弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人の上告理由について
一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 本件建物の所有者であった上告人の父Dは、昭和五九年五月ころ、上告人に
家賃を小遣い代わりに取得させること及び相続税対策の目的で右建物を上告人に贈
与した上、右建物が朽廃、滅失するまでこれを所有する目的のため本件土地を上告
人に無償で貸し渡した。
 2 上告人は、被上告人に本件建物を賃料月額二万五〇〇〇円で賃貸していたが、
被上告人の二女の失火を原因とする火災により昭和六三年一二月九日に右建物が全
焼したため、本件土地の使用借権を喪失した。
 3 上告人は、一三五〇万円の火災保険金を受領した。本件建物の価格に相当す
る額の上告人の損害は、右火災保険金によって補てんされた。
 4 本件建物は、昭和二七年建築の木造二階建居宅(登記簿上の床面積は一階九
八・〇六平方メートル、二階二四・八四平方メートル)で老朽化しており、通常の
利用方法で相応の維持修繕を施せば、少なくとも本件火災後一〇年程度は存続した
ものと推定される。
 5 本件火災がなかったとした場合に、本件建物から得られる火災後一〇年間の
収益の額は、一三五〇万円を超えない。
二 原審は、右事実関係の下において、建物が朽廃、滅失するまでこれを所有する
という目的でされた使用貸借に基づく権利は独自の財産的価値があるものとして損
害賠償の対象となるものではないこと、本件建物の焼失による損害額の上限は、焼
失時の建物価格と、前記の右建物の存続期間を前提にすれば、本件火災後一〇年間
に右建物によって得ることができる利益の額とのうち、いずれか高額の方となるが、
上告人が右建物の価格に相当する賠償として受領した火災保険金一三五〇万円を超
える額の利益を右建物から得ることができたという事実の証明がないことを理由と
して、本件火災による本件土地の使用借権喪失による損害五〇〇万円及び弁護士費
用五〇万円の支払を求める上告人の請求をすべて棄却すべきものとし、右債務の不
存在確認を求める被上告人の請求を認容すべきものと判断した。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のと
おりである。
 地上の建物が朽廃、滅失するまでこれを所有するという目的でされた土地の使用
貸借の借主が契約の途中で右土地を使用することができなくなった場合には、特別
の事情のない限り、右土地使用に係る経済的利益の喪失による損害が発生するもの
というべきであり、また、右経済的利益が通常は建物の本体のみの価格(建物の再
構築価格から経年による減価分を控除した価格)に含まれるということはできない。
そうすると、上告人は、少なくとも、焼失時の本件建物の本体の価格と本件土地使
用に係る経済的利益に相当する額との合計額を本件建物の焼失による損害として被
上告人に請求することができるものというべきである。原審は、前者のみが損害で
あるとし、後者の経済的利益の有無及びその額について審理判断をしなかったので
あり、原判決には法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ず、この違法
が判決に影響を及ぼすことは明らかである。この趣旨をいう論旨は理由があり、原
判決は破棄を免れない。そこで、本件土地の使用借権喪失による損害発生の有無及
びその額について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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