弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成12年(行ケ)第142号 審決取消請求事件(平成13年1月15日口頭弁
論終結)
          判         決
       原      告   帝人製機株式会社
代表者代表取締役   【A】
       訴訟代理人弁理士   三   中   英   治
同三   中   菊   枝
       被      告   村田機械株式会社
代表者代表取締役   【B】
       訴訟代理人弁理士   平   井       保
同酒   井   雅   英
          主         文
 特許庁が平成11年審判第35458号事件について平成12年3月
15日にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
  (1) 被告は、名称を「糸条巻取機におけるボビンホルダの回転制御装置」とす
る特許第1631027号発明(昭和62年6月8日出願、平成3年12月26日
設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告は、平成11年8
月27日、本件特許の無効審判を請求し、特許庁は、同請求を平成11年審判第3
5458号事件として審理した。被告は、平成11年12月17日、本件特許出願
の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記
載の訂正(平成11年法律第41号附則2条13項により、無効審判における明細
書の訂正についてはなお従前の例によるとされる。以下「本件訂正」という。)を
請求した。
  (2) 特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成12年3月15日、「訂正
を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年
4月5日、原告に送達された。
 2 本件明細書の特許請求の範囲の記載
  (1) 本件訂正前のもの
    ボビンを挿着するボビンホルダに、コントローラによって回転数が可変制
御される誘導モータを連結し、該誘導モータの可変回転によってボビン上にパッケ
ージとして巻取られる糸条の巻取速度を一定として巻取る糸条巻取機において、上
記コントローラ内に、誘導モータへの現在の回転数指令値と過去の回転数指令値と
を比較する回路を設けたことを特徴とする糸条巻取機におけるボビンホルダの回転
制御装置。
  (2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には下線を付す。)
    ボビンを挿着するボビンホルダに、コントローラによって回転数が可変制
御される誘導モータを連結し、該誘導モータの可変回転によってボビン上にパッケ
ージとして巻取られる糸条の巻取速度を一定として巻取る糸条巻取機において、上
記コントローラ内に、誘導モータへの現在の回転数指令値と回転数指令値の細かな
変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値とを比較し、
両者の間に所定の幅を越える相違があるか否かを判定する回路を設けたことを特徴
とする糸条巻取機におけるボビンホルダの回転制御装置。
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本件訂正が特許請求の範囲の減
縮を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、また、本件訂正にかかる
本件発明(以下「訂正発明」という。)は、実公昭61-45083号公報(以下
「引用例」という。)記載の発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたと認めることはできないから、本件出願の際独
立して特許を受けることができないとする理由はなく、本件訂正は特許法134条
2項の規定並びに同条5項において準用する、なお従前の例とされる平成6年法律
第116号による改正前の特許法126条2項及び3項の規定に適合するとして本
件訂正を認め、訂正発明は引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが
できたと認めることはできないから、訂正発明の本件特許を無効とすることはでき
ないというものである。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は、訂正発明の要旨認定を誤り(取消事由1)、本件訂正が新規事項の
追加に当たることを看過し(取消事由2)、本件訂正が特許請求の範囲を実質的に
変更するものであることを看過し(取消事由3)、訂正発明と引用例発明の相違点
の認定を誤った(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきであ
る。
 1 取消事由1(訂正発明の要旨認定の誤り)
  (1) 審決は、「特許明細書に記載された上記記載事項からみて、比較する2つ
の回転数指令値のうち、『過去の回転数指令値』が『細かな変動の影響を排除する
ことのできる所望時間前の回転数指令値』を意味することは明らかであって、具体
的には、現在の回転数指令値と5秒乃至20秒前の回転数指令値とを比較するもの
である。」(審決謄本4頁15行目~19行目)と認定したが、誤りである。
  (2) 審決は、上記「過去の回転数指令値」を5秒ないし20秒前の回転数指令
値と認定するが、特許請求の範囲には5秒ないし20秒前との記載はなく、発明の
詳細な説明においても、このような記載はない。審決の上記認定は、誤りである。
 2 取消事由2(新規事項の追加)
   本件訂正前の本件明細書(以下「訂正前明細書」という。)には、回転数指
令値が細かな変動を経るとの記載、数秒以前の回転数指令値との差が所定幅を超え
る場合にアラーム回路を作動させると記載はあるが、回転数指令値の細かな変動と
その影響を排除することのできる時間との関係については、全く開示がない。ま
た、訂正前明細書には、巻取速度を下向き凸の曲線に沿って減少していることの影
響を排除することができる旨開示され、「所望時間」の語句も一箇所記載されてい
るが、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができる」との記載はな
く、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間」につい
ての開示もないから、これの要件を特許請求の範囲に付加することは、新規事項の
追加に該当する。
 3 取消事由3(特許請求の範囲の実質的な変更)
   訂正前明細書においては、「第2図示のように下向き凸の曲線に沿って減少
していることの影響を排除し得ており、上記細かな変動を誤って増大方向への急激
な転向と判定してしまう可能性を低減している。」(甲第2号証6欄25行目~2
8行目)との記載があり、回転数指令値の細かな変動の影響を排除することは、考
えられていない。回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができるとの要
件を付加する本件訂正は、本来存在した細かな変動の影響を無にすることであり、
特許請求の範囲を実質的に変更するものである。
 4 取消事由4(訂正発明と引用例発明の相違点の認定の誤り)
  (1) 審決は、訂正発明と引用例発明の対比において、「現在の回転数指令値と
比較する回転数指令値が明らかに相違するとともに、具体的な判定(判別)内容も
相違している。」(審決謄本6頁37行目~38行目)と認定したが、誤りであ
る。
  (2) 訂正発明には、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができ
る所望時間」との要件があるが、時間の長短は何ら規定されておらず、これが現在
から5ないし20秒前の回転数指令値であると解する根拠もない。このように、
「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができる所望時間」との限定は
訂正発明にとって実質的に何らの技術的な意味もなく、訂正発明の解釈に際して、
このような限定を考慮することはできない。したがって、訂正発明の要件である
「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回
転数指令値」は単に「過去の回転数指令値」と解さざるを得ない。一方、引用例発
明においても、現在値と過去の最低値とを比較しているが、ここにいう過去の最低
値は、訂正発明の過去の回転数指令値に相当するから、現在の回転数指令値と比較
する回転数指令値が訂正発明と引用例発明とにおいて相違するとの審決の認定は誤
りである。
  (3) 訂正発明においては、現在の回転数指令値と過去の回転数指令値とを比較
し、両者の値に、正負いずれの方向であっても所定の幅を超える相違がある場合に
は、アラーム回路へ作動信号を出力する。しかしながら、通常の糸条の巻取りは巻
始めから巻終りまで実質的に一定の糸速度で行われ、スピンドル型巻取機では、巻
取りにつれてパッケージ径が大きくなり、正常巻取時にはスピンドルの回転数は糸
条パッケージの巻太りにつれて必ず低下するものである。したがって、訂正発明を
実際にスピンドル型巻取機に適用した場合には、引用例発明と同様、現在の測定値
が過去の測定値より許容値以上大きい場合に、アラーム回路へ作動信号を出力する
態様となるものである。また、訂正発明においては、引用例発明と同様、巻取機の
運転自体を停止することが排除されておらず、また、巻取機の運転停止に代えて回
転数指令値を所定の幅内へ収束するようにPI制御回路に作用させることは、本件
発明の技術分野において日常行なわれていることである。そうすると、糸条パッケ
ージの巻太りにつれてスピンドルの回転数が必ず低下するスピンドル型糸条巻取機
における、ボビンホルダの回転制御について見れば、訂正発明は、引用例発明とそ
の作用効果において実質的な差異はなく、「具体的な判定(判別)内容も相違して
いる。」(審決謄本6頁末行~7頁11行目)との審決の認定は、誤りである。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(訂正発明の要旨認定の誤り)について
  (1) 訂正前明細書において、現在の値と比較する「数秒」前の値とは、回転数
指令値記憶装置が回転数指令値を保持する5秒、10秒、20秒前の値であること
は明らかであり、また、訂正前明細書記載の「所望時間」とは、回転数指令値記憶
回路が回転数指令値を保持する「数秒(5~20秒程度)」に相当する。
  (2) 審決の摘示する「5秒乃至20秒」前の回転数指令値は、前記「所望時
間」の実施例における具体的数値であり、「所望時間」がこれに限定されるもので
はない。審決は、「具体的には、現在の回転数指令値と5秒乃至20秒前の回転数
指令値とを比較するものである」(審決書4頁17行目~19行目)と述べるが、
「具体的には」とは、「具体的な実施例で見れば」という意味で、前記「所望時
間」の具体的数値を例示したにすぎないものである。したがって、審決が「所望時
間」を「5秒乃至20秒前」であると認定したとの原告の主張は当を得ないもので
ある。
 2 取消事由2(新規事項の追加)について
   原告は、訂正前明細書には、「回転数指令値の細かな変動」と「その影響を
排除することができる時間」との関係は開示されていない旨主張する。しかしなが
ら、回転数指令値は、漸減しているにもかかわらず、細かな変動により一時的に増
大することが示されており、現在の回転数指令値で細かな変動の影響を受け一時的
に増大したものを、直前の回転数指令値と比較すると、比較回路は、これを急激な
増大と判定しアラーム作動信号を出すという、細かな変動の影響を受けた制御がさ
れる。そこで、「所望時間」を現在の回転数指令値との差において回転数指令値の
細かな変動を排除できる時間とすることにより、細かな変動の影響を排除しなけれ
ばならない。このように、訂正前明細書には、「回転数指令値の細かな変動の影響
を排除することのできる所望時間前」について開示されており、その技術的意義も
開示されているから、本件訂正は、新規事項の追加に当たらない。
 3 取消事由3(特許請求の範囲の実質的な変更)について
   前項記載のとおり、訂正前明細書には、「回転数指令値の細かな変動の影響
を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値」が記載されている。原
告の指摘する訂正前明細書の記載は、現在の回転数指令値が細かな変動により一時
的に増大しても、その影響を排除することを示しているのであり、この記載がある
からといって、本件訂正が特許請求の範囲を実質的に変更するものということはで
きない。
 4 取消事由4(訂正発明と引用例発明の相違点の認定の誤り)について
  (1) 引用例発明には、訂正発明の「現在の回転数指令値と回転数指令値の細か
な変動の影響を排除することができる所望時間前の過去の回転数指令値とを比較
し、両者の間に所定の幅を越える相違があるか否かを判定する回路」という構成が
なく、これにより、回転数指令値の細かな変動の影響を排除し、回転数指令値の急
激な増大及び減少に対応できる制御を行うという訂正発明の効果を奏しないもので
ある点で、両者は、著しく相違する。
  (2) 原告は、前記相違点に係る訂正発明の構成は、技術的に意味がないとし
て、この構成を無視し、単に「過去の回転数指令値」として訂正発明を認定し、こ
れと引用例発明とを比較しているが、前記のとおり、この構成に技術的意義がある
ことは明らかである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由4(訂正発明と引用例発明の相違点の認定の誤り)について
  (1) 審決(甲第1号証)は、「本件訂正発明では、現在の回転数指令値と比較
する回転数指令値が、回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所
望時間前の過去の回転数指令値であって、両者の値に所定の幅を越える相違がある
場合にはアラーム回路へ作動信号を出力するものであるのに対して、甲第1号証
(注、引用例)に記載された発明では、現在値(現在の回転数指令値に相当)と比
較する過去の値が最低値記憶回路14に記憶された巻始めから測定の現在までのう
ちでの最低値であって、・・・判定する回路も符号判別回路であって、現在値が最
低値より許容値以上大の場合(正で所定の幅を越えたときに相当)と判別したとき
に停止信号を出力するものであるから、現在の回転数指令値と比較する回転数指令
値が明らかに相違するとともに、具体的な判定(判別)内容も相違している。」
(審決謄本6頁27行目~38行目)と認定し、現在の回転数指令値と比較する回
転数指令値の相違(以下「相違点1」という。)及び具体的な判定内容の相違(以
下「相違点2」という。)を相違点として認定した。
  (2) 相違点1について
    訂正明細書の特許請求の範囲に記載された「回転数指令値の細かな変動の
影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値」との要件は、「過
去の回転数指令値」を「現在の回転数指令値」と比較し、両者の間に所定の幅を超
える相違があるかどうかを判定した結果が、回転数指令値の細かな変動の影響を排
除できるような「所望時間前の過去の回転数指令値」と解すべきである。被告は、
所望時間は「数秒」に相当すると主張するが、被告の主張する実施例の記載により
訂正明細書の特許請求の範囲をこのように限定することはできない。
    引用例(甲第5号証)には、「可変周波数電源装置5の出力の周波数
は・・・所定周期でサンプリングし現在値Miとして保持する・・・次いで、保持
回路12に保持された現在値Miは、第一の源算(注、「減算」の誤記と認め
る。)回路13に入りレジスタ構成の最低値記憶回路14に保持された最低値Mm
が減算され、・・・その減算値(Mi-Mm)は正負判別回路15に入る。正負判
別回路15は・・・減算値(Mi-Mm)が負-すなわち、現在値Miが最低値M
mより小-の場合には・・・現在値Miが最低値Mmとして最低値記憶回路14に
記憶される。すなわち、最低値記憶回路14には巻始めから測定の現在までのうち
での最低値が記憶される。・・・第2の減算回路17からは第2の減算値(Mi-
Mm-S)が出力される。・・・符号判別回路18は第2の減算値(Mi-Mm-
S)が正-すなわち、現在値Miが最低値Mmより許容値S以上大-の場合のみ巻
取機を停止する停止信号Aを出力するようになしてあるので、符号判別回路18か
らは第2の減算値(Mi-Mm-S)が正の時のみ停止信号Aが出力される。」
(3欄30行目~4欄18行目)との記載がある。このように、引用例発明では、
現在値Miとそれまでの最低値Mmが比較され、MiがMmより小の場合に、最低
値Mmが更新されるものである。
    また、引用例(甲第5号証)には、「本考案は、正常巻取時のスピンドル
型巻取機においてはスピンドルの回転数は糸条パッケージの巻太りにつれて必ず低
下することに着目してなされたものである。」(3欄2行目~5行目)との記載が
ある。そうすると、仮に、引用例発明において現在値Mi(回転数指令値)の細か
な変動がないとすると、正常巻取時には現在値Miは必ず前回の保持値よりも小さ
くなり、現在値Miが前回の保持値以上となるかどうかの単純な判定により、異常
の検出が可能となる。しかしながら、引用例発明は、そのような単純な構成を採用
していないのであるから、現在値Miの細かな変動があることを前提として、その
影響を排除すべく、最低値記憶回路、第1及び第2の減算回路等の構成を採用した
ものであり、許容値Sは、そのような細かな変動の振幅を上回る値として選定され
ていると認められる。また、異常が発生した際に、直ちに現在値Miが前回保持値
を許容値S以上上回るのであれば、わざわざ最低値を記憶するまでもなく、現在値
Miと前回保持値の比較を行えば足りるものであるから、最低値記憶回路を設けた
ことの技術的意義は、異常があったとしても、現在値Miが許容値S以上上昇する
には、サンプリング周期(前回との時間差)では時間的に不足するからにほかなら
ない。そうすると、引用例発明において現在値Miの細かな変動があることや、そ
の影響を排除することについて、直接的記載がないことは事実であるとしても、現
在値Miと比較される最低値Mmは、現在値Miの細かな変動を排除できる程度の
時間だけ前のものであるといわざるを得ない。
    したがって、引用例発明の最低値Mmは、訂正後発明の「回転数指令値の
細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値」と異
ならないから、「現在の回転数指令値と比較する回転数指令値が明らかに相違す
る」との相違点1に係る審決の認定は誤りである。
  (3) 相違点2について
    訂正発明は、現在の回転数指令値及び所望時間前の過去の回転数指令値に
ついて、「両者の間に所定の幅を越える相違があるか否かを判定する回路を設け
た」ものである。また、訂正明細書(甲第3号証)には、「初期の区間(I)では
現在の回転指令値と5秒以前の値とが、それに続く中期の区間(Ⅱ)では現在の回
転指令値と10秒以前の値とが、さらに後期の区間(Ⅲ)では現在の回転指令値と
20秒以前の値とが比較回路(18)において比較される。そして、上記現在の値
と数秒前の過去の値との相違が所定幅(例えば「10」)以内であれば巻取りは最
後まで滞りなく実行され」(明細書5頁2行目~7行目)との記載があり、本件明
細書(甲第2号証)添付の第2図(4頁)には、回転数指令値が約30000であ
るA点から、細かな変動を伴いながら、回転数指令値が減少する様子が図示されて
おり、初期の区間(I)での5秒間、中期の区間(Ⅱ)での10秒間、及び後期の
区間(Ⅲ)での20秒間において、回転数指令値がいずれも1000程度減少する
図が記載されている。この図によれば、糸条巻取機が正常に動作している場合、現
在から5ないし20秒以前の回転数指令値は、現在の回転数指令値よりも1000
程度大きいから、現在の回転数指令値が過去の回転数指令値よりも所定の幅を超え
て小さいことになる。しかしながら、これを異常と判定するのであれば、第2図の
例において巻取りが実行され得ないこととなり不合理である。したがって、「所定
の幅を越える相違」とは、現在の回転数指令値が過去の回転数指令値よりも所定の
幅を超えて大きいことを意味すると解するほかはない。
    なお、訂正明細書(甲第3号証)には、「急激に増大または減少方向へと
向かいつつある回転指令値を上記所定の幅内へ収束するように作用させるものであ
ってもよい」(明細書4頁21行目~23行目)との記載があるが、訂正発明が回
転数の急激な減少を検出することができない以上、訂正明細書に「減少方向」の記
載があっても、訂正発明の内容に係る上記認定が左右されるものではない。現に、
訂正明細書においても、急激に減少方向へと向かいつつある回転数指令値に言及す
るのは上記の箇所のみであり、その余の部分においては、「誘導モータの回転が異
常に加速して」(同2頁5行目)、「発信するパルス数が実際に発信すべきパルス
数よりも少なくなった場合には、・・・ボビンホルダ(3)の回転を急に上昇させ
るように過大な回転指令値が出力される」(同5頁8行目~12行目)、「過大な
回転指令値(B)が出力され始めると当該値は比較回路(18)においてその異常
を判定され」(同5頁13行目~14行目)、及び「パッケージに異常な加速を与
えてパッケージがボビンホルダから外れる等の重大な事故を引起こすおそれがな
い。」(同6頁8行目~9行目)と記載されており、訂正明細書は、一貫して、急
激に増大方向へと向かいつつある回転数指令値を異常と認識していることは明らか
である。
    一方、引用例発明では、「現在値Miが最低値Mmより許容値S以上大-
の場合のみ巻取機を停止する停止信号Aを出力する」のであるから、訂正発明の
「両者の間に所定の幅を越える相違があるか否かを判定する回路を設けた」構成と
相違するものでない。
    したがって、「具体的な判定(判別)内容も相違している。」との相違点
2に係る審決の認定も誤りである。
  (4) そうすると、審決が訂正発明と引用例発明の相違点として認定した相違点
1及び相違点2は、いずれも両発明の相違点とは認められないから、審決は、これ
ら相違点の認定を誤り、ひいては、訂正発明の独立特許要件の判断を誤ったという
べきである。
 2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由4は理由があり、この誤
りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断す
るまでもなく、審決は取消しを免れない。
   よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

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