弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人佐藤米一の上告理由第一点について。
 原判決が被上告人らに命じた所論更正登記手続は、実質的には一部抹消登記手続
であるところ、所有権に対する妨害排除として抹消登記請求権を有するのは上告人
らであつて、Dではないというべきであるから、この点に関する原判決は正当であ
つて、所論のように登記義務者・登記権利者を誤解した違法はない。論旨は、原判
決を正解せざるに出たものであつて採用しえない。
 同第二点について。
 相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙な
らびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人
甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。けだし乙の登記
は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分
に関する限りその権利を取得するに由ないからである(大正八年一一月三日大審院
判決、民録二五輯一九四四頁参照)。そして、この場合に甲がその共有権に対する
妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため乙、丙に対し請求できるのは、
各所有権取得登記の全部抹消登記手続ではなくして、甲の持分についてのみの一部
抹消(更正)登記手続でなければならない(大正一〇年一〇月二七日大審院判決、
民録二七輯二〇四〇頁、昭和三七年五月二四日最高裁判所第一小法廷判決、裁判集
六〇巻七六七頁参照)。けだし右各移転登記は乙の持分に関する限り実体関係に符
合しており、また甲は自己の持分についてのみ妨害排除の請求権を有するに過ぎな
いからである。
 従つて、本件において、共同相続人たる上告人らが、本件各不動産につき単独所
有権の移転登記をした他の共同相続人であるDから売買予約による所有権移転請求
権保全の仮登記を経由した被上告人らに対し、その登記の全部抹消登記手続を求め
たのに対し、原判決が、Dが有する持分九分の二についての仮登記に更正登記手続
を求める限度においてのみ認容したのは正当である。また前示のとおりこの場合更
正登記は実質において一抹部抹消登記であるから、原判決は上告人らの申立の範囲
内でその分量的な一部を認容したものに外ならないというべく、従つて当事者の申
立てない事項について判決をした違法はないから、所論は理由なく排斥を免れない。
 同第三点について。
 被上告人B商事株式会社が原審において提出したE弁護士に対する訴訟委任状に
は、所論のとおり、相手方としてA1の記載があるのみであつて、A2、A3の記
載はないが、これは「A1他二名」とすべきところを「他二名」を書き落したもの
と解せられるから、所論は理由なく排斥を免れない。
 同第四点、第五点、第八乃至一二点について。
 しかし、本訴の訴訟物は共有権にもとづく妨害排除請求権であることは明らかな
ところ、上告人らは九分の七の持分きり有しないのであるから、本件各移転登記の
有効無効ならびにその登記原因の有効無効に係りなく、九分の七の持分についての
み抹消請求(更正登記請求)ができるに過ぎず、全部抹消請求権は存しないという
べきであるから、所論は判決に影響を及ぼす違法の主張と認められず、排斥を免れ
ない。
 同第六点について。
 適法な呼び出しを受けながら当事者が判決言渡期日に出頭しない場合に、期日に
言渡が延期され次回言渡期日が指定告知されたときは、その新期日につき不出頭の
当事者に対しても告知の効力を生ずること、当裁判所の判例とするところである(
昭和三二年二月二六日第三小法廷判決、集一一巻二号三六四頁参照)。所論は、こ
れと異る見解に立脚して原判決に違法がある如く主張するものであつて、採用しえ
ない。
 同第七点について。
 所論「各」は無用の文字を挿入しただけであつて、これによつて主文の不明瞭や
齟齬を来たすものとは認められない。所論は排斥を免れない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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