弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成26年9月19日宣告
横領,窃盗未遂被告事件
判決
主文
1被告人を懲役8月に処する。
2未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
3平成26年3月28日付け起訴状記載の公訴
事実(窃盗未遂)については,被告人は無罪。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,平成25年10月23日午後5時18分頃,神戸市a区b町c丁目d
番e号f3階カード販売買取店「AB店」において,当日知り合ったCからトレー
ディングカードの購入依頼を受けた際,同人から,Dが所有し前記Cが使用する携
帯電話機の画面に購入して来てほしいカードの名称を表示してもらった上,それが
表示された状態のままの前記携帯電話機1台(時価約5万円相当)を預かり保管中,
その頃,前記f3階カード販売買取店「EB店」付近において,ほしいままに,こ
れを自己のものとするため持ち去って横領したものである。
【証拠の標目】
省略
【横領についての事実認定の補足説明】
1被告人は,犯行当時,現場付近で被害者(証人C)と会って話をしたことや,
関係証拠中の防犯カメラ映像に記録された犯人とされる人物が自分であることを
認めながらも,被害者から携帯電話機(いわゆるスマートフォン。以下「スマー
トフォン」という。)を受け取ったことはない旨供述し,これに沿って弁護人も
被告人は無罪である旨主張する。
2前提事実
被害者の証人尋問及び被告人質問の結果,前記防犯カメラ映像等の関係証拠に
よると,次の事実ないし事情が認められる。
被告人は,いわゆるトレーディングカード(以下単に「カード」という。)
の収集等を趣味としていた。
被害者は当時高校生であり,やはりカードの収集等を趣味としていた。
判示のfは複数のカード販売買取店等がテナント営業するいわゆる専門店街
である。
本件当日,被害者は同館のカード店「EB店」を訪れたところ,たまたま同
店に来ていた被告人に声をかけ,初対面ではあったが同じ趣味を持つ者として
話が合い,判示の「AB店」でカードで対戦ゲームないし雑談をしようという
ことになった。
そこで,両名は,同店のデュエルスペース(カード対戦用にテーブルや椅子
が並べられ,同店の客が無料で利用できる区画)に移動し,しばらく話をする
などしたが(その会話内容については両者の言い分は大きく食い違う。),そ
のうち,被告人のみが席を立って店外に出て行ったが,結局,被告人は同店に
は戻ってこなかった。
3被害者の供述について
供述内容
被害者は,前記デュエルスペースで被告人と話している途中,買い忘れたカ
ードがあることを思い出したが,別の友人とAで待ち合わせているので,行き
違いになるから買いに行けないなどと言ったところ,被告人が,それなら自分
が買ってきてやると言ったので頼むことにした,当初,Aでペンを借りて買っ
てもらうカードを紙に書こうと思ったが,ペンが有料だったので,自己のスマ
ートフォンのメモ帳機能を利用してカードの種類を記録することを思いつき,
そのようにしたスマートフォンを被告人に渡した。すると,被告人がスマート
フォンを手に持って店外に出て行ったのでカードを買いに行ってくれたんだと
思ったが,しばらくしても戻ってこず,付近のカード店等を探したが見つから
なかった。その後,合流した友人の携帯電話から何度も自分(被害者)のスマ
ートフォンに電話をかけてもらったが,すぐに切られて相手が電話に出ること
はなかった。
供述の信用性
そこで検討すると,被害者があえて嘘の供述をして当日初対面の被告人を陥
れる事情はうかがわれない。
また,被告人がAを出る際の防犯カメラ映像には,被告人が何かを手に持っ
ていることが写っている。この画像は粗く,被告人が何を持っているかを画像
だけで特定できるものではないが,被害者のスマートフォンと見ても矛盾する
ものではない。そうすると,被告人がスマートフォンを手に持って店外に出て
行ったとする被害者供述に対し,現に被告人がスマートフォンとも見得る何か
を手に持って店外に出て行く画像が存在するという限度では,被害者供述が裏
付けられているといえる。加えて,友人の電話から何度も自分のスマートフォ
ンに電話をかけてもらったとする点も発信履歴により裏付けられている。
更に,被害者が当時未だ高校生であり,知らない人に声をかけて仲良くなっ
て一緒にゲームをすることもよくあるというのであるから,そのような被害者
が初対面の被告人に自己のスマートフォンを預けたとしても特に不自然ではな
い。
4結論
以上によれば,被害者の公判供述は十分信用できるものであり,被害者の公判
供述及びその他の関係証拠も総合すれば,判示日時場所において,被告人が被害
者のスマートフォン(所有者は被害者の母親)を持ち去った事実が認定できる。
そして本件関係記録を精査しても被告人が被害者のスマートフォンを毀棄・隠匿
目的等で持ち出したことをうかがわせる事情は一切認められない。
以上によれば,被告人が被害者のスマートフォンを領得意思をもって横領した
ことが認定でき,これに反する被告人,弁護人の主張は採用できない。
【窃盗未遂について無罪の理由】
1窃盗未遂の公訴事実の要旨
平成26年3月28日付け起訴状記載の公訴事実(窃盗未遂)の要旨は,被告
人は,平成26年2月2日,前記f2階カード販売買取店「F」において,レジ
カウンター上に陳列されていた同店店長G管理のトレーディングカード10パッ
ク(販売価格合計2500円)を手に取り,これを店外に持ち出して窃取しよう
としたが,同店店長に呼び止められたため,その目的を遂げなかった,というも
のである。
2争点等
前記Fの店長(証人G)及び従業員(証人H)の各証人尋問結果及び被告人質
問の結果等の関係証拠によると,前記日時頃,被告人がFを訪れ,商品のカード
10パック(商品名は「I」。以下,「パック」という。)を手に持ったまま,代
金を支払わずに同店の出入口を出たところで,これを目撃していた店長により呼
び止められたという経緯が認められ,この限度では当事者間にも争いはない。
本件の争点は,被告人が,そのパックを手に取ったことが,窃盗の犯意及び不
法領得の意思に基づく窃盗の実行行為と認められるか否かである。
3店長及び従業員の各公判供述(目撃状況等について)
店長の供述内容
前記店長の公判供述によると,被告人が来店し万引きをしようとしたとする
状況について,本件以前に被告人が同店で万引きをしようとしていたのを見た
ことがあり,また従業員から実際に万引きをしたことがある旨を聞いていたの
で,本件当日も来店した被告人が万引きするのではないかと注視していたとこ
ろ,レジ近くに陳列してあったパックを,1.5メートルほど離れたところか
ら体や片手を伸ばして店員に気づかれないようにこそっと取り,上着の右ポケ
ットに入れるような仕草をしたので,パックをポケットに入れたと思った(実
際には手に持ったままだった。),その後店外に出ていこうとしたので追いか
けて捕まえた,被告人は店内では終始,自分(店長)の方を見ていた,などと
いうのである。
従業員の供述内容
また,前記従業員の公判供述によると,本件の3日前(1月30日)に被告
人が来店して同じパックを万引きされたことがあったので,店長にもそう報告
していた,本件当日も被告人が来店した,そのとき自分(従業員)はレジ前に
いたが,店長に声をかけて一旦レジ前から移動すると,被告人はレジ近くに陳
列してあったパックを右手ですっと取った,その後,またレジの方に戻ったが,
被告人はパックを持った右手を自分(従業員)から隠す感じで被告人の身体の
陰になるよう体勢を変え,ショーケースの陰から自分(従業員)の様子をうか
がうなどし,店外へ出ようとしたところで店長がぱっと捕まえた,などという。
各供述の信用性
その供述内容からしても,前記店長,従業員の両名とも,被告人が万引きを
するかもしれないと思い,相当注意して被告人の動静を注視していたことは明
らかであり,また,両名の供述は概ね一致しているのであるから,その供述は
基本的に信用できるというべきである。ただ,両名とも,被告人が以前にも万
引きした犯人だという前提で見ており,先入観から被告人の動作を殊更に万引
きと結びつけようとする可能性は否定できない。例えば,店長は,被告人がパ
ックをポケットに入れたと誤認しているが,これもそのような先入観が影響し
ている可能性があるといえる。そうすると,両名の各供述のうち,観察者の主
観的な評価が入り込む事項については,その信用性は慎重に検討することが相
当である。
4検討
以上を前提に,検察官の主張をも踏まえて,パックを手に取った被告人の行為
が窃盗の犯意や領得意思に基づく実行行為といえるかを検討する。
パックの店外持出しについて
前記認定のとおり,被告人は代金未払いのパックを店外に持ち出しているが,
その理由として,被告人は,店外の通路からショーケースの中のカードを見た
かったためでパックを取るつもりではなかった旨供述しているので検討する。
Fの店舗について,同店は通路の両側に多数の店舗がテナント営業する専門
店街の一角に位置し,その店舗の通路に面した間口には壁やガラスがなく,そ
の半分(店舗から通路側を向いたときの右側)は商品のカードの入ったショー
ケースで壁のように仕切られ,残る半分(同左側)が出入口とされている。出
入口付近には腰高のショーケースが通路にはみ出して設置され,上記右側のシ
ョーケースの中のカードは通路(店外)からしか見ることができない。
このような状況からすれば,被告人の前記主張は否定し難い面があり,店側
としても通路の一部(出入口から右側のショーケースの前の辺り)をあたかも
店舗の一部のように利用しているのであるから,この付近の通路は店内の延長
ともいえるのであって,商品を手に持ってこの付近に出ただけで直ちに不法領
得の意思が発現したと見ることは相当でない。
なお,前記店長は,被告人を捕まえた時,右側のショーケースの方を見よう
とする様子はなかったとも供述するが,店長が被告人を捕まえていなければ被
告人がすぐに右側を向いていた可能性が否定できないから,この供述により被
告人にショーケースを見る気がなかったとは断定できない。
被告人の不審な動作について
前記店長及び従業員の各供述によると,①被告人は1.5メートル程離れた
ところから体や手を伸ばしてパックを取ったり(店長),②パックを取る前後
に店長や店員の方をずっと見ていたり(店長,従業員),③手に取ったパック
を隠すような動作が見られた(従業員)などという。
しかし,これらの点は,観察者の主観的な評価が入り込む余地の大きい事項
といえ,既に検討したとおり,各供述の信用性は慎重に検討すべきである。
そこで,まず,①につき,1.5メートル程離れたところから上半身や手を
伸ばすだけで物を手に取るのはかなり困難であると思料され,多少なりとも誇
張等の入っている可能性は否定できず,上半身や手を伸ばして商品を手に取っ
たという限度での事実は認められるが,これだけでは窃盗の意図(犯意や不法
領得の意思)を認定するには足りない。
②について,店長と従業員とは店内の少し離れた場所から目撃していたので
あるから,被告人が両者を同時に見ることは困難であるし,店長は,被告人に
気づかれないよう,パソコンの方をできるだけ見るようにしていたといい,従
業員も,被告人がこちらを見ていると思ったのであえて目線を外していたとい
うのであるから,両名とも必ずしも被告人の様子をしげしげと観察していたと
いうわけでもない。被告人が店内で店長や従業員の方を見ていたことがあった
という限度での事実は認められるが,これだけでは窃盗の意図は認定できない。
③についても,被告人が手に取ったパックを自己の身体の陰に意図的に隠そ
うとしていたかどうかというのは多分に観察者の主観的評価の入り込む部分で
あるといえ,被告人が,パックを持った手を従業員から見て身体の陰に持って
行くことがあったという限度での事実は認められるが,これだけでは窃盗の意
図は認定できない。この点に関し,店外に未精算の商品を持ち出す場合は,あ
えて商品を手に持っていることを明示するのが通常であるとの検察官の指摘も
あるが,既に検討したとおり本件では通路の一部が店内の延長ともいえるので
あり,本件のパックが手のひらに収まる大きさのものであることも考慮すれば,
そのような明示行為をしなかったからといって,直ちに窃盗の意図が推認でき
るものでもない。
その他の点について
店長の供述によると,新品のパックには,パックの表面のフィルムのずれな
どにより,「当たり」(いわゆるレアカード)の入っているものが分かる場合
があり,購入者は皆,事前にパックをすごく吟味して選ぶのが通常であるとい
い,検察官は被告人がパックの吟味をせずに手に取っているのは不自然と指摘
するが,仮にパックの外装から当たりが分かるのであれば,当たりの入ってい
るパックのみが売れ,その他はすべて売れ残ることになるのではないかとも思
われ,その供述には多少疑問もあるが,この点を置くとしても,後の楽しみの
ためにあえてパックを吟味しないという被告人の言い分が全く不合理であると
はいえず,検察官の前記主張は採用できない。
また,検察官は,被告人の当時の収入等からして2500円分ものパックを
購入するのは不合理であるともいうが,被告人には当時6000円程度の所持
金があったというのだから,本件審理の結果うかがわれる被告人の性格傾向等
も併せれば,カードの収集等を趣味とする本件被告人が,後先を考えずに25
00円分のカードを買おうと考えたとしても,特に違和感を感じるものではな
い。
また,検察官は,被告人がパックを入手する動機は転売目的であり,売値が
買値より安くなる転売をする者はいないから,被告人に代金を払ってパックを
買うつもりはなかったなどとも主張するが,検察官が盗んで売ったと主張する
カードの中にすら1枚4500円で売れているものもあるのだから,この種の
カードについては常に売値が買値より安くなるとはいえず,転売目的だから窃
盗の意図があると直ちにいえるものでもない。
余罪による立証について
検察官は,前記従業員が目撃したという本件3日前(1月30日)の別件万
引きをもって窃盗の犯意等を立証するというが,これまで検討したとおり,本
件は窃盗未遂の客観面が十分に立証されているとはいい難い上,別件万引きに
ついては起訴もされておらず,裁判所による有罪認定を経た事実ではない上,
従業員の供述により別件万引きが合理的な疑いを容れない程度に立証されてい
るとは到底認め難いのであるから,このような存否自体が不確かな事実を有罪
認定の基礎とすることは,主観面に限っても許容されるものではない。
5結論
以上の次第であり,本件関係証拠を総合し,検察官の指摘するその余の事情等
を考慮しても,被告人が本件窃盗未遂を犯した嫌疑は相当高いとはいえても,合
理的な疑いを容れないほどの立証がなされたとまでは認められない。
よって,刑訴法336条後段により,無罪を宣告することが相当である。
【法令の適用】
省略
【量刑の理由】
本件で有罪認定をしたのは横領事実のみであるから,これを前提に被告人に科す
べき刑について検討する。
その犯行動機等に酌量すべき事情はあるとはうかがわれず,平成25年9月に置
き引き窃盗の事案で懲役1年6月,4年間執行猶予の有罪判決を受けたばかりであ
るのにまたもや本件犯行に及んでおり,法律を守ろうという意識の低さや執行猶予
を軽視する態度が顕著である。
しかも,事実関係を否認し,反省の態度はうかがわれない。
そうすると,本件は被害者が被告人に携帯電話を預けたことをきっかけとするも
ので,被告人から携帯電話を預けるよう働きかけたともうかがわれず,機会犯的側
面の強いものであること等の事情を考慮しても,今回は実刑はやむを得ないが,前
記執行猶予が取り消され本件と併せての服役が見込まれることをも斟酌すれば,そ
の刑期は主文の限度が相当である。
(求刑-懲役2年)
平成26年9月19日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判官畑口泰成

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