弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人網野精一作成の控訴趣意書に記載されたとおりで
あるから,これを引用する。
論旨は,要するに,被告人が,原判示第1の公衆に著しく迷惑をかける暴力
的不良行為の防止に関する条例(埼玉県条例)違反の罪及び原判示第2の公衆
に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都条例)違
反の罪といずれも常習一罪の関係にあるその後に犯した公衆に著しく迷惑をか
ける暴力的不良行為等の防止に関する条例(愛知県条例)違反の罪について略
式命令を受け,それが確定しているから,原判示各条例違反の罪は刑訴法33
7条1号にいう確定判決を経たときに帰するのに,被告人を免訴することなく
有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違
反がある,というのである。
しかし,地方公共団体に認められた自治立法権(条例制定権)の趣旨等に照
らすと,地域を異にする別個の地方公共団体(埼玉県,東京都及び愛知県)の
条例に違反する各罪を常習一罪として問う余地はないというべきであり,被告
人を有罪とした原判決に訴訟手続の法令違反があるとはいえない。以下,敷え
んして説明する。
1まず,記録により認められる前提となる事実関係は,次のとおりである。
(1)ア被告人は,①ほか5名と共謀の上,常習として,平成16年3月6
日ころ,埼玉県川口市のA3階にある携帯電話機販売店において,それぞれが
所携のデジタルカメラを使用して女性の衣服で隠されているスカート内の下着
等を無断で撮影し,もって,公共の場所において,人を著しくしゅう恥させ,
かつ,人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をし,②ほか3名と共謀の上,
常習として,同年4月25日ころ,東京都墨田区のB1階にある洋菓子販売所
前において,被告人とほか1名が所携のデジタルカメラを使用して女性の衣服
で隠されているスカート内の下着を撮影し,もって,公共の場所において,人
の通常衣服で隠されている下着を撮影して,人を著しくしゅう恥させ,かつ,
人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をした。
イ前記①が原判示第1の埼玉県条例違反の事実であり,同②が原判示第
2の東京都条例違反の事実である。
(2)被告人は,前記アの①及び②の犯罪を行った後である平成16年5月1
7日,名古屋市内で同様の盗撮行為をしようとして逮捕され,同年6月7日に,
愛知県条例違反の罪に問われて,名古屋簡易裁判所で,罰金50万円に処する
との略式命令を受け,同略式命令は,同月22日に確定した。同略式命令の罪
となるべき事実の要旨は,平成16年5月17日,名古屋市中区のビル1階に
おいて,所携のカメラ機能付き携帯電話機を使用して女性のスカート内を撮影
しようとし,後方からスカートの下に同携帯電話機を差し入れ,もって,公共
の場所において,故なく,人を著しくしゅう恥させ,かつ,人を不安を覚えさ
せるような方法で,卑わいな言動をしたというものである。
2次に,関係する条例を見ると,
(1)前記1(1)アの①の関係の埼玉県条例は,埼玉県昭和38年条例第4
7号(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例。ただし,
平成16年条例第77号による改正前のもの。)である。1条で,「この条例
は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為を防止し,もって県民生活の平
穏を保持することを目的とする。」とうたい,2条4項で,「何人も,公共の
場所又は公共の乗物において,他人に対し,身体に直接若しくは衣服の上から
触れ,衣服で隠されている下着等を無断で撮影する等人を著しく羞(しゅう)
恥させ,又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」
と,11条1項で,「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又
は50万円以下の罰金に処する。」と,その1号で,「第2条第4項の規定に
違反した者。」と,11条2項で,「常習として前項の違反行為をした者は,
1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」とそれぞれ規定してい
る。
(2)前記1(1)アの②の関係の東京都条例は,東京都昭和37年条例第1
03号(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例。た
だし,平成16年条例第179号による改正前のもの。)である。1条で,
「この条例は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し,もって
都民生活の平穏を保持することを目的とする。」とうたい,5条1項で,「何
人も,人に対し,公共の場所又は公共の乗物において,人を著しくしゆう恥さ
せ,又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をしてはならない。」と,
8条1項で,「次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は50
万円以下の罰金に処する。」と,その2号で,「第5条第1項の規定に違反し
た者。」と,8条2項で,「前項第2号の罪を犯した者が,人の通常衣服で隠
されている下着又は身体を撮影した者であるときは,1年以下の懲役又は10
0万円以下の罰金に処する。」と,8条4項で,「常習として第2項の違反行
為をした者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」と規定
している。
(3)前記1(2)の関係の愛知県条例は,愛知県昭和38年条例第4号(公
衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)である。1条
で,「この条例は,公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し,も
って県民生活の平穏を保持することを目的とする。」とうたい,2条2項で,
「何人も,人に対し,公共の場所又は公共の乗物において,故なく,人を著し
くしゆう恥させ,又は人に不安を覚えさせるような方法で,次に掲げる行為を
してはならない。」と,その2号で,「衣服等で覆われている人の身体又は下
着をのぞき見し,又は撮影すること。」と,その3号で,「前2号に掲げるも
ののほか,卑わいな言動をすること。」と,9条1項で,「第2条第2項の規
定に違反した者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と,
9条3項で,「常習として第1項の違反行為をした者は,1年以下の懲役又は
100万円以下の罰金に処する。」と規定している。
(4)そして,これら3条例(以下「本件各条例」という。)の保護法益は,
その制定目的の文言等に照らし,基本的には,それぞれの地方公共団体の社会
法益であると解される。
3(1)ところで,地域を異にする別個の地方公共団体(埼玉県,東京都及び
愛知県)の条例に違反する各罪が常習一罪の関係にあるという論旨の理論構成
は,以上のような事実関係等を前提とし,ア本件各条例は,いわゆる迷惑防
止条例といわれるもので,その制定目的,保護法益,構成要件等を考察すると,
共通性,類似性がある上に,ほぼ同内容の条例が全国の都道府県において制定
され,「常習として」という同一の表現の常習加重処罰規定があることも併せ
考えると,各都道府県別の個別の条例と見るよりは,1個の全国共通の法令で
あると見るべきである,イそして,前記略式命令を受けてそれが確定した愛
知県条例違反の罪に係る事実は,埼玉県条例及び東京都条例と共通性,類似性
がある愛知県条例の常習加重処罰規定の常習性の発露であることが明らかであ
る,ウそうであるならば,前記本件各条例違反の罪は,実質的に全国共通の
法令の常習一罪を構成するというべきであるから,その一部について確定判決
を受けたときに帰する以上,本件については,最高裁昭和43年3月29日第
2小法廷判決・刑集22巻3号153頁に従い免訴とすべきである,とするも
のである。
(2)アしかし,そもそも,条例は,地方自治の本旨に基づき,憲法94条
により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法であり,各地
方公共団体が,その地域の実情に応じて,その地域における事務及びその他の
事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものに関し独自
の判断で制定するものである(地方自治法2条2項,14条1項)。
それ故,地域を異にする各地方公共団体の権能によりその地域の実情に応じ
て独自の判断で制定された条例について,制定目的,保護法益,構成要件等に
共通性,類似性が認められる場合があるにしても,それら条例を全国共通の法
令であると観念し,その上で,犯罪日時を異にし,犯罪場所も都道府県を異に
した複数にわたる各条例違反の罪について,1個の常習一罪の成否を判断すべ
きであるというのは,各地方公共団体に自治立法権を認め,それぞれ独自に条
例を制定し得るという憲法及び地方自治法の趣旨に反することとなるというべ
きである。論旨の拠って立つ大前提自体採用することができない(なお,本件
各条例の間に小さくない違いが存在することは,後記5(2)で説示するとお
りである。)。
イまた,ある地方公共団体の条例に違反する罪について確定判決を経た
場合において,仮に,その罪が地域を異にする他の地方公共団体の条例に違反
する罪と常習一罪の関係にあるものと認めて他の地方公共団体の条例に違反す
る罪を処罰し得ないという解釈を取るに至るならば,前者の地方公共団体の自
治権が先に行使されたことにより,後者のそれが行使し得なくなるのを是認す
る,すなわち,一つの地方公共団体による他の地方公共団体の自治権への容か
いを是認することに帰する(本件各条例について具体的に述べるならば,それ
ぞれの地方公共団体がその地域内における県民ないし都民の生活の平穏を保持
するために制定した条例が,他の地方公共団体の条例に違反する罪が処罰され
たがために,当該具体的な事例に関する限りとはいえ,その効力を発揮し得な
いことになる。)。論旨の拠って立つ解釈は,この点でも,各地方公共団体に
自治権を認めた趣旨にもとるといわなければならないし,条例制定者の合理的
な意思解釈を越えるものであろう。
ウそればかりか,地方公共団体に自治立法権(条例制定権)を認めた趣
旨からすると,条例の効力は,原則として,地方公共団体の地域において属地
的に生ずると解せられる(最高裁昭和29年11月24日大法廷判決・刑集8
巻11号1866頁参照)。本件各条例について,それと別個に考える余地は
ない。そして,その保護法益や構成要件に照らすと,本件各条例の処罰規定は,
いずれもそれぞれの地方公共団体の地域外における事件を対象とすることはで
きないというべきであり,ある地方公共団体の条例に違反する罪と地域を異に
する他の地方公共団体の条例に違反する罪を常習一罪として問うこと自体も,
これに反することになるというべきである。すなわち,地域を異にする別個の
条例違反の各罪を常習一罪として処理するということは,例えば,埼玉県条例
違反の罪(常習加重処罰規定)を問うに際し,愛知県条例違反の罪に問われた
前記1(2)の名古屋市内での所為を,埼玉県条例違反の罪に該当するものと
認めることに帰するのであり,条例の効力が及ぶ範囲を逸脱して処理すること
になる。
(3)そして,刑法的観点から見ても,常習犯というものは,罰則が複数回に
わたる同種行為の反復を予定しているため,行為を反復しても,当該罰則によ
り一罪として評価される集合犯の一つと考えられ,複数回にわたる同種行為は
本来的には数罪である。したがって,同種行為であっても,罰則が予定してい
ないと解される行為については,一罪として評価されることはないといわなけ
ればならない。
4以上のような条例に関する前記3(2)のアないしウの趣旨や前記3
(3)の常習犯の特質から見ると,本件埼玉県条例の常習盗撮に関する罰則は,
東京都や愛知県における盗撮又はそれを含む卑わいな言動を,それらが常習性
の発露としてされたものとしても,本件埼玉県条例の常習盗撮の行為と共に一
罪として処罰することを予定していないと解せられる。このことは,本件東京
都条例についても同様である。
5(1)所論は,異なる条例であるとの理由により,本件各条例違反の罪の間
に常習一罪が成立しないとの結論を取りながら,本件各条例違反の常習性の認
定においては,他の都道府県における異なる条例違反行為を判断要素に入れる
ことができるとすれば,同一の都道府県内で複数回の卑わいな行為をした場合
は1個の常習一罪が成立するにすぎないのに,複数の都道府県内で卑わいな行
為をした場合は各都道府県の条例に違反する常習一罪が別々に成立し,それら
が併合罪となることになるが,このような結論は,行為が同一の都道府県にお
いて行われたか否かという犯罪の当罰性に関係ない事情により,著しく刑罰に
不均衡が生ずることになり,明らかに妥当でなく,憲法の予定するところでも
ない,という。
しかしながら,各地方公共団体に自治立法権(条例制定権)を認め,罰則を
も設けることを許している以上,所論のような事例においては所論のような結
論にならざるを得ないが,これが憲法の予定するところでないとはいえない。
行為が同一の都道府県において行われたか否かという事情は,幾つの都道府県
の社会法益を侵害したかということを意味し,正に当罰性に関係する事情であ
る。複数の都道府県の社会法益を侵害する以上,それに応じて処罰されたとし
ても,刑罰に不均衡が生ずることにはならない。
(2)所論は,本件各条例は,いわゆる迷惑防止条例であり,その制定目的,
保護法益,構成要件等を総合的に考慮すれば,共通性,類似性があり,なおか
つほぼ同内容の条例が全国の都道府県において制定されており,「常習とし
て」という同一の表現の常習加重処罰規定があることからすれば,各都道府県
別の個別の条例と見るよりは,1個の全国共通の法令であると見るべきである,
という。
しかしながら,所論の見解は,前記3(2)のアないしウで説示したとおり
であって,採用の限りではない。のみならず,前記2に示した本件各条例には,
原判決が説示するところでもあるが,構成要件の定め方や刑罰に違いが見られ
る。すなわち,東京都条例は,卑わい行為を禁止した上(5条1項),罰則に
ついては,盗撮とそれ以外の卑わい行為を分け,前者に対する刑罰を後者に対
する刑罰より重く定め(8条1項,2項),さらに盗撮とそれ以外の卑わい行
為のそれぞれについて,同様に前者に対する刑罰を後者に対する刑罰より重く
して常習加重処罰規定を定めており(8条4項,5項),盗撮については,常
習の場合も非常習の場合も,懲役刑については,その上限が埼玉県条例及び愛
知県条例の上限の倍と重くしている。これに対し,埼玉県条例と愛知県条例は,
盗撮とそれ以外の卑わい行為を区別することなく,すべての卑わい行為に共通
なものとして非常習の処罰規定と常習加重処罰規定を設けており,両条例の刑
罰も同一である。また,その構成要件について見ると,埼玉県条例が,「身体
に直接若しくは衣服の上から触れ,衣服で隠されている下着等を無断で撮影す
る等」を例示として「人を著しく羞(しゅう)恥させ,又は人に不安を覚えさ
せるような卑わいな言動」を禁止している(2条4項)のに対し,愛知県条例
は,「人を著しくしゆう恥させ,又は人に不安を覚えさせるような方法」で,
人の身体に,直接又は衣服その他の身に付ける物の上から触れること,衣服等
で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し,又は撮影すること,その他の
卑わいな言動を禁止している(2条2項)という違いが見られる。このような
本件各条例の規定の仕方の違いは小さくない。実質的に全国共通の法令が存在
するともいえない。
その他所論を検討してみても,免訴としなかった原判断に誤りは認められな
い。論旨は理由がない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用に
ついては,同法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることと
し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官阿部文洋裁判官髙梨雅夫裁判官原田保孝)

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