弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
 「特許庁が昭和五八年審判第一三〇二六号事件について平成元年三月二二日にし
た審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
  主文第一、二項同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和五六年一二月二三日、漢字八文字を一連に縦書した「合資会社八丁
味噌」なる商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を、第三一類
「調味料香辛料 食用油脂 乳製品」として商標登録出願(昭和五六年商標登録願
第一〇七五一〇号)をしたが、昭和五八年三月三一日拒絶査定を受けたので、同年
六月九日審判を請求し、同年審判第一三〇二六号事件として審理された結果、平成
元年三月二三日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄
本は同年五月一日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本願商標の構成、指定商品及び商標登録出願日は、前項記載のとおりである。
2 これに対し、原査定は、『本願商標は、会社名の一種で普通に使用される「合
資会社」の文字に、みその種類の一種で大豆を原料とする豆味噌で愛知県岡崎市を
主産地とする「八丁味噌」の文字とを結合して「合資会社八丁味噌」と書いてある
にすぎないものであるから、このようなものを指定商品について使用しても需要者
が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができないものと認める。した
がつて、この商標登録出願に係る商標は、商標法第三条第一項第六号の規定に該当
する。』と認定して、その登録を拒否したものである。
3 よつて按ずるに、本願商標は請求人(原告)の名称(商号)と同一のものであ
るところ、自己の名称(商号)をもつて自他商品の識別標識となす場合があること
を否定するものではないが、その場合においても通常の商標と同様に、該名称が特
別顕著な部分を有して取引上識別機能を果し得るものでなければならないことは当
然である。
 しかして、本願商標についてみれば、その構成する文字中、「合資会社」の文字
は、法人の企業形態の中の無限責任社員と有限責任社員各一名以上からなる会社を
表示する場合の名称中に付加して使用する必須の文字であり、また、「八丁味噌」
の文字は、愛知県岡崎市<以下略>を主産地とし、ダイズを原料とする豆味噌の一
種(総合食品辞典第三版 【A】編 同文書院発行)を指称する語、すなわち該商
品の普通名称と認められるべきものであること明らかである。
 したがつて、これらの単に前記組織の法人会社であることを表示するにすぎない
文字と商品の普通名称のみを結合してなる本願商標「合資会社八丁味噌」の文字を
その指定商品たる「八丁味噌」その他近似の商品に使用した場合、取引者、需要者
においては該文字より主として「八丁味噌」の製造若しくは販売する営業内容の法
人会社を表示する名称(商号)であることを理解し得るのみで、先に述べたごと
く、このように特別に記載されて取引に使用され得べき顕著な識別部分がない場合
は、商品に対して、他人の同種商品とを識別するための標識であるとは認識し得な
いものとするのが相当である。
4 してみれば、本願商標は、何人の業務に係る商品であるかを認識することがで
きない商標といわざるを得ないから、本願商標は商標法第三条第一項第六号に該当
すると認定して、その登録を拒否した原査定は妥当であつて取り消すかぎりでな
い。
 よつて、結論のとおり審決する。
三 審決の取消事由
 審決は、本願商標を「合資会社」と「八丁味噌」とに分断し、前者の文字部分
は、法人の企業形態を表示するにすぎないものであり、後者の文字部分は商品の普
通名称であるから、このようなものを結合して成る本願商標は需要者が何人かの業
務に係る商品であることを認識することができないものであると認定、判断してい
る。
 しかしながら、本願商標は、商号商標である。商号は一体のものとして登記され
成立するものであつて、これを分断することはできないものである。したがつて、
商号商標の登録審査に当たつてはこれを分断することなく、一体のものとして判断
すべきである。
 ところで、みそ醸造、販売の業界において、「合資会社八丁味噌」なる商号は原
告をおいて他になく、せいぜい商品名に「八丁味噌」の名称又は名称を冠したもの
が、原告と密接な関係を有する合名会社太田商店にあるにすぎない。このことは、
「八丁味噌」が原告代表社員【B】の祖先である二代目【B】が二百五十年前に発
明した独特の味噌であり、その商標であることが広く知られているためである。
 したがつて、このような商号を商標とした本願商標は、それが何人かの業務に係
る商品であるかを識別し得るものである。
 また、審決は「八丁味噌」を普通名称であると判断しているが、「八丁味噌」は
前記したとおり二代目【B】が二百五十年前に初めて製造し、以来早川久右衛門商
店が製造、販売してきた独特の高級味噌であり、現在も原告会社と合名会社太田商
店のみが製造しているものであつて、これが味噌の普通名称でないことは明らかで
ある。したがつて、「八丁味噌」なる文字は需要者間において他の商品と区別さ
れ、十二分に商標としての機能を果たし得るものである。
第三 請求の原因に対する認否及び反論
一 請求の原因一及び二の事実は認める。
二 同三は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
 商号商標においても自他商品の識別標識としての機能を有しないものは商標とし
て登録することができないことは自明のことであつて、本願商標における分断して
の判断は当然であり、本願商標を商標法第三条第一項第六号に該当するとした審決
の判断に誤りはない。
 また、原告は、「八丁味噌」は、味噌の普通名称でないと主張するが、辞書、事
典(乙第一号証ないし第四号証)、著作物(乙第五号証、第六号証)には「八丁味
噌」が普通名称として使用されており、原告においても指定商品を「八丁味噌」と
して登録を受けている事実があることからして、「八丁味噌」の文字自体を普通名
称とみるを相当とし、このように判断した審決に違法はない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び同二(審決の理由の要点)の
事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
 原告は、「本願商標は、原告の商号「合資会社八丁味噌」を商標としたものであ
るから、これを分断して商標登録要件の存否を考察することは相当でない。そし
て、『合資会社八丁味噌』なる商号は他にないから、これを商標とした本願商標は
自他商品の識別力を有するものである」旨主張する。
 よつて検討するに、成立に争いのない甲第七号証ないし甲第九号証、甲第二八号
証、甲第二九号証に弁論の全趣旨を総合すると、八丁味噌は愛知県岡崎市において
江戸期より太田家及び原告の祖たる早川家を製造元として作られてきた同地方の特
産品であり、現在も原告と合名会社太田商店の二店で醸造されていること、名古屋
地方におけるNTT職業別電話帳(一九八九年一月三〇日現在)の味噌醸造、販
売、みやげ品の頁には、「八丁味噌」を冠した会社名は原告の名古屋支店が唯一社
記載されているだけであり、岡崎地方におけるNTT五〇音別電話帳(一九八八年
四月一八日現在)には、「八丁味噌」の名称又は名称を冠したものは、原告と「八
丁味噌太田商店」の二つが記載されているのみで、本願商標の指定商品を取扱う業
界において、「合資会社八丁味噌」なる商号を有するものは原告をおいて他にない
ことが認められる。しかしながら、商号商標といえども商品を表示する標識である
ことから、これが現実の商品取引においては、法人組織を表わす「合資会社」の部
分を省略し、単に「八丁味噌」として認識されることが少なくないことは経験則に
照らして容易に推認し得るところである。してみると、本願商標の場合、その予測
される使用形態を考えると、「八丁味噌」と表わされた部分が特別顕著な部分とし
て取引上自他商品の識別機能を果たし得るか否かを検討すべきであると解される。
 そして、成立に争いのない乙第一号証一ないし五(大辞林 【C】編 三省堂編
集所発行)、第二号証の一ないし三(総合食品事典 第三版 【A】編 同文書院
発行)、第三号証の一ないし四(日本の名産事典、【D】他二名編 東洋経済新報
社発行)、
第四号証の一ないし四(改訂食品事典6調味料 【E】編 真珠書院発行)、第五
号証の一ないし五(食品チシキミニブツクスシリーズ、味噌・醤油入門 【F】、
【G】共著 株式会社日本食料新聞社発行)、第六号証の一ないし六(みその本 
【H】、【I】共著 株式会社柴田書店)によれば「八丁味噌」とは、愛知県岡崎
市<以下略>を主産地とし、大豆を原料とする豆味噌の一種であり、「八丁味噌」
なる文字は、該商品を指称する普通名称であると認められる。
 したがつて、「八丁味噌」なる文字部分に取引上識別機能があると認めることは
できないから、結局、本願商標は、何人かの業務に係る商品であるかを認識するこ
とができない商標といわざるを得ないものである。
 以上のとおりであるから、本願商標は、何人の業務に係る商品であるかを認識す
ることができない商標である、とした審決の認定、判断に誤りはなく、審決に原告
主張の違法はない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴
訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用
して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤井俊彦 竹田稔 岩田嘉彦)

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