弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主          文
 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 原告ら
 (1) 被告愛知県収用委員会が昭和42年12月20日付けで行った別紙物件目
録1①ないし⑪記載の各土地に対する権利収用裁決を取り消す。
  (2) 被告国は,原告らに対し,別紙物件目録1①ないし⑪記載の各土地を引き
渡せ。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2被告国
(1) 原告らの被告国に対する請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 被告愛知県収用委員会
(1) 本案前の答弁
  原告らの被告愛知県収用委員会に対する訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
(2)本案の答弁
原告らの被告愛知県収用委員会に対する請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 事案の概要
本件は,原告らが,被告愛知県収用委員会(以下「被告委員会」という。)に
対し,同委員会が別紙物件目録1①ないし⑪記載の各土地(以下「本件各土地」と
いう。)について昭和42年12月20日付けで行った権利(河川占用権)収用裁
決(以下「本件裁決」という。)は,原告らの所有権が消滅しているとの誤った判
断を前提としている違法があるとして,その取消しを求め,さらに,被告国に対
し,所有権に基づいて本件各土地の引渡しを求めた事案である。
1 当事者間に争いのない事実等
(1) 本件各土地の沿革,所在
愛知県海部郡立田村福原地区の長良川には,昭和42年ころまで,福原輪
中堤といわれる小規模な堤防が存在した。それは,寛永12年(1635年)に築
造され,輪中村民らによって維持されてきたとされているものであって,その形状
は数字の「6」に類似し,長円形の環状堤部分(以下,この部分を「本件環状堤」
という。)とそれより上流方向に弧状に伸びた突出堤部分(以下,この部分を「本
件突出堤」という。)とで構成されており,元は木曽川水系に属していた。
    本件各土地は,本件環状堤の敷地であったが,昭和30年代に行われた福
原新堤築堤工事により,現在は,河川法(昭和39年法律第167号。以下「新
法」という。)による河川区域内(河川の流水が継続して存する土地等(新法6条
1項1号)又は河川管理施設の敷地である土地(同法6条1項2号))にある(乙
イ14,16イの1ないし6,24,36の1ないし3)。
    本件各土地は,別表「本件各土地の所有等の変遷」のとおり,うち10筆
については明治28年又は同32年に訴外D(原告Aの養父)が取得し,残り1筆
については訴外Dの父訴外Eが取得している。訴外D及び訴外Eの財産は,その
後,訴外Eが死亡し,昭和22年12月25日,訴外Dが死亡し,次いで,原告A
の養母訴外Fが昭和36年12月29日に死亡したことにより,原告らが相続して
いる。
(2) 河川認定及び河川附属物認定の経緯
    木曽川は,旧河川法(明治29年法律第71号,昭和40年4月1日廃
止。以下「旧法」という。)1条により,明治30年9月11日,公共の利害に重
大な関係がある河川と認定された(乙イ12)。これに伴い,福原輪中堤につい
て,同法4条2項に基づいて,明治32年11月9日付け愛知県告示第172号に
より,愛知県知事による河川附属物の認定がなされた(乙イ13)。
    その後,木曽川,長良川及び揖斐川の分流工事が竣工したので,明治35
年,福原輪中堤は,木曽川の河川附属物から長良川の河川附属物に認定換えがなさ
れた。
  愛知県知事は,旧法2条に基づき,大正2年12月24日付け愛知県告示第3
73号により福原輪中堤の環状堤の大部分と堤外の山林原野とを長良川の河川敷地
(河川附属物の敷地と河川の敷地を含む。)と認定し(ただし,本件各土地及び別
紙物件目録2①及び②記載の各土地(以下「別件土地」といい,本件各土地と併せ
て「本件各土地等」という。)はこれに含まれていない。),その細目の告示(区
域認定)がなされた(甲2)。そして,同法3条により,それら敷地の私権は消滅
し,不動産登記法102条ノ3(大正2年法律第18号により改正され,昭和35
年法律第14号により削除前のもの)により,その敷地の登記が抹消された。
その後,愛知県知事は,昭和14年8月4日付け愛知県告示第894号に
より,本件各土地等を含む福原輪中堤の環状堤全体について,旧法4条2項による
河川附属物認定を行った(以下「本件処分」という。甲3)。
    その告示には,起点所在地として「海部郡立田村福原新田二番割」,終点
所在地として「海部郡立田村立田三番割」,地番(或ハ地點)として「輪状ヲナシ
起終點同シ」と各表示されており,工種として「土堤」,長さとして「九〇五・〇
間」,摘要欄には「本流沿ヒノ法下面ニハ所々石積ヲ施工ス副堤」と各表示されて
いた。 
(3) 権利収用裁決手続の経緯
被告国は,長良川改修工事のため,土地収用法に基づく事業認定を受け(昭和3
9年6月2日告示),同年12月15日,被告委員会に対し,本件各土地等を含む
17筆の土地についての土地収用裁決を申請したが,昭和41年9月10日,本件
各土地等については,本件処分により私権は消滅しているが,旧法施行規程(明治
29年勅令第236号)11条により占用権があるとして,土地収用の裁決申請を
取り下げ,愛知県知事による権利細目公告処分を経た上,昭和42年4月14日,
占用権を収用する権利収用の裁決を申請し,被告委員会は,同年12月20日,本
件裁決を行った。
 そのため,原告らは,昭和43年1月23日,原告Aの弟である訴外Gを代理人と
して,被告委員会の上級庁である建設大臣(現在の国土交通大臣。以下「審査庁」
という。)に対して,「昭和14年の河川附属物認定によって本件各土地等の私所
有権は消滅しておらず,権利収用される占用権は存在しない」等の理由で本件裁決
の取消しと土地引渡しを求めて審査請求を申し立てた。
    上記審査請求の申立てから30年以上を経過した現在に至っても,審査庁
は裁決をなしていない。
(4) 別件土地に対する裁判経過
 別件土地については,2回の訴訟が提起され,そのいずれもが,河川附属
物認定によって堤敷地の私権が消滅するか否かがその主要な争点として審理され
た。すなわち,1回目の訴訟である名古屋地方裁判所昭和55年(行ウ)第26号
権利細目公告処分取消等請求事件及びその控訴審である名古屋高等裁判所昭和61
年(行コ)第12号権利細目公告処分取消等請求控訴事件(以下「前訴」とい
う。)では,訴外Gが,権利収用裁決の取消しを求めるとともに,その所有権に基
づき,被告国に対して別件土地の引渡しを求めたが,第1審は,昭和61年8月2
9日,上記裁決の取消請求についてはこれを却下し,土地引渡請求については,河
川附属物認定によって私権は消滅するとして請求を棄却し,控訴審も,平成2年4
月25日,ほぼ同様の理由で
控訴を棄却している。2回目の訴訟である名古屋地方裁判所平成4年(ワ)第414
2号所有権移転登記手続請求事件及び平成5年(ワ)第4235号反訴請求事件(以
下「後訴」という。)では,被告国が訴外Gに対して,別件土地の真正な登記名義
の回復を理由とする所有権移転登記手続を求め,他方,訴外Gは別件土地の所有権
確認を求めたが,第1審は,平成7年12月25日,訴外Gが本件処分により別件
土地の所有権が消滅したことを争うことは,訴訟法上の信義則に反し許されないと
の理由で,被告国の請求を認容した(訴外Gの請求は棄却)。訴外Gは控訴した
が,その後控訴を取り下げたので,上記第1審判決は確定した。
なお,原告Aは,昭和43年2月21日,国を被告として本件裁決による補償金の
増額を求める訴えを名古屋地方裁判所に提起し(昭和43年(行ウ)第10号,第
27号),同訴訟は,控訴審の名古屋高等裁判所の判決(昭和53年(行コ)第1
3号,15号)を経て,昭和63年1月21日言渡しの最高裁判所の判決(昭和5
8年(行ツ)第90号,91号)によって確定した。原告らは,そのころ,これに
よって確定した補償金(3.3平方メートル当たり3080円)を受領している。
(5) 関係法令(抜粋)
ア旧法
 第1条 此ノ法律ニ於テ河川ト称スルハ主務大臣ニ於テ公共ノ利害ニ重大
        ノ関係アリト認定シタル河川ヲ謂フ
    第2条第1項 河川ノ区域ハ地方行政庁ノ認定スル所ニ依ル(以下,略)
    第3条 河川並其ノ敷地若ハ流水ハ私権ノ目的トナルコトヲ得ス
    第4条第1項 地方行政庁ニ於テ河川ノ支川若ハ派川ト認定シタルモノハ
        命令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外総テ河川ニ関ス
        ル規程ニ従フ
       第2項 堤防,護岸,水制,河津,曳船道其ノ他流水ニ因リテ生ス
        ル公利ヲ増進シ又ハ公害ヲ除却若ハ軽減スル為ニ設ケタルモノニ
        シテ地方行政庁ニ於テ河川ノ附属物ト認定シタルモノハ命令ヲ以
        テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外総テ河川ニ関スル規程ニ
        従フ
    第6条 河川ハ地方行政庁ニ於テ其ノ管内ニ係ル部分ヲ管理スヘシ(以
下,        略)
   第14条第1項地方行政庁ハ其ノ管理ニ属スル河川ノ台帳ヲ調製シ主務
        大臣ノ認可ヲ受クヘシ
     第2項 台帳ノ調製,保管,記載事項等ニ関スル規程ハ命令ヲ以
        テ之ヲ定ム
     第3項 主務大臣ノ認可ヲ経タル台帳ニ記載セル事項ニ関シテハ
        反対ノ立証ヲ許サス但シ台帳調製後其ノ事実ノ変更シタルコトヲ
        証スルヲ妨ケス
    第44条 河川敷地ノ公用ヲ廃シタルトキハ地方行政庁ハ命令ノ定ムル所
        ニ従ヒ之ヲ処分スヘシ但シ此ノ法律施行前私人ノ所有権ヲ認メタ
        ル証跡アルトキハ其ノ私人ニ下付スヘシ
   イ旧法施行規程
第2条 府県知事ニ於テ河川ノ支川若ハ派川又ハ河川ノ附属物ト認定シタ
ルモノハ其ノ地方ノ公布式ニ依リ之ヲ告示スヘシ
    第9条 河川法施行前ニ私人ノ所有権ヲ認メタル河川ノ敷地ニシテ荒地ニ
アラサルモノハ従前ノ所有者若ハ其ノ相続人ノ請求ニ因リ府県知事ハ公益ヲ妨ケサ
ル限ニ於テ其ノ占用ヲ許可スヘシ
  ウ 新河川法施行法(昭和39年法律第168号)
    第4条 新法の施行の際現に存する旧法第1条の河川若しくは同法第4条
        第1項の支川若しくは派川の敷地又は同条第2項の附属物若しく
        はその敷地(以下「旧法による河川敷地等」という。)で,同法
        第3条の規定により私権の目的となることを得ないものとされて
        いるものは,国に帰属する。
  第18条 第4条の規定により国に帰属した旧法による河川敷地等で廃川
        敷地等となったものについては,旧法第44条ただし書の規定
は,        なおその効力を有する。
第19条 第4条の規定により国に帰属した旧法による河川敷地等の占用に関して
は,河川法施行規程第9条及び第10条の規定は,なおその効力を有する。(以
下,略)
   エ 不動産登記法
 第102条ノ3 既登記ノ土地カ河川ノ敷地ト為リタル場合ニ於テハ当該
官庁ハ遅滞ナク其登記ノ抹消ヲ登記所ニ嘱託スルコトヲ要ス
オ 河川台帳令(明治29年10月15日勅令第331号)
1 河川台帳ニ関スル件
    第1条 河川台帳ハ帳簿及実測図ヲ以テ組成ス
    第2条 河川台帳ニハ市町村毎ニ区別シテ左ノ事項ヲ記載スヘシ但河川ノ
       状況ニ依リ内務大臣ハ其ノ記載事項ヲ省略セシムルコトヲ得
1号 河川ノ敷地及堤外地ノ区域
2号 河川ノ附属物及河川ニ影響ヲ及ホスヘキ工作物ノ種類,数量,  構造及位
置形状
3号(省略)
2 争点
(1) 被告委員会に対する訴えは,訴えの利益を欠くものとして不適法か。
(2)原告らの被告国に対する請求は,実質的な同一紛争の蒸し返しに当たると
して,棄却されるべきか。
(3) 旧法4条2項に基づく本件処分の河川附属物認定だけで,その敷地の私権
が消滅するのか,旧法2条1項の区域認定をも要するか。
3 当事者の主張の要旨
  (1) 被告委員会に対する訴えは,訴えの利益を欠くものとして不適法か。
ア被告委員会
     本件裁決は,国による河川占用権の収用を認めているだけで,所有権の
取得まで認めているわけではない。したがって,本件裁決によって,原告らの本件
各土地の所有関係が直接制限を受けるわけではない。また,原告らの主張を前提と
すれば,旧法施行規程9条に基づく占用権は成立する余地はなく,これを前提とす
る本件裁決は当然無効な処分となるはずであるから,原告らは,その目的を達成す
るためには端的に土地引渡請求訴訟を提起すれば足り,本件裁決の取消しという迂
遠な訴訟をする必要はない。したがって,被告委員会に対する本件裁決取消しの訴
えは,訴えの利益を欠くものであり,却下されるべきである。
   イ 原告ら  
本件各土地がその所有権に基づいて原告らに引き渡されても,本件裁決
は,「河川附属物の認定によって,附属物及びその敷地の私権は消滅すべきものと
解すべきである。したがって,本件各土地の所有権は国に帰属すると認められ
る。」と判断しているから,本件裁決が取り消されないと,将来,同処分が有する
公定力によって,原告らの所有権の行使に支障を生ずるおそれがある。よって,原
告らは,本件裁決の取消しを求める訴えの利益を有している。
(2) 原告らの被告国に対する請求は,実質的な同一紛争の蒸し返しに当たると
して,棄却されるべきか。
 ア 被告国
本件各土地は,本件環状堤の敷地の一部であり,別件土地と同様に,愛
知県知事が昭和14年8月4日付けで行った本件処分により旧法4条2項所定の
「河川附属物」として認定され,その後の長良川改修工事に伴い,被告委員会によ
る本件裁決の対象とされた土地であり,本件各土地の所有権が消滅したかどうかの
争点は,別件土地の所有権が消滅したかどうかの争点と同一である。また,訴外G
は,原告らと親戚関係にあり,かつ,原告らの代理人として本件各土地に関する行
政不服審査請求を行っており,また,原告らが本件裁決における補償額を争った際
にも,一貫して実質的当事者として訴訟を遂行していたから,原告らと訴外Gは実
質的には同一当事者といえる。したがって,本件訴訟は,前訴,後訴と紛争の実体
が同一であり,すでに解
決された紛争の蒸し返しに当たるから,もはや本件各土地の所有権を主張すること
は訴訟法上の信義則に反して許されず,原告らの請求は,速やかに棄却されるべき
である。
イ 原告ら
     訴外Gは,戦後,訴外Dと原告Aが直面した農地解放,福原地区の改修
工事についての渉外を依頼されて,福原地区に来たが,農家の資格を有していた方
がいいと判断して,原告Aから約1町歩の土地を譲り受けた。訴外Gは,その7年
後,その土地の中に権利収用された別件土地があることに気づき,前訴を提起し
た。このように,訴外Gは訴外Dの相続人ではなく,本訴と「同一の当事者」でも
ないし,本訴は前訴,後訴と「同一の紛争」でもない。原告らは,本件裁決の当初
から本件各土地の所有権は消滅していないと主張して争っており,司法判断の機会
が奪われるのは,不当である。
(3) 旧法4条2項に基づく本件処分の河川附属物認定だけで,その敷地の私権
が消滅するのか,旧法2条1項の区域認定をも要するか。
ア 被告ら
河川附属物については,区域認定を要さず,河川附属物認定のみによっ
て,私権が消滅するため,本件処分によって,本件各土地についての原告らの所有
権は消滅しており,所有権に基づく本件各土地の引渡請求は理由がない。また,河
川附属物認定によって,私権が消滅した反面,占用権が成立しているため,新法施
行後も,新法施行法19条による旧法施行規程9条の規定によって原告らが本件各
土地の占用権を有していることを前提として,愛知県知事により昭和41年1月1
2日付けで本件各土地について権利細目公告がなされ,被告国から被告委員会に対
し権利収用裁決の申請がなされ,被告委員会が本件裁決をなしたものであって,違
法ではない。
     すなわち,河川(又はその支派川)については,旧法1条又は4条1項
に基く河川認定がなされただけでは,旧法が適用される上下流の縦の範囲が定まる
ものの,それは,単に抽象的な範囲が定まるにとどまり,これに加えて,同法2条
1項に基づき,地方行政庁による河川区域の認定が行われることによって初めて同
法が適用される具体的範囲が定まり,その結果,私権が排除されることとされてい
た。しかしながら,河川附属物については,流水による公利を増進し又は公害を除
却若しくは軽減する機能を有する人為的に築造された現に存するものについて,そ
の認定を行うため,同法が適用されるべき範囲は,現地において具体的かつ「即地
的」に明らかとなる。したがって,同法においては,河川附属物について,河川の
ように区域認定を必
要とせず,河川附属物の認定のみによって私権が排除される。
この趣旨は,[旧]河川法第4条第2項の規定に基く共同施設に関する
省令(昭和29年4月27日建設省令第11号。以下「共同施設省令」という。)
3条が「法第3条の規定は,法第4条第2項の規定により河川の附属物として認定
された共同施設については,適用しない。」と規定しており,「法第4条第2項の
規定により河川の附属物として認定され,かつ,法第2条の規定により河川の区域
に認定されたもの」と規定していないこと,建設省河川研究会編「河川法」は,建
設省河川研究会という旧法を所管する立場の担当者により執筆されたものであるこ
とから,一般的,通説的な見解とされているが,同著は,河川附属物の認定につい
て,「河川法が附属物につき認定主義をとったのは,附属物につき私権の存在が否
定される」と記述する
のみであり,原告らが主張するように河川附属物の認定とは別に「旧法第2条の区
域の認定が行われないとその私権は消滅しない」などという解釈,運用については
何ら触れられていないこと,原告らが援用する内務省土木局長回答の三は,岡山県
知事照会の記三「川敷ト認定スヘキ区域内ニ於ケル官有地ニアリテハ…又民有地ニ
アリテハ…」を受けたものであり,専ら河川敷に関する回答であって,私有の堤防
敷地についての区域認定の要否に関する回答ではないこと,確かに,旧不動産登記
法102条ノ3の規定により,本件各土地については登記抹消の嘱託がなされてい
ないが,河川附属物の認定により本件各土地の私権が消滅するという効力と,登記
の抹消の有無とは何ら関係がないこと,これらから明らかである。
イ 原告ら
河川附属物についても,旧法4条2項による河川附属物認定が行われて
都道府県知事の管理下に入るが,その私有敷地については,河川(又はその支派
川)の敷地と同様に,同法2条による区域認定が行われて,初めて私権が消滅す
る。
     なぜなら,本件で問題となっている堤防のように,私人が設け,所有管
理してきた河川附属物は,何代にもわたって築造され,改修,修復が繰り返されて
きたものや,その一部が建物敷地,畑地,山林となっていたものが存在すると考え
られ,常に現地において外形的に他と明確に区別できるとはいえないからである
(私権の喪失という法律効果をもたらす行政処分は,その効果の及ぶ範囲を明らか
にしてそれを関係人等に周知させる必要があると考え方によれば,河川附属物にお
いても,その範囲を明らかにした上で告示等の措置を取るという区域認定によって
初めて私権が消滅することになる。)。
     現に,福原輪中堤は,堤防法面の各所に堤防小段状の宅地,学校敷地,
神社敷地,墓地,畑地等が不規則に入り込んでいて,堤防の幅員も約5メートルか
ら約26メートルまでと各所で大きく変動しており,現地においてもその境界は判
明しないから,その範囲,境界が即地的に定まることはない。したがって,本件処
分の際の,堤防の起点,終点の字名と堤防延長の長さのみを示して,その区域境界
を示していない河川附属物認定では,その範囲が不明確なままである。そのため,
昭和41年に被告国が土地収用裁決を取り下げるまでは,河川管理者が調査測量を
行って,河川附属物の区域を認定した上で,登記抹消手続を行っていたのである。
その他,河川附属物認定だけで私権消滅したとしてその登記が抹消された事例がな
いこと,法務省民事
局第3課の編集した不動産登記書式集中には,不動産登記法102条の3に基づく
抹消登記嘱託書の書式が記載されているが,その登記原因は,「河川敷地となった
ことであり,その日付は河川法による河川敷地とされた日である」とされ,河川附
属物認定を登記原因とした書式は存在しないこと,河川の公用を廃止された場合に
旧所有者に下付される廃川敷地処分の申請書様式には,区域認定の公示年月日とそ
の番号等を記入することになっていること,本件突出堤や三重県桑名郡木曽岬村
(現木曽岬町)の木曽川左岸堤防は,明治32年に河川附属物認定がなされている
が,被告国は,これらの敷地を土地収用ないし買収していること,河川附属物認定
された堤防敷のうち民有敷地の私権を消滅させるためには,更に区域認定を要する
とした内務省土木局長
回答(明治36年4月16日甲第46号),河川管理の強化等のため,河川附属物
認定未了の施設に対して,速やかにその措置を完了すべき旨を指示した建設省河川
局長通牒(昭和26年7月3日建河発第234号)などからも,このことは明らか
であり,旧法当時,全国の都道府県知事は,この解釈に従って河川管理を行ってい
た。
     そうすると,本件裁決当時,本件各土地が新法施行法4条によって被告
国に帰属することはなく,原告らが新法施行法19条,旧法施行規程9条によって
本件各土地の占用権を有したこともない。したがって,本件裁決は,違法であるか
ら取消しを免れず,また,被告国は,原告らに対して,本件各土地を引き渡すべき
である。
第3 判断
1 争点(1)(被告委員会に対する訴えは,訴えの利益を欠くものとして不適法 
  か。)について
被告委員会は,本件裁決は,河川占用権の収用を認めているだけであるか
ら,原告らの本件各土地についての所有権に直接制限をもたらすものではなく,ま
た,原告らが主張するように,原告らの本件各土地に対する所有権が消滅していな
いのであれば,本件裁決は当然無効な処分であるから,その目的を達成するために
は端的に土地引渡請求訴訟を提起すれば足りることを理由に,本件裁決の取消しを
求める訴えは,その利益を欠く旨主張する。
なるほど,原告らの主張するとおり,原告らの本件各土地に対する所有権が
消滅していないのであれば,旧法施行規程9条に基づく河川占用権は成立する余地
がなく,したがって,これを収用することを内容とする本件裁決は,重大かつ明白
な瑕疵が存するものとして当然に無効と考えられる。その場合,当該処分は公定力
を有しないから,抗告訴訟によって排除されなくとも,他の訴訟の先決問題として
当該処分の無効を主張することができることはいうまでもない。
   しかしながら,行政処分の無効は,不存在と異なり,外形的には行政処分が
成立し,存在するものであるから,それが不利益処分の性質を有する以上,そのこ
と自体が国民に対する権利又は利益に対する侵害に当たるというべきである。そう
すると,本件裁決によって不利益を受けると考えられる原告らとしては(かかる不
利益処分性は客観的に把握されるべきであるから,河川占用権の収用を内容とする
本件裁決がこれに該当することはいうまでもない。),取消訴訟によって当該処分
を外形的にも排除する利益を有するというべきであり,その主張する違法事由が無
効事由に該当するからといって,訴えの利益が否定されるべきものではない。
   よって,被告委員会の本案前の主張は採用できない。
2 争点(2)(原告らの被告国に対する請求は,実質的な同一紛争の蒸し返しにあ
たるとして,棄却すべきか。)について
前記当事者間に争いのない事実等(第2の1(1)ないし(4))によれば,訴外
Gが当事者となっていた前訴及び後訴は,本訴と同様に,河川附属物認定によって
別件土地の私権が消滅するか否かが主な争点であったこと,訴外Gは,原告らの代
理人として,本件各土地についてなされた本件裁決に対して行政不服審査請求を行
っていること,本件各土地と別件土地は,いずれも本件環状堤の敷地の一部を構成
し,共に昭和14年8月4日付けで河川附属物認定の対象となったこと,訴外Gは
原告らと親戚関係にあること,以上の事実が認められる。 しかしながら,他方,
前訴及び後訴と本訴とでは,対象土地及び当事者が異なり,訴訟物が異なる上,本
訴については,訴外Gは当事者又は代理人として関与しておらず,原告らは,弁護
士に依頼して訴訟遂行を
していることが本件記録上明らかである。
   そうすると,訴外Gが,自らが当事者となった前訴,後訴において,敗訴し
たからといって,訴訟物も訴訟遂行者も異なる本訴の訴訟遂行が,単に同種の争点
を含むことのみをもって,信義則上(あるいは争点効類似の効力によって)蒸し返
しと評価され,本件各土地の所有権を主張することが許されないと解する余地はな
いというべきである。したがって,被告国の主張は採用できない。
3 争点(3)(旧法4条2項に基づく本件処分の河川附属物認定だけで,その敷地
の私権が消滅するのか,旧法2条1項の区域認定をも要するか。)について
(1)旧法において,河川については,明確な定義規定はないが,同法3条の規
定に照らすと,流水とその敷地との統合体を河川と把握していたと解される。
ところで,同法1条により,主務大臣が認定した河川(適用河川)につい
ては,その認定及び同法64条1項による適用区域の決定により,同法の適用を受
けること及びその区間が決まるが,これらの処分のみでは,河川のいわば縦の限界
は定まるものの,その横の限界は定まらず,地方行政庁が同法2条に基づき,河川
区域認定をすることにより,初めて同法3条により,当該河川区域内の私権が消滅
することが明らかである。
これに対し,河川附属物については,同法4条2項が,「堤防,護岸,水
制,河津,曳船道其ノ他流水ニ因リテ生スル公利ヲ増進シ又ハ公害ヲ除却若ハ軽減
スル為ニ設ケタルモノニシテ地方行政庁ニ於テ河川ノ附属物ト認定シタルモノハ命
令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外総テ河川ニ関スル規程ニ従フ」と規
定しているのみである。
(2)この点につき,原告らは,同法4条2項の河川附属物認定を同法1条の適
用河川の認定に相当するものとみて,河川と同様に,河川附属物についての区域の
認定がなければ私権消滅の効果は生じない旨主張する。
    確かに,同法4条2項は,「…地方行政庁ニ於テ河川ノ附属物ト認定シタ
ルモノハ命令ヲ以テ特別ノ規程ヲ設ケタル場合ヲ除クノ外総テ河川ニ関スル規程ニ
従フ」と規定し,河川の支派川に関する同条1項とほぼ同一の文言から成っている
が,その支派川については,区域認定が予定されている上,同法4条2項の「特別
ノ規程」として制定された命令には,共同施設省令と「河川法第四条二項ニ依レル
特別ノ規定」(明治35年内務省令第16号。昭和28年政令308号「都道府県
の境界に係る河川の附属物の管理等の特例に関する政令」に引き継がれる。)が存
するが,区域認定を要しない旨の明文の命令等は存在しないことに照らすと,河川
附属物について同条3条の私権消滅の効果を生ずるためには,その区域認定を要す
るとの見解も,文言
解釈上は可能である。
    しかしながら,「…河川ニ関スル規程ニ従フ」と規定されていても,河川
と河川附属物との間で,その性質上,異なる扱いをすべき合理的理由がある場合に
は,河川に関する規定を,河川附属物に適用ないし準用することは相当でない。そ
こで,以下,両者の性質上,異なる扱いをすべき合理的理由があるかについて検討
する。
  (3)一般に,河川には,自然水流と,自然水流の流水の疎通を良くするために
築造された人工水流がある。人工水流は,人為的に築造されるものであるから,そ
の区域も明確であってその境界を認定することはさほど困難ではない。しかしなが
ら,自然水流,特に堤防のない自然流水については,自然的条件により,流水量が
変動し,また,流域そのものが変動することもあり得るため,流水が不断若しくは
反復して流れる敷地部分とそうでない部分との境が判然としない場合が稀ではな
く,河川管理の対象を明確にし,私権の及ぶ範囲を画するためには,人為的にその
境を定める必要がある。それ故,旧法2条1項により,地方行政庁が河川の区域認
定を行い,河川の横の限界を定めることにより,適用河川の範囲が具体的に定めら
れることとされていた
と考えられる。
    ところで,河川認定及び河川区域認定の具体的内容や方式については,旧
法及び旧法施行規程などには特段の定めがなかったところ,実務においては,河川
認定は,例えば,「木曽川筋左岸愛知県丹羽郡犬山町右岸岐阜県稲葉郡鵜沼村以下
海ニ至ルマテ」等と包括的に認定されるにとどまり(乙イ12),また,河川区域
認定の告示は,各地方行政庁によって多少の相違はあるものの,一般的には,河川
敷に認定した土地の字名,地番,地目,反別,河川敷認定反別,所有者名等を表示
するにとどまっていたことが認められる(甲2,乙イ34)。
    そうすると,一般的には,一筆の土地の一部をその面積の表示のみで特定
することは困難であるから,河川区域認定によっても,現地でその境界を確定する
ことが容易でない場合があり得る。
    もっとも,旧法14条は,河川については,地方行政庁において,その管
理に係る河川の台帳を調製すべき旨規定し(1項),かつ,河川台帳の記載に公証
力を認め(3項),また,同条2項に基づく河川台帳令(明治29年勅令331
号)は,その1条で,河川台帳は帳簿及び実測図をもって組成する旨規定し,さら
に,河川台帳ニ関スル細則(明治29年内務省令第13号)は,その4条で,地方
行政庁は河川の両岸市町村の大字ごとに少なくとも一か所,位置及び高低の基標を
設置若しくは選定し,これを保存すべきこと,同5条で,川敷並びに堤敷の境界は
すべて折れ線を以て区画すべきこと(1項),折れ線の交差点は2個の基標を連結
する直線若しくはこれに準拠する直線に基づき測定すべきこと(2項),川敷の区
域は青色実線,堤敷の
それは褐色実線をもって記入すべきこと(3項)などを規定している(もっとも,
同10条は,特別の理由ある場合においては地方行政庁は内務大臣の認可を得て第
2条ないし第8条の規定を一時省略若しくは変更することを得と規定している。乙
イ28)。さらに,大正2年法律第24号より追加された不動産登記法102条の
3は,既登記土地が河川の敷地となった場合においては,当該官庁は遅滞なくその
登記の抹消を登記所に嘱託することを要する旨規定している。
    これらによれば,地方行政庁の作成した河川台帳や,河川区域認定の後の
分筆等の手続のために作成される登記嘱託書添附の図面等を参酌することによっ
て,認定に係る河川区域を特定し得ると考えられるが,これらの資料なくして,河
川区域認定の公示内容だけでは,その特定に困難を伴うことがあるのは否定できな
い。
(4)これに対し,旧法4条2項は,河川の附属物を,「堤防,護岸,水制,河
津,曳船道其ノ他流水ニ因リテ生スル公利ヲ増進シ又ハ公害ヲ除却若ハ軽減スル為
ニ設ケタルモノニシテ地方行政庁に於テ河川ノ附属物ト認定シタルモノ」と規定し
ている。したがって,河川附属物は,まず,流水によって生じる公利を増進し,又
は公害を除却若しくは軽減する機能を有することを要するが,その要件の充足性
は,その認定の時において,客観的にこれらの機能を果たすか否かによって判断さ
れる。もっとも,これらの機能を有するものであっても,自然に存するものは河川
附属物足り得ず,人為的に築造されたものであることを要する。さらに,旧法は,
これらの要件を具備するものであっても,河川附属物として旧法の規定を適用する
ためには,府県知事の認
定を必要とした(認定主義)。
 以上から明らかなように,河川附属物とは,公利を増進し又は公害を除却
若しくは軽減するために設けたるもの,すなわち,人工的に築造された,現に存在
する具体的な施設について,地方行政庁が河川附属物認定したものをいうのであっ
て,河川のように,その時々の自然的条件によって変動することは考え難いから,
その範囲を定める上で,必ずしも河川と同様の方法によらねばならないものではな
く,対象となる河川附属物を特定(認定)すれば,その敷地の範囲は自ずから定ま
るものと解することが十分に可能である。この点,同法4条1項の支派川の場合,
河川と同様の事情が存するのと異なると考えられる。
    ところで,河川附属物認定の具体的内容,方式については,旧法及び旧法
施行規程などには特段の定めがなかったところ,本件処分の告示においては,前記
のとおり,起点所在地として「海部郡立田村福原新田二番割」,終点所在地として
「海部郡立田村立田三番割」,地番(或ハ地點)として「輪状ヲナシ起終點同シ」
と各表示されており,工種として「土堤」,長さとして「九〇五・〇間」,摘要欄
には「本流沿ヒノ法下面ニハ所々石積ヲ施工ス副堤」と各表示されるにとどまって
いる。土堤のような工作物にあっては年月を経るうちに土盛り部分が崩れ,堤防法
面の下端である法尻線を認識することが困難な場合があることは否定し難いから,
上記程度の表示だけで,その敷地部分を完全に特定できるかについて,疑問がない
ではない。しかしな
がら,前記のとおり,自然的条件により,流水量が変動し,また,流域そのものが
変動し得る河川の区域認定についても,その具体的内容,方式を定めた法令等はな
く,実務上,河川敷に認定した土地の字名,地番,地目,反別,河川敷認定反別,
所有者名等を告示するにとどまっていて,その範囲を完全に特定するためには河川
台帳等の資料を必要とすることと対比すれば,人工工作物である河川附属物の場合
においては,土堤であっても,洪水防御の機能を有するものであることから,その
高さ及び幅は概ね一定のものとして構築されるのが通例であること(甲1の1,
9,乙イ16の1ないし6)なども考慮すると,上記程度の認定の内容によって,
現地において,河川附属物の範囲を即地的に特定することは可能であると解される
(その範囲を完全に特
定するために,河川台帳等の資料を必要とする場合のあることは,河川区域認定の
場合と同様である。もっとも,本件各土地付近の河川台帳は証拠として提出されて
おらず,これを完成させるには相当の費用と労力を要したと推測されることから,
上記台帳は作成されなかった疑いもある。しかしながら,河川台帳が作成された場
合とそうでない場合とで河川附属物認定の一般的,制度的効力が異なるものでない
のも自明の理である。)。
  (5) さらに,河川と河川附属物との間で,異なる扱いをすることが合理的であ
ることは,以下の事柄によっても裏付けることができる。
    まず,新法6条1項2号においても,「河川管理施設の敷地である土地の
区域」は,何らの手続を経ることなく法律上当然に河川区域とされているが,その
根拠は,これらの施設は外見上明確であって即地的にその範囲を特定できると考え
られていることにある。また,共同施設省令3条は,「法第3条の規定は,法第4
条第2項の規定により河川の附属物として認定された共同施設については,適用し
ない。」と規定している。同条は,河川管理者と発電等の事業者とが共同して設置
した共有の多目的施設に対して,旧法4条2項の規定により河川附属物の認定を行
うと,同法3条の規定によって,共同事業者の私権が排除されかねないことから,
同法3条の規定を適用除外とし,共同施設の管理の適正化を図ったものである。仮
に,原告らが主張す
るように,旧法2条の区域の認定が行われないと河川附属物の私権は消滅しないの
であれば,共同施設省令3条は,「法第4条第2項の規定により河川の附属物とし
て認定され,かつ,法第2条の規定によりその区域に認定されたもの」とでも規定
されなければ平仄が合わないはずである。裏返せば,共同施設省令は,河川附属物
認定のみによって私権が消滅することを前提としていると解される。
次に,河川については,旧法1条の河川認定が主務大臣により,同法2条
1項の河川区域認定が地方行政庁によりなされるとされていたとおり,それぞれの
行政行為の主体が異なっていたが,河川附属物については,同法4条2項の認定自
体が地方行政庁の行うものとされていたから,同一主体がさらに区域認定を別個独
立の行政行為として行う必要性に乏しいと考えられる。
そもそも,河川(又はその支派川)については流水が流れる方向を縦に,その川幅
を横になぞらえて観念することができるところ,河川附属物については,堤防,護
岸のように河川に沿って築造されるものは同様に観念することが可能であるもの
の,ダム,水門のように縦,横の観念になじまないものも存在するから,河川附属
物認定とその区域認定をどのように区分けして行うのか,明確とはいえない。
(6)この点について,原告らは,特に私人の築造した堤防等の場合,その範囲
が不明確であり,現に福原輪中堤は,堤防法面の各所に堤防小段状の宅地,学校敷
地,神社敷地,墓地,畑地等が不規則に入り込んでいて,堤防の幅員も約5メート
ルから約26メートルまでと各所で大きく変動しており,現地においてもその境界
は判明しない,したがって,本件処分の際の,堤防の起点,終点の字名と堤防延長
のみを示して,その区域境界を示していない河川附属物認定では,その区域が不明
確なままであると主張する。
 確かに,私人が長年にわたって築造維持してきた福原輪中の場合,河川附
属物の認定を受けた本件環状堤の横幅の境界が明確でない箇所を含んでいることは
考えられないではない。しかしながら,旧法4条2項の河川附属物認定によって私
権が消滅する法的効果が認められるかは,法律の一般的な解釈問題であって,個別
の河川附属物認定の効果の及ぶ範囲が特定できない場合に,その土地について私権
消滅の効果が生じないことがあり得るという具体的な適用の問題とは次元が異なる
から,前記判断を覆すものではない(具体的適用の問題としても,本件各土地が本
件環状堤の敷地を構成していることは前記のとおりであるから,本件において,特
定性は問題とならない。)。
さらに,原告らは,河川附属物認定だけで登記が抹消された事例がないこ
とや,前掲の内務省土木局長回答や建設省河川局長通牒などを根拠に,旧法2条に
よる区域認定が行われることによって初めて私権が消滅する旨主張する。
なるほど,少なくとも,本件各土地の登記が本件処分後も抹消されなかったことは
被告らにおいて明らかに争わないところである。しかしながら,実体上の私権の消
滅は登記の抹消によって生ずるものではないから,登記の抹消が行われなかった理
由を本件証拠上確定できないとしても,前記判断の決定的な妨げとなるものとはい
えない。
    また,証拠(甲5)によれば,上記内務省土木局長回答の三は,岡山県知
事照会の記三「川敷ト認定スヘキ区域内ニ於ケル官有地ニアリテハ…又民有地ニア
リテハ…」を受けたもので,専ら河川敷に関する回答であることが明らかであり,
原告ら主張のように,旧法4条による河川附属物及びその敷地に対する認定の取扱
いに関するものとはいえない。
さらに,証拠(甲8)によれば,上記建設省河川局長通牒は,戦後,港湾
法,漁港法などが制定され,河川附属物に関する法律関係が錯綜する中で,河川管
理の主体性を確保するために,河川附属物の迅速な認定手続を進めることを指示し
たものにすぎないと認められ,その他原告らがるる主張する点も,その見解の正当
性を支えるものとはいえない。
(7) 以上を総合すれば,河川附属物については,河川(又はその支派川)と異
なり,その性質上,区域認定の手続を経なくとも,附属物認定だけで私権が消滅す
ると解することについて,合理的理由があると認められる。したがって,本件処分
によって,原告らの私権は消滅したものと認めるのが相当であるから,これを前提
として占用権の収用を内容とした本件裁決は適法というべきである。
 4よって,原告らの本訴各請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,
訴訟費用の負担について行訴法7条,民訴法61条,65条1項本文を適用して,
主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官   加 藤  幸 雄
裁判官舟 橋  恭 子
              
裁判官富 岡  貴 美
(物件目録及び別表「本件各土地の所有等の変遷」は添付省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛