弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人吉原稔の上告理由について
 一 上告人らは、昭和五六年一二月六日執行の滋賀県東浅井郡a町議会議員一般
選挙(以下「本件選挙」という。)において、a町選挙管理委員会(以下「町選管」
という。)が公職選挙法(以下「公選法」という。)二二条二項(昭和五七年法律
八一号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に基づいて行つた選挙人名簿の登
録(以下「本件選挙時登録」という。)に際し、現実の住所移転を伴わない架空転
入が大量にあつたにもかかわらず、調査の疎漏により有権者の一割近い数の被登録
資格のない者を登録したが、このような架空転入者に対する町選管の処置は、公選
法二〇五条一項所定の選挙無効の原因である「選挙の規定に違反する」ものである
から、本件選挙は無効というべきであり、また少くとも大量の架空転入工作をした
当選者八名の当選は無効であると主張して、本件選挙における選挙の効力及び当選
の効力に関する審査申立をしたところ、被上告人は、昭和五七年一一月一六日、本
件選挙のために相当数の架空転入が行われたことは一応推認できるが、このような
被登録資格を有しない者の選挙人名簿への登録は公選法二〇五条一項所定の選挙無
効の原因である「選挙の規定に違反する」ものとはいえない、また当選者が大量の
架空転入工作を図つたとしても、そのことから直ちにその者の当選を無効であると
することはできないとして、上告人らの審査申立を棄却する旨の裁決(以下「本件
裁決」という。)をした。そこで、上告人らは、被上告人を相手方として原審裁判
所に本件裁決の取消し及び本件選挙を無効とする裁判等を求める本件訴えを提起し
た。
 これに対し、原審は、上告人らの選挙無効及び当選無効の主張を排斥した本件裁
決を正当として是認したが、上告人らの選挙無効の主張に対しては、架空転入者の
登録に関する町選管の処置は、被登録資格のない者を誤つて登録したことに帰する
もので、このような瑕疵は登録に関する不服として専ら公選法二四条、二五条所定
の手続によつて争われるべきものであつて、同法二〇五条一項所定の選挙無効の原
因である「選挙の規定に違反する」ものとはいえない旨判示した。
 二 ところで、市町村の選挙管理委員会が公選法二二条二項の規定に基づき選挙
を行う場合にする選挙人名簿の登録(以下「選挙時登録」という。)は、当該選挙
だけを目的とするものではなく、当該選挙が行われる機会に選挙人名簿を補充する
趣旨でされるものであるから、その手続は、当該選挙の管理執行の手続とは別個の
ものに属し、したがつて、右登録手続における市町村選挙管理委員会の行為が公選
法の規定に違反するとしても、直ちに同法二〇五条一項所定の選挙無効の原因であ
る「選挙の規定に違反する」ものとはいえない。以上によれば、右選挙管理委員会
が選挙時登録の際に被登録資格の調査の疎漏により被登録資格の確認が得られない
者を選挙人名簿に登録したとしても、右瑕疵は結局選挙人名簿の個個の登録の誤り、
すなわち選挙人名簿の脱漏、誤載に帰するものにすぎないから、公選法二四条、二
五条所定の手続によつてのみ争われるべきものであり、それだけでは選挙人名簿自
体の無効をきたすものでもなければ、また選挙時登録全部を無効にするものでもな
く、右瑕疵があることをもつて直ちに選挙無効の原因である「選挙の規定に違反す
る」ものとはいえないことはいうまでもないが、選挙人名簿の調製に関する手続に
つきその全体に通ずる重大な瑕疵があり選挙人名簿自体が無効な場合において、選
挙の管理執行にあたる機関が右無効な選挙人名簿によつて選挙を行つたときには、
右選挙は選挙の管理執行につき遵守すべき規定に違反するものというべきである(
最高裁昭和五二年(行ツ)第九四号同五三年七月一〇日第一小法廷判決・民集三二
巻五号九〇四頁参照)。そして、市町村選挙管理委員会は、選挙人名簿の登録にあ
たつては、被登録資格を有する者のみを選挙人名簿に登録すべきであつて(公選法
二二条)、被登録資格を有することについて確認が得られない者を登録してはなら
ないのであるから(同法施行令一〇条)、選挙時登録の際に現実の住所移転を伴わ
ない架空転入が大量にされたのではないかと疑うべき事情があるときは、市町村選
挙管理委員会としては、選挙時登録にかかる選挙人名簿の登録にあたり、被登録資
格の一つである当該市町村の区域内に住所を有するかどうかについて特に慎重な調
査を実施して適正な登録の実現を図る義務があるというべきであり、右の事情が存
するのに、右選挙管理委員会の行つた調査が住所の有無を具体的事実に基づいて明
らかにすることなく、単に調査対象者あてに文書照会をしたり、その関係者のいい
分を徴するにとどまるものであつて、その実質が調査というに値せず、調査として
の外形を整えるにすぎないものであるときは、市町村選挙管理委員会が公選法二一
条三項及び同法施行令一〇条所定の被登録資格についての調査義務を一般的に怠つ
たものとして、選挙時登録にかかる選挙人名簿の調製に関する手続につきその全体
に通ずる重大な瑕疵があるものというべきであるから、当該選挙時登録全部が無効
となり、またこのように選挙時登録全部が無効な場合において選挙の管理執行にあ
たる機関が右無効な選挙時登録を含む選挙人名簿によつて選挙を行つたときは、右
選挙は公選法二〇五条一項所定の「選挙の規定に違反する」ものと解するのが相当
である。
 三 本件についてこれをみると、所論のいうところによれば、(一) a町では、
通常、月間の転入者数が二〇人前後にすぎないのに、昭和五六年七月には六四人、
八月には四一二人と転入届をした者の数が異常に増加し、しかもその届出は代理人
によるものが大部分を占め、一人の代理人が多数の者を代理して転入届をするとい
つた例も多く、またその届出内容からすると、一軒の世帯主のところに十数人の転
入者が同居しているものといわざるを得ないような例もみられた、(二) 町選管は、
同年九月の町議会の一般質問において、七、八月に大量の架空転入があつたとして
転入者の住所の有無が問題とされたため、町長部局に住民基本台帳に基づく転入者
の実態調査を実施するよう依頼した、(三) そこで、町長部局は、昭和五六年一月
一日から同年九月三〇日までに転入した五七六人についてa町に住所を有している
か否かの実態調査をすることとし、同年一〇月、右の調査対象者あてに同町に住所
を有しているか否かの確認を求める文書照会を行つたところ、これに対し、四八九
人につき同町に住所を有している旨の回答があり、未回答の八七人について更に文
書による再照会をしたところ、そのうち八五人につき同じく住所を有する旨の回答
があり、残り二人については結局未回答に終つた、(四) 更に町選管と町長部局は、
右の調査対象者のうち、もともとa町に住所を有していた世帯主のところに同居人
として転入した旨の届出をしていた三一六人について、訪問による実態調査を実施
したが、その調査結果は、調査対象者三一六人のうち三一〇人が同町に住所を有し
ていることが確認されたというものであつた、(五) しかしながら、その訪問調査
の方法は、町長部局の職員が、もともとa町に住所を有している世帯主又はその妻
等に対し、その同居人として転入届が出されている者の氏名をあらかじめ記載した
調査票を示したうえ、当該同居人とされている者の居住の有無について、その世帯
主等のいい分をそのまま調査票に記載するというものであり、この調査によつて住
所を有することが確認されたとされる三一〇人については結局本人に対する面接は
一人も行われなかつた、(六) そして町選管は、以上に記載した以外には被登録資
格についての調査を行わなかつた、というのである。
 所論のいう叙上の事実関係が認められるとするならば、当時においても、現実の
住所移転を伴わない架空転入が大量にされたのではないかと疑うべき事情があつた
ものというべきであり、しかも昭和五六年九月のa町議会の一般質問において七、
八月に大量の架空転入があつたとして転入届をした者の住所の有無が問題とされた
というのであるから、町選管としては、本件選挙時登録にかかる選挙人名簿の作成
にあたり、住所の有無について特に慎重な調査をすべき事情が存したものというべ
きであるのに、本件選挙時登録に際し行われた文書照会による調査及び調査の対象
となつている本人に面接することなく訪問先の世帯主等から同居人の居住の有無を
確認することに終始した訪問調査は、住所の有無を具体的な事実に基づいて明らか
にすることなく、調査対象者あてに文書照会をしたり、その関係者のいい分を徴す
るにとどまるものであつて、その実質は調査というに値せず、調査としての外形を
整えたにすぎないものというほかはないから、本件選挙時登録に際し、町選管は被
登録資格についての調査義務を一般的に怠つたものというべきこととなり、そうす
ると、本件選挙時登録にかかる選挙人名簿の調製に関する手続につきその全体に通
ずる重大な瑕疵があることとなるから、本件選挙時登録全部が無効となり、したが
つて、右無効な本件選挙時登録を含む選挙人名簿によつて行われた本件選挙は、公
選法二〇五条一項所定の選挙無効の原因である「選挙の規定に違反する」ものとい
うべきこととなるといわざるを得ない。
 四 そして、記録によれば、所論のいう前記の事実関係が存在することがうかが
われるから、更に審理を尽くせば、右の事実が認定されたうえ、本件選挙が公選法
二〇五条一項所定の「選挙の規定に違反する」ものとする上告人らの主張が是認さ
れる可能性が十分に存するものというべきである。しかるに、原審は、本件選挙時
登録に際し町選管がどのような方法によつて住所の有無を調査したかについての事
実関係を何ら確定することなく、したがつてまた本件選挙時登録にかかる選挙人名
簿が無効か否かについての判断をすることなく、架空転入者の登録に関する町選管
の処置は公選法二〇五条一項所定の選挙無効の原因である「選挙の規定に違反する」
ものにあたらないとしているのであつて、原判決は、公選法二〇五条一項、二二条
二項、同法施行令一〇条の各規定の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽、理由不備
の違法をおかしたものというべきである。そして、本件選挙時登録が前記のとおり
全部無効ということになれば、これが公選法二〇五条一項所定の「選挙の結果に異
動を及ぼす虞がある場合」にあたることは記録上明らかであり、したがつて本件選
挙も無効というべきこととなるから、原判決の右の違法が判決の結論に影響を及ぼ
すことは明らかである。論旨は右の趣旨をいう点において理由があり、原判決は破
棄を免れない。そして、本件選挙時登録にかかる選挙人名簿の調製に関する手続に
つきその全体に通ずる重大な瑕疵があるか否かについて更に審理を尽くさせる必要
があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    木 戸 口   久   治
            裁判官    長   島       敦

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛