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平成19年5月25日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第10166号著作権侵害差止請求権不存在確認請求事件
口頭弁論終結日平成19年3月27日
判決
東京都台東区(以下略)
原告イメージシティ株式会社
同訴訟代理人弁護士金井重彦
同吉野高
東京都渋谷区(以下略)
被告社団法人日本音楽著作権協会
同訴訟代理人弁護士田中豊
同藤原浩
同鈴木道夫
同市村直也
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,「MYUTA」の名称により原告が行う別紙目録記載
のサービスの提供について,被告が,作詞者,作曲者,音楽出版者その他著作
権を有する者から委託されて管理する音楽著作物の著作権に基づき,これを差
し止める請求権を有しないことを確認する。
第2事案の概要
1前提となる事実(当事者間に争いのない事実の外,弁論の全趣旨及び後掲の
各証拠によって認定できる事実を含む。)
(1)当事者
原告は,携帯電話向けストレージサービス等を業とする株式会社であり,
平成18年1月1日に商号が「株式会社コンピュータシティ」から現在のと
おりに変更された(弁論の全趣旨)。
被告は,著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)に基づき著作
権等管理事業者登録簿に登録された音楽著作権等管理事業者であり,内国著
作物については管理委託契約により国内の多くの作詞者,作曲者,音楽出版
者等の著作権者から著作権ないしその支分権(演奏権,上映権,録音権等)
につき信託を受け,外国の著作物については我が国が締結した著作権条約に
加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約によるなどしてこれを管
理し,国内の公衆送信事業者をはじめ,レコード,映画,出版,興行,社交
場等各種の分野における音楽の利用者に対して,音楽著作物の利用を許諾し,
その対価として利用者から使用料を徴収するとともに,これを内外国の著作
権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。
(2)原告のサービス事業
原告は,パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザ
(ただし,当面はKDDI株式会社のauWIN端末のユーザのみ)を対象
として,「MYUTA」の名称により,CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴
くことのできる別紙目録記載のサービス(以下「本件サービス」という。)
を提供しようとしている(甲4,弁論の全趣旨)。
本件サービスは,要旨,次のとおりである(甲4,5の1及び2)。
ア基本構成
本件サービスは,原告が作成して提供する「MYUTA専用MUSI
CUPLOADER」(以下「本件ユーザソフト」という。)を用いて,
ユーザが楽曲の音源データを自己のパソコンで携帯電話用ファイルに圧縮
し,インターネットを経由して原告の運営する「MYUTAサーバ」(以
下「本件サーバ」という。)のストレージ(外部保存媒体。具体的にはス
トレージサーバ内の大容量のハードディスク)にアップロードして蔵置し,
これを任意の時期に自己の携帯電話にダウンロードできるようにするもの
であり,これにより,ユーザにおいて,携帯電話で楽曲を自由に再生する
ことができる。
イ楽曲の音源データの流れ
本件サービスにおいて,楽曲の音源データは,別紙「本件サービスにお
ける音楽著作物の利用」(以下「説明図」という。)記載のとおり,デー
タファイルとして,形式が変換され,蔵置され,インターネットで送信さ
れて利用される。
(ア)説明図①
ユーザのパソコンにおいて,ミュージックプレイヤー用に予め作成済
みのMP3ファイル又はWMAファイル(以下,ファイル形式は,これ
らのようにファイルの拡張子を用いて呼称する。)を準備するか,一般
のソフトウエアなどを利用してCDからこれらのファイルを作成する。
(イ)説明図②
ユーザのパソコンにおいて,本件ユーザソフトを用いて,MP3ファ
イル又はWMAファイルがAVIファイルに変換され,蔵置されて複製
される。
(ウ)説明図③及び④
ユーザのパソコンにおいて,本件ユーザソフトを用いて,AVIファ
イルが3G2ファイルに変換され,蔵置されて複製された後,インター
ネット回線で本件サーバにアップロードされ,その完了時に3G2ファ
イルがユーザのパソコンから消去される。
(エ)説明図④
本件サーバにおいて,ユーザからインターネット回線でアップロード
された3G2ファイルが蔵置されて複製される。
(オ)説明図④及び⑤
ユーザの携帯電話において,本件サーバからインターネット回線でダ
ウンロードされた3G2ファイルが蔵置されて複製される。
(3)本件訴訟に至る経緯
原告は,平成17年11月,プレスリリースを経て,本件サービスにつき
機能を限定して無料による試用を開始した(甲4)。
被告は,平成18年2月1日付けの「『MYUTA』について」と題する
書簡をもって,原告に対し,本件サービスの中止と権利者の許諾を得た上で
の再開を申し入れた(甲1)。
その後,原告と被告の間において,本件サービスをめぐって著作権法に違
反する事態の有無につき書簡が交わされ(甲2,3),原告は,平成18年
4月20日,「著作権法の解釈を明確にした後,改めてサービスを再開する
ことを目指」すとして,本件サービスをいったん終了した上,同年5月17
日,本件訴訟を提起した(甲7,顕著な事実)。
(4)ユーザの扱う音楽著作物
本件サービスを利用するユーザの扱う楽曲の音源のほとんどが被告の管理
する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)である。
2事案の概要
本件は,原告が被告に対し,原告の本件サービスの提供について,管理著作
物の著作権に基づく差止請求権が存在しないことの確認を求める事案である。
これに対し,被告は,本件サービスについて原告が管理著作物の複製権及び公
衆送信権(送信可能化権及び自動公衆送信権)を侵害するとして,上記各権利
に基づき,差止請求権がある旨を主張している。原告は,本件サービスにおい
て管理著作物が複製されることは認めた上で,その行為主体はユーザであり,
また公衆送信に当たらないなどと主張する。
3争点
(1)複製権侵害の有無
ア複製権その1
説明図④に関し,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為につい
て,その行為主体が誰か
イ複製権その2
説明図⑤に関し,ユーザの携帯電話における3G2ファイルの複製行為
について,その行為主体が誰か
ウ複製権その3
説明図②に関し,ユーザのパソコンにおけるAVIファイルの複製行為
について,また,説明図③に関し,ユーザのパソコンにおける3G2ファ
イルの複製行為について,それぞれその行為主体が誰か
(2)公衆送信権侵害の有無
ア自動公衆送信権
説明図④から⑤に関し,本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G
2ファイルの送信(ダウンロード)について,自動公衆送信行為がされた
といえるか
自動公衆送信行為であるとして,その行為主体が誰か
イ送信可能化権
説明図④に関し,本件サーバにおける3G2ファイルの蔵置について,
送信可能化行為がされたといえるか
送信可能化行為であるとして,その行為主体が誰か
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)ア(複製権その1)について
〔被告の主張〕
説明図④に関し,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は,
原告である。
(1)本件サーバは,原告の所有であり,原告が管理運営しているから,自然
的な観察の下,物理的ないし電気的にみて,3G2ファイルの複製行為の行
為主体が原告であることは明らかである。
本件と異なり,電子掲示板に他人の権利を侵害する書き込みがされた場合,
一般のストレージサービスを利用して公衆に他人の著作権を侵害するファイ
ルが送信された場合等において,著作権侵害の主体は,物理的,電気的に複
製,送信行為を行っているサービス提供者ではなく,他人の権利を侵害する
ファイルをアップロードしたユーザと評価すべきであるとする見解がある。
しかし,このようなサービスでは,ユーザは自由な手段を用いて自由な内容
のコンテンツをアップロードでき,他方,サービス提供者は,単なる場の提
供者にすぎない。上記の見解は,アップロードの過程や内容に全く関与する
立場にないサービス提供者に対し,アップロードされる膨大な数のファイル
の中から他人の権利を侵害するような少数のファイルを排除する義務を課す
ることが酷であるという配慮が背景にある。
本件サービスでは,全く事情が異なり,原告が提供する本件ユーザソフト
を利用しなければ,本件サーバにアップロードすることはできないし,本件
ユーザソフトは,本件サーバとインターネット回線で接続された状態で,本
件サーバの許可を得なければ作動しない。そして,本件サーバにアップロー
ドが予定されているデータは,ほとんど管理著作物の音声データであり,膨
大な数の適法なデータから少数の著作権侵害データを探索するような関係に
もなく,原告は,本件サービスを有料で公衆に提供しようとするものである。
(2)さらに,著作権侵害に対する管理支配と利益の帰属という枠組みによっ
ても,その主体は原告というべきである。
すなわち,①本件サービスは,音源データを本件サーバにアップロードし,
次いで携帯電話にダウンロードすることにより,ユーザがいつでもどこでも
携帯電話を用いて音楽を聴くことができるようにすることのみを目的とした
サービスであること,②本件サービスの中心的役割を果たす本件サーバは,
原告の所有物であり,原告が常時作動するように監視,管理していること,
③本件サービスを利用するには,ユーザは,会員登録をして本件ユーザソフ
トの提供を受け,それをインストールしたパソコンで本件サーバに接続し,
そのパソコンを登録しなければならないこと,④本件サービスは,本件ユー
ザソフトを使用してのみ利用することができ,すべて本件ユーザソフトの指
示説明する手順に従ってのみ利用できること,⑤本件ユーザソフトは,本件
サーバとインターネット回線を経由して接続している状態において,本件サ
ーバの認証を受けなければ作動しないようになっており,本件サーバとユー
ザのパソコンが有機的に結合して1つの音楽著作物の複製機器を構成してい
るものと評価できること,⑥本件サービスは,原告と契約したユーザがアッ
プロードした3G2ファイルをすべて本件サーバに蔵置して一括管理し,各
ユーザの要求に応じて本件サーバから各ユーザに3G2ファイルが送信され
る仕組みになっていること,⑦本件サービスにより本件サーバに複製される
ファイルは,専ら市販のCD等に収録されている楽曲を複製したものが予定
されており,そのほとんどが管理著作物であること,⑧原告は,ユーザから
の問い合わせに対し,個別に回答するなどのサポートを予定していること,
⑨原告は,本件サービスの有料化を予定しており,本件サービスの提供によ
って利益を得ることに照らせば,原告が本件サービスにより行われる管理著
作物の本件サーバでの複製を管理していることが明らかである。
(3)実際,本件サーバ内には,原告の主張するような各ユーザが利用する特
定の専用領域は存在せず,本件サーバのハードディスクには,不特定多数の
者の関与によりアップロードされた音楽ファイルのデータブロックが渾然と
蔵置される。これらのデータについて,そのアップロードに関与したユーザ
以外の者が通常の方法によってはアクセスできないように,原告において管
理しているというにすぎない。
しかも,本件サーバでのこの複製行為の過程において,ユーザが行うのは,
原告の配布した本件ユーザソフトを用いてパソコン上に複製された音源デー
タのファイルを本件サーバ(のストレージサーバ)内のアプリケーションソ
フトに引き渡すところまでである。このファイルをハードディスクに蔵置す
るために行うファイル処理や携帯電話に配信できる形式にして送信する処理
は,基本ソフトウエアのオぺレーティングシステム及びアプリケーションの
機能のみによって行われる。ユーザはこれらの著作物の複製や送信に関する
処理に一切関与することはできない。
このような方法で行われる本件サービスは,ダビング屋のサービスに例え
ることができる。
(4)原告は,本件サーバに蔵置された楽曲の音源データには,当該アップロ
ードをしたユーザ1人しかアクセスできないことをもって,音源データの複
製主体がユーザであることが明らかである旨主張するが,複製行為の主体が
誰かの問題は,複製元のデータの提供者と複製物の受領者とが同一人物であ
るか否かとは論理的に無関係である。原告の作成,配布した本件ユーザソフ
トを用いて,現に自己が所有,管理する本件サーバに著作物の複製がされ,
このような本件サービスを有償で行うのであれば,原告が複製行為の主体で
ないと評価するに十分な根拠を説明すべきである。
(5)したがって,本件サービスにおける本件サーバへの管理著作物の複製行
為の主体は,原告というべきである。
〔原告の主張〕
複製行為の主体は,ユーザである。
(1)本件サービスは,楽曲の音源を購入するなどしたユーザ自身が音源デー
タのファイルを利用してユーザ個人の携帯電話で再生して聴取するためのサ
ービスである。
原告は,本件サービスが公衆送信に該当しないような仕組みを作っている
が,それしかしておらず,ユーザの複製行為を管理支配していない。原告が
行っているのは,本件サービスが公衆送信に該当しないように,契約をした
ユーザによる1対1の対応を確保するための確認行為,すなわち,次のよう
な環境設定行為である。
アユーザは,パソコンで必要情報を入力して会員登録をし,アクセスキー
(ユーザの使用パソコンを特定するために本件サーバから割り当てられた
ID)を取得する。
イユーザは,アクセスキーを確認後,パソコンから所定の操作をして本件
サーバとユーザの携帯電話を接続させて携帯電話を登録する。
ウこれらの一連の作業により,ユーザのパソコン,ユーザが排他的に利用
できる本件サーバの専用領域,ユーザの特定の携帯電話(1台のみ)が互
いに完全に紐付けされて,本件サーバの専用領域がユーザのパソコンの外
付けハードディスクと全く同様に,ユーザの私的利用専用の環境となる。
ファイルを作成して蔵置するのはユーザである。原告が行っているのはい
わゆるストレージサービスであって,銀行の貸金庫業務において,銀行が金
庫を提供しているのと同じであり,原告は,ユーザが複製した音源データの
ファイルを,ユーザが予め登録しておいた携帯電話にダウンロードするため
の中継地点として,保管して預かっているだけである。
(2)原告は,ユーザに対して蔵置するファイルを作りやすい状況を作出した
り,ファイルを作るように働きかけたり,特定の曲を選択したりするような
ことをしておらず,ユーザによるファイルの作成という複製行為を管理支配
しているとはいえない。
(3)なお,本件サービスにおける複製は,最終的には,ユーザが正当に取得
した音楽著作物を,携帯電話をその再生視聴機器として再生して聴取するた
めに,一時的にユーザのパソコンや本件サーバに複製しているものであって,
その意味では,コンピュータのメモリ内に一時的に複製されるソフトウエア
と同じ道理であり,物理的評価においても,規範的評価においても,すべて
ユーザが行っているものである。
2争点(1)イ(複製権その2)について
〔被告の主張〕
説明図⑤に関し,ユーザの携帯電話における3G2ファイルの複製行為につ
いて,その行為主体は,原告であり,少なくとも,ユーザとの共同の行為主体
である。
(1)本件サービスの目的は,ユーザの携帯電話で音楽が聴けるようにするこ
と,すなわち,その携帯電話に音楽著作物を複製することにあり,それ以前
に行われる処理は,すべてユーザの携帯電話に3G2ファイルの形式で蔵置
することに向けて行われる。
ユーザの携帯電話に3G2ファイルが複製される手順において,ユーザが
行うのは,①インターネット回線で自己の携帯電話を本件サーバに接続し,
②ダウンロード画面の指示に従って本件サーバに蔵置されている音源データ
のファイルを選択してダウンロードすることである。これに対し,原告は,
その管理運営する本件サーバにより,③音源データのファイルを蔵置してい
つでもユーザがダウンロードできるように準備し,④インターネット回線で
接続された携帯電話が本件サービスに登録されたものか否かを識別し,⑤登
録済みの携帯電話のときにダウンロードする楽曲を選択する画面情報を携帯
電話に送信して操作方法等を指示し,⑥ユーザが選択した楽曲の3G2ファ
イルを本件サーバから読み出し,⑦これをインターネット回線を通じてユー
ザの携帯電話に送信する行為をしており,こうして,3G2ファイルはユー
ザの操作を要せず,その携帯電話に自動的に蔵置される。すなわち,原告は,
管理著作物の複製において不可欠で最重要な行為を自ら積極的に行って,著
作物の複製行為を管理,支配している。
原告は,本件サービスを有料で提供することを予定しており,ユーザが増
加して管理著作物の複製個数が増加すればするほど,多くの対価を取得する
ことになるから,管理著作物の複製による直接の経済的利益を得る者である。
(2)したがって,携帯電話がユーザの所有物であって,ユーザがダウンロー
ドの指示をするとしても,原告の提供する本件サービスの目的に照らし,本
件サービスによってユーザの携帯電話に管理著作物の複製物が当然にして生
成され,原告がその不可欠で最重要な行為を積極的に行い,直接の経済的利
益を得ることからすれば,原告は,ユーザの携帯電話における3G2ファイ
ルの複製行為について,その行為主体,少なくとも,ユーザと共同の行為主
体というべきである。
〔原告の主張〕
複製行為の主体は,ユーザである。
(1)このプロセスが専らユーザの携帯電話で行われる以上,そこでの複製の
主体がユーザであることは明白であり,かつ,自身の使用のために行ってい
る私的な行為であることは論ずるまでもない。
このほかの理由は,前記1〔原告の主張〕(1)及び(2)と同旨である。
(2)被告は,原告が管理著作物の複製において不可欠で最重要な行為を自ら
積極的に行って著作物の複製行為を管理,支配している旨主張する。
しかしながら,原告が行っているのは,本件サービスが公衆送信に該当す
ることのないように1対1対応を確保するため,携帯電話から本件サーバへ
のアクセスを,パソコンから本件サーバへのアクセス者と同一人に限定する
ための本件サービスのいわば出口制限である。
原告は,ユーザによる複製行為に関与していない。ダウンロードは,ユー
ザが携帯電話の表示画面上でリストアップされている楽曲を選択して決定す
ることによって行われる。すなわち,ユーザは,自らの意思でダウンロード
する楽曲を選択し,自らの意思でインターネット回線を通じて携帯電話に音
源データのファイルを蔵置しているのであり,本件サービスの利用手順を原
告が定めたからといって,これに従って作成された物をサービス提供者が作
成したことにはならない。貸金庫を利用手順に従って利用したからといって,
金庫を利用している者の行為を金庫の所有者が支配しているとは考えないこ
とと同じ道理である。
3争点(1)ウ(複製権その3)について
〔被告の主張〕
説明図②に関し,ユーザのパソコンにおけるAVIファイルの複製行為につ
いて,また,説明図③に関し,ユーザのパソコンにおける3G2ファイルの複
製行為について,いずれも,その行為主体は,原告であり,少なくとも,ユー
ザとの共同の行為主体である。
(1)ユーザのパソコンにAVIファイル及び3G2ファイルが複製される手
順において,これらの複製は,すべて原告が本件サービス用に開発してユー
ザに配布した本件ユーザソフトの機能によって行われ,ユーザが行うのは,
表示画面の指示に従って具体的ファイルを選択し,決定するのみである。し
かも,本件ユーザソフトはインターネット回線で本件サーバと接続された状
態で稼働するから,AVIファイル及び3G2ファイルの複製は,原告の管
理運営する本件サーバに管理された状態の本件ユーザソフトによって行われ
るのであり,原告は,これらの複製についても不可欠で最重要な行為を行っ
て,これを管理,支配している。
原告は,本件サービスを有料で提供することを予定しており,ユーザが増
加して管理著作物の複製個数が増加すればするほど,多くの対価を取得する
ことになるから,管理著作物の複製による直接の経済的利益を得る者である。
(2)したがって,ユーザのパソコンにおけるAVIファイル及び3G2ファ
イルの複製行為について,本件ユーザソフトの機能によって行われ,しかも,
インターネット回線で本件サーバに管理された状態でのみ管理著作物の複製
を行えること,管理著作物の複製により原告が直接の利益を得ることなどを
考慮すれば,原告は,いずれも,その行為主体,少なくとも,ユーザと共同
の行為主体というべきである。
〔原告の主張〕
複製行為の主体は,いずれもユーザである。
(1)これらのプロセスが専らユーザのパソコンで行われる以上,そこでの複
製の主体がユーザであることは明白であり,かつ,自身の使用のために行っ
ている私的な行為であることは論ずるまでもない。
このほかの理由は,前記1〔原告の主張〕(1)及び(2)と同旨である。
(2)被告は,原告が管理著作物の複製において不可欠で最重要な行為を行っ
て著作物の複製行為を管理,支配している旨主張する。
しかしながら,ここでの複製行為は,自宅等にあるユーザのパソコンで行
われている。これを原告が管理,支配しているとする被告の論理によれば,
著作物を利用させるのに適した道具やシステムを提供し,維持管理している
だけで,ユーザの複製行為を管理,支配していることになる。
ユーザの複製行為について,その動機付けをしたり,複製対象の選択や複
製行為に対する働きかけがない以上,著作物を利用するのに適した道具やシ
ステムを提供し,維持管理しているだけで,ユーザの複製行為を管理,支配
していると評価することは困難である。
4争点(2)ア(自動公衆送信権)について
〔被告の主張〕
説明図④から⑤に関し,本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2フ
ァイルの送信(ダウンロード)について,自動公衆送信行為がされたといえる。
この自動公衆送信行為について,その行為主体は原告である。
(1)公衆送信における公衆とは,不特定又は多数の者をいうから(著作権法
2条5項),送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)
が不特定又は特定多数の者であれば公衆に対する送信に当たることになる。
本件サービスは,所定の手続を経由すれば誰でも利用できるものであり,
ユーザと原告との間には何らの個人的結合関係は存在しないから,各ユーザ
は本件サーバを設置する原告にとって不特定の者である。そして,3G2フ
ァイルの送信は,本件サーバに接続したユーザの携帯電話による求めに応じ
て自動的に行われるから,本件サーバからユーザの携帯電話に対する管理著
作物の3G2ファイルの送信は,管理著作物の自動公衆送信に当たる。
しかも,本件サービスの実態に即してみれば,ある特定の一時点において,
原告は,本件サーバにアクセスしている不特定かつ多数のユーザの要求に応
じて,本件サーバを蔵置している多数の音源データのファイルを上記ユーザ
に対して送信し,かつ,本件サーバの特定の記憶領域には,不特定かつ多数
の者の関与により,アップロードされた多数の音楽情報が次々と記録されて
いき,これをその要求に応じて送信するものである。
(2)本件サーバは原告の所有であり,原告が管理運営しているから,自然的
な観察の下,物理的ないし電気的にみて,3G2ファイルの自動公衆送信行
為の行為主体が原告であることは明らかである。
そして,このほか,前記1〔被告の主張〕(1)のとおり,本件サービスと
電子掲示板,ストレージサービスを比較した場合の特徴や本件サービスにお
ける管理支配と利益の帰属の枠組みに照らせば,原告が本件サービスにより
行われる管理著作物の本件サーバから携帯電話への送信を管理していること
が明らかである。
(3)原告は,本件サービスでは,ユーザと音楽情報が1対1の対応関係であ
り,公衆送信権の侵害でない旨主張する。
しかしながら,自動公衆送信とは,送信の要求があった特定の著作物を当
該要求をした特定の相手方に送信する行為であるから,自動公衆送信が行わ
れる局面において,著作物と送信先は,常に1対1の関係にあり,これによ
って何ら公衆送信権侵害が否定されることはない。そして,公衆送信におい
て,公衆によって直接受信されることを目的としているか否かは,前記(1)
のとおり,相手方が送信の主体にとって,不特定の者といえるか否かによっ
て決められる。
(4)したがって,本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2ファイル
の送信(ダウンロード)について,自動公衆送信行為がされたということが
でき,この自動公衆送信行為について,行為の主体は,原告というべきであ
る。
〔原告の主張〕
説明図④から⑤に関し,本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2フ
ァイルの送信(ダウンロード)については,公衆送信の概念に該当しないから,
自動公衆送信行為がされたということはできない。
(1)本件サービスは,ユーザが本件サーバに蔵置した音源データのファイル
には,当該ユーザしかアクセスできないのであって,1対1の対応関係しか
なく,しかもそれは常に同一人に帰するものであるから,公衆送信権侵害と
する立論は論理的帰結として成立の余地がない。
すなわち,本件サービスにおいて,ユーザは,2回のログイン認証を経て,
初めて本件サーバ内のストレージの非公開領域に蔵置されている自己の音源
データにアクセスできる。このアクセスには,ユーザ固有のアクセスキーが
必要であり,1人のユーザは,自己の有する固有のアクセスキーにより蔵置
した音楽情報しかアクセスできないから,ユーザと音楽情報は1対1の関係
にあり,実際には,ユーザが専ら自分自身に向けて行っている自己宛の純粋
に私的な情報伝達であって,公衆送信権の侵害はない。
(2)被告は,本件サーバからユーザの携帯電話への3G2ファイルの送信に
ついて,①送信の主体を原告とし,②その原告が,本件サーバに接続したユ
ーザの携帯電話による求めに応じて,自動的に3G2ファイルを送信し,③
原告とユーザ間には何らの個人的結合関係もないから,ユーザは原告にとっ
て不特定の者であると主張する。
しかしながら,本件サーバにユーザが蔵置した音源データのファイルには
当該ユーザしかアクセスできない。本件サービスは,個人ユーザを対象とし
たユーザ本人のためのストレージサービスである。ユーザが音源データのフ
ァイルを複製し,当該複製した音源データのファイルを本件サーバに蔵置し,
携帯電話にダウンロードするのもユーザである。
原告は,本件サーバ内に,本件サービスの利用契約をしたユーザしか利用
できない領域を設定するための仕組みを提供しているだけであり,銀行の貸
金庫業務類似の行為しかしていない。
また,ダウンロードは,ユーザが携帯電話の表示画面上でリストアップさ
れている楽曲を選択して決定することによって行われる。本件サービスにお
いては,本件サーバにユーザが蔵置した音源データのファイルに,蔵置行為
をした特定個人の契約者以外の不特定又は多数のユーザが自由にアクセスす
ることはできない。
5争点(2)イ(送信可能化権)について
〔被告の主張〕
説明図④に関し,本件サーバにおける3G2ファイルの蔵置について,送信
可能化行為がされたといえる。
この送信可能化行為について,その行為主体は原告である。
(1)本件サーバは,前記4〔被告の主張〕のとおり,インターネット回線に
接続することにより,その記憶装置に蔵置されたデータをユーザに自動公衆
送信する機能を有しているから,自動公衆送信装置に該当し,本件サーバに
管理著作物の3G2ファイルを蔵置する行為は,公衆の用に供されている自
動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録することに当たるから,
管理著作物の送信可能化(同法2条1項9号の5イ)に当たる。
(2)前記1〔被告の主張〕のとおり,本件サービスにおける本件サーバへの
管理著作物の蔵置(複製)行為の主体は,原告というべきである。
(3)したがって,本件サーバにおける3G2ファイルの蔵置について,送信
可能化行為がされたということができ,この送信可能化行為の主体は原告と
いうべきである。
〔原告の主張〕
説明図④に関し,本件サーバにおける3G2ファイルの蔵置について,送信
可能化行為がされたということはできない。
(1)送信可能化行為の前提として,説明図④及び⑤に関し,本件サーバから
ユーザの携帯電話に向けた3G2ファイルの送信(ダウンロード)について,
前記4〔原告の主張〕のとおり,公衆送信の概念に該当しないから,送信可
能化行為はされていない。
(2)なお,原告の行為は,本件サービスのいわば入口制限であり,本件サー
バに楽曲の音源データをアップロードするには,本件ユーザソフトの配布を
受け,それをインストールしたパソコンが本件サーバに接続していることが
必要である。これは,本件サーバにおいて,契約しているユーザのパソコン
であるか否かを識別するためである。
楽曲の音源データのアップロードは,本件ユーザソフトを起動したパソコ
ンにおいて,ユーザがリストアップされた楽曲を選択して転送することによ
って行われ,これがアップロードされると,3G2ファイルは,ユーザのパ
ソコンから消去される。
第4当裁判所の判断
1証拠によって認められる事実
前記第2の1の前提となる事実に,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次
の事実が認められる。
(1)本件サービスの概要及び目的(甲4,弁論の全趣旨)
ア本件サービスの概要は,別紙目録記載のとおりである。
すなわち,原告との間で会員登録を済ませたユーザは,原告の提供する
本件ユーザソフトをパソコンにインストールし,これを用いて楽曲の音源
データを携帯電話で利用できるファイル形式に変換して本件サーバにアッ
プロードし,これを携帯電話にダウンロードする。
このように,本件サービスは,楽曲の音源データを本件サーバから携帯
電話にインターネット回線を経由してダウンロードし,ユーザが携帯電話
でいつでもどこでも音楽を楽しめることを目的としている。
イ楽曲の音源データとして,音楽CDなどから,3G2ファイルを作成す
ること自体は,フリーソフト等を使うことによっても可能であるが,これ
をユーザが個人レベルでそのような機能を一般的に持たない携帯電話に個
別に取り込んで再生することは,技術的に相当程度困難である。
本件サービスは,ユーザにおける音源データや携帯電話等の技術的側面
の理解にかかわらず,本件サーバを経由する仕組みを通じて,携帯電話で
の音楽再生を容易に実現することに意味がある。
ウ原告は,本件サービスの提供に当たり,横浜市内にある原告のグループ
会社の運営するサービスセンターにおいて,WEBサーバ,データベース
サーバ及びストレージサーバで構成される本件サーバ等の原告の所有する
装置一式を設置し,メンテナンス等も行って,常時作動するように監視し,
故障に対応する態勢を整えて,これを管理していた。
(2)本件サービスのセキュリティ(甲5の1及び2)
本件サービスにおいては,主要なセキュリティ対策として,次のとおりシ
ステム設計されている。
アネットワークの分離
ユーザの個人情報を外部漏洩あるいは悪意あるアクセスによる破壊,改
竄から保護するため,ユーザ個人情報を保持するデータベースサーバをイ
ンターネットドメインから分離し,ローカルネットワーク内で管理する。
イユーザアカウントの管理
ユーザがパソコンからアクセスする際,ユーザアカウントを発行して管
理する。
(ア)ユーザパスワード
パソコンに対応したユーザパスワード(原則として8文字以上の英数
字)を割り当てて発行する。
(イ)アクセスキー(アクセス用ID)
ユーザのパソコンと携帯電話を特定するためにアクセスキーを発行す
る。アクセスキーは,本件ユーザソフトの初回設定時にパソコン側で生
成され,ユーザのパソコンを一意(同じものが外にないこと)に判別す
るIDとして利用され,アクセスキーは携帯電話においても初回設定時
に携帯電話側に生成され,ユーザの携帯電話を一意に判別するIDとし
て利用される。なお,アクセスキーはユーザに隠蔽される形で利用され
る。
ウアクセス端末の限定
パソコン又は携帯電話からのアクセス制御を行うため独自のアクセスキ
ー(ID)を生成し,アクセス管理する。
エサーバ内フォルダ
ユーザ同士のサーバ内でのデータ共有,不正コピー等の行為を防ぐため
アクセスキー(ID)を利用して,サーバ内フォルダのセキュリティを維
持する。
オアクセス再生できる携帯電話の特定識別
(ア)サブスクライバーID(携帯電話番号と同一)により,登録された
ユーザ本人の携帯電話しかアクセスできない。
(イ)ユーザ本人のパスワードでさらにチェックする。
(ウ)アクセスキー(9桁のアクセス同一性チェック暗証番号)で,パス
ワード,サブスクライバーIDに重ねてチェックがされる。
カ以上により,本件サービスでは,ユーザが会員登録時に本件サービスで
使用するパソコン及び携帯電話を特定してメールアドレス,パスワード等
を登録し,原告から発行されたアクセスキーとユーザの携帯電話固有のサ
ブスクライバーID(加入者ID)を用いて識別がされることにより,ユ
ーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付
けされ,他の機器からの接続は許可されない。
(3)本件サービスのユーザによる初期設定(甲5の2,甲9,乙1)
本件サービスにおいては,ユーザによる初期設定として,次のとおりシス
テム設計されている。
ア会員登録と紐付け
ユーザは,パソコンと携帯電話を用いて,次の環境設定を行う。
(ア)ユーザのパソコン
①サイトTOPページにアクセスし,会員登録画面を選択する。
②利用規約の内容を読んで,承認ボタンを押し下げる。
③会員登録画面の表示に従い,名前,性別,年齢,パソコンメールア
ドレス,携帯電話メールアドレス,パスワード等の会員情報を登録す
る。
④登録確認画面で内容を確認する。
⑤アクセスキー発行画面で,9桁のアクセスキーが発行される。
⑥アクセスキーを確認後,携帯電話に登録用URLを送るボタンを押
し下げる。
(イ)ユーザの携帯電話
①本件サーバから携帯電話でメールを受信する。
②携帯電話から本件サーバにアクセスすると,携帯電話登録画面が表
示される。
③パソコンでの会員登録時に設定したパスワードを入力する。
これらの所定の一連の操作を行うことにより,会員登録した内容でユー
ザのパソコンと本件サーバのストレージに設定されたユーザの利用する領
域(「ボックス」)とユーザの携帯電話端末(1台のみ)が紐付けされ,
同一性の識別できない他の機器を接続させない状況になって,ユーザの利
用環境が構築される。
イ本件ユーザソフトの設定
ユーザは,パソコンにおいて,次の環境設定を行う。
(ア)本件ユーザソフトのダウンロード画面が表示され,ダウンロードボ
タンを押し下げる。
(イ)インストールするフォルダ表示内容を確認の上,手順に従って,イ
ンストールを完了する。
(ウ)本件ユーザソフトを起動させる。
(エ)表示されたユーザ認証画面で会員登録時に発行されたアクセスキー
を入力し,登録を完了する。
これにより,パソコンにセットされた本件ユーザソフトと本件サーバ側
のアクセスキーと携帯電話側のアクセスキーは一致して同一人物に特定さ
れ,特定の携帯電話端末からしかアクセスできず,ユーザ本人以外からの
アクセスは許可されない。
ウなお,ユーザは,原告の提供する本件サービスについて,原告の設計し
たシステムに従うことを前提として,原告の定めた利用規約に基づく利用
をするかしないかの選択をすることしかできず,個別に利用の条件や使用
の設定を変えることはできない。
(4)本件サービスにおけるシステム処理の手順(甲8)
ア処理手順
本件サーバは,WEBサーバ,データベースサーバ及びストレージサー
バで構成され,本件サービスにおける音楽データ情報は,次のように処理
される。
(ア)パソコンからの利用者登録処理を実行する。
(イ)ユーザ登録処理は,ユーザの登録時にストレージサーバ及び蔵置領
域の割当てを行う。
(ウ)ユーザ登録処理は,ユーザの登録後,アクセスキーを発行し,この
アクセスキーにより,蔵置する音楽データ情報へのアクセスが制限され
る。
(エ)携帯電話又はパソコンにより,音楽データに向けた最初のアクセス
があった場合,ログイン認証処理を実行し,アクセスキーによる認証
(1回目)が行われる。
(オ)アクセスキーによる認証(1回目)が成功した場合,ログイン認証
処理は,ストレージサーバのありかを携帯電話及びパソコンに返す。
(カ)携帯電話又はパソコンは,ストレージサーバのありかを取得した後,
ストレージサーバ内のアプリケーションプログラム(音楽データアクセ
ス用プログラム。以下「本件ストレージソフト」という。)に対しアク
セスキーを伴い,音楽データ情報の問い合わせを行う。
(キ)本件ストレージソフトは,アクセスキーによる認証(2回目)を行
う。
(ク)アクセスキーによる認証(2回目)に成功した場合,本件ストレー
ジソフトは,アクセスキーに紐付けされたユーザ向け割り当て領域を特
定する。
(ケ)ユーザ向け割り当て領域を特定した後,本件ストレージソフトは,
音楽データ情報の問い合わせに応じて,音楽データ情報へアクセスを行
う。
(コ)本件ストレージソフトは,携帯電話又はパソコンに対して音楽デー
タ情報の問い合わせの処理結果を返し,このとき,問い合わせが音楽デ
ータのダウンロードである場合は処理結果に伴って音楽データを転送す
る。
イ領域の管理
本件サーバのうちのストレージサーバのディスク領域は,インターネッ
トに公開される領域と非公開の領域とに区切って管理され,音楽データ情
報は,このうちの非公開の領域に蔵置される。また,公開領域には,非公
開領域にアクセスするための本件ストレージソフト及びサイトの公開情報
が置かれる。
(5)本件サービスにおけるシステム処理の実際(甲8,乙3)
ア基本的な仕組み
本件サーバでは,WEBサーバ,データベースサーバ及びストレージサ
ーバのうち,ストレージサーバに組み込まれた基本ソフトウエアのオぺレ
ーティングシステム(以下「OS」という。)により,プログラムの実行
に係るプロセス管理,サーバのハードディスクへの出入力に係るファイル
システム管理,ネットワーク接続に係るネットワーク管理などが行われる。
本件サービスにおいて,本件サーバのストレージ(ストレージサーバ内
のハードディスクのこと。以下同じ。)への音源データのファイル(音楽
データ)の蔵置についても,OSのファイルシステム管理の機能により実
行され,具体的には,本件ストレージソフトが音源データの保存や読出し
の要求を行うと,OSのファイルシステムが呼び出されてハードディスク
へのアクセスが実行される仕組みとなっている。
イ音源データのファイル保存の処理
ユーザのパソコンから本件サーバのストレージに音源データがアップロ
ードされる過程は,次のとおりである(別紙図1参照)。
(ア)ユーザのパソコンにインストールされている本件ユーザソフトがス
トレージサーバ内の本件ストレージソフトにインターネットを経由して
接続し,音源データのアップロードを要求する。
(イ)要求を受けた本件ストレージソフトは,OSのファイルシステムに
対し,本件ユーザソフトから受け取った音源データをハードディスクに
保存するように指示する。
(ウ)ハードディスクへのアクセス実行の結果がOSのファイルシステム
に返される。
(エ)要求された容量分のデータ保存がファイルシステムで完了すると,
その結果が本件ストレージソフトに返される。
(オ)本件ストレージソフトは,本件ユーザソフトに対して,アップロー
ドの結果を返す。
ウ音源データの読出しの処理
本件サーバのストレージからユーザの携帯電話に音源データがダウンロ
ードされる過程は,次のとおりである(別紙図2参照)。
(ア)ユーザの携帯電話がインターネットを経由して本件ストレージソフ
トに接続し,音源データのダウンロードを要求する。
(イ)要求を受けた本件ストレージソフトは,OSのファイルシステムに
対し,ハードディスクにアクセスして音源データを読み取るように指示
する。
(ウ)ファイルシステムは,ハードディスクから音源データを読み取る。
(エ)ハードディスクへのアクセス実行の結果がハードディスクからファ
イルシステムに対して返される。
(オ)要求された音源データの読み取りがファイルシステムで完了すると,
その結果が本件ストレージソフトに返される。
(カ)本件ストレージソフトは,ファイルシステムから受け取った音源デ
ータをインターネット送信用の形式に編集した上,ユーザの携帯電話に
送信する。
(6)音源データの流れ
ア音源データについて(弁論の全趣旨)
本件サービスにおいては,楽曲の音源データとして,本件ユーザソフト
を用いて,3G2ファイルが作成され,インターネットを通じて,本件サ
ーバのストレージに蔵置される。この3G2ファイルは,ファイル形式が
3GPP2で,圧縮方式がHE−AACであり,圧縮率が高いため,MP
3ファイルやMWAファイルと比較して,さらに約5分の1に圧縮され,
小容量の携帯電話メモリに保存するのに適している。
一般に,楽曲の音源データとして,音楽CDからリッピングして,MP
3ファイルやWMAファイルを作成した場合,CDのデジタルデータとこ
れらのファイルの関係は,聴覚的な音質の劣化を抑制しつつ,データ量を
圧縮したものであり,内容の実質的な同一性を肯定できる。
本件サービスにおいて,本件ユーザソフトによってAVIファイル(こ
のうちの音声データのみ使用)が生成されるのは,3G2ファイル作成の
ために加工しやすい形式に戻したものであり,AVIファイルと3G2フ
ァイルについても,もとの音源データとの関係で,内容の実質的な同一性
を肯定できる。
イ音源データのアップロード(甲5の2,甲9,乙1)
音源データのアップロードの手順は,本件ユーザソフトをインストール
したパソコンをインターネットに接続した状態で,画面の表示に従い,次
のとおり行われる。
(ア)ファイルのリストアップ
リストアップボタンをクリックして,ファイル取込画面を表示させ,
マイミュージックなどの対象フォルダを探し,リストアップするファイ
ルをクリックして,リストアップが完了する。
(イ)マイリストへのファイルの追加
リストアップされたファイルをクリックし,マイリストボタンをクリ
ックして,マイリストへの追加が完了する。
(ウ)マイリストエリアにあるファイルのアップロード
マイリストにファイルのある状態で,転送ボタンをクリックして,ア
ップロードが完了する。
ウ音源データのダウンロード(甲5の2,甲9)
ユーザが携帯電話からインターネットを通じてMYUTAサイトにアク
セスすると,本件サーバがサブスクライバーID等で自動的に識別して,
契約者の確認がされ,携帯のTOP画面から本件サーバのストレージ領域
に入り,ダウンロードする楽曲の音源データを選択する。こうしてダウン
ロードされて携帯電話のメモリーに保存された楽曲は,何度でも再生する
ことができるが,携帯電話自体の容量的な曲数の制約がある。
音源データのダウンロードの手順は,登録済みの携帯電話により,イン
ターネットで本件サービスのサイトに接続した状態で,次のとおり行われ
る。
(ア)楽曲のダウンロードの選択
トップサイトで表示される画面の「楽曲ダウンロード」,「対応機種
確認」,「お気に入りに追加」,「入会/退会」などの選択肢の中から,
「楽曲ダウンロード」を選んで決定する。
(イ)マイリストの選択
「楽曲ダウンロード」のタイトル下に「マイリスト」が表示された画
面で,「マイリスト」を選択して決定する。
(ウ)フォルダ名の選択
「マイリスト」のタイトル下に複数の対象フォルダが表示された画面
で,希望する楽曲の音源データのファイルの入ったフォルダを選んで決
定する。
(エ)ファイル名の選択
「フォルダ」のタイトル下に複数の対象ファイルが表示された画面で,
希望する楽曲の音源データのファイルを選んで決定する。
(オ)ダウンロードの選択
「音楽ファイル」のタイトル下に画面で,アーティスト,サイズが表
示され,その下段に表示された「ダウンロード」と「削除」の選択肢の
中から,「ダウンロード」を選んで決定すると,ダウンロードが開始さ
れて,「ダウンロード中」の表示がされ,ダウンロードの完了により,
「ダウンロード完了」の表示がされる。
2争点(1)ア(複製権その1)について
(1)本件サービスの説明図④において複製が行われることは争いがないので,
以下,前記認定の事実を前提に,その複製行為の主体について判断する。
ア目的
本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕
様や,ストレージでの保存に必要な条件は,原告によって予めシステム設
計で決定されるところ,本件サーバのストレージに複製された3G2ファ
イルは,ユーザが携帯電話にこれをダウンロードすることを予定して蔵置
されたものである。すなわち,本件サーバにおける複製は,音源データの
バックアップなどとして,ファイルを単に保存すること自体に意味がある
のではなく,原告の提供する本件サービスの手順の一環として,最終的な
携帯電話での音源データの利用に向けたものであり,本件サーバのストレ
ージがユーザのパソコンと携帯電話とをいわば中継する役割を果たしてい
る。
また,ユーザが個人レベルで本件サービスと同様にCD等の楽曲の音源
データを携帯電話で利用することを試みる場合,前記1(1)認定のとおり,
本件ユーザソフトを用いなくても,フリーソフト等を使って3G2ファイ
ル化することまでは可能であるが,これを再生可能な形で携帯電話に取り
込むことに関しては,技術的に相当程度困難である。
したがって,携帯電話にダウンロードが可能な形のサイト(本件サーバ
のストレージ)に音源データをアップロードし,本件サーバでこれを蔵置
する複製行為は,本件サービスにおいて,極めて重要なプロセスと位置付
けられる。
イ行為の内容
説明図④において本件サーバに管理著作物が複製されることは,当事者
間に争いがない。
本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為は,ユーザのパソコンか
らインターネット回線でアップロードされ,蔵置されて行われるものであ
る。すなわち,前記1(5)認定のとおり,ユーザのパソコンの本件ユーザ
ソフトと本件サーバ(ストレージサーバ)内の本件ストレージソフトとが
インターネットを経由して連動し,ストレージサーバのOSの機能によっ
て,音源データのファイル保存が完了する。
なお,このアップロードに際し,前記1(4)認定のとおり,本件ユーザ
ソフトは,本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態に
おいて,本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっており,
ユーザは,利用登録時に発行されたアクセスキーによる認証を経て,本件
サーバのシステムに接続され,音源データは,紐付けされた特定のストレ
ージ領域に蔵置される。
ウ本件サーバの役割
前記1(1)認定のとおり,原告は,WEBサーバ,データベースサーバ
及びストレージサーバで構成される本件サーバ等の装置一式を所有すると
ともに,これを原告のグループ会社のサービスセンターに設置して,常時
作動するように監視し,故障に対応する態勢を整えるなど,本件サーバを
管理してきた。
本件サーバは,ユーザに対する本件サービスの提供に当たって,システ
ムの中核を構成し,前記1(2)ないし(4)認定のとおり,原告の定めたシス
テム設計に従って処理され,稼働するものである。原告の作成に係る本件
ユーザソフトは,ユーザのパソコン内で起動され,本件サーバ内の本件ス
トレージソフトとインターネットを介して連動した状態で機能するが,ユ
ーザは,本件サービスの利用に際し,前記1(3)認定のとおり,個別に利
用の条件や使用の設定を変えることはできず,すべて,原告の設計したシ
ステムに従って,これを利用するかしないかの選択しかできない。
そして,本件サーバのストレージでは,ユーザの携帯電話にダウンロー
ドするために音源データを蔵置することが必要不可欠であるところ,本件
サービスの目的はユーザの携帯電話における音楽の楽曲の再生であり,原
告によるシステム設計として,サーバ内で音源データが複製されることを
当然の前提にしている。
本件サーバは,本件サービスにおけるこのような目的を実現するため,
原告が所有し,管理して,維持運営する専用サーバであって,それ以外の
役割を担うものではない。
エユーザの役割
他方,本件サービスにおいて,本件サーバと一体となったシステムの利
用上,前記1(4)及び(6)認定のとおり,ユーザが本件サーバにどの楽曲を
複製するか等の操作の端緒となる関与を行うことが予定されている。
しかしながら,前記1(2)ないし(4)認定のとおり,本件サーバにおける
音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの
保存に必要な条件は,原告によって予めシステム設計で決定されたもので
ある。そして,本件サーバにおける3G2ファイルの蔵置は,こうした本
件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され,本件サーバ内の本件ス
トレージソフトとインターネットを介して連動した状態で機能するように
仕組まれている。
そうすると,個々の3G2ファイルの蔵置について,その操作の端緒と
して,インターネットを経由したユーザの行為が観念できるとしても,こ
こでの蔵置による複製行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにお
いて,行われるものである。
オ有償性
原告の提供する本件サービスは,前記1(1)認定のとおり,ベータ版で
の試用では,月額料金が当面無料とされているが,当初から,有料化と機
能の拡張が予定されていた。
カ小括
以上の諸事情,すなわち,①原告の提供しようとする本件サービスは,
パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象とし
て,CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするもので
あり,本件サービスの説明図④の過程において,複製行為が不可避的であ
って,本件サーバに3G2ファイルを蔵置する複製行為は,本件サービス
において極めて重要なプロセスと位置付けられること,②本件サービス
において,3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果
たす本件サーバは,原告がこれを所有し,その支配下に設置して管理して
きたこと,③原告は,本件サービスを利用するに必要不可欠な本件ユー
ザソフトを作成して提供し,本件ユーザソフトは,本件サーバとインター
ネット回線を介して連動している状態において,本件サーバの認証を受け
なければ作動しないようになっていること,④本件サーバにおける3G
2ファイルの複製は,上記のような本件ユーザソフトがユーザのパソコン
内で起動され,本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネット回
線を介して連動した状態で機能するように,原告によってシステム設計さ
れたものであること,⑤ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源デー
タを携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であり,本件サー
ビスにおける本件サーバのストレージのような携帯電話にダウンロードが
可能な形のサイトに音源データを蔵置する複製行為により,初めて可能に
なること,⑥ユーザは,本件サーバにどの楽曲を複製するか等の操作の
端緒となる関与を行うものではあるが,本件サーバにおける音源データの
蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの保存に必要な
条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その複製行為は,専
ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照
らせば,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は,原告と
いうべきであり,ユーザということはできない。
(2)原告の主張について
ア原告は,ユーザとの間で,1対1の対応関係を確保するための環境設定
を行い,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージの専用領域,ユーザ
の携帯電話を紐付けているから,いわばユーザのパソコンの外付けハード
ディスクと同じことであり,本件サーバでの蔵置は,あくまでもユーザが
行うものであって,この関係は,あたかも銀行の貸金庫業務に例えられる
旨を主張する(前記第3の1〔原告の主張〕(1))。
なるほど,本件サービスのいわば入口と出口だけを捉えれば,ユーザの
パソコンとユーザの携帯電話という1対1の対応関係といえなくはないが,
説明図④すなわち本件サーバにおいて音源ファイルが複製されていること
に変わりはなく,しかも,本件サーバへの3G2ファイルの蔵置による複
製は,本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置付けられる。そ
して,前記(1)エのとおり,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行
為は,複製に係る蔵置のための操作の端緒となる関与をユーザが行い,原
告が任意に随時行うものではないが,この蔵置による複製行為そのものは,
専ら,原告の管理下において行われている。すなわち,本件サーバにおけ
る3G2ファイルの複製行為は,ユーザがどの楽曲データをアップロード
するかを決定して操作するものではあるが,複製の過程はすべて原告が所
有し管理する本件サーバにおいて,原告が設計管理するシステムの上で,
かつ,原告がユーザに要求する認証手続を経た上でされるものであって,
原告の全面的な関与の下にされるものである。そうすると,この過程にお
いて,ユーザは複製のための操作の端緒となる関与をしたに留まるものと
いうべきであり,上記の複製行為は,前記(1)カのとおり,それ自体,原
告の行為としてとらえるのが相当である。
イまた,原告は,原告がユーザに対し,蔵置するファイルを作りやすい状
況を作出したり,ファイルを作るように働きかけたり,特定の曲を選択し
たりするようなことをしておらず,ユーザによるファイルの作成という複
製行為を管理支配しているとはいえない旨主張する(前記第3の1〔原告
の主張〕(2))。
しかしながら,前記(1)ウ及びエのとおり,本件サービスの提供そのも
のがまさにユーザの蔵置に向けた操作の誘因となり,その結果,原告の支
配管理下にある本件サーバのシステムが複製のためのファイル処理を行う
ものである。
ウなお,原告は,本件サービスにおける複製は,一時的にユーザのパソコ
ンや本件サーバにされるものであって,コンピュータのメモリ内に一時的
に複製されるソフトウエアと同じ道理であり,物理的にも規範的にも,す
べてユーザが行っているといえる旨主張する(前記第3の1〔原告の主
張〕(3))。
しかしながら,そもそも原告の主張する一時的の意味が不明であり,一
時的であれば複製権が制限される根拠を主張していない。そして,本件サ
ーバにおける複製行為が本件サービスの中核をなしていることからすれば,
上記主張は失当である。
(3)まとめ
以上のとおり,説明図④に関し,本件サーバにおける3G2ファイルの複
製行為について,その行為主体は原告というべきであるから,原告は,本件
サービスの提供により,管理著作物の複製権を侵害するおそれがある。
3争点(2)ア(自動公衆送信権)について
(1)次に,本件事案の性質に鑑み,前記2の判断に加え,説明図④から⑤の
過程における自動公衆送信権侵害の有無について判断する。
説明図④から⑤の過程に関し,本件サーバからユーザの携帯電話に向けた
3G2ファイルの送信(ダウンロード)について,送信行為の主体が誰かに
つき検討すると,前記2と同様に,①原告の提供しようとする本件サービ
スは,パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象
として,CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするもの
であり,本件サービスの説明図④から⑤の過程において,音源データの送信
行為が不可避的であって,本件サーバから3G2ファイルを送信する行為
は,本件サービスにおいて不可欠の最終的なプロセスと位置付けられること,
②本件サービスにおいて,3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等
中心的役割を果たす本件サーバは,原告がこれを所有し,その支配下に設置
して管理してきたこと,③本件サーバによる3G2ファイルの送信は,イ
ンターネット回線を介して,ユーザの携帯電話と本件サーバ内の本件ストレ
ージソフトが連動して機能するように,原告によってシステム設計されたも
のであること,④本件サーバからの送信行為は,本件サーバでの複製行為
を前提とするものであり,ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データ
を携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であること,⑤ユー
ザは,本件サーバにどの楽曲をダウンロードするか等の操作の端緒となる関
与を行うものではあるが,本件サーバによる音源データの送信に係る仕様や
条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その送信行為は,専ら,
原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照らせば,
本件サーバによる3G2ファイルの送信行為の主体は,原告というべきであ
り,ユーザということはできない。
(2)自動公衆送信行為の該当性について
本件サービスを担う本件サーバは,前記1(2)ないし(6)認定のとおり,ユ
ーザの携帯電話からの求めに応じて,自動的に音源データの3G2ファイル
を送信する機能を有している。
そして,本件サービスは,前記1(1)認定のとおり,インターネット接続
環境を有するパソコンと携帯電話(ただし,当面はauWIN端末のみ)を
有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができる
ものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別した
り,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の
者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照),ユーザは,その意味
において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。
よって,本件サーバからユーザの携帯電話に向けての音源データの3G2フ
ァイルの送信は,公衆たるユーザからの求めに応じ,ユーザによって直接受
信されることを目的として自動的に行われるものであり,自動公衆送信(同
法2条1項9号の4)ということができる。
このように,本件サーバは,自動公衆送信のための装置に該当し,説明図
④から⑤の過程における本件サーバからユーザの携帯電話に向けた3G2フ
ァイルの送信(ダウンロード)について,自動公衆送信行為がされたという
ことができる。
(3)原告の主張について
ア原告は,ユーザが本件サーバに蔵置した音源データのファイルには,当
該ユーザしかアクセスできず,1対1の対応関係であって,しかも常に同
一人に帰するから,ユーザが専ら自分自身に向けて行っている自己宛の純
粋に私的な情報伝達であり,公衆送信権侵害に当たらない旨主張する(前
記第3の4〔原告の主張〕(1))。
しかしながら,本件サーバから音源データを送信しているのは,前記
(1)のとおり,本件サーバを所有し管理している原告である。そして,公
衆送信とは,公衆によって直接受信されることを目的とする(著作権法2
条1項7号の2)から,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方
(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,公衆に対する送信に
当たることになる。そして,送信を行う原告にとって,本件サービスを利
用するユーザが公衆に当たることは,前記(2)のとおりである。なお,本
件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスで
きないとしても,それ自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセス
キー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザの
パソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,
他の機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスの
システム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不
特定の者であることに変わりはない。
イ原告は,このほか,本件サーバにユーザが蔵置した音源データのファイ
ルには当該ユーザしかアクセスしないとか,ユーザしか利用できない領域
を設定するための仕組みを提供して銀行の貸金庫業務類似の行為しかして
いないなどとも主張する(前記第3の4〔原告の主張〕(2))が,原告の
管理下において,そのシステム設計に従って稼働する本件サーバの役割に
鑑みれば,いずれも本件サービスを原告の立場から一面的に理解したもの
にすぎず,失当である。
(4)まとめ
以上のとおり,説明図④から⑤にかけての,本件サーバからユーザの携帯
電話に向けた3G2ファイルの送信(ダウンロード)について,自動公衆送
信行為がされ,その行為主体は原告というべきであるから,原告は,本件サ
ービスの提供により,管理著作物の自動公衆送信権を侵害するおそれがある
といわざるを得ない。
4結論
以上によれば,本件サービスの説明図④における音楽著作物の複製は,原告
が行い,同④から⑤にかけての自動公衆送信も,原告が行っているから,それ
らの行為は,被告の許諾を受けない限り,管理著作物の著作権を侵害するもの
である。そうすると,同④における音楽著作物の蔵置及びユーザの携帯電話に
向けた送信につき,被告は差止請求権を有するものである。
したがって,原告の請求については,その余の点について判断するまでもな
く,理由がないことになる。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
高部眞規子裁判長裁判官
平田直人裁判官
裁判官田邉実は,転補のため,署名押印することができない。
高部眞規子裁判長裁判官
目録
◇サイト名MYUTA
◇URLhttp://www.*****.jp
◇内容
特徴
携帯電話でいつでもどこでも音楽をお楽しみいだたけます
インターネット上に自分だけの音楽ファイルを保存できます
携帯電話への音楽出し入れが自由(携帯電話を機種変更してもデータは大
丈夫)
入会
パソコンでインターネット上にあるMYUTAサイトにアクセスし会員登
録してください
操作手順に従いパソコンと携帯電話を紐づけ,あなただけのボックスを設
定します
音楽のアップロード
無償貸与いたしますMYUTA専用MUSICUPLOADERをご
利用いただきます
音楽のダウンロード
携帯からMYUTAに保存されたあなただけのボックスから楽曲を自由に
ダウンロードしてお楽しみください
保存容量
150MB(約100曲分相当)
有料サービス化後は,650MBを予定
(ご参考)携帯電話での保存容量の目安
携帯電話端末機種によりますが20曲相当
◇対応音楽データ
MP3
映像データ圧縮方式のMPEG-1で利用される音声圧縮方式の一つ。オーディ
オCD並の音質を保ったままデータ量を約1/10に圧縮可能
WMA
Microsoft社の音声圧縮フォーマット
音楽CD並みの音質を保ったまま,ISDNなどの低速な通信回線を通じ
て音声を配信することができる
なお,対応ファイルは随時拡大を予定
◇対応機種
パソコンWindows2000/XP
携帯電話auWIN端末(対応端末随時拡大)
なお,対応する携帯電話端末機種は随時拡大を予定
◇使用料金
月額料金当面無料
(ご参考)ダウンロード等には別途携帯電話パケット通信料金がかかります。

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興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
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