弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
被告人を懲役2年6月及び罰金300万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
この裁判確定の日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。
被告人から金1億2092万5200円を追徴する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,
第1コンピュータソフトウェアの開発,販売及び輸出入並びにその開発業務の委
託等を目的とし,その発行する株券をA証券取引所に上場している株式会社B
との間でIRコンサルティング契約を締結していたものであるが,平成18年
4月14日ころ,同契約の履行に関し,同社の平成17年7月1日から平成1
8年6月30日までの会計期間の連結の経常利益について,平成18年3月1
6日に公表された予想値は23億6000万円ないし25億8000万円であ
ったのに対し,同社が新たに算出した同期の予想値は18億円となり,公表が
された直近の予想値に比較して,新たに算出された予想値において,投資家の
投資判断に及ぼす影響が重要なものとして内閣府令で定める基準に該当する差
異が生じた旨の同社の業務等に関する重要事実を知ったことから,同重要事実
の公表前にあらかじめ同社の株券を売り付け,その公表後に同株券を買い戻し
て利益を得ようと企て,法定の除外事由がないのに,同重要事実の公表前であ
る平成18年4月17日から同月21日までの間,C証券株式会社及び当時の
D証券株式会社(現株式会社E証券)を介し,東京都中央区ab丁目c番d号
所在のA証券取引所において,F又はG名義で,株式会社Bの株券合計693
株を代金合計7255万1000円で売り付けた。
第2電気及び蒸気の生産・売買等を目的とし,その発行する株券をH証券取引所
市場第一部等に上場しているI株式会社の取締役としてIR業務等に従事して
いたものであるが,平成18年4月29日ころ,その職務に関し,同社の平成
18年9月中間期の剰余金の配当について,公表がされた前事業年度の中間期
の実績値は25円であったのに対し,新たに算出した同期の予想値は0円とな
り,公表がされた前事業年度の対応する期間にかかる実績値に比較して,新た
に算出した予想値において,投資家の投資判断に及ぼす影響が重要なものとし
て内閣府令で定める基準に該当する差異が生じた事実を知ったものであるが,
あらかじめ同社の株券を売り付け,その公表後に同株券を買い戻して利益を得
ようと企て,法定の除外事由がないのに,同重要事実の公表前である平成18
年5月8日から同月17日までの間,前記D証券株式会社を介し,東京都中央
区ef−g所在のH証券取引所において,G名義で,I株式会社の株券合計2
万8000株を代金合計4837万4200円で売り付けた。
【証拠】(各証拠書類に付記した番号は,検察官請求の証拠番号である。)
全部の事実について
被告人の公判供述
Gの検察官調書(甲10)
「証券会社等の名称等について」(甲9),調査官報告書(甲11)
第1の事実について
被告人の検察官調書(乙5,6)
Jの検察官調書(甲2)
調査官報告書(甲1),履歴事項全部証明書(甲3)
第2の事実について
被告人の検察官調書(乙3,4)
K(甲5),L(甲6)の各検察官調書
調査官報告書(甲4),履歴事項全部証明書(甲7),閉鎖事項全部証明書
(甲8)
【法令の適用】
1罰条
(1)第1の行為について
平成17年法律第87号による改正前の証券取引法198条19号,平成1
8年法律第65号附則1条本文による改正前の証券取引法166条1項4号,
平成17年法律第87号による改正前の証券取引法166条2項3号
(2)第2の行為について
平成18年法律第65号附則1条1号による改正前の証券取引法198条1
8号,平成18年法律第65号附則1条本文による改正前の証券取引法166
条1項1号,2項3号
2刑種の選択−第1及び第2の各罪について
いずれも懲役刑及び罰金刑を選択
3併合罪の処理
刑法45条前段
懲役刑については刑法47条本文,10条(犯情の重い第1の罪の刑に法定の
加重)
罰金刑については刑法48条2項
4労役場留置
刑法18条
5懲役刑の執行猶予
刑法25条1項
6追徴
第1の犯罪行為により被告人が取得した株式会社Bの株券693株の売付価額
7255万1000円は平成17年法律第87号による改正前の証券取引法19
8条の2第1項1号に該当するが,没収することができないので同法198条の
2第2項によりその価額を被告人から追徴
第2の犯罪行為により被告人が取得したI株式会社の株券2万8000株の売
付価額4837万4200円は平成18年法律第65号による改正前の証券取引
法198条の2第1項1号に該当するが,没収することができないので同法19
8条の2第2項によりその価額を被告人から追徴
【追徴に関する補足説明】
1弁護人らは,(1)信用取引においては買付株券や売却代金をその売買時に取得で
きず,所定の期限に精算して初めて現金等を手にすることができるのであり,い
まだ証券会社の支配下にある段階では被告人が犯罪行為により財産を得たという
ことはできないし,(2)本件でG名義の口座でした取引に係る債権額の多くはGが
取得しており,被告人が取得した利得は少ないから,被告人からの追徴額は,第
1の犯行の被告人名義の口座に係る債権額1213万303円に限定されるべき
である旨主張する。
2そこで,検討するに,前記各改正前の証券取引法について,198条の2第1
項本文,第2項は,198条の2第1項各号が規定する犯罪行為により得た財産
は原則として没収し,没収すべき財産が没収できないときは,その価額を犯人か
ら追徴する旨規定しているところ,同条の趣旨は,所定の犯罪行為により得た積
極財産を犯人から残らず剥奪して不公正取引を厳しく規制し,健全な証券取引市
場の確立を図る点にあるものと解される。そうすると,本件のように信用売付を
行って株券の売付価額を取得した事案においては,その売付価額の全額が必要的
没収・追徴の対象となるものと解するのが相当である。
この点について,弁護人らは,前記1(1),(2)のとおり主張する。
確かに,信用取引においては買付株券や売付代金は証券会社が担保としている
ため,顧客は直ちに売付代金を現金で入手できるわけではないが,犯罪行為に該
当する売付自体は,証券会社が売付株券を立て替えて既に決済を終えているので
あり,顧客と証券会社との間で株券等の貸借関係の精算が残されているにすぎな
い。したがって,精算を経て現金を取得する以前であっても,売付の段階で,被
告人が信用取引による売付価額を取得したことは明らかである。よって,弁護人
らの前記1(1)の主張は失当である。
また,GがG名義の口座に係る債権額の多くを被告人に引き渡すことを拒んだ
事実があったとしても,それは犯罪行為後に被告人・G間の人間関係が悪化した
などの,事後的で,かつ本件各犯行と直接関係のない人的な事情によるものにす
ぎず,被告人・G間に民事上の問題が残される可能性があるのは別として,同条
1項ただし書所定の「当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないと
き」に該当するとは到底認めることができない。よって,弁護人らの前記1(2)の
主張も失当である。
3したがって,原則どおり,本件各犯行における売付価額の合計額が追徴の対象
になる。弁護人らの主張は採用しない。
【量刑の理由】
1本件について,量刑上,特に考慮した事情は次のとおりである。
(1)被告人に不利な事情
ア被告人は,自分が知った重要事実を利用して多額の利益を得る目的で本件
各犯行に及んでおり,そのような動機に同情すべき点はない。
イIRコンサルティング契約の相手方当事者である株式会社や,取締役とし
てIR業務等に従事していた株式会社について,内部情報である重要事実を
知るや,自己又は第三者名義で,信用取引により多数の株券を売り付けてい
る。各犯行は計画的,巧妙かつ連続的であって,悪質性が高い。
ウ本件各犯行による売付価額は,合計1億2000万円余りと多額である。
その後の買付けによって被告人が得た売買差益も合計3700万円余りと大
きい。各株式会社は,本件各犯行により,社会的信用が失墜したり,地方自
治体から指名停止処分を受けたりするなどの損害を実際に被っており,生じ
た結果は大きい。
エ各株式会社の関係者は,信頼し,その能力を高く評価していた被告人に裏
切られた結果となっており,当然のことながら,被告人を厳重に処罰してほ
しいと希望している。
(2)被告人に有利な事情
ア被告人は,各犯罪事実を素直に認め,これまでの金銭に執着していた人生
を振り返って反省し,これからは介護関係の仕事に就きたいと述べている。
イ前記各株式会社のうち1社に対して,訪問した上で謝罪している。もう1
社に対しても,拒絶はされたものの,訪問して謝罪したい旨の申入れをした。
ウ被告人が本件各犯行で利用した口座の名義人が,被告人に対し,被告人が
実質的に保有していた口座残高の一部を精算していないという事情がある。
エ自業自得ではあるものの,本件各犯行の発覚により,顧問契約を失うなど
の社会的制裁を受けた。
オ妻が被告人の更生に協力すると証言している。
2前記1(1)の被告人に不利な事情(本件各犯行が悪質である点と売付価額が多額
である点は,特に重要である。)からすれば,被告人の刑事責任は相当に重い。
しかしながら,前記1(2)の被告人に有利な事情も合わせて考慮すると,被告人に
対しては,主文の懲役刑及び罰金刑を科すが,今後は真面目に社会生活を送るよ
う厳しく諭した上で,懲役刑の執行を猶予することが相当である。よって,主文
のとおり判決する(求刑懲役2年6月及び罰金300万円,主文記載の追徴)。
平成21年5月25日
大阪地方裁判所第14刑事部
裁判官今井輝幸

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