の範囲を実
質的に出るものではなく、それらがいずれも採用できないことは、原判決の説示す
るところ(原判決八頁九行~一一頁二行)に照らして明らかといわなければならな
い。
 なお、控訴人らは、本件商標「壁の穴」が、本件商品分野において強い顧客誘引
力を有するものであり、現実に、本件商品の販売現場では、被告標章を付した商品
が、「壁の穴」の商品として認識されて販売されていると主張するところ、甲第
五、第八~第一〇号証によると、デパートや量販店の被控訴人商品の陳列棚におい
て、本件商品あるいはそれに関連するソースの各販売価格が「壁の穴」の記載とと
もに表示されていた事実は認められるものの、各商品自体にはそのような表示が行
われておらず、陳列されている他社の商品についての表示と対比しても、これらの
表示は、販売者である当該デパートや量販店が作成掲示したものと推認されるか
ら、被控訴人の製造販売する本件商品において、被告標章は、被控訴人の商号をそ
の販売者名として表示しているにすぎず、商標としての使用に該当しないとした、
前記原判決の説示を左右するに足るものでないことが明らかである。
2 被控訴人の被告標章使用の意図について
 被控訴人が、本件商標「壁の穴」の有する自他商品の識別力及び顧客誘引力を利
用しようとして、被告標章の使用を行っており、その使用は不正競争の目的を有す
る旨主張しているが、乙第七、八、第一〇号証によると、「壁の穴」「ホール・イ
ン・ザ・ウォール」の標章は、被控訴人の取締役会長【E】が、昭和三九年以前か
ら自己の営むレストランの名称として使用を始めたこと、同人がフランチャイズ事
業を開始した後であり、原告商標の出願前である昭和五一年三月に、被控訴人が商
号を「株式会社大阪壁の穴」として設立され、その商号が原告商標の出願公告前で
ある昭和五六年三月に現在の商号に変更されたことが認められ、これらの事実と、
前記認定の被告標章の使用態様に照らすと、控訴人ら主張の事実を認めることがで
きず、したがって、この点に関する控訴人らの主張は、これを採用することができ
ない。
三 以上によれば、控訴人らの本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正
当であり、控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費
用の負担につき、民事訴訟法六一条、六七条一項本文、六五条一項本文を適用し
て、主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第一三民事部
       裁判長裁判官    田中 康久
          裁判官    清水  節
 裁判官石原直樹は、海外出張中につき、署名捺印することができない。
       裁判長裁判官    田中 康久

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