弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人舎川軍蔵、同後藤伝兵衛、被告人Aの上告趣意は末尾に添付した別紙書面
記載の通りである。
 弁護人舎川軍蔵の上告趣意について。
 論旨は、原判決が証拠に挙示した司法警察官の訊問調書及び検事聴取書中の殺意
についての未必の故意の自白は、被告人の供述に基かざる取調官の専恣の録取若は
理詰めに因る強制に基く自白であつて、孰れも憲法第三八条第一項第二項及び刑訴
応急措置法第一〇条第一項第二項に依り証拠となし得ないものであると主張する。
記録を精査するに被告人は第一、二審共公判廷において殺意を否認しているが、被
告人の右公判廷における供述のみによつて右訊問調書及び聴取書が取調官の専恣の
録取であるとか、強制によるものであると認むべき証拠とはなし得ないばかりでな
く、所論の如き形跡は記録中何処にも存在しないから、右訊問調書及び聴取書は証
拠能力がないとはいい得ない。(昭和二二年(れ)第二五三号、同二三年七月一日
大法廷判決参照)なお論旨は、原審公判廷における被告人の供述は真実であつて、
右訊問調書及び聴取書の信用すべからざるものであるということについて縷々説明
しているが、所論は要するに、原審の証拠の取捨判断及び事実の認定並に刑の量定
を批難することに帰着するから、上告適法の理由とならないものである。
 被告人Aの上告趣意について。
 論旨は、被告人に殺意がなかつたことを述べているのであるが、原判決が証拠に
挙示した被告人に対する司法警察官の訊問調書によれば、「巡査に向つて突きはじ
めた時には突きどころが悪るければ死ぬかも知れない、逃げられさえすれば相手は
死んでも止むを得ないと決心した」旨を述べているし、原判決において挙示の各証
拠を綜合して被告人に殺意のあつたことを認定したことは相当である。
 右について被告人は、原審公判廷において、種々弁疏しており、舎川弁護人の上
告趣意書にも右訊問調書は被告人の真意ではなく、且つ証拠能力がない旨を述べて
いるが、同弁護人の論旨に対する説明の通り、証拠能力がないとはいえないし、公
判廷における被告人の供述を証拠に採用すべきか否かは原審の自由に決し得べきと
ころであり、原審の事実認定は何等法則に反するところはない。なお論旨は細々と
心境其の他の点について述べているが、結局原審の事実誤認と量刑不当を主張する
ことに帰着し、上告適法の理由とならないものである。
 弁護人後藤伝兵衛の上告趣意第一点について。
 しかし没収にかかる小刀が被告人以外の者の所有に属しないという事実は、旧刑
事訴訟法第三六〇条第一項の所謂罪となるべき事実でないから、証拠によつてこれ
を認めた理由を説明する必要はない。記録に徴するに所論小刀は被告人の所有に属
するものであることは明らかであり、且つ犯行の用に供したものであること、並に
被告人以外の者の所有に属しないことについては、判文上明らかにされており、没
収に関する説示としては何等欠くところなく、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 本論旨は弁護人舎川軍蔵及び被告人Aの上告趣意を引用するというのであるから
重ねて説明することを省略する。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条により、主文の通り判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年一一月三〇日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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