弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件特別抗告を棄却する。
         理    由
 抗告人A同Bの特別抗告の理由の要旨は、
 (一) 本件検察官は、昭和二五年五月三一日の金沢地方裁判所の公判期日にお
いて検察官に対する被害者の供述調書を刑訴法第三二一条第一項第二号後段に基き
証拠として取調を請求したところ同裁判所はこれに対する弁護人の異議申立を却下
して、右提出証拠の取調を決定した。しかしながら、右被害者の検察官に対する供
述調書は被告人に反対訊問の機会を与えずして作成されたものであるから憲法第三
七条第二項に違反し証拠能力のないものであつて、これ等の書類について証拠能力
を認めた刑訴法第三二一条第一項第二号後段は右憲法の条規に違反するものという
べきである。
 (二) 仮りに刑訴法第三二一条第一項第二号後段が違憲無効でないとしても、
本件において被害者C外五名の検察官の面前における各供述調書は右刑訴法所定の
要件を充さないものである。即ち本件においては、同条所定の「公判準備又は公判
期日における供述よりも検察官の面前における供述を信用すべき特別の情況の存し
ない」場合である。従つて、かゝる証拠能力のない検察官の面前における被害者の
供述調書を証拠調することは、刑訴法第三二〇条、憲法第三七条第二項に違反する。
 (三) 検察官は昭和二五年五月一〇日の公判期日において被害者Dの身体鑑定
を申請し同裁判所は右申請を許容し同月三一日の公判期日において鑑定人に鑑定を
命じた。しかしながら、本件において同女の身体鑑定に鑑定の結果如何に拘らず証
拠価値なきに等しいものであつて鑑定すべからざる場合である。のみならず少女の
身体鑑定はその自由を奪い名誉を毀損するものであつて、憲法第一三条に違反する。
 以上金沢地方裁判所は憲法上許容することのできない違法の証拠を証拠調するも
ので、同裁判所裁判官は「不公平な裁判」をする虞れがあるものであるというので
ある。
 ところで、本件特別抗告理由は右のとおり一応憲法違反を主張するが、本件裁判
官忌避申立事件として争点となる事実は、結局金沢地方裁判所が所論の各証拠調の
決定をしたことを以つて同裁判所裁判官が「不公平な裁判」をする虞れがあるとす
るかどうかということである。しかるに、論旨の理由とする憲法違反の各理由は、
いずれも同裁判所がした証拠調の決定そのものに対する非難であつて、斯る事由は
証拠調に対する異議却下決定に対する特別抗告として主張するは格別、本件裁判官
忌避申立事件の却下決定に対する特別抗告理由としてはおよそ的外れの主張といは
なければならない。なんとなれば、論旨のいうが如く刑訴法第三二一条第一項第二
号後段竝びに所論証拠調の各決定が憲法に違反するかどうかという事と、本件の争
点たるべき前記裁判官が「不公平な裁判」をする虞れがあるかどうかということゝ
は自ら別個の問題であつて、直接関係のない事としなければならないからである。
そうして又論旨が所論の事由を以つて金沢地方裁判所が憲法第三七条にいわゆる公
平な裁判所といえないと主張するものであれば、右憲法にいう公平な裁判所とは、
当裁判所が既に屡々判示しているように偏頗でない公平な組織構成を有する裁判所
をいうのであつて(昭和二三年(れ)第一〇一号同年七月一四日大法廷判決)個々
の具体的事件において裁判所が検察官の証拠調の請求に対する弁護人の異議申立を
却下し証拠調の決定をしたからといつて公平な裁判所の裁判を受ける権利を害する
ものといえないこと亦当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第一七一〇号同二三年五
月三日大法廷判決、昭和二四年(れ)第二三〇九号同年一二月二六日第三小法廷判
決)に徴して明である。従つて以上と同旨の判断に出でた原決定は正当であつて論
旨は採用できない。
 よつて刑訴法第四三四条第四二六条第一項後段に従い主文の通り決定する。
 右は、当小法廷裁判官全員一致の意見である。
  昭和二五年八月二九日
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠
 裁判長裁判官長谷川太一郎は差支えにつき署名押印することができない。
            裁判官    井   上       登

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