弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は東京地方検察庁検事正代理検事田中万一名義の、被告人A外三
名に対する、控訴趣意書と題する書面及び被告人Bに対する、控訴趣意書と題する
書面に記載されたとおりであり、これに対する答弁は被告人Aの弁護人大高三千
助、被告人Bの弁護人渡辺靖一提出の各答弁書に記載されたとおりであるからいず
れもここにこれを引用する。
 検察官の本件控訴趣意の要旨は、原判決には事実誤認及び法令の解釈適用の誤が
あるというのである。よつて本件記録を調査し並びに当審における事実の取調の結
果を総合考察するに、本件においては未だ被告人等が印紙犯罪処罰法第二条所定の
交付行為の実行に着手したものとは認められないので、原審の事実の認定並びに法
令の適用は相当であり論旨はすべて採用するを得ない。(本件被告人等の所為が同
条にいわゆる消印を除去した印紙を「交付」しようとしたものであるか又はこれを
「使用」しようとしたものであるかの点は問題の余地があるが、本件の結論には影
響を及ぼさないものと認めるので、この点に対する判断はこれを省略し、以下本件
訴因に即し「交付」しようとした場合にあたるものとして論議を進めることとす
る。)
 先ず印紙犯罪処罰法第二条にいわゆる交付行為の実行の着手の観念について考察
すると、一般に実行の着手とは犯罪構成要件を実現する意思を以て、その実行即ち
犯罪構成要件に該当する行為を開始することを指称するものと解すべく、即ち犯罪
行為の実行の着手があつたかどうかは主観的には犯罪構成要件を実現する意思乃至
は認識を以てその行為をしたかどうか、客観的には、一般的に犯罪構成事実を実現
する抽象的危険ある行為がなされたかどうかを探究して個々の場合につき具体的に
認定さるべき事実問題であるということができる。
 犯罪構成事実に属する行為及びこれに直接密接する行為がなされたときに犯罪実
行の着手があるとするのも、実行の着手の客観的方面に即してこれを定義したもの
に外ならない。而して印紙犯罪処罰法第二条にいわゆる「交付」とは同条所定の印
紙をその情を知りながら行使の目的で自己以外のものにその占有を移転する行為と
解せられるのであるから(情を知らない第三者に右印紙が正当なものとして占有を
移転する場合は「交付」で<要旨>はなく「使用」にあたると云う問題は本件におい
ては一応論外とする。)同条にいわゆる交付行為の実行の着手があるとする
には、右印紙の占有を移転する意思乃至は認識を以て、現実にその占有を移転する
行為の一部又はこれに面接密接な行為を開始したものと認められる場合でなければ
ならない。
 今本件事案について考察すると、検察官論旨第一点引用の各証拠並びに当審にお
ける証人C及びDの各供述を総合するときは被告人等はE及びF等と共謀の上、本
件消印除去印紙をいずれもその情を知りながら他に売却しようとしたものである
が、そのうちEにおいてDにこれを売り込もうとしてその交渉に当り、FよりA、
G、Eに順次手交された右消印除去印紙の見本を同人に示した上交渉の結果、Dよ
り、右印紙が確実なものであれば買うと云う話があり、取引は一月二十一日東京都
中野区aH方で行うと云う話合になり、当日Bは本件消印除去印紙を携えてA、
I、G、Eと共に、中野区b附近の飲食店でDと会つたが、その時は本件印紙の取
引価格について協議がまとまらず、又Dが取引に必要な額の現金の準備がなかつた
等のため、Bが持参した印紙をその場に出すこともしないで取引はその翌日これを
行うこととして別れたのであるが、翌二十二日A、I、GはEからの伝言により正
午過頃前示H方に赴き、その附近で待つていたところDとEが出て来て取引をする
からBを呼んでくれと云つたので、IがBに印紙を持つて来るよう電話を掛け、B
は当日は愈愈現実に取引をするつもりで本件印紙を携えてH方に向け自宅を出立し
たが、その間において一方Dは現品を取引するについては郵便局において右印紙の
鑑定をしてもらうことを条件として持ち出した為、被告人A、G、I等はDが今に
至つてそのようなことを云い出しては本件取引は成立の見込がないと考え、Bが本
件印紙を携えて右H方附近に到着したとき同人にその事情を告げE、I、G等は間
もなく現場を立ち去つたのであるが、A及びBは何とか取引を成立させようとし
て、Aから本件印紙は消印を除去した印紙であるが司法書士にいくらか金を使えば
登記所等では使えるものである等と説明して買受方を求めたがDの応ずるところと
ならず本件取引は不成立となり、被告人A及びBはDが警察署に通報した為現場附
近で逮捕されるに至つたことが認められるのである。即ち右一月二十二日午後被告
人Bが本件印紙を携えて自宅を出立した時においてけ同人に本件売買契約が成立し
本件印紙を引き渡すつもりでその準備をととのえて同人方を出たものではあるが、
同人が前示H方附近に至るまでに事情は全く一変し本件取引は殆んど成立の見込が
なくなり、同人が現場に到着した頃はG、I、E等は本件印紙の信買が成立しその
引渡をすることは見込がないと考えており、また被告人A及びBはなおもDに本件
印紙が消印を除去したものである事情を打ち明けて買受け方を求めたものの、同人
等としてもその取引が成立するかどうかは全く不明であり、従つていわゆる現実売
買を常とする被告人等としては当時の状況の下において本件印紙を相手方に引き渡
す意思もなく、又現実にこれを引き渡す行為或はこれに直接密接な行為例えば右印
紙を相手方の前に提出展示し、又は印紙を持参したから直ちに引き渡しうる旨を告
げて口頭により提供する等の行為も何等なされなかつたことが認められるのであ
る。
 叙上認定の経緯に徴するときは本件において被告人等は共謀の上本件消印除去印
紙を売却しようとしてDと交渉を行い上記のように一月二十二日現実に取引をする
という段階にまで到達したが、愈々取引をすると云う直前においてDから前示のよ
うに印紙の鑑定などという条件を持ち出された為右取引現場においては右取引を成
立させて印紙を引き渡すと云う意思はなくなつたと共に、現実に右印紙の占有を移
転する行為又はこれと密接な行為をするに至らなかつたものと認めるの外はないの
である。
 検察官はBが自宅を出たときに本件交付罪の着手があつたものと主張するが、右
行為は一般的に観察して未だ「交付」に直接密接な行為とは認め難く、いわゆる予
備の段階たるに止まるものと認めるのが相当である。又検察官は印紙犯罪処罰法が
交付の未遂罪を処罰すべきものとしている法意に照らし本件のような段階の行為を
も未遂として処罰すべきであると主張するけれども右のように解するときは実行の
着手と予備との段階を不明確にする結果となり、印紙犯罪処罰法が偽造変造又は消
印除去印紙等につき不法所持を罰する旨の規定を設けていない以上、本件のような
行為は未だ犯罪を構成するに至らないものと做す外はなく、本件事案を未遂を以て
処罰することは不当に構成要件の解釈を緩くするものであるとの非難を免れない。
 原判決がその理理中に説示するところは叙上の説示といささか趣を異にするとこ
ろはあるが、本件事案について交付罪の実行の着手があつたものと認めず無罪を言
い渡した点において正鵠を失わないものであり、所論のように事実の認定、法令の
解釈適用を誤つたと云う違法はないから、検察官の各控訴は理由がないものとして
これを棄却すべきものと認める。よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い主文のと
おり判決する。
 (裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 荒川省三)

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