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令和2年7月29日判決言渡
令和元年(ネ)第10079号特許権侵害差止請求権不存在確認等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成28年(ワ)第2067号,同年(ワ)第12381
号)
口頭弁論終結日令和2年6月17日
判決
控訴人(一審被告)X
(以下「控訴人X」という。)
控訴人(一審被告)株式会社T.W.C
(以下「控訴人会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士小坂俊介
被控訴人(一審原告)株式会社STBヒグチ
同訴訟代理人弁護士中世古裕之
犬飼一博
戀田剛
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,原判決に従い,原判決の引用部分の「別紙」を全
て「原判決別紙」と改める。
第1控訴の趣旨
1原判決のうち控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
1本件は,発明の名称を「回転歯ブラシの製造方法及び製造装置」とする発明
に係る特許権(特許第3981290号。以下「控訴人特許権」といい,これに係
る特許を「控訴人特許」という。)を有する控訴人X及び控訴人特許権の専用実施
権者である控訴人会社が,被控訴人の取引先である原判決別紙送付先目録記載1の
者(以下「本件送付先1」という。)に対し,被控訴人が製造,販売する原判決別
紙物件目録記載1の各歯ブラシ(以下「被控訴人製品1」と総称する。)の製造方
法及び製造装置が控訴人特許権を侵害する旨の書面(以下「本件通知書1」とい
う。)を送付したこと(以下,同送付を「本件告知1」という。)並びに被控訴人の
取引先である原判決別紙送付先目録記載2~4の者(以下,番号に従って「本件送
付先2」などという。また,これらと本件送付先1とを併せて「本件各送付先」と
いう。)に対し,被控訴人が製造,販売する被控訴人製品1及び原判決別紙物件目
録記載2の各歯ブラシ(以下,後者の製品と被控訴人製品1とを併せて「被控訴人
各製品」という。)が控訴人特許権を侵害する疑いが極めて濃厚である旨の書面
(以下「本件通知書2」という。)を送付したこと(以下,同送付を「本件告知2」
と総称し,本件告知1と本件告知2を併せて「本件各告知」という。)について,
被控訴人が,被控訴人各製品の製造方法は控訴人特許の請求項1に係る発明(以下
「本件発明1」という。)の技術的範囲に属さず,被控訴人各製品に取り付けられ
ている回転ブラシのブラシ単体の製造方法は控訴人特許の請求項2に係る発明(以
下「本件発明2」という。)の技術的範囲に属さず,また,被控訴人各製品に取り
付けられている回転ブラシのブラシ単体の製造装置は控訴人特許の請求項3に係る
発明(以下「本件発明3」といい,本件発明1~3を併せて「本件各発明」とい
う。)の技術的範囲に属さず,本件各告知は,不正競争防止法2条1項21号(本
件各告知がされた当時の条文は,本件告知1は14号,本件告知2は15号)の不
正競争に当たるとして,控訴人Xに対しては,①被控訴人各製品の製造,使用,
販売又は輸入につき,控訴人特許権に基づく差止請求権並びに同侵害を理由とする
損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の不存在の確認,②同法3条1項に基づき,
被控訴人が製造,販売する被控訴人各製品について,控訴人特許権を侵害する旨を
告知又は流布する行為の差止め,③同法4条に基づき,控訴人会社と連帯して,本
件告知1による損害賠償金600万3032円及びこれに対する平成27年7月2
9日(本件送付先1が本件通知書1の内容を認識した日)から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金を支払うこと,④不正競争防止法14条に基づ
き,本件送付先1に対する訂正文の送付を,それぞれ求め(原審甲事件),控訴人
会社に対しては,①被控訴人各製品の製造,使用,販売又は輸入につき,控訴人特
許権の専用実施権に基づく差止請求権並びに同侵害を理由とする損害賠償請求権及
び不当利得返還請求権の不存在の確認,②同法3条1項に基づき,被控訴人が製造,
販売する被控訴人各製品について,控訴人特許権を侵害する旨を告知又は流布する
行為の差止め,③同法4条に基づき,控訴人Xと連帯して,本件告知1による損
害賠償金600万3032円及びこれに対する平成27年7月29日(本件送付先
1が本件通知書1の内容を認識した日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金を支払うこと,④不正競争防止法14条に基づき,本件各送付先
に対する訂正文の送付を,それぞれ求め(原審乙事件)ている事案である。
原判決は,被控訴人各製品に取り付けられている回転ブラシのブラシ単体の製造
方法及び同ブラシ単体の製造装置は,本件発明2,3の技術的範囲に属しないなど
として,被控訴人らの請求のうち,上記各①,②の請求をすべて認容し,上記各③
については,その一部を認容し,上記各④の請求をいずれも棄却したため,控訴人
らは,本件控訴を提起した。
2「前提事実」(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨
により認められる事実),「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は,次の
(1)のとおり補正し,次の(2)のとおり当審における当事者の主張を追加するほかは,
原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」2,3及び「第3争点に関する当事
者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決の補正
ア原判決5頁16行目の「という。」を「といい,前訴判決に係る訴訟を
「前訴」という。」に改める。
イ原判決6頁24行目の「提起した。」を「提起した(被控訴人は,同年
11月17日,同訴えのうち,控訴人会社に対する訴えを取り下げ,控訴人会社は
これに同意した。)。」に,26行目の「同月頃」を「同年3月頃」にそれぞれ改め,
7頁12行目冒頭から13行目末尾までを削る。
ウ原判決7頁20行目の「及び甲28」を「並びに甲28」に改め,2
1行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「本件進行協議期日には,控訴人ら側からは,控訴人X及び控訴人ら代理人が
出頭した。」
エ原判決8頁2行目の「過失」を「過失の有無等」に改める。
オ原判決8頁11行目冒頭から13行目末尾までを以下のとおり改める。
「また,控訴審判決別紙「控訴人ら主張目録」の「1被控訴人製造方法目録
(控訴人らの主張)」の「控訴人らの主張」欄記載の主張に対する認否等は,同別
紙「被控訴人の認否等」欄記載のとおりである。」
カ原判決8頁18行目冒頭から20行目末尾までを以下のとおり改める。
「また,控訴審判決別紙「控訴人ら主張目録」の「2被控訴人製造装置目録
(控訴人らの主張)」の「控訴人らの主張」欄記載の主張に対する認否等は,同別
紙の「被控訴人の認否等」欄記載のとおりである。」
キ原判決11頁15行目冒頭から23行目末尾までを次のとおり改める。
「被控訴人製造方法の構成は,控訴審判決別紙「控訴人ら主張目録」の「1被
控訴人製造方法目録(控訴人らの主張)」の「控訴人らの主張」欄記載のとおりで
ある。
被控訴人製造方法の構成のうち,同別紙「番号」欄「12」に対応する「控訴人
らの主張」欄記載の工程は構成要件E及びJを,「番号」欄「1」に対応する「控
訴人らの主張」欄記載の工程は構成要件Fを,「番号」欄「2」及び「3」の前半
(「誘導し」まで)に対応する「控訴人らの主張」欄記載の工程は構成要件Gを,
「番号」欄「3」の後半(「糸束20の突出部分」以降)及び「4」に対応する
「控訴人らの主張」欄記載の工程は構成要件Hを,「番号」欄「7」に対応する
「控訴人らの主張」欄記載の工程は構成要件Iを,それぞれ充足する。」
ク原判決12頁2行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。
「被控訴人製造装置の構成は,控訴審判決別紙「控訴人ら主張目録」の「2被
控訴人製造装置目録(控訴人らの主張)」の「控訴人らの主張」欄記載のとおりで
ある。
被控訴人製造装置の構成のうち,同別紙「番号」欄「9」に対応する「控訴人ら
の主張」欄記載の構成は構成要件K及びRを,「番号」欄「1」に対応する「控訴
人らの主張」欄記載の構成は構成要件Lを,「番号」欄「2」に対応する「控訴人
らの主張」欄記載の構成は構成要件M及びNを,「番号」欄「3」に対応する「控
訴人らの主張」欄記載の構成は構成要件O及びPを,「番号」欄「5」に対応する
「控訴人らの主張」欄記載の構成は構成要件Qを,それぞれ充足する。」
ケ原判決17頁13行目の「過失」を「過失の有無等」に,17行目の
「本件告知先1」を「本件送付先1」にそれぞれ改める。
コ原判決20頁15行目の「4月」を「3月」に改める。
(2)当審における当事者の主張
ア文言侵害の成否(争点1-1)について
(控訴人らの主張)
(ア)構成要件G,Nの解釈
素線群の突出端の中央にエアを吹き込むという機構は,素線群と順方向からのエ
アの吹き込みによっても実現可能であり,文言上順方向からのエアを排斥していな
い。
(イ)被控訴人製造方法,被控訴人製造装置
被控訴人製造装置においては,エアは,素線群に対して順方向のみならず,反対
方向からも噴出している。理由は以下のとおりである。
a空気が上部からのみ吹き出ている場合,甲24に示されている以下
の素線群の開き具合とはならない。
b甲26によると,被控訴人製造装置の溶着ホーンには矢印で示した小さな
窪みがある。そして,被控訴人各製品の溶着環には,小突起(乙14の③の赤丸で
示した部分)があり,これが周状に規則的に配置されているが,この小突起は,溶
着の際に溶解した繊維原料が溶着ホーンの上記の窪みの穴に流れ落ちたことを示し
ている。
c(a)控訴人らにおいて,被控訴人製造装置の動作を撮影した動画である
甲24,28の映像を解析したところ,同証拠においては,いくつかのコマが削除
されていることが判明した(乙15)。そして,削除されたコマは,繊維束が周状
に開こうとしている数コマであるから,被控訴人は,この改ざんによって,繊維束
が開く様子を隠蔽しようとしたものである。
(b)被控訴人は,被控訴人製造装置は,繊維束を均等に押し広げる上で
最適な速度で稼働するように絶えず微調整されているのであって,甲24,28の
映像は改ざんされていないと主張する。
しかし,本件においては,被控訴人製造方法によって,どのようにして繊維束
が均等に押し広げられるかが問題となっているところ,甲24,28は,まさに,
繊維束が押し広げられる瞬間の画像だけが削除されており,それ以外は,均等の速
度で上昇,下降していると認められるから,わざわざ疑わしい箇所のみの機動速度
が微調整されているのは不自然である。
例えば,乙15の393~402の10フレーム間は,肝心の繊維束が押し広げ
られる瞬間のフレームだけが存在しないが,それ以外の他のフレームは均等速度で
動いており,このことは単に機械の微調整などということでは説明できない。
したがって,甲24,28の映像は改ざんされたものというべきである。
(被控訴人の主張)
(ア)構成要件G,Nの解釈
本件明細書には,素線群の突出方向と同じ方向からのエアの吹き込みによって作
用効果を達成する具体的な技術的情報について何ら記載がない。
また,本件明細書に記載されている実施例は,エアが突出方向の反対方向から意
図的に吹き込むことを前提とした構造となっているところ,エアの吹く方向が順方
向に変更されれば,「素線群を開くのと中心部を切除するのとを同じ部材で行うこ
とが可能となり,装置の簡素化及び操作系の簡素化を可能と」(段落【0006】)
するための具体的な構造は大きく異なってくると考えられるにもかかわらず,その
点の重要な技術情報の開示がない以上,構成要件G,Nの「エア」とは,唯一の
実施例が開示している突出方向と反対方向から吹き込まれるものに限定して解さざ
るを得ない。
したがって,構成要件G,Nの「エア」は,突出方向と反対方向から吹き込ま
れるものに限定される。
(イ)被控訴人製造方法,被控訴人製造装置
a被控訴人製造装置の溶着ホーンの上底面にエアを噴出する機能を果
たす吹き出し孔が存在しないことは,甲29の1及び甲30から,溶着ホーンの
下部にエアを吹き込む機構が存在しないことは,甲29の2から,それぞれ明ら
かである。
素線群の先端が開放しているようになっているのは,エアの作用ではなく,素
線群が通過する「貫通孔」と繊維束が突出される突出孔との内径の差によるもので
ある。
b乙15は,時機に後れた攻撃防御方法であり,却下されるべきである。
被控訴人は,甲24,28の動画のコマの一部を削除していない。
乙15には,被控訴人製造装置の「ホーンは等速で上昇しているので,」と記載
されているが,被控訴人製造装置の溶着ホーンは繊維束を均等に押し広げる上で最
適な速度で稼働するように絶えず微調整されており,また,原材料や装置の状態や
工場内の環境等による動作への影響も否定できないから,「等速で上昇している」
訳ではない。このように,乙15は検証の重要な前提が明らかに誤っているため,
解析結果は事実と全く異なる内容となったものと推測される。
イ均等侵害の成否(争点1-2)について
(控訴人らの主張)
本件発明2,3の本質的部分は,素線群の中央にエアを吹き込むことで,簡易に,
ブラシ単体の厚みを均等にすることができるようにし,また,放射状にした状態で
溶接し,繊維原料から切断することで,簡易迅速かつ大量に円形ブラシの製造を可
能にした点にあるから,エアが流れる方向が素線群に対し順方向であるか,反対方
向であるかを区別する必要はない。
したがって,エアの吹き込みが素線群に対して反対方向であることは本件発明2,
3の本質的部分ではない。
(被控訴人の主張)
本件発明2,3は「素線群の突出端の中央にエアを吹き込んで素線群を放射方向
に開く」点が本質的部分と認められるところ,素線群を均等かつ放射状に開くとい
う作用効果を実現するためには,実際にエアをどのようにして素線群の突出端の中
央に吹き込み,どのようにして素線群を開放させるのかという点も本質的部分をな
す重要な構成といえ,エアの吹き込む方向に係る差異は発明の本質的部分に係る差
異である。
ウ本件各告知の不正競争該当性及び控訴人らの故意又は過失の有無等(争
点2-1)について
(控訴人らの主張)
(ア)控訴人らは,本件各告知の当時,被控訴人が,前訴の当時に行ってい
た製造方法を止めているのか,同製造方法によって製造された製品の在庫を廃棄し
たのかについて不明であったために,本件各告知を行った。したがって,本件各告
知は,被控訴人の前訴での違法行為に対してのものであって,被控訴人製造方法に
ついてのものではない。
(イ)被控訴人が本件各告知による不法行為を主張する以上は,積極的に控
訴人特許権の構成要件充足性がないことの立証のため,自らの対象行為を開示する
必要があるというべきであり,控訴人特許権の侵害がないことが判然としないとい
う段階においては,不正競争防止法による損害賠償責任は発生しないというべきで
ある。
被控訴人は,前記ア(イ)cのとおり,証拠を改ざんするなどして隠蔽を継続して
いる以上,控訴人らに不正競争防止法による損害賠償責任は発生しない。
(ウ)原判決は,控訴人ら側の過失として,甲10を引用して,その代理人
らによる見分によっても,被控訴人の製造方法の詳細が不明であった以上,警告書
を送付する前に,更に調査をするべきであったとして,控訴人らに過失があると判
断した。
しかし,被控訴人は,控訴人らが被控訴人製造装置を確認することを頑なに拒否
しており,その承諾がなければ,控訴人らにおいて,被控訴人製造方法が控訴人特
許権を侵害していることを確認する術がなかった。
したがって,被控訴人が,被控訴人製造方法を開示する義務を怠ったのであるか
ら,原判決が,この点を考慮せずに,控訴人ら側に過失を認めたことは不合理であ
る。
(エ)また,被控訴人は,前記ア(イ)cのとおり,改ざんした証拠を提出しな
がら,被控訴人製造方法を隠しているのであるから,被控訴人の請求は,信義に反
し,権利の濫用である。
(被控訴人の主張)
(ア)被控訴人は,前訴において,平成24年4月12日,「2011年
(平成23年)7月18日より,30台あった旧羽根製造機を全て中止し,その機
械の部品を一部転用した新羽根製造機に段階的に切り替えました。」とする書面
(甲13)を提出しており,控訴人Xの代理人である福島弁理士も,平成26年
6月23日の時点で,被控訴人社内で「見せられた装置は,素線の先端に当てた部
材を振動させることにより徐々に素線を周方向に広げるもので,エアーの噴射に
よっているものではないので,X氏の有する特許権の内,侵害訴訟の対象になった
特許権の装置とは構成を異にしていました・・・」(甲10)として,具体的な理
由付けとともに,被控訴人が既に仕様変更していることを確認していた。
したがって,平成27年7月13日に本件通知書1を発送するに先立って,控訴
人らは,被控訴人製造方法及び被控訴人製造装置が控訴人特許権を侵害しない構成
である可能性を十分認識できていた。控訴人らは,十分な調査も実施しないまま虚
偽事実の告知を強行した以上,少なくとも過失が認められることは疑いがない。
(イ)控訴人らは,本件各告知は,被控訴人の前訴における違法行為に対す
るものであって,本訴における被控訴人製造方法についてのものではないと主張す
るが,本件通知書1,2の記載は,過去の裁判に係る情報提供にとどまるものでは
なく,被控訴人が当時販売していた被控訴人各製品を指摘したうえで,明らかに,
被控訴人がその当時実施している被控訴人製造方法及び被控訴人製造装置が特許権
を侵害していると主張するものである。
また,控訴人らは,被控訴人が前訴の当時行っていた製造方法を止めたか否か,
又は,在庫の廃棄を行ったか否かが不明であったため本件各告知が正当化されるか
のようにも主張するが,被控訴人製造方法及び被控訴人製造装置が本件各発明の技
術的範囲に属さない以上,控訴人らの行った告知内容は客観的事実に反するから,
「虚偽の事実を告知」したものであることは明らかである。
(ウ)控訴人らが当審でした権利濫用の主張は,時機に後れた攻撃防御方法
として却下されるべきである。
被控訴人が本件発明2,3を実施していることの立証責任は控訴人らにある上,
自らの重要な技術情報を含む被控訴人製造方法及び被控訴人製造装置を,控訴人ら
に対し積極的に開示する義務を被控訴人が負う理由はない。
仮に,甲24,28の動画内に僅かな「コマ」の欠けがあるという事実が存在し
ていたとしても,被控訴人の請求が権利濫用になるということはあり得ない。
エ損害の発生及び額(争点2-2)について
(控訴人らの主張)
(ア)本件各告知と取引行為の中止との間の因果関係について
a本件告知1の内容からすると,本件告知1によって取引行為が中止
になると認定することは,経験則上不合理である。
また,本件告知1は,被控訴人の取引先である●●●●●及び●●●●●●に対
してされたものではないから,本件告知1によって,上記2社との取引が中止され
たものと認定することはできない。
したがって,本件告知1と上記2社との取引行為の中止との間に因果関係はない。
b原判決は,損害との因果関係のある将来の販売期間として,●●●
●●については,本件送付先1への扱いが平成29年1月18日で販売再開したこ
とから,損害として計上対象となる販売中止期間は同日までと認定したのに対し,
●●●●●●については,上記販売開始日である平成29年1月18日以降も損害
の計上期間として認定している。
しかし,本件告知先1である本件送付先1は,平成29年1月18日に販売を再
開したのであるから,●●●●●のみならず,●●●●●●との関係でも同様に考
えなければならない。
(イ)損害額について
a被控訴人は,販売利益については,過去の帳票その他の事後改ざん
が困難な資料を一切提出しておらず,陳述書又はこれと同等の立証しかしていない。
また,被控訴人は,●●●●●や●●●●●●への販売実績についても,改ざん
が困難な資料を提出していない。
したがって,原判決の損害額の認定は誤りである。
b前訴判決において,被控訴人の歯ブラシの製造方法及びその製造装
置が控訴人特許権を侵害すると判断されたのに,被控訴人は,その後長年にわたり,
改造後の製造方法を違法に隠蔽しているのであるから,被控訴人にも過失があると
いうべきであり,損害賠償額の算定に当たっては過失相殺をすべきである。
(被控訴人の主張)
(ア)本件各告知と取引行為の中止との間の因果関係について
a本件通知書1は,被控訴人製品1を販売する行為も控訴人特許権を
侵害するものであるとして,本件送付先1に対し,被控訴人製品1の販売行為を直
ちに中止するよう申し入れる内容となっているところ,本件告知1を受けた本件送
付先1において,「特許権をめぐる紛争が解決するまで本件製品についての販売を
見合わせます。」と記載したメールを被控訴人担当者に送付していること(甲4)
からすると,被控訴人と控訴人らの間での紛争が販売中止の契機であり,まさに本
件通告書1が原因となり本件送付先1が被控訴人製品1の販売中止を決定したこと
は明らかである。
また,被控訴人は卸各社を通じて被控訴人製品1を本件送付先1に販売しており,
本件送付先1で被控訴人製品1が取り扱われることが前提となった取引であるから,
本件送付先1での販売中止を原因として卸各社への販売ができなくなったことは明
らかである。
b控訴人らは,●●●●●において被控訴人製品1の販売再開がされ
た時点以降の●●●●●●に対する取引の中止と本件告知1との間に因果関係は認
められないと主張する。
しかし,控訴人らの上記主張は時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべき
である。
また,●●●●●との関係で被控訴人製品1の取引を再開できたのは,被控訴人
の営業努力によるものであり,●●●●●●との関係で取引再開に至っていないの
は,本件告知1による信用棄損の影響が残存しているからにほかならない。した
がって,上記販売再開以降も,●●●●●●との取引停止による損害発生と本件告
知1との間には相当因果関係が認められる。
(イ)損害額について
a控訴人らは,被控訴人の主張,立証する損害額に対し抽象的に争う
ばかりで合理的な反証活動を一切行っていないのであるから,原判決の判断は正当
であり,事実認定の誤りはない。
b控訴人らが当審でした過失相殺の主張は,時機に後れた攻撃防御方
法として却下されるべきである。
仮に,甲24,28の動画内に僅かな「コマ」の欠けがあるという事実が存在し
ていたとしても,被控訴人に過失が認められるということはあり得ない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,被控訴人の請求は,控訴人らに対して,①被控訴人各製品の製
造,使用,販売又は輸入につき,控訴人特許権又はその専用実施権に基づく差止請
求権並びに同侵害を理由とする損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の不存在の
確認,②不正競争防止法3条1項に基づく,被控訴人が製造,販売する被控訴人各
製品について控訴人特許権を侵害するとの事実を告知又は流布する行為の差止め,
③同法4条に基づく,損害賠償金385万3032円及びこれに対する平成27年
7月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,それぞ
れ求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。
その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4
当裁判所の判断」1~6に記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,被控訴人は,権利濫用の主張,過失相殺の主張,●●●●●を通じて販売
されていた被控訴人製品1の販売が再開された以降は,●●●●●●を通じて販売
されていた被控訴人製品1が販売されないことと本件告知1との間の因果関係は認
められないとの主張及び乙15の提出は,時機に遅れた攻撃防御方法として却下す
べきであると主張するが,同主張及び証拠の提出によって訴訟の完結が遅延するこ
とはないから,同攻撃防御方法が時機に後れたものということはできず,被控訴人
の上記主張は理由がない。
(原判決の補正)
(1)原判決24頁4行目冒頭から6行目末尾まで及び8行目冒頭から「参酌す
ると,」までを削る。
(2)原判決27頁17行目~18行目の「この点に関する被告らの主張は採用
できない。」を削り,17行目の次に改行して以下の記載を加える。
「この点,控訴人らは,甲26によると,被控訴人各製品の溶着ホーンには,空
気が送られる穴が存在することが分かり,また,被控訴人各製品の溶着環には小突
起が周状に規則的に配置されているが,この小突起は溶着の際に溶解した繊維原料
が溶着ホーンの上記の穴に流れ落ちたものであると主張する。
しかし,甲26の写真を甲29の1及び甲30の写真と対比して見ると,被控訴
人各製品の溶着ホーンに控訴人らが指摘する穴が存在すると認めることはできない。
また,被控訴人各製品の溶着環に小突起があるからといって,そのことから溶着
ホーンに穴が存在することが裏付けられるということもできない。したがって,控
訴人らの上記主張は理由がない。
また,控訴人らは,空気が上部からのみ吹き出ている場合,甲24に示されてい
る以下の糸束の開き具合とはならないと主張する。
しかし,被控訴人製造方法においては,糸束が加工台座の貫通孔から最も突出し
た時点で,平たい棒状のものが,加工台座の下面の直下を横切り,貫通孔から突出
した糸束は,同棒状のものでその根元から薙ぎ払われるように,加工台座の下面に
接した状態となり,その後,元の状態に戻り,溶着ホーンが更に上昇し,糸束の中
心空間の周囲が溶着される(甲24)ところ,上記写真において,糸束が斜めの状
態となっているのは,糸束が平たい棒状のもので薙ぎ払われた後に元の状態に戻る
直前の写真であるためであると認められる。上記の写真における糸束の状態が,溶
着ホーンから空気が吹き出していることの根拠となるということはできず,控訴人
らの上記主張は理由がない。
さらに,控訴人らは,被控訴人製造装置の動作を撮影した動画である甲24,2
8においては,いくつかのコマが削除されていることから,被控訴人は,このコマ
の削除によって,繊維束が開く様子を隠蔽しようとしたものであると主張する。
しかし,控訴人らが提出する甲24,28の解析結果(乙15)は,甲24の動
画を558個のフレームに,甲28の動画を813個のフレームに分割したものと
認められるが,同解析結果によって,一部のフレームが削除されたというためには,
溶着ホーンの上昇速度が一定である必要があるところ,本件において,溶着ホーン
の上昇速度が一定であると認めるに足る証拠はないから,上記解析結果から,甲2
4,28の一部のフレームが削除されていると認めることはできない。
この点,控訴人らは,甲24,28は,繊維束が押し広げられる瞬間の画像だけ
が削除されており,不自然であると主張するが,控訴人らが削除されたと主張する
部分において上昇速度が速くなることも十分にあり得るというべきであり,このこ
とが不自然であるということはできない。
また,甲24,28の動画を確認してみても,映像の一部が削除されたことがう
かがわれる部分は認められない。
したがって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。」
(3)原判決35頁2行目の「原告各製品」の次に「の販売」を加える。
(4)原判決35頁21行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「エ控訴人らは,本件各告知は,前訴の時点での被控訴人の違法行為に対する
ものであって,被控訴人製造方法についてのものではないと主張する。
しかし,本件通知書1には,本件送付先1の販売する被控訴人製品1の製造方法
及びその製造装置は,本件発明1~3に抵触する旨の記載があり(甲3),また,
本件通知書2には,本件送付先2~4で扱っている商品は,前訴判決で製造停止等
を命じられた製品と同一のものである疑いが極めて濃厚である旨の記載があり,本
件通知書2に添付された前訴判決に係る判決書には,被控訴人製品2等の歯ブラシ
の製造方法及びその製造装置が本件発明2,3の技術的範囲に属する旨の記載があ
る(甲12の1~3,乙1)。そして,これらの記載に本件通知書1,2の他の記
載を総合すると,本件通知書1,2は,その時点で本件各送付先が扱っている被控
訴人製造に係る製品の製造販売が控訴人特許権を侵害するあるいは侵害するおそれ
が極めて濃厚である旨告知しているものと認められる。したがって,本件通知書1,
2が対象としている製造方法及び製造装置は,被控訴人製造方法及び被控訴人製造
装置であると認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。」
(5)原判決36頁3行目の「過失」の次に「の有無等」を加える。
(6)原判決36頁4行目冒頭に「ア」を加え,20行目末尾の次に行を改めて
次のとおり加える。
「イなお,控訴人らは,被控訴人が,被控訴人製造方法を開示する義務を怠っ
たことから,控訴人らとしては,被控訴人製造方法が控訴人特許権を侵害している
かを確認することができなかったとして,控訴人らに過失はないと主張するが,被
控訴人に被控訴人製造方法を控訴人らに当然に開示する義務はなく,上記アで判示
したところに照らすと,控訴人らに過失があるということができるから,控訴人ら
の上記主張は理由がない。
また,控訴人らは,被控訴人が本件各告知による不法行為を主張する以上は,積
極的に控訴人特許権の構成要件充足性がないことの立証のため,自らの対象行為を
開示する必要があるというべきであり,控訴人特許権の侵害がないことが判然とし
ないという段階においては,不正競争防止法による損害賠償責任は発生しないと主
張する。
しかし,被控訴人に被控訴人製造方法を控訴人らに当然開示する義務はなく,上
記アで判示したところに照らすと,控訴人らに過失があるというべきであるから,
控訴人らには,不正競争防止法による損害賠償責任が生じるものということができ
る。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
さらに,控訴人らは,被控訴人は,改ざんした証拠を提出しながら,被控訴人製
造方法を隠しているのであるから,被控訴人の請求は,信義に反し,権利の濫用で
あると主張する。
しかし,前記1(2)イ(ア)で判示したとおり,被控訴人が改ざんした証拠を提出し
たとは認められないから,控訴人らの上記主張は理由がない。」
(7)原判決38頁23行目の「●●●●●●本」を「●●●●●●本」に,同
行目の「18日」を「25日」にそれぞれ改め,40頁3行目の「●●●●●●と
の関係では」の次に「,被控訴人の請求する期間である平成27年7月末頃から平
成31年3月までの間に,」を加え,40頁11行目の「本件告知1による」の次
に「平成27年7月末頃から平成31年3月までの間の」を加える。
(8)原判決40頁12行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
「(エ)a控訴人らは,本件通知書1の内容や,本件告知1は,●●●●●や●●
●●●●にされたものではないことから,本件告知1によって上記2社との取引が
中止されたものと認定することはできないと主張する。
しかし,前記第2の2(5)のとおり,本件通知書1には,本件送付先1の販売す
る被控訴人製品1の製造方法及び製造装置が本件発明1~3に抵触し,その販売行
為は控訴人特許権の侵害を構成することから,被控訴人製品1の販売を直ちに中止
すること等を求める旨の記載があり,本件送付先1は,本件告知1がされた後,2
週間程度して,被控訴人に対して,「特許権をめぐる紛争が解決するまで,本件製
品についての販売を見合わせます。」との通知をしたのであるから,被控訴人の卸
先で被控訴人製品1を被控訴人から買い受けて本件送付先1に販売していた●●●
●●及び●●●●●●と被控訴人との被控訴人製品1についての取引は,本件告知
1によって中止されたものと認められる。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
b控訴人らは,本件送付先1は,平成29年1月18日に,●●●●●と
の取引を再開したのであるから,●●●●●●との関係でも,本件告知1と相当因
果関係の認められる取引中止期間は上記の日までであると主張する。
しかし,前記(イ)bのとおり,本件送付先1と●●●●●●との取引は,●●●
●●との取引が再開した後も中止されたままである。そして,本件送付先1と●●
●●●が,被控訴人製品1の取引を再開することとしても,●●●●●●が,被控
訴人製品1の販売が控訴人特許権を侵害するおそれがあることを考慮して,取引の
再開をしないことも十分に考えられるから,●●●●●との取引が再開されたから
といって,●●●●●●との関係でも再開するということはできない。
したがって,控訴人らの上記主張は理由がない。
c控訴人らは,販売利益や販売実績について,事後改ざんが困難な資料は
提出されていないから,原判決の損害額の認定は誤りであると主張する。
しかし,本件において,損害額の認定のために使用した証拠が改ざんされたもの
であることをうかがわせる事情はないから,これらの証拠によってされた認定が誤
りであるということはできない。
d控訴人らは,被控訴人は,被控訴人製造方法を違法に隠蔽していたので
あるから,過失があるとして,過失相殺の主張をする。
しかし,被控訴人に,被控訴人製造方法を控訴人らに当然開示すべき義務はなく,
被控訴人が被控訴人製造方法を違法に隠蔽したということはできないから,控訴人
らの上記主張は理由がない。」
(9)原判決40頁13行目の「(2)」を「イ」に,21行目の「(3)」を「ウ」
に,22行目の「(1)」を「ア」に,26行目の「(4)」を「エ」に,41頁2行目
の「(5)」を「オ」に,5行目の「(6)」を「(3)」にそれぞれ改め,8行目の「遅
延損害金請求権を」の次に「それぞれ」を加える。
2よって,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
佐野信
裁判官
中島朋宏

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