弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     被告人A、同Bに対する原判決を破棄する。
     被告人Cに対する原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人Aを懲役六月に、同B、同Cを各懲役五月に処する。
     但し被告人三名に対し本判決確定の日から三年間いずれも右刑の執行を
猶予する。
     被告人Aから、差押にかゝる船舶(D丸)一隻を、被告人Bから、同真
鋳屑一五五・五瓩、砲金屑一五七六・八瓩、鉛屑九三瓩、銅屑五一四九・二瓩を没
収する。
     原審の訴訟費用は、被告人A、同B、同C三名の負担とし、当審の訴訟
費用中被告人A、同Cのため生じた分は、同被告人等の負担とし、被告人Bのため
生じた分は同被告人の負担とする。
     被告人A、同Cが昭和二五年七月一日頃、連合国最高司令官の許可を受
けないで、a港を出港し同月四日頃南西諸島大島郡b浜に到り、以て本邦から密出
国したとの罪、同被告人等及び被告人Bが同年九月四日頃南西諸島c港よりa港に
向け航行し北緯三〇度を超え、以て昭和二四年三月九日附、連合国最高司令官の「
引揚」に関する覚書に違反したとの罪については、それぞれ同被告人等を免訴する。
         理    由
 被告人A、同B、同Cの各上告趣意、被告人A、同Cの弁護人川添清吉の上告趣
意、被告人Bの弁護人稲垣規一の上告趣意は、それぞれ末尾添附のとおりである。
 職権により調査するに、被告人A、同Cが昭和二五年七月一日頃、連合国最高司
令官の許可を受けないで、a港を出港し同月四日頃南西諸島大島郡b浜に到り、以
て本邦より外国へ密出国したとの事実(原判決の引用した第一審判決の判示第一の
事実)は、右行為当時においては、昭和二二年四月一四日附連合国最高司令官の「
日本人の海外旅行者に対する旅行証明書に関する覚書」により禁止され占領目的に
有害な行為として処罰されていたのであるが、昭和二六年一二月一日以降は日本人
の海外渡航には連合国最高司令官の許可を要しないこととなり、処罰されることも
なくなつたので、右被告人等の行為に対しては、原判決後たる昭和二六年一二月一
日より刑の廃止があつたものであること、当裁判所大法廷判決(昭和二七年(あ)
第一五七〇号、同二九年一二月一日言渡)に示すとおりである。よつて原判決は刑
訴四一一条五号によりこの点において破棄を免れない。
 次に本件公訴事実中、被告人A、同C、同Bが昭和二五年九月四日頃南西諸島c
港よりa港に向け航行し北緯三〇度を超え、以て、昭和二四年三月九日附、連合国
最高司令官の「引揚」に関する覚書(SCAPIN、九二七/一七)に違反したと
の事実(原判決の引用した第一審判決の判示第五の事実)については、原判決後に
おいて、昭和二七年政令第一一七号大赦令一条二三号により大赦があつたので刑訴
四一一条五号により原判決は破棄すべきものである。
 次に、被告人A、同C、同Bの各上告趣意は何れも単なる量刑不当の主張に過ぎ
ず、被告人A、同Cの弁護人川添清吉の上告趣意は、原判決には破棄の理由を発見
できないというので、何れも上告適法の理由とならない。又被告人Bの弁護人稲垣
規一の上告趣意は、同被告人の不法入国の事実(前記第五の事実)は大赦令により
赦免されたこと及びこれを前提として量刑不当を主張するもので職権に因る原判決
破棄事由としてその理由あることは先に判示したとおりである。
 よつて、被告人A、同Bに対しては原判決を破棄し、被告人Cに対しては原判決
及び第一審判決を破棄し、本件公訴事実中被告人A、同Cが連合国最高司令官の許
可を受けずに密出国したとの、昭和二五年政令第三二五号違反の点(前記第一の事
実)及び同被告人等及び被告人Bが同司令官の「引揚」に関する覚書に違反して不
法入国したとの、同政令違反の点(前記第五の事実)については、犯罪後の法令に
より刑の廃止があり、若しくは大赦があつたのであるから、刑訴三三七条二号又は
三号を適用し、右被告人等に対し、その関係ある右各罪について、主文七項記載の
とおり、免訴の言渡をなすべく、次に原判決(被告人Cに対しては第一審判決)の
確定したその余の事実を法律に照らすと、
 被告人Aに対し原判決の認定引用した第一審判決の判示第四の(一)の事実は貨
物密輸出の幇助と認められるから、昭和二九年法律六一号関税法附則一三項に基き、
同法による改正前の関税法(以下単に関税法という)七六条一項刑法六二条に、同
第四の(二)の事実は、同密輸入未遂幇助と認められるから、関税法七六条二項、
一項、刑法六二条にそれぞれあたるので所定刑中各懲役刑を選択し、関税法八二条
ノ四但書、刑法六三条、六八条によりそれぞれ法律上の減軽をなし、以上は同法四
五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情重い密輸出幇助の
罪の刑に併合罪の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役六月に処し、
 被告人Cの密輸出の点(第一審判決第二の事実)は関税法七六条一項にあたるの
で、その所定刑中懲役刑を選択しその刑期範囲内において同被告人を懲役五月に処
し、
 被告人Bの密輸入未遂の点(原判決の認定引用した第一審判決の判示第三の(ロ)
の事実)は、関税法七六条二項一項にあたるので所定刑中懲役刑を選択し、その刑
期範囲内で同被告人を懲役五月に処し、
 以上はいずれも情状刑の執行を猶予するのを相当と認め刑法二五条に則り、本判
決確定の日からそれぞれ三年間右刑の執行を猶予すべく、
 差押にかゝる物件の没収については、関税法八三条を適用し、主文五項記載の如
くそれぞれこれを没収し、刑訴一八一条により、主文六項記載の如く訴訟費用の負
担を命ずべきものとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 この判決は、その密出国の罪(第一審判決の判示第一の事実)については刑の廃
止があつたものでないとする裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の少数
意見があり、又関税法違反の罪(同第二乃至第四の事実)については免訴すべきで
あるとの裁判官真野毅、同小谷勝重、同藤田八郎、同河村又介、同谷村唯一郎、同
小林俊三の少数意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 密出国の罪については刑の廃止があつたものでないとの裁判官田中耕太郎、同斎
藤悠輔、同本村善太郎の少数意見は、前記昭和二七年(あ)第一五七〇号同二九年
一二月一日言渡大法廷判決記載の、右各裁判官の反対意見のとおりである。
 関税法違反の罪については被告人等を免訴すべしとする裁判官真野毅、同小谷勝
重、同藤田八郎、同河村又介、同谷村唯一郎、同小林俊三の少数意見は、次のとお
りである。
 本件において、被告人等に関税法違反の罪ありとせられた事実(第一審判決第二、
第三の(ロ)、第四の(一)(二))は
 被告人Cは所定の免許を受けないで、昭和二五年六月二九日頃、杉板五百坪等の
貨物をa港においてD丸に積載し、同年七月一日頃同港を出港し、同月四日頃南西
諸島大島郡b浜にこれを陸揚して、貨物の密輸出を為し、
 被告人Bは同人所有の真鋳屑一五五・五瓩等の貨物を夫々密輸入する目的を以て、
同年九月二日頃より同月四日頃迄の間南西諸島大島郡c港においてD丸に積込み、
所定の免許を受けないで同月四日同港を出港し、同月五日午後六時三十分頃北緯三
十度線をこえて日本領海内に入つたがその貨物陸揚をしないうちに官憲に発見され、
もつて密輸入の目的を遂げず、
 被告人Aは右D丸の船主として、被告人C、B等の依頼を受け、右密輸出入の情
を知りながら右貨物の同船えの積載を許し、前記のごとく密輸出入貨物の運搬を為
した、
 というのであつて、多数意見によれば右被告人等の行為は関税法七六条一項、二
項に該当するというのである。
 しかしながら、右南西諸島大島郡b浜及びc港は、右行為の当時においては、関
税法(昭和二四年五月一四日法律六五号の改正にかかるもの)一〇四条、昭和二四
年五月二六日大蔵省令三六号「関税法一〇四条に基く附属島嶼を定める省令」によ
つて、外国と看做されていたのであつて、これが為め右地域に対する貨物の輸出若
しくは、右地域よりする貨物の輸入については、関税法により免許を受けることを
要するものとせられ、免許を受けないで、貨物の輸出入を為したる者(若しくはそ
の為さんとしたる者)は、同法七六条の罪に該当するものとせられたのである(原
判決宣告当時も同様)。その後、右大蔵省令は昭和二七年四月一六日大蔵省令四二
号(平和条約発効の日より施行)によつて廃止されると同時にこれに代るものとし
て制定された昭和二七年四月七日政令九九号(平和条約発効の日より施行)もまた
引続き、右の地域は、関税法上「外国と看做される」旨規定していたのである。し
かるに昭和二八年一二月二四日政令第四〇七号「アマミ群島の復帰に伴う国税関係
法令の適用の暫定措置に関する政令」(同年同月二五日より施行)附則八項により
右政令九九号が改正せられた結果、右地域は、これを外国と看做されないものとさ
れた。すなわち、爾後同地域に対する貨物の輸出若しくは、同地域よりする貨物の
輸入については関税法所定の免許を受けることを必要とせず、従つて、右輸出入の
行為については、同法七六条罰則の適用を見ないこととなり、本件各行為のごとき
は何ら、犯罪を構成せざるものとなつたのである。かくのごとき場合、本件行為に
対しては、刑訴四一一条五号にいわゆる「判決があつた後に刑の廃止」のあつたも
のと解するを相当とするが故に、同条に従い、この部分に関する原判決を破棄し、
同法三三七条二号を適用して、如上の所為につき被告人等を免訴すべきものと思料
する。
 裁判官小林俊三の意見は次のとおりである。
 本件被告人等の関税法違反の罪は免訴すべきものであること別項他の五裁判官と
共にした少数意見のとおりであるが、その理由がきわめて簡単であるから、私かぎ
りの意見を加える。
 本件において特に注意を要する点は、本件被告人等が関税法違反の罪に問われた
のは、行為の行われた地域が、本来ならばわが国の領土の一部であつて密輸出入な
どという問題を生じない筈であるのに、当時の特別の事情(占領状態)に基づく法
令上、これらの地域を「外国ト看做」していたために、その理由からそうなつたと
いうことてある。そしてその根拠となる刑罰法規は、昭和二四年五月一四日法律第
六五号による一部改正の関税法一〇四条、七六条と昭和二四年五月二六日大蔵省令
第三六号であるが、この立法が当時わが国の領土の一部である本件地域を外国とみ
なしたことは、なんらわが国わが国民にとつて特別に必要な理由があつたのではな
く、全く当時(占領下)の連合国との関係からやむを得ず行つた措置であつて、実
質的には連合国の便宜利益以外の何ものでもなかつたと見るべきである。右刑罰法
規は形式上わが国独自の立法であるから、本件について直接連合国最高司令官の指
令との関係をここにもつて来ることはできないが、かかる立法の事実的背景が右の
ごとくである以上、占領という関係がなければ本件の地域を外国とみなす立法は成
立しなかつたであろうし、従つてまた本件被告人等の行為に刑罰を科するようなこ
とは起り得なかつたであろうことを推認することができる。本件について刑の廃止
があつたかどうかは、まず右に述べた事実関係を前提として考えなければならない
と思う。
 そこで本件の問題を行為の可罰性の面から考えてみるに、一般に特定の刑罰法規
が明らかにその有効期間を定めていない場合後にその法規の改廃が行われても、そ
れだけで常に直ちに刑の廃止があつたと解することはできないが、その行為に対す
る国家的又は社会的評価が裁判時において全く変更し可罰性ある社会悪としての本
質を根本的に失つてしまつた結果、行為時における関係も同様に消滅したと見なけ
ればならないような場合は、刑の廃止があつたと解すべきものである。すなわち刑
罰法規が規範として存立するのは、本質的には処断される違法行為の根底にその国
民の是認する反社会性反道義性が存在するためであるから、この関係が裁判時にお
いて全く消滅し、そのため行為時におけるこの関係をも是認することができなくな
つたような場合は、行為時においてのみ当時の評価を存続せしめることは不可能で
あつて、刑罰はその根拠を欠くに至つたと見るべきである。
 そこでさらに本件の関係地域について考えてみると、南西諸島大島郡b浜とか同
c港とかは、本来日本の領土の一部であるから、九州本州等との交通ないし物資の
交流は日本人であるかぎり、法律上全く何の妨げもなかつたのであつて、いいかえ
れば不正でも不当でもなく、まして可罰性について言及する余地などは全くなかつ
たのである。それにもかかわらずわが国が形式においても独自の立法によつてこれ
らの地域を「外国ト看做」す法規を定めるに至つたのは、わが国の降服による占領
状態と、これに基づく連合国最高司令官の指令のもつ力によつて余儀なくされたた
めにほかならない。本件の刑罰法規は、直接の指令によつて成立したものではない
けれども、右のような関係によつたものであることは、ポツダム宣言(特に八項)
や降服文書を源とする一連の指令等によつて明らかである。(例えば昭和二〇年九
月二二日附指令第三号〔特に七項〕、同二一年一月二八日附指令第三号の違反に関
する指令、同日附若干の外廓地域の日本からの政治上及び行政上の分離に関する指
令、同年三月二二日附同上名称の指令、昭和二五年二月三日附個人、貨物、航空機
及び船舶の日本出入国管理に関する指令等。)そして以上のような経過によつて一
時外国とみなされた地域が、平和条約発効とともに、完全無条件にわが国の領土に
復帰するかどうかは、主として連合国との条約に依存するところであつたが、わが
国としては当然その復帰を期待する関係にあつたことは明らかである。従つて平和
条約発効後なお本件地域を外国とみなす期間がつづいたとはいえ、遂に昭和二八年
一二月二四日政令第四〇七号により、法制上の措置としてこれに関する法規が廃止
されるに至つたことは、本件に関する地域が全く密輸出入というようなことが起り
得ないはじめの状態に戻つたことにほかならない。このことは前に述べた単にある
行為に対する評価が裁判時において変更したというよりは、むしろはじめから適法
な行為であつた状態に復したというのが事実に適合し、なお強く刑の廃止があつた
と解すべき十分な理由があるといわなければならないのである。
 以上の理由により本件被告人らを免訴するのが正しいのである。
 裁判官霜山精一は本件評議に関与しない。
 検察官 佐藤藤佐、安平政吉、福原忠男出席
  昭和三〇年二月二三日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛