弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     原審における未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する。
     但し、原判決確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件非常上告の趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。
 関係記録を調査すると、昭和二九年七月二七日原審神戸地方裁判所洲本支部は、
被告人が昭和二六年七月上旬以後同二九年五月二四日までに犯した窃盗、有価証券
偽造行使詐欺の各犯罪事実を認定し、相当法条を適用して「被告人を懲役一年に処
する、未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入する、但し本裁判確定の日から三年間
右刑の執行を猶予する」旨、及び刑法二五条ノ二(昭和二九年七月一日施行の同年
法律五七号刑法の一部を改正する法律による改正規定)を適用して「右執行猶予の
期間中被告人を保護観察に付する」旨の判決を言渡し、該判決は同年八月一一日上
訴期間の経過によつて確定するにいたつたこと、並びに被告人は、前に禁錮以上の
刑に処せられたことのないものであることが認められる。しかして原判決において
は、右刑法二五条ノ二の改正規定の適用を示すに止まるけれども、初めての執行猶
予と認められるから、同条一項前段の規定を適用した趣旨であることは明らかであ
る。しかるに、前掲昭和二九年法律五七号の附則二項は同法施行前の犯罪について
は、同法施行後の犯罪と併合罪に当らない限り、右刑法二五条ノ二、一項前段の改
正規定の適用がない旨を明規しているから、右改正法律施行前のみの犯罪にかかる
本件被告事件につき刑の執行猶予を言渡す場合において、被告人を保護観察に付す
ることを得ないものであることもまた明らかである。従つて、原判決が本件におい
て右刑法二五条ノ二、一項前段の規定を適用したことは右附則の規定に違反したも
のであつて、本件非常上告は理由がある。しかして保護観察に付された者は、法定
の事項を遵守しなければならないものであり、遵守義務に違反しその情状が重いと
きは、刑の執行猶予の言渡を取消されるものであるから、原判決は被告人のため不
利益であるというべきであり、従つて刑訴四五八条一号但書により原判決を破棄し
て被告事件につき更に判決すべきものである。
 原判決の確定した犯罪事実に法令を適用すると、原判示第一ないし第六の各窃盗
の所為は各刑法二三五条に該当し、同第七の(イ)、(ロ)の所為中有価証券偽造
の点は各同法一六二条一項に、偽造有価証券行使の点は各同法一六三条一項、一六
二条一項に、詐欺の点は各同法二四六条一項に該当するところ、右有価証券偽造、
同行使、詐欺の各所為は順次手段結果の関係があるから同法五四条一項後段、一〇
条を適用し犯情の重い(イ)、(ロ)の各偽造有価証券行使の一罪として処断し、
以上窃盗並びに偽造有価証券行使の各所為は同法四五条前段の併合罪であるから同
法四七条本文一〇条に則り犯情の重いと認める判示第七の(ロ)の偽造有価証券行
使罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において被告人を懲役一年に処し、同法二
一条を適用して原審における未決勾留日数中三〇日を右本刑に算入すべく、情状右
刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法二五条に則り原判決確定の日から三年間
右刑の執行を猶予することとし、原審における訴訟費用は刑訴一八一条一項により
全部被告人に負担させることとする。
 よつて裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 佐藤欽一出席
  昭和二九年一二月三日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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