弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一の上告趣意第一点第二点について。
 所論第一点は憲法三一条違反を主張するが、その実質は第二点において主張する
刑訴四〇〇条但書の解釈の問題に過ぎないから刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 そして所論第二点にいう刑訴四〇〇条但書は、控訴裁判所が訴訟記録及び第一審
で取り調べた証拠のみにより直ちに判決することができると認める場合でも、常に
事実の取調をした上でなければいわゆる破棄自判ができない旨を定めたものでない
と解する趣旨は、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(あ)第二九八
一号同二六年一月一九日第二小法廷判決、集五巻一号四二頁。昭和二五年(あ)第
三四五〇号同二六年二月二二日第一小法廷決定、集五巻三号四二九頁。昭和二七年
(あ)第五九七号同二九年六月八日第三小法廷判決、集八巻六号八二二頁各参照)。
従つて所論は採用することはできない。
 同第三点について。
 所論は、原審が第一審の訴訟記録を書面審査しただけで有罪判決を言渡したのは、
公開裁判の原則に反し憲法三七条一項に違反すると主張する。しかし記録を調べて
みると、原審は刑訴法に従つて公開の審理を行い、弁護人及び検察官の弁論のほか
特に被告人の陳述をも聴いた上で判決をしたことが認められるから、所論は前提た
る事実を欠く主張であつて失当である。(昭和二八年(あ)第二一三号同三〇年四
月五日第三小法廷判決参照)。
 同第四点について。
 原判決は、第一審判決を破棄自判するに当り、所論の検察官に対する各供述調書
謄本を証拠として引用していることは所論のとおりである。しかし記録を調べてみ
ると、第一審公判廷で右供述調書謄本の各供述者を証人として喚問し被告人にその
審問の機会を十分に与えていることが認められる。それ故違憲の主張はその前提を
欠くことに帰し採用することはできない(昭和二九年(あ)第一五三一号同三〇年
二月一〇日第一小法廷決定参照)。
 同第五点について。
 所論は、第一審判決が所論の摘示する検察官に対する各供述調書を証拠とするに
当り、刑訴三二一条一項二号の適用を誤つた違法があり、ひいて憲法三七条二項に
違反すると主張する。しかし記録を調べてみると、所論の各供述調書は、被告人の
検察官に対する不利益な事実の承認を内容とするものであつて、検察官は、刑訴三
二二条により取調を求め、裁判所はこれを採用して証拠調をしたことが認められる
(記録一一九丁裏一二〇丁)。してみれば所論は異なる事実に基いて違法違憲を主
張するに帰し前提を欠き採用に値しない。
 同第六点について。
 所論は、憲法三一条違反をいうけれど、実質は訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四
〇五条の上告理由に当らない。(なお控訴審において第一審判決の量刑不当を理由
とし破棄自判する場合には、第一審判決の認定した犯罪事実及びその証拠を引用す
れば足り、控訴審として改めて事実を認定しこれを判示することを要するものでな
いという趣旨は、当裁判所の判例とするところである。〔昭和二七年(あ)第六三
一六号同二九年四月一三日第三小法廷判決、集八巻四号四六二頁参照〕)。
 同第七点及び第八点について。
 所論第七点は、第一審判決の理由不備を主張するのであつて、単なる刑訴法違反
の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして記録によつて所論の証
拠を調べてみると、第一審判決の判示事実は十分に認められ、所論のような違法は
ない。所論第八点は量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 そして記録を調べてみても、量刑不当とは認められない。
 その他記録を調べても同四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年六月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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