弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件申立を棄却する。
     申立費用は申立人の負担とする。
         理    由
 申立人代理人は、申立人と相手方間の大阪高等裁判所昭和三一年(ネ)第一九四
号損害賠償請求控訴事件の判決につき、同裁判所書記官Aが付与した執行文に基く
執行はこれを許さないとの決定を求め、その理由は、「相手方は、昭和三三年三月
一〇日右判決につき執行文付与申請をし、同日同裁判所書記官Aは執行文を付与し
た。しかし、申立人に対する右給付判決に対しては、仮執行の宣言は付されておら
ず、又申立人は、同月一一日右判決に対し適法に上告を提起したから、右判決はま
だ確定していない。およそ判決の執行力は、原則としてその判決が形式的に確定し
たとき、または仮執行の宣言が付されたときに発生するもので、例外として、仮差
押及び仮処分を命ずる判決は成立と同時に即時執行力を生ずるとするのが、民事訴
訟法の原則である。この例外の場合に即時執行力があるとするのは、同法第七四九
条第二、三項及び第七五六条の特別規定があるからである。同法第一九八条第二項
により仮執行に基き既にした給付の返還を命ずる判決につき、即時執行力が発生す
る旨の特別規定はないから、右判決は、右原則に従うものと解さなければならな
い。しかるに、右判決は前記のようにまだ確定しておらず、又仮執行の宣言も付さ
れていないから、右原則によりまだ執行力を生じていない。従つて、まだ執行力の
発生していない前記判決に執行文を付与したことは違法である。」というのであ
る。
 申立人と相手方間の当裁判所昭和三一年(ネ)第一九四号損害賠償請求控訴事件
記録によると、相手方が、昭和三三年三月一〇日申立人に対する同事件の給付判決
に対し執行文付与申請をなし、当裁判所書記官Aが、同日相手方に執行文を付与し
たこと、右給付判決には仮執行の宣言が付されておらないこと、申立人が、同月一
一日右判決に対し上告の申立をしたことがいずれも明らかである。およそ給付判決
の執行力は、原則としてその判決が形式的に確定したとき、または仮執行の宣言が
付されたときに発生し、この場合に限り執行文を付与すべきものである(民訴法第
五一八条第一項)。しかし、仮差押及び仮処分命令は、その性質上迅速に執行され
ることを要し、かつ迅速に執行されなければその目的を達することができないもの
であるから、たとえ判決の形式でなされた場合でも仮執行の宣言を付することを要
しないで、法律上当然即時に執行力を生ずるのであつて、申立人主張の民訴法第七
四九条第二、三項第七五六条の規定のあるがために即時に執行力を生ずるのではな
いと解すべきである。そこで、民訴法第一九八条第二項の規定により被告が仮執行
の宣言に基いて給付したものの返還及びこれによりまたはこれを免れるため被告が
受けた損害の賠償を原告に命じた趣旨を考えてみよう。判決は、元来確定して始め
てこれを利用し、殊に強制執行によりその内容に対応する状態を実現できる効力を
生ずるのが原則である。しかし、この原則を貫くと敗訴者の上訴により判決の確定
が遅延され、勝訴者の権利の満足が遅らされることとなるので、判決に仮執行の宣
言を付することにより、判決の確定前に判決の内容に対応する状態の実現を生ぜし
め得ることとしたのである。しかしながら、仮執行は基本の判決がそのまま維持さ
れることを条件として勝訴者の利益のためにその内容の実現を許すのであるから、
その判決が確定するに至らないで取り消されまたは変更されると、その限度で仮執
行の宣言はその効力を失うようになるが(民訴法第一九八条第一項)、仮執行によ
り既になされた執行行為はそのため当然には無効とはならない。しかし当事者間に
おいては、仮執行が行われなかつた状態に速やかに復元することが公平の原則に合
する。そこで、同条第二項は、上訴裁判所が本案判決を変更する場合には被告(仮
執行に基き給付した当事者)の申立によりその判決において仮執行の宣言に基き被
告の給付したものの返還及び仮執行によりまたはこれを免れるため被告の受けた損
害の賠償を原告(仮執行を利用した当事者)に命ずべきものと規定し、独立の訴を
提起して不当利得による返還または不法行為に基く損害の賠償を求めることを要し
ないで簡易迅速な手続と方法により<要旨第一>仮執行の宣言に基き給付した当事者
(被告)の保護を図つているのである。民訴法が、右のような規定を設け 一>て、仮執行の宣言に基いて給付した当事者に簡易迅速な手続と方法とにより既に
給付したものの返還と仮執行に基因する損害の賠償とを求めることを得せしめてい
ることから考えると、仮執行の宣言に基いて給付を受けた当事者(原告)に、民訴
法第一九八条第二項の規定により給付を受けたものの返還及び損害賠償を命ずる判
決は、その性質上仮執行の宣言がなくても、その判決の言渡により当然即時に執行
力を生ずるものと解するの<要旨第二>を相当とする。それではこの場合執行文の付
与を必要とするであろうか。元来執行力ある正本は、原則としてすべて
の債務名義について執行文の附記が必要なのであつて、例外として執行文を要しな
いのは、(1)仮執行宣言附の支払命令及び仮差押仮処分命令のように成立後直ち
に執行をする必要のあるもの。(但し表示された債権者又は債務者に承継があつた
場合に限り執行文の附記を要する。)(民訴法第五六一条第一項、第七四九条第一
項、第七五六条)(2)検察官の執行命令のように直接執行力ある債務名義と同一
の効力を有するもの。(民訴法第五六一条ノ二、刑訴第四九〇条、非訟事件手続法
第二〇八条)(3)債権差押命令に基く債権証書の取上の執行(民訴法第六〇六
条)、競落不動産引渡命令の執行(民訴法第六八七条第三項)などのように執行手
続中なされる裁判に基く附随的執行の場合である。従つて執行文を要するのは確定
の給付判決ばかりでなく、仮執行宣言附判決、執行判決、執行証書のように執行で
きる旨の宣言の記載ある場合でも同様である。このように考えて来ると、判決にお
いて民訴法第一九八条第二項により給付したものの返還と損害賠償を命じた場合も
右原則に従い執行文を要するものと解するのを相当とする。本件につきこれをみる
に、申立人が第一審判決の仮執行の宣言に基き、昭和三一年二月二三日相手方から
現金一、八一一、二六三円の給付を受けたところ、相手方は、右判決に対し当裁判
所に控訴の申立をするとともに、民訴法第一九八条第二項の規定により右給付した
金員の返還及び給付の日の翌日から返還ずみに至るまでの損害金の支払を求め、当
裁判所は、審理の結果、右第一審判決中相手方に関する部分を失当として取り消
し、申立人の相手方に対する請求を棄却し、かつ申立人に対し、右仮執行宣言に基
き相手方の給付した前記金員及びこれに対する損害金の返還を命じたことは、当裁
判所に顕著な事実である。そうすると、前記理由により右判決は、その言渡と同時
に即時に執行力を生じ、かつ直ちにこれに対し執行文を付与することができるもの
というべきであるから、当裁判所書記官Aが、右判決に対し執行文を付与したのは
相当であつて、申立人主張のような違法な点はない。その他記録を調べてみても、
右執行文付与を取り消すべき瑕疵はなく、本件異議の申立はその理由がないから、
これを棄却すべきものとし、申立費用の負担につき民訴法第九五条第八九条を適用
して主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 熊野啓五郎 判事 坂速雄 判事 岡野幸之助)

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