弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取消す。
     本件破産申立を棄却する。
     本件申立に関する費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件抗告の要旨は、原決定が本件破産申立人Aの抗告人に対する債権額を十万一
千百九円と判断したことならびに昭和二十九年一月二十一日抗告人がその所有にか
かる商品全部をその店舗にある営業器具一切と共に本件破産申立人等を含む全債権
者に提供して自己の債務の弁済に充てかつその余の債務の免除を受け結局本件破産
申立人等に対し何等の債務を負担していない事実を看過したことは誤判である、と
いうに帰する。
 よつて案ずるに抗告人の右主張事実を認めるに足る疏明資料は存しない。従つ
て、原決定がなされた当時には抗告人に破産原因があつたのである。しかし、当審
に現われた疏明書類たる昭和二十九年十一月十九日附本件破産申立人等外二名代理
人弁護士笹田英男作成の証明願、同年十二月一日附右同人作成の証明書、同年十一
月三十日附および同年十二月十六日附抗告人法定代理人親権者B作成の各証明願に
当裁判所が職権で調査した結果を綜合すると、本件破産事件については本件破産申
立人等ほか七名から債権の届出があり、債権調査期日における調査の結果是等の債
権が昭和二十九年十月十八日いずれも異議なく確定したことならびに本件破産申立
人ほか二名の大口債権は同年十一月十日第三者からの一部辮済とその余の債権の放
棄により消滅しその他の債権者も一部辨済を受け残余については期限の猶予をなし
かつこれ等全債権者の債権につき同年十二月十五日その債権届出の取下書が原審に
提出され、他に債権の届出のないこと、がそれぞれ疏明されるので、抗告人は信用
を回復して支払不能の状態を脱し、破産原因は消滅したものと断ぜざるを得ない。
 もつとも破産者に対する債権の届出は破産手続終結に至るまでこれを取下げ得る
か否は争のあるところであ<要旨>るが、その取下は本件の様に破産債権確定後にお
いてもこれをなし得るものと解するを相当とする。蓋し破産債権届出の取下
は訴の取下と異なり破産財団から将来辮済を受くべき権利の放棄を意味するにすぎ
ないから、その取下は破産者にとつても他の破産債権者にとつても少しも不利益と
ならないのみならず、破産手続は確定債権を基にして更に配当手続に発展するもの
であることを考えると、破産法第二百四十二条第二百八十七条に確定債権について
は債権表の記載は確定判決と同一の効力を有する旨規定してあるのは、破産債権者
や破産者において、もはやこれを争い得ない効力および破産者に対し執行力を生ず
る趣旨であつて、いはば破産的確定力ともいうべく、判決確定後には訴の取下がで
きないことと同様に断じ得ないからである。
 かような次第で原決定は宣告当時は相当であつたとしても、本件が当審に係属中
に生じた前記事由により破産原因は消滅したのであるから原決定は取消を免れず、
本件破産申立も棄却せざるを得ない。
 よつて破産法第百八条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十六条に則り原判決
を取消し、本件破産申立を棄却し、申立手続費用の負担に関しては如十の事情にか
んがみ民事訴訟法第九十六条、第九十条を適用し第一、二審共抗告人の負担とする
こととして主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 三宅芳郎 判事 高橋雄一 判事 林歓一)

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