弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1α線のβ駅とγ駅との間の線増連続立体交差化事業における高架複々線走行
のための鉄道施設変更工事について被告がした別紙1「α線完成検査一覧表」
記載の各完成検査合格処分をいずれも取り消す。
2α線のβ駅とγ駅との間の線増連続立体交差化事業による複々線化を前提と
したP1株式会社による平成16年10月5日付け運行計画届出に対して被告
がした同日付け受理処分を取り消す。
3被告は,α線のβ駅とγ駅との間の線増連続立体交差化事業により建設され
る高架複々線の鉄道線路に,P1株式会社が鉄道を複々線で走行させることを
許す一切の処分をしてはならない。
第2事案の概要
,(「」。)(「」。)本件はP1株式会社以下P1というα線以下α線という
のβ駅付近からγ駅付近までを高架複々線化する鉄道施設の変更に関し,その
周辺に居住する原告らが,建設される高架鉄道施設に隣接して設けられるべき
付属街路(関連側道)が完成していないにもかかわらず,高架複々線化を進め
るのは違法であると主張して,被告に対し,①当該工事の完成検査の結果被告
が行った変更後の当該鉄道施設を合格とする処分の取消し及び②当該鉄道施設
の変更を前提としてP1が被告に届け出た運行計画の受理の取消しを求めると
ともに,③当該工事により完成した高架鉄道施設にP1が鉄道を複々線で走行
させることを許す被告が行う処分一切の差止めを求める事案である。
これに対し,被告は,本案前の答弁として,上記①の請求に対しては,取消
しを求める合格処分の中には出訴期間を限定する行政事件訴訟法の規定が遵守
されていないものがあるほか,そもそも原告らには原告適格がないことを,上
記②の請求に対しては,運行計画届出の受理は取消訴訟の対象となる処分では
ないことを,上記③の請求に対しては,差止めを求める対象である「一定の処
分」が特定されていないことを主張し,本件訴えをいずれも却下することを求
め,本案については,当該鉄道施設を合格とした処分は適法であると主張して
いる。
1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)都市計画事業(甲5,16,18,乙2,6の1・2,7のl・2)
建設大臣は,昭和39年12月16日付けで,都市計画法(大正8年法律
第36号。いわゆる旧都市計画法)3条に基づき,世田谷区δ(γ駅付近)
を起点とし,葛飾区ε(ζ駅付近)を終点とする東京都市計画高速鉄道第9
号線(昭和45年の都市計画の変更以降の名称は「東京都市計画都市高速鉄
道第9号線」である)に係る都市計画を決定した。。
東京都は,上記都市計画について,都市計画法(平成4年法律第82号に
よる改正前のもの)21条2項において準用する同法18条1項に基づく変
更を行い,平成5年2月1日付けで告示した(以下,この都市計画の変更を
「平成5年決定」という。平成5年決定は,α線のγ駅付近からβ駅付。)
近までの区間(以下「本件区間」という)について,η駅付近を掘割式と。
するほかは高架式を採用し,鉄道と交差する道路とを連続的に立体交差化す
ることを内容とするものであり,後記(2)で述べるα線の複々線化と相まっ
て,鉄道の利便性の向上及び混雑の緩和,踏切における渋滞の解消,一体的
な街づくりの実現を図ることを目的とするものである。
建設大臣は,都市計画法(平成11年法律第160号(中央省庁等改革関
係法施行法)による改正前のもの)59条2項に基づき,平成6年5月19
日付けで,東京都に対し,平成5年決定により変更された上記都市計画を基
礎として,本件区間の連続立体交差化を内容とする都市計画事業(以下「9
号線事業」という)を認可し,平成6年6月3日付けでこれを告示した。。
また,建設大臣は,世田谷区が平成5年2月1日付けで告示した東京都市
,,,,計画道路・区画街路都市高速鉄道第9号線付属街路第3第4第5第6
第9及び第10号線に係る各都市計画を基礎として,同項に基づき,平成6
年5月19日付けで,東京都に対し,本件区間の一部に係る上記付属街路6
(,「」本の設置を内容とする各都市計画事業以下併せて9号線付属街路事業
という)を認可し,平成6年6月3日付けでこれを告示した。上記各付属。
街路は,本件区間の連続立体交差化に当たり,環境に配慮して沿線の日照へ
の影響を軽減すること等を目的として設置することとされたものである。
(2)鉄道施設変更工事(甲5,乙1ないし4,6,7,9ないし30,32
ないし42,49(枝番のあるものはすべての枝番を含む)。)
アP1は,α線につき,本件区間のうちβ駅付近からθ駅付近までを含む
ι駅付近からθ駅付近までの間については昭和48年11月10日に,本
件区間のうちθ駅付近からγ駅付近までを含むθ駅付近からκ駅付近まで
の間については昭和60年11月19日に,それぞれ,地方鉄道法施行規
則17条に基づき,複々線化を内容とする線路及び工事方法書の記載事項
の変更の認可を受け,さらに,平成4年3月10日には,鉄道事業法(平
成16年法律第124号による改正前のもの)12条4項に基づき,本件
区間について鉄道施設変更に係る工事計画の変更の認可を受けた(以下,
この変更後のものを「本件鉄道施設変更」といい,その工事を「本件鉄道
施設変更工事」という。。)
本件鉄道施設変更にかかわる上記の各認可は,地方鉄道法施行規則17
条に基づくものは東京陸運局長ないし関東運輸局長(当時)が,鉄道事業
法12条4項に基づくものは運輸大臣の権限の委任を受けた関東運輸局長
(当時)が,それぞれ行ったものであるが,いずれも,現在においては,
国土交通大臣の権限の委任を受けた被告によって行われたものとみなされ
る(中央省庁等改革関係法施行法1301条1項,同法附則1条,鉄道事
業法12条4項,8条2項,9条,64条,同法施行規則(平成17年国
土交通省令第12号による改正前のもの)71条1項4号。)
本件鉄道施設変更の工事計画の内容は,本件区間約6.4キロメートル
について,η駅付近の一部を除き鉄道を高架化するとともに,それに併設
して2線線増をし,高架複々線化をするというものであり,その具体的な
工程は,①高架化・複々線化前の既設線(東西方向に延びる複線)の南側
に用地を取得し,②既設線の南側に高架鉄道施設(南側半分)を建設し,
③完成した高架鉄道施設(南側半分)に既設線を移し(一部仮線となる個
所がある,④地上に残された既設線を撤去し,主に既設線用地上に高。)
架鉄道施設(北側半分)を建設し,⑤完成した高架鉄道施設(全体)を複
々線として供用する,というものである。
イ9号線事業と本件鉄道施設変更工事の関係は次のとおりである。
建設省と運輸省との間で昭和44年9月1日に締結され平成4年3月3
1日に改正された「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する
協定(以下「建運協定」という)は,都市における道路と鉄道との連」。
続立体交差化に関し,事業の施行方法,費用負担方法,その他必要な事項
を定めることにより連続立体交差化を促進し,もって都市交通の安全化と
円滑化を図り,都市の健全な発展に寄与することを目的として,①建設大
臣又は都道府県知事は都市計画法の定めるところにより,連続立体交差化
に関する都市計画を定めること,②都市計画決定された連続立体交差化に
関する事業は都市計画事業として都道府県又は政令指定都市が施行するこ
と,③連続立体交差化事業費である高架施設費等は鉄道事業者と都市計画
事業施行者とがこの協定の定めるところにより負担すること,④運輸省及
び建設省は連続立体交差化事業が円滑に実施されるよう鉄道事業者及び都
市計画事業施行者を指導すること,⑤この協定を円滑に運用するため,運
輸省及び建設省の職員で構成する連続立体交差化協議会を設けることなど
を定めている。
建運協定にいう連続立体交差化とは,鉄道と幹線道路とが2カ所以上に
おいて交差し,かつ,その交差する両端の幹線道路の中心間距離が350
メートル以上ある鉄道区間について,鉄道と道路とを同時に3カ所以上に
おいて立体交差させ,かつ,2カ所以上の踏切道を除却することを目的と
して,施工基面を沿線の地表面から離隔して既設線に相応する鉄道を建設
することをいい,既設線の連続立体交差化と同時に鉄道線路を増設するこ
と(線増連続立体交差化)を含むものとされる(同協定2条。線増連続)
立体交差化の場合,連続立体交差化に関する都市計画には,鉄道施設の増
強部分(既設線の鉄道施設の面積が増大する部分及び線増線の部分をい
う)を原則として含めるものとされ(同協定3条3項,都市計画決定。)
された線増連続立体交差化に関する事業における鉄道施設の増強部分以外
の部分に係る事業は,都市計画事業として都市計画事業施行者が施行する
ものとされる(同協定4条。)
9号線事業は,本件区間において建運協定の定める線増連続立体交差化
に関する事業を行おうとするものである。したがって,鉄道施設の増強部
分に係る事業は,本件鉄道施設変更工事としてP1が実施し,それ以外の
部分に係る事業は,9号線事業として東京都が施行することとなる。
ウP1は,本件鉄道施設変更工事につき,必要となる用地が確保された所
から順次工事を開始するとともに,工事完成部分について,順次,鉄道事
業法に基づく完成検査を申請した(同法12条4項,10条1項,鉄道施
設等検査規則(昭和62年運輸省令第11号)7条1号ロ・ヘ。関東運)
輸局長(当時)ないし被告は,上記各申請に基づき完成検査を実施し,P
1に対し,当該各鉄道施設を合格とする処分をした(同法10条2項。)
P1はこれを受けて当該各鉄道施設の供用を開始した。
その経過は別紙1「α線完成検査一覧表(以下「別紙1一覧表」とい」
。),,,う記載のとおりであり被告は同表の番号①から<23>までのとおり
平成9年11月19日から平成16年11月17日までの間,23回に分
けて「検査年月日」欄記載の日に,同法12条4項に基づき各鉄道施設,
を合格とする処分をした(以下,併せて「本件各合格処分」といい,個別
に特定するときは同表の番号に従い「本件合格処分①」などという。。)
本件各合格処分に係る完成検査の詳細は別紙2−1ないし同2−5の各
「鉄道施設完成検査実績」記載のとおりである。これらは,別紙1一覧表
(,,,)を各鉄道施設鉄道線路信号保安設備電路設備駅及び変電所等設備
別に整理したものであり,別紙2−2−1の信号保安設備に関する検査対
象施設を路線図で示したものが別紙2−2−2であり,別紙2−3−1の
電路設備に関する検査対象施設を系統図で示したものが別紙2−3−2で
ある。各検査項目に記載された鉄道施設の詳細は次のとおりであり,鉄道
施設ごとの主な具体的な検査事項は,別紙3「完成検査における主な検査
事項」記載のとおりである。
〔項目〕〔鉄道施設の詳細〕
鉄道線路軌道(レール,まくら木,路盤等),高架橋等
橋りょう支間40メートル以上の橋りょう構造物
トンネル長さ200メートル以上のトンネル構造物
駅プラットホーム,駅設備等
電車線路トロリ線,ちょう架線,ハンガ等(※1)(※1-2)(※1-3)(※1-4)
き電線路き電線等(※2)
配電線路配電線等(※3)
閉そく装置閉そく機,軌道回路,信号機等(※4)(※4-2)
連動装置連動機,転てつ器等(※5)(※5-2)
自動列車停止装置ATS(AutomaticTrainStop)地上設備
変電所整流器,変圧器等の変電所設備
※1:電車にパンタグラフを通じて電力を供給するための電線路
※1−2:パンタグラフと直接接触する線
※1−3:ハンガを介してトロリ線をつり下げる線
※1−4:トロリ線をちょう架線につり下げる金具
※2:変電所より電力を電車線路に供給するための電線路
※3:駅等鉄道施設や信号機,踏切等の信号保安設備に電力を供
給するための電線路(電柱,ビーム等の支持物は,電車線,
き電線,配電線で共用する場合は,いずれかの早い検査時に
検査を行う)。
※4:列車の追突・衝突を防止するため,線路を一定区間に区切
って1区間を1列車のみの運行に占有させ,完全に通過し終わ
るまでは続行列車又は対向列車をその区間に進入させないよう
にするための装置の総称
※4−2:左右のレールを電気回路の一部として使用して列車検知を
行うための回路
※5:信号機と転てつ器の間に相互関係を持たせて構内の列車の
進路構成を行うための装置
※5−2:分岐器(ポイント部)のレールを移動させるための装置
本件各合格処分のうち,平成13年1月6日前に行われたものは運輸大
臣の権限の委任を受けた関東運輸局長(当時)が,同日以後に行われたも
のは国土交通大臣の権限の委任を受けた被告が,それぞれ行ったものであ
るが,同日前に行われたものは,現在においては,国土交通大臣の権限の
委任を受けた被告によって行われたものとみなされる(中央省庁等改革関
係法施行法1301条1項,同法附則1条,鉄道事業法12条4項,10
条2項,64条,同法施行規則71条1項4号。)
(3)運行計画の届出(乙5)
P1は,平成16年10月5日,鉄道事業法17条に基づき,本件鉄道施
設変更を踏まえた運行計画の変更を被告に届け出て(以下「本件届出」とい
う,被告は同日これを受理した。。)
P1は,平成16年12月11日から,上記運行計画の変更に係る新運行
計画(ダイヤ)を実施している。
(4)原告らの居住地(甲13,乙43)
原告らはいずれも本件区間の周辺地域に当たる本判決原告ら肩書住所地に
居住する者である。
東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。ただし,平成
10年東京都条例第107号による改正前のもの。以下「東京都条例」とい
う)は,鉄道の新設又は改良など同条例別表に掲げる事業でその実施が環。
境に著しい影響を及ぼすおそれのあるものとして東京都規則で定める要件に
「」(),,該当するものを対象事業とした上で2条3号東京都知事において
「事業者が対象事業を実施しようとする地域及びその周辺地域で当該対象事
業の実施が環境に著しい影響を及ぼすおそれがある地域」として,当該対象
事業に係る関係地域を定めなければならないとしている(2条5号,13条
1項。9号線事業に係る関係地域は,別紙4の図面のとおり定められてい)
るところ,原告P2以外の原告らはいずれも上記の関係地域(以下「東京都
条例関係地域」という)内に居住している。。
2争点
本件の主要な争点及びこれに関する当事者の主張の概要は次のとおりであ
る。
以下においては,原告らの請求のうち,前記第1「請求」の1に係る請求を
「本件各合格処分取消請求,同2に係る請求を「本件届出受理取消請求,」」
同3に係る請求を「本件差止請求」という。なお,判断の便宜上,まず,本案
前の判断として,処分性,特定性,出訴期間,原告適格の順に検討するため,
争点の記載もこの順序とする。
(1)本件届出の受理は取消訴訟の対象となる処分か。
(原告らの主張)
鉄道事業法施行規則71条1項8号は,同法17条の規定による届出の受
理が国土交通大臣の権限であり,かつ,これを地方運輸局長に委任するとし
ており,鉄道の運行計画又はその変更の届出に対して行政庁の行為としての
受理が想定されている。
行政手続法37条は,届出によって届出義務を負う者の手続上の義務が履
行されたものとなることを規定するにすぎず,これに対する行政庁の受理行
為があって初めて,当該届出者の期待する一定の法律上の効果が発生する。
したがって,鉄道事業法17条の届出が地方運輸局長によって受理される
ことによって初めて鉄道運行計画の変更が許されると解され,この受理行為
は,これにより直接鉄道事業者の権利義務を形成し,又はその範囲を確定す
ることが法律上認められているものということができ,取消訴訟の対象とな
る処分に当たる。
(被告の主張)
行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)3条2項にいう行政庁の処分。
とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によっ
て,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認
められているものをいう。
届出は,法律上私人が行政庁に対し一定の通知をすることを義務付けられ
ているときのその通知行為であって,形式上の要件に適合している届出がさ
れたときは,当該届出義務者がすべき行為は完了し,これについて行政庁の
意思や判断が介在する余地は本来ない。行政手続法37条はこれを明らかに
したものであり,同条にいう届出については,行政庁による届出の受理を法
律上観念することができず,受理処分ないし不受理処分の取消訴訟は不適法
である。
「」,鉄道事業法17条によって届出が義務付けられる列車の運行計画とは
列車の運転速度,発着時刻,運行回数等に関する計画のことであり,その届
出に当たっては同法施行規則35条1項又は3項に規定する事項を届出書に
記載した上,同条2項に規定する関係書類及び図面を添付することとされて
いる。運行計画は,本来,鉄道事業者が決定すべき性質のものであるが,鉄
道事業の公共性にかんがみ,運行計画の安全性及び利便性を確保するため,
事前届出を定めたものである。そして,同法17条は,運行計画の届出につ
き「届け出」との文言を用いており,行政手続法の適用を除外する規定は,
ないし,届出の形式上の要件を超えて,行政庁が,届出の内容について審査
権限を有することをうかがわせる規定は存在しない。したがって,鉄道事業
法17条の届出は,行政手続法37条の届出に該当し,到達したときに届出
としての効果を持つことになるのであるから,国土交通大臣ないしその権限
の委任を受けた地方運輸局長がこれを受理する行為は,法律上は意味を持た
ない単なる事実上の行為にすぎないというべきである。
よって,この受理行為は国民の法的地位に直接影響を及ぼすものではない
から,行訴法3条2項に規定する処分に当たらないというべきである。
(2)本件差止請求の対象は特定しているか。
(原告らの主張)
本件差止請求の対象は,これ以上の特定ができない。
(被告の主張)
本件差止請求に係る訴えは,行訴法3条7項の規定する差止めの訴えであ
る。同項によれば,差止めの訴えは「行政庁が一定の処分又は裁決をすべ,
きでないにかかわらずこれがされようとしている場合」に提起することがで
きるところ「一定の処分又は裁決」とは,差止めの訴えの要件を満たして,
いるか否かについて裁判所の判断が可能な程度に特定されるものである必要
があると解される。そして,具体的な特定の程度については,問題とされる
処分又は裁決の根拠法令の趣旨及び社会通念に従って判断されるべきもので
あるが,単に差止めの結果としての事実を特定するのみでは足りないと解す
べきである。
ところが,本件差止請求は,本件鉄道施設変更工事によって完成した高架
鉄道施設に「P1が鉄道を複々線で走行させることを許す一切の処分」をし
てはならないとするもので,まさに差止めの結果としての事実を特定したの
みであって,直接間接を問わずP1が鉄道を複々線で走行させることに関連
するすべての処分を想定し,その差止めを求めるものである。したがって,
裁判所が差止請求の要件該当性を判断することはおよそ不可能であり,差止
めの対象とする処分の特定性を欠くことは明らかである。
よって,本件差止請求は,行訴法3条7項の要件である「一定の処分」の
特定を欠き,不適法である。
(3)本件各合格処分取消請求に係る訴えは出訴期間関連規定を遵守している
か。
(原告らの主張)
ア(ア)本件鉄道施設変更工事は,9号線事業及び9号線付属街路事業とと
もに,その全部が一体となって「線増連続立体交差化事業」としての1
個の事業を構成する。この1個の事業の目的を達成するためには,あく
までも本件区間全体について本件鉄道施設変更工事全部が完了し,完成
した高架鉄道施設の上に複々線走行をさせられる状態に至ることが必要
条件である。
したがって,本来は,本件区間全体の本件鉄道施設変更工事が完了し
た時点で完成検査を実施し,合格判定をすべきである。便宜的に任意の
一部分の工事が完了する都度行われてきた本件各合格処分のそれぞれ
は,それ自体が独立した1個の行政処分としての意義を有していないか
ら,その全部がそろったとき,すなわち最後の処分である本件合格処分
<23>が行われたときに,一体としての合格処分が行われたとみなすべき
である。
(イ)鉄道事業法の規定をみても,本件鉄道施設変更工事は,本件区間の
全線を高架複々線化するための工事であるから,同法12条によれば,
その全体についての「変更に係る工事計画」につき被告の認可を受け,
その全体についての「工事が完了したとき」に検査を申請しなければな
らないものである。
実質的に考察しても,本件鉄道施設変更工事は,本件区間の鉄道を連
続して高架複々線化するための工事であるから,その全体が鉄道施設と
して法令に適合しているか否かは,全体の工事が完了するまでは判定す
ることが不可能な性格を有している。
結局,本件鉄道施設変更工事については,たとえ事実上分割して検査
が実施されたとしても,もともとの鉄道施設変更の工事計画に定められ
た工事がすべて完成した時点における検査とこれに対する合格処分をも
って全体の工事に対する被告の処分が行われたものと解するのが法令に
適合しており,本件各合格処分は全体として1個の処分と解すべきであ
る。
(ウ)したがって,本件各合格処分取消請求に係る訴えの出訴期間は,一
番最後の合格処分である本件合格処分<23>が行われた平成16年11月
17日から起算すべきものであり,それ以前に提起されている本件訴え
はいずれも適法である。
イ仮に,本件各合格処分が別個独立のものであったとしても,原告らは,
本件訴訟における被告の答弁書によって初めて,本件各合格処分が行われ
たとの事実を告知されたのであり,原告らが本件各合格処分があったこと
を知ったのは平成16年12月20日である。
また,本件各合格処分はそもそも一般に公告されるものではなく,およ
そ原告らがこれが行われた事実を知り得る状況にはなかったものである。
原告らは,鉄道事業や鉄道工事の専門家ではないから,本件区間において
いかなる工事が行われ,完成検査や合格処分が行われたのかを直ちに認識
することはできない。P1による「広報周知」の効果は不詳であり,本件
各合格処分に係る工事区間・個所の供用開始を知り得る状況にあったとの
被告の主張は何ら証明されていない。
よって,本件訴え提起までに既に1年間の出訴経過が経過していたとい
う本件合格処分①から⑯までの処分についても,その処分取消しの訴えを
提起するにつき原告らには「正当な理由」がある。
(被告の主張)
,(。)ア本件各合格処分は完成検査年月日合格処分をした日と同日である
を異にするばかりか,鉄道施設の種類,区間,個所等の検査対象及び検査
の内容が異なっていることからすると,それぞれ別個独立のものというべ
きであり,合計23個存在する。
イ本件訴えのうち,原告P3の訴え(第482号事件)は平成16年11
月12日に提起され,その余の原告らの訴えはいずれも同月4日に提起さ
れた。したがって,本件各合格処分が行われた時点において原告らがその
処分があったことを知っていたのであれば,本件各合格処分取消請求に係
る原告P3の訴えは,同年8月11日以前に行われた合格処分の取消しを
求める部分については,行訴法14条(平成16年法律第84号による改
正前のもの。以下「旧行訴法14条」という)1項の規定する出訴期間。
(3か月)が経過しており,その余の原告らの訴えは,同年8月3日以前
に行われた合格処分の取消しを求める部分については,同様に出訴期間が
経過している。すなわち,本件合格処分①から同⑳までの各処分の取消し
を求める訴えは,いずれも出訴期間が経過している。
ウ本件各合格処分取消請求に係る訴えのうち,本件合格処分①から同⑯ま
での各処分の取消しを求める訴えは,いずれも,処分の日から1年を経過
した後に提起されているから「正当な理由」がない限り,原告らがそれ,
を知ると否とにかかわらず出訴期間が経過しており,不適法である(旧行
訴法14条3項。)
そして,本件各合格処分に係る工事区間・個所の供用開始はあらかじめ
P1により広報周知されていたから,α線沿線に居住する原告らがその供
用開始を知り得る状況にあったことは明らかである。そうすると,原告ら
は,本件合格処分①から同⑯までの各処分に係る工事区間・個所の供用開
始を知ることによって,当該工事が完成したことを知り,かつ,およそ当
該鉄道施設の供用を開始する前提として必要とされる何らかの処分が行わ
。,,れたことを推認することができたはずであるそうである以上原告らは
供用が開始された工事区間・個所について鉄道事業法12条3項の完成検
査が行われ合格処分が行われたことを容易に知り得る状況にあったという
べきであり,原告らに旧行訴法14条3項の「正当な理由」は認められな
い。
(4)原告らは本件訴えにつき原告適格を有するか。
(原告らの主張)
ア原告らは,本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設に隣接又は近接した場所
に居住し不動産上の権利を有する者である。
9号線事業の事業地の周辺地域に居住する住民が9号線事業認可及び9
号線付属街路事業認可の各取消しを求めた訴訟において,最高裁判所は,
東京都条例に基づき9号線事業に係る関係地域として東京都知事が定めた
地域(東京都条例関係地域)内に居住している者すべてに9号線事業認可
取消訴訟の原告適格を認めた(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・
民集59巻10号2645頁。以下「α大法廷判決」という。。)
原告P2以外の原告らはすべて東京都条例関係地域内に居住しているか
ら,後記イで述べる理由により,α大法廷判決と同様,これらの原告らに
はすべて本件訴えの原告適格が認められる。原告P2の居住地は東京都条
例関係地域内にはないが,9号線事業地から北方に直線距離で約670メ
ートルの位置にある。東京都条例関係地域内にあっても,9号線事業地か
らの直線距離が原告P2の居住地までの直線距離よりも遠い場所があり,
同原告よりも遠方に居住する住民が多数9号線事業認可取消訴訟の原告適
格を認められているから,同原告にも原告適格が認められるべきである。
イ建運協定並びにこれに基づく細目協定,通達及び調査要綱(以下「建運
」。),,協定等というが定めるとおり連続立体交差化事業が行われる場合
沿線の日照への影響を軽減する等,環境への影響を軽減するために,付属
街路(関連側道)を設置することが不可欠である。そこで,建運協定は,
鉄道の高架複々線化を単なる鉄道事業とはせず,複々線化(線増)という
鉄道事業,鉄道の高架化という都市計画事業及び高架化が不可避的に招来
する環境の悪化(騒音,新道,日照阻害等)を防止,緩和するための「環
境空間」としての附属街路の設置という都市計画事業の三者が不可分一体
をなすものとしての「線増連続立体交差化事業」を新たな事業として位置
付けたのである。また,その際に生ずる鉄道施設の改良工事費は「連続,
立体交差化事業費」として国費(道路特定財源の資金)で賄われることと
されているのである。
このような観点からみると,本件鉄道施設変更工事は,単なる既存鉄道
施設の変更にすぎないものではなく,既存鉄道の高架複々線化のための工
事そのものであって,本件区間における線増連続立体交差化事業の中核的
構成要素であり,当該事業の一部分を構成する9号線事業の中核的構成要
素でもあるといえる。また,本件届出の受理は,東京都条例関係地域に居
住する住民が被ると予想される「騒音,振動等による健康又は生活環境に
係る著しい被害」の発生原因となる,線増連続立体交差化事業の結果とし
ての高架鉄道施設上の電車の複々線走行を許可する行政処分にほかならな
いのである。
そして,建運協定等は,直接には道路法31条及び道路整備費の財源等
の特例に関する法律(平成15年法律第21号による改正前の「道路整備
」),緊急措置法2条3項に基づく建設省と運輸省の協議を前提とする協定
通達,要綱の形式で存在するものであり,少なくとも上記2つの法律を補
充する法規範としての性質を明確に有する。仮に百歩譲っていわゆる内部
規範にとどまるとしても,これを定立した行政が合理的理由もなく踏みに
,。じることは到底許されずその意味で裁判規範性すなわち法規範性を持つ
以上によれば,本件各合格処分及び本件届出の受理は,9号線事業認可
とは形式上は別個の行政処分とされているが,本件区間における鉄道事業
を遂行するために必要不可欠な行政処分であって,実体的に一体をなす処
分であるというべきである。
原告らは,α大法廷判決が判示したとおり,9号線事業が実施されるこ
とにより騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的
に受けるおそれのある者に当たると認められ,9号線事業認可の取消しを
求める訴えの原告適格を有すると解されるのであるから,同様の理由によ
り,本件各合格処分及び本件届出の受理についてもその取消しを求める訴
えの原告適格を有すると解すべきである。また,付属街路が未整備の状況
において高架鉄道施設の上を鉄道が複々線で走行した場合,原告らは,そ
の走行による騒音等及び日照の阻害等によって,生活妨害並びに肉体的及
び精神的苦痛を被ることとなるので,本件差止請求に係る訴えについても
原告適格を有する。
ウ本件各合格処分取消請求に係る訴えに関しては,さらに,被告の主張を
前提にしても,以下に述べるとおり,原告らには原告適格が認められる。
環境影響評価法が平成9年に制定されたことを踏まえて運輸技術審議会
諮問第23号答申「今後の鉄道技術行政のあり方について」が出され,更
にそれを踏まえて鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年国
土交通省令第151号。以下「技術基準省令」という)が制定され「環。,
境への配慮」としてその6条が設けられたという経緯にかんがみれば,こ
れによって鉄道事業法10条2項の内容も変更されたと解され,同法1条
の趣旨・目的にも「環境への配慮」すなわち列車の「騒音による健康又は
生活環境に係る著しい被害を受けないという周辺住民等の個別具体的な利
益」を保護する趣旨が含まれるものと解すべきであり,むしろこれを排除
する理由を見いだすことこそ困難である。これが,環境基本法及び環境影
響評価法の趣旨・目的にもかなった解釈である。
そして,技術基準省令6条により「周辺環境への配慮」の一つとして,
列車の走行に伴う騒音の発生を抑制するとの趣旨が盛り込まれたことは明
らかであるところ,それには「不特定多数者の一般的公益」としての列車
,「」の走行騒音の抑制と併せて特定の鉄道の周辺住民個々人の個別的利益
としての「列車の走行騒音による健康又は生活環境に係る著しい被害を受
けないという利益」を保護すべきものとする趣旨を含むことは明らかであ
る。特定の事業についての許認可に際して「列車の走行に伴い発生する,
著しい騒音の防止に努めているか否か」を審査する場合,当該鉄道の周辺
住民の「個別的利益」と無関係に一般的に列車の走行騒音を抑制すること
のみを求めるなどということは,現実にはあり得ないからである。
(被告の主張)
争点(1)及び同(2)において述べたとおり,原告らの請求のうち本件届出受
理取消請求及び本件差止請求に係る訴えは,原告適格について検討するまで
もなく既に不適法であるから,ここでは,本件各合格処分取消請求に係る訴
えの原告適格についてのみ論じる。
ア原告適格を基礎付ける法律上の利益の有無は,行政処分ごとに検討,判
断されるべきものである。
本件各合格処分は鉄道事業法に基づく行政処分であり,他方,9号線事
業認可は,平成5年決定に係る都市計画法に基づく行政処分であるから,
両者は別個の法律に基づく目的も趣旨も異なる別個の行政処分であり,こ
れが実体的に一体をなす処分であるとする原告らの主張は失当である。
なお,建運協定は,連続立体交差化に関し,都市計画事業施行者(都道
府県)と鉄道・軌道事業者との間で費用負担等の調整が必要となることか
ら,これらの問題を解決するために,鉄道事業を所管する運輸省(当時)
と都市計画を所管する建設省(当時)との間で締結された行政組織間の協
定であり,法律の委任に基づいて定められたものではない上,国民の権利
義務にかかわるものでもなく,公布手続もとられておらず,行政組織間の
内部規範にとどまるものであるから,それに違反することが違法を招来す
るような法的拘束力を有するものでもない。
イそこで,本件各合格処分取消請求に係る訴え固有の原告適格について検
討すると,以下に述べるとおり,根拠法である鉄道事業法のみならず,関
係法令を参酌しても,鉄道事業法12条4項,10条2項に基づく合格処
分が,原告らの主張する「騒音,振動等による健康又は生活環境に係る著
しい被害」を受けないという個別具体的利益を法的に保障する趣旨,目的
のものと解することはできないから,原告らは本件各合格処分の取消しを
求める訴えの原告適格を有しない。
(ア)鉄道事業法をみると,同法の鉄道施設に関する規制が,同法1条に
定める鉄道事業の健全な発達という公益目的を超えて,騒音,振動等に
よる人の健康又は生活環境に係る被害の防止を法的に保障する趣旨,目
的を含むと解する根拠は見当たらない。
(イ)鉄道営業法1条による規制の目的については,同法には独自の目的
規定がないが,同条に基づき定められた技術基準省令1条や鉄道事業法
の規制目的を総合すると,鉄道営業法1条による鉄道施設に関する技術
的規制は,安全な輸送及び安定的な輸送の確保を図ることにより,鉄道
事業の運営の適正と合理化,利用者の利益保護,鉄道事業の健全な発達
という鉄道事業法1条所定の目的を達成するという公益目的に基づくも
のと解される。
もっとも,鉄道営業法1条に基づき平成13年に設けられた技術基準
省令6条は「鉄道事業者は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音の防
止に努めなければならない」と規定しているから,国土交通大臣ない。
しその権限の委任を受けた地方運輸局長は,工事施行認可や鉄道施設の
合格処分をするに当たり,鉄道事業者が上記騒音の防止に努めているか
否かを審査し,これに努めていると認められないときには,認可や合格
処分をしないことがあり得る。その意味で,同条は行政権の行使を制約
する効力規定である。
しかし,技術基準省令6条は,これを設けた趣旨や関係法令である環
境基本法及び環境影響評価法の趣旨及び目的,委任法である鉄道事業法
及び鉄道営業法の趣旨及び目的,条文自体の文言及びその規制の具体的
内容に照らして,鉄道事業者自身が,列車の走行に伴い発生する著しい
騒音の防止に努め,環境に与える影響を軽減することを通じて,鉄道事
業法1条に定める鉄道事業の健全な発達という公益目的を実現する趣
旨,目的のものと解するのが相当であり,それを超えて,鉄道事業に伴
う騒音,振動等による人の健康又は生活環境に係る被害の防止までを法
,。,的に保障する趣旨目的を含んでいると解することはできないそして
技術基準省令においても,6条以外に,在来鉄道(新幹線鉄道以外の普
通鉄道)の騒音に関する規定は一切設けられていないから,結局,技術
基準省令による規制の趣旨及び目的も,鉄道事業法1条に定める鉄道事
業の健全な発達という公益目的のものというべきである。
したがって,技術基準省令6条を踏まえても,鉄道事業法及び鉄道営
業法は,騒音に関する周辺住民等の利益を個別的利益として保護する趣
旨を含んでいると解することはできない。
(ウ)以上の次第で,本件各合格処分の根拠法令である鉄道事業法のみな
らず,関係法令を参酌しても,鉄道事業法12条4項,10条2項に基
づく合格処分が騒音防止に係る周辺住民の個別具体的な利益を保護しよ
うとするものと解することはできないから,原告らには本件各合格処分
取消請求に係る訴えの原告適格は認められない。
(5)原告らには本件差止請求に係る訴えを提起するために必要とされる重,「
大な損害を生ずるおそれ(行訴法37条の4第1項)があるか。」
(原告らの主張)
本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設にP1が鉄道を複々線で走行させるこ
ととなれば,その沿線住民は電車の走行による騒音,振動及び日照阻害等の
重大な損害を被ることは確実である。また,平成16年10月に発生した新
潟県中越地震の際,走行中の新幹線が脱線し,危うく転覆しかかったことが
示すとおり,脱線・転覆事故等による生命,身体の危険にさらされるのであ
,。るから重大な損害が発生するおそれは極めて高いといわなければならない
よって,原告らには,行訴法37条の4第1項の「重大な損害を生ずるお
それ」がある。
(被告の主張)
争う。
(6)原告らの主張する取消事由(各処分の違法性)及び差止めの本案勝訴要
件の有無
(原告らの主張)
本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設に関しては,そもそも付属街路(関連
側道)の設置計画自体が存在しない個所が多数あり,また,平成5年決定に
より都市計画決定が行われた付属街路は10本あるものの,9号線付属街路
事業はそのうちの6本について事業を行うものにすぎない。しかも,この6
本の付属街路も,その延長は,平成5年決定において定められたものよりも
大幅に削減されている。さらに,東京都が施行者となっている9号線付属街
路事業は未完成であり,道路用地の取得さえできていない部分もあるから,
完成のめどすら立っていないといえる9号線事業も本件合格処分<23>本。,(
件各合格処分のうち最後のもの)及び本件届出の受理が行われた時点におい
ては完成していなかった。
このように「線増連続立体交差化事業」が完了していない段階で,本件,
合格処分<23>及び本件届出の受理が行われたのであるから,これは文字どお
り高架複々線走行を見切り発車させるものである。
以上を前提に,原告らは,本件各合格処分及び本件届出の受理の違法性並
びに本件差止請求の本案勝訴要件につき次のとおり主張する。
ア本件各合格処分について
(ア)争点(4)のところで述べたとおり,建運協定等は法規範性を有する
,,ことが明白であり仮に百歩譲って行政の内部規範にとどまるとしても
これを定立した行政が合理的理由もなくこれを踏みにじることは到底許
されない。
建運協定等によれば,線増連続立体交差化事業においては,高架鉄道
施設と付属街路とは「一体として設計・施工」をすることが求められて
いる。ところが,本件鉄道施設変更の工事計画は付属街路の設置工事を
含まないのであるから,それ自体違法な工事計画にほかならない。
したがって,被告は,鉄道事業法10条2項に基づき,法令により規
定された「工事計画」に従った工事でないことを理由に,合格の判定を
拒否しなければならない法律上の義務を負っている。
(イ)また,上記(ア)のとおり,高架鉄道施設は付属街路と一体として整
備しなければならないのであるから,9号線事業が完成しないうちは,
また,9号線付属街路事業による付属街路が完成しないうちは,本件鉄
道施設変更工事が完成したということはできない。
本件鉄道施設変更工事が完成していない以上,P1は,鉄道事業法1
2条3項に基づく検査の申請をすることができないのであり,被告がこ
れにつき合格とする処分をすることもできない。
(ウ)以上によれば,本件各合格処分はいずれも違法である。
イ本件届出受理取消請求について
(ア)本件各合格処分のうち,本件合格処分<22>は平成16年10月20
日に,同<23>は同年11月17日に行われている。P1は,これらの最
終的な処分のための完成検査が行われるのを待たずに,したがって当然
合格処分も行われていない段階であるにもかかわらず,あえて同年10
月5日に本件届出をし,被告はこれを受理した。
適法な鉄道施設変更工事完成検査による合格処分が行われてもいない
のに,変更した鉄道施設上に鉄道を複々線で走行させるのが違法である
ことは論を待たないところであるが,P1は,そのような条理を全く無
視し,複々線を前提とした本件届出を,同年11月17日の最後の合格
処分を受けるはるか前に行い,被告はこれを直ちに受理したというので
あるから,その違法性は火を見るより明らかである。
(イ)また,上記アにおいて述べたとおり,本件各合格処分は違法である
から,これを前提とした本件届出も違法である。
被告は,鉄道事業者からの運行計画変更の届出が適法な場合のみこれ
を受理することができるのであるから,本件届出の受理は当然違法であ
る。
ウ本件差止請求について
前記ア及び上記イのとおり,本件各合格処分並びに本件届出及びその受
理は違法であるから,これを前提として行われる,本件鉄道施設変更後の
高架鉄道施設上に鉄道を複々線で走行させることを許すすべての処分が違
法であることはいうまでもない。
(被告の主張)
ここでも,本件各合格処分の違法性についてのみ述べるが,被告は,本件
各合格処分につき,別紙1一覧表,別紙2−1から同2−5まで及び別紙3
記載のとおりの完成検査を行い,いずれも,工事計画に合致し,かつ,技術
基準省令に適合すると認めたことから合格処分をしたのであり,本件各合格
処分はいずれも適法である。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件届出の受理の処分性)について
(1)行政庁の処分の取消しを求める訴えの対象として行訴法3条2項の規定
「」(,「」する行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為以下単に処分
という)とは「行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものでは。,
なく,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によ
って,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上
認められているもの」のことをいう(最高裁昭和39年10月29日第一小
法廷判決・民集18巻8号1809頁参照。)
被告は,本件届出の受理はこの意味での処分ではないから,本件届出受理
取消請求に係る訴えは取消訴訟の要件を欠き不適法であると主張するので,
検討する。
(2)届出とは「行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当す,
るものを除く)であって,法令により直接に当該通知が義務付けられてい。
るもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知
をすべきこととされているものを含む」をいい(行政手続法2条7号,。))
届出が法令に定められた形式上の要件に適合している場合,それが法令によ
り提出先とされている行政機関の事務所に到達したときに,届出をすべき手
続上の義務が履行されたものとされる(同法37条。)
この行政手続法の定めによれば,届出があったか否かは,形式上の要件に
適合する届出が提出先の行政機関の事務所に到達したか否かのみによって決
まることとなるから,届出に対する行政機関の側の応答は必要とされない。
したがって,この点からみれば,同法の定める届出には処分としての受理の
観念をいれる余地がない。
もっとも,行政の仕組みにおいて,届出にどのような法律効果を結び付け
るかは,個々の法律の定め方によって決まるものであるから,法律の定め方
によっては,届出に対して,行政庁が,形式上の要件にとどまらず実体的な
要件の審査も行い,届出をした者に対して届出の要件が満たされていること
を表示するということもあり得るところである。そして,このような表示行
為が一定の法律上の効果を有するものとされているのであれば,これを処分
とみることができると解される。その限りで,届出に対する処分としての受
理という行為が全く存在し得ないわけではない。
本件届出は,鉄道事業法17条の規定する運行計画の変更の届出であり,
同条によれば,鉄道運送事業者は,列車の運行計画の設定又は変更をしよう
とするときは,あらかじめ,その旨を国土交通大臣(平成13年1月6日前
は運輸大臣。以下同じ)に届け出なければならない。この届出の受理に係。
る同大臣の権限は地方運輸局長に委任されている(同法64条,同法施行規
則71条1項8号。)
ここにいう「列車の運行計画」とは,列車の運転速度(最高許容速度,)
発着時刻,運行回数(最高許容運行回数)等に関する計画のことであり,届
出書の記載内容並びに添付すべき書類及び図面は,同法施行規則35条が定
めている。
鉄道運送事業者が列車の運行計画の設定又は変更の届出をしないで運行を
することは刑罰をもって禁止されており(同法70条5号。なお,平成15
年法律第96号による改正前の鉄道事業法においては,72条1号により,
届出をせず,又は虚偽の届出をすることが刑罰の対象されていた,また,。)
国土交通大臣ないし地方運輸局長は,公共の利益保護の見地から,事業改善
命令として鉄道事業者に対し運行計画の変更を命ずることができるものとさ
(,,),れているが同法23条1項2号64条同法施行規則71条2項5号
それ以外に,同法には,この届出に関する規定は存在しない。同法施行規則
においても,届出書の記載事項等を定めた35条のほかに,運行計画の設定
又は変更の届出に関する規定は存在しない。すなわち,鉄道事業法も,同法
施行規則も,運行計画の設定又は変更の届出に対し,届出の受理の権限を有
する地方運輸局長がその実体的な要件の審査を行うことは予定していない
し,受理という用語を使用しているものの,その受理に一定の法律効果を結
び付けることもしていないのである。罰則に関する同法70条5号も「届,
出を受理されないで」運行をしたことではなく「届出をしないで」運行を,
したことを犯罪の構成要件として定めている。以上のような法令の定め方に
よれば,運行計画の設定又は変更の届出に対し,地方運輸局長が上述したよ
うな処分としての受理という行為を行うことは全く想定されていないといわ
ざるを得ない。
原告らは,鉄道事業法施行規則71条1項8号の規定によれば,地方運輸
局長は届出の「受理の権限」を有するのであり,そうである以上,受理は処
分に当たると主張するが,受理の権限を有するか否かと,その受理が処分と
しての効果を持つか否かとは別の問題であり,受理の権限があるからその受
理は処分であるというのは論理に飛躍がある。行政手続法の定める届出とい
えども,その提出先がいかなる行政機関であるのかは法令によって定める必
要があり,その提出先である行政機関のことを「受理の権限」を有する行政
機関と表現することに何ら不都合はない。上記の分析によれば,同法施行規
則にいう「受理」とは,まさにそのような意味での受理のことを指し,届出
を事実上受け付けることを意味するにすぎないものと解される。原告らの本
件届出の受理に関する主張は理由がない。
,,(3)以上の検討によれば本件届出の受理を処分ということはできないから
取消しの訴えの対象にはならない。
よって,本件届出受理取消請求に係る訴えは,取消訴訟における取消しの
対象を欠く不適法な訴えであるから,その余の点について判断するまでもな
く却下を免れない。
2争点(2)(本件差止請求の対象の特定性)について
,。(1)本件差止請求に係る訴えは行訴法3条7項にいう差止めの訴えである
同項によれば,差止めの訴えとは「行政庁が一定の処分又は裁決をすべき,
でないにかかわらずこれがされようとしている場合において,行政庁がその
処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる訴訟」をいう。そして,ここにい
う「一定の処分又は裁決」とは,その表現からも分かるとおり,処分又は裁
決の内容が具体的一義的に特定していることまでは要求していないものの,
行訴法37条の4の定める差止めの訴えの要件について裁判所が判断するこ
とができる程度にまでは特定している必要があることはいうまでもない。
被告は,本件差止請求の対象はこの「一定の処分」としての特定性を欠く
と主張するので,検討する。
(2)本件差止請求の対象は「本件区間の線増連続立体交差化事業により建,
設される高架複々線の鉄道線路に,P1が鉄道を複々線で走行させることを
許す被告の一切の処分」であるから,ここにいう「被告の一切の処分」が行
訴法3条7項にいう「一定の処分」といえるか否かが問題となる。
まず,鉄道事業法及び同法施行規則上の地方運輸局長の権限に属する処分
をみると,列車の走行に直接関係すると考えられるものだけでも,次のよう
なものが挙げられる。
ア鉄道事業者の事業基本計画のうち一定の事項に係るものの変更の認可
(同法施行規則71条1項1号)
イ鉄道事業者の工事計画変更の認可(同項2号)
ウ鉄道施設の検査(同項3号,4号)
エ鉄道施設の変更の認可(同項4号)
オ鉄道運送事業者の車両の確認(同項5号)
原告らは,本件鉄道施設変更後の高架鉄道施設上にP1が列車を複々線で
走行させることを阻止することを目的として,本件差止請求をするものであ
るが地方運輸局長である被告の権限に属する上記アからオまでの各処分上,(
記ウについては,検査後の合格処分)は,そのいずれについても,一定の条
件の下においては,P1が上記高架鉄道施設上に列車を複々線で走行させる
ことを許す効果を持つ場合があると考えられる。しかし,逆に「P1が上記
高架鉄道施設上に列車を複々線で走行させることを許す」という結果のみに
着目するのであれば,そのような効果をもたらす処分は,上記アからオまで
の各処分のいずれでもあり得るのであって,しかもこれらに尽きるとは限ら
ず,そのうちのどの処分なのかを特定することができず,行訴法37条の4
の定める差止めの訴えの要件について審理,判断をすることはできないとい
わざるを得ない。
ところが,原告らは,本件差止請求はこれ以上特定できないものであると
主張するのみであるから,裁判所としては,被告の権限に属する上記アから
オまでの処分のうちどの処分を審理の対象として取り上げるべきかを知るこ
とさえできないのであり,行訴法37条の4の定める差止めの訴えの要件に
ついて判断することは到底できない。したがって,本件差止請求の対象は,
行訴法3条7項の定める「一定の処分」には当たらないというほかない。
以上,鉄道事業法及び同法施行規則上被告の権限に属する処分のうち,鉄
道の走行に直接関係すると考えられるものに限って検討しただけでも,本件
差止請求の対象は特定していないという結論に至った。被告の権限に属する
処分はそれ以外にも存在するのであり,その中に,原告らのいう「本件鉄,
道施設変更後の高架鉄道施設上をP1が鉄道を複々線で走行させることを許
」,すという効果を持つものが全く存在しないとは断言できないのであるから
それらの処分のことをも考慮すれば,本件差止請求の対象が特定していない
ことは一層明らかである。
(3)以上の検討によれば,本件差止請求に係る訴えは,差止めの対象が特定
していないものとして不適法であるから,その余の点について判断するまで
もなく却下を免れない。
3争点(3)(出訴期間関連規定の遵守)について
(1)原告らは,本件各合格処分は全体として1個とみることができ,したが
って,最後のものである本件合格処分<23>が行われた時点から一体として旧
行訴法14条所定の出訴期間が進行を始めると主張する。これに対し,被告
は,本件各合格処分はそれぞれが別個の処分であり,出訴期間もそれぞれの
合格処分が行われた時点から進行すると主張するので,まずこの点について
判断する。
鉄道事業者は,認可を受けた鉄道施設の変更のうち鉄道施設等検査規則7
条で定めるものに係る工事を完成したときは,遅滞なく,国土交通大臣の検
査を申請しなければならず(鉄道事業法12条3項,同大臣は,その検査)
の結果,当該鉄道施設が,工事計画に合致し,かつ,鉄道営業法1条の国土
交通省令(平成13年1月6日前は「鉄道営業法1条の命令。以下同じ)」。
で定める規程に適合すると認めるときは,これを合格としなければならない
(鉄道事業法12条4項,10条2項。この国土交通大臣の権限は,地方)
運輸局長に委任されている(同法64条,同法施行規則71条1項4号。)
このように,国土交通大臣から権限の委任を受けた地方運輸局長による完
成検査は,工事により完成した「鉄道施設」に対して行われ,かつ,検査に
合格することとなるのも「鉄道施設」である。
そして,鉄道施設等検査規則は,鉄道施設のうち変電所等設備及び電路設
備は当該鉄道施設の使用を開始するときまでに,それ以外の鉄道施設は当該
鉄道施設を事業の用に供するときまでに,それぞれ検査を受けなければなら
ないと規定しており(3条,1件の工事計画に基づく鉄道施設工事の完成)
検査がすべてまとめて実施されることを予定してはいないし,検査の申請に
ついても,1件の工事計画に基づく鉄道施設全部をまとめて申請しなければ
ならないとはしておらず,検査を受けようとするものを申請者が選択できる
こととなっており(4条,地方運輸局長も,申請のあった鉄道施設につい)
てのみ検査を行うものとされている(6条。)
また,鉄道施設変更に係る1件の工事計画についてはすべての鉄道施設に
ついて一括して完成検査を行わなければならないものとすれば,全工事が完
成するまで長期間にわたって列車の運行の休止を余儀なくされる事態も考え
られ,鉄道利用者に不便を強いることになるとともに,社会経済上の損失も
無視できないことから,工事が完成した鉄道施設から順次完成検査を行い,
合格とされたものを事業の用に供することには合理性が認められる。
以上の検討によれば,鉄道施設変更工事に係る完成検査及びその結果とし
ての合格処分は,検査の申請ごとに別個のものと解すべきであり,たとえ1
件の工事計画に基づくものであっても,検査及び合格処分が別々に行われて
いる場合,それらを全部まとめて1個のものと解することはできない。
したがって,被告の主張するとおり,本件各合格処分はすべて別個の処分
と解すべきである。
(2)以上を前提にして,本件各合格処分につき,旧行訴法14条3項の定め
る1年の出訴期間が経過しているか否かを検討すると,本件訴えの提起の時
期は,原告P3が平成16年11月12日,それ以外の原告らが同月4日で
あるから(当裁判所に顕著な事実,別紙1一覧表にあるとおり,本件合格)
処分①から⑯までについては,訴え提起までに既に同項の出訴期間が経過し
ている。
そこで次に,本件合格処分①から⑯までについて,原告らが1年内に訴え
を提起しなかったことに同項ただし書の定める正当な理由があったか否かが
問題となる。
原告らは,本件各合格処分は公告されるものではなく,原告らがこれが行
われた事実を知り得る状況にはなかったから,正当な理由があったと主張す
る。
しかし,証拠(乙32ないし42(枝番のあるものはすべての枝番を含
む)及び弁論の全趣旨によれば,本件鉄道施設変更工事はα線の利用者。)
が容易に認識できる状況の下に進行していたことが認められるから,本件区
間の周辺に居住し,本件訴えを提起するなど本件鉄道施設変更工事について
多大な関心を有していたと認められる原告らも,本件鉄道施設変更工事の進
行状況を逐次知ることができたということができる。そうであるとすれば,
原告らは,本件合格処分①から⑯までの処分が行われたそのすぐ後の時点に
おいて,鉄道事業法に基づく合格処分と正確に認識することはできなかった
としても,完成した鉄道施設を運行の用に供するに先立ち何らかの行政処分
が行われたであろうと推測することは容易にできる状況にあったということ
ができる。これを前提とすれば,原告らに旧行訴法14条3項ただし書の定
める正当な理由があったということはできない。
よって,本件各合格処分取消請求に係る訴えのうち本件合格処分①から⑯
までの取消しを求める部分は,出訴期間を徒過した不適法なものである。
(3)次に,本件合格処分⑰から⑳までについては,それぞれの処分が行われ
てから本件訴えの提起までに3か月を超える期間が経過しているので,それ
ぞれの処分の直後に原告らがそれがあったことを知ったのであれば,旧行訴
法14条1項の定める3か月の出訴期間が経過していることになる。
同項にいう「知った日」とは,処分が行われたことを現実に知った日のこ
とをいい,抽象的に知ることができたであろう日のことを意味するのではな
。,,,いこれを本件についてみると上記(2)において述べたとおり原告らは
何らかの行政処分が行われたであろうと推測することは容易にできる状況に
あったとはいえるものの,本件合格処分⑰から⑳までが行われたことを現実
に知っていたことまでを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件合格処分⑰から⑳までについて同項の定める出訴期間が
経過しているということはできないから,これらの取消請求に係る訴えを出
訴期間徒過を理由に不適法ということはできない。
(4)以上によれば,本件各合格処分取消請求に係る訴えのうち,本件合格処
分①から⑯までの取消しを求める部分は,その余の点について判断するまで
もなく不適法として却下すべきであるが,本件合格処分⑰から<23>までの取
消しを求める部分については,更に検討を要する。
4争点(4)(原告適格)について
(1)ここまでに検討してきたところによると,本件届出受理取消請求及び本
,。件差止請求に係る訴えはいずれも不適法でありこれ以上の検討を要しない
これに対し,本件各合格処分取消請求に係る訴えの中には出訴期間徒過によ
り不適法なものもあるが,出訴期間を徒過していないものもあるから,本件
各合格処分取消請求に係る訴えについては,原告らが原告適格を有するか否
かをなお検討する必要がある。
行訴法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条1項にいう
当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処
分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的
,,に侵害されるおそれのある者をいうのであり当該処分を定めた行政法規が
不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめ
ず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとす
る趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護
された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害され
るおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものと
いうべきである。
そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有
無を判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみに
よることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮される
べき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び
目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令がある
ときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに
当たっては,当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害され
ることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘
案すべきものである(同条2項参照(α大法廷判決参照。))
上記の見地に立って,原告らが本件各合格処分の取消しを求めるにつき原
告適格を有するか否かについて検討する。
(2)原告適格を検討する前提として,本件鉄道施設変更にかかわる法令の内
容を概観すると,次のとおりである。
ア鉄道事業者は,検査に合格した鉄道施設を変更しようとするときは,軽
微な変更でない限り,当該変更に係る工事計画を定め,国土交通大臣の認
可を受けなければならない。認可を受けた工事計画を変更しようとすると
きも同様である(鉄道事業法12条1項。)
ここにいう鉄道施設とは,鉄道事業の用に供する次の(ア)ないし(カ)の
施設のことをいう(同法8条1項,同法施行規則9条。)
(ア)鉄道線路
(イ)停車場
(ウ)車庫及び車両検査修繕施設
(エ)運転保安設備
(オ)変電所等設備
(カ)電路設備
国土交通大臣は,工事計画が事業基本計画及び鉄道営業法1条の国土交
通省令で定める規程に適合すると認めるときは,鉄道施設変更の認可をし
なければならない。認可を受けた工事計画の変更の場合も同様である(同
法12条4項,8条2項,9条。)
ここにいう事業基本計画とは,鉄道の種類,施設の概要(①単線,複線
等の別,②動力,③軌間,④設計最高速度,設計通過トン数及び設計けん
引重量,運送区間,計画供給輸送力,駅の位置及び名称,駅の取扱範囲)
といった事業の基本となる事項に関する計画を定めたものである(同法4
条1項6号,同法施行規則5条。)
なお,昭和62年4月1日の鉄道事業法の施行に伴い廃止された地方鉄
道法は,上に述べた鉄道施設の変更につき,工事施行の認可を受けた後の
線路又は工事方法書記載事項の変更として規制を加えており,変更の対象
となる事項に応じて,運輸大臣又は地方運輸局長(昭和59年法律第25
号による同法の改正前は地方陸運局長)の認可を受けるべきものとしてい
た(同法施行規則17条。)
イ本件鉄道施設変更工事は高架化・複々線化工事であるから,鉄道事業者
は,工事を完成したときは,遅滞なく,国土交通大臣の検査を申請しなけ
ればならない(鉄道事業法12条3項,鉄道施設等検査規則7条1号ロ・
ヘ。)
国土交通大臣は,上記申請に基づく検査の結果,当該鉄道施設が,工事
計画に合致し,かつ,鉄道営業法1条の国土交通省令で定める規程に適合
すると認めるときは,これを合格としなければならない(鉄道事業法12
条4項,10条2項。)
ウ前記アの認可及び上記イの検査の際の基準となる「鉄道営業法1条の国
土交通省令」とは,技術基準省令(鉄道に関する技術上の基準を定める省
令)のことをいい,同省令は,鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構
造及び取扱いについて準拠すべき技術上の基準を定めている。
,,技術基準省令は平成14年3月31日から施行されておりそれ以前は
α線のような普通鉄道については,普通鉄道構造規則(昭和62年運輸省
令第14号)がこれに相当するものであったが,同規則は技術基準省令の
施行に伴い廃止された(平成14年国土交通省令第19号1条。)
エ前記アの鉄道施設変更及び工事計画変更の認可並びに前記イの検査に係
る国土交通大臣の権限は,地方運輸局長に委任されている(鉄道事業法6
4条,同法施行規則71条1項4号。)
(3)前記(1)及び上記(2)を前提に判断する。
ア鉄道事業法は,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なものとすることに
より,鉄道等の利用者の利益を保護するとともに,鉄道事業等の健全な発
達を図り,もって公共の福祉を増進することを目的としている(1条。)
この文言からすれば,同法の究極的な目的は公共の福祉の増進であるが,
より直接的な目的は「鉄道等の利用者の利益の保護」と「鉄道事業等の健
全な発達」とであり,それは,鉄道事業等の運営を適正かつ合理的なもの
とすることによって実現されるものというのであるから,鉄道事業によっ
て生じる騒音,振動や日照阻害等により健康又は生活環境に係る著しい被
害を受けないという周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする
趣旨をそこから読み取ることは難しいといわざるを得ない。
上記(2)においてみたとおり,鉄道施設変更工事の完成検査も,完成し
た当該鉄道施設について,工事計画に合致しているか否か及び技術基準省
令(平成14年3月31日前は普通鉄道構造規則)に適合しているか否か
のみを検査するものであり,その結果,合致しかつ適合すると認められる
のであれば,合格処分をしなければならないのである。このことからする
と,完成検査は,輸送の安全の見地から,鉄道施設の性能及び安全性を確
保することを主な目的として行われるものと解されるのであって,完成し
た鉄道施設の周辺住民の健康又は生活環境に係る個別具体的な利益を保護
すべきものとする趣旨,目的があるとは解されない。
鉄道施設変更工事の完成検査の前には,鉄道施設変更の認可が行われる
べきものであり,その認可後に工事計画の変更がある場合はその工事計画
の変更の認可も行われるべきものであるから,これらの認可に関する規定
,,についてもみると鉄道施設変更及び工事計画の変更の認可に当たっては
その工事計画が事業基本計画及び技術基準省令(平成14年3月31日前
は普通鉄道構造規則)に適合しているか否かのみを審査し,適合すると認
められるのであれば,認可をしなければならない(同法12条4項,8条
2項,9条。ここにいう事業基本計画は,上記(2)アのとおり,鉄道事)
業の基本となる事項にかかわる計画にすぎないから,結局,工事の完成検
,,査の場合と同様鉄道施設変更及び工事計画変更の認可に関する規定にも
周辺住民の健康又は生活環境に係る個別具体的な利益を保護すべきものと
する趣旨,目的があるとは解されない。
さらに,鉄道事業法及び同法施行規則全体をみても,鉄道施設の変更に
ついて,その周辺住民の個別具体的な利益を保護することを念頭に置いて
設けられたことをうかがわせる規定は存在しないし,その工事の完成検査
の過程において周辺住民がそれに参加したり意見を述べたりすることがで
きるような手続も設けられていない。
以上のとおり,鉄道事業法の趣旨,目的のほか,鉄道施設変更の認可,
工事計画変更の認可及び完成検査にかかわる同法及び同法施行規則の規定
の趣旨,目的並びにこれらの処分において考慮されるべき利益の内容及び
性質を考慮する限り,鉄道施設変更工事の完成検査を定めた規定が,鉄道
施設周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨であるとは
解し難い。
イ次に,完成検査の際に基準とすべきものとされている技術基準省令(平
成14年3月31日前は普通鉄道構造規則)及びその根拠法規である鉄道
営業法の趣旨,目的について検討する。
検討の手順としてまず根拠法規である鉄道営業法についてみるに,鉄道
事業法と異なり,目的規定は存在しない。その規定の内容をみると,題名
どおり,鉄道による運送の営業について公益的な見地から規制を加えよう
とする趣旨のものが大半であって,鉄道施設に関するものは,わずかに,
「鉄道ノ建設,車輛器具ノ構造及運転ハ国土交通省令(注・中央省庁等改
革関係法施行法による改正前は「命令)ヲ以テ定ムル規程ニ依ルヘシ」」。
と規定する1条があるのみである。
そこで,鉄道営業法1条に基づき制定された技術基準省令及びその前身
である普通鉄道構造規則の規定を端的に検討することとする。
まず,普通鉄道構造規則をみると,その1条によれば,同規則は,普通
鉄道(新幹線鉄道を除く)の輸送の用に供する施設及び車両の構造を定。
めることにより,輸送の安全を図り,もって公共の福祉を確保することを
目的とする。したがって,同規則の究極的な目的は公共の福祉を確保する
ことであるが,より直接的な目的は「輸送の安全を図ること」であり,そ
れは,普通鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造を定めることによ
って実現されるものというのであるから,ここでも,鉄道事業によって生
じる騒音や日照阻害等により健康又は生活環境に係る著しい被害を受けな
いという周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨を読み
取ることは難しいといわざるを得ない。
また,同規則の個々の規定も,鉄道施設及び車両の構造について,その
性能及び安全性を確保するために技術的な見地から基準を設定したものと
認められるのであって,周辺住民に対する配慮をうかがわせる規定は存在
しない。
そうすると,同規則の趣旨,目的からも,周辺住民の個別具体的な利益
を保護すべきものとする趣旨を読み取ることはできない。
さらに,技術基準省令の目的は,鉄道の輸送の用に供する施設及び車両
の構造及び取扱いについて,必要な技術上の基準を定めることにより,安
全な輸送及び安定的な輸送の確保を図り,もって公共の福祉の増進に資す
ることである(1条。したがって,同省令の究極的な目的は公共の福祉)
の増進であるが,より直接的な目的は「安全な輸送及び安定的な輸送の確
保」であり,それは鉄道の輸送の用に供する施設及び車両の構造及び取扱
いについて,必要な技術上の基準を定めることによって実現されるものと
いうのであるから,その趣旨,目的は普通鉄道構造規則と共通する。省令
の名称の中にも,また,目的の中にも「技術上の基準」が明記されたこ,
とにより,安全な輸送及び安定的な輸送の確保のための鉄道技術行政上の
要請に基づく省令であるとの位置付けがより一層明確になったということ
もできる。個々の規定をみても,対象となる事項は普通鉄道構造規則と共
通しており,ただ,同規則が仕様や規格を具体的に示したいわゆる「仕様
規定」であるのに対し,備えるべき性能を規定することを原則としたいわ
「」()。,ゆる性能規定へと変更されたものにすぎない乙45そうすると
普通鉄道構造規則と同じく,技術基準省令についても,その趣旨,目的か
ら,周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨を読み取る
ことはできない。
もっとも,技術基準省令6条は「鉄道事業者は,列車の走行に伴い発,
生する著しい騒音の防止に努めなければならない」と規定しており,少。
なくとも,騒音の防止という観点からは,鉄道事業者に対し周辺の環境へ
の配慮を義務付けているといえるから,同条は,その限りでは,周辺住民
の健康又は生活環境に係る利益を保護する趣旨であるといえる。また,技
術基準省令に関しては,鉄道局長がその解釈基準を定めており(国鉄技第
157号・平成14年3月8日このうち同省令6条関係で普通鉄道新),(
幹線を除く)に関するものは,以下に述べるとおりである(乙47)。。
すなわち「普通鉄道(新幹線を除く)の新設又は大規模改良に際して,。
は,沿線屋外の地上1.2メートルの高さにおける近接側軌道中心線から
水平距離が12.5メートルの地点において,次の騒音レベルとする。
(1)新設は,等価騒音レベルとして,昼間(7∼22時)は60デシ
ベル以下,夜間(22∼翌7時)は55デシベル以下とする。
(2)大規模改良は,騒音レベルの状況を改良前より改善する。
この場合において,新設とは,鉄道事業法第8条の工事の施行認可を受
けて工事を施行する区間,また,大規模改良とは,複線化,複々線化,道
路との連続立体交差化又はこれに準ずる立体交差化を行うため,鉄道事業
法第12条の鉄道施設の変更認可を受けて工事を施行する区間をいう。
なお,次の区間及び場合については,(1)及び(2)を適用しないものとす
る。
①住宅を建てることが認められていない地域及び通常住民の生活が
考えられない地域
②地下区間(半地下,掘り割りを除く)。
③踏切等防音壁(高欄を含む)の設置が困難な区間及び分岐器設。
置区間,急曲線区間等ロングレール化が困難な区間
④事故,自然災害,大みそか等通常と異なる運行をする場合」
そこで,技術基準省令6条が保護すべきものとしている周辺住民の具体
的利益が,専ら一般的公益の中に吸収解消されるものであるのか,それと
も,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものと
しているのかを検討する必要がある。
文言をみると,同条は「著しい騒音の防止に努めなければならない」,
とし,鉄道事業者に努力義務を課しているのみであり,かつ「著しい騒,
音」に限定しているのであるから,基準としては抽象的,一般的であると
いわざるを得ない。この点は,同省令の他の多くの規定が「しなければな
らない」などとして鉄道事業者が必ず従うべき基準を定めているのとは対
。,,,照的であるまた同じ騒音に関する規定であっても新幹線に関しては
25条で「新幹線の線路には,沿線の状況に応じ,列車の走行に伴い発生
する著しい騒音を軽減するための設備を設けなければならない」とし,。
71条で「新幹線の車両は,列車の走行に伴い発生する著しい騒音を軽減
するための構造としなければならない。ただし,専ら事故の復旧又は施設
の試験,検査若しくは保守の用に供する車両については,この限りでな
い」としているのであるから,騒音に関する規定だから努力義務にとど。
めたものであるともいえない。したがって,技術基準省令6条は,新幹線
鉄道以外の鉄道における騒音の防止については,同省令の他の多くの規定
とは異なり,あえて鉄道事業者の努力義務にとどめる趣旨で設けられたも
のと解さざるを得ない。そうすると,同条は,環境基本法がその8条にお
いて事業者の環境の保全に配慮する責務を定めていることから,鉄道事業
者にもこの責務が当然に存在することを前提として定められたものであ
り,列車の走行に伴い発生する公害のうち代表的なもので,従前から環境
庁により対策の指針が定められていて鉄道技術行政にもなじみやすいと考
えられる騒音の防止について個別の規定を設けることにより,環境影響評
価法の対象事業となるものにとどまらず,鉄道事業一般について,騒音の
防止という観点から事前規制を行うことを明らかにしたものであるが,新
幹線鉄道以外の鉄道においては,列車の走行状況も,その周辺の環境も,
千差万別であることから,具体的な基準を設けることはせず,かつ「著,
しい騒音」に限って,その防止のための鉄道事業者の努力義務を規定する
にとどめたものと解される(乙45ないし48参照。このような趣旨か)
らすると,同条の規定も,健康又は生活環境に係る著しい被害を受けない
という周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨とは解さ
れず,むしろ,周辺住民の利益は,一般的公益に吸収されるものとして,
鉄道事業者の努力義務の履行を通じて間接的に保護されるものと解すべき
である。
なお,技術基準省令6条に関して鉄道局長が定めた上記の解釈基準は,
鉄道の新設に関しては具体的な騒音レベルを定めているものの,大規模改
良に関しては,騒音レベルの状況を改良前より改善するものとするにとど
めているのであるし,また,新設に関しても,大規模改良に関しても,適
用除外が広く認められていることからすると,鉄道事業者の努力義務を定
めた技術基準省令6条の範囲内でより具体的な指針を定めたものにすぎな
いと解される。
以上の検討によれば,鉄道事業法の関係法令である鉄道営業法及びこれ
に基づく技術基準省令(平成14年3月31日前は普通鉄道構造規則)の
趣旨,目的を参酌しても,やはり,鉄道施設変更に関する鉄道事業法の規
定が,周辺住民の個別具体的な利益を保護すべきものとする趣旨を含むも
のであるということはできない。
ウ原告らは,環境影響評価法及び東京都条例も関係法令として参酌すべき
であると主張する。環境影響評価法は,その33条において,対象事業に
係る免許等を行う者は,当該免許等の審査に際し,環境影響評価書の記載
事項等に基づいて,当該対象事業につき,環境の保全についての適正な配
慮がなされるものであるかどうかを審査しなければならないと規定してお
り(同条1項,また,東京都条例は,東京都知事は,事業者から提出さ)
れた環境影響評価書及びその概要の写しを対象事業に係る許認可権者に送
付して(24条2項,許認可等を行う際に評価書の内容に十分配慮する)
よう要請しなければならないとしている(25条。)
しかし,環境影響評価法及び東京都条例の上記各規定は,あくまでも,
免許等を行う者が,当該対象事業につき,環境の保全についての適正な配
慮がなされるものであるかどうかを審査すべきこと等を定めるにとどま
り,審査の基準を具体的に定めたものではない。したがって,これらの規
定から,対象事業について免許等を行うに当たり,周辺住民の個別具体的
な利益が常に必ず保護されることになるとの結論を導き出すのは困難であ
る。
そうすると,環境影響評価法及び東京都条例を関係法令として参酌した
としても,鉄道施設変更に係る鉄道事業法の規定が,周辺住民の個別具体
的な利益を保護すべきものとする趣旨であるということはできないとの上
記の結論は左右されないといわなければならない。
エ原告らは,また,本件鉄道施設変更工事は,9号線事業及び9号線付属
街路事業と一体であり,α大法廷判決は9号線事業の本件区間周辺住民に
原告適格を認めたのであるから,原告らにも本件各合格処分取消請求に係
る訴えにつき原告適格が認められるべきであると主張する。
しかし,α大法廷判決の法廷意見は,9号線事業と9号線付属街路事業
とが一体のものであることを前提とした判示はしておらず,9号線付属街
路事業は9号線事業と密接な関連を有するものの,これとは別個のそれぞ
れ独立した都市計画事業であることは明らかであるから,9号線付属街路
事業認可の取消しを求める訴えの原告適格については,個々の事業の認可
ごとにその有無を検討すべきであると判示しているのであるし,本件鉄道
施設変更工事と9号線事業ないし9号線付属街路事業との一体性について
は全く論じていない。したがって,α大法廷判決は原告らの主張の根拠と
はなり得ない。
本件鉄道施設変更工事は,確かに9号線事業と密接な関連を有するもの
,,,の都市計画事業ではなく鉄道事業法に基づき行われる工事であるから
法令上,9号線事業から独立した別個の工事であるといわなければならな
い。9号線付属街路事業は,鉄道施設ではなく街路の都市計画事業である
から,本件鉄道施設変更工事が9号線付属街路事業から独立した別個の工
事であることは一層明らかである。したがって,本件各合格処分取消請求
に係る訴えの原告適格は,9号線事業及び9号線付属街路事業からは全く
独立して,鉄道事業法に基づき判断すべきものであることは当然であり,
すべてが一体であるとする原告らの主張には理由がない。
(4)以上によれば,本件区間の周辺住民である原告らは,いずれも,本件各
合格処分取消請求に係る訴えにつき原告適格を有しないといわざるを得ず,
その余の点について判断するまでもなく,これらの訴えもまた却下を免れな
い。
5結論
本件訴えのうち,
(1)本件届出受理取消請求に係る訴えは取消しの対象となる処分がなく争,(
点(1),)
,(),(2)本件差止請求に係る訴えは差止めの対象が特定しておらず争点(2)
(3)本件各合格処分取消請求に係る訴えは,原告らに原告適格がなく(争点
(4),かつ,そのうち本件合格処分①から⑯までの取消しを求める部分は)
出訴期間も徒過しており(争点(3),)
,()いずれも訴訟要件が満たされていないからその余の争点争点(5)及び同(6)
について判断するまでもなく,本件訴えはいずれも不適法であって却下を免れ
ない。よって主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官大門匡
裁判官倉地康弘
裁判官小島清二

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