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平成15年2月28日 判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(少コ)第41号 賃金請求事件
平成15年2月14日 口頭弁論終結
   主         文
1 被告は,原告に対し,金6万9228円を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担
 とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
         事 実 及 び 理 由
第1 請求
  被告は,原告に対し,金7万7887円を支払え。
第2 事案の概要
1本件は,原告が被告との間で,平成14年11月20日,被告の経営するラー
メン店において,月給25万円,毎月20日締め当月末日払の約定で稼働する契約
を締結し,同月22日から同年12月7日まで稼働したが,その間に発生した賃金
15万円のうち7万2113円しか支払を受けていないとして,残金7万7887
円の支払を求めた事案である。
2 争点
 (1) 原告が平成14年11月22日から同年12月7日までの間稼働した賃金と
して支払を受けるべき額はいくらか。
 (2) 原被告間で平成14年12月4日に作成された労働契約書(以下「本件労働
契約書」という。)に記載された一定の事由が発覚した場合は,給与の2分の1を
減額するとの合意は有効か。
(3) 本件労働契約書の減給制裁の合意は,いつから適用されるか。
  (4) 原告に,平成14年12月5日以降,本件労働契約書に記載された一定の
事由の存在が認められるか。
第3 争点に対する判断
1争点(1)について
 原告は,平成14年11月22日から同年12月7日まで15日間稼働したの
で,15万円(1日1万円×15日)の賃金債権が発生した旨主張するが,1日の
賃金額が1万円である事実を認めるに足りる証拠はない。
 証拠によれば,被告は,平成14年11月21日から同年12月20日までの給
与期間を対象として,その期間から勤務を要しない日である4日間を差し引いた日
数(26日)で基本給である25万円を割り,1日の賃金額を計算していることが
認められる。
 ところで,原被告間において,給与期間の途中で退職した場合の給与の計算方法
について合意した事実は認められないし,被告の計算方法は,原告に特段不利な計
算方法とは認められないので,上記期間中に原告に発生した賃金の額は,1日分9
615円(小数点以下四捨五入,以下同じ。),15日分で14万4225円とす
るのが相当である。
2 争点(2)について
 証拠によれば,本件労働契約書には,第4項の解雇の欄に,「下記内容が発覚し
た場合は,給与の二分一を減額する。(中略)②他人に対して暴行脅迫を加え,業
務の妨害および店の信頼を傷つけた時。(中略)④勤務中はもちろん出勤前に飲酒
して,仕事に就いた時。(以下略)」と記載されていることが認められる。
ところで,被告は,上記減給制裁の合意の有効性について,就業規則で減給の制
裁を定める場合には,労働基準法91条により一定の制限を受けるが,個別の労働
契約により減給の制裁を合意した場合には,労働基準法91条の適用はない旨主張
する。
 しかし,就業規則で定められた減給の制裁が労働基準法上一定の制限を受けるの
に対し,より弱い立場にある労働者個人と使用者との間で締結された労働契約の場
合には,そのような制限がなくなると解するのは相当でない。本件の場合,就業規
則による減給の制裁ではないが,やはり労働基準法91条が適用されると解するの
が相当である。
 したがって,本件労働契約書の減給制裁の合意は,一賃金支払期における賃金の
総額の10分の1を超える部分は無効である。
3 争点(3)について
 証拠によれば,原告と被告間で本件労働契約書が交わされたのは,平成14年1
2月4日であること,原告は同日(同日を含む。)までに12日間稼働し,その
後,3日間稼働したことが認められる。
 ところで,上記のとおり本件労働契約書の減給制裁の合意には,一部有効と認め
られる部分が存在するが,その有効部分を原告の稼働期間全体に適用するのは相当
でない。すなわち,本件労働契約書が作成された平成14年12月4日以前に遡及
して,減給制裁の合意を適用することは許されないと解するのが相当である。
 したがって,本件労働契約書作成後の3日間についてのみ減給制裁の合意が適用
されると解するのが相当である(減給制裁の適用事由の存在については,次項で説
示するとおりである。)。
4 争点(4)について
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成14年12月7日の夕方,飲酒に
より仕事をできる状態でなくなったため,午後9時までの勤務を午後7時で切り上
げることになったこと,原告は,その後,同日午後9時までの勤務を終えた被告の
従業員であるAを待ち伏せし,Aが被告代表者に原告の飲酒について連絡したこと
を注意しようとして,トラブルとなり,Aと二人で近くの交番に行ったことが認め
られる。
 上記事実は,少なくとも,本件労働契約書第4項の④に記載された「勤務中はも
ちろん出勤前に飲酒して,仕事に就いた時」に該当するので,給与の減給制裁を適
用した被告の処分は,上記認定の限度で相当といえる。
5 以上の検討の結果によれば,原告の請求は,以下の計算のとおり6万9228
円の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がないので,主文のとおり判
決する。
(1) 1日の賃金額 25万円÷26日=9615円
(2)全額が認められる部分 9615円×12日=11万5380円
  (3) 一部が認められる部分 9615円×3日×0.9=2万5961円
 (4) (2)と(3)の合計額14万1341円-7万2113円(既受領額)=
                              6万9228円
   東京簡易裁判所民事第1室
       裁 判 官   若 生 朋 美

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