弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人手塚誠提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここに
これを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
 一、 論旨の一について
 <要旨>関税法にいわゆる輸入たるには、外国貨物が関税の境界線を越えてわが国
内に入り、自由に処分しうる状態におかれたという客観的事実が存すれば足
り、その貨物を搬入した者において、それを再び国外に搬出する意図があつたかど
うかというようなことは斟酌する必要がないものと解するのを相当とする。昭和二
十九年法律第六一号関税法第二条第一号に「輸入」とは外国から本邦に到着した貨
物を本邦に引き取ることをいうと定めているのもこの趣旨であるというべきであ
る。これを本件についてみるに、原判決が証拠によつて確定したところによると、
被告人は昭和二十八年八月二十日頃香港から外国製腕時計五個を携帯し、航空機で
東京都大田区羽田空港に輸送し、所定の通関手続を経ずにわが国内に搬入し、その
後同月二十八日前記羽田空港から航空機で国外に搬出しようとしたところを発見さ
れたものであるから、右貨物は八日間わが国内に在つたものであり、従つてわが国
に輸入されたものであることは疑いもない事実である。所論は、被告人は当初から
本件貨物を日本において処分する意思を有せず、香港から韓国へ運搬する途中、輸
送の都合上、一時的に日本国内に搬入したに過ぎない、いわゆる通過貨物であると
争つているのであるが、いやしくも外国貨物がわが国内に入つた以上、関税法にい
わゆる輸入があつたものと目すべく、事前申告によつて正式に表示されていない搬
入者の意思のごときは輸入の観念を定めるについて関係のないものであることは、
さきに判示したとおりであるばかりでなく、国際航空輸送を業とする会社の支店の
支配人として通関手続にも精通しているとみられる被告人が、いわゆる通過貨物と
しての申告もせず、積戻の手続もとつていないところからみても、到底本件貨物が
適法な通過貨物であると認めることのできないのは明白である。而して輸入貨物に
は、総て関税定率法に基き関税を課すべきことは関税法の明規するところであるか
ら、原判示外国製腕時計に対して、わが国が関税を課しうることは当然であり、こ
れを逋脱した被告人に原判示のような刑事責任の存することも論をまたない。所論
は本件貨物の性格について独自の見解に立脚し、これを前提として原判決を非難す
るに過ぎないから採用の限りでなく、論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 山岸薫一 判事 下関忠義)

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