弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人は控訴人に対し別紙目録記載の建物の明渡をせよ。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述は
 控訴代理人において
 控訴人主張の無断転貸借において訴外A、同Bは共同転借人である。本件につい
て原審の検証のなされた昭和二八年九月一二日当時右両名が本件転借部分の明渡を
なし現状もなお明いていることは争わないと述べ
 被控訴代理人において
訴外BはAの義父にあたり同女に扶養せられていた関係で同居していたものでAの
みが転借人であつたと述べた
 ほかいずれも原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
(立証省略)
         理    由
 控訴人が被控訴人に対し昭和五年二月頃控訴人所有の別紙目録記載の建物を期間
の定めなく賃貸したこと及び被控訴人が昭和二七年八月頃右建物の一部である炊事
場一棟を訴外Aに転貸したことはいずれも当事者間に争がない。控訴人は右Aだけ
ではなくて訴外Bも共同転借人であつたと主張するけれども、これを認める証拠は
なく、かえつて後記認定の如く同訴外人はAの家族であつたものと認めるのを相当
とする。
 被控訴人は昭和二二年一、二月頃右炊事場を改造してこれを他に転貸することに
つき控訴人より包括的承諾を得ていたが、前記転貸借をなすについて昭和二七年七
月頃重ねてその承諾を得たと主張するところ、右主張に副う原審証人Cの証言は原
審における控訴人本人尋問の結果(第一、二回)と控訴人が本件建物の明渡を求め
るため同年三月調停の申立をなし同年四月一五日不調となつたことは被控訴人も争
わない事実とに対比しとうてい措信し難く、他に右事実を認むべき証拠はない。た
だ前示控訴人本人尋問の結果(第一回)によれば、控訴人は被控訴人が本件炊事場
を改造した当時一時これを他に無断転貸したことを聞いて知つたが、これについて
異議を述べなかつたに止ることが認められるけれどもそのゆえにその後の転貸借に
ついて包括的承諾を与えたものと解することはできない。
 そうだとすれば如上転貸借は民法第六一二条にいわゆる賃貸人の承諾なくしてな
されたものであるところ、控訴人が被控訴人に対し右無断転貸を理由に昭和二八年
五月一一日午前一〇時の原審口頭弁論期日において本件賃貸借契約を解除する旨の
意思表示をしたことは当事者間に争がないからその効力について判断する。
 前顕証人C(一部)及び原審証人Aの各証言、原審における検証の結果に弁論の
全趣旨を綜合すれば、訴外Aは旅館の女中として働き、その収入を以て祖父Bと一
子を扶養していたが、当時その居住家屋の明渡方を強要せられ、至急他に移転せざ
るを得ない事情にあつたところ、もとの内縁の夫が被控訴人の甥にあたる関係で被
控訴人に対し窮状を訴え一時使用方を懇請したので被控訴人も同情し、昭和二七年
九月頃同女に対し本件炊事場一棟を転貸し、よつて祖父Bと子はそこで自炊生活を
なし、Aは旅館に住み込み休番のときはそこに帰つて洗濯等をして面倒をみていた
が同人等は翌二八年五月頃には他に家を見付けて転出したこと、右炊事場は建坪一
坪五合位の三畳一間のごく粗末なものであつて本件賃貸建物の全体よりみれば限ら
れた一小部分に過ぎないものであることを認め得べく、しかも右転貸借によりこれ
がなされなかつた場合と比較して特に控訴人が損害を蒙つたとみるべき形跡もない
のであるから、如上の事実のみをとらえてみれば無断転貸を理由とする解除権の行
使はできないものであるかもしれない。
 しかし本件建物全部に対する賃料が当時一月九七〇円であることは当事者間に争
のないところであつて、前示AとC原審証人Dの各証言によれば、被控訴人は本件
賃借建物のうち僅か三畳一間、しかも普通では居室として使用に堪えないような箇
所を水道料電気代を含むとはいえ常時これを使用するのは老人と子供各一人である
のに、その賃料として一月五〇〇円の割合による六ケ月分合計三、〇〇〇円をいわ
ゆる前家賃として受領し、その後の分も同一割合により全部受け取つていたこと及
び、被控訴人は前記の如く昭和二二年一、二月頃本件炊事場を三畳の間に改造して
後Aに転貸するまでの間数回これを転貸していたことを認めることができる。これ
らの事実を綜合すればAの右賃料の前払は同人が証言する如く被控訴人の好意に対
してAから進んでしたものではなく、Cの証言の如く賃料も当事者間の契約で転貸
料一月五百円と定めたものと認めるのを相当とすべく、しかもこれを賃料と対比す
るときは被控訴人としては相当以上の対価を得ているのであつて単なる同情のみか
ら転貸したものと認めることもできない。
 <要旨>飜つて本訴提起までの経過をみるに、前記の如く控訴人が被控訴人を相手
方として昭和二七年三月津山簡易裁判所に建物明渡の調停申立をしたが同年
四月一五日不調に終つた結果、同月二二日原裁判所に本件訴状が提出されたのであ
つて、その請求原因として借家法第一条の二にいわゆる正当事由の主張をしていた
ところ、無断転貸借の事実が判明したので前記原審口頭弁論期日において請求の原
因を変更し、右無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をするに
いたつたことは記録上明白である。してみれば被控訴人は家屋明渡の請求訴訟の繋
属中において本件一室を前記Aに無断転貸したのであつて、控訴人としては被控訴
人に対する信頼の念を全く失うにいたり被控訴人に対しいよいよ明渡を求むるの念
を強くすることは容易に察し得らるべく、正当事由を解除の原因とするよりは端的
に無断転貸を理由とする解除に主張を変更することももつともなことであつて被控
訴人としては本件転貸をなすにつき主観的には前段において認定したような事情は
あるにせよ他面これによつて相当以上の対価を得ていたのであり、しかも転貸当初
その期間についても確たる見透がついていたことを認める証拠のない本件において
は右解除権の行使を目して信義則に反するものともいえず、又権利濫用ということ
もできないから、本件賃貸借契約は前示解除の意思表示により有効に解除せられた
ものというべく、これにより本件賃貸借契約は終了したのであるから被控訴人に対
し別紙目録記載の建物の明渡を求める控訴人の本訴請求は正当である。
 よつて民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決す
る。
 (裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 林歓一 裁判官 三好昇)
 (別紙)
           目   録
   津山市a宇bc番地   家屋番号d番
   無断転賃借を理由として賃貸借契約を解除し得る一事例
   一、木造かわらぶき弐階建居宅壱棟  建坪階下弐拾坪五合       
                階上七坪壱合
   一、木造かわらぶき平家建廊下壱棟  建坪壱坪
   一、木造かわらぶき平家建浴室壱棟  建坪参坪六合
   一、木造かわらぶき平家建炊事場壱棟 建坪壱坪七合

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