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平成16年(ワ)第10266号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年12月22日
            判       決
     原告            テクトロニクス インコーポレイテッド
     同訴訟代理人弁護士     松尾和子
     同             高石秀樹
     同補佐人弁理士       大塚文昭
     同             竹内英人
     同             近藤直樹
     同             中村彰吾
     被告            リーダー電子株式会社
     同訴訟代理人弁護士     大場正成
     同             尾崎英男
     同             嶋末和秀
     同             飯塚暁夫
     同補佐人弁理士       大塚住江
     同             中西基晴
     同             住吉勝彦
            主       文
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
            事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,別紙物件目録1ないし3記載の装置(以下「被告物件1ないし3」と
いい,それぞれの装置を「被告物件1」のように表示する。)の製造,販売又は販売
の申出(販売のための展示を含む。)をしてはならない。
 2 被告は,被告物件1ないし3の完成品及びその半製品を廃棄せよ。
 3 被告は,原告に対し,5億円及びこれに対する平成16年5月20日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,後記本件特許権に基づき,被告物件1ないし3の
製造,販売又は販売の申出の差止め及び被告物件1ないし3の廃棄,並びに被告が
被告物件1及び2を販売したことに基づく損害金(一部請求)及び遅延損害金の支払
を求めたのに対し,被告が,本件特許権には新規性又は進歩性欠如の無効理由が存
在することが明らかであると主張して,これを争った事案である。
 1 前提事実
 (1) 前提となる技術的説明
 ア テレビジョン信号につき,従来のSDTV方式(フォーマット)では,次のと
おり,1枚の画像当たり525本の走査線により,1秒間に30画像(フレーム)を
形成する。1フレームは,2フィールドで形成され,1フィールドは,走査線を1
本おきにずらして飛び越した走査を行う。
    1画像(フレーム):       約35万画素
    1フレーム:          2フィールドから成る
    1フレームの走査線:      525本
    1フィールドの走査線:  1フレームの本数の半分
    1走査線の画素:        720~760
    1フィールドの周期:      1/59.94秒
 イ これに対し,ハイビジョン方式であるHDTV方式(フォーマット)では,次
のとおりである。
    1画像(フレーム):       約207万画素
    1フレーム:          2フィールドから成る
    1フレームの走査線:      1125本
    1フィールドの走査線:  1フレームの本数の半分
    1走査線の画素:        1920
    1フィールドの周期:      1/59.94秒
(以上,争いのない事実)
 (2) 本件特許権
 ア ソニー・テクトロニクス株式会社は,次の特許権(以下「本件特許権」とい
い,本件特許権に係る特許公報掲載の特許請求の範囲請求項5の発明を「本件発
明」という。また,本件特許権に係る特許公報掲載の明細書及び図面を「本件明細
書」という。)を取得した。
 特許番号  第2974301号
 発明の名称 トリガ生成回路及び波形表示装置
 出願日   平成10年1月23日
 登録日   平成11年9月3日
 特許請求の範囲 別紙特許公報の写しの該当欄記載のとおり
 イ 日本テクトロニクス株式会社(ソニー・テクトロニクス株式会社と同一の会
社である。)は,テクトロニクス・インターナショナル・セールス・ゲーエムベーハ
ー(以下「テクトロニクス・インターナショナル」という。)に対し,本件特許権を
譲渡し,平成15年1月16日,その旨の登録がされた。
 ウ テクトロニクス・インターナショナルは,原告に対し,本件特許権を譲渡
し,平成16年5月12日,その旨の登録がされた。
 エ テクトロニクス・インターナショナルは,原告に対し,同年4月7日,テク
トロニクス・インターナショナルが本件特許権の侵害に関し被告に対して有する損
害賠償請求権を譲渡した。
(以上につき,甲2,3,7の1・2,弁論の全趣旨)
 (3) 構成要件の分説
 本件発明を分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件①」な
どという。)。
 ① 第1テレビジョン信号が入力される第1入力端子と,
 ② 上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィ
ールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信
号が入力される第2入力端子と,
 ③ 上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2
テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィ
ールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段と,
 ④ 上記トリガ信号に応じて上記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手
段と
 ⑤ を具える波形表示装置
 (4) 被告の行為
 ア 被告は,遅くとも平成14年1月以降,別紙被告物件説明1記載の構成を有
する被告物件1を販売している。
 イ 被告は,遅くとも平成14年7月以降,別紙被告物件説明2記載の構成を有
する被告物件2を販売している。
 ウ 被告は,平成16年5月以降,別紙被告物件説明3記載の構成を有する被告
物件3を販売している。
(争いのない事実)
 (5) 被告物件1ないし3の構成要件充足性
 被告物件1ないし3は,本件発明の構成要件を充足し,その技術的範囲に属す
る。
(争いのない事実)
 2 争点
 (1) 明らかな無効理由(新規性又は進歩性欠如)の存否
 (2) 原告の損害額
 3 争点に関する当事者の主張
 (1) 争点(1)(新規性又は進歩性欠如)について
 ア 被告の主張
 (ア) 公然実施発明1
  a 日本放送協会(以下「NHK」という。)は,遅くとも平成9年12月まで
に,その放送局のシステムとして,別紙図面1記載の発明を公然実施した(乙7の
1・2,11の1~4。以下「公然実施発明1」という。)。
  b 公然実施発明1は,次の構成及び動作から成る。
  (a) LT440D型(同期信号発生器)
  ⅰ 公然実施発明1を構成する機器として,まず,HD・ディジタル・シグナ
ルジェネレータLT440D型(以下「LT440D型」という。)がある。
  ⅱ SDTVコンポジット・ディジタル・シグナル・ジェネレータ411D型
(以下「411D型」という。)は,SDTVの基準同期信号であるSDTVブラッ
ク・バースト信号(以下「SDTV・BB信号」という。)を発生,出力し,このS
DTV・BB信号は,ゲンロック入力端子からLT440D型(同期信号発生器)に
入力される。
  ⅲ LT440D型(同期信号発生器)は,このSDTV・BB信号に位相ロッ
クしたHDTVコンポジット同期信号を生成,出力する。
  (b) WFM5100型(波形表示手段)
  ⅰ 次に,波形表示手段として,HD・ウェーブ・フォーム・モニタ5100
型(以下「WFM5100型」という。)がある。
  ⅱ WFM5100型(波形表示手段)の外部同期端子から,上記(a)ⅲのHDT
Vコンポジット同期信号が入力される。
  ⅲ WFM5100型(波形表示手段)の測定される映像信号の入力端子(以下
「ビデオ信号入力端子」という。)から,画像信号処理機器から出力されるHDTV
信号が入力される。
  ⅳ WFM5100型(波形表示手段)は,上記(a)ⅲのHDTVコンポジット同
期信号から水平同期信号のみを取り出し,この信号をトリガにして,上記ⅲの測定
されるHDTV信号の波形表示を行う。
  c 公然実施発明1は,次のとおり,本件発明の構成要件に相当する構成を有
する。
  (a) WFM5100型(波形表示手段)の「ビデオ信号入力端子」は,「第1テ
レビジョン信号が入力される第1入力端子」(構成要件①)に相当する。
  (b) LT440D型(同期信号発生器)の「ゲンロック入力端子」は,「上記第
1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィールド当たり
の走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信号が入力され
る第2入力端子」(構成要件②)に相当する。
  (c) LT440D型(同期信号発生器)とWFM5100型(波形表示手段)とを
組み合わせた構成は,「上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロッ
クされ,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジ
ョン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリ
ガ生成手段」(構成要件③)に相当する。
  (d) WFM5100型(波形表示手段)は,「上記トリガ信号に応じて上記第1
テレビジョン信号の波形を表示する表示手段」(構成要件④)に相当する。
  (e) 以上の装置全体は,「を具える波形表示装置」(構成要件⑤)に相当する。
  d(a) 以上のとおり,本件発明は,公然実施発明1と同一であるから,新規性
を欠く。
  (b) 仮に,本件発明が各構成要素を1つの装置にまとめることを要件とするも
のであるとしても,各構成要素を1つの装置にまとめることは,当業者が公然実施
発明1から容易に行うことができたことであるから,本件発明は進歩性を欠く。
 (イ) 公然実施発明2
  a NHKは,遅くとも平成9年3月までに,現場放送車両のシステムとし
て,別紙図面2記載の発明を公然実施した(乙13の1~4。以下「公然実施発明
2」という。)。
  b 公然実施発明2は,次の構成及び動作から成る。
  (a) 同期信号発生器
  ⅰ 公然実施発明2を構成する機器として,まず,LT440D型と同様の機
能を有する同期信号発生器がある(乙13の3の左上の「SYNC GEN」と記載
されたブロック)。
  ⅱ NTSC・BB信号が,外部同期信号として同期信号発生器に入力され
る。
  ⅲ 同期信号発生器は,このNTSC・BB信号に位相ロックしたHDTV同
期信号を生成,出力する。
  (b) VE1-WFM又はVE2-WFM(波形表示手段)
  ⅰ 次に,波形表示手段として,別紙図面2記載の「VE1-WFM」又は
「VE2-WFM」(以下「VE1-WFM等」という。)がある。
  ⅱ VE1-WFM等(波形表示手段)には,上記(a)ⅲのHDTV同期信号が入
力される。
  ⅲ VE1-WFM等(波形表示手段)には,HDTV方式の映像信号が入力さ
れる。
  ⅳ VE1-WFM等(波形表示手段)は,上記(a)ⅲのHDTV同期信号から水
平同期信号のみを取り出し,この信号をトリガにして,上記ⅲの測定されるHDT
V信号の波形表示を行う。
  c 公然実施発明2は,次のとおり,本件発明の構成要件に相当する構成を有
する。
  (a) VE1-WFM等(波形表示手段)の映像信号が入力される端子は,「第1
テレビジョン信号が入力される第1入力端子」(構成要件①)に相当する。
  (b) 同期信号発生器のNTSC・BB信号が入力される端子は,「上記第1テ
レビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィールド当たりの走
査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信号が入力される第
2入力端子」(構成要件②)に相当する。
  (c) 同期信号発生器とVE1-WFM等(波形表示手段)とを組み合わせた構成
は,「上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2
テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィ
ールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段」(構成
要件③)に相当する。
  (d) VE1-WFM等(波形表示手段)は,「上記トリガ信号に応じて上記第1
テレビジョン信号の波形を表示する表示手段」(構成要件④)に相当する。
  (e) 以上の装置全体は,「を具える波形表示装置」(構成要件⑤)に相当する。
  d(a) 以上のとおり,本件発明は,公然実施発明2と同一であるから,新規性
を欠く。
  (b) 仮に,本件発明が各構成要素を1つの装置にまとめることを要件とするも
のであるとしても,各構成要素を1つの装置にまとめることは,当業者が公然実施
発明2から容易に行うことができたことであるから,本件発明は進歩性を欠く。
 (ウ) 公然実施発明3
  a 株式会社テレビ朝日(以下「テレビ朝日」という。)は,遅くとも平成9年
3月までに,四谷放送センターのシステムとして,次の構成を有する発明を公然実
施した(乙14の1~4。以下「公然実施発明3」という。)。
  b 公然実施発明3は,次の構成及び動作から成る。
  (a) TS15A6(同期信号発生器)
  ⅰ 公然実施発明3を構成する機器として,まず,シバソク社製TS15A6
(以下「TS15A6」という。)がある。
  ⅱ NTSC・BB信号が,外部同期信号としてTS15A6(同期信号発生
器)に入力される。
  ⅲ TS15A6(同期信号発生器)は,このNTSC・BB信号に位相ロック
したHDTV同期信号を生成,出力する。
  (b) LV5150D型(波形表示手段)
  ⅰ 次に,波形表示手段として,LV5150D型(以下「LV5150D型」
という。)がある。
  ⅱ LV5150D型(波形表示手段)には,上記(a)ⅲのHDTV同期信号が入
力される。
  ⅲ LV5150D型(波形表示手段)には,HDTV方式の映像信号が入力さ
れる。
  ⅳ LV5150D型(波形表示手段)は,上記(a)ⅲのHDTV同期信号から水
平同期信号のみを取り出し,この信号をトリガにして,上記ⅲの測定されるHDT
V信号の波形表示を行う。
  c 公然実施発明3は,次のとおり,本件発明の構成要件に相当する構成を有
する。
  (a) LV5150D型(波形表示手段)の映像信号が入力される端子は,「第1
テレビジョン信号が入力される第1入力端子」(構成要件①)に相当する。
  (b) TS15A6(同期信号発生器)のNTSC・BB信号が入力される端子
は,「上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィ
ールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信
号が入力される第2入力端子」(構成要件②)に相当する。
  (c) TS15A6(同期信号発生器)とLV5150D型(波形表示手段)とを組
み合わせた構成は,「上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロック
され,上記第2テレビジョン信号の上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョ
ン信号の1フィールド中の走査線数で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ
生成手段」(構成要件③)に相当する。
  (d) LV5150D型(波形表示手段)は,「上記トリガ信号に応じて上記第1
テレビジョン信号の波形を表示する表示手段」(構成要件④)に相当する。
  (e) 以上の装置全体は,「を具える波形表示装置」(構成要件⑤)に相当する。
  d(a) 以上のとおり,本件発明は,公然実施発明3と同一であるから,新規性
を欠く。
  (b) 仮に,本件発明が各構成要素を1つの装置にまとめることを要件とするも
のであるとしても,各構成要素を1つの装置にまとめることは,当業者が公然実施
発明3から容易に行うことができたことであるから,本件発明は進歩性を欠く。
 (エ) 第1テレビジョン信号について
  ⅰ 後記原告の認否及び反論(エ)ⅰ(本件発明の解釈)は争う。
 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載からは,原告の主張するように
本件発明の内容を限定的に解釈すべき理由は見当たらない。同期されたシステム内
においても,同期していることを確認する必要性があり,本件発明はそのような場
合を排除していないものである。
  ⅱ 同ⅱ(公然実施発明1における位相の基準)のうち,SDTV信号とHDT
V信号との間の位相のずれを観念することができないことは否認し,その余は認め
る。
  ⅲ 同ⅲ(本件発明と公然実施発明1との違い)のうち,本件発明については否
認し,公然実施発明1については認める。
  ⅳ 同ⅳ(公然実施発明2及び3)についての認否及び主張は,上記ⅰないしⅲ
と同一である。
 (オ) トリガ生成手段について
  ⅰ 後記原告の認否及び反論(オ)ⅰ(本件発明の解釈)は争う。
 本件特許権の特許請求の範囲及び本件明細書の記載からは,原告の主張するよう
に本件発明の内容を限定的に解釈すべき理由は見当たらない。
  ⅱ 同ⅱ(公然実施発明1における他の機器の介在)は認める。
  ⅲ 同ⅲ(本件発明と公然実施発明1との違い)のうち,本件発明については否
認し,公然実施発明1については認める。
  ⅳ 同ⅳ(公然実施発明2及び3)についての認否及び主張は,上記ⅰないしⅲ
と同一である。
 イ 原告の認否及び反論
 (ア) 公然実施発明1について
  a 被告の主張(ア)a(公然実施発明1の公然実施)は認める。
  b 同b(構成及び動作)は認める。
  c 同c(構成要件の充足)のうち,(a)(第1入力端子)は否認し,(b)(第2入力
端子)は認め,(c)(トリガ生成手段)は否認し,(d)(波形表示手段)のうち「上記トリ
ガ信号に応じて」波形を表示する点は否認し,その余は認め,(e)(波形表示装置)は
否認する。
  d 同d(新規性・進歩性の欠如)は否認する。
 (イ) 公然実施発明2について
  a 被告の主張(イ)a(公然実施発明2の公然実施)は認める。
  b 同b(構成及び動作)は認める。
  c 同c(構成要件の充足)のうち,(a)(第1入力端子)は否認し,(b)(第2入力
端子)は認め,(c)(トリガ生成手段)は否認し,(d)(波形表示手段)のうち「上記トリ
ガ信号に応じて」波形を表示する点は否認し,その余は認め,(e)(波形表示装置)は
否認する。
  d 同d(新規性・進歩性の欠如)は否認する。
 (ウ) 公然実施発明3について
  a 被告の主張(ウ)a(公然実施発明3の公然実施)は認める。
  b 同b(構成及び動作)は認める。
  c 同c(構成要件の充足)のうち,(a)(第1入力端子)は否認し,(b)(第2入力
端子)は認め,(c)(トリガ生成手段)は否認し,(d)(波形表示手段)のうち「上記トリ
ガ信号に応じて」波形を表示する点は否認し,その余は認め,(e)(波形表示装置)は
否認する。
  d 同d(新規性・進歩性の欠如)は否認する。
 (エ) 第1テレビジョン信号について
  ⅰ 本件明細書【発明が解決しようとする課題】の欄には,「【0009】現
在,同じ内容の映像(アスペクト比,解像度は異なる)をHDTV信号とSDTV信
号で同時に放送するような場合も少なくない。そこで,フォーマットの異なる複数
の信号があったときに,任意のフォーマットの信号の1つを基準信号として波形表
示装置の外部トリガ入力端子に入力し,他のフォーマットの信号は入力端子に入力
してその水平同期信号に関してトリガをかけて波形を表示することにより,基準信
号に対する位相差を測定したいというニーズがある。」との記載がある。
 この記載から明らかなように,構成要件①にいう第1テレビジョン信号とは,構
成要件②の第2テレビジョン信号とは同期していない異なるシステムからの信号を
意味する。
  ⅱ ところが,公然実施発明1では,LT440D型(同期信号発生器)のSY
NC端子からの信号がWFM5100型(波形表示手段)等のすべてのHDTV機器
に供給されているため,公然実施発明1のビデオ信号入力端子には,SDTV・B
B信号に同期させられた他のHDTV機器からのHDTV信号が入力される。この
ため,公然実施発明1では,LT440D型(同期信号発生器)のゲンロック入力端
子に入力される信号(第2テレビジョン信号に相当)も,WFM5100(波形表示手
段)のビデオ信号入力端子に入力される信号(第1テレビジョン信号に相当)も,位相
の基準はSDTV・BB信号である。
 そのため,そもそもSDTV信号とHDTV信号との間の位相のずれを観念する
ことができない。
  ⅲ その結果,本件発明では,同期されていない異なるシステムの機器の間に
おける位相のずれを測定することができる。
 これに対し,公然実施発明1では,例えば,アップコンバートの際にアップコン
バータという1つの機器の中で生じる位相のずれは測定することができるが,異な
るシステムの機器の間における位相のずれを測定することはできない。
  ⅳ 以上の点は,公然実施発明2及び3についても同様である。
 (オ) トリガ生成手段について
  ⅰ 本件発明におけるトリガ生成手段は,生成されたトリガ信号を他の機器を
介在させることなく波形表示手段に供給するものである。
  ⅱ これに対し,公然実施発明1では,WFM5100型(波形表示手段)にト
リガ信号が供給されるまでに,LT440D型(同期信号発生器)やWFM5100
型(波形表示手段)中の同期分離回路が介在している。
  ⅲ その結果,公然実施発明1では,位相のずれが①測定される信号(第1テレ
ビジョン信号に相当)で発生したのか,②LT440D型(同期信号発生器)で発生し
たのか,③WFM5100型(波形表示手段)中の同期分離回路で発生したのかを区
別することができない。
 これに対し,本件発明では,上記の問題点がない。
  ⅳ 以上の点は,公然実施発明2及び3についても同様である。
 (2) 争点(2)(原告の損害額)について
 ア 原告の主張
 (ア) 被告は,平成14年1月から平成16年3月末日までの間に,被告物件1
及び2を合計1100台販売した。
 (イ) 被告の侵害行為がなければ,原告は,1台当たり45万4546円を超え
る利益を得ることができた。
 (ウ) よって,原告の損害額は5億円を超える。
 イ 被告の認否
 原告の主張(ア)は認め,その余は否認する。
第3 当裁判所の判断
 1 公然実施発明1による新規性又は進歩性欠如について
 (1) 公然実施発明1の公然実施
 被告の主張(ア)aは,当事者間に争いがない。
 (2) 公然実施発明1の構成及び動作
 被告の主張(ア)bは,当事者間に争いがない。
 (3) 構成要件の充足
 ア 第1テレビジョン信号及び第2テレビジョン信号(構成要件①,②)について
 (ア) 前記公然実施発明1の構成及び動作によれば,WFM5100型(波形表示
手段)の「ビデオ信号入力端子」は,「第1テレビジョン信号が入力される第1入力
端子」(構成要件①)に相当するものと認められる。
 LT440D型(同期信号発生器)の「ゲンロック入力端子」は,「上記第1テレ
ビジョン信号と1フィールドの周期は等しいものの上記1フィールド当たりの走査
線数が異なる第2テレビジョン信号中の少なくとも垂直同期信号が入力される第2
入力端子」(構成要件②)に相当することは,当事者間に争いがない。
 (イ) 原告は,構成要件①にいう第1テレビジョン信号とは,構成要件②の第2
テレビジョン信号とは同期していない異なるシステムからの信号を意味する旨主張
する。
 しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には,「第1テレビジョン信号が入力
される第1入力端子と,上記第1テレビジョン信号と1フィールドの周期は等しい
ものの上記1フィールド当たりの走査線数が異なる第2テレビジョン信号中の少な
くとも垂直同期信号が入力される第2入力端子」と記載され,1フィールド当たり
の走査線数が異なることを要件とする記載はあるが,それ以上に2つの信号の同期
関係について特定している記載はない。
 原告は,本件明細書中の「【0009】現在,同じ内容の映像(アスペクト比,解
像度は異なる)をHDTV信号とSDTV信号で同時に放送するような場合も少なく
ない。そこで,フォーマットの異なる複数の信号があったときに,任意のフォーマ
ットの信号の1つを基準信号として波形表示装置の外部トリガ入力端子に入力し,
他のフォーマットの信号は入力端子に入力してその水平同期信号に関してトリガを
かけて波形を表示することにより,基準信号に対する位相差を測定したいというニ
ーズがある。」との記載を原告主張のように限定して解釈すべき根拠として指摘す
るが,上記記載から,本件発明が同期していない2つの信号の位相差を測定するこ
とができるものに限定されているものと解することはできない。
 かえって,本件明細書の従来技術の説明の項には,「【0003】従来,同じフ
ォーマットであって,しかも同じ信号源(ソース)から出力されたテレビジョン信
号であっても,信号伝達経路の違いなどからこれらのテレビジョン信号間に位相差
が生じて同期が取れなくなることがある。そこで,こうしたテレビジョン信号間の
同期を取るためにGENロックといった手法が知られている。
【0004】GENロックを用いた場合などにおいて,複数のテレビジョン信号が
同期しているか,あるいは逆にどの程度位相差があるかといった特性は,テレビジ
ョン信号専用のトリガ機能を有する波形表示装置(波形モニタ)などで測定でき
る。こうした波形表示装置では,入力されるテレビジョン信号の水平や垂直の同期
信号に合わせてトリガ信号を発生させるトリガ回路が設けられている。つまり,こ
のトリガ信号に同期して波形表示装置内部に掃引信号(のこぎり波)を発生させる
ことにより,テレビジョン信号の同期信号に同期して繰り返し所望部分の信号波形
を表示できるようになっている。」と記載されており(甲3),ゲンロックを用いた
システム,すなわち1つの基準信号を使って同期を合わせたシステムにおいても位
相差の測定を行うことが記載されているものである。この記載によれば,2つの信
号が互いに同期していない異なるシステムからの信号を意味するものに限定されて
いると解することは到底できず,原告の上記主張は理由がない。
 イ トリガ生成手段及び波形表示手段(構成要件③,④)について
 (ア) 前記公然実施発明1の構成及び動作によれば,LT440D型(同期信号発
生器)とWFM5100型(波形表示手段)とを組み合わせた構成は,「上記第2テレ
ビジョン信号の上記垂直同期信号に位相ロックされ,上記第2テレビジョン信号の
上記垂直同期信号の周期を上記第1テレビジョン信号の1フィールド中の走査線数
で等分した周期のトリガ信号を生成するトリガ生成手段」(構成要件③)に相当する
ものと認められ,WFM5100(波形表示手段)は,「上記トリガ信号に応じて上
記第1テレビジョン信号の波形を表示する表示手段」(構成要件④)に相当するもの
と認められる(一部は,当事者間に争いがない。)。
(イ) 原告は,本件発明におけるトリガ生成手段は,生成されたトリガ信号を他
の機器を介在させることなく波形表示手段に供給するものである旨主張する。
 しかしながら,本件発明の特許請求の範囲の記載から,本件発明が公然実施発明
1の同期分離回路のような機器を介在させることなく,トリガ信号を波形表示手段
に供給するものに限定したものと認めることはできない。しかも,本件明細書によ
れば,原告が主張するとおりのトリガ生成手段においても,垂直同期信号抽出回路
及び同回路において抽出された垂直同期信号に基づきトリガ信号を生成する部分を
有するものであるから,位相のずれが測定される信号で発生したのか,それとも垂
直同期信号抽出回路等で発生したのかを区別することができないことは,原告が主
張するとおりのトリガ生成手段の構成においても同様に発生することであると考え
られる。よって,原告の上記主張には理由がない。
 ウ 波形表示装置(構成要件⑤)及び進歩性の欠如について
 本件発明は,各構成要素を1つの装置にまとめることを要件とするものであると
解すべきであり,公然実施発明1は,各構成要素を1つの装置にまとめていない点
で,本件発明と相違しているが(構成要件⑤),各構成要素を1つの装置にまとめて
本件発明のように構成することは,当業者が,公然実施発明1に基づいて容易に発
明することができたものと認められる。
 (4) まとめ
 以上のとおり,本件発明は,進歩性を欠くものであり,特許法29条2項違反の
無効理由が存在することが明らかであり,本件発明に係る特許権に基づく請求は,
権利の濫用として許されない。
 2 結論
 よって,本訴請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がな
いから,棄却することとし,主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第40部
            裁判長裁判官   市  川  正  巳
               裁判官   杉  浦  正  樹
               裁判官   高  嶋     卓
(別紙)
            物 件 目 録
 1 マルチ表示カラーモニターLV5700型
 2 マルチ表示カラーモニターLV5710型
 3 小型マルチSDIモニターLV5750型
被告物件説明1第1図第2図被告物件説明2第1図第2図被告物件説明3第1図第
2図図面1図面2

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