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平成13年(行ケ)第372号 審決取消請求事件(平成14年5月15日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   マイタケプロダクツ インコーポレーテッ

       訴訟代理人弁理士   小 谷 悦 司
       同          川 瀬 幹 夫
       被      告   特許庁長官 太 田 信一郎
       指定代理人      滝 澤 智 夫
       同          宮 川 久 成
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成11年審判第1540号事件について平成13年5月8日にし
た審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文第1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、「D-fraction」の欧文字を書してなり、指定商品を商標法施行令別
表の区分による第5類「中枢神経系用薬剤、アレルギー用薬剤、循環器官用薬剤、
呼吸器官用薬剤、ビタミン剤、滋養強壮変質剤、細胞賦活用薬剤、しゅよう治療用
薬剤、抗生物質製剤、生物学的製剤、生薬、動物用薬剤、カプセル」とする商標
(以下「本願商標」という。)について、平成8年9月27日にされた商標登録出
願(商願平8-109443号)により生じた権利を、平成10年5月6日に出願
人名義変更届を提出して承継した者である。同出願については拒絶査定がされたの
で、原告は、平成11年1月28日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁
は、同請求を平成11年審判第1540号事件として審理した上、平成13年5月
8日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月2
5日、原告に送達された。
 2 審決の理由
   審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標は、「D-fraction」の欧
文字を書してなるところ、「D-Fraction」又は「Dフラクション」の語は「マイタ
ケの熱水抽出物で得られた酸不溶性、アルカリ溶性の分枝鎖を持っている多糖体」
(注、典拠とされた乙第3号証の文献中では上記「アルカリ溶性」が「アルカリ容
性」と記載され、審決もこれによっているが、誤記と認め、以下、「アルカリ溶
性」と表記する。)を示すものであり、本願商標の指定商品に接する取引者、需要
者は、本願商標を「マイタケ」より抽出された物質を表したものと理解し、認識す
るとみるのが相当であるから、本願商標をその指定商品に使用しても、単に商品の
原材料又は品質を表示するにすぎず、また、これを当該原材料、品質を有しない商
品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあり、本願商
標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当し、商標登録することがで
きないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
1 審決は、本願商標の指定商品に接する取引者、需要者は、本願商標を「マイ
タケ」より抽出された物質を表したものと理解し、認識するとみるのが相当である
との誤った認定をした上、本願商標を、その指定商品に使用しても、単に商品の原
材料又は品質を表示するにすぎず、また、これを当該原材料、品質を有しない商品
に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとの誤った
判断をしたから(取消事由)、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(本願商標が原材料又は品質の表示及び品質の誤認表示であるとす
る認定判断の誤り)
(1)審決は、「『D-Fraction』又は『Dフラクション』の語は、原審において
開示する文献(注、平成7年6月10日株式会社菜根出版発行、神戸薬科大学教授
難波宏彰(以下「難波教授」という。)著『舞茸の世界』(乙第3号証)41頁~
42頁、同年11月13日同社発行、同教授著『舞茸の代替療法域』(乙第4号
証)61頁~71頁、『Chemical&PharmaceuticalBulletin.Vol.36(No5)May
1988』所載の同教授外2名『口から投与されたGrifolafrondosa(マイタケ)の子実
体からの蒸留物が示す抗しゅよう作用』〔甲第20号証、原文は英語〕)によれ
ば、『マイタケの熱水抽出物で得られた酸不溶性、アルカリ溶性の分枝鎖を持って
いる多糖体のこと』であって、該抽出物は、近年研究成果の著しい抗ガン剤の一物
質として注目されていること。また、東洋産のキノコについての薬効の研究は、永
年に亘っておこなわれており、『マイタケ』についての研究及び『マイタケ』から
の抽出分(D-Fraction)についても、本願商標出願時以前から研究が行われていた
ことが認められる。・・・そうとすれば、本願指定商品に接する取引者・需要者
は、本願商標が、出願人(請求人)(注、原告)主張のように、『『4番目の抽出
工程において混合物から分離されたもの』の如き意味合いが間接的に暗示されるに
とどまるものである』と認識するとみるよりは、『マイタケ』より抽出された物質
を表したものと理解し、認識するとみるのが相当である」(審決謄本2頁13行目
~27行目)と認定するが、誤りである。
 「D-fraction」は、上記文献が示すような意味合いをもって学会等で定着
している語ではなく、学会発表ないし論文発表に際し、一時的かつ暫定的に命名さ
れたいわば仮称にすぎず、「マイタケの抽出物」を表す語とはなっていない。本
来「fraction」の語は、科学技術用語として用いられるものであり、「混合物から
分離できる一部分」(平成8年9月30日株式会社日刊工業新聞社発行「マグロー
ヒル科学技術用語大辞典第3版」、甲第2号証)ないし「画分」、「留分」(昭和
58年6月15日株式会社インタープレス発行「科学技術25万語大辞典英和
編」、甲第3号証)を意味するものである。これにアルファベットの4番目の文
字「D」を付した「D-fraction」は「4番目の抽出工程において混合物から分離され
たもの」のごとき意味合いを間接的に示すにとどまるものであり、研究者の間で
は、「D-fraction」又は「Dフラクション」の語は抽出画分の仮称として研究論文
の中でしばしば使用される言葉であって、マイタケから抽出した特定の物質、成分
の名称とは認識されていないことが明らかである。
 他方、上記文献によれば、審決のいう「『マイタケ』より抽出された物
質」(審決謄本2頁26行目)は、マイタケの子実体より特定の抽出方法で得た抗
しゅよう作用等を有するタンパク質を含む多糖体を意味し、これを示す語として
は、いずれの学者も「βグルカン」の語を用いており、「D-fraction」又は「Dフ
ラクション」がマイタケから抽出された特定物質を示す一般名であるとする審決の
認定の誤りは明らかである。
 また、「D-fraction」又は「Dフラクション」がマイタケから抽出された
特定物質を示すものではないことは、マイタケを対象とした「D-fraction」
は「MD-fraction」又は「MDフラクション」と呼ばれていることからも明らかであ
る。
(2)米国において薬効があるとして初めてマイタケエキスを紹介、販売、普及
させたのは、原告の代表者であるA及び副社長であるBであり、原告は、米国にお
けるマイタケエキスの普及、販売に関するパイオニアである。本願商標は、このよ
うな実績を有する原告によって採択され、現に使用されている商標であり、米国に
おいては、本願商標は商品の品質を表す語としては認識されておらず、自他商品識
別力のある標章として認識されているのであるから、我が国においても、本願商標
は自他商品識別力のある標章として認定されるべきである。
第4 被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由(本願商標が原材料又は品質の表示及び品質の誤認表示であるとす
る認定判断の誤り)について
(1)本願商標の指定商品に関心を有する取引者、需要者は、常に学会等におい
て使用される正式名称をもって取引に当たるとは限らず、殊に本願商標の指定商品
のように健康に関する商品、例えば、しゅよう治療用薬剤(いわゆるがん治療剤)
については、治療、抑制等に有効な物質の発見がマスメディアによってセンセーシ
ョナルに取り上げられ、学会等における正式名称としては認められていない語であ
っても、一般に通用するようになる事例は少なくない。そして、審決において開示
する上記文献によれば、本願商標の指定商品に係る取引者、需要者が本願商標に接
するときには、「マイタケから抽出された免疫活性化機能を有する物質」あるいは
「マイタケの抽出物」を表したものと理解し、認識するとみるのが相当である。
 原告は、「D-fraction」又は「Dフラクション」は「4番目の抽出工程に
おいて混合物から分離されたもの」のごとき意味合いを間接的に示すにとどまるも
のであると主張する。なるほど、「D-fraction」又は「Dフラクション」の語が、
原告主張のように使用されることがあるとしても、上記のように、「D-fraction」
又は「Dフラクション」の語が「マイタケの抽出物」を意味するものとして使用さ
れ、本願商標の指定商品の取引者、需要者もそのように理解し、認識するといえる
以上、「D-fraction」又は「Dフラクション」の語は、原告主張の意味合いを有す
るものとして使用されるにとどまらず、商品の原材料又は品質を表示するものとい
うのが相当である。
 原告は、マイタケの子実体より特定の抽出方法で得た抗しゅよう作用等を
有するタンパク質を含む多糖体は、学者によって若干の差異はあるが、いずれの学
者も「βグルカン」の語を用いており、「D-fraction」又は「Dフラクション」が
マイタケから抽出された特定物質を表す一般名であるとする審決の認定の誤りは明
らかであると主張する。しかし、審決は、本願商標の指定商品に接する取引者、需
要者は、本願商標を、原告主張のように「『4番目の抽出工程において混合物から
分離されたもの』の如き意味合いが間接的に暗示されるにとどまるものである」と
認識するとみるよりは、「マイタケの抽出物」を表したものと理解し、認識すると
みるのが相当であると認定したものであって、マイタケから抽出された特定物質を
表す一般名である旨認定したものではない。
 「βグルカン」と「D-fraction」又は「Dフラクション」とは異なる物で
あることは、平成9年6月5日付け日本農業新聞(乙第8号証)の「βグルカンの
成分の一つ、D-フラクションが、腫瘍(しゅよう)に対し最も作用が強い」との
記載からも理解されるものであって、原告の上記主張は失当である。
 また、「マイタケから抽出されたDフラクション」は、マイタケから安定
的に抽出することができるものであること(乙第1、第9号証)、また、キノコの
中ではマイタケが最も優れたものであること(乙第10、第11号証)、さらに、
マイタケよりの抽出物「D-fraction」が米国において既に臨床に使用されているこ
と(乙第10号証)が認められる。そうすると、本件商標の指定商品、殊に「しゅ
よう治療用薬剤」に接する取引者、需要者は、「D-fraction」又は「Dフラクショ
ン」の語からは、「マイタケの熱水抽出物で得られる酸不溶性、アルカリ溶性の分
枝鎖を持っている多糖体」である抗がん効果等を持つ物質であると理解、認識し、
それ自体、自他商品を識別する標章とは認識しないとみるのが相当である。
(2)原告らがマイタケの薬効を米国に普及させた事実は認められるとしても、
本願商標が、原告らの採択に係る自他商品識別機能を有するものとして理解、認識
されるとの特別の事情は認められないから、本願商標が自他商品識別機能を果たし
得るとすることはできず、原告の上記主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(本願商標が原材料又は品質の表示及び品質の誤認表示であるとす
る認定判断の誤り)について
(1)本願商標は、「D-fraction」の欧文字を書してなり、指定商品を商標法施
行令別表の区分による第5類「中枢神経系用薬剤、アレルギー用薬剤、循環器官用
薬剤、呼吸器官用薬剤、ビタミン剤、滋養強壮変質剤、細胞賦活用薬剤、しゅよう
治療用薬剤、抗生物質製剤、生物学的製剤、生薬、動物用薬剤、カプセル」とし、
平成8年9月27日に商標登録出願がされたものであることは、当事者間に争いが
ない。
(2)審決は、「D-Fraction」又は「Dフラクション」の語は、「マイタケの熱
水抽出物で得られた酸不溶性、アルカリ溶性の分枝鎖を持っている多糖体のこと」
を示すものであるから、本願商標の指定商品に接する取引者、需要者は、本願商標
が、「マイタケ」より抽出された物質を表したものと理解し、認識するとみるのが
相当であると認定するところ、原告は、「D-Fraction」又は「Dフラクション」の
語は、特定の物質を示す意味をもって学会等で定着している語ではなく、学会発表
ないし論文発表に際し、一時的かつ暫定的に命名されたいわば仮称にすぎず、審決
のいうように「マイタケの抽出物」を表す語ではない旨主張する。
 そこで、「fraction」の語について辞典類における記載を見ると、「マグ
ローヒル科学技術用語大辞典第3版」(平成8年9月30日株式会社日刊工業新聞
社発行、甲第2号証)には「混合物から分離できる一部分」と記載され、「科学技
術25万語大辞典英和編」(昭和58年6月15日株式会社インタープレス発行、
甲第3号証)には「画分〔かくぶん〕・・・留分(蒸留)〔りゅうぶん〕」と記載
されている。また、医薬関係の専門誌を見ると、昭和62年発行の「Chemical&
PharmaceuticalBulletin.Vol.35」所載の「シイタケ(LentinusEdodes)子実体の抗
しゅよう作用 経口的にネズミに投与」(甲第4号証、原文は英語)には「粉状の
シイタケの子実体(A)は、B、C、D、Eの4つのフラクションに分けられた」
(2455頁10行目)と記載され、「ALTERNATIVE&COMPLEMENTARYTHERAPIES-
FEBRUARY1998」所載の「シイタケ 主要な薬効キノコ」(甲第5号証、原文は英
語)には「粉状のキノコが数個のフラクションに細分された場合、レンチナンを含
む溶解性多糖類から構成される、Cフラクション(液状のフラクション)とDフラ
クションは、経口的に摂取される最も活性的なフラクションである」(54頁右欄
18行目~23行目)と記載されている。そして、静岡大学名誉教授農学博士水野
卓作成の陳述書(甲第6号証)には「“D-フラクション”という言葉は、しばし
ば研究者が、抽出画分の仮称として、研究論文の中で使用する言葉であって、マイ
タケの研究に限って使用される言葉でも、特定物質の名称でもない」と記載されて
いる。
 上記各記載を総合すれば、「fraction」の語は、本来「混合物から抽出さ
れる一部分(画分)」を意味する医薬関係の科学技術用語であり、ま
た、「D-fraction」の構成部分中の冒頭の「D」はアルファベットの4番目の文字で
あることから「4番目」を意味し、「D-fraction」は「混合物から抽出される4番
目の画分」を意味する医薬関係の科学技術用語であることが認められる。
(3)ところで、一般に商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠
くとされるのは、このような商標は多くの場合自他商品の識別力を欠き、商標とし
ての機能を果たし得ないものであるとともに、商品の原材料名又は品質にあって
は、取引上必要不可欠な表示として取引者、需要者に伝達する必要があることか
ら、特定人による独占使用を認めることが公益上適当でないとの趣旨に出たもので
ある。したがって、指定商品の取引者、需要者に原材料名又は品質として認識され
る可能性があり、これを特定人に独占使用させることを不適当とする公益上の理由
がある場合には、同号にいう原材料又は品質の表示に当たると解するのが相当であ
る。そして、本願商標の指定商品は、上記のとおり商標法施行令別表の区分による
第5類「中枢神経系用薬剤、アレルギー用薬剤、循環器官用薬剤、呼吸器官用薬
剤、ビタミン剤、滋養強壮変質剤、細胞賦活用薬剤、しゅよう治療用薬剤、抗生物
質製剤、生物学的製剤、生薬、動物用薬剤、カプセル」であるところ、これら商品
の取引者、需要者は、医師、薬剤師等の医療専門家に限られず、患者あるいは健康
な者であっても、自らの意思と支出においてこれらの商品を購入することがあるか
ら、本願商標の指定商品の需要者には、医師、薬剤師等の医療専門家のみならず、
患者及び健康維持等のためこれらの商品を購入する一般人の消費者をも含むものと
認めるのが相当である。
 そこで、「D-fraction」又は「D-フラクション」の語が一般にどのよう
に用いられているかについて検討することとする。
 まず、新聞について見ると、平成6年4月21日付け東京スポーツ(乙第
1号証)には「神戸女子薬科大学微生物研究室の難波宏彰教授が免疫機能を活性化
させることによってエイズウィルスの活動を強力に抑える『Dフラクション物質』
の開発に成功、アメリカの学会でも熱い注目を集めているという」、「Dフラクシ
ョンはキノコの一種、マイタケから抽出したもの」との記載が、平成8年10月1
日付け夕刊フジ(乙第2号証)には「マイタケから抽出された成分(D-フラクシ
ョン)には、抗腫瘍効果がある」との記載が、平成8年4月22日付け読売新聞夕
刊東京版の記事情報(乙第5号証)には「マイタケがエイズに効果」の見出しの下
「マイタケ中の『D-フラクション』という多糖体の一種に、免疫力を活性化する
働きがあり、この成分が抗エイズ効果をもたらすようだ」との記載が、平成9年1
0月3日付け毎日新聞朝刊東京版の記事情報(乙第6号証)には「『マイタケ』か
らはがんの発生や増殖、転移を阻止する物質『D-フラクション』が抽出され、動
物実験で効果が確認されている」との記載が、同年12月7日付け日刊スポーツの
記事情報(乙第7号証)には「プレゼント・・・『マイタケエキスDフラクショ
ン』を5人に」、「中高年の健康維持にお勧めのサプリメント『マイタケエキスD
フラクション』・・・を発売。マイタケの成分は多糖体が豊富で核酸やビタミン、
ミネラルを含有。この『マイタケエキス──』を5人にプレゼント」との記載が、
平成9年4月16日付けの日本経済新聞(乙第9号証)には「雪国まいたけは免疫
力を高める成分であるDフラクションを、マイタケから安定的に抽出することに成
功した。・・・Dフラクションはがんを抑える効果があるという」との記載が、同
年6月5日付け日本農業新聞(乙第8号証)には「マイタケの持つ成分が、体に備
わった免疫機能を活性化させ、がんを抑制する・・・『βグルカンの成分の一つ、
D-フラクションが、腫瘍(しゅよう)に対し最も作用が強い』と同教授(注、難
波教授)」との記載がある。雑誌では、週刊現代(平成9年3月15日号、乙第1
0号証)には「マイタケの中に、強力に免疫力を高める成分が含まれていることが
わかった」、「現在、アメリカでは3000人もの医師が『Dフラクション』を臨
床に使っているという」(176頁3段2行目~17行目)との記載が、安心(同
年7月号、乙第11号証)には「マイタケにも、免疫増強作用と抗腫瘍作用が認め
られています。・・・その働きの中心になっているのが、Dフラクションと呼んで
いる物質です」(54頁2段10行目~17行目)との記載がある。また、一般の
書籍では、平成7年6月10日株式会社菜根出版発行、難波教授著「舞茸の世界」
(乙第3号証)には「マイタケ抽出物(Dフラクション)マイタケの熱水抽出物で
得られた酸不溶性、アルカリ溶性の分枝鎖を持っている多糖体のこと」、「現在ア
メリカのいくつかのガン治療専門病院で、マイタケ抽出物(Dフラクション)と化
学療法を併用した臨床試験が行われております。・・・マイタケ抽出物(Dフラク
ション)は直接ガン細胞を殺すものではありません。しかし人体の自然治癒力であ
る免疫システムを強化します」(41頁)との記載が、同年11月13日同社発
行、同教授著「舞茸の代替療法域」(乙第4号証)には「マイタケ
の“D-fraction”の経口投与による抗腫瘍機作」(61頁1行目~2行目)、「マ
イタケからの抽出成分(D-fraction)の経口投与によって免疫応答を示す細胞によ
る抗腫瘍作用の実験をし(た)」(62頁20行目~22行目)との記載がある。
 これらの新聞記事及び雑誌記事は、「Dフラクション」又は「D-フラク
ション」が、いずれも「マイタケの抽出物」であるとした上、人体の免疫機能を活
性化させることによってエイズウィルスの活動を抑える(乙第1、第5号証)、免
疫力を活性化させ、がんの発生や増殖、転移を抑制する(乙第2、第6、第8~第
11号証)、健康維持にお勧めのサプリメント(乙第7号証)など、様々な効能を
有する医薬品ないし健康食品として紹介するものであり、上記各書籍の記載
も、「D-fraction」又は「Dフラクション」について、「マイタケの抽出物」であ
り、人体の免疫機能を良くし、がんなどに抑制効果があるという内容のものであ
る。このうち上記の各書籍の発行部数は明らかではないが、各新聞及び雑誌は、い
ずれも多くの発行部数を有する一般的なものであることは当裁判所に顕著であり、
その発行日は、特定の一時期に集中したものではなく、平成6年4月から平成9年
10月まで長期間に及んでいる。以上の事実によれば、我が国において、本願商標
に接する指定商品の取引者、需要者は、「D-fraction」又は「Dフラクション」を
本願商標の指定商品であるしゅよう治療用薬剤などの原材料と認識し、少なく
とも、これら商品の原材料として認識する可能性があり、また、「D-fraction」又
は「Dフラクション」をこれら商品の原材料として含むという意味で品質の表示と
して認識する可能性があるものと認めることができる。
 加えて、証拠(甲第13、第14号証、乙第6、第7、第9号証)によれ
ば、我が国において、複数の企業が、がん治療に効果があるとして、「マイタケの
抽出物」を含む健康食品を製造、販売し、これに「D-フラクション・エキス」、
「スーパーD-フラクション」、「MDフラクション」、「マイタケエキスDフラ
クション」など、本願商標「D-fraction」の構成中の「fraction」の部分の表音を
片仮名文字で表記した「D-フラクション」又は「Dフラクション」を含む名称を
商品名として使用していることが認められる。そうすると、「D-fraction」の構成
からなる本願商標を、ビタミン剤、しゅよう治療用薬剤等を含む本願商標の指定商
品について特定人に独占使用させることは、その者を他者より不当に有利な立場に
立たせることになるから、公益上不適当というべきである。
 したがって、本願商標は、商標法3条1項3号にいう原材料又は品質の表
示に当たると解するのが相当である。
(4)原告は、マイタケの子実体より特定の抽出方法で得た抗しゅよう作用等を
有するタンパク質を含む多糖体は、学者によって若干の差異はあるが、いずれの学
者も「βグルカン」の語を用いており、「D-fraction」又は「Dフラクション」が
マイタケから抽出された特定物質を示すものではないことは、マイタケを対象とし
た「D-fraction」は「MD-fraction」又は「MDフラクション」と呼ばれていること
からも明らかであると主張する。
 確かに、平成10年5月1日成美堂出版株式会社発行の「さわやか元気5
月号」(甲第7号証)においては、マイタケから抽出された抗がん作用に関わる成
分について、「『多糖類β-D-グルカン』の一種」(120頁3段5行目)及び
「β-D-グルカン蛋白複合体」(121頁1段11行目~12行目)の語を用
い、昭和62年4月30日精糖技術研究会発行の「精糖技術研究会誌第35号」所
載の「マイタケ子実体の多糖類」(甲第8号証)においては、マイタケ子実体から
抽出された成分について、「β-(1→3)-D-グルカン」(85頁本文18行
目)の語を用い、「Chemical&PharmaceuticalBulletin.Vol.33」所載の「培養の
グリフォラフロンドサの粒状の菌糸体のエキスに見られる構造的性質と抗しゅよう
作用」(甲第9号証、原文は英語)においては、「グリフォラフロンドサ(Grifola
frondosa)」(甲第20号証によればマイタケをいうものと認められる。)の子実
体から抽出された抗しゅよう活性を有する成分について、「β-1,3グルカン」
(3395頁~3400頁)の語を用いている。また、平成10年6月7日現代書
林発行のシャリ・リバーマン著「ガン、糖尿病と闘うマイタケD-フラクション」
(甲第10号証)においては、「マイタケ『D-フラクション』とは、マイタケを
熱水抽出することによって得られる特有の画分をベースに開発された商品で、(注
射ではなく)経口服用で最も効果が得られるように工夫されたものです。もっと詳
しく言うならば、活性β-グルカンを主体とした多糖タンパク複合体です」(77
頁11行目~78頁2行目)、「東京薬科大学の宿前先生・・・はその後、このマ
イタケ・エキスをGrifolanと名付け、子実体のみならず、菌糸体から得られる成分
がβ1・3グルカンという多糖体であることを発見しました」(96頁10行目~
97頁5行目)との記載が、さらにまた、特公平6-99320号公報(甲第11
号証)においては、「抗エイズウイルス活性を有する硫酸化βグルカンのレトロウ
イルス感染症治療用薬剤」(【発明の名称】)、「マイタケ子実体及び菌糸体中に
含まれる・・・β-1.6グルカンおよび・・・β1.3グルカンを硫酸化して得
られるマイタケ由来の硫酸化多糖タンパク体が・・・硫酸化βグルカンのレトロウ
イルス感染症治療用薬剤」(1欄【特許請求の範囲】【請求項1】)、「マイタケ
中に存在するβ-グルカン-タンパク多糖体は明らかにHIVによる細胞変性を抑
制することが判明した」(8欄【発明の効果】)との記載がある。
 しかしながら、上記甲第7号証の「マイタケの場合もタンパク質と結合し
た、このβ-D-グルカンが含まれており、この物質が抗ガン作用に関わっている
わけです。多糖類β-D-グルカンは、ブドウ糖が連なった高分子物質です」(1
20頁3段7行目~12行目)の記載及び上記乙第8号証の「マイタケの持つ成分
が、体に備わった免疫機能を活性化させ、がんを抑制する・・・『βグルカンの成
分の一つ、D-フラクションが、腫瘍(しゅよう)に対し最も作用が強い』と同教
授(注、難波教授)」(1段1行目~5段6行目)との記載によれば、マイタケか
ら抽出された「D-fraction」又は「D-フラクション」と呼ばれる成分は、「βグ
ルカン」の一種であることが認められるから、上記の各記載は、「D-fraction」又
は「Dフラクション」がマイタケから抽出された成分を示す語として一般に使用さ
れていることと相容れないものではないことが明らかであり、これらの記載
は、「D-fraction」又は「Dフラクション」がマイタケから抽出された成分を示す
語としては使用されていないことの根拠とはならないから、原告の上記主張は失当
である。
 また、平成10年3月20日株式会社法研発行の難波教授著「がんに挑む
舞茸」(甲第12号証)には「マイタケの子実体に含まれる物質を精製していくと
さまざまな物質が得られ、これを順番にA・B・C・Dと名付けていきました。そ
の結果、最終的に得られた抽出物である、マイタケのD画分に強い抗腫瘍性がみら
れたことから我々はこの画分をマイタケのD-フラクション、マイタケの頭文字の
MをとりMD-フラクションと名づけ、一九八八年の日本薬学会誌に発表しまし
た」(33頁2行目~6行目)、「私たちはこのマイタケのペプチドグルカンを、
四番目の抽出で得られた物質であることから、『マイタケ・D・フラクション』略
して、『MD-フラクション』と名づけました」(40頁9行目~11行目)との
記載が、平成9年5月1日付け夕刊フジ(甲第13号証)には難波教授の発表とし
て「MD-フラクションとは、まいたけの熱水抽出物で得られた酸不溶性、アルカ
リ溶性、アルカリ溶性質の分枝鎖を持っている多糖体のこと」との記載が、平成1
0年4月22日付けスポーツ報知(甲第14号証)には「市販の錠剤に含まれるM
Dフラクションの量」との記載が、平成11年1月7日付け「健康産業流通新聞」
(甲第15号証)には「マイタケから熱抽出したMDフラクション」、「このマイ
タケのMDフラクション」、「マイタケには、MDフラクションの他」などの記載
が、平成10年11月1日成美堂出版株式会社発行の「さわやか元気11月号」
(甲第16号証)には「マイタケから抽出したMD-フラクションのエキス」(2
07頁3段19行目~20行目)、「マイタケのMD-フラクション」(208頁
3段22行目~末行)などの記載があり、これらによれば、マイタケから抽出した
抗しゅよう性を有する成分について、「MD-フラクション」又は「MDフラクシ
ョン」の語も使用されていることが認められる。しかし、上記に認定したように、
多くの新聞、雑誌及び一般の書籍において、マイタケから抽出した成分につき、
「Dフラクション」、「D-フラクション」又は「D-fraction」の語が使用されて
いるのであるから、これらの各記載は、本願商標に接した指定商品の取引者、需要
者が、「D-fraction」又は「Dフラクション」を本願商標の指定商品であるしゅよ
う治療用薬剤などの原材料と認識し、少なくとも、これら商品の原材料又は品質の
表示として認識する可能性があるとの上記認定判断を左右するものではない。
(5)さらに、原告は、本願商標は、米国におけるマイタケエキスの普及、販売
に関するパイオニアである原告によって採択され、現に使用されている商標であ
り、同国においては、本願商標は商品の品質を表す語としては認識されておらず、
自他商品識別力のある標章として認識されているから、我が国においても、本願商
標は自他商品識別力のある標章として認定されるべきであると主張する。平成10
年6月7日現代書林発行のシャリ・リバーマン著「ガン、糖尿病と闘うマイタケD
-フラクション」(甲第10号証)には「キノコについてはまったくの処女地米国
で、マイタケの旋風を巻き起こし、『D-フラクション』のブームに火をつけたの
は、ニューヨークに住むA(注、原告代表者)を中心とした日本人だった」(34
頁末行~35頁2行目)、「ここで期待通りの結果を得たA氏は、マイタケの薬効
を米国で普及することを決意し、投資銀行を辞め数人の仲間とマイタケ・プロダク
ツ・インク(注、原告)を設立した」(36頁12行目~37頁1行目)、「一九
九六年にマイタケ・プロダクツ・インクはカプセル錠の『D-フラクション』を一
般向けに発売し、すぐさま・・・三〇〇〇店以上のフランチャイズを持つGNCで
の取り扱いを決めるなど、小売業界でも健康補助食品の人気商品として、短期間に
その地位を築い(た)」(45頁8行目~11行目)と記載され、また、甲第17
号証によれば、原告は、「MAITAKED-FRACTION」からなる、米国商標登録第201
2571号商標(登録日1996年(平成8年)10月29日、使用開始日199
5年(平成7年)9月25日、商取引における使用開始日同日)の商標権者である
ことが認められる。しかし、上記事実によっては、本願商標が、我が国において、
自他商品識別力を欠くとする上記の認定判断が左右されるものでないことは当然で
あるし、また、商標法3条2項の使用による自他商品識別力の獲得については、審
判において何ら主張、判断がされていないから、原告の上記主張も失当である。
(6)以上検討したところによれば、我が国において、本願商標をその指定商品
に使用しても、単に商品の原材料又は品質を表示するにすぎず、また、これを当該
原材料、品質を有しない商品に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさ
せるおそれがあり、本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当
するとした審決の判断は正当というべきである。
 2 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき
瑕疵は見当たらない。
   よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並
びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、
民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 宮  坂  昌  利

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