弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告両名が被告組合の組合員としての資格を有することを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告ら
 主文と同旨の判決。
二 被告
 「原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判
決。
第二 当事者双方の主張
一 請求の原因
1(一) 被告組合は、郵政労働者をもつて組織する組合員数約二三万名の労働組
合であり、その組織は、中央本部を頂点とし、全国一一の各地方郵政局管轄地域ご
とに置かれる地方本部、各府県ごとに置かれる地区本部、その下に置かれる支部を
もつて構成され、別に組合活動の補助組織として地区本部および支部ごとにそれぞ
れ青年部および婦人部が置かれている。そして、被告組合の福岡中央支部(以下、
単に「支部」という。)は、福岡中央郵便局、福岡西郵便局、筑紫郵便局および右
三局区内の特定郵便局で働く組合員をもつて構成され、被告組合規約およびこれに
基づく被告組合福岡県地区本部(以下、単に「地区本部」という。)規約の適用を
受け、決議機関として支部大会および支部委員会、また、執行機関として支部執行
委員会を有している。
(二) 原告両名は、いずれも福岡西郵便局郵便課に勤務する郵政労働者であつ
て、それぞれ支部に所属する組合員である。なお、原告Aは、昭和四二年九月から
同四四年一二月四日まで支部執行委員を、また、原告Bは、昭和四二年九月から同
四四年一二月四日まで支部青年部常任委員をそれぞれ歴任している。
2 被告組合は、原告らが昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号による再
登録申請書を所定の期限までに提出しなかつたことにより自動的に被告組合の組合
員としての資格を喪失したと主張して、原告らを組合員として取り扱わない。
3 よつて、原告らは、被告組合の組合員としての資格を有することの確認を求め
る。
二 請求の原因に対する認否
 請求原因事実は全部認める。
三 抗弁
 被告組合においては、組織的危機の回避のために確立された再登録制度がある。
そして、原告らは、被告組合がその組織維持の必要から支部の再建に不可欠の方策
として昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号により同月二二日を申請書の
提出期限と定めて実施した支部組合員全員に対する再登録申請手続に反対して、そ
の申請書の提出をしなかつた結果、右期限の経過とともに自動的に被告組合の組合
員としての資格を喪失したものであるが、その経緯は、次のとおりである。
1 中央本部指令第二七号を発するまでの経緯
(一) 支部執行部は、昭和四三年頃から支部の運営に政党その他の政治団体の方
針を持ち込み、昭和四〇年以来被告組合の運動方針であつた「総対話・納得づくの
運動、団交重視の闘い」ということに忠実な地区本部と事毎に対立していた。その
ため、このような支部執行部の独善的な組合運営に反発して、昭和四三年暮頃か
ら、福岡中央郵便局内に、「職場を明るくする会」という批判グループが発生した
が、その会の支部執行部に対する批判の要点は、支部執行部の活動が中央本部およ
び地区本部の指導方針から逸脱しているというものであつた。
(二) 地区本部執行委員長Cは、昭和四四年一一月一二日に支部長Dから、「職
場を明るくする会」のメンバー約五〇名が同支部から脱退しようとする動きがある
と聞いて、同支部長に対し、事態の悪化を避けるため、右の会に対する対策につい
ては同委員長自らが当たると言つておいたにもかかわらず、支部執行部は、同委員
長の指導を無視して、翌一三日早朝、「当局の飼犬に転落し、組織を喰いつぶす職
場を明るくする会を粉砕せよ!!」と題したビラを配布した。
(三) そこで、地区本部は、直ちに支部執行部に対し、そのビラの配布の中止を
指示したところ、一一月一五日、支部執行委員会委員および支部青年部常任委員を
もつて構成する支部闘争委員会が開催され、同委員会に支部執行部を指導する立場
で出席したE地区本部書記長およびF地区本部組織部長との間で右指導の当否をめ
ぐる議論が交された。しかし、支部はあくまでも地区本部の指導の撤回を求めたた
め、右両者の意見が対立し、支部から地区本部に対して「1『職場を明るくする
会』に対する地区本部の態度を明確にせよ。2『職場を明るくする会』に対する地
区本部の責任を明らかにせよ。3『職場を明るくする会』に対する指導を明確にせ
よ。」という釈明要求が行なわれた。
(四) そこで、地区本部は、支部に対し、一一月一六日頃、「職場を明るくする
会」につき調査を行なつたうえ、地区本部執行委員会の決定に基づき、同月二〇日
付逓福組第一四号の指導文書をもつて、支部の前記釈明要求に答えるとともに、
「職場を明るくする会」に対する組織対策について指導を行なつた。そして、この
指導の要点は、「職場を明るくする会」が分裂策動を行なつているという事実は認
め難く、その会が発生するに至つた主な原因は、支部執行部の組織運営の誤りにあ
るということを指摘し、被告組合の運動方針である総対話・納得づくの路線に立ち
返つて組合民主主義を回復し、内部対立を克服せよというものであつた。ところ
が、支部執行部は、右文書指導にも従おうとせず、地区本部に対し、同月二二日付
逓福中発第六〇号をもつてなおも釈明要求を繰り返した。
(五) 地区本部は、上部機関の統制を無視した支部執行部の右のような態度に対
しても、強圧的な手段をとることなく、一一月二四日の支部闘争委員会にE地区本
部書記長およびF地区本部組織部長を出席させて、午前一〇時頃から午後四時頃ま
での間粘り強く支部執行部の説得を試みたが、支部執行部は依然として地区本部の
前記指導文書の撤回を迫り、これを撤回しなければ支部執行部の総辞職または地区
本部指導の当否に関する支部臨時大会の開催によつて地区本部に対抗することを通
告してきた。このような支部執行部の総辞職あるいは支部臨時大会の開催は、前記
地区本部指導の当否を支部組合員の投票に問うことに他ならず、組織指導の原則に
反する由々しい問題である。しかし、地区本部が執行委員会の決定をもつて行なつ
た指導を支部の要求に屈して安易に撤回するということは、組合運営について責任
をもつ立場上到底できることではなかつた。そこで、事態の深刻さに苦慮したE地
区本部書記長およびF地区本部組織部長は、その場で態度を決するには事が余りに
も重大であると考え、その対策を地区本部執行委員会に諮るため、前記指導文書を
一応保留することにした。そして、地区本部執行委員会は、同月二六日、右二四日
の支部闘争委員会に関する報告を基に地区本部の支部に対するこれまでの組織指導
の取扱いについて討議した結果、これまでの地区本部の指導方針を再確認するとと
もに、同日、中央本部および九州地方本部にその顛末を報告し、指導を要請した。
(六) さらに、事態を重視した中央本部は、一一月二六日、G中央執行委員を福
岡に派遣して調査に当たらせたが、同執行委員は、まず同日に予定されていた支部
闘争委員会を延期させて、同日から同月二九日までの間調査を行ない、その調査の
結果とこれに基づく指導方針を、同月三〇日の深夜に、中央本部組織部長Hに報告
した。そこで、中央本部は、中央執行委員会の決議を経て、同年一二月一日付をも
つて、いわゆる中央本部指導九項目を発したが、その指導九項目の要点は、「1支
部の職場闘争および組織対策については、支部執行部は当分の間地区本部の指示・
指導に従うべきであること。2役付組合員および『職場を明るくする会』に対する
組織対策は、当分の間地区本部が行なうこと。3闘いの大衆化を図り、納得づくの
運動路線を展開することによつて、職場の一集団的運動形態による不団結の要因を
克服するため、職場内において組合員相互間の嫌がらせや、暴言・暴力行為を排除
するとともに、総対話運動を強化すること。4労働組合の支部と政党支部とは明確
にその性格を異にする別人格であるから、労働組合の組織運営について、労働運動
と政治活動とを混同し、大衆との関わりなどに無頓着に労働組合の組織問題につき
主観的批判を行ない介入するが如き行為は、何人であろうとも容認するこができな
い。」というものであつた。そこで、G中央執行委員は、同年一二月一日開催の支
部闘争委員会に、I九州地方本部執行委員長代行、C地区本部執行委員長、E地区
本部書記長およびF地区本部組織部長とともに出席し、その席上支部執行部に対し
右本部指導九項目を伝達した。これに対し、支部執行部は、不満の意を表明して、
議論が戦わされたが、最終的には、右本部指導に従うということで、組織紛争は漸
く解決したかにみえた。そして、翌二日には、C地区本部執行委員長およびE地区
本部書記長とJ支部書記長とが、指導九項目の実施細目について協議を行ない、そ
の結果、特に指導九項目の周知方法については、中央本部あるいは地区本部の名で
これを公表すると支部組合員が支部執行部に対して不信を抱くことになりかねない
ので、支部執行部が分会長会議を通じて口頭で一般組合員に周知させることにした
いという支部執行部の希望を、中央本部の諒解を得たうえ、地区本部が容れて、協
議は無事に終了した。
(七) ところが、D支部長は、翌一二月三日午前一〇時頃突如、支部役員二九名
のうち執行委員および青年部常任委員各一名を除く二七名全員の辞表を一括してC
地区本部執行委員長に提出した。このような突然の辞表提出は、従来の経過からみ
て背信的行為ともいうべきものであり、殊に被告組合全体として年末闘争の後始
末、年末年始の繁忙対策、総選挙闘争に取り組まなければならない重大な時期に支
部の運営を空白にすることになりかねない行為であつて、被告組合に対する支部役
員の責任上決して許されることではない。そこで、地区本部は、辞表を提出した支
部役員に対してこれの撤回を求めることにし、C地区本部執行委員長およびE地区
本部書記長が、D支部長およびJ支部書記長に対し、午前一〇時半頃から午後六時
半頃までの約八時間に亘り条理を尽くして説得したところ、翌日正午までに辞表が
撤回されたときは辞表の提出がなかつたものとして処理したいというC地区本部執
行委員長の言葉を受けて、D支部長らが、他の役員らと相談したうえ返事をすると
答え、一応再考することを約束したものの、D支部長は、翌四日正午頃、E地区本
部書記長に対し、辞表撤回の拒否を通告するとともに、以後一切の支部執行業務か
ら手を引くことを表明した。
(八) そこで、地区本部は、直ちに、東京で開催中の全国地区本部代表者会議に
出席していたC地区本部執行委員長を通じて中央本部に事の次第を報告したとこ
ろ、中央本部は、支部に対し、一二月四日付で次のような中央本部指令第二二号を
発した。すなわち、「1地区本部執行委員会は、支部の新執行部が成立するまでの
間、支部における代表権、団体交渉権、組織運営に関する業務などの支部執行業務
を代行せよ。なお、残留したF執行委員は、地区本部執行委員会の指示に従つて行
動せよ。2支部組合員は、支部新執行部発足までの間、地区本部執行委員会の指示
に従つて行動せよ。3中央執行委員会が一二月一日に指導した当面の組織対策九項
目については、本指令と併せて実行するとともに、支部組織の再建に努力せよ。4
辞任した支部執行委員会は、その所有する一切の財産を地区本部執行委員会に引き
継げ。地区本部執行委員会はこの財産を新執行部に引き継ぐまでの間これを管理せ
よ。」というものであつた。そして、地区本部に対し、支部執行業務の代行および
支部組織の再建を命じた。しかし、原告らを含む支部の旧役員は、同調者らととも
に、右本部指令第二二号による中央本部の組織対策に反対し、「反合理化労働者連
絡協議会」という団体名で、同年一二月六日頃から連日に亘り、支部旧執行部を支
持し、上部機関の指導を非難するビラを支部組合員に配布した。他方、中央本部指
令第二二号によつて支部組織の再建を命ぜられた地区本部は、新執行部の選出は年
末年始の繁忙期間中は困難であるので、これを翌年一、二月頃に行なうこととし、
支部組織再建活動の手始めとして、一二月八日、支部分会長会議を招集して、中央
本部指令第二二号の趣意の滲透を図り、また、同月九日から同月一二日までの間一
般組合員に対し右指令内容の滲透を図る目的で、対話形式によるオルグ活動を行な
つたが、支部組合員にとつて身近な関係の支部執行部と比較的疎遠な関係の上部機
関との間の対立が続いた後に前記のような「反合理化労働者連絡協議会」名義のビ
ラが配布されているような状態のもとでは、地区本部の手不足という事情も加わつ
て、右オルグ活動は十分な効果を収めることができなかつた。
(九) そこで、地区本部は、中央本部に対し、本部オルグの派遣を要請したとこ
ろ、中央本部は、年末年始の繁忙明けの昭和四五年一月一四日から同月一八日まで
の間、中央執行委員七、八名を派遣して、地区本部執行委員らとともに、従来例を
みない周到な計画のもとに、少人数の対話形式によるオルグ活動を行なつた。しか
し、いわゆる支部旧執行部派の組合員は、中央本部の右オルグ活動に対し、「本部
が大量の資金をもつて組合員を買収している。」という意識的なデマ宣伝を行なう
とともに、「オルグに参加するな。」という働きかけを行ない、さらに、右オルグ
に先立ち旧執行部支持の署名活動等を行なつたため、右オルグに対する支部組合員
の集りは悪く、支部組合員数の六〇パーセント程度に止まつた。しかも、オルグに
出席した者も、旧執行部派がテープ・レコーダーを持ち込むなどして自由な発言を
封じたこともあつて、右の本部オルグも不成功に終つた。
(一〇) ここに至つて、被告組合は、被告組合員として行動する意思を有する支
部組合員の範囲を確定するため、支部組合員全員を対象とした、「被告組合の綱
領、運動方針、被告組合中央本部の組織指導九項目および中央本部指令第二二号を
遵守し、組織の団結を固め闘うことを確認する」旨の記載のある「団結確認書」と
題する書面による署名活動を行なうことを決定した。そして、支部の組織の混乱に
関する対策を討議するために開催された九州各地区本部の三役会議において地区本
部を全面的に支援することを決定し、次いで、同年二月七日頃、地区本部内二四支
部の三役会議において、支部組織の再建方針につき殆ど全会一致の支持を取り付け
た後、翌八日から一一日までの予定で、中央本部、九州地方本部、九州内の各地区
本部の執行委員および地区本部内の各支部の三役からなるオルグ団を編成し、福岡
中央郵便局所属の組合員に対して、右の署名活動を行なつた。ところが、右署名活
動も、支部組合員の旧執行部派組合員に対する気兼ねや、勤務の関係などからして
家庭訪問の方法による他なかつたのであるが、旧執行部を支持しない者、さらには
積極的に署名に応じた者までも旧執行部派組合員による後難を恐れて道案内を拒
み、また、旧執行部派組合員の反対運動に対する気兼ねや迷いなどもあつて、右署
名活動は進まず、予定期間内に集め得た署名は、福岡中央郵便局所属の組合員約五
〇〇名のうち約二〇〇名に過ぎず、そのためさらに期間を延長して同月一六日まで
署名活動を行なつたものの、結局三〇〇名前後に止まつて、右署名活動もまた不成
功に終つた。
2 組合員資格の停止および仮制裁
(一) このままで推移すれば、支部は単なる分裂に止まらず、その組織が完全に
崩壊し、さらには当時使用者側が積極的に行なつていた被告組合の組織全体に対す
る切崩工作とも相まつて、被告組合の全組織にまで深刻な悪影響の及ぶことは避け
難い状勢であつた。このような組織全体の危機に際会して、被告組合は、支部の組
織の再建のために、被告組合規約第二三条(「1中央執行委員会は役員(会計監査
を除く。)で構成し、全国大会および中央委員会の決議を執行し、又緊急事項を処
理する。2中央執行委員会は、すべての決議と緊急事項の処理について必要ある場
合は、中央執行委員会の議を経て中央執行委員長名による指令指示を発する権限を
有し、全国大会と中央委員会に責任を負う。3〈省略〉。」)によつて中央執行委
員会に付与された緊急事項処理の権限に基づき、同年二月一七日、中央執行委員会
において、緊急非常の処置として、支部組合員全員に対して被告組合員としての資
格を一時停止し、改めて、「被告組合の綱領、規約、運動方針、機関決定、指令、
指導を守り忠実に行動する。」ことの確認を求める再登録申請書を同月二二日まで
に提出させ、この再登録申請に基づき、同月二三日から三月二日までの間に被告組
合の組合員としての適格性を審査し、再登録を承認された組合員については、既に
団結確認書を提出した者とともに、組合員として取り扱い、これら組合員をもつて
支部の再建を図ることを決定し、なお、原告両名を含む旧支部役員および青年部常
任委員二三名については、既に詳述したような一連の行動により、中央本部に敵対
して組織を混乱に陥れた旧執行部派の首謀者として、被告組合規約第四四条(「組
合員で次の各号に該当するものは制裁をうける。一、組合の綱領、規約および組合
機関の決定に違反したとき。二、組合の名誉を著しく汚す行為のあつたとき。三、
組合の秩序をみだしたとき。四、正当な理由がなく組合費および準組合費の納入を
三カ月以上滞納したとき。」)に該当するので、同規約第四八条第一項(「制裁に
ついて極めて緊急なるものと審査委員会が判断した場合は、規約第四六条の定めに
かかわらず、審査委員会は中央執行委員会の議を経て、仮りの制裁を行うことがで
きる。」)に則り、無期限の権利停止の仮制裁を行なうことを決定し、その旨の同
日付中央本部指令第二七号を発した。
(二) 同年二月一七日当時支部が分裂状態にあつたことは、その直後の同年二月
一八日に支部組合員八七名が全福岡中央郵便局労働組合を結成して、同月二四日脱
退届を一括提出し、また、これとは別に同年三月四日支部組合員約二〇名が福岡中
央郵便局労働者労働組合を結成した事実だけからしても明らかなところであるが、
同年二月一七日当時においては、右のような分裂グループのメンバーと被告組合に
留まる者との区分も、前述のような団結署名活動に対する原告ら旧執行部派組合員
の妨害活動のために判然とせず、支部は、両者の混在によつて、被告組合の下部組
織としての実体を殆ど失なう程の混乱状態にあつたのであるから、このような場合
には、支部が被告組合の下部組織としての実体を回復するまでの間支部組合員全員
につき被告組合の組合員としての資格が自然停止をきたすものといわなければなら
ない。従つて、中央本部指令第二七号による組合員の資格停止は、右の自然停止を
確認的に宣言したものに他ならない。そして、右中央本部指令第二七号による支部
組合員全員の資格停止は、右指令の文言からも明らかなように、支部の組織再建の
ための緊急かつ非常の処置として行なわれたものであるから、支部組織の再建まで
の間一時的な効力を有するものに過ぎず、後に述べる組合員の再登録手続が完了し
て分裂グループのメンバーと被告組合に留まる者との区分が判明したときには当然
に失効したものであつて、その後は何人に対しても効力を有するものではない。
3 原告らの組合員資格の喪失
(一) 被告組合は、既に述べたように殆ど崩壊状態にあつた支部の組織の再建の
ために、中央本部指令第二七号に基づき、同年二月二二日を期限として、支部組合
員全員を対象とする前記の再登録手続を実施した。この再登録手続は、前述したと
おり、再登録申請書を提出した者につき同月二三日から三月二日までの間に審査を
行ない、これに合格した者のみを被告組合の支部組合員として取り扱い、期限内に
申請書を提出しなかつた者はもとより、審査に合格しなかつた者についても被告組
合の組合員として取り扱わないという趣旨のものであつた。そして、その後、支部
の再建は、原告ら旧執行部派組合員の妨害活動にもかかわらず順調に進んで、三月
三日、再登録組合員五二八名の氏名が公表され、これらの組合員によつて役員選挙
が行なわれ、同月一四日の第一五回臨時支部大会の開催をもつて、その目的を達成
したのである。
(二) ところで、原告らは、いずれも前記の組合員再登録申請手続に反対し、再
登録申請書の提出をしなかつたものであるから、申請書の提出期限である昭和四五
年二月二二日の経過とともに自動的に被告組合の組合員としての資格を喪失したも
のである。
4 なお、被告組合においては、従前にも組織的な危機の生じたことがあり、これ
を回避するために支部執行権の停止・支部組合員の再登録を行なつた先例がある。
このような経過のもとに、本件当時再登録制度が確立されていた。そして、その経
緯は、次のとおりである。
(一) 東京地区本部羽田空港支部の場合
 羽田空港支部執行部は、かねてから全国大会で決定された被告組合の運動方針を
「戦わない方針」であるとしてこれに従わず、また、三六締結権の行使について
も、中央本部の指令に違反して、長期間に亘り締結せず、独善的な活動を展開して
いた。このため、直接の上級機関たる東京地区大会および同地区本部執行委員会か
ら再三に亘る注意がなされ、被告組合中央執行委員会からの勧告もあつたが、同支
部執行部は、依然として組織の決定や指導に従わなかつた。かえつて、中央本部指
令や指導方針を守れと主張する組合員に対して、徹底的な個人攻撃を集中する有様
であつた。昭和三八年一〇月に至るや、同支部組合員約二〇〇名中の過半数に及ぶ
一〇六名が、被告組合自体の方針に反対するわけではないが、同支部執行部の機関
決定無視・非民主的独善的指導・三六協定の長期無締結等には耐えられないという
理由で、脱退届を提出した。また、同支部執行部の右のような指導の結果、職場で
の暴力事件が頻発し、当局の行政処分も多発するという混乱状態を招くに至つた。
そして、遂には、職場委員会の決定方針が一般組合員から拒否されるという異常事
態が起きて、執行部の総辞職という組織的壊滅状態になつた。
 ここにおいて、被告組合中央執行委員会は、事態をこのまま放置すれば組織の自
然崩壊という最悪の段階に立ち至るものと判断して、同年一一月二七日、規約第二
三条による緊急事項処理の権限に基づき、指令第一一号(「1 同支部執行権を停
止し、東京地区本部に一任する。2 同地区執行委員会は、同支部全組合員に対し
規約を承認する旨の確認書を提出させる。3 同支部旧執行部役員に対し権利停止
の制裁を行なう。」)を発したのである。
 その結果、ほぼ全員に当たる一九八名が規約確認書を提出し、同年一二月一四日
に再建大会が開催され、漸く同支部の組織的危機を回避することができた。その
後、右指令やこれに基づく処置については、誰からも異議は出されていない。
 ただ、同支部の場合は、組織的混乱収拾のために被告組合中央本部が指令を発し
て行なつたのは、「規約確認申請」と呼ばれているものであつて、その申請書不提
出の効果として組合員資格の喪失が生じることになるか否かは、右指令上では明ら
かでない。従つて、これは、再登録を問題にするときには、先例とはなりえないも
のである。
(二) 東京地区本部石神井支部の場合
 同支部では、昭和三九年始めから同四〇年一一月頃にかけて、執行部が被告組合
の運動方針・組織決定に公然と違反する諸活動を展開した。例えば、被告組合の機
関紙であつて組合員全員に無料で配布すべき「全逓新聞」を同支部内に配布せず、
東京地区本部からの動員要請をも殊更に無視して応じない反面、被告組合と支援・
共闘の関係のない外部組織の活動に同支部組合員を動員し、組合費の一部を中央本
部に納入せず、ほしいままに費消し、同支部定期大会議案書の内容を同支部執行委
員会の討議に付さず、全国大会決定に違反する内容の印刷物を同支部に配布し、同
支部の予算編成を同支部大会の討議に付することを怠り、全国大会決定の運動方針
や指導方針を同支部組合員に周知指導しないなどのことがあつた。しかも、同支部
執行部は右の点に批判的意見を述べる同支部組合員に対してつるし上げ的行動をと
つたので、同支部内には自由に意見も述べられないような非民主的空気が蔓延し、
組合員の同支部組織に対する不信感と不満は無視しえない程に高まつた。このよう
な混乱に乗じて、被告組合の組織の切崩しを狙う郵政省当局の弾圧の動きも察知さ
れた。被告組合の中央本部中央執行委員会は、同支部の民主的運営を確立し、組織
統一を守るため、同支部全組合員から忌憚のない意見を聞き、その結果に基づき同
支部執行部の方針を点検することとして、同年一一月一七日から一斉に職場オルグ
に入つたが、同支部執行部の妨害活動のため、実効をあげるに至らなかつた。
 ここにおいて、中央執行委員会は、同支部の組織が崩壊の危機に直面していると
判断し、非常措置として、同月二〇日付の指令第七号(「1 同支部執行部の執行
権を停止し、新たに執行部が選出されるまでの間同支部の運営管理を東京地区本部
に一任する。2 同支部組合員全員に対し、同地区本部を通じて、中央執行委員会
宛に、被告組合の規約・綱領・運動方針・機関決定・指令を忠実に遵守して行動す
ることおよび被告組合員として再登録することを確認した申請書を同月二四日まで
に提出させる。3 中央執行委員会は、この申請に基づき、再登録申請を承認する
か否かを審査のうえ決定し、この承認を与えたもののみを同支部組合員として認定
する。4 同地区本部は、右認定に基づき、同月末日までに同支部執行部を選出
し、同支部組織の確立を図る。」)を発した。
 右指令に基づき、同支部の組織再建活動が行なわれた結果、同支部の全組合員二
〇三名が再登録申請を行ない、このうち中央執行委員会により承認された一五七名
をもつて同年一二月六日に同支部大会が開かれ、新役員が選出されて、同支部の組
織的混乱は一応の終止符を打つた。
 その後、再登録申請を拒否された者からも、その他誰からも、右の組織運営につ
いて異議の申出はなされていない。
(三) 東京地方本部練馬支部の場合
 同支部では、昭和四一、二年頃から石神井支部の場合と同様の混乱状況が見ら
れ、特に、同支部執行部の統制力の欠如により、組合員と当局管理者との暴力的衝
突が頻発した。その結果、同支部組合員の同支部執行部に対する不信不満の増大、
同支部の諸活動に対する消極性・無関心・反感の蔓延は、組織崩壊寸前の危機と判
断された。そこで、中央執行委員会は、この危機を回避して同支部の組織を再建す
るための非常措置として、昭和四三年八月七日付で指令第四八号(「1 被告組合
規約第四八条に基づき、同支部役員全員の権利を別途復権を認めるまでの間停止す
る。2 同支部組合員全員につき、東京地方本部を通じて、中央執行委員会宛に、
石神井支部の場合と同趣旨の再登録申請書を提出させる。3 中央執行委員会は再
登録申請につき審査、決定、認定をする。4 同地方本部は、右認定に基づき同月
二五日までに練馬支部大会を召集し、同支部組織の再確立を図る。」)を発した。
 右指令に基づき、同支部の組織再建活動が行なわれた結果、同支部組合員の大多
数である二九七名が再登録申請をし、最終的には一九二名が組合員として認定さ
れ、同月二三日に再建大会が開催されるとともに、新役員が選出された。そして、
石神井支部の場合と同じく、何らの異議の申出もなかつた。
(四) 兵庫地区本部西阪神支部西宮郵便局各分会の場合
 同支部は、昭和四一年頃、西宮、芦屋、三田および宝塚各郵便局勤務の被告組合
の組合員約六二〇名で組織されていたが、そのうち西宮郵便局各分会においては、
同年春頃から一部の組合員が被告組合の運動方針に従わず、一揆的な職場闘争を展
開し、このため組合員間の対立が進行するようになつた。
 当時、兵庫地区本部管内では、郵政省当局の被告組合に対する敵視政策、第二組
合造りを背景にして、各郵便局で組織問題が顕在化していたが、遂に三田および宝
塚郵便局では組織が分裂して第二組合が結成された。そして、このままでは分裂の
嵐が各郵便局に波及して、被告組合の組織全体が崩壊しかねないと予想されたの
で、中央本部はもとより同地区本部としても、管内の組織問題については、万全の
態勢を敷いて対処していた。特に、西宮郵便局は、同地区本部傘下でも、神戸中央
郵便局に次ぐ主要局として、三田、宝塚両局に続く組織攻撃の可能性が大きく、同
地区本部が神経をとがらせていた局でもあつた。このような状況下で、西宮郵便局
に前記のような問題が組織内部から出てきたことは、被告組合として見過すことの
できないものを孕んでいた。因みに、当時の同局長のもとで組合員に対する脱退勧
奨、利益誘導、配転等の利益不利益扱い、支配介入等の不当労働行為が続発し、そ
の結果、同年一二月三日遂に第二組合が結成されるに至つた。
 そこで、同地区本部は、同年春から同局問題を重視して、直接にまた同支部執行
委員会を通じて運動の是正を図つてきたが、一向に改善されず、かえつて「スクラ
ム」と称する発行責任者不明の職場新聞が配布されたり、その反対に全逓新聞、同
地区・同支部情報等の被告組合の正式の機関紙が配布されなかつたり、また、職場
抗議に名を借りた役付組合員に対する集団抗議が行なわれたりするなど組合内部の
矛盾拡大行動が相次いで行なわれ、そのため同年九月頃には主事や主任らの中間管
理者を中心とする脱退者が続出するに至つた。しかも、脱退者の言い分は、被告組
合の運動方針自体に異議があるわけではないが、職場の一部グループの運動にはつ
いていけないというものであつた。
 このような事態に至つたため、同地区本部は、同支部執行部と協議のうえ、昭和
四一年九月三〇日に全逓兵庫企第二四号指導文書(「1 西宮局第一集配分会の全
職場委員を解任する。2 職場新聞の発行を停止する。今後の分会運営について
は、当分の間、同地区本部執行委員会が直接行なう。」)なる緊急措置をもつて組
織の再建を図つたが、一部の分会によつて右指導が拒否され、同支部および同地区
本部執行委員会の再検討を迫られて、結果的にはその目的を達することができなか
つた。
 そこで、指示を求められた中央本部は、直ちに中央執行委員を現地に派遣して、
事実調査をしたところ、その結果は、同地区本部の判断と同じく、このまま推移す
れば、組織の崩壊は必至と見られた。そこで、中央本部は、右の調査の結果に基づ
き、同年一〇月六日規約第二三条により緊急非常の措置として、指令第一〇号
(「1 西宮郵便局各分会全組合員の組合員資格を一時停止する。2 右組合員か
ら同年一〇月一一日までに組合員資格の再登録申請を求め、その審査を通じて承認
を受けた組合員をもつて各分会の再建を行なう。3 その間、各分会の運営・管理
権は同地区本部の行なうものとする。」)を発した。
 これによつて、同年一〇月二五日までに三四三名の組合員中三三二名が再登録申
請を行ない、審査の結果、二四七名が組合員資格を承認され、その余は保留された
が、その後の審査の進展により、第二組合に走つた者や退職した者を除く殆どの者
が組合員資格を承認された。このようにして、漸く西宮郵便局各分会の組織の再建
が行なわれたのである。
 被告組合の運動方針に従わず、職場で独善的な運動を展開して組織を混乱に陥し
入れた職場の一部組合員も再登録申請に応じ、その審査を受けて、一部の者は組合
員資格を承認され、少数の者は保留されたままになつたが、いずれにしても被告組
合の中央本部の指令に従わず、その無効を主張する者はなかつた。
(五) 再登録制度の確立
(1) 以上のとおり、被告組合は、下部組織の混乱に際し、組織の崩壊を食い止
めるために、昭和三八年一一月二七日付中央本部指令第一一号による羽田空港支部
の規約確認申請に始まり、昭和四〇年一一月二〇日付中央本部指令第七号による石
神井支部の再登録申請、昭和四一年一〇月六日付中央本部指令第一〇号による西阪
神支部西宮各分会の再登録申請および昭和四三年八月七日付中央本部指令第四八号
による練馬支部の再登録申請に至る一連の方策を実施したが、これらの処置につい
てはその都度中央委員会および全国大会の全会一致の承認を得ている。従つて、福
岡中央支部について本件の再登録指令が発せられた昭和四五年二月頃までには、組
織混乱の収拾策としての再登録制度が確立され、組合員一般の法的確信によつて支
持されるに至つていた。
 さればこそ、昭和四五年二月一七日付中央本部指令第二七号が発せられるや、早
くも翌一八日には、再登録申請書の提出を拒否した支部組合員のうち福岡中央郵便
局所属の八七名が全福岡中央郵便局労働組合を結成し、また、同年三月四日には、
再登録申請書の提出あるいは審査を拒否した者約二〇名が福岡中央郵便局労働者労
働組合を結成するに至つたのである。
(2) そして、右のようにいわば慣習法として成立した組合員再登録制度につい
ては、その後規約第二三条第三項に、中央執行委員会の権限として明文化され、そ
の規約改正は、昭和四九年八月二八日の全国大会において、全会一致で可決されて
いる。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁冒頭の事実のうち、原告らが昭和四五年二月一七日付指令第二七号により
同月二二日を期限と定めて実施された支部組合員の再登録申請手続につき申請書を
提出しなかつたことは認めるが、その余の点は争う。
2 1記載の事実についての認否は次のとおりである。
(一) 同(一)の事実のうち、被告組合が昭和四〇年以来総対話・納得づくの運
動、団交重視の闘いを行なつてきたこと、昭和四三年暮頃から福岡中央郵便局内に
「職場を明るくする会」が結成されたことは認めるが、その余の事実は否認する。
 右会は、「支部は本部方針を無視して運動を進めている。」とか、「地区、中央
本部が要請する動員以外には参加しない。」とか、「支部執行部が勝手に腕章闘争
をやつている。」などと称して、支部執行部の中傷を行なつていながら、その実体
を明らかにせず、加えて被告組合からの脱退工作を進めてきたので、支部執行部
は、右会の行動は組合組織の混乱を招くものであり、組織脱退工作を行なうに至つ
ては組合民主主義に基づき組織的に対処せざるをえないとの判断に達したのであ
る。
(二) 同(二)の事実のうち、支部執行部が昭和四四年一一月一三日早朝「当局
の飼犬に転落し、組織を喰いつぶす”職場を明るくする会“を粉砕せよ!!」と題
したビラを配布したことは認めるが、その余の事実は否認する。
 C地区本部執行委員長が支部に対し職場を明るくする会についての指導をしたこ
とはない。
(三) 同(三)の事実は認める。
(四) 同(四)の事実は認める。
 しかしながら、右指導文書の内容は、地区本部がことさらに職場を明るくする会
の評価を避け、かえつて同会が結成された原因は支部執行部の支部運営に問題があ
るからだというものであつたので、支部としては釈然とせず、そのため、同月二二
日、地区本部に対し、右見解に対する質問を行なつたのである。
(五) 同(五)の事実のうち、支部執行部が、一一月二四日E地区本部書記長お
よびF地区本部組織部長の出席のもとに開かれた支部闘争委員会において、地区本
部の前記文書指導の撤回を迫り、これを撤回しなければ支部の臨時大会を開催する
旨通告したこと、これに対し、E地区本部書記長およびF地区本部組織部長が、そ
の対策を地区本部執行委員会に諮るため、右文書指導を一応保留することにしたこ
と、同月二六日、地区本部執行委員会が開催され、地区本部の従来の指導方針が再
確認されるとともに、同日中央本部に右の経過が報告されたことは認めるが、その
余の事実は争う。
(六) 同(六)の事実のうち、中央本部が一一月二六日G中央執行委員を福岡に
派遣して調査に当たらせたこと、中央本部が同年一二月一日被告主張のとおりの本
部指導九項目を発したこと、同執行委員が、同日の支部闘争委員会において、支部
執行部に対し右指導九項目を伝達し、これに対し、支部執行部が不満ではあるが従
わざるをえないという見解を表明したことは認めるが、その余の事実は知らない。
(七) 同(七)の事実のうち、D支部長が同年一二月三日午前一〇時頃、C地区
本部執行委員長に対し、支部執行委員および青年部常任委員各一名を除く支部役員
二七名の辞表を一括提出したことは認める。しかし、これに対し、C地区本部執行
委員長およびE地区本部書記長がD支部長およびJ支部書記長に対し被告主張の如
き説得を行なつたことは知らないし、その余の主張は争う。
(八) 同(八)の事実のうち、中央本部が同年一二月四日、同日付で被告主張の
如き指令第二二号を発したことおよび「反合理化労働者連絡協議会」という団体名
で被告主張の如きビラが配布されたことは認めるが、原告らを含む支部旧役員が右
ビラを配布したことは否認し、その余の事実は知らない。
(九) 同(九)の事実のうち、旧執行部派の組合員が中央本部の行なつたオルグ
活動に対し、被告主張のようなデマ宣伝を行なつたとか、働きかけをしたという事
実は否認する。支部組合員を対象に旧執行部支持の署名活動が行なわれたことは認
めるが、これは原告ら旧執行部が行なつたものではない。その余の事実は知らな
い。
(一〇) 同(一〇)の事実のうち、被告組合が昭和四五年二月八日から同月一一
日までの間被告主張のような団結確認の署名活動を行なつたこと、さらに期間を延
長して同月一六日まで署名活動を行なつたが、その成果がはかばかしくなかつたこ
とは認める。しかし、被告組合の行なつた署名活動の目的が被告主張の如きもので
あつたことおよび旧執行部派の組合員がその反対運動を行なつたことは否認する。
その余の事実は知らない。
3 2記載の事実についての認否は次のとおりである。
(一) 同(一)の事実のうち、被告組合および支部の組織状況に関する被告組合
の主張事実は否認する。中央本部が右指令によつてとつた措置が緊急事項処理権限
に含まれるという主張は否認する。その余の事実は認める。
(二) 同(二)の事実のうち、支部組合員のうち八七名が二月一八日全福岡中央
郵便局労働組合を結成したこと、また、その余の組合員約二〇名が三月四日福岡中
央郵便局労働者労働組合を結成したことは認める。しかし、その余の事実および主
張は争う。
 被告組合は、指令第二七号による組合員の資格停止は支部の組織混乱の結果組合
員の資格が自然停止していたものを確認的に宣言したものであると主張するが、仮
に支部の組織が被告主張のように混乱していたとしても、組合員の資格が自然に停
止するいわれはない。組合員としての権利の行使および義務の履行が事実上行なわ
れないというのであれば理解しうるが、組合員資格は自然停止にはなじまないもの
である。仮に支部組織の混乱のため組合員の資格が自然停止したというのであれ
ば、その原因となつた混乱が終息した後は再び組合員として取り扱うのが当然であ
る。況や再登録申請者を審査するなどという発想は起こりえない。
4 3記載の事実についての認否は次のとおりである。
(一) 同(一)の事実のうち、支部の再建につき原告ら旧執行部派の組合員が妨
害活動をしたことは否認する。その余の事実は認める。
(二) 同(二)の事実のうち、原告らが再登録申請手続に反対し、再登録申請書
の提出をしなかつたことは認めるが、その結果被告組合員としての資格を喪失した
という主張は争う。
5 4記載の事実についての認否は次のとおりである。
(一) 同(一)の事実のうち、被告主張の日にその主張のような指令が発せられ
たこと、約一九〇名が規約確認書を提出したこと、被告主張の日に再建大会が開催
されたことは認めるが、その余の事実は知らない。
 羽田空港支部執行部は、反対意見と対決し、あるいはこれを説得しながら中央本
部指令を実践してきたが、昭和三六年三月頃から、三六締結権は本来支部にあり、
中央本部の指令で右の締結を強制されることはないという見解のもとに、職場委員
会の決定によつてときには三六協定を締結しないこともあつた。これに対し、被告
組合中央本部は、同支部が三六協定の締結または無協定を統一的に行なうよう警告
したにもかかわらず、これに従わず、被告組合の方針に反対しない組合員にまで脱
退の意思表示を余儀なくさせながら団結維持のため何らの努力もせず、加えて同支
部執行部が総辞職したことなどを主たる理由として被告主張の指令第一一号を発し
た。被告組合中央本部は、同支部の執行権を剥奪すれば組織紛争が終息できるもの
と判断して、右指令を発したが、これには同支部全組合員の資格の一時停止はな
く、また確認書の審査もなかつた。なお、その後の経過を見ると、確認書を形式上
審査したかの如くであるが、実質的審査を行なつた形跡はなく、確認書提出者全員
の資格の継続を認めている。従つて、同支部の場合は、その執行部の執行権を剥奪
しただけで組織紛争は表面上収つて、被告組合中央執行委員会の指令の目的を達し
ている。
(二) 同(二)ないし(四)の各事実のうち、被告主張の日にその主張のような
各指令・指導文書がそれぞれ発せられたことは認めるが、その余の事実はいずれも
知らない。
 西宮郵便局各分会の場合、中央本部指令第一〇号には、同分会出身役員の執行権
の一時停止・再登録承認者の執行権の停止解除等もうたわれている。
(三) 同(五)の事実のうち、被告主張のような規約改正のあつた事実は認める
が、その余の事実および主張は争う。
(1) 羽田空港支部の場合は、組合員の再登録申請というよりは、むしろ同支部
執行部の執行権の排除ということに重点があり、全組合員からは資格継続の確認書
を徴するだけの方式であつた。石神井支部の組織紛争においては、同支部執行部の
排除に加え、同支部の執行部を支持する相当数の組合員がいることに着目し、これ
ら組合員の排除をも目的として、同支部執行部役員に対する権利停止の制裁を省略
し、いきなり同支部の執行権を停止し、地区に代行させると同時に、全組合員の再
登録申請とその審査という方式をとつたものの、未だ全組合員の資格停止という措
置はとらなかつた。その後の練馬支部の場合も、全組合員の資格停止はなく、大体
石神井支部の場合と同様であつた。それが西宮各分会の場合になつて始めて、全組
合員の資格停止・再登録申請・その審査および同分会出身役員の執行権停止という
ことになつた。
 このような変遷を見ると、結局、当初は被告組合中央本部の指令に従わない支部
執行部の排除を目的とした制度に過ぎなかつたものが、被告組合中央執行委員会の
緊急事項処理権限という名目のもとに、組合員の集団的排除をも目的とした制度に
移行し、それも、組合員の資格継続の確認書の提出から再登録申請に、形式的審査
から実質的審査に、組合員資格の一時停止措置をとらなかつたのが全員一律の資格
停止にそれぞれ発展してきたものである。これは、結局、一方的に一般組合員に対
しその資格を停止したうえで、再登録申請という踏み絵を強い、審査基準を公表せ
ずに実質的審査を行ない、いわば反本部派ともいうべき支部役員支持者を、その見
解の相違の故に排除する制度に変容させたというべきである。
(2) 本件の当時組合員の再登録制度が被告組合員の法的確信によつて支持され
ていたという事実は全くない。被告組合に再登録の先例が二、三あつたとしても、
それらはそれぞれ事案を異にしている。また、それらが全国大会で承認されたとい
つても、代議員による全国大会や中央委員会では、過去一年もしくは数ケ月の経過
を報告する長い経過報告の中で、その間に起きた組織紛争の収拾という事実を極く
簡単に触れる程度であつて、再登録制度の可否を論ずる暇はなく、報告全部を承認
し、他の主要議題に移るのが慣例である。しかも、全国大会で承認を受けたからと
いつて、規約に違反した決議が有効になるいわれはない。
 さらに、このような組織紛争の事実は被告組合にとつて不名誉なことと評価され
ているためか、一般組合員にはその詳細が知らされていない。況や、組織紛争にお
ける反本部派の弁明は一切報道されていないため、別地域の組合員が組織紛争の真
相を知ることは不可能に近い。従つて、組合員再登録制度が一般組合員に滲透して
いたという事実は全くない。被告組合以外においても、組合員再登録制度を実施
し、再登録しない者から直ちに組合員資格を剥奪するような労働組合は皆無に近
い。
 なお、被告組合が組合規約を改正して再登録制度を明記したのは、本件訴訟の提
起後である。
五 再抗弁
1 組合員資格の喪失は、被告組合規約第三五条(1、組合員の資格は規約第五条
による郵政労働者であつて規約第三六条により組合に届出をし、中央執行委員会の
承認を得たときにはじまり、規約第三九条による脱退または除名されたときに終
る。2、組合員はいかなる場合といえども、人種、宗教、信条、性別、門地または
身分によつて組合員たる資格を失わない。)、第三九条(1、脱退は次の場合によ
る。一、退職、二、死亡、三、除名、2〈省略〉。3、前項以外の理由により脱退
しようとする者は、脱退の理由をあきらかにし、支部に申し出で、地区本部、地方
本部を経由して中央執行委員会の承認を必要とする。4〈省略〉。)から見ても明
らかなとおり、除名された場合か任意に脱退した場合に限られている。従つて、組
合規約上それ以外の理由により組合員資格を剥奪されないことが保障されているの
である。しかるに、被告組合は、原告らが任意脱退の申出もせず、また、除名もさ
れていないにもかかわらず、単なる行政通達ともいうべき指令第二七号をもつて原
告らの組合員資格を奪おうとしたものであつて、このような措置は、被告組合規約
上許されないものである。
2 指令第二七号は、中央本部および地区本部が、前項に述べた被告組合規約第三
五条第二項および地区規約第三八条第二項(組合員はいかなる場合といえども人
種、宗教、思想、信条、性別、門地又は身分によつて組合員たる資格を失わな
い。)が定めた思想、信条等のいかんによつて組合員資格を失わないとする保障に
反し、被告組合の好まない支部旧執行部役員およびその影響下にある組合員を排除
することを目的とするものであるから、右各規約の各条項および公序良俗に反し、
無効である。
3 指令第二七号は、その資格審査の基準からしても明らかなとおり、支部旧執行
部役員に好意を持つ者は排除されることになつており、思想統制とも称せられるべ
きものであつて、組合の統制処分(指令第二七号は統制処分ではないが、事実上統
制処分としての効果をもつ。)は、具体的な統制違反行為に対してのみ行なわれる
べきであるという原則に著しく悖るものである。従つて、指令第二七号は、この点
においても思想、信条等による差別をしたことになるから、被告組合規約、地区規
約に反し、また、公序良俗にも反するものであつて、無効である。
4 指令第二七号は、組合員の資格停止、再登録申請、審査をその内容とするもの
であるが、組合員の資格停止ということは、被告組合の規約上その根拠がなく、許
されないものであり、ましてや組合員資格の自然停止ということがありえないこと
は、前述したとおりである。また、再登録申請に応じないことを理由として組合員
資格を喪失させるということは、被告組合の規約上許されることではない。さら
に、審査の基準は、前述したとおり原告らの思想、信条等を理由として原告らを被
告組合から排除することを目的としたものであるから、被告組合規約第三五条に反
し、また、公序良俗に反して無効である。従つて、指令第二七号は、組合員の資格
停止、再登録申請、審査のいずれの点においても無効であるが、これらは不可分一
体の関係にあるものであるから、その一の無効は指令第二七号全体の無効をきたす
ことになるといわなければならない。
六 再抗弁に対する答弁
1 再抗弁1の事実のうち、被告組合規約に原告ら主張のような規定があること、
原告らが任意脱退の申出をせず、また、除名されていないことは認めるが、その余
の主張は争う。
 原告らは、被告組合規約に明定された資格喪失事由以外の事由で組合員資格を喪
失するいわれはないと主張する。たしかに、支部の組織が正常な状態にある場合に
は、原告らの主張するとおりであるが、本件にあつては、前述したとおり、支部の
組織が混乱の極に達し、その混乱を収拾するために行なつた中央本部の指導をはじ
めとする上級機関の指導がすべて拒否され、さらに中央本部が指令第二二号を発し
て行なつた本部オルグ、団結確認署名等の支部組織再建のための諸活動も原告ら旧
執行部派組合員の徹底した妨害活動に阻まれた結果、支部は、上級機関の統制から
全く逸脱して被告組合の下部組織としての実体を殆ど失なうに至り、当時当局側が
行なつていた被告組合の組織全体に対する切崩工作と相まつて、九州地方本部傘下
の全組織に悪影響の及ぶことが憂慮される事態となつたため、被告組合は、その組
織の危機を克服すべく、緊急非常の処置として、本件再登録申請手続を実施したも
のである。しかも、本件再登録申請手続は、除名のように組合員の過去の行為を理
由として組合員の資格を一方的に剥奪するものではなく、将来組合の綱領・規約・
運動方針・機関決定・指令・指導を守り、忠実に行動する意思の有無、換言すれ
ば、被告組合員として行動する意思の有無を確認するとともに、その意思確認を拒
んだ者あるいはこれに反対の意思を表明した者を被告組合の組織から離脱した者と
して取り扱うというに過ぎない。このように、再登録申請をしないことによる資格
の喪失は、専ら本人の意思にかかつているのである。さらに、労働組合の規約は、
組合として通常あつてはならない不名誉な事態の発生を予想して、これに対処する
ための規定を設けることをしないのが通常であるから、本件のように組合組織を維
持するために必要止むをえない場合には、組合規約上に明文の規定がなくても、中
央執行委員会はその緊急事項処理の権限に基づき、組合員の再登録手続を実施する
ことができるものといわなければならない。労働組合の運営上、しばしば生じる組
合員の除名の場合ですら、労働組合は、規約上除名についての規定がなくても正当
な理由さえあれば相当の手続によつて組合員を除名することができるのである。
2 同2の事実のうち、被告組合規約および地区規約に原告ら主張の如き規定があ
ることは認める。
 原告らは、指令第二七号が支部旧執行部役員を排除することを目的として発せら
れたものであると主張するが、支部旧執行部役員であるという理由で再登録を拒否
された者は皆無であつて、再登録を拒否されたのは申請書の提出を拒否した者か、
資格審査を拒否した者に限られていた。また、再登録は、被告組合の組合員として
行動する意思の有無を再確認するとともに、その意思確認を拒んだ者あるいはこれ
に反対の意思を表明した者を被告組合から離脱した者として取り扱うに過ぎず、そ
れ以上に組合員の有する思想、信条等を詮索するものではないから、労働組合とし
てなしうる当然の措置であつて、思想、信条等による差別であるという非難は当た
らない。
3 同3および4の事実および主張は争う。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求原因事実は、当事者間に争いがない。
二 ところで、原告両名が、被告組合の中央本部昭和四五年二月一七日付指令第二
七号により同月二二日を申請書の提出期限と定めて実施した支部組合員に関する再
登録申請に反対し、再登録申請書の提出をしなかつたことは、当事者間に争いがな
く、そして、被告は、原告両名が右再登録申請をしなかつたことにより被告組合の
組合員としての資格を喪失したと主張しているので、まず、右再登録申請に至るま
での経緯について検討する。
1 次の諸事実は、いずれも当事者間に争いがない。
(一) 被告組合が昭和四〇年以来、総対話・納得づくの運動、団交重視の闘いを
行なつてきたことおよび昭和四三年暮頃から福岡中央郵便局内に「職場を明るくす
る会」が結成されたこと。
(二) 支部執行部が昭和四四年一一月一三日早朝「当局の飼犬に転落し、組織を
喰いつぶす”職場を明るくする会“を粉砕せよ!!」と題したビラを配布したこ
と。
(三) 地区本部が支部執行部に対し前項のビラ配布の中止を指示したこと、一一
月一五日に開催された支部闘争委員会において、支部から地区本部に対し被告主張
の如き三点の釈明要求がなされたこと。
(四) 地区本部が調査のうえ被告主張のような一一月二〇日付逓福組第一四号の
指導文書をもつて支部の前項の釈明要求に答えたが、支部がこれに対してもさらに
質問を重ねたこと。
(五) 支部執行部が、一一月二四日E地区本部書記長およびF地区本部組織部長
の出席のもとに開かれた支部闘争委員会において、前項の地区本部の文書指導の撤
回を迫り、これを撤回しなければ支部の臨時大会を開催する旨通告したこと、これ
に対し、E地区本部書記長およびF地区本部組織部長が、その対策を地区本部執行
委員会に諮るため、右文書指導を一時保留することにしたこと、同月二六日地区本
部執行委員会が開催され、地区本部の従来の指導方針が再確認されるとともに、同
日中央本部に右経過が報告されたこと。
(六) 中央本部が一一月二六日G中央執行委員を福岡に派遣して調査に当たらせ
たこと、そして、中央本部が同年一二月一日被告主張のとおりの中央本部指導九項
目を発したこと、G執行委員が同日の支部闘争委員会において支部執行部に対し右
指導九項目を伝達し、これに対し、支部執行部が、不満ではあるが従わざるをえな
いという見解を表明したこと。
(七) D支部長が、一二月三日午前一〇時頃C地区本部執行委員長に対し、支部
執行委員および青年部常任委員各一名を除く支部役員二七名の辞表を一括提出した
こと。
(八) 中央本部が一二月四日に同日付で被告主張のような指令第二二号を発した
こと、「反合理化労働者連絡協議会」という団体名で被告主張のようなビラが配布
されたこと。(九) 支部組合員を対象に旧執行部支持の署名活動が行われたこ
と。
(一〇) 被告組合が昭和四五年二月八日から同月一一日までの間被告主張のよう
な団結権確認の署名活動を行なつたこと、そして、この署名活動の期間をさらに同
月一六日まで延長したが、その成果ははかばかしくなかつたこと。
(一一) 被告組合が同年二月一七日に支部組合員全員に対して被告主張のとおり
の内容をもつた中央本部指令第二七号を発したこと、被告組合の規約第二三条第一
項、第二項、第四四条、第四八条第一項に被告主張のとおりの規定があることおよ
び原告らが被告主張のような権利停止の仮の制裁を受けたこと。
(一二) 支部組合員のうちの八七名が同年二月一八日全福岡中央郵便局労働組合
を結成したことおよび支部組合員の他の約二〇名が同年三月四日福岡中央郵便局労
働者労働組合を結成したこと。
(一三) 同年二月一八日から同月二二日までの間に被告主張のとおり再登録申請
書の提出があり、翌二三日から同年三月二二日までの間にその審査が行なわれ、同
月三日再登録組合員五二八名の氏名が公表された後、これら組合員によつて役員選
挙が行なわれて、同月一四日に第一五回臨時支部大会が開催されたこと。
(一四) 原告両名が再登録申請書の提出を拒否したこと。
2 右の争いのない事実に、乙第二一号証、同第二三ないし第二七号証、同第三
一、第三二号証、同第三六号証、同第三九号証、同第四三号証の存在、いずれも成
立に争いのない甲第一ないし第四号証、同第七号証、同第八号証(乙第二号証と
は、字体等のやや異なることが看取されるものの、記載内容は同証と同じ)、甲第
九、第一〇号証、同第一一号証(乙第三三号証と同じ)、甲第一二号証(乙第三号
証と同じ)、甲第一三号証の一、二、同第一四、第一五号証、同第一六、第一七号
証の各一、二、同第一八号証、同第一九号証の一、二、同第二七号証、同第三三号
証、同第三六号証、乙第四ないし第八号証、同第一四号証、同第一八ないし第二〇
号証、同第二二号証、同第二八号証の一ないし五、同第三五号証、同第四一、第四
二号証、同第四五号証、同第四七、第四八号証、同第五一号証、同第五六号証、K
が昭和四五年二月二六日組合の掲示板を撮影した写真であることに争いのない乙第
九号証の一、二、同第一〇号証、撮影者・被写体が右と同じで、撮影日が同月二七
日であることに争いのない同第一一号証、撮影者・被写体が右と同じで、撮影日が
同年三月三日であることに争いのない同第一二、第一三号証、証人Lの証言によつ
て真正に成立したと認められる甲第二〇号証の一、二、証人Dの証言によつて真正
に成立したと認められる同第二九ないし第三一号証の各一、二、証人M、同Dの各
証言によつて真正に成立したと認められる乙第二九号証、同第三四号証、証人Eの
証言(第二回)によつて真正に成立したと認められる同第四九号証、証人D、同
M、同L、同C、同N、同E(第一、二回)、同G、同O、同P、同Qの各証言お
よび原告両名各本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
(一) 指令第二七号を発するまでの経緯
(1) 地区本部は、昭和四〇年以来、その傘下の各支部に対し、被告組合の第一
七回全国大会で定められた方針に基づく、総対話・納得づくの運動、団体交渉重視
の闘いという運動路線を積極的に推進してきたが、支部執行部は必ずしもこれに従
おうとせず、昭和四二、三年頃から両者の間に闘争戦術をめぐる意見の相違が拡大
し、中でも、昭和四四年五月一二日に福岡中央郵便局へ自動区分機が搬入されたこ
とをめぐつて、その阻止闘争に関する支部執行部と中央本部および地区本部との見
解が一致せず、その後の第四九回地区委員会において、地区本部案が否決され、か
えつて支部修正案が採択されたこともあつて、支部の中にはこれをもつて中央本部
の反合理化闘争方針が破綻したと評するものまで現れて、地区本部の支部執行部に
対する組織指導上の断層が発生した。一方、このような支部執行部に対する支部組
合員の不満の現われとして、昭和四三年暮頃から、福岡中央郵便局内に、「職場を
明るくする会」という批判グループが結成された。そして、右会は、同局第一集配
課員を中心とした約五〇名の組合員で構成されており、そのうち約半数が主任クラ
スで占められていたが、同会の結成目的は、支部の組合運営が、被告組合の前記運
動方針に反するとともに、一部の活動家中心となつているので、それ以外の一般組
合員をも含め民主的に討議したうえで、組合運営が行なわれるようにしたいという
ものであり、かつ、
同会は、結成以来、支部執行部の組合運営について批判的な活動を行なつてきた。
(2) そこで、支部執行委員長Dは、「職場を明るくする会」は支部の指導に従
わないものであつて、その活動を放置しえないと判断して、昭和四四年一一月一二
日、地区本部執行委員長Cに対し、「職場を明るくする会」は被告組合に敵対する
感があり、組織から脱退する虞れがあると述べて、その対処方を相談した。その結
果、C地区委員長は、右会に結集していた組合員が支部から脱退することがないよ
う、翌日にも右会の中心的な者に会つて話しをするということになつた。しかる
に、支部執行委員会は、翌一三日、「当局の飼犬に転落し、組織を喰いつぶす職場
を明るくする会を粉砕せよ!!」と題するビラを福岡中央郵便局および同西郵便局
内で組合員に配布した。そして、支部執行委員会が右ビラの中において主張した主
な点は、1「職場を明るくする会」の行なつている執行部批判は全くの口実であ
り、同会は戦線の混乱、分断、闘いからの逃避のための全くの功利的集団でしかな
い。2「職場を明るくする会」の首謀者は、「支部は本部方針を無視して運動を進
めている」と組合員をあおり、そそのかし、「地区本部、中央本部が要請する動員
以外には参加しない」とか、「勝手に腕章闘争をやつている」などとでつちあげる
とともに、組合決定に対していろいろな言い掛かりをもうけて闘争を怠つてきた。
3最近公然と組織脱退を打ち出し、その分裂策動も、福岡中央郵便局に止まらず、
筑紫郵便局にもオルグを行ない、一〇名中の七名を脱退させているというものであ
つた。
(3) C地区本部執行委員長は、右のようなビラが撤かれたのでは「職場を明る
くする会」の人たちと話し合うことすらも困難になると判断して、D支部長に対
し、「折角門戸を開いて話し合おうとしているのに、このようなビラを撒けば、実
質上会見することをも困難にする」と忠告し、「職場を明るくする会」のメンバー
をも含めて職場闘争を進めるように指導した。ところが、一一月一五日に、支部執
行委員および支部青年部常任委員をもつて構成される支部闘争委員会が開催され、
地区本部からE書記長およびF組織部長が支部を指導する立場で同委員会に出席し
ていたが、同委員会においては、「職場を明るくする会」についての地区本部の指
導の当否をめぐり長時間に亘る議論が戦わされ、その席上、支部委員から地区本部
に対し、右指導の撤回を迫るとともに、「職場を明るくする会」に対する地区本部
の態度を明確にすること、同会に対する地区本部の責任を明らかにすることおよび
同会に対する指導を明確にすることの三点について釈明要求が行なわれた。
(4) そこで、地区本部執行委員会は、支部闘争委員会からの右釈明要求に対し
て事実調査を開始し、一一月一六日頃、地区本部のE書記長およびF組織部長の両
名が、「職場を明るくする会」の中心的メンバーであるN、Rら約一〇名の者と会
見して、事情聴取を行なつた。この席上、Nらから、支部執行部は具体的な闘争の
進め方について自分らの意見を受け入れず、本部あるいは地区本部の指導方針を逸
脱しているのではないかという意見が出された。そこで、地区本部は、右調査の結
果を総合的に検討した結果、「職場を明るくする会」が結成された最も大きな原因
は、支部執行部が団体交渉重視と総対話・納得づくの運動という被告組合の運動方
針を守つていないことにあると判断したので、執行委員会の決定を得たうえ、同月
二〇日付逓福組第一四号の指導文書をもつて、支部執行部からの前記釈明要求に応
答するとともに、「職場を明るくする会」の対策につき支部執行部に対する指導を
行なつた。そして、この指導の要点は、「職場を明るくする会」が分裂策動を行な
つているという事実は認め難く、右会が発生するに至つた主な原因は支部執行部の
組織運営の誤りにあることを指摘するとともに、総対話・納得づくの運動路線に立
ち返つて組合民主主義を回復し、内部対立を克服せよと指示するものであつた。し
かし、支部闘争委員会は、これに納得せず、同月二二日付逓福中発第六〇号をもつ
て、右回答につきさらに詳細な質問をした。
(5) 地区本部は、一一月二四日に開催された支部闘争委員会に地区本部のE書
記長およびF組織部長を出席させ、支部闘争委員会からの右質問について地区本部
の見解を明らかにした。しかし、その席上、前記の地区本部の指導文書をめぐつ
て、午前一〇時頃から午後四時頃までの長時間議論が交されたが、議論は平行線を
辿つたまま結論を得ることができなかつた。のみならず、最終的には、支部闘争委
員会が、右二名の地区本部役員に対し、右指導文書の撤回を迫り、これを撤回しな
ければ支部臨時大会を開催して総辞職をしなければならないという態度を表明する
に至つた。そこで、右二名の地区本部役員は、右指導文書は地区本部執行委員会で
決定したものであるから撤回することはできないが、しかし、これを撤回しなけれ
ば、右指導文書を支持する組合員とこれに反対する組合員との間で対立抗争が生
じ、その結果、支部内が分裂する危険もあるので、この問題については地区本部執
行委員会においてさらに慎重に検討する必要があると判断して、右指導文書につい
ては一応保留するとの見解を述べた。
(6) 地区本部執行委員会は、一一月二六日、支部闘争委員会の右報告を基に地
区本部の支部に対する指導の取扱いについて検討した結果、支部に対する対策とし
ては、前記の逓福組第一四号の指導文書どおりに指導する以外に方法がないとの結
論に達し、その方針を再確認した。そして、地区本部のE書記長は、同日、中央本
部に対し、「職場を明るくする会」をめぐつて地区本部と支部との間に発生してい
る事態の経過を報告するとともに、それに対する指導を要請した。右報告を受けた
中央本部は、直ちに、中央執行委員会を開催したうえ、組織部担当のG中央執行委
員を福岡に派遣して実情調査を行なうことを決定し、同日同執行委員を福岡に派遣
した。そして、同執行委員は、まず同日に予定されていた支部闘争委員会を延期さ
せたうえ、同日夜、地区本部執行委員会を招集し、「職場を明るくする会」に関す
る地区本部のこれまでの見解と組織状況とについて報告を受け、さらに同月二九日
までの間に支部の三役、「職場を明るくする会」の主要メンバー、一般の役職・中
高年層の組合員および支部青年組合員からそれぞれ事情を聴取した。その結果、G
執行委員は、支部の組織紛争上の問題は、単に地区本部と支部との「職場を明るく
する会」に関する見解の相違や同会と支部執行部との対立だけにあるのではなく、
より根本的にいかにして組合意識の弱い一般中高年層と組合意識の高い者とを一緒
にして支部の組織を維持していくかという日常の職場活動、総対話の不足にあり、
この点についての指導をせざるをえないとの結論に達した。そして、同執行委員
は、同月三〇日に開催された中央執行委員会において以上の調査結果を報告したと
ころ、中央執行委員会は、年末闘争を目前にして組織対策をめぐる地区本部と支部
との意見の対立した状態が継続することは好ましくなく、郵政当局と第二組合に利
用される欠陥をも生みかねないと判断し、これ以上事態の混乱を拡大させないため
に、地区本部と支部とが一体となつて事態の解決に当たるべく、同年一二月一日付
をもつて、九項目からなる指導を発した。そして、その内容は、1一二月一日以降
当分の間、支部における職場闘争および組織対策については地区本部執行委員会の
指示、指導による。2役付組合員および「職場を明るくする会」に対する組織対策
は、当分の間地区本部執行委員会が当たる。従つて、支部は、これらの対策を中止
する。3支部内における組織対策上および闘争指導上の問題については、中央本部
が、引き続き調査を行なう。当面地区本部執行委員長に調査活動を委嘱する。4地
区本部執行委員長は、支部における被処分者(行政処分による解雇者、停職者、刑
事事件による休職者を含む。)を掌握し、その諸行動について指示を行なう。従つ
て、被処分者はその指示に従い、諸行動の結果を地区本部執行委員長に報告する。
なお、これらの指示に反し、組織の方針に違反した行動があつた場合には、中央本
部は、地区委員長の報告に基づき必要な措置をとる。5闘いの大衆化を図り、納得
づくの運動路線を展開することによつて、職場の一集団的運動形態による不団結の
要因を克服するため、職場内においては組合員相互間の嫌がらせや、暴言、暴力に
亘るような行為は一切排除するとともに、総対話運動を強化する。6最近特に当局
の挑撥をうけて組織の切崩しに利用されているのは刑事事件と暴力事件に名を借り
た行政処分の多発である。従つて、今後の職場闘争の指導に当たつては当局の挑撥
に乗ぜられるような行為は厳に戒め、組織の自律活動を強化する。7今後刑事事件
および行政処分による被処分者が出た場合には、犠救・制裁委員会が直接調査を行
ない、その結論が出るまでは犠救規定による一切の権利を保留する。8労働組合の
支部と政党支部とはその性格を明確に異にする別人格である。労働組合の組織運営
について労働運動と政治運動とを混同し、大衆との関わりなどに無頓着に労働組合
の組織問題に主観的批判を行ない介入するが如き行為は、何人であろうとも容認す
ることができない。9以上の本部指導に違反した場合には、中央本部は、支部に対
し組織対策上の必要な措置をとるというものであつた。
(7) G中央執行委員は、同年一二月一日に開催の支部闘争委員会に、I九州地
方本部執行委員長代行、C地区本部執行委員長、E地区本部書記長およびF地区本
部組織部長とともに出席し、その席上、支部役員に対して、右の本部指導九項目を
伝達した。これに対しては、支部役員から、上級機関は「職場を明るくする会」や
役付者の意見を信用し過ぎている、右の指導九項目は事実上支部執行権を停止する
ことになるのではないかなどという意見が出され、長時間に亘つて討論を重ねた
が、結局、支部執行部としては、不満ではあるが組織上右本部指導九項目に従うと
いうことになつた。そこで、翌二日、C地区本部執行委員長およびE地区本部書記
長とJ支部書記長との間で右本部指導九項目の実践方法等について協議を行なつた
ところ、その席上、J支部書記長から、支部執行部がこれまで支部の組織を指導し
てきた経過から見て、右本部指導九項目を組合員に直接印刷物で配布すると組織的
混乱を起す虞れがあるので、右指導九項目は分会長会議とか班長会議等を通じて指
導したいという提案がなされ、C地区本部執行委員長も、これを受け入れて、協議
を終了した。
(8) ところが、翌一二月三日午前一〇時頃、突如、D支部長は、C地区本部執
行委員長に対し、支部役員二九名のうち執行委員および青年部常任委員各一名を除
き、原告両名を含む二七名の辞表を一括提出した。そして、右辞表提出の理由は、
組織指導上の責任を感じたというものであつた。そこで、C地区本部執行委員長
は、当時は年末年始の繁忙対策や総選挙闘争、年末闘争終結の事態収拾といつた被
告組合にとり重要な問題が山積している時期であつたので、支部執行部が空白にな
ることは絶対に避けなければならないと考えて、同日午前一〇時頃から午後六時半
頃までの間、D支部長およびJ支部書記長に対し、支部役員の辞任によつて発生す
る組織的混乱を防止するため辞任を思い止まるよう説得を繰り返した。しかし、D
支部長が、自分一人が勝手に辞表を撤回するわけにはいかないので他の役員と相談
して翌日返答すると述べたのに対し、C地区本部執行委員長が、翌日午前中までに
辞表が撤回されるならば事実上辞表の提出がなかつたものとして処理すると述べた
に止まり、それ以上の事態の進展は見られなかつた。しかも、D支部長は、翌四日
正午頃、E地区本部書記長に対し、辞表を撤回しないと回答した。
(9) そこで、E書記長は、直ちにこのことを東京で開催中の全国地区本部代表
者会議に出席していたC地区本部執行委員長に連絡し、同委員長は、中央本部のG
中央執行委員に対し事の次第を報告した。この報告を受けた中央本部は、当時は年
末闘争収拾の段階で当局との交渉が残されていたことから、新執行部成立までの
間、支部の執行業務を地区本部において代行する措置をとる必要があり、また、前
記の指導九項目を含めた支部の指導体制を早急に確立することが必要であると判断
して、一二月四日付で地区本部および支部に対し、指令第二二号を発した。そし
て、その内容は、1支部の新執行部が成立するまでの間、支部における代表権、団
体交渉権、組織運営に関する業務の代行を地区本部執行委員会が行なうこと。2支
部組合員は地区本部執行委員会の指示に従つて行動すること。3中央執行委員会が
同年一二月一日付をもつて発した組織指導九項目を生かして支部の再建を行なうこ
と。4支部の財産は新執行部が成立するまで地区本部執行委員会が管理することと
いうものであつた。
(10) 右指令を受けた地区本部は、右指令および中央執行委員会の指導に基づ
き、次のような基本方針をとつて支部の再建に取り組むことにした。すなわち、1
地区本部と支部とが一体となつて職場闘争、組織対策に当たること。2全国大会に
おいて決定されている団体交渉重視の職場闘争路線を貫くこと。3中央本部が地区
本部および支部に対して発した組織指導九項目の精神を生かすこと。4政党および
他の団体に対しては、労働組合の主体性を発揮すること。5以上の四項目を支部再
建の四原則とし、この原則を貫くこと。そして、支部執行部の体制を確立し、支部
を再建することというものであつた。しかし、支部の新執行部体制の確立は、年末
年始の繁忙時期を控え非常に困難であることが予想されたので、翌年の一、二月ま
で見送ることにし、取りあえず支部組合員の間で混乱が起きるのを防止するため、
右指令第二二号の趣旨およびこれが発されるに至るまでの経過についてオルグを行
なうことを決定した。そこで、地区本部は、一二月八日、支部の分会長会議を招集
して、各分会長に対し、右指令第二二号の趣旨およびこれが発されるに至るまでの
経過を組合員全員に報告して、その協力を求めることを要請するとともに、同月九
日から同月一二日までの間、支部組合員に対し、対話形式によるオルグを行なつ
た。
(11) しかし、これに先立つ一二月五日頃から、「反合理化労働者連絡協議
会」という名称で、旧支部執行部方針を支持して、そのもとに団結すべきこと、上
級機関の「職場を明るくする会」についての評価は誤つていること、指令第二二号
に反対することなどを訴えるビラが連日支部の組合員に配布された。(もつとも、
右協議会なるものの実体は明らかでない。)また、一部の支部組合員の間から、指
令第二二号は理解することができないとか、前記の指導九項目は納得することがで
きないなどという声が出るとともに、折から年末の繁忙期であつたうえ、福岡中央
郵便局の組合員Qらが逮捕され、組合事務室も捜索を受けるという出来事もあつた
ため、現場段階まで立ち入つてオルグをなしうる状態ではなかつたので、右オルグ
は十分な成果をあげることができなかつた。
(12) 「職場を明るくする会」は同年一二月末までに地区本部の勧告もしくは
指示により解散したものの、支部の再建はなかなか進捗せず、支部組合員の間に被
告組合に対する不信の念を惹起せしめている状況にあつたことから、中央執行委員
会は、支部の再建方針が九州地方本部傘下の各支部にまで悪影響を与えることを考
えて、支部の旧執行部役員を含む全組合員の納得を得て早急に支部の執行部体制を
確立することが望ましいと判断して、翌年一月七日頃、中央執行委員約七名を福岡
に派遣し、同年二月八日の臨時支部大会開催を目途に、地区本部執行委員らととも
に少人数の対話形式によるオルグを行なつた。しかし、これに対しても、支部の一
部組合員が、「オルグなど受けさせるな。」、「オルグに出席するな。」、「オル
グは大量に金を持つてきて買収をしている。」などというデマや中傷を流したり、
「話す必要がない。」といつてオルグ中に退場したり、オルグの場所にテープレコ
ーダーを持ち込んで、組合員が自由に発言することができないような雰囲気を作り
出したり、さらに、旧執行部の支持、指令第二二号の撤回などという署名活動を行
なつたりしたほか、原告両名も、右オルグによる、旧執行部が一旦辞職した以上、
新たに行なわれる執行部選挙に再び立候補するのは、規約で禁じられていないとは
いえ、道義上好ましくないという指導方針に反撥したり、また、D支部長が懲戒免
職後で犠救の適用を受けていたことを理由に、中央本部への配置換に反対したりし
たため、中央執行委員会の行なつた右のオルグも十分な効果を収めることはできな
かつた。
(13) そこで、G中央執行委員は、地区本部に対し、組織を統一して組織の混
乱に歯止めをかけるべく、支部役員の経験者、職場の主事・主任クラス、中心的な
組合活動家、支部旧役員らに対して支部の臨時大会の開催と役員選挙についての協
力方を要請すべきことを指導した。よつて、地区本部は、同年二月八日の臨時支部
大会の開催を延期するとともに、支部旧役員に対し右の協力方を要請したが、支部
旧役員は、前記指導九項目を発する以前の状態に戻すべきことおよび地区本部の行
なつている指令第二二号に基づく指導に反対することを主張して、話し合いは結局
物別れに終つた。
(14) このような支部再建の状況を憂慮した九州地方本部は、同本部傘下の各
地区本部の代表者会議を福岡で開催して、地区本部執行委員会の再建方針を支持
し、これを遂行するため、あらゆる措置をとることを決定した。そこで、この決定
を受けた地区本部執行委員会は、中央執行委員会の指示に基づき、傘下全支部の三
役会議を招集し、指令第二二号が発された後の支部再建方針と経過とを説明すると
ともに、この再建に当たつては全支部が地区本部と共同行動をとり、地区本部執行
委員会が指令第二二号によつて与えられた支部再建の任務を遂行することを確認し
たうえ、被告組合の組合員として行動する意思を有する支部組合員の範囲を確認す
るため、「団結確認書」と題し、「私は被告組合の綱領、運動方針、被告組合中央
本部の組織指導九項目および中央本部指令第二二号を遵守し、組織の団結を固め闘
うことを確認します。」と記載された書面に各組合員の署名を集める活動を行なう
ことおよび支部再建の妨害者に対しては、組織統制を含むあらゆる措置をとること
を決定した。そして、九州地方本部執行委員会とその傘下の各地区本部および地区
本部執行委員会とその傘下の全支部は、オルグ団を編成し、福岡中央郵便局分会の
組合員に対し、同年二月八日から同月一一日までの間、右団結署名活動を行なつ
た。しかし、これとは逆に旧執行部を支持し、右署名活動に反対する署名活動等も
行なわれたため、右団結署名活動は成果をあげることができず、右期間内に集めえ
た署名は、福岡中央郵便局分会の組合員約五〇〇名のうち約二〇〇名に止まつた。
そのため、右期間をさらに同月一六日まで延長して、支部所属組合員全員を対象と
する署名活動を行なつたが、それでも約三〇〇名程度の署名しか集めることができ
なかつた。なお、原告Aは、右団結確認書の用紙を貰つていないし、また、原告B
は、その団結確認書の署名を求められたものの、その文言中の指導九項目の遵守を
うたつた部分が腑におちず、かつ、支部大会の開催を求めたのを拒まれたため、署
名を保留すると答えるに止まつた。
(二) 指令第二七号による支部組合員の資格停止および再登録
(1) 被告組合の中央執行委員会は、昭和四五年二月一七日、以上の経過を詳細
に分析した結果、支部における組織紛争は、春闘前段の時期であるにもかかわら
ず、指令第二二号を発して以後地区本部執行委員会の諸措置に対する一連の妨害行
為が行なわれ、二ケ月余の日時を経過してもなお再建についての展望が立たない現
状にあり、事態がこのまま推移すれば支部組織の崩壊の危機を招くに至るものと判
断し、このような事態を克服して支部を再建するため、緊急かつ非常の措置とし
て、支部所属の全組合員に対し、次の方法をもつて対処することを決定し、同日付
で指令第二七号を発した。すなわち、その方法は、被告組合規約第二三条(「1中
央執行委員会は、役員(会計監査を除く。)で構成し、全国大会および中央委員会
の決議を執行し、又緊急事項を処理する。2中央執行委員会は、すべての決議と緊
急事項の処理について必要ある場合は、中央執行委員会の議を経て中央執行委員長
名による指令指示を発する権限を有し、全国大会と中央委員会に責任を負う。」)
により中央執行委員会に付与された緊急事項処理の権限に基づき、指令をもつて支
部組合員全員の組合員資格を一時停止するとともに、支部全組合員から、「組合員
再登録申請書」と題し、「私は被告組合の綱領、運動方針、被告組合中央本部の組
織指導九項目および指令第二二号を遵守し、組織の団結を固め闘うことを確認し、
組合員の再登録を申請致します。」と記載された書面を同月二二日までに中央執行
委員長宛に提出せしめたうえ、中央執行委員会が同月二三日から翌月二日までの間
に組合員としての適格性を審査し、これに合格して再登録を承認された者を組合員
と認め、なお既に前記の団結確認書を提出した者も再登録を承認されたものとして
取り扱い、これらの組合員をもつて支部の再建を図るというものであつた。なお、
中央執行委員会は、右指令において、原告両名を含む支部の旧役員および青年部常
任委員二三名は中央本部に敵対して組織を混乱に陥れた首謀者であるとして、これ
らの者につき、被告組合規約第四四条(「組合員で次の各号に該当するものは制裁
をうける。一 組合の綱領、規約および組合機関の決定に違反したとき。二 組合
の名誉を著しく汚す行為のあつたとき。三 組合の秩序をみだしたとき。四 〈省
略。〉)および第四八条第一項(「制裁について極めて緊急なるものと審査委員会
が判断した場合は、規約第四六条の定めにかかわらず審査委員会は中央執行委員会
の議を経て仮りの制裁を行うことができる。」)に従い、無期限の権利停止の仮制
裁を行うことを決定した。
(2) 前記指令第二七号が発せられるや、D旧支部長を始めとする福岡中央郵便
局内の支部旧執行部役員を中心とした支部組合員八七名は、同年二月一八日、全福
岡中央郵便局労働組合(略称「全福中労」。被告組合の表現に従えば、第三組合)
を結成し、D旧支部長は、同月二四日に、右組合員の被告組合からの脱退届を地区
本部に一括提出した。そして、右組合は、その結成宣言の中で、中央本部が指令第
二七号を撤回し、右組合員らの主張する四項目(1本部は、「職場を明るくする
会」問題について明確な態度をとれ。2被処分者を守れ。3組合役員選挙は立候補
について制限をつけるな。4官僚統制でなく、組合員の声を聞け。)を承認すれ
ば、同組合を解散する用意のあることを表明し、中央本部および地区本部の措置に
反対する宣伝活動を開始した。なお、同組合は、綱領の中においても、指令第二七
号を撤回するまで闘うと明記している。またこれとは別に、被告組合員約二〇名
は、同年三月四日福岡中央郵便局労働者労働組合(略称「福中労」。被告組合の表
現に従えば、第四組合)を結成した。
(三) 再登録申請手続の実施
(1) 被告組合は、前記中央本部指令第二七号に基づき同年二月二二日を申請書
の提出期限とし支部組合員全員を対象にした前記再登録申請手続を実施した。そし
て、被告組合は、この実施に当たり、「組合員の皆さんへ」と題するビラを配布し
て、再登録手続につき解説したが、これによれば、再登録とは、「もう一度組合に
入りなおしてもらう」ことであり、それまでの組合員資格は、「一時停止の状態に
あ」る、再登録申請書を出さないと、「全逓に再び加入する意志がないものとして
脱退したときと同様に組合員資格がなくな」る、申請書を「提出する機会は平等に
与えられ」る、申請書を出すと、「中央本部の審査委員会の審査を経たのち、再加
入が認められた人のみ組合員としての資格を全面的に復活」するのであり、「これ
は通常の組合加入の方法に準じたもの」である、再登録申請に対しては、「原則と
して全員を認めたいと思」うが、しかし、再登録申請書を出さなかつた者は、「組
合員でなくなる」というものであつた。なお、中央本部が再登録申請書に対して行
なう組合員の適格性審査の評価基準については、中央本部では、次のようなことを
考えていた。すなわち、例えば、被審査者が「これまでの旧支部執行部のやり方が
この混乱をまねいた。」、「このような混乱状態の中にあつては、当然全体の団結
をはばむ者を組合から排除すべきだ。」、「これまでの支部が悪いためかけはなれ
すぎていた」、「こうなつたら全組合員が前向きで支部の再建に取り組むべき
だ。」「暴力事件や行政処分が多くおきていることを見ても分るように過激すぎる
と思う。」、「もつと生産性向上に賛成して、その利益を受けたらどうか。」、
「階級闘争主義だと断定できないが、本部の指導と支部の指導に断層があり、組合
全体としてついていけない印象がつよい。」などと答えた場合には、組合員として
の適格性を「承認するだけでなく、積極的に役員などになつてほしい位である。」
という総合評価をなした。また、逆にその答が、「明らかに中央本部や地区本部の
組合民主主義を否定した指導にその原因がある」、「全くけしからん。中央本部の
官僚統制であり、組合民主主義の否定である。」、「地区のやり方が支部を否定し
たためで、必ずしも地区・支部が一体でなくてもよいと思う。」、「協力する気持
はおきない。それよりD君たちの組合を統合することを考えよ。全郵政化は反対
だ。」、「全く正しい。全九州・福岡地区のお手本になるような指導方針だつ
た」、「全くなまぬるい方針で、もつときびしく敵と対決する姿勢がほしい。」、
「資本主義体制下に労働者にしわよせにならない合理化はない。従つて合理化を粉
砕する以外に労働者の生きる道はない。」、「右傾化しているので、もつと階級的
な労働組合につくりかえる必要がある。」などという場合には、組合員として「と
うてい承認できない。」との総合評価がなされることになつていた。なお、その中
間に、「承認してよい。」、「承認してよいが、承認後もつと組合員教育をする必
要がある。」、「承認するかしないか、もつと討議する必要があると思う。」など
の段階をも設けていた。
(2) これに対し、原告両名は、再登録申請書用紙の配布を受けたけれども、そ
の登録手続に反対し、かつ、組合員資格は被告組合に加入したときに既に取得して
いるのであるから、今さら組合員資格の取得のために右のような手続をする必要は
ないとして、その申請書の提出をしなかつた。なお、原告両名は、昭和四五年二月
分の組合費については所属の分会で納入したものの、同年三月分の組合費について
は既に組合員名簿に登載されていないとの理由で徴収されなかつた。そこで、原告
Aは、地区本部へ、また、原告Bは、支部へそれぞれ直接組合費を持参したが、い
ずれもその受領を拒否された。
(3) なお、福岡中央郵便局勤務の組合員のうち前記の全福中労を結成した者は
だれも再登録申請をしなかつたので、同局勤務の組合員で再登録申請をした者につ
いては審査するまでもなく被告組合員としての適格性を有するとして全員承認され
たが、福岡西郵便局勤務の組合員で再登録申請をした者については、個々に面接審
査を実施した。さらに、再登録申請をしながら、審査に応じなかつた者は、前記の
福中労を結成した。
(4) その後、被告組合は、適格性を承認された組合員と前述の団結確認書を提
出した組合員との合計五二八名を被告組合の組合員として認める一方、原告らのよ
うに再登録申請手続に応じなかつた者については、その申請期間の経過とともに組
合員としての資格を喪失したものとして取り扱うことにした。そして、右の組合員
による役員選挙を経たうえ、同年三月一四日に第一五回臨時支部大会を開催して、
当面の組織強化方針等の承認を受けるとともに、新執行部を選出した。かくして、
前年の一二月四日に支部執行部役員が辞表を提出して以来三ケ月有余に亘つて混迷
を続けて来た支部は、漸く新たな出発をすることになつた。
三 本件における被告組合の組合員の再登録手続は、以上のような経過を辿つて実
施されたものであるが、ここで被告組合における再登録手続の性格について検討す
る。
1 まず、被告組合の現規約第二三条第三項には、中央執行委員会の権限として組
合員の再登録手続なるものが明文化されていること、そして、これは昭和四九年八
月二八日に開催の全国大会において可決された規約改正の際に盛り込まれたもので
あることは、当事者間に争いがない。なお、これを今少し詳しく見るに、前顕甲第
一号証によつて認められる昭和四三年八月三〇日付改正施行の被告組合規約と前顕
乙第五六号証によつて認められる昭和四九年八月二八日付改正施行の被告組合規約
とを比較すると、前者の第二三条第三項が後者の第四項に繰り下り、新たに同条第
三項として、「中央執行委員会は、組合員の再登録および各級機関の執行権を停止
する権限を有し、全国大会と中央委員会に責任を負う。」との規定が新設されたこ
とを看取することができる。しかし、被告組合の旧規約および現規約中には他に再
登録手続に関する文言あるいは規定を見出すことができないので、本件再登録申請
手続実施の昭和四四、五年当時には、未だこのような規定や文言が規約上になかつ
たことは明らかである。
2(一) もつとも、被告は、本件に関して実施された組合員の再登録手続は、規
約上に明文化される以前から被告組合の確立された慣習となつていたと主張するの
で、この手続の沿革について調べるに、まず次の事実は、当事者間に争いがない。
(1) 東京地区本部羽田空港支部に対して、被告主張のような昭和三八年一一月
二七日付中央本部指令第一一号が発され、組合員一九八名が規約確認書を提出した
ことおよび被告主張の日に同支部の再建大会が開催されたこと。
(2) 東京地区本部石神井支部に対して被告主張のような昭和四〇年一一月二〇
日付中央本部指令第七号が発されたこと。
(3) 東京地方本部練馬支部に対して被告主張のような昭和四三年八月七日付中
央本部指令第四八号が発されたこと。
(4) 兵庫地区本部が、西阪神支部西宮郵便局各分会に対して、昭和四一年九月
三〇日付全逓兵庫企第二四号指導文書を発し、さらに同年一〇月六日付中央本部指
令第一〇号を発したことおよびそれらの内容がいずれも被告主張のとおりであつた
こと。
(二) そして、右の争いのない事実に、成立に争いのない乙第五二号証の一、二
および五、同第五三号証の一、二、同第五四号証の一ないし三、弁論の全趣旨によ
り真正に成立したと認められる同第五二、第五三号証の各三、四、証人G、同P、
同Sの各証言を総合すると、次の事実を認めることができる。
(1) 前記各支部あるいは分会に対する前記各指令あるいは指導文書が発される
前後の経緯は、被告主張のとおりであつたこと。
(2) 前記羽田空港支部の場合は、組合が規約確認書を提出しただけなので、審
査・承認等の組合員資格に関わる問題は生じなかつたこと、前記石神井および練馬
各支部ならびに西宮郵便局各分会の場合は、殆どの組合員が再登録申請書を提出
し、そして、審査の結果直ちに組合員資格を承認された者はもとより、その承認を
一時留保された者も、中央本部の再三の説得の結果、最終的には全員が承認を得て
組合員資格を回復したこと。
(3) 再登録申請をしなかつた組合員のうち病休等のため申請書を提出すること
ができなかつた者については、健康の回復等を待つてその提出を取り付けたこと、
他方、中央本部の方針に反対の意見を持ち、中央本部の説得にも飜意しなかつた者
は、極く少数に過ぎなかつたのみならず、それらの者はむしろ積極的に被告組合か
ら脱退する意思を表明し、その旨の届を提出したので、被告組合としてはそれを受
理したこと。
(4) 結局、前記のいずれの場合においても、再登録申請書を提出せず、かつ、
脱退届も提出しなかつた者は一人もなかつたこと。
(三) 以上の経緯を通じて考えるに、たしかに被告組合においては、過去にも再
登録等の文言を用いた措置がとられた二、三の先例があり、そして、これらはいず
れも中央執行委員会が、組織上の混乱の発生というその時々の状況に応じて、規約
上に明文の定めのない方法を窮余便宜的に考案し実施したものであつて、その点で
は本件再登録申請手続の実施と符合する点がないわけではない。しかし、これらの
全事例を通じて見ても、再登録申請をしないことの直接の効果として当然に組合員
資格を喪失したという事例は皆無であつたのであるから、組合員資格の喪失が最大
の争点となつている本件事案にこれらの先例をそのまま当て嵌めて考えることは相
当でないというべきである。また、これらの先例について、緊急事態収拾の手段あ
るいは単一組織における上級機関の下級機関に対する統制問題としてその当否を論
ずるのはともかく、これだけで再登録申請手続が被告組合の組合員資格の得喪の原
因として既に確立された慣習であると断ずることは到底できないものというべきで
あり、他にそのことを認めるに足りる証拠はない。
四 そこで、組合規約上の明文の根拠規定ないし確立された慣習がないのにかかわ
らず、原告らが本件再登録申請をしないことの直接の効果として組合員の資格を喪
失するかどうかについて検討する。
1 まず、被告組合の組合員資格の得喪に関する組合規約の規定について一瞥する
に、組合規約第四四条が、組合員の制裁につき、「組合員で次の各号に該当するも
のは制裁をうける。一、組合の綱領、規約および組合機関の決定に違反したとき。
二、組合の名誉を著しく汚す行為のあつたとき。三、組合の秩序をみだしたとき。
四、正当な理由がなく組合費および準組合費の納入を三カ月以上滞納したとき。」
と規定していること、同規約第三五条が、組合員の資格につき、「組合員の資格は
規約第五条による郵政労働者であつて規約第三六条により組合に届出をし、中央執
行委員会の承認を得たときにはじまり、規約第三九条による脱退または除名された
ときに終る。2 組合員はいかなる場合といえども、人種、宗教、信条、性格、門
地または身分によつて組合員たる資格を失わない。」と規定し、同規約第三九条
が、脱退につき、「脱退は次の場合による。一、退職 二、死亡 三、除名 2
〈省略〉 3 前項以外の理由により脱退しようとする者は、脱退の理由をあきら
かにし、支部に申し出て、地区本部、地方本部を経由して中央執行委員会の承認を
必要とする。4〈省略〉。」と規定していることは、いずれも当事者間に争いがな
く、また、前顕甲第一号証によれば、同規約には、次のような各規定のあることを
認めることができる。
(一) 第三六条(加入)「組合へ加入しようとするものは、綱領、規約を認めた
旨の誓約書と、組合費月額相当額をそえ、所在の支部に申し出で、地区本部を経由
して、中央執行委員会の議を経てはじめて組合員となる。
2 中央執行委員会は、組合員となることを決定した場合は組合費領収書を添付し
て本人に通知しなければならない。」
(二) 第四五条(審査委員会)「前条の制裁を審査するため、中央本部に審査委
員会をおく。審査委員会の運営および構成は別に定める審査委員会規則による。」
(三) 第四六条(制裁の種類と決定)「第四四条に基く制裁は警告、権利停止、
除名の三種とする。2 除名は支部または地方決議機関の決定により、地方本部執
行機関或いは決議機関の賛成を経て、別に定める審査委員会に申請し、その答申に
より中央執行委員会の議を経て組合の決議機関の承認をうけなければならない。こ
の決議は出席構成員の直接無記名の秘密投票による三分の二以上の賛成を必要とす
る。3〈省略〉」
 そして、以上の他に組合員が一旦取得した組合員資格を喪失する原因等について
触れた規定は見当たらない。
2 以上によれば、被告組合の規約上は、組合員がその意に反して組合員資格を喪
失するのは除名の制裁を受けたときを除いて他にないことになるのであるが、被告
組合を構成する組合員につきそのもつとも重要かつ基本的な事項というべき組合員
資格の喪失に関する規約の解釈については厳格な態度を貫くべきであつて、組合員
は右規約に規定する除名の事由および手続によらずしてはたやすくその資格を奪わ
れないことを保障されているものと見なければならない。
3 ところで、被告は、原告らが再登録申請をしなかつたことにより組合員として
の資格を喪失したと主張するが、その主張自体の意味も必ずしも明瞭でない。すな
わち、まずそれは、原告らが前記指令によつて命ぜられた再登録申請義務に違反し
たことの直接の効果として組合員資格を喪失したとするのか、それとも原告らが再
登録申請手続をしなかつたことに基づき組合員資格を放棄し、あるいは組合から脱
退したと看做すのかは必ずしも明瞭でないが、前者であるとすれば、まず中央本部
の指令のみによつて組合員に対しこのような義務を課することができるかどうかが
大いに問題であるのみならず、仮にこれを肯定することができるとしても、その義
務違反が統制の問題を生ずるのはともかく、それ以上に、他の何らの手続をも践む
ことなく、当然に組合員資格の喪失の効果を生じると解することは困難である。
 また、後者であるとすれば、全福中労や福中労を結成した者の如く、被告組合と
は全く別個の労働組合を結成した者につき、そのような組合結成の行為を目して既
に被告組合から離脱したものと評価し、たとえその旨の届出がなくても組合員資格
を放棄したとかあるいは被告組合から脱退したものと看做しても格別不合理ではな
いが、しかし、そのような積極的な行為をしていない者についてまで、これと同様
に解するのは相当でない。特に、前記認定のとおり、原告らにおいては、組合員資
格の放棄あるいは組合からの脱退の意思は全くなく、むしろ依然被告組合に留るこ
とを明言しているのであるから、再登録申請をしなかつたという一事だけで、その
反対の意思の存在を擬制することは許されないといわなければならない。
 もつとも、再登録申請が、羽田空港支部における規約確認書提出の場合と同様
に、その申請者をすべて組合員として取り扱うものであれば、再登録申請書の提出
自体は組合員にとつていわば一挙手一投足で足りる事柄であるだけに、このような
極めて僅かな行為をも敢えてしなかつた者については、組合員資格の放棄あるいは
組合からの脱退の意思の存在を擬制するという効果を導く余地も全くないとはいえ
ない。しかし、本件においては、再登録申請書提出の他に、前記のような厳しい評
価基準を設けた審査の段階が予定されているのであり、その審査の結果によつて
は、再登録申請書の提出者であつても中央執行委員会の承認を得られるとは限らな
いのであり、特に原告らのように支部の旧執行部に属していた者あるいはその同調
者については、指令第二七号が発されるに至つた対立抗争に関して中央本部の方針
を積極的に支持しない限り、到底承認を得られないであろうことは、弁論の全趣旨
に徴しても、十分に予測しうるところである。従つて、再登録申請書の提出を些細
な行為と見て、その不提出の事実だけから直ちに組合員資格の喪失という効果を導
き出すことは困難というべきである。さらに、再登録申請書を提出した者は一応被
告組合に留る意思を積極的に表明したものと見ることができるにもかかわらず、そ
のうち審査の結果承認を拒否された者については、組合員資格の放棄あるいは組合
からの脱退の意思の存在を擬制するということは、あまりにも事実から乖離した擬
制であるというほかない。
 なお、資格の審査については、証人Cの証言によれば、支部における審査の結果
登録の承認を拒否された者はなかつたことが認められるけれども、それは前記認定
のように結果的にたまたまそうなつただけのことであつて、審査の結果を予測した
りあるいはこれに反対したりして審査を受けなかつた者もあるのであり、また審査
の結果一時承認を留保された者もあるのであるから、右のような事実が認められる
からといつて、にわかに本件の審査を軽視してもよいということにはならない。ま
た、証人Pの証言の一部には、審査は単に再登録申請の意思を確認するだけのもの
であつたという部分もあるが、この証言も、前顕甲第一四号証に照らして採用する
ことができない。
 さらに、証人Gの証言によれば、中央本部の中央執行委員の一人であつた同人
は、再登録申請とは、中央執行委員会がかつて受理していた被告組合への加入申請
を一旦各組合員に返却し、改めて各組合員につき被告組合に留るかあるいは脱退す
るかの選択を問うものにすぎないと考えていたことを窺うことができる。そして、
これは、中央執行委員会が一旦行なつた組合加入の承認(前記規約第三五、第三六
条)を撤回して、その加入を承認するかどうかを再検討するという趣旨であると考
えられる。しかし、前記規約に定められた組合加入とその承認は、それが一旦なさ
れれば完全かつ終局的な効果が生じるのであつて、後日に至つてその加入を撤回し
たり承認を撤回したりすることにより一旦生じた加入の効果を覆滅させることはで
きないものというべきである。
 従つて、被告の主張する理由をもつてしては、原告らにつき再登録申請書の不提
出の事実から組合員資格の喪失の効果を導き出すことはできないものというべきで
ある。
4 以上に説示したところからすれば、本件に関してなされた再登録手続は、実質
的には、中央本部による支部旧執行部とその同調者の選別およびその排除を目的と
した手段であつたといわざるをえない。そして、それは、組合員の意思に反して組
合員の資格を最終的に剥奪するものであつて、その効果からすれば、統制処分とし
ての除名と異ならないというべきであるが、組合員を除名するためには、前記規約
に明記されているとおり、それ相応の要件の具備と慎重な手続の履践とが必要であ
ると解すべきである。たとえ一般に労働組合の規約上に明文の規定がなくても組合
員に対する統制処分が可能であるとの見解に従つたとしても、一方で規約上に統制
処分の要件および手続についての明確な規定を置いていながら、他方でこれと同視
すべき処分をその要件および手続によらないで行なうことを認める余地はないもの
というべきである。さもなければ、規約所定の要件および手続をことさらに省略し
潜脱して、より簡易に同一の目的を達することを容認するという甚だ不当かつ不合
理な結果を承認せざるをえないことになるからである。
 なお、前示認定のように、本件の再登録申請手続実施の結果については、後日全
国大会の承認を受けてはいるけれども、その承認と除名の手続とを同視することは
できないから、この事実から直ちに原告らにつき除名と同様の組合員資格剥奪の効
果が生じたものということはできないし、また、右再登録申請手続が被告組合にお
ける組織上の混乱収拾のための非常緊急の措置であつたとしても、そのことが直ち
に除名の要件および手続の潜脱を正当化する理由とはなりえないものというべきで
ある。
 そうだとすれば、原告らが本件の再登録申請を所定の期限内にしなかつたことだ
けを理由として、被告が原告らの組合員資格を剥奪することは許されないものとい
わなければならない。
 そして、本件の全証拠を仔細に検討しても、右再登録申請手続による原告らの組
合員資格の喪失あるいは剥奪を正当化すべき他の事由は見当らないし、さらに、原
告らがその他の事由で組合員資格を失つたことについては、被告が何ら主張立証し
ないところである。5 以上に検討したところからすれば、被告の抗弁はその理由
がないといわなければならない。
五 してみれば、原告らは現在もなお被告組合の組合員としての資格を有するもの
というべきところ、被告がこれを容認していないことは明らかであつて、原告らの
その資格の確認を求める本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負
担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥村長生 富田郁郎 林豊)

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