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平成29年4月11日判決言渡
平成28年(行ケ)第10176号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年3月21日
判決
原告株式会社島津製作所
訴訟代理人弁理士喜多俊文
江口裕之
阿久津好二
被告特許庁長官
指定代理人藤田年彦
郡山順
小川亮
山村浩
板谷玲子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
特許庁が不服2015-9522号事件について平成28年6月20日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟
である。争点は,進歩性の判断の当否(相違点の認定及び判断の当否)である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「分光光度計」とする発明につき,平成23年6月28日(本件
出願日),特許出願(特願2011-143206号)をし,平成26年10月20
日付けで手続補正をした(甲5)が,平成27年2月19日付けで拒絶査定を受け
た(甲7)。
原告は,同年5月22日,拒絶査定不服審判請求をし(不服第2015-952
2号。甲9),同日付けで手続補正(本件補正)をした(甲8。本件補正書)。
2本願発明等の要旨
(1)本件補正前の請求項1に係る発明(本願発明)は,以下のとおりのもので
ある(甲5。なお,願書に最初に添付された明細書及び図面(甲3)を「本願明細
書」という。)。
「少なくとも2つのセクタ部を有し,測定光を各セクタ部に対応する少なくとも
2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と,各モードの光強度を測定して光強度信
号を生成する光検出器と,を備える分光光度計において,
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出
部と,
前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部と,
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と,
前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部と,
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と,
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から,その検出信号に対応す
るモードの前記遅延時間だけ遅延した後に,該対応するモードの前記測定期間の間
だけ前記光検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と,
を備えることを特徴とする分光光度計。」
(2)本件補正後の請求項1に係る発明(本件補正後発明)は,以下のとおりの
ものである(甲8)。
「少なくとも2つのセクタ部を有し,測定光を各セクタ部に対応する少なくとも
2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と,各モードの光強度を測定して光強度信
号を生成する光検出器と,を備える分光光度計において,
前記回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い,
測定する際の分析条件に応じて,前記ブラシレスDCモータの回転速度を制御する
回転数制御部と,
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出
部と,
前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部と,
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と,
前記モード毎の測定期間を設定する測定時間設定部と,
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と,
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から,その検出信号に対応す
るモードの前記遅延時間だけ遅延した後に,該対応するモードの前記測定期間の間
だけ前記検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と,
を備えることを特徴とする分光光度計。」
3審決の理由の要点
(1)本件補正は,本願発明を特定するために必要な事項を限定するものである
から,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該
当する。
(2)独立特許要件
本件補正後発明は,特開昭56-150305号公報(甲1。引用例1)記載の
発明(引用発明)及び特開2006-3165号公報(甲2。引用例2)に記載さ
れた事項(引用例2記載事項)に基づいて,当業者が容易に発明することができた
ものであるから,特許法29条2項に基づいて,特許出願の際独立して特許を受け
ることができない。
ア引用発明の認定
「分光回転鏡(プレサンプル・チヨッパ)6が切欠き扇形片,反射扇形片及び非
反射扇形片を持っており,
光度検知器25及び信号処理装置27がパルス発生器28及び29と一緒に信号
発生手段の一部を形成し,この信号発生手段が,プレサンプル・チヨッパ6によっ
て行われる分光の結果として光電信号を発生するものであり,
プレサンプル・チヨッパ6には孔6D1を明けた不透明な環6Dが固着され,孔
6D1の内側の円上には6つの別な孔6D2~6D7が明けられており,各孔の前
縁が6分割サンプル・チヨッパがサイクル開始位置にある時扇形片の前縁の延長線
上にあり,各孔がランプ28A及び光電管28Bと協働するので,6つの孔の各々
の前縁がランプ28Aからの光束を横切ると,光電管28Bは現在使用中の孔と関
連した扇形片の開始を知らせる鋭い電気パルスを発生し,ランプ28A及び光電管
28Bが扇形片開始パルス発生器28と協働する検知手段を表わすものであり,
信号処理装置27の詳細は,光度検知器25によって発生された微小信号は,増
幅器27Aによってまず増幅され,その後積分器兼アナログ/デイジタル(A/D)
変換器27Bによって積分されかつA/D変換されるものであり,
電子的計数用に必要なタイミング・パルスが,扇形片開始パルス発生器28から
ルート27Gを通してマイクロプロセッサ27Dへ供給され,ルート27Gから分
れたルート27G1は扇形片開始パルスを,遅延ユニット27Hを通して積分器兼
A/D変換器27Bへ供給し,遅延ユニット27Hからの各パルスが,関連扇形片
開始パルスの発生時点から所定の時間遅れて微小信号の積分開始のタイミングをと
るものであり,
6分割サンプル・チヨッパ6を駆動するための定速モータ30が,50Hzの交
流電源30Aによって運転される時毎分500回転する同期モータであり,
遅延ユニット27Hが漏話を打消すために必要などんな遅延も提供するように構
成されるが,平均値としては10ミリ秒が良いものであり,
積分器兼A/D変換器27Bの内部では積分が約18ミリ秒継続するように時間
がきられている,2光束,比記録,赤外分光光度計。」
イ引用例2記載事項の認定
(ア)「【発明が解決しようとする課題】【0008】ビートによるノイズを
解消するために用いる同期誘導電動機では,上記の振動によるノイズを逃れること
はできない。また,DCブラシレスモータは容易に回転数を変えることができるが,
特許文献2においてはモータの回転数とノイズを取り除くノッチフィルタの周波数
を調整することによりノイズを低減しようという提案であり,モータにより発生す
るノイズ自体を小さくすることはできない。
【0009】本発明は,上記問題を解決するためになされたものであり,振動な
どセクタミラーの回転数と因果関係のあるノイズを可能な限り改善することができ
る二光束分光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0010】上記問題を解決するため,本発明の
分光光度計は,光源と被測定試料および参照試料との間の光路上に設けられた,ミ
ラー,開口部,遮蔽部のいずれかが介在するように切り替える回転可能なセクタミ
ラーと,該セクタミラーを回転させるモータと,被測定試料または参照試料からの
光を検出する光検出器を備えた二光束分光光度計において,光検出器におけるノイ
ズが最小になるようにモータの回転数を調整する調整手段を設けたものである。」
(イ)「【0016】次に動作について説明する。光源31からの光はモノク
ロメータ32により単色化された後,セクタミラー41に達する。セクタミラー4
1は光路に対して45度の角度で,図2に示す開口部42,43およびミラー44,
45が光路上に来るように配置され,モータ2により一定速度で回転される。モー
タ2には速度可変と長寿命が必要なので,DCブラシレスモータを用いており,マ
イクロプロセッサ22からの指令によりモータコントローラ3により速度を制御さ
れる。セクタミラー41が回転することにより,開口部42が光路上に来たとき,
光源31からの光はセクタミラー41を通過し,試料側セルホルダ7に保持された
試料を透過した後ハーフミラー10で一部は反射するものの,残りは直進して検出
器13で検出される。」
ウ本件補正後発明と引用発明との対比
(一致点)
「少なくとも2つのセクタ部を有し,測定光を各セクタ部に対応する少なくとも
2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と,各モードの光強度を測定して光強度信
号を生成する光検出器と,を備える分光光度計において,
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出
部と,
遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と,
測定期間を記憶する測定期間記憶部と,
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から,前記遅延時間だけ遅
延した後に,前記測定期間の間だけ前記検出器からの光強度信号を測定値として取
得する測定制御部と,
を備える分光光度計。」
(相違点1)
本件補正後発明では「前記回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い,
測定する際の分析条件に応じて,前記ブラシレスDCモータの回転速度を制御する
回転数制御部」を備えるものであるのに対し,引用発明ではそのようなものではな
い点。
(相違点2)
本件補正後発明では「前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部」と,
「前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部」と,を備えるのに対し,引
用発明ではそのようなものか否か不明な点。
(相違点3)
遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と,測定期間を記憶する測定期間設定部につ
いて,本件補正後発明ではそれぞれ「前記モード毎」の遅延時間,測定期間を記憶
する記憶部であり,また,測定制御部が前記回転位置検出部からの検出信号を受信
した時点から,遅延時間だけ遅延した後に,測定期間の間だけ検出器からの光強度
信号を測定値として取得するのは,本件補正後発明ではその遅延時間,測定期間が
「その検出信号に対応するモードの」ものであるのに対し,引用発明ではそのよう
なものか否か不明な点。
エ相違点の判断
(ア)相違点1について
引用例2には,「ミラー,開口部,遮蔽部のいずれかが介在するように切り替え
る回転可能なセクタミラーと,該セクタミラーを回転させるモータと,被測定試料
または参照試料からの光を検出する光検出器を備えた二光束分光光度計において」,
「振動などセクタミラーの回転数と因果関係のあるノイズを可能な限り改善する」
ために,「光検出器におけるノイズが最小になるようにモータの回転数を調整する
調整手段を設け」,「モータ2には速度可変と長寿命が必要なので,DCブラシレ
スモータを用い」るという技術事項が記載されている。ここで,ミラーの回転数と
因果関係のあるノイズを可能な限り改善するために,モータの回転数を調整するこ
とは,測定する際の分析条件に応じたものということができる。
そして,引用発明においても,ノイズを可能な限り改善するために,定速モータ
30に代えて,引用例2記載事項を適用して,相違点1に係る本件補正後発明の構
成に想到することは当業者が容易になし得たというべきである。
(イ)相違点2及び3について
引用発明では,「遅延ユニット27Hが漏話を打消すために必要などんな遅延も
提供するように構成されるが,平均値としては10ミリ秒が良いものであり,積分
器兼A/D変換器27Bの内部では積分が約18ミリ秒継続するように時間がきら
れている」ものであるが,上記(ア)で検討したように,引用例2記載事項を引用発明
に適用した場合,モータの回転数に応じて適切な遅延時間及び積分時間を選択すべ
きことは明らかなことであるから,そのために遅延時間及び積分時間を設定する設
定部を設けて相違点2に係る本件補正後発明の構成に想到することは当業者が容易
になし得たというべきである。
そして,引用例1に「同一組の微小部分は等しい時間々隔で発生されることが予
期されるけれども,一方の組の微小部分と他方の組の微小部分との間で異なる発生
時間を使用してもよい。」(記載A)と記載されているように,それぞれの関連扇
形片における遅延時間及び積算時間を,一律のものとして扱うか,あるいは,それ
ぞれの関連扇形片における遅延時間及び積算時間として扱うかは,設計の便宜や必
要な精度等を考慮して当業者が適宜選択し得る設計的事項であり,後者のように構
成して,相違点2及び3に係る本件補正後発明の構成に想到することは当業者が容
易になし得たというべきである。
そして,本件補正後発明の効果も,当業者であれば引用発明,引用例1の記載事
項及び引用例2記載事項から予測し得る範囲内のものであり,格別顕著なものとは
いえない。
(3)本願発明は,引用発明及び引用例2記載事項に基づいて,当業者が容易に
発明することができたものであるから,特許法29条2項に基づいて,特許を受け
ることができない。
(4)したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法
126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用す
る同法53条1項の規定により却下すべきものである。
(5)本願発明に対する判断
本願発明は,本件補正後発明における「分光光度計」について,「前記回転セク
タ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い,測定する際の分析条件に応じて,前
記ブラシレスDCモータの回転速度を制御する回転数制御部」「を備える」という
構成を省いたものである。
そうすると,本願発明の特定事項を全て含み,さらに他の特定事項を付加したも
のに相当する本件補正後発明が,前記(2)に記載したとおり,引用発明,引用例1の
記載事項及び引用例2記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができ
たものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明,引用例1の記載事項
及び引用例2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであ
る。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(相違点2及び3の認定の誤り)
引用例1では,「遅延ユニット27Hは漏話を打ち消すために必要などのような遅
延も提供するように構成されるが,平均値としては10ミリ秒が良いので」と明記
されているため,サンプル信号成分と基準信号成分に対して同じ遅延時間を使用す
ることは明らかである。
また,引用例1の図7に係る実施例において,積分器兼A/D変換器27Bでは,
遅延ユニット27Hからのパルスを受けて,信号成分の積分を開始しており,遅延
ユニット27Hで積分器兼A/D変換器27Bでの信号成分の積分開始を一定時間
遅らせる遅延時間が設定されている。遅延ユニット27Hは,扇形片開始パルス発
生器28から供給される扇形片開始パルスを受けた後,設定された遅延時間だけ遅
れて,積分器兼A/D変換器27Bに微小信号成分の積分開始を意味するパルスを
供給している。扇形片開始パルス発生器28は,特定の扇形片を区別することなく,
全ての扇形片の開始タイミングにおいて扇形片開始パルスを遅延ユニット27Hに
供給しているため,遅延ユニット27Hでは,供給される扇形片開始パルスがサン
プル信号成分,又は基準信号成分のどちらに関連するものであるか判断ができず,
サンプル信号成分及び基準信号成分に対して同じ遅延時間が設定されていることが
明らかである。遅延ユニット27Hが処理を開始するためのパルスを供給するユニ
ットは,引用発明の回路構成上,他には存在しない。したがって,上記実施例では,
いずれの扇形片であっても常に一定の遅延時間を供給する回路構成となっていると
いえる。
引用発明の技術的思想が,遅延時間及び測定期間がモード毎に異なるのではなく
一定であると認定できるにもかかわらず,単に,文言上「モード毎」との記載がな
いことのみを根拠として,引用発明における遅延時間及び測定期間がモード毎に一
定であるかどうか不明と判断するのは,引用例1に記載された事項を技術的思想の
創作として把握することなく,単なる文言上の「構成」として把握するものであっ
て,相違点の認定を誤ったものである。審決は,「回転位置検出部」についての「モ
ード毎」については,その対応する構成を一致点として認定しているから,「遅延時
間及び測定期間」についてのみ「モード毎」に関するものが文言上明記されていな
いことを理由に「不明」と認定することは,論理一貫性を欠く。
したがって,審決の「(相違点2)・・・引用発明ではそのようなものか否か不明
な点。」及び「(相違点3)・・・引用発明ではそのようなものか否か不明な点。」と
する認定は誤りであって,正しくは,以下のとおり認定すべきである。
(相違点2’)本件補正後発明では「前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間
設定部」と,「前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部」と,を備えるの
に対し,引用発明では,少なくとも,モードによらず,一定の遅延時間を設定する
遅延時間設定部を備えている点。
(相違点3’)「遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と,測定期間を記憶する測定
期間設定部」について,本件補正後発明ではそれぞれ「前記モード毎」の遅延時間,
測定期間を記憶する記憶部であり,また,測定制御部が前記回転位置検出部からの
検出信号を受信した時点から,遅延時間だけ遅延した後に,測定期間の間だけ検出
器からの光強度信号を測定値として取得するのは,本件補正後発明ではその遅延時
間,測定期間が「その検出信号に対応するモードの」ものであるのに対し,引用発
明では,「少なくとも,モードによらず,一定の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部
を備えており,測定制御部が前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点か
ら,遅延時間だけ遅延した後に,測定期間の間だけ検出器からの光強度信号を測定
値として取得する際,その遅延時間が「その検出信号に対応するモード」によらず
一定である」点。
2取消事由2(相違点2及び3の判断の誤り)
(1)審決は,引用発明においては,引用例1の「同一組の微小部分は等しい時
間々隔で発生されることが予期されるけれども,一方の組の微小部分と他方の組の
微小部分との間で異なる発生時間を使用してもよい。」(記載A)から,それぞれの
関連扇形片における遅延時間及び積算時間を,一律のものとして扱うか,あるいは,
それぞれの関連扇形片における遅延時間及び積算時間として扱うかは,設計の便宜
や必要な精度等を考慮して当業者が適宜選択し得る設計的事項である,と判断する。
(2)しかし,同一の物理量を説明するための用語は,同一の表現に統一して記
載するのが常識であるから,記載Aの「時間々隔」,「発生時間」及び「持続時間」
は,違う意味に解釈されるべきである。「時間々隔」は「休止時間」という意味で解
釈されるべきであり,記載Aにおける「時間々隔」は,サンプル信号の微小部分の
組に対しては,原告図6に付した赤矢印の期間,基準信号の微小部分の組に対して
は,原告図6に付した青矢印の期間のことを意味するとすべきである。「発生時間」
は,記載Aにおいて「時間々隔」と対比して記載され,異なる表現が用いられてい
るから,「時間々隔」とは異なる部分である,各微小部分の1組分が発生している時
間,サンプル信号の微小部分については原告図6に付した青矢印の期間,基準信号
の微小部分については原告図6に付した赤矢印の期間を意味すると解すべきである。
【原告図6】
(3)また,記載A及びそれに引き続く「分光光度測定では,全ての微小部分の
持続時間を等しくすることが望ましい。」(記載B)との記載から,一方の組の微小
部分と他方の組の微小部分との間で異なる発生時間を使用することが望ましいのは,
分光光度計以外の場合であり,分光光度計の場合には,これらの発生時間を等しく
することが望ましいことは明らかである。したがって,記載Bは,モード毎に異な
る発生時間を使用するという構成を,分光光度計に対して適用する上での阻害要因
となる。そのため,引用例1における「一方の組の微小部分と他方の組の微小部分
との間で異なる発生時間を使用してもよい。」との記載のみをもって,相違点2及び
3について,それぞれの関連扇形片における遅延時間及び積算時間を,一律のもの
として扱うか,あるいは,それぞれの関連扇形片における遅延時間及び積算時間と
して扱うかは,設計的事項であるとはいえない。
(4)さらに,記載Aの「同一組の微小部分は等しい時間々隔で発生することが
予期されるけれども」との記載は,サンプル信号成分に関しては,原告図6に付し
た青矢印の期間の長さが,いずれの青矢印の期間においても同じであり,基準信号
成分に関しても同様に,原告図6に付した赤矢印の期間の長さがいずれの赤矢印の
期間においても同じであることを意味するとも解釈できる。そのため,記載Aの「一
方の組の微小部分と他方の組の微小部分との間で異なる発生時間を使用してもよ
い。」との記載は,原告図6の青矢印の期間と赤矢印の期間を異なる長さとしてもよ
いことを意味すると解釈する余地がある。しかし,引用発明では,上記のとおり,
一方の組と他方の組において,異なる発生時間を使用することは示唆されているが,
異なる発生時間を使用することで,工場出荷時に想定される漏話が変動することは
開示も示唆もされていない。そのため,引用発明では,工場出荷時に想定される漏
話を打ち消すために,遅延時間を設定しているが,一方の組と他方の組に対して異
なる発生時間を使用することに応じて,あえて遅延時間を変更する必要はない。
したがって,引用発明では,モード毎に異なる発生時間を使用した場合でも,遅
延時間を変更する必要はないため,記載Aの「一方の組の微小部分と他方の組の微
小部分との間で異なる発生時間を使用してもよい。」との記載から,それぞれの関連
扇形片における遅延時間及び積算時間を,一律のものとして扱うか,あるいは,そ
れぞれの関連扇形片における遅延時間及び積算時間として扱うかは,設計事項であ
るとはいえない。
(5)ア被告は,引用例1に,微小部分は一定時間の間生じるから積分されなけ
ればならないとの記載があることを根拠に,微小部分の持続時間の大小はその積分
時間の大小に直結すると解釈し,その解釈は,測定時間をモード毎に設定できるよ
うにするとの技術常識にも沿うことを根拠として,記載A及びBは,微小部分の積
分時間も異ならせるという意味である,と主張する。
しかし,各組の持続時間を異なるものとした場合に,積分時間をどのように設定
するべきかについて引用例1には何らの開示も示唆もない。また,審決で引用して
いない文献を技術常識として引用し,引用例1に開示も示唆もない「測定時間をモ
ード毎に設定できるようにする」という技術的事項を主張するのは,審決取消訴訟
において主張できる範囲を超えている。
イ被告は,特開2001-356049号公報(乙1)の記載を根拠に阻
害要因を否定する。
しかし,乙1は審決では引用されていない文献であるから,この記載に基づいて
審決の判断の正当性を主張することは認められない。また,乙1には,「必ずしもこ
れらに時間が同じである必要はないが,通常これらの時間は同一になるように設定
されている」との記載があり,与えられた選択肢の中から最適と判断されるものを
適用するという設計的行為を行う際において,通常,測定時間を同一に設定される
ことが明確に記載されていることから,測定時間を異なるように設定する上での阻
害要因となる。したがって,乙1が阻害要因を否定する根拠とはならない。
ウ被告は,積分時間を組毎に設定できるようにした場合に,漏話の影響を
最小限にするために,積分開始時間をできる限り遅らせることが好ましい,と主張
する。
しかし,前記アのとおり,組毎に遅延時間と積分時間を設定することは適宜なし
得た,とする前提が誤りである。また,漏話の影響を最小限にするために,積分開
始時間をできる限り遅らせることは,引用例1に示唆されていない。むしろ,引用
例1には信号の微小部分が発生している時間に対してほぼ同一の積分時間を設定す
ることのみが開示されている。
第4被告の主張
1取消事由1に対し
原告は,審決の認定した引用発明における遅延時間及び測定期間がモードによら
ず一定となっていることからすると,審決が,相違点2及び3について,引用発明
の構成につきその旨を取り上げずに,「そのようなものか否か不明な点」とだけ認定
するのは誤りであり,この点だけでも審決の結論に影響する旨主張する。
しかし,審決が相違点2及び3を認定する際に「モード毎」に関する事項につい
て「そのようなものか否か不明」と説示したのは,単に,認定した引用発明の文言
に「モード毎」に関するものが明記されていないからにすぎない。
2取消事由2に対し
(1)ア原告は,記載Aの「時間々隔」や「発生時間」の用語の意味について主
張する。
イしかし,引用文献における「微小部分」は,「生じる」などの用語と組み
合わせて用いられた場合には,サンプル組についていえば,サンプル透過又は吸収
を表わす検知器信号成分の部分であって,当該部分は,プレサンプル・チヨッパ及
びポストサンプル・チヨッパにおける関連扇形片によって画されるものを意味する
と明確に理解できる。これを被告図6の波形W1についてみると,例えば,W2A
に相当する時刻からW2Bに相当する時刻までの検知器信号である(S+s)1が
「微小信号」であることになる。以上については,基準組などについても同様であ
る。
また,記載Aの「時間々隔」,「発生時間」及び「持続時間」という用語について
は,記載Aの「微小部分」の上記意義を踏まえると,これらはいずれも同一の概念
を意味し,結局,持続時間程度の意味に解すれば足りる。これを第6図の微小部分
(S+s)1でいうと,W2Aに相当する時刻からW2Bに相当する時刻までの時
間ということになる。
そうすると,記載Aは,被告図6でいうと,微小部分(S+s)1の持続時間(T
s1とする。W2Aに相当する時刻からW2Bに相当する時刻までの持続時間であ
る。),微小部分(S+s)2の持続時間(Ts2とする。),微小部分(S+s)3の
持続時間(Ts3とする。),…はそれぞれ等しく(すなわち,Ts1=Ts2=Ts3
=…。これらを代表してTsとする。),また,微小部分(R+r)1の持続時間(T
r1とする。),微小部分(R+r)2の持続時間(Tr2とする。),微小部分(R+
r)3の持続時間(Tr3とする。),…はそれぞれ等しい(すなわち,Tr1=Tr2
=Tr3=…。これらを代表してTrとする。)ことが予想されるけれども,Tsと
Trとを異ならせてもよいことを意味しているといえる。
さらに,記載B「分光光度測定では,全ての微小部分の持続時間を等しくするこ
とが望ましい。」は,分光光度測定では,Ts=Trが望ましいことを意味している
といえる。
【被告図6】
そして,記載Aと記載Bとを上記のとおりに解しても,引用例1の記載全体から
みて特段の差し支えはない。
ウ記載Aの「等しい」と記載Bの「異なる」は,微小部分の持続時間の意
味のみならず,微小部分を積分するための区間の幅(微小部分の積分時間)の意味
でも,実質的には理解される。
すなわち,微小部分は「一定時間の間生じる」(引用例1の13頁左上欄2行)か
ら「積分されなければならない」(引用例1の12頁右下欄末行~13頁左上欄1行)。
そうすると,微小部分の持続時間の長さが,積分時間の確保に関係することが明ら
かであり,微小部分の持続時間の大小は,微小部分の積分時間の大小に直結すると
いえる。
したがって,各組の微小部分の持続時間が組毎に異なるならば,各組の微小部分
の積分時間も組毎に異なるのである。
そして,各組の微小部分の積分時間が異なるということは,各組の測定時間が異
なるということを意味するが,これは,分光光度計の技術分野における,測定時間
をモード毎に設定できるようにするとの技術常識(乙1【0013】)にも沿うもの
である。
(2)原告は,記載Bが分光光度測定に関するものであるから,記載Aは分光光
度測定には妥当しない旨主張する。
しかし,記載Bは,Ts=Trが「望ましい」とするにすぎず,Ts=Trでな
ければならないとはされていない。また,記載Aの直前の段落の記載は分光光度測
定に関するものであるから,記載Aが分光光度測定にも妥当すると解することが文
脈上自然でもある。
さらに,上記(1)ウのとおり,記載Aの内容は,分光光度計についての技術常識に
も沿うものである。
したがって,記載Aは分光光度測定にも妥当する。
(3)原告は,記載Aの技術的意味が明確であるとしても,引用例1には,異な
る発生時間を使用することで,工場出荷時に想定される漏話が変動することは開示
も示唆もされておらず,引用発明において,異なる発生時間を使用するとしても,
遅延時間を変更する必要はない,と主張する。
しかし,まず,記載Aの技術的意味は上記(1)イのとおりであって,原告の主張す
る「発生時間」の理解は誤りである。
そして,引用例1では,記載A及びBのとおり,各組の微小部分を積分するため
の区間の幅(微小部分の積分時間)を一致させても異ならせてもよいのであるし,
また,分光光度計の技術分野において,測定時間をモード毎に設定できるようにす
ることは技術常識(乙1)であるから,引用発明で遅延時間及び積分時間を設定す
る設定部を設けた場合において,各組の微小部分の積分時間を組毎に設定できるよ
うにすることは,当業者が適宜なし得た事項であるというべきである。
次に,遅延時間(すなわち,微小部分を積分するための区間の始点と微小部分の
発生開始時点との差)についてみると,各組の微小部分の積分時間を組毎に設定で
きるようにしたときに,異なる遅延時間を使用したほうがよい場合があることは当
業者にとって明らかである。すなわち,「漏話」は,「熱電対の応答が遅いので,一
方の組に属する微小部分は,他方の組の次続の微小信号部分が生じ始める時,完全
には消滅していない」(引用例1の4頁左下欄10行~13行)ことによって生じる
ものである。そうすると,漏話とは前段の微小部分からの影響にほかならないので
あり,これを減らす(すなわち,測定精度を上げる)ためには,当該影響をできる
だけ小さくすべく,当段の微小部分を積分するための区間の始点を,当該微小部分
の積分時間の確保との制約の範囲内ではあるが,可能な限り遅くすればよいことが
明らかである。したがって,各組の微小部分の積分時間を組毎に設定できるように
している場合に,微小部分を積分するための区間の始点も組毎に設定できる(すな
わち,遅延時間を組毎に設定できる)ようにすれば,漏話をさらに低減させられる
ことも明らかである。
第5当裁判所の判断
1本件補正後発明の認定
(1)本願明細書,平成26年10月20日付け手続補正書及び本件補正書には,
以下の記載がある(甲3,5,8)。
【技術分野】【0001】本発明は分光光度計に関し,さらに詳しくは,回転セク
タ鏡によって測定光を試料側光束と参照側光束に分けるダブルビーム方式の分光光
度計に関する。
【背景技術】【0002】分光光度計には,その光路の構成によってダブルビーム
方式とシングルビーム方式とがある。ダブルビーム方式は,吸光度を算出する過程
で原理的に光源の光量変動による影響を相殺することが可能であるため,分析精度
の点でシングルビーム方式よりも有利である。
【0003】ダブルビーム方式の分光光度計では,分光器(モノクロメータ)に
より取り出された単色光を試料側光束と参照側光束とに分けるために,主として,
ビームスプリッタを用いた光束の分割と,回転セクタ鏡による光束の振り分け,の
いずれかが利用されている。ビームスプリッタ方式は,単色光をビームスプリッタ
により一定比率の試料側光束と参照側光束とに分割して被測定試料及び参照試料に
照射し,それぞれの透過光を各光束を受け持つ2つの光検出器に対して導入するも
のである。
【0004】一方,回転セクタ鏡方式は,単色光を一定速度で回転駆動されるセ
クタ鏡により試料側光束と参照側光束とに交互に振り分け(切り替え)て被測定試
料及び参照試料に照射し,それぞれの透過光を1つの光検出器に対し交互に導入す
るものである・・・。この構成では一般的に,光が光検出器に入射しない状態での
暗信号を測定するために,光を遮蔽する遮光部が回転セクタ鏡に設けられている。
【0005】ダブルビーム方式の分光光度計では,波長走査を行いつつ,各波長
に対して試料信号,参照信号,暗信号の各信号を検出することが一般的である。こ
の際,各信号の同時性を確保するために,光束切り替えの頻度は高いことが望まし
い。一方,光束切り替えにより光検出器での検出信号は大きく変化するが,この検
出信号の変化は瞬間的ではなく,完全に変化するまでに時間を要する。この光束切
り替えに伴って検出信号が完全に変化するまでに要する時間のことを「光束切り替
え時間」と呼ぶ。光束切り替え頻度が高いと単位時間に含まれる光束切り替え時間
の割合が増加する。これは各信号に対して十分なS/N比を確保する点で不利に働
く。以上のように,各信号の同時性とS/N比の確保のバランスを取って,回転セ
クタ鏡の回転駆動に使用されるモータには1500rpm~2000rpm程度の
高速回転が要求される。また,このような分光光度計では,一旦装置を稼働させた
後は,アイドリング中であっても測定を中断しないのが一般的である。以上の要求
から,特別な制御が不要であり,高速回転の可能なシンクロナスモータが,回転セ
クタ鏡の駆動源として使用されることが多い。
【0006】なお,一部の分光光度計ではステッピングモータを回転セクタ鏡の
駆動源として使用することもあるが,ステッピングモータには分光光度計の波長走
査に対応できるような高速回転には向かず,さらには回転数を上げるに伴い,振動
や発熱,異音が発生するという問題があるため,このような用途にはあまり使用さ
れない。
【0007】シンクロナスモータの駆動には,上記のように特別な駆動回路が不
要ではあるが,ステッピングモータのように回転位置を直接指定することができな
いため,回転セクタ鏡の回転による測定信号,参照信号,暗信号の切り替わりタイ
ミング,即ち,前述の各信号における,測定開始タイミングと測定終了タイミング
を把握する必要がある。このタイミングの把握には,図5に示すような構造の回転
セクタ鏡とその周辺に配設されたフォトインタラプタが一般に使用される。
【0008】図5(a)の側面図に示すように,回転セクタ鏡100は,1本の回転
軸100cと,その回転軸100cに固定された第一セクタ板100a及び第二セ
クタ板100bと,を有する。第一セクタ板100aは回転セクタ鏡100への入
射光束を遮断する4枚の扇形の遮蔽板101を有し(図5(c)),第二セクタ板10
0bは該入射光束を反射する2枚の扇形のミラー102を有する(図5(d))。この
2枚のセクタ板100a,100bを有する回転セクタ鏡100を正面から見た図
が図5(b)である。図5(b)に示すように,正面から見た回転セクタ鏡100には,
遮蔽板101とミラー102が存在しない,回転セクタ鏡100への入射光束が通
過可能な開口部103が存在する。この開口部103を通過した光が試料側光束と
なって,被測定試料に照射される。また,ミラー102によって反射された光が参
照側光束となって参照試料に照射される。
【0009】以下,開口部103を試料光部と呼ぶことにする。また,遮蔽板1
01を遮光部,ミラー102を参照光部と呼ぶことにする。そして,これら各部を
セクタ部と総称することにする。図5(b)の例では,回転セクタ鏡100は8つのセ
クタ部を有し,遮光部101が4つ,参照光部102が2つ,試料光部103が2
つ,それぞれ存在することになる。また,これら各セクタ部は180°回転対称に
構成されている。
【0010】回転セクタ鏡100への入射光束が図5(b)の位置Lに入射され,回
転セクタ鏡100が矢印Dの方向に回転する場合,回転セクタ鏡100が1回転す
る間に,入射光束の位置Lには,遮光部101→参照光部102→遮光部101→
試料光部103→遮光部101→参照光部102→遮光部101→試料光部103
が順番に来ることになる。また,回転セクタ鏡100による入射光束の振り分けの
モードは,遮光(D)→反射(R)→遮光(D)→通過(S)→遮光(D)→反射
(R)→遮光(D)→通過(S)の順で切り替わることになる。
【0011】回転セクタ鏡100によるモードの切り替わりは,次のように検出
される。
第一セクタ板100aの各遮蔽板(遮光部)101の外周には遮光部タブ101
aが設けられ,遮光部タブ101aの回転軌道上には,その軌道を発光素子と受光
素子とが挟むように第一フォトインタラプタ104が設けられている。また,第二
セクタ板100bの各ミラー(参照光部)102の外周には参照光部タブ102a
が設けられ,参照光部タブ102aの回転軌道上には,その軌道を挟むように,第
二フォトインタラプタ105と第三フォトインタラプタ106が設けられている。
これら3つのフォトインタラプタ104,105,106が配設される位置は回転
セクタ鏡100の構成によって異なるが,例えば図5(b)のように8個のセクタ部を
有し,各セクタ部の扇の中心角が同じである場合,回転セクタ鏡100の回転方向
に沿って90°毎に配置される。
【0012】回転セクタ鏡100が矢印Dの方向(反時計回り)に回転すると,
回転セクタ鏡100の各セクタ部と入射光束とフォトインタラプタ104,105,
106の位置関係は,図6~図9のように変化することになる。ここで,図6のよ
うな位置関係の場合には,遮光部タブ101aが第一フォトインタラプタ104の
発光素子からの光を遮り,第一フォトインタラプタ104から遮光部タブ101a
を検出したことを示すタブ検出信号が出力される。図7の場合は,第三フォトイン
タラプタ106から,図8の場合は第一フォトインタラプタ104から,図9の場
合は第二フォトインタラプタ105から,それぞれタブ検出信号が出力される。
【0013】第一フォトインタラプタ104からタブ検出信号が出力された場合
(すなわち図6及び図8の状態のとき),回転セクタ鏡100への入射光束は遮光部
101によって遮られる。第三フォトインタラプタ106からタブ検出信号が出力
された場合(図7の状態のとき)には,入射光束は参照光部102によって反射さ
れる。第二フォトインタラプタ105からタブ検出信号が出力された場合(図9の
状態のとき)には,入射光束は試料光部103を通過する。このように,フォトイ
ンタラプタ104,105,106のいずれからタブ検出信号が出力されたかによ
り,回転セクタ鏡100への入射光束がどのモードに振り分けられるかを把握する
ことができる。
分光光度計の制御部は,フォトインタラプタ104,105,106のいずれか
らタブ検出信号が出力されたかに基づいて,光検出器からの検出信号がどのモード
に対して取得されたかを判断し,それぞれのモードに対する検出信号を取得し,必
要に応じて積算処理や平均化処理などを行う。
【発明が解決しようとする課題】【0016】回転セクタ鏡を用いたダブルビーム
方式の分光光度計では,上記のように,モード(光束)の切り替えによって光検出
器での検出信号は大きく変化するものの,完全に変化するまでにある程度の時間を
要する。これは,回転セクタ鏡への入射光束が一定の径を有するために該光束を回
転セクタ鏡上の各セクタの境界が通過するのに時間を要することと,光検出器やそ
の後段の増幅回路などを含む回路の周波数応答特性により信号が安定するまでに時
間を要すること,等のためである。このように,モードの切り替わり時点を厳密に
検出することは不可能であるため,従来の装置ではモードの切り替わりに時間的な
幅があることを考慮して,モードが完全に切り替わった後にデータの取得を開始す
るようにフォトインタラプタの位置を調整することが行われていた。・・・
【0019】これは入射光束に関してのみ説明したものであるが,この他に,回
転セクタ鏡の回転数(回転速度)の微視的な揺れ(ジッタなどの回転ムラ)や光検
出器の周波数応答に係る問題もある。更に,回転セクタ鏡100への入射光が斜め
方向から入射される場合,各セクタ板への光の入射位置は正面から見た場合とは多
少ずれたものになる。これらがいずれも各モードの開始時点に影響を及ぼし,ひい
ては分光光度計の測定精度に影響するため,これらを考慮したデータ取得開始時点
の設定が装置を製造する際の重要な工程となっている。
【0020】また,回転セクタ鏡の駆動源として一般的に使用されるシンクロナ
スモータは,その回転数が電源周波数に依存するという問題がある。そのため,装
置が使用される地域毎にその地域の電源周波数に対応した調整や,電源周波数の微
小変動を予め見込んだ調整が必要となる。また,回転セクタ鏡の回転数が変化する
と,それに伴って検出信号の積算時間が変化するため,測定結果のS/N比が変化
してしまう。そのため,地域毎に装置性能がばらつくという問題もある。また,本
来,回転セクタ鏡の回転数は光検出器の応答速度に応じて可変であることが望まし
いが,シンクロナスモータの回転数を変えることは容易でない。
【0021】本発明は上記課題を解決するために成されたものであり,その主な
目的は,各モードのデータ積算期間の設定に関する調整を容易にした分光光度計を
提供することである。
【0022】(判決注:本件補正後)上記課題を解決するために成された本発明は,
少なくとも2つのセクタ部を有し,測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2
つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と,各モードの光強度を測定して光強度信号
を生成する光検出器と,を備える分光光度計において,
前記回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用い,
測定する際の分析条件に応じて,前記ブラシレスDCモータの回転速度を制御す
る回転数制御部と,
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出
部と,
前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部と,
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と,
前記モード毎の測定期間を設定する遅延時間設定部と,
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と,
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から,その検出信号に対応す
るモードの前記遅延時間だけ遅延した後に,該対応するモードの前記測定期間の間
だけ前記検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と,
を備えることを特徴とする。
【0022】(判決注:本件補正前)上記課題を解決するために成された本発明は,
少なくとも2つのセクタ部を有し,測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2
つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と,各モードの光強度を測定して光強度信号
を生成する光検出器と,を備える分光光度計において,
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出
部と,
前記モード毎の遅延時間を設定する遅延時間設定部と,
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と,
前記モード毎の測定期間を設定する測定期間設定部と,
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と,
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から,その検出信号に対応す
るモードの前記遅延時間だけ遅延した後に,該対応するモードの前記測定期間の間
だけ前記光検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と,
を備えることを特徴とする。
【0023】本発明に係る分光光度計は,セクタ部毎に遅延時間と測定期間を設
定することにより,ソフトウエア的にセクタ部毎の測定タイミングを調整可能とし
たことを特徴とする。本発明の分光光度計では,装置に機械的な誤差があっても遅
延時間と測定期間の設定によってその分のずれが吸収されるように調整することが
できるため,製造時の調整の手間が大幅に削減される。また,回転セクタ鏡の駆動
源にシンクロナスモータを使用する場合でも,地域毎の回転数の変化に応じて遅延
時間と測定期間の設定を変更すれば容易に対応することができる。
【0024】回転セクタ鏡の駆動源には,従来通りシンクロナスモータを用いる
ことができるが,ブラシレスDCモータを用いることがより望ましい。ブラシレス
DCモータは高速回転と連続運転が可能であり,また電源周波数に起因する回転数
の変化が生じない。シンクロナスモータに比べて回転ムラが大きいという問題はあ
るが,これは回転ムラによる時間的なずれを見込んで遅延時間を適切に設定するこ
とにより解決することができる。また,シンクロナスモータと異なり回転数の制御
が容易であるため,回転セクタ鏡の回転数を制御する回転数制御部を装置に組み込
むことにより,光検出器の応答特性に応じた設定が可能となる。また,回転セクタ
鏡の回転数の変化に応じた調整も,本発明では遅延時間を適宜設定するだけで済む。
なお,ブラシレスDCモータ以外でも,高速回転と連続運転,回転数の制御が可
能なモータであれば,どのようなモータを使用しても構わない。
【発明の効果】【0028】本発明に係る分光光度計では,装置の機械的な誤差を
遅延時間の設定によって調整することができるため,製造時の調整の手間が大幅に
削減される。また,回転ムラの問題も遅延時間の設定によって解決することができ
るため,ブラシレスDCモータ等の回転位置を検出することができないモータであ
っても回転セクタ鏡の駆動源として用いることができるため,地域毎の装置性能の
ばらつきをなくすことができる。さらに,ブラシレスDCモータでは回転数の制御
が容易であるため,光検出器の応答特性に応じて回転数を設定することが可能とな
る。また,回転セクタ鏡に配設するフォトインタラプタの数を減らすことも可能で
ある。
【図面の簡単な説明】【0029】【図1】本発明に係る分光光度計の一実施例を
示す要部構成図。
【発明を実施するための形態】【0030】本発明の一実施例である分光光度計に
ついて,図1~図3を参照して説明する。図1は本実施例によるダブルビーム方式
の分光光度計の要部構成図である。
【0031】図1において,光源1から出射された光は,入口スリット2,回折
格子3,出口スリット4,ステッピングモータ(M)5を含む分光器6に導入され,
所定の波長の単色光が取り出される。ステッピングモータ5は,入口スリット2を
通過した入射光に対し波長分散素子である回折格子3の角度を変えることにより,
出口スリット4を通過して取り出される単色光の波長を変化させる。分光器6から
取り出された単色光は,モータ(M)8により回転駆動される回転セクタ鏡7によ
って,2つの反射鏡10,11のいずれかに振り分けられるか,もしくは遮光され
る。
【0032】本実施例では,回転セクタ鏡7の駆動源であるモータ8として,3
相ブラシレスDCモータを用いる。この3相ブラシレスDCモータには制御部20
からの駆動制御信号に基づいてその回転数を制御するモータ駆動制御部9が設けら
れている。
なお,モータ駆動制御部9によるモータ8の回転数の制御は,例えば3相ブラシ
レスDCモータに多く備わっているホール素子からの信号や,モータ回転軸に取り
付けたロータリエンコーダからの信号を利用した閉ループ制御によって行うことが
できる。
【0039】以下,参照信号が検出される期間をモードR,測定信号が検出され
る期間をモードSとする。また,暗信号が検出される期間については,それが第一
遮光部71a又は第三遮光部71cによって遮光される場合と,第二遮光部71b
又は第四遮光部71dによって遮光される場合とによって分け,前者をモードD1,
後者をモードD2とする。すなわち,本実施例ではモードが4つあるものとする。
【0040】光検出器17による検出信号(光強度信号)は図示しない増幅器な
どで増幅された後に,A/D変換器(ADC)18に入力される。一方,制御部2
0は,変化検出部19から積算対象とするモードの通知を受けると,遅延時間記憶
部21から該モードに対応する遅延時間を参照する。また,測定期間記憶部24か
ら,該モードに対応する測定期間を参照する。上記のように,本実施例ではS,R,
D1,D2の4つのモードを想定している。遅延時間記憶部21にはS,R,D1,
D2のモードのそれぞれに対応して遅延時間Ts,Tr,Td1,Td2が用意さ
れ,測定期間記憶部24には測定期間Ws,Wr,Wd1,Wd2が用意されてい
る。制御部20は通知を受け取った時点から,対応するモードの遅延時間だけ時間
が経過した後に,そのモードの測定期間の間だけADC18にデータ採取信号を送
信する。なお,上記の遅延時間及び測定期間は,モータ8の回転数などの条件に応
じて変更することが可能である。
【0041】ADC18は,制御部20からデータ採取信号を受け取ると,所定
のサンプリング周期で光強度信号をサンプリングし,デジタル値に変換して積算処
理部22に送る。積算処理部22はこれらのデジタル値を積算したうえで積算値を
制御部20に送り,制御部20は該積算値を積算値記憶部23内の対応するモード
の記憶領域内に保存する。なお,同一のモードに対して所定の回数分だけ積算を行
う場合,例えば制御部20はADC18にデータ採取信号を送ると同時に積算値記
憶部23から対応するモードの積算値を参照し,それを初期値として積算処理部2
2に与え,該初期値にADC18から送られてくる光強度信号のデジタル値を順次
積算していく,という構成を用いればよい。その後,積算値記憶部23に記憶され
た古い積算値のデータは,新しい積算値のデータに置き換えられる。
【0043】次に,本実施例の分光光度計の特徴的であるモード毎の積算処理に
ついて図3のタイミング図を用いて説明する。図3(a)は,回転セクタ鏡7の回転に
伴う光強度信号の変化を示している。この図に示すように,光検出器17から出力
される光強度信号には,信号が静定している期間と静定するまでの変化途中の期間
とがある。正確な測定結果を得るためにはS,R,D1,D2の各モードにおいて
信号が静定している期間内にデータを採取する必要がある。
【0044】図3(b)はフォトインタラプタ75から出力されるPI信号の変化を
示している。この図に示すように,PI信号には,短い時間間隔で強→弱,弱→強
と連続的に信号レベルが変化する期間がある。これは,第一タブ74aにおけるス
リット76の通過をフォトインタラプタ75が検出したことを示している。変化検
出部19は,これによって第二試料光部73bから第一遮光部71aへセクタ部が
切り替わったと判断し,スリット76の通過による強→弱,弱→強の変化のうち弱
→強に信号が変化した時点で,モードD1を積算対象とするように制御部20に通
知する。
【0045】制御部20は,変化検出部19からモードD1を積算対象とする通
知を受けると,遅延時間記憶部21と測定期間記憶部24からモードD1に対応す
る遅延時間Td1と測定期間Wd1を参照する。そして,変化検出部19から通知
を受けた時点から遅延時間Td1だけ経過した後にADC18にデータ採取信号を
測定期間Wd1の間だけ送る(図3(d))。
【0046】なお,各セクタ部への切り替わりタイミングからの遅延時間の経過
及びデータ採取期間を分かりやすく示したタイミング図が図3(c)である。ADC1
8はデータ採取信号を受信している期間内で光検出器17からの光強度信号のサン
プリングとデジタル値への変換を行い,積算処理部22に送る。積算処理部22で
はADC18から取得されたデータの積算が行われ,該積算値は制御部20に送ら
れた後,制御部20によって積算値記憶部23内のモードD1に対応する記憶領域
内に保存される。このように,本実施例の制御部20は装置各部を制御を行うと共
に,本発明の積算制御部としても機能する。
【0047】一方,第一タブ74aがフォトインタラプタ75の間を完全に通過
すると,PI信号は強→弱へと変化する。変化検出部19はスリット76の通過を
検出してからPI信号の信号レベルが強→弱,弱→強,強→弱,弱→強,強→弱,
弱→強,強→弱と変化する毎に第一参照光部72a,第二遮光部71b,第一試料
光部73a,第三遮光部71c,第二参照光部72b,第四遮光部71d,第二試
料光部73bへとセクタ部が切り替わったと判断し,制御部20に積算対象とする
モードをR,D2,S,D1,R,D2,Sへとそれぞれ変更するよう通知する。
制御部20は変化検出部19からの通知によってモードを変更する毎に遅延時間記
憶部21と測定期間記憶部24を参照し,通知を受けた時点からそれぞれの遅延時
間が経過した時点でそれぞれの測定期間の間だけデータ採取信号をADC18に送
信する。そして,積算処理部22において採取した光強度信号のデジタル値を積算
したうえで,積算値記憶部23内の対応するモードの記憶領域に積算値を記憶する。
(2)以上から,本件補正後発明の概要は,以下のとおりと認められる。
本件補正後発明は,回転セクタ鏡によって測定光を試料側光束と参照側光束に分
けるダブルビーム方式の分光光度計に関するものである(【0001】)。
従来の回転セクタ鏡を用いたダブルビーム方式の分光光度計では,モードの切り
替わりに時間的な幅がある点を考慮して,モードが完全に切り替わった後にデータ
の取得を開始するようにフォトインタラプタの位置を調整することが行われていた
(【0016】)。しかし,分光光度計の各モードの開始時点や測定精度に影響を及ぼ
す他の点として,回転セクタ鏡の回転数(回転速度)の微視的な揺れ(ジッタなど
の回転ムラ)や光検出器の周波数応答に係る問題,及び,回転セクタ鏡への入射光
が斜め方向から入射される場合,各セクタ板への光の入射位置は正面から見た場合
とは多少ずれたものになるという問題があり,これらを考慮したデータ取得開始時
点の設定が重要な工程となっている。また,回転セクタ鏡の駆動源として一般的に
使用されるシンクロナスモータはその回転数が電源周波数に依存しており,回転セ
クタ鏡の回転数は光検出器の応答速度に応じて可変であることが望ましいが,シン
クロナスモータの回転数を変えることは容易でない,という問題が存在した(【00
19】【0020】)。
上記課題を解決するため,本件補正後発明は,各モードのデータ積算期間の設定
に関する調整を容易にした分光光度計を提供することを目的とするものである(【0
021】)。
本件補正後発明は,請求項1に係る構成を採用することにより,装置の機械的な
誤差を遅延時間の設定によって調整することができるため,製造時の調整の手間が
大幅に削減され,また,回転ムラの問題も遅延時間の設定によって解決することが
できるため,ブラシレスDCモータ等の回転位置を検出することができないモータ
であっても回転セクタ鏡の駆動源として用いることができ,地域毎の装置性能のば
らつきをなくすことができ,さらに,ブラシレスDCモータでは回転数の制御が容
易であるため,光検出器の応答特性に応じて回転数を設定することが可能となり,
回転セクタ鏡に配設するフォトインタラプタの数を減らすことも可能である,とい
う効果を奏するものである(【0028】)。
2引用発明の認定
(1)引用例1には,次の記載がある(甲1)。
①「9.2つの量の比を表わす電気出力信号を発生する装置において,一方の量
を表わす信号成分の微小部分が他方の量を表わす信号成分の微小部分と交互にかつ
所定の時間関係で生じる電気信号従って2組の微小部分を含む前記電気信号を発生
するための信号発生手段であって,両方の組の微小部分に不所望な移相変動を導入
するようなものと,前記信号発生手段の一部を形成し一方の組の微小部分が他方の
組の微小部分よりも交互に進んでいたり遅れていたりするように前記他方の組の微
小部分に対する前記一方の組の微小部分の発生順序を周期的に逆転させるための手
段と,分子の微小信号組合わせおよび分母の微小信号組合わせを確立するための,
かつ両方の組合わせの比をとって微小比信号を発生させるための手段とを備え,一
方の組合わせが一方の組からの一対の微小信号を含みそして他方の組合わせが他方
の組からの一対の微小信号を含み,各対の微小信号が互に反対の移相効果を生じる
電気信号発生装置。」(特許請求の範囲)
②「この発明は,2つの量の比を表わす電気出力信号を発生する方法および装置
に関するものであって,一方の量を表わす信号成分の微小部分が他の量を表わす信
号成分の微小部分と交互に生じる合成電気信号を発生することを含む。2組の微小
部分が作られて,それらは両方とも可変位相をうける。比の精度に基づいて上述し
た可変位相の悪影響を実質的に打消して上述した比を計算できる手段が設けられる。
この発明は,特に,熱型検知器例えば熱電対またはこの熱型検知器と同様な信号
立上り特性を持つ検知器を含む手段で合成電気信号を発生させる2光束,比記録,
赤外分光光度測定技術用の方法および装置に関するものである。・・・
考察中の分光光度測定法では,検知器は,サンプル光学チャネルと基準光学チャ
ネルから交互に発する光に等しい時間当てられる。その結果,検知器信号は,サン
プル透過または吸収(これは上述した一方の量である)を表わす信号成分の微小部
分と基準透過または吸収(これは上述した他方の量である)を表わす信号成分の微
小部分とを含む。2つの微小部分は交互に生じかつ等しい持続時間を持っている。
検知器信号は,それが2組の微小部分を含む点で,合成電気信号である。しかし,
熱電対の応答が遅いので,一方の組に属する微小部分は,他方の組の次続の微小信
号部分が生じ始める時,完全には消滅していない。
これは,サンプル信号成分と基準信号成分の間の“漏話”として当業者に知られ
ているものになる。これは,2つの成分を分離するために検知器信号が復調される
時,考慮されなければならない。」(4頁左上欄12行~左下欄18行)
③「スリットの開口が増大されるのにつれて,上述した微小信号部分が信号寄与
分を受けるであろうと云うことである。この信号寄与分は,活性区域に達した光が
より大きい熱インピーダンス(その結果としてより長い時間遅れ)に出会うために,
より短い上昇時間を持っていた。その結果,両組の微小信号部分は,割当てられた
時間中,スリットを開くことによって付加的なかなりの熱遅れが生じさせられなか
った場合よりも低い高さまで上昇するだろう。もし基準サンプルの透過に対する分
析用サンプルの透過を,まず一定の波数と一定のスリット開口とで観察し,次に波
数をそのまゝにしてスリット開口を広げて観察するならば,一定の開口に関連した
透過から広げられた開口に関連した透過まで移相が変化するせいで信号は変化する。
この信号の変化は,従って,不正確になる原因である。その理由は,もしサンプル
が走査中でないならば(そしてそれは物理的または化学的な変化をうけていないと
しよう),観察されたサンプル透過は変化すべきでないからである。
例えば,適当な分光光度計(その光学系は光ストリップをその正常な長さまで復
帰させるための手段を含まない)中に極めて小さなサンプルを使用しなければなら
ない結果として,熱電対に入射する光ストリップの長さが制限される時,不所望な
移相変動がまた導入ないし混合される。光源からの一様でない光放出は他の原因で
ある。これは信号処理装置の位相応答を低下させる。後者は分光光度測定技術にお
けるのみならずこの発明の他の広く異なる用途においても起りそうな原因である。
どんな位相変動も,その原因が何であれ,製造者によって実施された漏話打消し
のための設定値に外乱効果を持たねばならないことが今や理解できる。」(5頁右上
欄9行~右下欄5行)
④「従来技術(米国特許第3,659,942号)は,スリット開口効果を選抜す
ることを提案し,かつスリット開口の関数に応答して復調点を調節するサーボ装置
を使用することを示唆する。残念なことに,サーボ装置は,漏話打消し設定値の外
乱の他の原因に対して何等有効ではなく,時には他の原因と合成さえし得る。それ
には検知器の位相応答を正確に予知する必要があり,これは検知器の変化がスリッ
ト開口の異なる関数の発生を要求することを意味する。理想的な解決策は,その原
因や範囲を知る必要さえなしに,どんな位相変動も考慮することである。従来技術
の背景に反してそのような解決策はもっともありそうでない。
この発明の目的は上述したような2つの一定量の比を表わす電気出力信号を発生
する方法および装置を提供しようとするものであって,比信号の精度に基づく不所
望な移相変動効果はその原因および範囲が何であれ実質的に打消される。
上述した目的を実現するために適用される広い概念は,一方の量を表わす信号成
分の微小部分が生じさせられる順序を他方の量を表わす信号成分の微小部分に対し
て交互に逆転することであって,そのために移相変動効果は上述した順序が逆転さ
れる時符号を逆にしかつそれぞれの微小部分が組合わされて比の分子と分母を形成
する時実質的に打消すようになる。」(5頁右下欄20行~6頁右上欄7行)
⑤「この発明の一面によれば,2つの量の比を表わす電気出力信号を発生する方
法であって,一方の量を表わす信号成分の微小部分が他方の量を表わす信号成分の
微小部分と交互にかつ所定の時間関係で生じる電気信号従って2組の微小部分を含
む前記電気信号を信号発生手段に発生させるステップと,一方の組の微小部分が他
方の組の微小部分よりも交互に進んでいたり遅れていたりするように前記他方の組
の微小部分に対する前記一方の組の微小部分の発生順序を周期的に逆転させるステ
ップと,互に反対の移相変動効果を生じる2つの関連した微小信号部分を含む微小
信号組合わせを分子と分母の各々が表わす2つの量の微小比を計算するステップと
を備え,前記信号発生手段が両方の組の微小部分に不所望な移相変動を導入するよ
うな特性を持っている電気信号発生方法が提供される。
この発明の他面によれば,下記の3つの手段を備え,2つの量の比を表わす電気
出力信号を発生する装置が提供される。すなわち,
a)信号発生手段は,一方の量を表わす信号成分の微小部分が他方の量を表わす信
号成分の微小部分と交互にかつ所定の時間関係で生じる電気信号従って2組の微小
部分を含む前記電気信号を発生し,両方の組の微小部分に不所望な移相変動を導入
するようなものである。
b)信号発生手段の一部を形成する手段は,一方の組の微小部分が他方の組の微小
部分よりも交互に進んでいたり遅れていたりするように前記他方の組の微小部分に
対する前記一方の組の微小部分の発生順序を周期的に逆転させる。
c)分子の微小信号組合わせおよび分母の微小信号組合わせを確立する手段は,両
方の組合わせの比をとって微小比信号を発生する。一方の組合わせは一方の組から
の一対の微小信号を含みそして他方の組合わせは他方の組からの一対の微小信号を
含み,各対の微小信号は互に反対の移相変動効果を生じる。
信号発生手段は,一方の組の1つの微小信号部分と他方の組の1つの微小信号部
分とが一定の持続時間のうちの等しい時間々隔の間一方の次に他方が生じさせられ
る微小信号部分の次々のシーケンスを生じるように作られ得る。他方の微小信号部
分に対する一方の微小信号部分の発生順序は各シーケンス後毎に逆転され,そして
シーケンスはブランキング(blanking)期間によって分離される。このよ
うにして,ブランキング期間の中点は2つの対称的なシーケンス間の境界点として
取り出され得る。以下の説明中において,用語“微小(elemental)信号”
は“微小信号部分”のために使用され,そして用語“信号シーケンス”は上述した
ように定めた微小信号部分のシーケンスを表わす。
比の微小値(これは移相変動効果と事実上無関係である)を得ることを可能にす
るために,境界は次々に追跡され,そしてのそれぞれ微小分子値および微小分母
値を表わす2つの微小信号組合わせの計算は次々の各境界に集中される。発生順序
が互に逆の2つの同一組に属する微小信号は,従って逆極性の移相変動効果をうけ,
各組合わせ中に含まれる。
微小信号列中の次々の信号シーケンス(その各々は直前,直後のシーケンスと対
称的である)が同一であるかぎり,比の微小値を得るために境界点をマークするよ
うな仕方で微小信号の発生を整える必要はもちろんない。境界点は従って純理論的
とみなすことができ,そして電子カウンタのような周知の手段によって上述した計
算用に確立され得る。
この発明の基本的な用途では,微小分子組合わせおよび微小分母組合わせはそれ
ぞれ分子対および分母対を構成する微小信号を単に加算するだけで得ることができ
る。・・・・
この発明の方法および装置は,両方共上述したように,2光束,比記録,分光光
度測定技術に特定の用途を見出す。種々の適当な組合わせで反射扇形片,非反射扇
形片および透過型扇形片を含む回転式光束制御手段は信号シーケンスを発生するた
めの手段の一部として使用されることができる。
都合の良いことには,光束制御手段はその1回転で少なくとも2つの対称的な信
号シーケンスが発生されるように構成される。」(6頁右上欄8行~7頁左下欄7行)
⑥「上述したような6個の扇形片を持つ分光光度測定用チヨッパ自体は新規なも
のであると確信する。それは,この発明の諸条件を満足する唯一のチヨッパではな
いが,特に代替品が多数の扇形片を持つもの例えば8扇形片式チヨッパの場合には
望ましい。上例ではそしてどんなチヨッパでも,微小サンプル信号が反射扇形片に
関連付けられそして微小基準信号が透過扇形片に関連付けられ,或はその逆に関連
付けられるかどうかは設計の問題である。
同一組の微小部分は等しい時間々隔で発生されることが予期されるけれども,一
方の組の微小部分と他方の組の微小部分との間で異なる発生時間を使用してもよい。
分光光度測定では,全ての微小部分の持続時間を等しくすることが望ましい。」(8
頁左上欄8行~右上欄3行)
⑦「今から説明しようとする実施例は,マイクロプロセッサに基づいた公開済み
のマイクロコンピユータが組み込まれた2光束,比記録,赤外分光光度計へ適用し
たこの発明を詳しく示す。」(8頁右上欄6行~9行)
⑧図1
⑨「第1図に概略図で示した光学系統では,トロイダル・ミラーすなわち凹面鏡
1,2および3並びに平面鏡4は協働して分光回転鏡(以後プレサンプル・チヨッ
パと称する)6の動作面と一致する平面に光源5の像を投射する。プレサンプル・
チヨッパ6は大体円板上の光束切換器であって,切欠き(straight-th
rough-air)扇形片(sector),反射扇形片および非反射扇形片を持
っている。」(8頁左下欄5行~13行)
⑩「第1図において,光度検知器25および信号処理装置27はパルス発生器2
8および29と一緒に信号発生手段の一部を形成する。この信号発生手段は,プレ
サンプル・チヨッパ6,ポストサンプル・チヨッパ12によってそれぞれ行なわれ
る分光,再結合の結果として光電信号を発生する。この光電信号では,サンプル透
過(または吸収)を表わす信号成分の微小部分が基準透過(または吸収)を表わす
信号成分の微小部分に対して所定の時間関係で交互に生じる。光電信号は従って2
組の微小部分すなわちサンプル組および基準組から成る。サンプル組の微小部分は,
サンプル・チャネルを通って光度検知器25へ達する光路が開いている時に基準組
と同様に生じる。一方または他方の光路が開いている期間は2個のサンプル・チヨ
ッパの扇形片によって当然左右される。光度検知器に当る光とこれに対応して発生
される微小信号との時間遅れのために,サンプル組の微小部分と基準組の微小部分
との間で漏話が生じ,これは移相変動の結果として変化し両組の微小部分に影響す
る。
全ての赤外分光光度計に共通することであるが,第1図に示した装置は,サンプ
ル・チャネルおよび基準チャネルが過熱するという問題に直面し,かつ光度検知器
に達する時精度を下げる為エネルギーを再放射する。」(10頁左上欄9行~右上欄
15行)
⑪「一方の組の微小部分が他方の組の微小部分に対して交互に進んだり遅れたり
するように,基準組の微小部分に対してサンプル組の微小部分の発生順序を周期的
に逆にさせることのできる手段(これは信号発生手段の一部を形成する)について
今から説明する。実施例では,そのような手段は第2図,第3図にそれぞれ示され
たようなプレサンプル・チヨッパ6,ポストサンプル・チヨッパ12を含む。これ
らのサンプル・チヨッパの構成およびその相違はまず第3図を参照することによっ
てもっと簡単に理解されよう。第3図において,ポストサンプル・チヨッパ12は,
直径Dのガラス円板を光学的に平らな面に同一の6つの扇形を描き,その後3つの
扇形片を切欠くとともに残った扇形片の前面にアルミニウムを被着させることによ
って反射扇形片12A1,12A2および12A3並びに切欠き扇形片12B1,
12B2および12B3を定めることで得られた。この構成は,各扇形片が1象限
を表わす慣用の分光光度計用チヨッパから出発することを表わす。これを強調する
ために,第3図のポストサンプル・チヨッパは従来の4分割チヨッパと対比して6
分割チヨッパと称される。
第2図のプレサンプル・チヨッパ6も,6分割チヨッパである。このプレサンプ
ル・チヨッパ6は,第3図のポストサンプル・チヨッパ12とくらべて,1つの切
欠き扇形片を元に戻して不透明な非反射扇形片を形成するとともに1つの反射扇形
片を非反射性にした点が違う。6A1および6A3は反射扇形片であり,6B1お
よび6B2は切欠き扇形片であり,そして6C1および6C2は不透明な非反射扇
形片である。
第4図において,第3図のポストサンプル・チヨッパ12は,本実施例について
の説明中の始めの方でふれたように2個のサンプル・チヨッパの角位相を例示する
ために,第2図のプレサンプル・チヨッパ6(これらの方がポストサンプル・チヨ
ッパ12よりも少し大きい)の上に乗せられている。定速モータ30(第1図)は,
従って2個の6分割サンプル・チヨッパを第4図に例示した位相関係でかつ所定の
一定速度で駆動するだろう。各6分割サンプル・チヨッパの動作面に投射された,
光源5(第1図)の像は,ハッチを付けて表わした細長片SIで示される。2個の
6分割サンプル・チヨッパの回転方向が矢印Aで示されるとおりであるとすれば,
光度検知器25(第1図)の電気出力波形により,第4図に示した角位置(プレサ
ンプル・チヨッパ6の反射切欠き扇形片6A3の前縁が細長片SIと交叉し始めた
所)から完全に1回転するまでの6分割サンプル・チヨッパの回転結果をたどるこ
とができる。光束がサンプル・チャネルと基準チャネルにまず交互に分光されその
後単一の光路へ再結合される仕方を第1図について説明したことに留意すれば,光
度検知器25は第4図に示した状態における瞬間から反射扇形片6A3の後縁が細
長片SIを離れる瞬間までサンプル・チャネルから光を受けて再放射しなければな
らない。もし光度検知器25からのサンプル信号をSとしかつ再放射信号をsとす
るならば,S+sはサンプル組の第1番目の微小部分を表わす。
1/6回転した後,細長片SIは切欠き扇形片6B2の前縁に当る。その結果光
度検知器25は基準チャネルから光を受けて再放射する。光度検知器25の基準信
号をRとしかつ再放射信号rとするならば,R+rは基準組の第1番目の微小部分
を表わす。
更に60°回転すると,細長片SIは不透明な非反射扇形片6C1の前縁に当る。
光度検知器25はサンプル・チャネルからのみ再放射エネルギーを受ける。光度検
知器25の出力となるサンプル再放射信号はsで表わされる。
更に60°回転すると,細長片SIは切欠き扇形片6B1に当り始める。光度検
知器25は基準チャネルから光を受けて再放射する。得られた検知器信号は再びR
+rになる。
更に60°回転すると,反射扇形片6A1は細長片SIを横切り始める。検知器
信号は再びS+sになる。
更に60°回転すると,不透明な非反射扇形片6C2が細長片SIを横切り始め
て基準チャネルからの再放射を光度検知器25に当てる。検知器信号はrで表わさ
れ,これは1チヨッパ・サイクルが完了した。」(10頁左下欄9行~11頁左下欄
13行)
⑫図2図3
図4
⑬「第4図のプレサンプル・チヨッパ6には孔6D1をあけた不透明な環6Dが
固着され,孔6D1の前縁は先頭の扇形片6A3の前縁の延長線上にある。孔6D
1は第5図(それに第1図)に示した固定光源すなわちランプ29Aおよび光電管
29Bと協働するので,孔の前縁がランプ29Aから光束(これはもちろんデータ
を表わす)を横切ると光電管29Bはチヨッパ・サイクルの開始を知らせる鋭い電
気パルスを発生する。孔6D1の内側の円上には6つの別な孔6D2~6D7があ
けられており,各孔の前縁は6分割サンプル・チヨッパがサイクル開始位置にある
時扇形片の前縁の延長線上にある。各孔がランプ28Aおよび光電管28B(第5
図および第1図に示した)と協働するので,6つの孔の各々の前縁がランプ28A
からの光束を横切ると,光電管28Bは現在使用中の孔と関連した扇形片の開始を
知らせる鋭い電気パルスを発生する。
孔6D1について説明した構成では,ランプ29Aおよび光電管29Bはサイク
ル開始パルス発生器29と協働する検知手段を表わし,そして孔6D2~6D7に
ついて説明した構成では,ランプ28Aおよび光電管28Bは扇形片開始パルス発
生器28と協働する検知手段を表わす。各検知手段が開始機能を行なうために関連
したパルス発生器と協働する仕方は当業者には周知であるので,もっと詳しく説明
する必要はないと思われる。」(11頁右下欄20行~12頁右上欄7行)
⑭図6
⑮「サンプル組および基準組の徴小信号並びにサイクル開始パルスおよび扇形片
開始パルスがどのように発生されるかについての以上の説明を第6図に示した理想
的な波形図に要約する。第6図において,W1は2個の6分割サンプル・チヨッパ
の完全な3サイクル中に光度検知器25によって発生される出力の理想波形である。
2個のサンプル・チヨッパは上述したように連動し従って第4図に示した関係では
一緒にロックされたように見えるが,実際には第1図に示したように物理的に離れ
て配置される。波形W1は,扇形片開始パルス発生器28の出力を表わす波形W2
およびサイクル開始パルス発生器29の出力を表わす波形W3に対して適切な位相
関係で示される。
波形W1はプレサンプル・チヨッパ6の先頭の扇形片が細長片SI(第4図)を
横切って掃引する時徴小信号部分(S+s)1が発生されることを示し,先頭の扇形
片の限界は次々に発生する扇形片開始パルスW2AおよびW2Bによって先頭の扇
形片に属しかつ後者の扇形片開始パルスW2Bは次の扇形片に属する。先頭の扇形
片の扇形片開始パルスW2Aはサイクル開始パルスW3Aと一致することが分る。
6分割サンプル・チヨッパ6および12の完全な1サイクル(これはサイクル開
始パルスW3AからW3Bまでの間である)中,まず,サンプル組の微小信号(S
+s)1は或る半サイクル中基準組の微小信号(R+r)1よりも進み,次に,サン
プル組の微小信号(S+s)2は他の半サイクル中基準組の次の微小信号(R+
r)2よりも遅れる。これは次々の各サイクル中も繰り返され,その結果サンプル
組の微小信号(S+s)1,(S+s)2,(S+s)3,(S+s)4,(S+s)5
などおよび基準組の微小信号(R+r)1,(R+r)2,(R+r)3,(R+r)4,
(R+r)5などが発生される。なお,サンプル組の微小信号は基準組の微小信号
に対して交互に,進み,遅れる。
ブランキング・パルスとしてまずサンプル再放射信号(s)1がそして次に基準
再放射信号(r)1が働き,第2サイクルでも再びまず(s)2がそして次に
(r)2がブランキング・パルスとして働き,以下同様である。波形W1を調べれ
ば分るように,どれかの(s)信号または(r)信号は2つの対称的な信号シーケ
ンスの概念的な境界として取り出され得る。例えば,(s)1は信号シーケンス(S
+s)1,(R+r)1と信号シーケンス(R+r)2,(S+s)2の境界としての立
場をとることができ,次に(r)1は(R+r)2,(S+s)2と(S+s)3,(R
+r)3の境界線であり,以下同様である。」(12頁右上欄8行~右下欄17行)
⑯「上述した英国特許第1,538,450号明細書中で説明したように熱検出
器の使用によって絶対必要だった漏話の打消しのために,S信号またはR信号(或は
s信号またはr信号)の積分開始は光学パルスの開始と一致させられない。なお,光
学パルスはその信号を発生させたが,これは或る量(多くの変数のため,経験上一
番良いもの)だけ光学パルスに対して実際遅らされる。」(13頁左上欄3行~10
行)
⑰「各微小信号の積分後,1)2つの積分されたサンプル微小信号を加算してそ
の和から積分されたサンプル再放射微小信号を減算することによって分子微小信号
の組合わせを,そして2)2つの積分された基準微小信号を加算してその和から積
分された基準再放射微小信号を減算することによって分母微小信号の組合わせを計
算できる。」(13頁右下欄5行~12行)
⑱図7
⑲「第7図のブロック図は第1図の信号処理装置27の詳細を示し,光度検知器
25によって発生された微小信号は,増幅器27Aによってまず増幅され,その後
積分器兼アナログ/デイジタル(A/D)変換器27Bによって積分されかつA/
D変換される。各微小信号の積分完了時,積分器兼A/D変換器27Bは“レデイ
(ready)”信号をルート(route)27C(なお,矢印をつけたこのライ
ンおよび他のラインは機能ルートであって個々の導体ではない。)を通してマイクロ
プロセッサ27Dへ送り,このマイクロプロセッサ27Dの内部デイジタル記憶器
にルート27Eを通して積分値を取り込ませる。上述した電子的計数用に必要なタ
イミング・パルスもサイクル開始パルス発生器29,扇形片開始パルス発生器28
からそれぞれルート27F,27Gを通してマイクロプロセッサ27Dへ供給され
る。ルート27Gから分れたルート27G1は扇形片開始パルスを,遅延ユニット
27Hを通して積分器兼A/D変換器27Bへ供給する。遅延ユニット27Hから
の各パルスは,従って関連扇形片開始パルスの発生時点から後で詳しく説明する所
定の時間遅れて微小信号の積分開始のタイミングをとる。」(14頁右上欄3行~左
下欄6行)
⑳「6分割サンプル・チヨッパ6および12(第1図)を駆動するための定速モ
ータ30(第1図)は,実際には,50Hzの交流電源30Aから運転される時毎
分500回転する同期モータである。従って,各チヨッパ・サイクルは丁度6サイ
クルで完了され,そして各扇形片はその前縁が細長片SI(第4図)に入った瞬間
からその後縁が細長片SIから出る瞬間まで丁度20ミリ秒かゝる。
遅延ユニット27H(第7図)は漏話を打消するために必要などをな〔判決注:「ど
んな」の誤記であると認める。〕遅延も提供するように構成されるが,平均値として
は10ミリ秒が良いので,本図面はこの説明のため,特に第6A図について仮定さ
れる。上述した遅延は,従って関連積分開始限界線の延長線によって各微小信号波
形を二分することを考慮する。積分器兼A/D変換器27Bの内部では積分が約1
8ミリ秒継続するように時間がきられ,これは関連微小信号波形を大体二分する積
分終了限界線の延長線を考慮する。」(14頁右下欄16行~15頁左上欄15行)
(2)以上から,引用発明の概要は,以下のとおりと認められる。
引用発明は,熱型検知器,例えば熱電対又はこの熱型検知器と同様な信号立上り
特性を持つ検知器を含む手段で合成電気信号を発生させる,2光束,比記録,赤外
分光光度測定技術用の方法及び装置に関するものである(②)。
従来の分光光度測定法による検知器は,サンプル光学チャネルと基準光学チャネ
ルから交互に発する光に等しい時間当てることで,サンプル信号成分の微小部分と
基準信号成分の微小部分とを含む合成電気信号を生成するものであって,熱電対の
応答が遅いことにより,一方の組に属する微小部分が,他方の組の微小信号部分が
生じ始める時に完全には消減していない,「漏話」について考慮する必要があった。
また,スリット開口の増大に伴う影響や光源からの一様でない光放出などの原因に
よる位相変動が,検知器の製造者によってされる上記「漏話」打消しのために行う
設定値の設定に対する外乱となり得る,という問題が存在した(②③)。
そして,引用発明は,前記第2,3(2)アのとおりの構成をとることにより,
遅延ユニットが「漏話」を打ち消すものである(⑨⑩⑫⑬⑱~⑳)。
(3)したがって,引用例1には,前記第2,3(2)アのとおりの引用発明が記
載されていると認められる。
3取消事由1(相違点2及び3の認定の誤り)
(1)本件補正後発明と引用発明とを対比すると,一致点及び相違点は,前記第
2,3(2)ウのとおりと認められる。
(2)原告の主張に対する判断
ア原告は,引用発明は,常に一定の遅延時間を使用するものである,と主
張する。
ところで,引用例1の前記2(1)⑲⑳の記載によると,引用発明における信号処理
装置では,電子的計数用に必要なタイミング・パルスである扇形片開始パルス発生
器28から発生する信号27Gが,扇形片開始パルスとしてルート27G1に分か
れ,遅延ユニット27Hを通して積分器兼A/D変換器27Bへ供給されている。
この場合の「扇形片開始パルス発生器28」について,前記2(1)⑬によると,異な
る複数の扇形片を有するプレサンプル・チヨッパ6に固着された環6Dの円上に,
6つの別な孔6D2~6D7が明けられており,6つの孔の各々の前縁がランプ2
8Aからの光束を横切ると,光電管28Bは現在使用中の孔と関連した扇形片の開
始を知らせる鋭い電気パルスを発生し,ランプ28A及び光電管28Bが扇形片開
始パルス発生器28と協働する,とされているから,扇形片開始パルス発生器28
の信号は,プレサンプル・チヨッパの有する異なる複数の扇形片と関連する孔6D
2~6D7によって区別し得る,ランプ28A及び光電管28Bと協働するもので
ある。そうすると,扇形片開始パルス発生器28は,特定の扇形片を何ら区別する
ことなく,扇形片開始パルスを遅延ユニット27Hに供給しているとまではいえな
いから,引用発明を,何れの扇形片であっても常に一定の遅延時間を供給する回路
構成となっている,と限定的に認定するまでの理由はない。また,引用例1の前記
2(1)⑳には,「遅延ユニット27H・・・は漏話を打消するために必要などんな遅
延も提供するが,平均値としては10ミリ秒が良い」と記載されているが,この記
載は,平均値として10ミリ秒がよい旨記載したにすぎず,一定の遅延時間とする
とまで述べたとは解されない。したがって,原告の主張は,理由がない。
なお,前記2(1)認定の引用例1の記載によると,引用例1には,外乱となり得る
スリット開口の形状に伴う影響や光源からの一様でない光放出などという課題に対
して,サンプル信号成分の微小部分と基準信号成分の微小部分を交互に発生させる
とともに,発生順序を周期的に逆転させ,サンプル信号の微小部分と基準信号の微
小部分との比を計算することで,漏話の変動の要因となる外乱を克服できるという
作用効果を奏することも記載されている(④⑤⑩⑭⑮)。しかし,引用例1には,こ
れに加えて,前記2(1)②のとおり,従来の分光光度測定法による検知器において,
検知を行う熱電対の応答が遅いため,サンプル光学チャネルと基準光学チャネルの
うち,一方の組に属する微小部分が,他方の組の次続の微小信号部分が生じ始める
時完全には消滅していないという,サンプル信号成分と基準信号成分の間の「漏話」
という要因について考慮する必要があるという問題が指摘され,このような課題に
対応する解決手段として,前記2(1)⑳のとおり,遅延ユニット27Hを設けること
が示されている。したがって,引用例1に記載された事項を総合的にみると,上記
二つの課題及び解決手段は,それぞれ独立した技術的思想として把握できるから,
「漏話」への対応という課題を踏まえてその解決手段として遅延ユニットを備えた
引用発明が読み取れるといえる。
イ原告は,審決は,「回転位置検出部」については明確に「モード毎」に
対応する構成を一致点として認定しておきながら,「遅延時間及び測定期間」につ
いてのみ「モード毎」に関するものが文言上明記されていないことを理由に「不明」
と認定することは,論理一貫性を欠く,と主張する。
しかし,審決の「イ引用発明の「各孔の前縁が6分割サンプル・チヨッパがサ
イクル開始位置にある時扇形片の前縁の延長線上にある」「孔6D2~6D7」と,
「ランプ28A」と,「6つの孔の各々の前縁がランプ28Aからの光束を横切ると」
「現在使用中の孔と関連した扇形片の開始を知らせる鋭い電気パルスを発生する」
「光電管28B」は,補正発明の「前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の
回転位置を検出する回転位置検出部」に相当する。」との部分は,引用発明の6分割
サンプル・チヨッパの有する複数の扇形片が,本件補正後発明の「モード」に対応
するものであることから,上記のとおり,「モード毎」との認定をしたものであって,
遅延時間や測定期間と「モード」との関係について言及したものではない。したが
って,審決の認定は一貫性を欠くものではなく,原告の上記主張には,理由がない。
(3)よって,取消事由1には,理由がない。
4取消事由2(相違点2及び3の判断の誤り)について
(1)引用例2記載事項について
ア引用例2には,以下の記載がある(甲2)。
【発明が解決しようとする課題】【0008】ビートによるノイズを解消するため
に用いる同期誘導電動機では,上記の振動によるノイズを逃れることはできない。
また,DCブラシレスモータは容易に回転数を変えることができるが,特許文献2
においてはモータの回転数とノイズを取り除くノッチフィルタの周波数を調整する
ことによりノイズを低減しようという提案であり,モータにより発生するノイズ自
体を小さくすることはできない。
【0009】本発明は,上記問題を解決するためになされたものであり,振動な
どセクタミラーの回転数と因果関係のあるノイズを可能な限り改善することができ
る二光束分光光度計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0010】上記問題を解決するため,本発明の分
光光度計は,光源と被測定試料および参照試料との間の光路上に設けられた,ミラ
ー,開口部,遮蔽部のいずれかが介在するように切り替える回転可能なセクタミラ
ーと,該セクタミラーを回転させるモータと,被測定試料または参照試料からの光
を検出する光検出器を備えた二光束分光光度計において,光検出器におけるノイズ
が最小になるようにモータの回転数を調整する調整手段を設けたものである。
【0016】次に動作について説明する。光源31からの光はモノクロメータ3
2により単色化された後,セクタミラー41に達する。セクタミラー41は光路に
対して45度の角度で,図2に示す開口部42,43およびミラー44,45が光
路上に来るように配置され,モータ2により一定速度で回転される。モータ2には
速度可変と長寿命が必要なので,DCブラシレスモータを用いており,マイクロプ
ロセッサ22からの指令によりモータコントローラ3により速度を制御される。セ
クタミラー41が回転することにより,開口部42が光路上に来たとき,光源31
からの光はセクタミラー41を通過し,試料側セルホルダ7に保持された試料を透
過した後ハーフミラー10で一部は反射するものの,残りは直進して検出器13で
検出される。
イ上記記載から,引用例2には,「ミラー,開口部,遮蔽部のいずれかが介
在するように切り替える回転可能なセクタミラーと,該セクタミラーを回転させる
モータと,被測定試料又は参照試料からの光を検出する光検出器を備えた二光束分
光光度計において,振動などセクタミラーの回転数と因果関係のあるノイズを可能
な限り改善するために,光検出器におけるノイズが最小になるようにモータの回転
数を調整する調整手段を設け,モータには速度可変と長寿命が必要なのでDCブラ
シレスモータを用いること」が記載されているといえる。
(2)相違点2及び3の判断
引用発明に上記の引用例2記載事項を適用し,回転セクタ鏡を用いた分光光度計
においてDCブラシレスモータを用いてセクタ鏡を回転させる場合には,モータの
回転数に応じて適切な遅延時間及び積分時間すなわち測定期間に係る測定時間を選
択すべきことは明らかである。
また,一般に,引用発明のような回転セクタ鏡を用いた分光光度計における遅延
時間,測定時間の設定において,回転セクタ鏡が有する複数の異なる領域(扇形片)
ごとに分けて行うと,より精度の高い検出が行える反面,構成に係る負担が大きく
なり,逆に,遅延時間及び測定時間の設定を一律に行えば,構成上の負担を低減で
きる一方で,検出を精度よく行えないこととなることも明らかである。
さらに,引用例1の記載Aには,サンプル微小信号の発生時間と基準微小信号の
発生時間とが異なってもよいことが記載されており,この場合に,サンプル微小信
号と基準微小信号の測定時間を同一にするためには,遅延時間を異ならせるなど,
遅延時間,測定期間及び測定時間を変化させて調整することが想定される。
そうすると,回転セクタ鏡を用いた分光光度計における遅延時間及び測定期間の
設定を扇形片ごとに分けて行うか一律に行うかは,当業者がこれを実施する際に,
各領域におけるデータの測定という目的を達成できるよう適宜定めるべき事項であ
る。
そして,微小信号を測定しそれに係る遅延を設ける引用発明において上記のよう
な設定を行うのであれば,そのための設定部や記憶部を当然に設けることになるも
のと解される。
したがって,引用発明において,相違点2及び3に係る本件補正後発明の構成を
採用することは,必要に応じて適宜行われるべきものであって,当業者が容易に想
到し得たものであると認められる。
(3)原告の主張に対する判断
ア原告は,引用例1の記載Aの「発生時間」は,サンプル信号の微小部分
については原告図6の青矢印の期間,基準信号の微小部分については原告図6の赤
矢印の期間を意味すると解すべき,と主張する。
しかし,原告図6赤矢印の期間には,基準微小信号,サンプル再放射微小信号,
基準微小信号がこの順序に発生しており,サンプル再放射微小信号の積分値は,基
準微小信号の積分値ではなくサンプル微小信号の積分値から差し引かれるものであ
るから,基準微小信号とサンプル再放射微小信号とを同じ組として取り扱うのは不
合理であり,サンプル微小信号と基準再放射微小信号との関係についても同様であ
る。引用例1においては,前記2(1)⑰のとおり,二つの積分されたサンプル微小信
号を加算してその和から積分されたサンプル再放射微小信号を減算することによっ
て分子微小信号の組合せを,二つの積分された基準微小信号を加算してその和から
積分された基準再放射微小信号を減算することによって分母微小信号の組合せを計
算するから,引用例1の記載Aにおいて「異なる発生時間を使用してもよい」とさ
れる「一方の組の微小部分」と「他方の組の微小部分」とは,同一組に属する二つ
のサンプル微小信号部分及び同一組に属する二つの基準微小信号部分を意味すると
解すべきである。したがって,引用例1の記載Aには,被告図6の実線矢印の時間
(サンプル微小信号の発生時間)と破線矢印の時間(基準微小信号の発生時間)と
を異ならせてもよいことが記載されているというべきである。
イ原告は,引用例1の記載A及びBから,分光光度計の場合には,一方の
組の微小部分と他方の組の微小部分との間の発生時間を等しくすることが望ましい
ことは明らかであるから,モード毎に異なる発生時間を使用するという構成を分光
光度計に対して適用することについては阻害要因がある,と主張する。
しかし,原告が引用する引用例1の「分光光度測定では,全ての微小部分の持
続時間を等しくすることが望ましい」の記載は,分光光度測定において,全ての
微小部分の持続時間を等しくするという態様が望ましいことを示しているに留まり,
上記態様以外の態様による実施がその目的に反するとか,本来有する機能を果たさ
なくなるなどの事情について示したものとは認められない。
したがって,この記載をもって,分光光度計において,一方の組の微小部分と
他方の組の微小部分との間で異なる発生時間を使用する態様が行われないと
まではいえず,原告の上記主張には理由がない。
ウ原告は,引用発明では一方の組と他方の組において,異なる発生時間を
使用することは示唆されているが,異なる発生時間を使用することで,工場出荷時
に想定される漏話が変動することは,開示も示唆もされておらず,そのため,引用
発明では,工場出荷時に想定される漏話を打ち消すために,遅延時間を設定してい
るが,一方の組と他方の組に対して異なる発生時間を使用することに応じて,あえ
て遅延時間を変更する必要はない,旨主張する。
しかし,前記2(1)⑰のとおり,引用例1で明記された計算方法を用いる場合
においては,サンプル微小信号と基準微小信号とで測定時間を等しくする必要
があるから,一方の組と他方の組とで異なる発生時間を使用するには,遅延時
間を異ならせることによって測定時間を等しくすることなど,遅延時間,測定
期間及び測定時間を変化させて調整することが想定される。
(4)よって,取消事由2には,理由がない。
第6結論
以上のとおり,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
片岡早苗
裁判官
古庄研

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