弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人A、B、C、D、E、F、Gの本件各控訴を棄却する。
     原判決中被告人Hに関する部分を破棄する。
     被告人Hを罰金五万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期
間労役場に留置する。
     原審における訴訟費用のうち、証人I、J、K、L、M、N、Oに支給
した分は、被告人Hの単独負担とし、証人P、Q、R、Sに支給した分は、被告人
A、B、C、D、E、F等の連帯負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、被告人等の弁護人松岡一章提出の控訴趣意書記載の通りであ
るから、これを引用する。
 控訴趣意第一点の(一)、同第二第三点事実誤認の違法があるとの主張につい
て、
 原判決の掲げる証拠を綜合すれば、優に同判決摘示の各犯罪事実を認定するに足
り、記録を精査し所論と対照して同判決の事実認定を検討して見ても、論旨に指摘
するような誤認はない。論旨は理由がない。
 同第一点の(二)理由にくいちがいがあるとの主張について、
 原判決が、被告人Hに対する判示第一の戸別訪問の罪の一部につき、Gとの共犯
(共同正犯)関係を認定しながら、Gに対する関係においては、同一事実につき共
謀の立証なしとして無罪の認定をしてい<要旨第一>ることは、まことに所論の通り
である。しかしながら判決の対象となる被告事件は、数人の共犯者を同時に同 旨第一>一手続によつて併合審理する場合においても、被告人毎に各別に存在するも
のであつて、判決もまた主観的な右基準に従つて各別になされるものであるから、
判決における理由の不備またはくいちがいの有無の如きも、<要旨第二>当該被告人
に関する判決の主文と理由についてのみ審査決定すべきものである。もとより共同
正犯の如く、互に意思を相通じ犯罪を共同にした場合においては、その
犯罪の成否は、犯人相互につき共通不可分のものであるから、同一判決において、
その一方についてはこの関係を積極的に認定しながらその相手方についてはこれを
否定するような認定は、互に矛盾した判断であつて、そのいずれかに審理不尽ない
しは事実誤認の違法のあることを推測させるに十分であるが、この矛盾のあること
を以つて、直ちに双方の判決の内部に理由のくいちがいがあるものとして、破棄の
理由とすることはできない。 しかして原判決挙示の証拠によれば、所論戸別訪問
の罪は原判決が被告人Hについて認定している通り、相被告人Gとの共同正犯であ
ることが明らかであつて、被告人Hに関する原判決の認定事実と挙示の証拠との間
には勿論のこと、その事実と適用法令との間にも、何等の不備くいちがいがなく、
これ等の理由と主文との間にもこのような瑕疵のあることを発見し得ない。
 所論はG被告人に対する判決の事実認定を基礎として、被告人Hに対する原判決
を非難するのであるが、瑕疵はむしろ前者にこそあれ、H被告人に対する原判決に
所論のような違法はない。論旨は理由がない。
 つぎに職権を以つて判断すると、原判決は被告人Hに対し、懲役六月の実刑を言
渡しているのであるが、記録を精査し本件犯行の動機、態様その他諸般の情状を考
えるときは、その量刑は著しく重きに過ぎるものと認められるので、破棄を免れな
い。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い被告人A、B、C、D、E、F、Gの本
件各控訴を棄却し、同法第三百九十七条、第三百九十二条第二項、第三百八十一条
により原判決中被告人Hに関する部分を破棄し、同法第四百条但書に従いつぎの通
りさらに判決する。
 原判決の確定した事実を法律に照すと、被告人Hの判示所為のうち、金銭供与の
各罪及び饗応接待の各罪は、公職選挙法第二百二十一条第一項第一号に、事前運動
の各罪は同法第百二十九条、第二百三十九条第一号に、戸別訪問の罪は同法第百三
十八条、第二百三十九条第三号に各該当し、右饗応の罪相互の関係及び事前運動の
罪と右饗応または供与の罪との関係は、それぞれ一個の行為にして数個の罪名に触
れる場合に該るので刑法第五十四条第一項前段、第十条により、重い饗応罪及び各
供与の罪の刑に従うべく、右によつて事前運動の罪と一所為数罪となつた供与の各
罪と饗応の罪と戸別訪問の罪(これは包括一罪と解する)とは刑法第四十五条前段
の併合罪となるので、その所定刑中各罰金刑を選択し、同法第四十八条第二項によ
り、各罪の罰金の合算額の範囲内において、被告人Hを罰金五万円に処し、右罰金
を完納することができないときは刑法第十八条に従い、金五百円を一日に換算した
期間労役場に留置すべく、原審における訴訟費用のうち、主文に記載した分は刑事
訴訟法第百八十一条、第百八十二条により被告人において単独または連帯して負担
すべきものとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 宮本誉志男 判事 浅野猛人 判事 幸田輝治)

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