弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
 事案の概要は、後記二、三のとおり当事者双方の当審における主張を付加するほ
か、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、
これを引用する。
二 控訴人の主張
1 本件調査書は、学術的見地からの報告書ではあるが、調査官(臨時委員及び調
査委員)の個人的評価及び判断も含まれるものである。
 文化財審議会で審議され、文化財として指定されたものについては、県民の事後
的検査に資するよう、岐阜県教育委員会において、「岐阜県指定文化財調査報告
書」を作成し、ここでは執筆者の職名及び氏名も公表しているが、文化財として指
定されなかったものも含め、審議会以前の調査委員の専門家としての個人的評価を
記載した公文書まで公開することは、これからの文化財指定に伴う調査を遂行する
のに著しい支障を生じさせるおそれが強い。
 けだし、調査書は調査委員個人の評価過程を記載するものであり、これを公開す
ることにより、調査に当たった調査内容を事後に検査することになれば、調査委員
の個人としての学術的判断が明らかとなり、これを不法に攻撃されるなら、調査委
員の意思形成過程において不可欠である委員の自由な調査方法の確保が困難とな
り、将来の調査に支障をきたすことになるからである。
 そして、そのおそれは、単なる抽象的危険ではなく、既に、被控訴人は、適切に
開催された審議会を、内容が誤りだから違法な審議であり、開催していないに等し
いなどと主張して、審議会委員に対する訴訟を提起している。
2 審議会は、教育委員会の諮問に応じて文化財の保存及び活用に関する専門的及
び技術的事項を調査審議し、並びにこれらの事項に関し必要と認める事項を同委員
会に建議することを所掌事務としているが、その審議の内容を発言者の氏名を消し
て公開しても、審議会委員又は調査委員がその発言内容について各種の批判を受け
るおそれがあるだけでなく、審議会の適正かつ効果的な審議に支障をきたし、ひい
ては文化財指定等の事務そのものに係る意思形成に著しい支障が生じるおそれがあ
る。さらには、審議内容については、た
とえ発言者の氏名を消したとしても、諮問した文化財に係る専門の委員であること
がその発言内容から推し量ることもできる。
 また、議事録は、本件に関するものについては意思形成過程を終了しているが、
調査書同様、これを公開することにより、審議に当たった審議会委員の発言内容を
事後に検査することになれば、審議会の意思形成過程において不可欠である委員の
自由な意見の開陳の確保が困難となり、将来の審議に支障をきたすことになる。
 さらに、審議の過程では、諮問された文化財が文化財として答申されない場合も
出てくる。すなわち、教育委員会が諮問した文化財が、例えば、建造物の場合、そ
の意匠がよくない、あるいは技術的にそれほど優れていないなどの理由で指定され
ず、却下される場合がある。
 右の検討は、適切な文化財指定のためには必須であり、審議会では専門技術的に
掘り下げた議論が展開されるが、反面、右検討が詳細であるため、当該建造物の所
有者にとって、審議内容が公開されることは、却下の結論以外にその理由まで公開
されることになり、非常な不名誉となる。また、諮問された文化財が無形文化財の
場合であれば、その技術の保持者個人の評価に関わる審議が様々に行われ、その結
果却下ということになる場合もある。そうなると、当該無形文化財の保持者にとっ
て、審議内容が公開されることは、保持者の技術につき学術的とはいえ否定的な評
価理由が公開されることになり、不必要な不名誉感情を惹起させるとともに、周囲
から、右技術保持者に対する不必要な否定的評価を惹起させるおそれがある。さら
には、諮問文化財に係る審議の中で、技術保持者に認定される個人の評価が他者と
比較して行われる場合があるが、例えば、無形文化財の保持者が複数の場合、その
一人一人について審議がなされ、そのうちの一人だけを技術の面、あるいは県にと
つての歴史上芸術上の価値の面などについての評価がなされ、その結果、保持者と
して認定される人と認定されない人が出てくることがある。そうなると、認定され
なかった人にとって、審議内容が公開されることは不名誉なこととなる。
3 臨時委員及び調査委員の氏名は、本件条例六条一号の個人に関する情報に該当
するから、前記のとおり本件条例六条七号との重畳適用により、非公開事由がある
ものというべきである。
4 審議会に出席した教育委員会事務局職員の氏名について、原判決は、本件条
例の改正条項に言及するが、本件条例附則三項に、「新条例第六条第一号及び第四
号の規定は施行日以後に実施機関が作成し、又は取得した公文書について、新条例
第一〇条第五項及び第六項の規定は当該公文書に係る公開の決定について適用す
る。」として、改正条例の規定を適用する公文書の時限的範囲を定めているから、
改正条項を右職員の氏名の公開に適用することはできないものというべきである。
三 被控訴人の主張
控訴人の主張はいずれも争う。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、被控訴人の本件請求は、原判決の主文一項の限度で理由があるか
ら、これを認容すべきであり、その余の請求は理由がないから、これを棄却すべき
であると判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原
判決の事実及び理由の「第三当裁判所の判断」欄に説示のとおりであるから、これ
を引用する。
1 原判決一四頁四行目の「甲二」を「甲二、乙六」と改める。
2 同八行目の「決定されたこと」の次に「、なお、右調査官には、岐阜県文化財
保護条例(昭和二九年岐阜県条例第三七号)の規定に基づき臨時委員が任命され、
当該臨時委員及び常任の審議会委員一名が充てられ、調査委員として調査に当たっ
たこと」を加える。
3 同一五頁一一行目の「調査委員」を「調査官」と改める。
4 同一七頁七行目の「検討するに、」の次に「本件は文化財指定の答申がなされ
た場合であるところ、」を加える。
5 同一八頁九行目末尾に改行して次のとおり加える。
「さらに、右のとおり審議経過に部分抹消を加えたとしても、控訴人主張のように
審議会の意思形成過程において不可欠である委員の自由な意見の開陳の確保が困難
となり、将来の審議に支障をきたすおそれがあるかについては、当審証人Aの証言
によっても未だこれを肯定するに足りない。また、証拠(乙五)によると、被控訴
人は、文化財保護審議会委員等を相手方として、本件美濃伝日本刀鍛錬技法に関す
る審議会の審議内容には誤りがあるなどと主張して、審議に要した費用の返還請求
訴訟を提起していることが認められるが、右訴訟は、右審議経過の公開とは関係な
く提起されたものであるから、控訴人主張の支障との間には因果関係がないものと
というべきであって、同訴訟の提起自体を控訴人主張の支障と結びつけるわけには
いかない。
 なお、控訴人は、審議会に諮問された文化財が文化財として答申されない場合
に、その審議経過を公開して明らかにすることは、当該有形文化財の所有者あるい
は同無形文化財の技術保持者の名誉ないし名誉感情等を傷つけるおそれがあり、ま
た、複数の申請の中から選択して認定する場合には認定されなかったこれらの者の
名誉ないし名誉感情等を傷つけるおそれがある旨を主張するところ、右のような場
合には、本件条例六条一号ないし七号該当として審議経過を非公開とすることが正
当化されるということができるが、本件は前記のとおり単独申請に係る文化財指定
の答申がなされた事例に関するものであり、控訴人が危倶するような侵害が伴うよ
うな事例であるとは認められない。」
6 同一九頁二行目の冒頭から同六行目末尾までを次のとおり改める。
「証拠(甲二)及び弁論の全趣旨によると、臨時委員及び調査員の氏名は、前記調
査書、審議会議事録及びその他の関連資料に記載があり、その各氏名部分が非公開
とされたことが認められる。
 右の非公開部分は、それ自体が個人に関する情報であって、特定の個人が識別さ
れ得るものに当たるから、右氏名に関する情報は本件条例六条一号の個人に関する
情報に一応該当するものといえる。
 ところで、本件条例六条一号のような特定の個人を識別できる情報を原則として
非公開とする方式を採用するものは、基本的人権の尊重という観点からすると、個
人のプライバシーを最大限保護する必要があり、しかも、プライバシーの概念及び
範囲が未だ明確となっていないことから、個人に関する情報であって、特定の個人
情報が識別される情報については、当該個人に対し自己の存在に関わる情報を自ら
決定することを保障する趣旨から、原則として非公開とする旨を規定したものと解
するのが相当である。
 そして、本件条例が、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするととも
に、県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた
県政を実現することを目的とし(一条)、この条例の解釈及び運用に当たっては、
公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるものとする(三条前段)と規定する
が、この場合、個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配
慮をしなければならない(同条後段)と規定している趣旨を併せ考慮すると、個人
の氏名は、特定の個人が識別され得る情報の一つであることには相違ないが、本件
条例六条一号は、当該個人名が登載されている公文書
の内容と無関係に、それ自体をもって非公開とする趣旨であるとは解されない。
 すなわち、本件条例六条一号にいう「個人に関する情報」とは、特定個人の氏名
あるいは特定個人を識別できる情報と共に公文書に登載されている情報内容が、例
えば、①思想、信条、信仰、意識、趣味等個人の内心の秘密に関する情報、②職
業、資格、学歴、犯罪歴、所属団体等個人の経歴、社会活動に関する情報、③収
入、資産等個人の財産状況に関する情報、④健康状態、病歴等個人の心身の状況に
関する情報、⑤家族関係、生活記録等個人の家庭、生活関係に関する情報などとの
関連において、当該特定個人の権利を侵害するおそれがあるものを指す相関関係概
念であると解するのが相当であり、それ以外のものは、同号によって保護される
「個人に関する情報」には含まれないものというべきである。
 したがって、特定個人の氏名自体の開示によって、当該個人の権利が侵害される
おそれがあるという特段の主張、立証のない限り、個人の氏名は、当該個人名が登
載されている公文書の内容と無関係に、それ自体をもって、本件条例六条一号の
「個人に関する情報」とはいえないところ、本件全証拠によっても、右特段の事情
を見出すことができない。
 そこで、臨時委員及び調査委員の氏名が登載されている公文書の内容を検討する
に、証拠(甲二)及び弁論の全趣旨によると、臨時委員及び調査委員の氏名は、前
記調査書、審議会議事録及びその他の関連資料に記載されていることが認められる
が、前記認定のとおり調査書は文化財の調査に関する専門家である臨時委員及び調
査委員が、自己の知識と経験をもとに調査事項を定め、右事項に基づいて調査を実
施し、その結果を踏まえて指定の条件を考察したものであり、同委員の文化財の指
定に関する学術的な報告書であるから、個人的な意見ないし感想にすぎない部分を
含むものではないと考えられること、また、その余の公文書も、岐阜県文化財保護
条例に基づく文化財指定の答申という審議過程、すなわち、公務遂行過程で作成さ
れた公文書であること自体が明らかであることからすると、臨時委員及び調査委員
の氏名が登載されている右公文書には、同委員個人に関する前記説示のような個人
情報が含まれているものとは認められない。
 さらに、臨時委員及び調査委員の氏名は、右のとおり調査書、審議会議事録及び
その他の関連資料に記載されていることが、これらの文書が本件条例六条七号所定
の県の事務事業に係る意思形成過程に関する情報が記録されている公文書であるこ
とは明らかである。」.
7 同二〇頁二行目冒頭から三行目末尾までを次のとおり改める。
「したがって、臨時委員及び調査委員の氏名は、本件条例六条一号、七号に該当す
る情報に当たらないものというべきである。なお、証拠(甲一五、乙四)及び弁論
の全趣旨によると、本件美濃伝日本刀鍛錬技法については、平成九年七月二九日、
文化財の指定がなされ、岐阜県教育委員会は、岐阜県文化財保護条例に基づき、平
成一〇年三月に刊行した岐阜県指定文化財報告書第四一巻に、本件調査に当たった
臨時委員の名前で、指定内容及びその解説等を掲載していることが認められるか
ら、右臨時委員の氏名を本件条例六条一号の個人に関する情報として非公開とする
保護法益も失われているものというべきである。そして、右事由は本件処分後に生
じたものではあるが、臨時委員の氏名の公開は、本件条例に定める手続によって公
開されたものではないから、被控訴人には同条例の定めるところに従って、その公
開を受けるという権利利益があるものというべきである。」
8 同二〇頁七行目の「前記議事録」を「審議会議事録」と改める。
9 同二一頁二行目冒頭から二三頁五行目末尾までを次の通り改める。
「右非公開部分である審議会に出席した教育委員会事務局職員及び起案者に関する
個人の職名と氏名は、それ自体が個人に関する情報であって、特定の個人が識別さ
れ得るものに当たるから、右氏名に関する情報は本件条例六条一号の個人に関する
情報に一応該当するものといえる。
 しかしながら、本件条例六条一号にいう「個人に関する情報」とは、前記のとお
り特定個人の職名及び氏名あるいは特定個人を識別できる情報と共に公文書に登載
されている情報内容が当該特定個人の権利を侵害するおそれがあるものであるかど
うかの関係でとらえられる相関関係概念であると解するのが相当であり、それ以外
のものは、同号によって保護される「個人に関する情報」には含まれないものとい
うべきであり、このことは公務員についても同様である。
 したがって、公務員個人の職名及び氏名自体の開示によって、当該公務員個人の
権利が侵害されるおそれがあるという特段の主張、立証のない限り、公務員個人の
職名及び氏名は、当該公務員個人の職名及び氏名が登載されている公文書の
内容と無関係に、それ自体をもって、本件条例六条一号の「個人に関する情報」と
はいえないところ、本件全証拠によっても、右特段の事情を見出すことができな
い。
 そこで、前記事務局職員及び起案者の職名及び氏名が登載されている公文書の内
容を検討するに、前者の職名及び氏名は審議会議事録に、後者の職名及び氏名は
「岐阜県重要文化財の指定、岐阜県重要無形文化財の指定及びその認定、岐阜県重
要無形民俗文化財の指定について」と題する起案文書に記載されているものである
が、前者の公文書は本件文化財を指定するに当たっての審議会の議事録で、その公
務遂行過程で作成されたものであり、また、後者の公文書は、審議会で答申された
本件文化財につき所定の手続を経て教育委員会の議決を得た上、同議決を告示し、
関係者に通知するという内容で、当該起案者の公務遂行過程で作成されたものであ
ることが明らかであるから、その性格上、右事務局職員及び起案者の職名及び氏名
が登載されている各公文書には、当該各公務員個人に関する前記説示のような個人
情報が含まれているものとは認められない。
 したがって、前記事務局職員及び起案者の職名及び氏名は、本件条例六条一号に
該当する情報に当たらないものというべきである。
 なお、被控訴人の本件請求のうち、前記起案者の職名及び氏名についての非公開
決定処分の取消しを求める部分は、原判決において、棄却されたが、この部分につ
いての被控訴人からの控訴申立がない以上、控訴人に不利益に変更することは許さ
れないところである。」
二 よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する
こととし、主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第四部
裁判長裁判官 小川克介
裁判官 下澤悦夫
裁判官 玉田勝也

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