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平成14年3月15日判決言渡・同日判決原本領収 裁判所書記官
平成13年(ワ)第141号 雇用関係存続確認等請求事件
口頭弁論終結の日 平成13年12月21日
判       決
主       文
1 原告は,被告に対し,雇用契約に基づく権利を有することを確認する。
2 被告は,原告に対し,金97万6200円を支払え。
3 被告は,原告に対し,平成13年3月から毎月末日限り金16万2700円を
支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決は,第2,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項同旨
2 被告は原告に対し,金104万8200円を支払え。
3 被告は原告に対し,平成13年3月(本訴提起の年,月)から毎月末日限り金
17万4700円を支払え。
4 第2,3項につき仮執行宣言
第2 争いのない事実
1 被告は金属製品製造加工等を業とする株式会社であり,原告は昭和51年に被
告に雇用され,以後被告において機械を操る作業や雑役の仕事をしている者であ
る。なお,原告は,平成7年5月16日,精神薄弱者更生相談所から障害の程度B
(精中)の判定を受けている。
2 被告は,原告に対し,平成12年8月1日付けで同月31日をもって解雇する
旨の解雇通知書を手渡した。この解雇通知書(以下「本件解雇通知書」という。)
には,「業務遂行に対し,再三指導を行ってきましたが,残念ながら改善の方向性
が感じられません。また,経営悪化による会社の体力低下で,継続雇用が困難な状
況となってしまいました。」と記載されていた。
3 被告は,平成12年9月1日以降原告の就労を拒否し,賃金の支払もしない。
4 被告の就業規則には,「会社の都合によりやむを得ない事由がある場合」を普
通解雇事由と規定している(就業規則39条7号)。
5 原告は被告から,賃金として,平成12年7月及び同年8月には基本給,皆勤
手当,通勤手当合計月額17万4700円の支払を受け,支払日は毎月末日であっ
た。
第3 争点及び争点に対する当事者の主張の骨子
(争点)
1 原告を解雇したこと(以下「本件解雇」という。)に必要となる要件
2 本件解雇の有効性(適法性)
(当事者の主張の骨子)
1 争点1について
(被告の主張)
  本件解雇の主たる要因は労務費の削減であるところ,原告は,独立して仕事を
任せられる状況にはなく,補助作業担当であったが,補助作業すら指示通りに遂行
できず,改善姿勢や向上心も見られず,職場秩序を著しく乱しており,また,仕事
は休みがちでその都度他の従業員に負担をかけるなどの事情がある。要するに,原
告には普通解雇の要件に該当する事実がある。そこで,被告は原告を解雇したもの
である。
(原告の主張)
  本件は,整理解雇の事案である。そして,整理解雇が適法と認められるために
は,以下の4つの要件が必要である。①人員削減をする経営上の必要性。②整理解
雇を選択することの必要性。③被解雇者選定基準の合理性。④解雇手続の相当性,
合理性。
  したがって,本件解雇においても,これが適法と認められるためには,上記4
つの要件が満たされる必要がある。
(被告の反論)
  原告主張の整理解雇基準は一般論としては否定しない。しかし,同基準は,人
員整理を直接の目的とした解雇,例えば,大企業,中企業において従業員の10パ
ーセントないし20パーセント相当の人員を解雇するような場合に適用される基準
であって,本件解雇にはその適用はない。
  すなわち,被告は従業員28名の零細企業であり,各従業員は各自機械等を担
当し,手一杯で稼働している状態であって,人件費削減の手段,方法として,一度
に2,3名の従業員を解雇するだけでその分の生産量が落ちることはもちろん,工
場全体にその影響が及び,事業が遂行できなくなる。そこで,人員削減方法として
の解雇などは,その対象者が限定され,上記影響を与えない仕事を担当している作
業員にしぼられるものである。
  したがって,本件解雇には上記4つの要件の適用はない。確かに,本件解雇で
の解雇の必要性の事由の1つに人員整理の必要性があったが,本件解雇において最
も重視されるべき解雇事由は,職場秩序の維持という点である。具体的には,原告
が,争点2についての(被告の主張)(3),(4)記載のとおり,協調性を欠き,職場
秩序を乱していたことである。
  仮に,本件解雇に上記4つの要件の適用があったとしても,本件解雇は争点2
の(被告の主張)記載のとおり上記要件を満たすものであり,適法である。
2 争点2について
 (原告の主張)
(1) 本件解雇の告知
  被告は,本件解雇に当たり,平成12年8月3日,解雇通知書をそれと分から
ないように封筒に入れて原告に渡しただけであり,解雇の告知は一切していない。
したがって,本件解雇は,労働基準法に違反し,無効である。
(2) 人員整理の必要性
  被告は本件解雇は整理解雇である旨主張する。そして,被告就業規則39条7
号には「やむを得ない事由」が存するときに普通解雇をなしうる旨規定されてい
る。
  ところで,人員整理を必要とする事情は労働者の責めに帰することのできない
事由によって生ずることが多く,したがって,「やむを得ない事由」に該当するか
否かの判断は慎重になされる必要があり,人員整理を必要とするほどの規模の縮小
をしなければならないほどのやむを得ない事情の存在が必要である。
  しかるに,被告は平成13年1月開催(群馬県主催)のイベントにおいて,企
業従業員35名,年商10億円と公表する(案内パンフレット)など経営状態は悪
くないとしている。また,被告は,原告と同職種でほぼ同額給与のパートを募集し
ている。したがって,本件において経費削減すなわち人員整理の必要はないという
べきである。
(3) 整理解雇選択の適否
  仮に人員整理の必要性が認められるとしても,一方的な指名解雇は避け,配置
転換,希望退職募集など,指名解雇極力回避に向けての経営努力がなされたことが
必要であるところ,被告には,解雇回避のための経営努力を認めることができな
い。
(4) 解雇手続の相当性,合理性
  整理解雇が適法とされるためには,使用者は労働者と,人員整理を必要とする
事由,被解雇労働者数,被解雇者の選定基準(整理基準)などにつき,協議をする
必要がある。しかるに,被告は整理基準それ自体を設けず,また,原告を含め従業
員に対し経営状況の説明を全くしないまま,一方的に原告を指名したものであり,
しかも,本件解雇に先立って希望退職を募っておらず,整理解雇の規模,被解雇者
選定基準設定などの計画すら持っていなかった。
(5) 被解雇者選定基準の合理性
  原告は,その作業振りが他の従業員に比して明らかに劣っていることはなく,
欠勤があったとしても病欠であり,職場秩序を乱したこともない。被告は,平成1
2年8月1日に解雇通知を発した後,原告に未経験の仕事をさせ,落ち度があるの
を期待し,予想どおり原告が重油を垂らしたことを解雇事由に掲げた。しかし,普
段の作業において重油が垂れる可能性はなく,わざと流れるよう細工された疑いが
あり,そもそも,解雇通知発出後の事実をもって解雇事由とすることはできないも
のである。
 (被告の主張)
(1) 本件解雇の告知
  被告は,本件解雇をするに先立ち,平成12年7月から,同じ間違いを繰り返
すたびに注意をし,改めなければ辞めてもらうしかないことを告げ,同月31日に
は口頭で,同年8月1日には書面で,同月末日付けで解雇する旨通知したが,原告
は通告後も通常どおり勤務を続け,解雇内容や理由などについて抗議も相談もしな
かった。
(2) 人員整理の必要性
  不況の影響で,被告の決算期売上げは仕事の注文の減少により激減した。すな
わち,31期(平成9年10月1日~平成10年9月30日)の9億1940万円
から32期(平成10年10月1日~平成11年9月30日)には6億2217万
円に減少し(32.4パーセント減),33期においてもその減少傾向は止まらな
かった。被告は,接待交通費等の経費節減に努めたが,赤字の発生を止めることが
できず,32期は4400万円余り,33期は2728万円余りの当期損失を出す
仕儀となり,やむなく,不足分を銀行等からの借入れ,定期預金の解約,株式の売
却などをして資金繰りをしてきたものであるところ,なおも資金が不足し,手形借
入金の返済も月末用資金によりこれをなし,しかも,月末資金を新たに借りざるを
得ない状況であり,当面は,利息のみを支払って元金返済の猶予を得ている(借入
金の返済期日が来ると利息を支払って手形を書き替えてもらっている。)けれど
も,書替えを拒否されたときには直ちに倒産に迫られる状態であり,今後新たな借
入れはできそうもない。
  被告は,上記状況を踏まえ,会計士や取引先銀行と相談のうえ経営改善に努め
たが,製造原価のうち特に労務費については固定的な支出が多いことから,労務費
を削減する必要が生じた。
(3) 整理解雇選択の適否
  上記のとおり人員整理の必要性が生じたことから,被告は,任意の退職を得た
うえこれをパート雇用に切り替えて経費を削減し,また,外注加工を社内加工に切
り替えて加工費を削減するなどの努力をしたものであるが,これらのみでは削減し
うる労務費は僅かであり,整理解雇が必要となった。
(4) 解雇手続の相当性,合理性
  被告は,週1回,全従業員参加のもとで朝礼を行っているが,当該朝礼におい
て,従業員に対し,売上げの減少による赤字の発生,その克服のための経営改善計
画について説明,提案をし,従業員もこれを了承,改善計画に協力し,労使一体と
なって努力しているところであり,たとえば,平成12年5月20日の朝礼では,
労務費は全体として20パーセント削減の必要があることを説明するなど実情を従
業員に知らせており,かかる削減の必要性は,他の朝礼においても説明している。
したがって,被告の従業員は上記実情を熟知していた。
  被告は,被解雇対象者である原告ほか1名(計2名)に対しては,平成12年
7月初旬ころ努力しなければ解雇せざるを得ない旨予告して,注意を喚起してお
り,他の従業員も,原告を被解雇対象者とすることについては了承済みであった。
(5) 被解雇者選定基準の合理性
ア 解雇の理由の主たるものは,上記(2)のとおり労務費の削減にあるが,争点1に
ついての(被告の反論)記載のとおり,人件費削減のために一挙に2,3名の従業
員を解雇すると,工場全体にその影響が及んで事業遂行が不可能となるので,被解
雇者はそのような影響を与えない仕事を担当している従業員に限られるところ,被
告の従業員中では,原告ほか1名だけがこの条件に当てはまり,他に同条件に当て
はまる者はいなかった。
  他方,被告従業員中で任意退職希望者はなく,また,原告ほか1名(上記)を
除いては,いずれの従業員も機械等を分担しており,かかる従業員を一時帰休など
させると上記のとおり全体の作業に響く結果となり,さらに,賃金の切り下げは,
既に残業規制がなされ,手取収入が減少していることもあって,従業員の納得を得
るのは難しい。仮に,機械等分担者(従業員)に退職されると,上記のとおり全体
の作業に影響が出て業務遂行が不可能になる。
イ 前記のとおり,原告にあっては,独立して任せられる仕事はなく補助作業担当
であったが,当該補助作業も指示どおりに遂行することができず,指示されても聞
き入れず,また,作業後の整理整頓がずさんで,他の従業員の手伝を受けても感謝
しないという態度であり,そのため,職場における秩序,志気を乱していた。
  すなわち,原告は補助作業として製造機械に製品の材料を供給していたが,材
料供給については一定時間内での材料使い切りと補充がないと機械が止まってしま
うことから,Aにおいて,原告に対し,機械が止まらないよう時間を見ての作業を
指示したが,原告は上記指示や上司の指導も聞き入れず機械を止めてしまい,他の
従業員から手伝ってもらうこともあった。また,原告は仕事を休みがちでその都度
他の従業員に負担をかけるなど,職場に悪影響を与えていた。
  なお,被告は原告を事実上障害者として捉えており,したがって,本件解雇
は,作業能力が劣ることを理由とした訳ではなく,上記のとおり,原告が職場秩序
を乱すなどして職場に悪影響を与えていることが解雇理由である。
  また,原告は独身者であるところ,被告従業員中で独身者は原告の外2名しか
おらず,他の者は世帯を持ち一家の主柱として稼働している。そこで,被告は,原
告の場合,扶養家族がいないので,他の従業員よりも,原告を解雇対象者にする方
が解雇による影響が少ないものと考え,原告を解雇した。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件解雇に必要となる要件)について
  被告は,整理解雇が適法とされるための基準に関する一般論は承認しつつ,本
件解雇では普通解雇の要件も充たすと主張する。これは普通解雇事由にあたるとの
主張と解されるので,まず,この点につき判断する。
(1) 争いのない事実のほか,甲第1,第4ないし第6,第13,第14号証,第1
5号証の1,2,第17,第18,第20,第24号証,第25号証の1ないし
9,第27号証の1ないし4,第31ないし第36号証,第42号証,乙第1,第
14ないし第24号証,第40,第41,第43,第44,第47ないし第59号
証,第62号証,証人A,同Bの各証言,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に
よれば,次の事実が認められる。
ア 被告の就業規則上の解雇事由は以下のとおりである(第39条)。①無断欠勤が
14日以上に及んだとき。②出勤常ならず改善の見込みのないとき。③刑事事件に
関与し,有罪の判決を受けたとき。④重要な経歴を偽り採用されたとき。⑤故意ま
たは重過失により災害または営業上の事故を発生させ,会社に重大な損害を与えた
とき。⑥就業規則第38条1号から3号までの処分を再三にわたって受け,なお改
善の見込みのないとき。⑦その他,会社の都合によりやむを得ない事由がある場
合。なお,就業規則38条1号は訓戒,同条2号は減給,同条3号は出勤停止の各
処分を規定する。証人Aの証言中には,原告は上記⑦に該当する旨供述する部分が
存する。
イ 原告(昭和35年6月29日生)は,出生時,神経線維腫症に罹患し,左上肢の
筋力低下,長距離歩行ができないなどの身体障害を生じ,昭和49年7月28日障
害の程度B(精軽),平成7年5月16日同B(精中)の各判定を受け,また,平
成7年3月15日,順天堂大学医学部附属順天堂医院において,身体障害者福祉法
別表に掲げる4級の障害に該当する旨の診断を受けているところ,同診断(所見)
によれば,2キロメートル以上の歩行は不能であり,左上肢につき5動作のうち3
動作しかできないとされている。
ウ 原告は,昭和51年,桐生市第二養護学校を卒業し,同校の紹介で被告に雇用さ
れたものであるところ,被告の役員や従業員らは,原告に上記イ記載の障害がある
ことを具体的には知らなかったが,雇用が養護学校からの紹介によるという事情が
あることから,原告が身体に少なくとも何らかの障害を持っていることは知悉して
いた。
エ 原告の作業状況は以下のようである。すなわち,原告は,雇用(就業)当初は,
エアドライバーでねじを締めるなど比較的簡単な作業に従事し,その後いくつかの
就業を経て,平成12年6月ころは,削った金属の削りかす(通称「切り粉」。以
下,単に「切り粉」という。)の片づけ,鋸盤への材料支給,ピン材の洗浄などを
行っていたところ,切り粉の片づけ仕事は,切り粉のたまり具合に照らし,1日の
内に終わらせれば良いとされたが,上記鋸盤への材料支給やピン材の洗浄は次のよ
うであって,一連の作業である。①約3.8メートルのピン材を鋸盤に乗せる。②
鋸盤がこれを切断する。③切断されたピン材をトリクロロエチレン等で洗って運
ぶ。なお,上記切断後のピン材は10分から12,3分で一杯になり,なおも放置
されたままであると,鋸盤からピン材が落ちてしまう。したがって,少なくとも1
2,3分に1回は鋸盤の様子を見てピン材を洗って運ぶ必要があった。
オ 被告従業員B(以下「B」という。)は,原告の直属の上司であり,A(被告専
務取締役。)らから指示を受けて原告の仕事を決定していたが,平成12年7月こ
ろから,原告の仕事内容として,圧接用パイプを両端圧接機に詰め込むこと,ピン
材を乗せることを決定したものであるところ,具体的作業内容は,①ピン材が鋸盤
で切断された後,これを両端圧接機まで運んで乗せること,②当該ピン材と圧接用
パイプを両端圧接機に詰めることである。そして,同圧接機は約30分から1時間
で供給されたパイプ及びピン材を使い切り,その後これらの材料の供給がないとブ
ザーが鳴り止まってしまう。
  なお,証人Bの証言中には,両端圧接機は平成10年ころから導入され,原告
も同年ころから両端圧接機の作業を行っていたとの部分が存するが,同証言中に,
原告は平成12年7月に両端圧接機の作業を始めた旨の部分も存し,また,証人A
の証言及び原告本人尋問の結果中にも,原告は平成12年7月ころから新たに「摩
擦機」(両端圧接機と思われる。)の作業に従事するようになった旨の部分があ
り,原告は平成12年7月ころから両端圧接機の作業に従事するようになったもの
と認められる。
カ ところで,原告の作業の仕方には以下の問題があった。すなわち,原告は,ピン
材を洗う作業に集中し過ぎることから,上記エの作業と上記オの作業とをうまく使
い分けることができず,鋸盤からピン材が落ちたり,両端圧接機がブザーを鳴らし
て止まるなどのことが少なくとも1日に数回は発生し,その際,C,B,Cらが,
場所が近いなどの関係から,原告に代わってこれらの作業をしたことがあった。
  そこで,Bらにおいて原告に注意を与えていたが,両端圧接機が止まる状況が
続いたため,平成12年7月半ばころ,AがBから報告を受け原告に対し直接指示
をした。しかし,その後も状況は変わらなかったため,Aにおいて,同月31日こ
ろ,上記仕事ができなければ来なくてよい旨伝えた。
  原告本人尋問の結果中には,AやBらから,平成12年7月ころ,注意を受け
たり,解雇を前提とした話を聞かされたことはないとの部分が存するが,証人Aの
証言によれば,Aにおいて,くだんの仕事ができなければ来なくてよい旨伝えた
際,原告から「はい」との返事を得たことが認められ,さらに,甲第17号証及び
原告本人尋問の結果によれば,原告には,両端圧接機を止めた際,Cから作業を手
伝ってもらったとの認識があり,また,平成12年7月以後,Aから何か言われた
が,機械の騒音で聞き取れなかったと供述していることに照らすと,原告本人尋問
の結果中注意を受けたことはないとの部分は採用することができず,同結果中に
は,両端圧接機のブザーも2,3メートル離れると聞こえず,原告を含めて周りに
いる誰もがブザーの音には気付かなかったとの部分もあるが,上記のとおり,Cら
がこれに気付いて原告の作業を手伝っていることが認められ,上記部分も採用でき
ない。
キ Aは,平成12年8月1日,原告が作業しているそばを通りかかった際,両端圧
接機が止まっていたため,原告の作業を手伝ったが,原告はその様子を見ているだ
けで両端圧接機のところに飛んでくるなどの姿勢が見られなかったことから,原告
の解雇を決意し,「9月からは来なくていい」と伝え,念のため書類を作って渡す
旨伝えた。これに対し,原告からは特段反応はなかったけれども,上記供述に従
い,Aは,同年8月3日「解雇通達」と題する書面(甲第1号証,乙第1号証。以
下「解雇書面」という。)を封筒に入れて手渡した。このときも原告から特段返事
はなかった。そして,解雇書面には,「業務遂行に対し,再三指導を行ってきまし
たが,残念ながら改善の方向性が感じられません。また,経営悪化による会社の体
力低下で,継続雇用が困難な状況となってしまいました。上記理由により,200
0年8月31日を以って解雇と致します。」と記載されている。
  乙第59号証(Aの陳述書)中には,解雇書面交付の際(上記),原告から
「はい」との返事を得たとの部分が存するが,証人Aの証言は返事はあったと思う
旨の供述にすぎず,また,同人は,同年7月31日ころに原告に仕事上の注意を与
えた際には原告から「はい」との返事を得た旨証言していることに照らすと,乙第
59号証の上記記載部分は採用できない。また,乙第59号証及び証人Aの証言中
には,解雇書面を手渡す際「この間言ってた書類だから。」と伝えたとの部分が存
するが,原告がこれに対し反応を示した事実が認められないことからすれば,原告
がAの上記発言を了知したものとは認められない。
  上記認定の各事実,特に原告が解雇書面を受領しながら何ら発言していないこ
となどに照らすと,原告において,平成12年8月1日の時点でAから「9月から
は来なくていい。」と言われて,同発言を了知したものとは認められない。
ク 原告は,平成12年8月3日,上記解雇書面を見て被告による解雇の意思表示を
了知したが,被告の役員や従業員らに対し,直接異議を唱えることはせず,同月2
5日付けで,伊勢崎簡易裁判所に対し,調停申立をなした。しかし,同調停は不調
となり,本件訴訟に至った。
ケ 被告従業員らの原告に対する評価は一様ではなく,作業服が汚く臭い,他人の話
を聞かない,居眠りをしている,他の人の半分位ないし3分の1以下しか作業能力
がないなどの評価が多いが,他方,「体が不自由なのは気の毒に思います」,「社
会福祉」などの評価(記載)もあり,原告が障害者であることは従業員仲間でも十
分に知られていたことが窺われる。
(2) 以上の事実を前提に以下のとおり判断する。
  被告は,本件解雇理由として,①原告が再三の指導に従わないこと,②被告の
経営悪化の2点を挙げるが,しかし,被告は,①については被告就業規則中の普通
解雇事由に具体的に該当すると判断したものではなく,②の補強事実として述べた
に過ぎない(A証言)。もっとも,解雇書面中の文言からすれば,①は被告就業規
則第39条6号に該当する事実のようにもみえるが,被告からは,原告が同就業規
則第38条1号ないし3号に規定する処分を受けたとの主張立証はないので,上記
普通解雇事由を主張するものとは認められない。
  そうすると,本件解雇は被告就業規則第39条7号(整理解雇)の事由に該当
するとして行われたものというべきであり,被告が主張する原告の就業態度につい
てはその一事情として斟酌されるに過ぎない。したがって,以下,本件解雇が整理
解雇としてその要件を満たすか否かにつき検討する。
2 争点2(本件解雇の適法性)について
(1) 争いのない事実及び上記1において認定した事実のほか,甲第1ないし第10
号証,第13,第14号証,第15号証の1,2,第16ないし第18号証,第2
0,第22,第24号証,第25号証の1ないし9,第27,第28号証の各1な
いし4,第30ないし第42号証,乙第1ないし第6号証,第7号証の1,2,第
8ないし第24号証,第30ないし第41号証,第45,第46,第59ないし第
62号証,証人A,同Bの各証言,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれ
ば,次の事実が認められる。
ア 被告会社の来歴,収支状況などは以下のとおりである。
(ア) 被告は,金属製品の製造加工等を目的とする有限会社であったが,平成10
年3月26日,株式会社組織に変更したものであるところ,売上高は,31期(平
成9年10月1日~平成10年9月30日)には過去最高の9億1940万835
6円を記録したけれども,その後は年を追うごとに減少し,32期(平成10年1
0月1日~平成11年9月30日)には6億2217万2412円,33期(平成
11年10月1日~平成12年9月30日)には6億0220万9677円とな
り,33期は31期の約65.5パーセントにまで落ち込み,また,当期利益は,
31期2122万円余りの黒字が,32期4400万円余りの赤字,33期272
8万円余りの赤字となっており,しかも,かかる状況につき本件解雇後特に改善し
た様子は見受けられない。
(イ) 上記状況から被告の資金繰りも困難となった。すなわち,平成11年4月及
び同年5月には預金解約だけで資金繰りが可能であったが,同年9月には2000
万円の手形借入が必要となり,その後も平成12年9月まで毎月(同年4月を除
く。)現金による借入又は手形借入がなされ,しかも,同年2月,3月は借入が当
月の総収入の半分を超えており,その余の期間についても借入が当月の総収入の相
当割合を占めるに至っているところ,平成11年4月から平成12年9月までの累
計で,預金解約は4853万円余り,借入は約3億4700万円(平成12年7月
までで約2億8400万円)となっている。なお,被告は,本件解雇後の平成12
年12月15日,株式を売却して約768万円の資金繰りをしている。
(ウ) 労務費は,31期約1億8600万円,32期約1億5000万円,33期
約1億4600万円であるが,固定的であり,売上高に占める割合としてはこの間
むしろ上昇している。
イ 被告は,上記アの状況にかんがみ,平成12年3月28日,桐生信用金庫(取引
金融機関)に対し,その融資を得るため「経営改善計画書」を提出し,①生産効
率,輸送体系の改善,②外注加工費の20パーセント削減,③残業規制,従業員
数,基本給及び手当の見直しによる労務費の10パーセント削減,④役員報酬の2
0パーセント削減などを打ち出した。そして被告作成の同年7月31日付「経営改
善中間報告書」には,以下の記載がある。①輸送車両1台の削減。②外注加工費の
削減。③労務費の削減(同月20日付1名削減),④パートタイマー活用の計画
(予定)。なお,上記④役員報酬につき,削減率が平成11年12月から一律20
パーセントから平成12年4月全体で14.7パーセントとしている。
ウ 被告は,本件解雇に先立ち,従業員に対して,①経営状況の悪化につき社員の人
数や待遇の見直し,②パートタイマーの活用による20パーセント労務費削減(方
針)を説明し,また,上記説明(方針)に従って,残業規制を行い,残業代の支払
を1か月あたり30時間を上限とすることとした。しかし,被告は,上記対策を越
えて具体的に希望退職を募ったことはなく,また,整理解雇の規模や被解雇者の選
定基準についても具体的な計画を立てたことはなかった。なお,被告は,本件解雇
後3名のパートタイマーを雇用した。
エ 原告は,気管支喘息の持病等治療のため,平成11年1月13日から同月30日
までの13日間,平成12年2月2日から同月19日までの13日間及び同年4月
27日から同年5月12日までの9日間を病欠したが,無断欠勤等はない。
(2) 前記1において判断したとおり,本件解雇は,いわゆる整理解雇であるから,
その解雇としての効力を有するためには,次の4つの要件が必要である。①人員削
減の経営上の必要性。②整理解雇選択の必要性。③被解雇者選定基準の合理性。④
解雇手続の相当性,合理性。そこで,以下,前記認定の諸事実に基づき,各要件に
ついて検討する。
(3) 人員削減の経営上の必要性
  前記(1)認定の諸事実を総合すれば,被告における人員削減の必要性が認められ
る。すなわち,被告は,31期から32期にかけて約3億円に及ぶ大幅な売上高の
減少を嚆矢として32期以降赤字になり,本件解雇日(平成12年8月31日)を
含む33期には2728万円余りの損失を出した。かかる経営悪化にかんがみ,被
告は預金の解約,新規借入等により資金繰りをしたが,他からの借入が総収入の相
当割合を占めていた。そして,役員報酬の一律削減,残業規制等の実施がなされた
が,他方で,労務費は予想に反して減少せず売上高に占める割合はむしろ上昇して
いた。これらの諸事情からすれば,経営の健全化のため労務費削減を目的とする人
員削減措置が取られることも一つの方法としてやむを得ないものというべきであ
る。
  なお,被告は,本件解雇後にパートタイマー3名を雇用しているが,桐生信用
金庫に提出された経営改善策の中においてパートタイマーの活用による労務費削減
が挙げられており,上記パートタイマーの雇用は上記改善策の一環であるというこ
とができ,したがって,上記パートタイマーの雇用から人員削減の必要性が否定さ
れるとはいえない。
  また,原告は,原告の給与額が低額であったこと,被告の削減対象とされた輸
送車両が既に相当年数を経過したものであること,役員報酬の削減も元々高過ぎた
ものの削減に過ぎないことなどを主張するが,仮にこれらの事情が認められたとし
ても,上記の経営状況からすれば直ちに人員削減の必要性を否定することはできな
い。
(4) 整理解雇選択の必要性
  本件では,被告において指名解雇を回避するための真摯かつ合理的な努力が行
われたものということはできず,整理解雇を選択する必要性があるとは認められな
い。すなわち,一般に,人員削減の実施に当たっては,会社の一方的意思に基づく
指名解雇よりも従業員の意思に基づく希望退職者の募集等による任意退職の方が従
業員の犠牲が少ないというべく,そして,希望退職の募集は整理解雇回避の有力な
手段となるところ,被告は,希望退職者の募集をしておらず,しかも,前記(1)に認
定したとおり,残業規制は既に実施されているけれども,一時帰休,賃金の切り下
げ,配置転換などの解雇回避のための他に取り得る手段の検討がなされたことは認
められず,また,経営健全化のために必要な整理解雇の規模等については具体的計
画の立案が見られない。
(5) 被解雇者選定基準の合理性
  本件解雇の時点において原告を被解雇者に選定したことの合理性には疑問があ
る。
  被告は,原告が全般に勤務態度不良であることなどを理由として,被解雇者に
選定した旨主張し,具体的には妻帯者よりも独身者の方が解雇による影響が少ない
というべく,独身者は3人しかおらず原告はそのうちの1人であったところ,この
3人の中で原告は作業を指示通りする努力をせず,そのため周囲の従業員に迷惑を
かけ,そのうえ,周囲に迷惑をかけても平然としていたことなどを挙げる。
  一般的には妻帯者よりも独身者の方が解雇による影響が少ないことは確かであ
り,勤務態度(勤務成績)を選定基準とすること自体は抽象的には合理性がないと
はいえない。しかし,前記1(1)に認定したとおり,被告は,平成12年7月から,
従業員Bを通じて原告に対しそれまで従事させてきた切り粉の片づけ,ピン材の洗
浄及び鋸盤への材料の供給に加えて両端圧接機の仕事に従事するよう指示し,これ
らの作業の使い分けがうまくできないことを理由に同年8月1日には原告の解雇を
決定している。しかし,Aを初めとして被告の従業員は原告が障害を有することを
概ね知っているところであるから,上記程度の期間しかおかずに原告が指示通りに
作業をすることができないと判断したのは性急であったというべきである。また,
被告は,原告が指示に従わないとか,他の従業員に迷惑をかけても謝らず平然とし
ていたことなども主張するが,これらの事情だけで独立して原告を被解雇者に選定
した合理的な理由となり得るものではない。
(6) 解雇手続の相当性,合理性の存否
  本件解雇の手続は,以下のとおり,相当性,合理性を欠くものである。
  すなわち,被告,具体的にはAら役員や従業員は,原告に注意するときは「は
い」の返事があるまで繰り返し説明をする。しかるに,Aにおいて,平成12年8
月1日,原告に対し解雇する旨伝えたときにはっきりした確認をしたとは認められ
ず,また,同月3日解雇書面を交付したときには原告の応答を確認していない。し
たがって,被告による本件解雇の意思表示が明確になされたかどうか疑問の余地が
ある。そもそも,使用者は,整理解雇をするに当たっては,労働者に対して(整
理)解雇の必要性とその時期,規模,方法につき納得を得るべく説明するなど誠意
を持って協議すべき信義則上の義務を負うと解される。
  しかるに,被告は,原告に対し平成12年7月31日ころ,当時課せられた仕
事ができなければ解雇するかも知れない旨の説明をし,同年8月1日には早や原告
の解雇を決めてこれを原告に伝えており,解雇理由としては,同月3日交付にかか
る解雇書面中に「経営悪化による会社の体力低下で,雇用継続が困難な状況となっ
た」と記載しただけで,他に整理解雇について説明や協議を行った事実は認められ
ない。上記解雇書面の記載のみでは人員整理の必要性や解雇の説明としては不十分
であり,上記相当性,合理性は見出し難い。
(7) 以上検討したところによれば,被告には,経営上人員削減の必要性があるとい
えるが,そのために整理解雇を選択することの必要性,被解雇者の選定及び解雇手
続の妥当性の点では到底合理性があるとはいえず,本件解雇は整理解雇の要件を満
たさないものであって無効である。
  よって,原告は,被告に対し,雇用契約に基づく権利を有しているというべき
である。
3 未払賃金等の請求について
  甲第15号証の1,2,第25号証の8,9及び弁論の全趣旨に基づき以下の
とおり認定,判断する。
(1) 原告は,平成12年1月から同年7月にかけて,被告から1か月当たり基本給
15万3700円のほか,通勤手当合計1万2000円,皆勤手当9000円(合
計17万4700円)の支給を受けていたが,通勤手当は通勤実績に応じて支給さ
れる性質のものであるところ,原告は現に稼働していないので通勤手当の支給を受
けるべき権利は発生せず,したがって,通勤手当を除く1か月当たり合計16万2
700円について原告にその支給を受けるべき権利を認めることができる。
(2) そうすると,原告は本件解雇(平成12年8月31日)後本件訴訟提起(平成
13年3月)までの分(平成12年9月分から平成13年2月分までの6か月分)
として104万8200円を請求するところ,そのうち97万6200円は理由が
あり,また,本件訴訟提起後の分として平成13年3月以降毎月末日限り金17万
4700円の請求のうち平成13年3月以降毎月末日限り金16万2700円の支
払を求める部分は理由があるが,その余の請求はいずれも理由がない。
4 まとめ
  よって,原告の請求のうち,原告が被告に対し,雇用契約に基づく権利を有す
ることの確認を求める部分,並びに金97万6200円及び平成13年3月以降毎
月末日限り金16万2700円の支払を求める部分の各請求は理由があるから認容
し,その余の請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
   前橋地方裁判所民事第2部
       裁判長裁判官 東 條   宏
           裁判官 原   克 也
           裁判官鈴 木 雄 輔

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