弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役3年8月に処する。
未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
本件公訴事実中,建造物侵入の点については,被告人は無罪。
理由
【罪となるべき事実】
第1被告人は,氏名不詳者と共謀の上,平成18年7月22日午後7時30分こ
ろ,B社経営に係る大阪市(以下略)所在のC店において,買い物客を装って
同店店員に高級鞄1個を商品棚から取り出させ,その隙をうかがって,同社代
表取締役D管理の同鞄1個(時価100万円相当)を窃取した。
第2被告人は,氏名不詳者と共謀の上,平成18年9月1日午後6時20分ころ,
大阪市(以下略)所在のE店において,買い物客を装って同店店員に高級鞄2
個を商品棚から取り出させ,その隙をうかがって,同店店長F管理の同鞄2個
(販売価格合計848万円相当)を窃取した。
第3被告人は,平成18年11月20日午後6時57分ころ,普通乗用自動車を
運転し,大阪市(以下略)の信号機により交通整理の行われている南北道路と
東方道路とが交わるT字型交差点を東方から北方に向かい右折進行しようとし
ていた。この際,対面信号機が赤色の灯火信号を表示しているのを同交差点の
停止線手前約82.8メートルの地点で認め,直ちに制動措置を講じれば同停
止線の手前で先行車に続いて停止することができたにもかかわらず,先行車を
追い越すため道路右側に進出して進行した上,上記赤色の灯火信号を殊更に無
視し,かつ,重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約20キロメート
ルで同交差点内に進入した。これにより,折から,右方道路から青色信号に従
い進行してきた普通自動二輪車運転のG(当時45歳)をして,被告人運転車
両との衝突の危険を感じさせて制動措置を講じさせた上,同人を路上に転倒滑
走させ,よって,同人に加療約2週間を要する左肘打撲,右肩打撲等の傷害を
負わせた。
第4被告人は,氏名不詳者と共謀の上,平成19年1月7日午後1時45分ころ,
神戸市(以下略)所在のブティック「H社」店において,買い物客を装って同
社代表取締役Iに高級鞄2個を商品棚から取り出させ,その隙をうかがって,
同女管理の同鞄2個(販売価格合計847万円相当)を窃取した。
【証拠の標目】
省略
【事実認定の補足説明】
1弁護人は,判示第3の事実について,そもそも被告人運転車両の速度が明らか
でない上,仮に時速約20キロメートルであったとしても,刑法208条の2第
2項後段に定める「重大な交通の危険を生じさせる速度」に該当しないため,被
告人には業務上過失傷害罪と道路交通法違反の罪が成立するに過ぎないと主張す
るので,検討する。
2関係各証拠によれば,判示の事故状況が認められるところ(以下,判示の事故
を「本件事故」,判示の交差点を「本件交差点」,被害者のGを「G」,被告人
運転の普通乗用自動車を「被告人車両」,G運転の普通自動二輪車を「G車両」
という。),本件事故時の被告人車両の速度について検討する。
被告人車両がゆっくりとした速度ではあるものの当たり前のように普通に交差
点に進入してきたとのGの供述調書(甲8),本件交差点の被告人の進行方向と
交差する方向に設置された横断歩道を青色信号に従って歩行し,道路を渡りきろ
うとしていた時,右方向から被告人車両がゆっくり走ってきて,全く止まるよう
な様子がなく,どんどん自分たちの方に近づいてきて,自分たちの後ろをかすめ
るように通り過ぎていったとのJの供述調書(甲12),G車両の進行方向の反
対方向から本件交差点内に進入し,右折待ちのため停止していたところ,本件事
故を目撃したが,被告人車両の事故を起こす直前の速度については,だいぶ遅い
速度で入ってきたので時速約20キロメートルも出ていなかったのではないかと
思うとのKの供述調書(甲14),本件交差点に時速約20キロメートルで進入
したとの被告人の捜査段階における供述調書(乙6,7)及び,本件交差点進入
時の速度については,時速約20キロメートルより速かったか遅かったか分から
ないとの被告人の公判供述等の証拠を総合すれば,被告人車両が本件事故時,時
速約20キロメートルで走行していたことが認められる。
3そして,刑法208条の2第2項後段に「重大な交通の危険を生じさせる速
度」との定めがあるのは,赤色信号を殊更に無視する場合であっても,運転者に
おいて,交差道路等を通行する人や車を発見したときに重大な事故となるような
衝突を回避することが可能な速度まで減速して進行する場合は,その行為自体に
おいて,重大な事故を生じさせる危険性の高い行為であるとは認められないため,
このような行為を処罰対象から除外するためであると解され,危険速度に該当す
るか否かは,このような観点から,具体的な状況により判断すべきものと解され
る。
関係各証拠によれば,本件交差点付近道路は,被告人車両が進行してきた道路
が片側2車線であるのに対し,交差道路は片側4車線の道路で,交通量も多かっ
たこと,Gが,前方約53.3メートルに被告人車両を認め,道路状況からして
直ぐに止まるだろうなどと考えて少し減速しただけで走行したところ,被告人車
両がそのまま進行したため,危険を感じてG車両ごと転倒したこと,被告人が特
に重大事故を回避すべく注意を払った形跡が見当たらないことが認められる。そ
して,これらの本件の具体的な状況によれば,G車両が前記の減速前,法定速度
の時速50キロメートルを超える時速約65から70キロメートルで走行してい
たことを考慮しても,被告人車両の速度である時速約20キロメートルが「重大
な交通の危険を生じさせる速度」に当たることは明らかである。
4以上によれば,判示第3の事実が認められ,これについて危険運転致傷罪が成
立するから,弁護人の主張は理由がない。
【法令の適用】
省略
【一部無罪の理由】
1建造物侵入(訴因変更後)の公訴事実は,「被告人は,大阪府八尾警察署の捜
査車両を確認する目的で,平成19年1月10日午後7時42分ころ,同警察署
署長Lが看守する大阪府八尾市(以下略)所在の同警察署東側コンクリート塀の
上によじ上り,もって,正当な理由がないのに,人の看守する建造物に侵入した
ものである」というものである。
2関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
被告人は,しばしば交通違反で検挙されていたことから,今後大阪府八尾警察
署(以下「八尾警察署」という。)の警察官に検挙されることがないよう,同署
のいわゆる覆面パトカーの車種やナンバーを確認しておきたいと考え,同署の塀
の上によじ上ってこれを確認しようと考えた。そこで,被告人は,平成19年1
月10日午後7時42分ころ,大阪府八尾市(以下略)所在の同署の東側コンク
リート塀(高さ約2メートル40センチ,幅約22センチメートル。以下「本件
塀」という。)に,本件塀の外側にあった高さ約80センチメートルの石碑を利
用してよじ上り,その上に立って同署の中庭を見た。これを現認した同署長Lは,
被告人を建造物侵入罪の被疑事実で現行犯逮捕した。
なお,被告人の供述調書中には,本件塀を乗り越えて八尾警察署の敷地内に入
り込む意思があったかのようにも読める部分がある(もっとも,それも「塀を乗
り越えて,先ほど言った目的のために八尾警察署の敷地内に入ることが許されな
いことも分かっていました」(乙3)などという一般的なことを述べる供述だけ
であり,被告人が八尾警察署の敷地内に入り込むために本件塀によじ上ったこと
を明確に供述するものではない。)。しかし,Lの現認状況に関する供述調書
(甲3)からは,被告人が八尾警察署の敷地内に入り込む意思を有していたこと
を窺わせる事情は何ら見出せない。また,前記のとおり,本件塀は高さ約2メー
トル40センチあり,被告人は高さ約80センチメートルの石碑を利用してこれ
によじ上っているが,そのよじ上ろうとする時点において本件塀の内側の様子を
窺い知ることはできないのであるから,当然内側からよじ上って出られるとの判
断ができるとは考えにくい。そして,被告人が本件塀によじ上る目的については,
被告人が供述する前記の目的以外のものを窺わせる証拠はないところ,前記の目
的のためであれば,本件塀の上に立って中を見れば足りるから,本件塀の上から
覆面パトカーの車種等を確認しようと考えたとの被告人の公判供述は信用するこ
とができ,被告人が本件塀によじ上った当時,八尾警察署の敷地内に入り込む意
思があったとは認められない。
3本件塀が刑法130条前段にいう「建造物」に当たるか否かについて
刑法130条前段にいう「建造物」には囲繞地も含むものと解される。しかし,
囲繞地の周囲の塀をも囲繞地といえるか否かは明らかでない(なお,塀に相当程
度の幅があり,あるいは造作が施されるなどしてある程度の空間的な広がりが与
えられている場合には,その塀自体を建造物と評価する余地があるので,別論で
ある。そして,本件塀がそれ自体建造物と評価されるような塀でないことは明ら
かである。)。以下検討する。
(1)「囲繞地」との文言からの検討
囲繞地とは,建物に接してその周辺に存在する付属地であり,管理者が門塀
などを設置することにより,建物の付属地として建物利用のために供されるも
のであることが明示されているものをいう。この囲繞地の意義からすると,囲
繞地が周囲の塀自体をも含む概念であることが明らかであるとはいえない。む
しろ,囲繞地との文言上は,囲繞された土地,すなわち門塀などにより囲われ
た土地のみを指し,塀自体を含まないと解するのが自然である。
(2)刑法解釈としての妥当性
刑法130条前段の「建造物」の文言をごく素朴に見れば,日常語でいう
「建物」を指すものと思われるから,囲繞地も建造物に含まれるとの解釈は1
つの拡張解釈である。刑法の解釈において拡張解釈は許容されるが,罪刑法定
主義の原則に照らせば,その範囲については慎重でなければならない。既に拡
張解釈された囲繞地との文言において,周囲の塀をも含むとの解釈と塀は含ま
ないとの解釈とがあり得るとすれば,刑法解釈の態度としてはより慎重な方を
選ぶべきである。
(3)建造物侵入罪の保護法益からの検討
建造物侵入罪の保護法益については諸説あるが,建造物の管理者の管理権と
解するのが相当である。
そして,囲繞地が建造物に含まれるのも,囲繞地が建物に付属してその利用
に供されるものであり,建物自体に準じてその管理権を保護する必要があるか
らであると解される。
この点,確かに,建物の管理者は通常囲繞地の周囲の塀をも管理しているか
ら,塀自体にも管理権が及んでおり,これも建造物に含まれるとの解釈もあり
得よう。しかし,建造物の管理権を保護する理由をさらに遡れば,建造物内の
空間におけるプライバシー権や業務遂行権等の保護に帰するものとも考えられ,
そうすると,刑法130条前段の「建造物」の概念については当然空間的な広
がりが含意されているものとも解される。したがって,建造物の管理者が塀を
管理しているからといって,その管理権を建造物侵入罪により当然保護すべき
であるとも解しがたい。
(4)刑法130条前段の「建造物」に囲繞地の周囲の塀が含まれないと解する場
合の不都合性
刑法130条前段の「建造物」に囲繞地の周囲の塀が含まれないと解する場
合,塀の上に立ったり歩いたりする行為が同条により処罰されず,相当でない
かのようにも思われる。
しかし,そもそも,刑法解釈において処罰の必要性を優先させて考えること
は相当でない上,ここでの問題は,あくまで,塀の上に立ったり歩いたりする
行為を建造物侵入罪によって処罰しなければならないか否かである。
確かに,ある者が囲繞地の周囲の塀の上に存在する場合,建造物の管理者が
不快感を持つことは疑いなく,その不快感は法的な保護に値するものであろう。
しかし,その不快感は,建物やその囲繞地の管理権が侵害されることとは異質
のものとも考えられ,これと同様の法的保護を要するとは直ちに考えがたい。
すなわち,例えば,塀の上に上がった者が建物の内部を覗き見るときは,場合
によって軽犯罪法等の適用を考慮すべきであり(なお念のため,建造物侵入罪
と軽犯罪法違反の罪との構成要件的な重なり合いは認められないため,同罪の
成否は検討しない),前記の不快感については,建造物侵入罪以外の罪によっ
て現に保護されているし,保護すべきであるといえる。
(5)以上によれば,刑法130条前段にいう「建造物」に囲繞地の周囲の塀は含
まれないと解するのが相当である。
4したがって,本件塀は建造物とはいえず,これに上って立った被告人の行為は
建造物侵入罪を構成しない。また,八尾警察署の敷地内に入り込む意思のなかっ
た被告人について建造物侵入未遂罪を適用する余地もないから,建造物侵入の公
訴事実については,刑事訴訟法336条前段に基づき無罪を言い渡すべきもので
ある。
【量刑の理由】
被告人は,瓦職人として稼働しながら,遊興費欲しさから換金目的で第1,第2
の各犯行に及んだもので,その経緯や動機に酌量すべき点はなく,また,交通事故
の賠償金等の支払いのため換金目的で及んだ第4の犯行の経緯や動機に酌量すべき
点は乏しい。各窃盗の犯行は,いずれも,高級ブランド品を扱う店舗を狙い,逃走
用の車両を運転する共犯者を店外に待機させて店内に入り,客を装って高級鞄を商
品棚から取り出させ,店員の隙を見て鞄を持ち去り,共犯車運転の車両で逃走する
という,計画的で巧妙かつ悪質な犯行である。被告人は,いずれの犯行についても
主導的な役割を果たして相応の分け前を得ており,その責任は共犯者よりも重い。
そして,各犯行の被害額は,合計約1800万円と極めて高額に及んでいるところ,
被害回復の措置は何らとられておらず,被害者らの被害感情は厳しい。
被告人はさらに,赤信号を殊更に無視するなどの危険運転により第3の犯行に及
んでいるが,単に止まらず前に行きたいからという危険運転の動機は身勝手で酌量
できない。また,被告人は,前判示のとおり,車線が多く交通量の多い交差道路へ
赤信号を殊更に無視するなどして進入したもので,もとより本件事故について被害
者に落ち度はなく,被害者が咄嗟に機転を利かせて自ら転倒したため最悪の事態は
免れたものの,被告人の運転は,被害者の生命を奪ったり,重傷を負わせかねない
極めて危険で悪質なものである。そして,最悪の事態を免れたとはいえ,被害者に
負わせた傷害の結果も軽いとはいえない。
その上,被告人には第1,第2,第4と同種の非行により少年院送致となった前
歴があること,多数の交通違反歴があることも考慮すると,被告人の責任は重大で
ある。
そうすると,被告人の父が第3の犯行の被害者に治療費及び慰謝料を支払い,示
談が成立して被害者が宥恕していること,被告人が瓦職人としての職を有していて
未だ前科はなく,上申書を提出するなどして反省の態度を示していること,第3の
犯行については既に免許取消という社会的制裁を受けていること,被告人と同居す
る父が被告人の更生に助力すると述べていることなどの事情を被告人のために考慮
しても,主文の程度の実刑はやむを得ない。
(求刑−懲役5年)
平成19年10月15日
大阪地方裁判所第6刑事部
裁判官山崎威

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