弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
  一 原判決中、被上告人B1、同B2の請求に関する部分を破棄し、右部分に
つき第一審判決を取り消す。
  二 被上告人B1、同B2の本件訴えを却下する。
  三 上告人らのその余の上告を棄却する。
  四 第一、二項に関する訴訟の総費用は、被上告人B1、同B2の負担とし、
第三項に関する上告費用は、上告人らの負担とする。
         理    由
 一 上告代理人武田安紀彦の上告理由第一点について
 1 本件記録によれば、被上告人B1、同B2(以下「被上告人B1ら」という。)
の本件訴えは、亡Dの昭和六〇年八月一四日付けの自筆証書遺言(以下「本件遺言」
という。)が意思能力を欠いた状態で作成されたものであるとして、本件遺言に受
遺者と記載された上告人らに対し、その無効確認を求めるものであるが、原審の確
定した事実関係によると、被上告人B1はDのいとこ(四親等の血族)、被上告人
B2は被上告人B1の妻であり、Dには相続人のあることが明らかでない、という
のである。
 2 原審は、右事実関係の下において、被上告人B1らは民法九五八条の三第一
項所定の特別縁故者に当たり、本件遺言の無効確認を求める原告適格があると判断
した。
 3 しかし、原審の右判断は是認することができない。けだし、本件遺言が無効
である場合に、被上告人B1らが民法九五八条の三第一項所定の特別縁故者として
相続財産の分与を受ける可能性があるとしても、右の特別縁故者として相続財産の
分与を受ける権利は、家庭裁判所における審判によって形成される権利にすぎず、
被上告人B1らは、右の審判前に相続財産に対し私法上の権利を有するものではな
く、本件遺言の無効確認を求める法律上の利益を有するとはいえないからである。そ
うすると、被上告人B1らの本件訴えは不適法であるから、これを適法として本案
の判断をし、その請求を認容すべきものとした原判決には、法令の解釈適用を誤っ
た違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。右の違法をい
う論旨は理由があるから、原判決中の被上告人B1らの請求に関する部分を破棄し、
右訴えにつき本案の判決をした第一審判決を取り消した上、右訴えを却下すること
とする。
 二 その余の上告理由について
 本件遺言は、老人性痴呆症で意思能力の欠如しているDに上告人Aが下書きを見
せて書き写させて作成したもので無効であるとした原審の認定判断は、原判決挙示
の証拠関係に照らして、正当として是認することができ、その過程にも所論審理不
尽等の違法はない。論旨は採用することができない。
 三 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九五条、
九三条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    三   好       達
            裁判官    大   白       勝
            裁判官    高   橋   久   子

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