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平成14年(行ケ)第527号 審決取消請求事件
平成15年11月20日判決言渡,平成15年11月4日口頭弁論終結
     判    決
 原   告     株式会社豊田自動織機
 訴訟代理人弁護士  永島孝明,山本光太郎,伊藤晴國,弁理士 中村敬
 被   告     特許庁長官 今井康夫
 指定代理人     亀井孝志,舟木進,高木進,林栄二,大橋信彦
 被告補助参加人   株式会社ゼクセルヴァレオクライメートコントロール
 訴訟代理人弁護士  森田政明,弁理士 森正澄
     主    文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は,参加によって生じたものも含め,原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が訂正2002-39051号事件について平成14年9月2日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 原告は,後記本件発明の特許権者であるが,被告補助参加人の請求に係る無効審
判において,本件特許を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求め
て審決取消訴訟を提起した(東京高裁平成13年(行ケ)第408号事件)。そし
て,原告は,同訴訟の係属中に本件訂正審判の請求をしたところ,審判の請求は成
り立たないとの審決がされたので,その取消しを求めて本訴を提起したものであ
る。
 本判決においては,審決等を引用する場合を含め,①特開昭62-282182
号公報(本訴甲6)を「刊行物1」,これに記載された発明を「引用発明1」と,
②特開昭63-16177号公報(本訴甲7)を「刊行物2」,これに記載された
発明を「引用発明2」と,③実願昭60-17615号(実開昭61-13458
0号)のマイクロフィルム(本訴甲8)を「刊行物3」,これに記載された発明を
「引用発明3」という。
 また,本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に
従って表記を変えた部分がある。
 1 前提となる事実等
 (1) 特許庁における手続の経緯等
(1-1) 本件特許
 特許権者:株式会社豊田自動織機(原告。旧商号・株式会社豊田自動織機製作
所)
 発明の名称:「可変容量圧縮機」
 特許出願日:昭和63年8月11日(特願昭63-200392号)
 設定登録日:平成9年1月29日
 特許番号:第2600317号
 (1-2) 無効審判手続
 無効審判請求日:平成12年11月22日(無効2000-35636号)
 訂正請求日:平成13年3月8日
 審決日:平成13年8月2日
 審決の結論:「訂正を認める。特許第2600317号の請求項1に係る発明に
ついての特許を無効とする。」
 審決謄本送達日:平成13年8月15日(原告に対し)
 取消訴訟提起:平成13年9月12日(東京高裁平成13年(行ケ)第408号)
 (1-3) 本件手続
 訂正審判請求日:平成14年2月19日(訂正2002-39051号)
 審決日:平成14年9月2日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成14年9月12日(原告に対し)
 (2) 特許請求の範囲の記載
 (2-1) 本件訂正審判請求前のもの(請求項は1つのみ。なお,上記(1-2)の訂正
請求を認めた審決は,上記審決取消訴訟係属中のため未だ確定していない。)
 【請求項1】吸入室,吐出室およびクランク室を備え,該吐出室と該クランク室
とを連通する給気通路に設けられた弁制御手段を介して,吸入圧力の変化に応じて
揺動板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するようにした可変容量圧縮機におい
て,前記弁制御手段は,前記給気通路を開閉する開閉弁と,該開閉弁に結合し,前
記吸入圧力の低下を検出して該開閉弁を開くように制御する感圧手段と,該感圧手
段に可変荷重を加えて該感圧手段の圧力制御点を可変とする可変荷重入力手段とか
ら構成されていることを特徴とする可変容量圧縮機。
 (2-2) 本件訂正審判請求に係るもの(請求項は1つのみ。以下「訂正発明」とい
う。下線部分が(2-1)と比べての訂正箇所である。)
 【請求項1】吸入室,吐出室およびクランク室を備え,該吐出室と該クランク室
とを連通する給気通路に設けられた弁制御手段を介して,吸入圧力の変化に応じて
揺動板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するようにした車両空調用の可変容量
圧縮機において,前記弁制御手段は,前記給気通路を開閉する開閉弁と,該開閉弁
に結合し,前記吸入圧力の低下を検出して該開閉弁を開くように制御する感圧手段
と,通常の圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可変荷重を加えて
,該感圧手段の圧力制御点を可変とし吐出室からクランク室に導入される吐出ガス
の導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力手段とから構成されているこ
とを特徴とする車両空調用の可変容量圧縮機。
 (3) 審決の理由の要旨
 (3-1) 審決は,まず,本件訂正につき,新規事項の追加に該当せず,実質上特許
請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと判断した。
 (3-2) 審決は,特開昭62-282182号公報(本訴甲6,刊行物1,引用発
明1),特開昭63-16177号公報(本訴甲7,刊行物2,引用発明2)及び
実願昭60-17615号(実開昭61-134580号)のマイクロフィルム
(本訴甲8,刊行物3,引用発明3)を引用した。
 (3-3) 審決は,訂正発明と引用発明1を対比し,次のとおり,一致点と相違点を
認定した。
 『引用発明1の「吐出圧力供給通路d”,d”’」,「吸入圧力Ps」,「角度
可変ウオブル板8」,「容量可変コンプレッサ」,「ボール弁体25」,「ダイヤ
フラム16」は,それぞれ,訂正発明の「給気通路」,「吸入圧力」,「揺動
板」,「可変容量圧縮機」,「開閉弁」(本件訂正明細書第5頁第14~15行の
「そして同弁杆40の先端部には上記弁座36と対応させて円錐状の開閉弁37が
進退自在に嵌合されている。」との記載からみて,開閉弁とは弁座を含まない弁体
を指称すると解される。),「感圧手段」に相当するから,両者は,吸入室,吐出
室及びクランク室を備え,該吐出室と該クランク室とを連通する給気通路に設けら
れた弁制御手段を介して,吸入圧力の変化に応じて揺動板の傾斜角を変化させて圧
縮容量を制御するようにした車両空調用の可変容量圧縮機において,前記弁制御手
段は,前記給気通路を開閉する開閉弁と,該開閉弁に結合し,前記吸入圧力の低下
を検出して該開閉弁を開くように制御する感圧手段とから構成されている車両空調
用の可変容量圧縮機の点で一致し,
 (イ)訂正発明では,通常の圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可
変荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変とし吐出室からクランク室に導入
される吐出ガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力手段とから構
成されるのに対して,引用発明1では,そのような構成を具備するか否か不明であ
る点で相違する。』
 (3-4) 審決は,相違点(イ)につき,次のとおり判断した。
 (a-1)『訂正拒絶する理由1:
 引用発明2の「吸入室10」,「吐出室11」,「クランク室2」,「揺動板
7」,「自動車内空調用の容量可変型圧縮機」は,それぞれ,訂正発明の「吸入
室」,「吐出室」,「クランク室」,「揺動板」,「車両空調用の可変容量圧縮
機」に相当するので,引用発明2は,「吸入室,吐出室及びクランク室を備え,通
路に設けられた弁制御手段を介して,吸入圧力の変化に応じて揺動板の傾斜角を変
化させて圧縮容量を制御するようにした車両空調用の可変容量圧縮機において,前
記弁制御手段は,前記通路を開閉する開閉弁と,該開閉弁に結合し,前記吸入圧力
の低下を検出して該開閉弁を制御する感圧手段と,通常の圧縮運転において該感圧
手段に外部からの信号による可変荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変と
し開閉弁が開閉する通路を介して導入されるガスの導入時期及び導入量を任意に制
御する可変荷重入力手段とから構成されている車両空調用の可変容量圧縮機」であ
ると解することができる。
 該引用発明2の可変荷重入力手段は,開閉弁が,設置される通路を開閉する弁体
としての機能を有し,吐出室とクランク室とを連通する給気通路を開閉するか,吸
入室とクランク室とを連通する通路を開閉するかに拘わらず,本件訂正発明におけ
る可変荷重入力手段と同じく,通常の圧縮運転において感圧手段に外部からの信号
による可変荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変とし開閉弁が設置される
通路のガスの導入時期及び導入量を任意に制御するという点における作用効果を,
奏しうるものである。この点については,本件訂正明細書にも「[発明が解決しよ
うとする課題]ところが上記の様な従来の可変容量圧縮機においては,開閉弁にお
ける弁の開度がブローズ等の感圧手段の伸縮により調整されるようになっており,
これによりクランク室内の圧力を変化させ,揺動板の傾斜角(ピストンのストロー
ク)を制御している。この場合,感圧手段の圧力制御点は決められた値に設定され
ているので,結果的に吸入圧力は固定の一定値に制御されることになる。したがっ
て加速時等に低容量圧縮運転したいといった要望があっても感圧手段の圧力設定値
を変えることができないので,これに対応することができなかった。
本発明は,クランク室内を制御する弁制御手段を改変することにより,クランク室
内圧力,ひいては圧縮容量を任意に制御可能とすることを解決すべき技術課題とす
る。」(第3頁第2~13行)と記載されており,この記載は,可変荷重入力手段
が,開閉弁が,吐出室とクランク室とを連通する給気通路を開閉するか,吸入室と
クランク室とを連通する通路を開閉するかに拘わらず,圧力制御点を任意に変更す
るという作用効果を,奏しうるものであることを示唆している。ここで,「上記の
様な従来の可変容量圧縮機」とは,「吐出室aとクランク室b間に連通されて吐出
圧力の給気通路c,dが形成されると共に同給気通路c,d間に介在させて開閉弁
eが設けられる。」(本件訂正明細書第2頁第7~9行)ものであり,この点は,
引用発明1の車両空調用の可変容量圧縮機と異ならない。そして,引用発明1の車
両空調用の可変容量圧縮機においても,引用発明2の車両空調用の可変容量圧縮機
においても,いずれもクランク室内の圧力を変化させ,揺動板の傾斜角(ピストン
のストローク)を制御し,圧縮容量を制御している。
 そして,引用発明1と引用発明2とは,同一の技術分野に属するものであるか
ら,両発明を組み合わせることに格別の困難性はない。
 また,両発明を組み合わせることを妨げる特段の事情がないことは,刊行物3に
記載された技術的事項(連通する連通路30に設けられた弁制御手段を介して,揺
動板20の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するようにした車両空調用の可変容
量圧縮機において,吐出室7とクランク室13とを連通する連通路30であって
も,クランク室13と吸入室6とを連通する連通路30であっても,加速時等に,
開閉弁を開き又は閉じ,クランク室の圧力を高くし容量を減らすことができる)を
みても明らかである。
 したがって,引用発明2の,通常の圧縮運転において,感圧手段に外部からの信
号による可変荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変とし開閉弁が開閉する
通路を介して導入されるガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力
手段に係る技術思想を,引用発明1に適用し,本件訂正発明のように,通常の圧縮
運転において該感圧手段に外部からの信号による可変荷重を加えて,該感圧手段の
圧力制御点を可変とし吐出室からクランク室に導入される吐出ガスの導入時期及び
導入量を任意に制御する可変荷重入力手段とから構成されていることとすること
は,当業者が容易になしえたことである。』
 (a-2)『次に,効果の予測性について,検討する。
 刊行物2には,〔発明が解決しようとする問題点〕の項で,「したがって,特段
に低い蒸発温度を必要としたり,逆に負荷低減のために低容量で運転したいなどの
要求があっても感圧手段の圧力設定値を変えることができないので,これに対応す
ることができなかった。」(第2頁下左欄第11~15行)と記載され,〔発明の
効果〕の項で,「以上の説明により明らかなように,本発明によれば,調整弁の開
閉を駆動する感圧手段の圧力設定値を別に付加された外部制御手段により任意に制
御することが可能となり,これによって吸入圧力とクランク室圧力との差を広範囲
に設定し,結果的にピストンのストローク,すなわち圧縮容量を好ましい値に調整
できるから,媒体に低い蒸発温度を維持させたり,低容量の運転により負荷の低減
を可能にするなど,得られる効果は大きい。」(第4頁下右欄第19行~第5頁上
左欄第7行)と記載されており,任意な圧縮容量制御を可能とすることは,引用発
明1及び2から当業者であれば予測できる程度のものであり異質のものではない。
更に,「負荷低減のために低容量で運転したいなどの要求があっ」たときとは加速
時等のことであることをも示唆しているので,特定の実施態様ないし使用態様であ
る,加速時等に開閉弁を開にするという態様における,加速時等に圧縮容量を減少
させることが可能になるといった効果も,引用発明1及び2から当業者であれば予
測できる程度のものであり,異質のものではない。
 したがって,訂正発明は,引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができるもの
ではない。』
 (b-1)『訂正拒絶する理由2:
 訂正後における特許請求の範囲の請求項1には,車両空調用の[クランク室の圧
力が高くなると圧縮容量が減少し,クランク室の圧力が低くなると圧縮容量が増加
する]可変容量圧縮機において,加速時等に圧縮容量を減少させるとの構成(例え
ば,加速時等に給気通路を開閉する開閉弁を開く構成)は記載されていない。[発
明の効果]の項においても,「開閉弁を制御する感圧手段の圧力制御点を変位可能
とすることによって,開閉弁の制御を任意とすることができ,これにより吐出室か
らクランク室に導入される吐出ガスの導入量及び導入時期を任意に制御することが
できる。したがって,本発明の可変容量圧縮機によれば,加速時等に圧縮容量を減
少させるといった任意な圧縮容量制御が可能となる。」(本件訂正明細書第8頁第
28行~第9頁第3行)と記載されているので,吐出ガスの導入量及び導入時期を
任意に制御することはできるが,加速時等に圧縮容量を減少させるといった任意な
圧縮容量制御は可能となるのみであり,その制御には,更に他の構成,例えば加速
時等に開閉弁を開くことが必要であることを示唆している。そして,本件特許公報
には,「加速時等の圧縮容量を任意に減少させたい場合,…開閉弁37を開く」
(本件訂正明細書第6頁第26行~第7頁第5行)と記載されている。そして,以
下は,加速時等に開閉弁を開くとの特定を除去した発明に対して訂正拒絶する理由
でもある。
 引用発明2の「吸入室10」,「吐出室11」,「クランク室2」,「揺動板
7」,「自動車内空調用の容量可変型圧縮機」は,それぞれ,訂正発明の「吸入
室」,「吐出室」,「クランク室」,「揺動板」,「車両空調用の可変容量圧縮
機」に相当するので,引用発明2は,「吸入室,吐出室及びクランク室を備え,該
吸入室と該クランク室とを連通する通路27に設けられた弁制御手段を介して,吸
入圧力の変化に応じて揺動板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するようにした
車両空調用の[クランク室の圧力が高くなると圧縮容量が減少し,クランク室の圧
力が低くなると圧縮容量が増加する]可変容量圧縮機において,前記弁制御手段
は,前記通路27を開閉する(設置される通路を開閉する弁体としての機能を有す
る)開閉弁と,該(設置される通路を開閉する弁体としての機能を有する)開閉弁
に結合し,前記吸入圧力の低下を検出して該(設置される通路を開閉する弁体とし
ての機能を有する)開閉弁を閉じるように制御する(圧力を感知する機能を有す
る)感圧手段と,通常の圧縮運転において該(圧力を感知する機能を有する)感圧
手段に外部からの信号による可変荷重を加えて,該(圧力を感知する機能を有す
る)感圧手段の圧力制御点を可変としクランク室から吸入室に帰還されるブローバ
イガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力手段とから構成されて
いる車両空調用の可変容量圧縮機」であると解することができる。
 引用発明2の可変荷重入力手段は,開閉弁が,設置される通路を開閉する弁体と
しての機能を有し,吐出室とクランク室とを連通する給気通路を開閉するか,吸入
室とクランク室とを連通する通路を開閉するかに拘わらず,本件における可変荷重
入力手段と同じく,通常の圧縮運転において感圧手段に外部からの信号による可変
荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変とし開閉弁が設置される通路のガス
の導入時期及び導入量を任意に制御するという点における作用効果を,奏しうるも
のである。
 そして,刊行物2においては,「低容量の運転により負荷の低減を可能にする」
(第5頁上左欄第6~7行)ことは予定されており,図1ないし5図の構成及び
「かくして,ピストン9による冷媒ガスの圧縮の際,シリンダ8からクランク室2
に漏れるブローバイガスの吸入室10への帰還量の調整が任意となり,クランク室
内圧力の変化による斜板6の変化,すなわちピストン9のストロークの変化による
圧縮容量の変化が」(第4頁上左欄第14~19行)との記載は,技術常識をも加
味すれば,低容量にするには開閉弁を閉じることを示唆している。
 次に,引用発明1と引用発明2とは,同一の技術分野に属するものであるから,
両発明を組み合わせることに格別の困難性はない。
 次に,刊行物3に記載された「吸入室6」,「吐出室7」,「クランク室1
3」,「該吐出室7と該クランク室13とを連通する連通路30」,「揺動板2
0」は,それぞれ,訂正発明の「吸入室」,「吐出室」,「クランク室」,「該吐
出室と該クランク室とを連通する給気通路」,「揺動板」に相当するので,刊行物
3には,吸入室,吐出室及びクランク室を備え,該吐出室と該クランク室とを連通
する給気通路に設けられた弁制御手段を介して,揺動板の傾斜角を変化させて圧縮
容量を制御するようにした車両空調用の可変容量圧縮機において,前記弁制御手段
は,前記連通路30を開閉する開閉弁と,圧縮運転において外部からの信号によっ
て,吐出室からクランク室に導入される吐出ガスの導入時期及び導入量を任意に制
御する可変入力手段とから構成されている車両空調用の可変容量圧縮機,そして,
加速時等に,開閉弁を開き,クランク室の圧力を高くし圧縮容量を減少すること,
及び車室温度が設定温度を上回る状態時に,開閉弁を閉じ,クランク室の圧力を低
くくし圧縮容量を増加すること,吸入室,吐出室及びクランク室を備え,該クラン
ク室と該吸入室とを連通する連通路30に設けられた弁制御手段を介して,揺動板
の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するようにした車両空調用の可変容量圧縮機
において,前記弁制御手段は,前記連通路30を開閉する開閉弁と,圧縮運転にお
いて外部からの信号によって,クランク室から吸入室に導入されるブローバイガス
の導入時期及び導入量を任意に制御する可変入力手段とから構成されている車両空
調用の可変容量圧縮機,そして,加速時等に,開閉弁を閉じ,クランク室の圧力を
高くし圧縮容量を減少すること,及び車室内の冷房負荷が大きい状態時に,開閉弁
を開き,クランク室の圧力を低くし圧縮容量を増加すること,及び,吐出室とクラ
ンク室とを連通する給気路を備え,該給気通路を開閉する開閉弁を備える車両空調
用の可変容量圧縮機においては,可変入力手段が制御信号を検知し,開閉弁が開
き,クランク室圧力が直ちに高くなり,時間的に速やかに容量ダウンを得ることが
できること,が記載されていると解される。
 したがって,刊行物3は,吸入室,吐出室及びクランク室を備え,通路に設けら
れた弁制御手段を介して,揺動板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するように
した車両空調用の可変容量圧縮機において,一つの態様として,該吐出室と該クラ
ンク室とを連通する給気通路に設けられた弁制御手段が,前記給気通路を開閉する
開閉弁と,圧縮運転において外部からの信号によって,吐出室からクランク室に導
入される吐出ガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変入力手段とから構成
されている車両空調用の可変容量圧縮機(以下,「前者」という。)とし,加速時
等に,開閉弁を開き,他の態様として,該クランク室と該吸入室とを連通する連通
路30に設けられた弁制御手段が,前記連通路30を開閉する開閉弁と,圧縮運転
において外部からの信号によって,クランク室から吸入室に導入されるブローバイ
ガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変入力手段とから構成されている車
両空調用の可変容量圧縮機(以下,「後者」という。)とし,加速時等に,開閉弁
を閉じ,共に,クランク室の圧力を高くし圧縮容量を減らすこと,及び,前者にお
いては,車室温度が設定温度を上回る状態時に,開閉弁を閉じ,後者においては,
車室内の冷房負荷が大きい状態時に,開閉弁を開き,共に,クランク室の圧力を低
くし圧縮容量を増加することを示唆している。
 そして,引用発明1と引用発明3とは,同一技術分野であることを示唆し,両発
明を組み合わせることに格別の困難性はない。
 更に,刊行物3には,同一の付加手段である可変入力手段が,吐出室とクランク
室とを連通する給気通路を開閉する開閉弁を備える車両空調用の可変容量圧縮機と
クランク室と吸入室とを連通する通路を開閉する開閉弁を備える車両空調用の可変
容量圧縮機とに,加速時等に応答性良く圧縮容量を減少させるといった任意な圧縮
容量制御を可能にすることに関して,共に(同じ作用をもたらすためには,開閉弁
の開閉を逆にしつつ)適用されることを示しているので,引用発明2のクランク室
と吸入室とを連通する通路を開閉する開閉弁を備える車両空調用の可変容量圧縮機
の可変荷重入力手段を,引用発明1の吐出室とクランク室とを連通する給気通路を
開閉する開閉弁を備える車両空調用の可変容量圧縮機に,加速時等に圧縮容量を減
少させるといった任意な圧縮容量制御を可能にすることに関して,(同じ作用をも
たらすためには,開閉弁の開閉を逆にしつつ)適用することを動機づけるものが示
唆されているということができる。
 してみると,相違点に係る訂正発明の構成は,引用発明1,引用発明2及び刊行
物3に記載された技術的事項に接した当業者にとって容易に想到することができた
ものということができる。』
 (b-2)『次に,効果の予測性について,検討する。
 刊行物2には,〔発明が解決しようとする問題点〕の項で,「したがって,特段
に低い蒸発温度を必要としたり,逆に負荷低減のために低容量で運転したいなどの
要求があっても感圧手段の圧力設定値を変えることができないので,これに対応す
ることが出来なかった。」(第2頁下左欄第11~15行)と記載され,〔発明の
効果〕の項で「以上の説明により明らかなように,本発明によれば,調整弁の開閉
を駆動する感圧手段の圧力設定値を別に付加された外部制御手段により任意に制御
することが可能となり,これによって吸入圧力とクランク室圧力との差を広範囲に
設定し,結果的にピストンのストローク,すなわち圧縮容量を好ましい値に調整で
きるから,媒体に低い蒸発温度を維持させたり,低容量の運転により負荷の低減を
可能にするなど,得られる効果は大きい。」(第4頁下右欄第19行~第5頁上左
欄第7行)と記載されており,刊行物3には,「作用」の項に「電磁弁は車室温
度,圧縮機又はエンジンの回転数,吸気マニホールド負圧,アクセル踏み込み量等
を制御信号として開閉することにより,容量ダウンへの切り換えを速やかに行なう
ことが出来,且つ容量ダウンへの切り換えを時間的及び量的に自由にコントロール
することが出来る。」(第7頁第1~7行)と記載され,「電磁弁31が開き,ク
ランク室圧力が直ちに高くなることから,時間的に速やかに容量ダウンを得る事が
出来る。」(第13頁第20行~第14頁第2行)と記載され,「考案の効果」の
項で,「同電磁弁を例えば車室温度と,圧縮機回転数,エンジン回転数,エンジン
の吸気マニホールド負圧,アクセル踏み込み量等を制御信号として開閉させる様に
した事により,最大容量の圧縮状態からその容量をダウンさせる状態への切り換え
をドライバー及び車の状況に応じて自由に且つ速やかにコントロールする事が出来
るに至った。そしてこの様に最大容量の圧縮状態からその容量をダウンさせる状態
への切り換えを自由にコントロールする事が出来る事により,急冷房性能(クール
ダウン)と加速性能を選択して高める事が出来るに至った。」(第15頁第18行
~第16頁第8行)と記載されており,任意な圧縮容量制御が可能であることは元
より,「加速時等に圧縮容量を減少させること」及び本件特許発明の構成によって
もたらされると審判請求書で主張されている効果又は技術課題,即ち「感圧手段の
圧力設定値だけにより圧縮容量を制御するという内部制御を可能としつつ,加速時
等に圧縮容量を減少させるといった任意な容量制御を可能とする」(平成14年2
月19日付け審判請求書第14頁第6~8行)ことは,引用発明1ないし3から当
業者であれば予測できる程度のものであり,異質のものではない。更に,刊行物3
には,「一方,30は吐出室7とクランク室13間を繋ぐ連通路であって同連通路
30には電磁弁31が介在させて設けられる。」(第10頁第8~10行)及び
「アンプがその制御信号を検知し,電磁弁31が開き,クランク室圧力が直ちに高
くなることから,時間的に速やかに容量ダウンを得る事が出来る。」(第13頁第
19行~第14頁第2行)と記載されており,吐出室とクランク室とを連通する給
気通路を備え,該給気通路を開閉する開閉弁を備える車両空調用の可変容量圧縮機
においては,可変入力手段が制御信号を検知し,開閉弁が開き,クランク室圧力が
直ちに高くなり,時間的に速やかに容量ダウンを得ることができることが,記載さ
れているので(クランク室内の圧力が高くなれば,当然揺動板の傾斜角は小さくな
る),平成14年2月19日付け審判請求書第18頁下から第3~4行に「訂正発
明の圧縮機は運転中に外部からの信号により揺動板の傾斜角を極めて迅速に最小化
できることがわかる。」と記載しているが,迅速に圧縮容量を減少させることも,
引用発明1ないし3に記載された発明から当業者であれば予測できる程度のもので
あり,異質のものではない。
 したがって,訂正明細書の請求項1に係る発明は,引用発明1ないし3に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許
を受けることができるものではない。』
 (c) 『A.なお,訂正請求人は,「請求人は,訂正発明の圧縮機が加速カットを
実現でき,その程度がいかなるものかを以下の性能評価によって立証する。すなわ
ち,給気通路外部制御形態の圧縮機(訂正発明の圧縮機)と,抽気通路外部制御形
態の圧縮機(引用発明2の圧縮機に相当)とを用意し,これらについて性能評価を
行った。」というので,検討する。
 公知技術から予測される範囲を超えた顕著な作用効果をもたらすことが,立証さ
れるべきところ,単に公知技術の一部(引用発明2の技術)との比較のみ,しかも
公知技術の一部(引用発明2の技術)で,他の公知技術(引用発明2の技術)への
適用において基本的に適用されていない公知技術との比較による性能評価のみによ
って,当該立証がなされたとすることはできない。刊行物1記載の車両空調用の可
変容量圧縮機においても,吐出室とクランク室とを連通する給気通路を備え,前記
給気通路を開閉する開閉弁を有し,通常の圧縮運転において吐出室からクランク室
に導入される吐出ガスの導入量を制御しており,吐出室とクランク室とを連通する
給気通路を開閉する開閉弁が開になれば,吐出室内の高圧の吐出ガスが給気通路を
経てクランク室に導入され,クランク室の圧力を上昇させるのであり,吐出室とク
ランク室とを連通する給気通路を備える車両空調用の可変容量圧縮機である利点
は,迅速に圧縮容量を減少させる速応性をも含め当然有する構成のものである。刊
行物2記載の車両空調用の可変容量圧縮機については,技術思想として,それ単独
で把握される,可変荷重入力手段が,刊行物1記載の車両空調用の可変容量圧縮機
の吐出室とクランク室とを連通する給気通路を開閉する開閉弁を制御する感圧手段
に適用されるのであり,クランク室と吸入室とを連通する通路が適用されるのでは
ない。したがって,迅速速応性について,たとえ比較するとしても,吐出室とクラ
ンク室とを連通する給気通路を備え,前記給気通路を開閉する開閉弁を有する車両
空調用の可変容量圧縮機である本件発明と比較するときには,刊行物1に(訂正拒
絶する理由2については更に刊行物3にも)記載される同じく吐出室とクランク室
とを連通する給気通路を備え,前記給気通路を開閉する開閉弁を有する車両空調用
の可変容量圧縮機をも考慮すべきであり,クランク室と吸入室とを連通する通路を
備え,前記通路を開閉する開閉弁を有する車両空調用の可変容量圧縮機とのみ比較
することは,失当である。』(B~Dの記載は省略)
 (3-5) 審決は,以上をふまえ,本件訂正審判請求は,特許法等の一部を改正する
法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によると
される,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定に適合
しないので,訂正を認めることができないと結論づけた。
 2 原告の主張(審決取消事由)の要点
 (1) 取消事由1(訂正発明と引用発明1との相違点の認定の誤り)
審決は,訂正発明と引用発明1との相違点として,「訂正発明では,通常の圧縮
運転において該感圧手段に外部からの信号による可変荷重を加えて,該感圧手段の
圧力制御点を可変とし吐出室からクランク室に導入される吐出ガスの導入時期及び
導入量を任意に制御する可変荷重入力手段とから構成されるのに対して,引用発明
1は,そのような構成を具備するか否か不明である点」と認定した。
 しかし,「引用発明1は,…不明である」ではなく,「引用発明1は,そのよう
な構成を具備しない点」において相違するというべきである。
 (2) 取消事由2(訂正発明と引用発明1との相違点の判断の誤り)
 審決は,前記1(3)(3-4)(a-1)のとおり判断したが,誤っている。
 (2-1) 引用発明2の認定の誤り
(a) 審決は,引用発明2を次のように認定したが,開閉弁の位置,目的及び技術
的意義を無視するもので,誤りである。
「吸入室,吐出室及びクランク室を備え,通路に設けられた弁制御手段を介し
て,吸入圧力の変化に応じて揺動板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するよう
にした車両空調用の可変容量圧縮機において,前記弁制御手段は,前記通路を開閉
する開閉弁と,該開閉弁に結合し,前記吸入圧力の低下を検出して該開閉弁を制御
する感圧手段と,通常の圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可変
荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変とし開閉弁が開閉する通路を介して
導入されるガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力手段とから構
成されている車両空調用の可変容量圧縮機」
(b) まず,「入れ側内部制御」と「抜き側内部制御」によってクランク室圧力の
制御形態が異なる。
 入れ側内部制御とは,訂正発明及び引用発明1の採用する制御形態であり,吐出
室とクランク室とを連通する給気通路,給気通路を開閉する開閉弁,吸入圧力の低
下を検出して開閉弁を開くように制御する感圧手段の構成を有している。入れ側内
部制御では,吸入圧力に基づく感圧手段の伸縮に応答して開閉弁が給気通路の開度
を制御し,その開度に応じて吐出室からクランク室への吐出ガスの導入量を制御す
るものである。そして,入れ側内部制御は,高圧の吐出ガスをクランク室に導入す
ることによりクランク室を昇圧して圧縮容量を最小にすることから,圧縮容量を小
さくすることに関して迅速性を有しているのである。入れ側内部制御は,可変容量
圧縮機において,最も高圧かつ安定して存在する吐出ガスをクランク室に積極的に
導入し,圧力制御弁と吸入圧力との差に対応する開閉弁の開度に応じてその導入量
を制御することにより,クランク室圧力を昇圧する技術思想なのである。
一方,抜き側内部制御とは,引用発明2の採用する制御形態であり,クランク室
と吸入室とを連通する逃し通路(抽気通路),逃し通路を開閉する開閉弁,吸入圧
力の低下を検出して開閉弁を閉じるように制御する感圧手段の構成を有している。
抜き側内部制御では,吸入圧力に基づく感圧手段の伸縮に応答して開閉弁が逃し通
路の開度を制御し,その開度に応じてクランク室から吸入室へのブローバイガスの
流出(帰還)量を制御するものである。そして,抜き側内部制御は,ブローバイガ
スをクランク室から流出させることによりクランク室を減圧して圧縮容量を最大に
することから,圧縮容量を大きくすることに関して迅速性を有しているのである。
抜き側内部制御は,クランク室内に時間をかけて蓄積され,かつ,圧縮機運転中に
発生する制御できないブローバイガスを利用し,開閉弁の開度に応じてクランク室
から吸入室へ流出するブローバイガスの流出量を制御することで,クランク室圧力
を減圧する技術思想なのである。
刊行物2の記載(甲7の3頁右下欄6行~4頁左上欄20行)は,引用発明2が
抜き側内部制御を採用するものであることを明確に開示する。抜き側内部制御であ
るゆえに,調整弁100は,逃し通路(抽気通路)に設けられた開閉弁であり,必
然的に,感圧手段は,吸入圧力の低下を検出して開閉弁を閉じるように制御するの
である。そして,調整弁100の動作を制御する感圧手段(ベローズ101)の圧
力設定値を変えるのが,引用発明2の可変荷重入力手段である。そして,引用発明
2の可変荷重入力手段によって,シリンダ8からクランク室2に漏れるブローバイ
ガスの吸入室10への帰還量を調整することができるのである。
(c) 審決は,引用発明2の可変荷重入力手段が「ガスの導入時期を任意に制御す
る」と判断するが,刊行物2には,可変荷重入力手段が「ガスの導入時期を任意に
制御する」という記載は存在せず,それを「ブローバイガスの帰還時期を任意に制
御する」と読み替えたとしても,ブローバイガスの帰還時期に関する記述は存在し
ない。引用発明2の可変荷重入力手段は,「ブローバイガスの帰還時期を任意に制
御する」という時期的な制御はできない。なぜなら,抜き側内部制御における感圧
手段の圧力制御点を変化させた場合には,クランク室に常時流入するブローバイガ
スの吸入室への帰還量が抑制されるか,又はブローバイガスの吸入室への帰還を停
止させるだけである。感圧手段に可変荷重を加えて圧力制御点を変化させる時期は
任意とすることができるが,それは帰還時期を任意に制御することではない。圧力
制御点が変化して帰還量が抑制される状態では,帰還が継続しているのであり,帰
還を開始するタイミングの制御ではないのである。
 よって,引用発明2の可変荷重入力手段は,「開閉弁が開閉する通路を介して導
入されるガスの導入時期及び導入量を任意に制御する」ものでもなく,また,「ブ
ローバイガスの吸入室への帰還時期を任意に制御する」ものでもない。
 (2-2) 引用発明2の作用効果の認定の誤り
審決は,上記引用発明2の認定を誤ったために,引用発明2の可変荷重入力手段
の作用効果についても,誤った認定をした。すなわち,「訂正発明における可変荷
重入力手段と同じく,…ガスの導入時期及び導入量を任意に制御するという点にお
ける作用効果を奏し得る」とする審決の認定は誤りである。
 (2-3) 引用発明1と引用発明2の技術分野の相違
審決には,引用発明1の入れ側内部制御と引用発明2の抜き側内部制御との相違
を看過し,引用発明2の調整弁を抽象化した認定を行うことによって,引用発明1
と引用発明2との技術分野を同一とした誤りがある。
 引用発明1と引用発明2は,「クランク室内の圧力を変化させ,揺動板の傾斜角
(ピストンのストローク)を制御し,圧縮容量を制御するようにした車両空調用の
可変容量圧縮機」である点においては一致しているが,吸入圧力の変化に応じて揺
動板の傾斜角を変化させる作用機序(メカニズム)において異なっている。この点
において引用発明1と引用発明2はその技術分野を異にする。
 引用発明1は,開閉弁を給気通路に設置し,吐出圧力室内の調整ガス(高圧ガ
ス)を吐出室からクランク室へ導入することによって,クランク室の揺動板の傾斜
角を変化させて圧縮容量を制御するものである。つまり,引用発明1が採用する手
段は,入れ側制御である。一方,引用発明2は,開閉弁を抽気通路に設置し,クラ
ンク室から吸入室へのブローバイガスの流出を止めることによって,クランク室の
揺動板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するものである。つまり,引用発明2
が採用する手段は,抜き側制御である。このような異なった制御方法のために,引
用発明1と引用発明2においては,制御弁(調整弁)の目的及び作用・機能が異な
っているのである。単に可変容量圧縮機という抽象的なレベルでの技術分野が同一
であったとしても,訂正発明の対象であるクランク室圧力の制御方法という具体的
なレベルでの技術分野では,引用発明1の入れ側制御と引用発明2の抜き側制御と
で本質的に異なるのである。これを無視して,引用発明1と引用発明2の制御弁
(調整弁),ひいてはそれを動作させる感圧手段の圧力設定値を可変とする可変荷
重入力手段を同一視することはできない。
 (2-4) 容易想到性についての誤った判断
刊行物3は,実施例として,入れ側外部制御と抜き側外部制御のそれぞれを採用
する可変容量圧縮機を開示する。しかし,引用発明3は,内部制御に必須な感圧手
段とは無縁の制御形態を採用する技術思想である。そして,引用発明3は,クラン
ク室と吐出室とを連通する連通路(給気通路)又はクランク室と吸入室とを連通す
る連通路(逃し通路)に通路開閉を司る電磁弁を設けることを開示しているにすぎ
ず,電磁弁は外部的な制御のために要求される構成であることから,通路開閉のた
めに給気通路又は逃し通路いずれかに単なる開閉弁(調整弁)を設けることだけを
示唆しているにすぎない。引用発明3には,上記両実施例を組み合わせる示唆など
一切なく,むしろ,入れ側制御と抜き側制御とが相容れない関係で,各別に扱うべ
き関係であることを示している。それゆえ,引用発明3を根拠として,入れ側内部
制御を採用する引用発明1と抜き側内部制御を採用する引用発明2とを組み合わせ
る動機付けは成立しない。
仮に,引用発明1に引用発明2の適用を試みたとしても,引用発明2の「通常の
圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可変荷重を加えて,該感圧手
段の圧力制御点を可変としクランク室から吸入室に帰還されるブローバイガスの帰
還量を任意に制御する可変荷重入力手段」からは,当業者といえども,訂正発明の
「通常の圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可変荷重を加えて,
該感圧手段の圧力制御点を可変とし吐出室からクランク室に導入される吐出ガスの
導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力手段」という構成には容易に想
到し得ない。
 (3) 取消事由3(訂正発明の効果の予測性の判断についての誤り及び訂正発明の
顕著な作用効果の看過)
 (3-1) 訂正発明の効果の予測性の判断についての誤り
 審決は,前記1(3)(3-4)(a-2)のとおり判断したが,誤りである。
審決は,「負荷低減のために低容量で運転したいなどの要求があっ」たときとは
加速時等のことであることをも示唆していると判断しているが,引用発明2が問題
とした従来の容量可変型圧縮機は,抜き側制御の圧縮機であり,クランク室と吸入
室との連通路に設けられた弁機構の感圧手段(ベローズ)の圧力設定点が決められ
た値に固定されているので,結果的に吸入圧力は固定の一定値に制御される。この
ため,引用発明2は,「特段に低い蒸発温度を必要としたり、逆に負荷低減のために
低容量で運転したいなどの要求があっても…これに対応することができな[い]」
ことを技術課題としている。確かに,引用発明2は,「特段に低い蒸発温度を必要
としたり,逆に負荷低減のために低容量で運転したいなどの要求」に対応して可変
荷重入力手段を採用するものであるため,「通常の圧縮運転において感圧手段に可
変荷重を加えて,感圧手段の圧力制御点を可変」することはできる。しかし,引用
発明2の可変荷重入力手段は,加速時等に感圧手段の圧力制御点を可変して開閉弁
を閉じることができるとしても,これはブローバイガスがクランク室に蓄積されて
クランク室圧力の昇圧を待つことを意味するだけであって,加速時等の外部信号に
よって直ちに圧縮容量を減少することを意味しないのである。審決は,「負荷低減
のために低容量で運転したいなどの要求」が,加速時等のことであると決めつける
が,間違いであって,外気温度がさほど高くないときには,クールダウン性を必要
としないため,負荷の大きい大容量運転ではなく容量を抑えた制御運転を行うこと
を意味するのである。よって,引用発明2においても,訂正発明の「加速時等に低
容量圧縮運転したい」という技術課題を何ら想定していない。
 「加速時等に圧縮容量を減少させるといった任意な圧縮容量制御が可能となる」
という作用効果(「加速カット」という。)が可能となるためには,加速信号の入
力から直ちに圧縮容量を減少してエンジン負荷を低減し,車両の加速を支援する必
要がある。訂正発明と引用発明2との間には,加速信号の入力から圧縮容量が低減
されるまでの応答時間に約20倍程度の差が存在する。引用発明2の応答には,あ
まりにも時間がかかり過ぎているのであり,「加速カット」と呼ぶには値しない。
仮に「加速カット」と呼ぶにしても,訂正発明の「加速カット」は,引用発明2の
それを格段に改善していることは明らかであり,訂正発明は,格別顕著な効果を奏
する。
引用発明1の入れ側内部制御は,感圧手段の圧力制御点を可変する構成を備えて
おらず,感圧手段の圧力制御点を可変する技術思想が存在しない。このような「通
常の圧縮運転において感圧手段に可変荷重を加えて,感圧手段の圧力制御点を可
変」する技術思想の存在しない引用発明1から,「任意な圧縮容量制御を可能とす
ること」や「加速時等に圧縮容量を減少させること」は,予測できない。
したがって,引用発明2の技術課題及び作用効果を参酌しても,引用発明1及び
2から訂正発明における「加速カット」を予測することなど到底できない。
 (3-2) 訂正発明の顕著な作用効果の看過(「加速カット」性能評価に対する判断
の誤り)
 審決は,前記1(3)(3-4)(c)のとおり判断したが,誤りである。
 (a) 原告は,本件特許の出願当時に存在し,内部制御を採用しながら外部的に制
御可能な可変容量圧縮機を対象として,加速カットの性能評価を行った。訂正発明
と引用発明1との比較実験を行わなかった理由は,引用発明1が外部制御を採用し
ていないため加速カットができないことは,性能評価実験をするまでもなく明白で
あるからである。訂正発明と入れ側外部制御を採用する引用発明3との比較実験を
行わなかった理由は,引用発明3が内部制御ではないため比較実験をする必要がな
いからである。訂正発明が,加速信号によって給気通路を開放し,吐出ガスをクラ
ンク室に一気に導入して加速カットを行う以上,それと同じことができる入れ側外
部制御の引用発明3が加速カット可能であることは自明なのであり,それをここで
問題としているわけではない。入れ側外部制御の引用発明3に加速カット効果が存
在するからといって,その効果は,感圧手段の圧力制御点の可変による効果ではな
い。比較実験を行う目的は,吸入圧力を検出する感圧手段の圧力制御点の可変を前
提とする技術であって,入れ側内部制御における圧力制御点の可変と抜き側内部制
御における圧力制御点の可変とを比較し,どちらの加速カットが優れるのか,ある
いは同等なのかを評価することである。内部制御の存在しない引用発明3がここで
比較対象とされる必要は全くない。
審決は,「加速カット」を評価する上で,単に引用発明2との比較だけでは不十
分であり,引用発明1及び引用発明3の入れ側制御を考慮すべきであると判断す
る。しかし,引用発明1の入れ側内部制御に引用発明2の可変荷重入力手段を適用
した可変容量圧縮機は,性能比較の対象とならない。そのような可変容量圧縮機は
本件特許の出願当時に存在せず,訂正発明が最初であるからである。また,引用発
明1及び引用発明3も本件特許の出願当時の技術水準として考慮すべきであるとす
るならば,原告はそのとおり検討,判断している。つまり,引用発明1は加速カッ
ト機能とは無縁である事実,及び引用発明3は加速カットできるとしてもそれが圧
力制御点を可変して達成されるものではないという事実,これら2つの事実は実験
するまでもなく自明である。もっとも,引用発明2の加速カット応答性は,実験的
に求めなければ判断できず,効果の予測性を検討する上で必要となる情報なので実
験をし,その結果によれば,引用発明2は,圧力制御点を可変しても,訂正発明の
加速カット応答性との間には約20倍程度の相違が存在するという事実が明らかと
なった。このようにして,本件特許の出願時点における引用発明2という公知技
術,引用発明1及び3という技術水準とから訂正発明の効果の非予測性が証明され
る。
(b) 入れ側内部制御を採用し,外部制御の構成を備えていない引用発明1は,感
圧手段が吸入圧力の変化を検出して感圧手段の圧力制御点との差に応じた開閉弁の
開度を得るにすぎず,圧縮容量を減少させる速応性が根底にあるわけではなく,吸
入圧力の変化に対する追従性が存在するだけである。抜き側内部制御であっても,
感圧手段の圧力制御点と吸入圧力との差に応じて抽気通路の開度が決まるため,や
はり吸入圧力の変化に対する追従性が存在するのであって,入れ側内部制御と何ら
変わりはないのである。したがって,引用発明1の入れ側内部制御の利点が圧縮容
量を減少させる速応性をも含め当然有する構成であるとした審決の判断は,誤りに
帰する。
 (c) 本件出願前には,入れ側と抜き側との両者を一体の弁で行ういわゆる三方弁
タイプの制御形式の圧縮機が市場に供給されていた。しかし,よりシンプルな圧縮
機を提供するため,抜き側内部制御が広く開発されていた。この時代には,入れ側
内部制御はほとんど注目されず,被告補助参加人を含む多くのメーカーは,抜き側
内部制御を多く開発していた。原告も当初は抜き側内部制御を開発していた。この
ような抜き側内部制御に外部からの設定圧可変を実現させるため,可変荷重入力手
段を付加したものが引用発明2である。しかし,車両用に用いられる圧縮機におい
ては,車両の加速性などの高性能化の実現が次第に要求されるようになった。被告
補助参加人を含む多くのメーカーは,抜き側内部制御の開発の流れの中でその実現
を図ろうとし,原告は,入れ側内部制御の流れの中でその実現を図ろうとした。こ
のとき,原告自身が引用発明3を出願した。ところが,引用発明3は,純粋に外部
制御を行うものであった。そのため,制御が複雑で,コスト面において実用化が困
難であった。そこで,ベローズ等の感圧手段による内部制御も維持しながら,車両
の高性能化に寄与できるようにと考え,原告は,訂正発明のように入れ側内部制御
に外部制御を取り入れた入れ側設定圧可変の検討を行ったところ,車両の加速支援
に極めて好適であった。このように,高圧の吐出ガスをクランク室に導入すること
によりクランク室を昇圧して圧縮容量を最小にする入れ側内部制御を維持しながら
入れ側設定圧可変とすることによって,「加速時等に直ちに圧縮容量を減少する」
という効果を可能にしたのである。これが訂正発明の顕著な効果なのである。
 訂正発明は,設定圧可変であるため,設定圧を外部的に変更できるという点では
同じく設定圧可変の引用発明2と大差はない。しかし,訂正発明の外部的な設定圧
の変更は,加速カットを実現できるという効果を含みもっているのである。
 なお,訂正発明は,入れ側内部制御であるが,これに外部制御を取り入れて入れ
側設定圧可変としたもので,入れ側内部・外部制御といい得るもの,引用発明1
は,純粋な抜き側内部制御で外部制御のないもの,引用発明2は,抜き側内部制御
であるが,これに外部制御を取り入れて抜き側設定圧可変としたもので,抜き側内
部・外部制御といい得るもの,引用発明3は,純粋な外部制御であって,入れ側外
部制御と抜き側外部制御(前記のとおり,両者は各別に扱うべき関係である。)を
開示しているものといい得る。
 (4) 取消事由4(「訂正拒絶する理由2」の判断の誤り)
 審決は,前記1(3)(3-4)(b-1)及び(b-2)のとおり判断したが,これまで主張した
のと同様の理由により誤りである。すなわち,引用発明2の認定及びその引用発明
1への適用を誤り,引用発明3を誤って参酌したために,訂正発明を容易に想到で
きたとの誤った判断をしたものである。
 3 被告の主張の要点
 (1) 取消事由1(訂正発明と引用発明1との相違点の認定の誤り)に対して
 「刊行物1に記載された発明」の認定(原告も認める。)において,「そのよう
な構成」についての有無を認定していないから,その限りにおいては,論理上,
「そのような構成」を具備しないともいい切れず,具備するともいい切れず,「そ
のような構成」を具備するか否か不明といえる。いずれにしても,この点は,審決
の結論を左右するものではない。
 (2) 取消事由2(訂正発明と引用発明1との相違点の判断の誤り)に対して
 (2-1) 審決では,開閉弁の位置,目的及び技術的意義を無視するものではなく,
正確に認定されている。
 刊行物2には,「ブローバイガスの吸入室10への帰還量の調整が任意となり」
との記載のほかに,「クランク室2内のガスはクランク室2と吸入室10とを連通
する通路27を通り,その通路27の途中に設けられた調整弁100の開度に応じ
て吸入室10に流出するようになっており,この流出量を制御する」とも記載され
ており,この場合,「への帰還」も「に流出」も,ガスは弁が設置される通路に沿
って導かれ,弁の下流側に入るので,「導入」され,さらに通路を経てその先にあ
る室へ「導入」されることなので,審決では「導入」とした。原告の主張に従って
も,室に「帰還」しているのであれば,室に「導入」しているのであり,誤りとは
いえない。審決では,「開閉弁が設置される通路のガスの導入時期及び導入量」を
問題にしているのであり,誤りであるわけではない。もちろん,「導入」に「クラ
ンク室に導入」の意味があるとしているのではない。
 感圧手段に可変荷重を加えて圧力制御点を変化させる時期を任意とすることがで
きるのであれば,圧力制御点が変化すれば当然弁開度は変化するのであり(弁開度
が変化しなければ圧力制御点が変化したとはいえない。),ガスの吸入室への導入
量は変化するのであり,すなわち制御しているのである。どれだけ導入させるか導
入させないかも制御するかどうかに関わるのである。帰還させるか帰還させないか
という二つの場合のいずれかのみによるのではない。「帰還が継続してい」れば,
ガスの導入を制御していないとは,いえないのである。このことは吐出圧の導入量
についても同じであり,吐出ガスの導入が継続しているとしても,その量を増減さ
せれば,制御しているのであり,その点,何ら変わらないのである。
 刊行物2には,ガスの導入時期を任意に制御することが記載されているのであ
る。
 (2-2) 上記の点に照らせば,審決の引用発明2の作用効果の認定に誤りはない。
 (2-3) 技術分野については,引用発明1も引用発明2も,車両空調用の可変容量
圧縮機であり,同一である。しかも,引用発明1も引用発明2も,吸入室,吐出室
及びクランク室を備え,通路に設けられた弁制御手段を介して,揺動板の傾斜角を
変化させて圧縮容量を制御するようにした車両空調用の可変容量圧縮機である。
 審決は,前掲の説示から明らかなように,具体的なレベルでの理由付け及び動機
付けを検討している。
 引用発明1と引用発明2は,技術分野を異にするのではなく,原告の表現によれ
ば,制御形態を異にするのである。
 引用発明1と引用発明2の技術分野に関する審決の認定判断に誤りはない。
 (2-4) 審決は,入れ側外部制御と抜き側外部制御とを組み合わせることが示唆さ
れているとしているのではない。刊行物3には,同一の付加手段である可変入力手
段が,吐出室とクランク室とを連通する給気通路を開閉する開閉弁を備える車両空
調用の可変容量圧縮機とクランク室と吸入室とを連通する通路を開閉する開閉弁を
備える車両空調用の可変容量圧縮とに,加速時等に応答性良く圧縮容量を減少させ
るといった任意な圧縮容量制御を可能にすることに関して,共に同じ作用をもたら
すためには,開閉弁の開閉を逆にしつつ適用されることを示しているので,引用発
明2のクランク室と吸入室とを連通する通路を開閉する開閉弁を備える車両空調用
の可変容量圧縮機の可変荷重入力手段を,引用発明1の吐出室とクランク室とを連
通する給気通路を開閉する開閉弁を備える車両空調用の可変容量圧縮機に,加速時
等に圧縮容量を減少させるといった任意な圧縮容量を可能にすることに関して,同
じ作用をもたらすためには,開閉弁の開閉を逆にしつつ適用されることを動機付け
るものが示唆されているということができるとしているのである。
 そして,引用発明1も引用発明2も,通常の圧縮運転をするものである。
 (3) 取消事由3(訂正発明の効果の予測性の判断についての誤り及び訂正発明の
顕著な作用効果の看過)に対して
 確かに,引用発明2は,それ自体では迅速性をそれほど有しないかもしれない
が,引用発明2の加速時等の外部信号による可変荷重入力手段を引用発明1に適用
した場合に,加速時等の外部信号によって,直ちに圧縮容量を減少することができ
る。
 審決では,「負荷低減のために低容量で運転したいなどの要求があっ」たときと
は加速時等のことであることをも示唆しているとしているのであり,決めつけてい
るわけではない。加速時は,負荷低減のために低容量で運転したい要求がある場合
であるから,「示唆している」とした。「負荷低減のために低容量で運転したいな
どの要求があ」った場合が,「外気温度がさほど高くないとき」に限定される根拠
はない。引用発明2でも,「加速時等に低容量圧縮運転」できるのである。
 刊行物2に記載され,引用発明1に適用した技術思想は,引用発明2の可変荷重
入力手段なのであり,原告のいう「抜き側内部制御」ではない。
 引用発明1は,原告のいう入れ側内部制御であり,原告も主張するとおり,圧縮
容量を小さくすることに関して迅速性を有するので,直ちに圧縮容量を減少するも
のである。そして,引用発明2には,通常の圧縮運転において感圧手段に可変荷重
を加えて,感圧手段の圧力制御点を可変する技術思想が記載されている。この技術
思想を引用発明1に適用することは,当業者にとって容易である。そして,引用発
明1に引用発明2の加速時等の外部信号による可変荷重入力手段を適用すれば,加
速時等の外部信号によって,直ちに圧縮容量を減少してエンジン負荷を低減し,車
両の加速を支援し,「加速カット」できるのである。すなわち,任意な圧縮容量制
御を可能とすることになり,当然に,加速時等に圧縮容量を減少させることも予測
できるのである。
 なお,「直ちに」又は速応性を示すその他の用語は,本件訂正明細書(甲3)の
【発明が解決しようとする課題】及び【発明の効果】の項には記載されていない。
従来例として記載されているものは,原告の主張している入れ側制御であり,既に
原告の主張するとおり,入れ側内部制御は,圧縮容量を小さくすることに関して迅
速性を有しているのである。そして,「加速時に低容量圧縮運転する」構成は,訂
正発明としての特許請求の範囲の請求項1には記載されていない。
 原告主張の性能評価によっては,訂正発明が格別顕著な効果を有するものである
とはいえない。
 (4) 取消事由4(「訂正拒絶する理由2」の判断の誤り)に対して
 原告の主張は,妥当なものではなく,審決の判断に誤りはない。
 4 被告補助参加人の主張の骨子
 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は,理由がない。
第3 当裁判所の判断
 1 取消事由1(訂正発明と引用発明1との相違点の認定の誤り)について
 審決は,訂正発明と引用発明1との相違点の認定において,引用発明1は,「そ
のような構成を具備するか否か不明である」とした。
 審決は,「不明である」としたが,引用発明1が当該構成を有するとしたわけで
はなく,後に当該構成についての容易想到性に関する判断をしているのであるか
ら,相違点の認定を誤ったことにはならない。
 念のため,引用発明1の構成についてみておくと,刊行物1の2頁左下欄10~
17行の記載によれば,引用発明1は,調整ねじ19を回すことにより,調整スプ
リング22に対する荷重が可変し,その可変した荷重はダイヤフラム16の背面に
もたらされるものと認められる。一方,刊行物1には,通常の圧縮運転時の任意の
時期に荷重を可変にするとまでは記載されていない。このようなことからすると,
当該構成を「具備しない」とはせず,「具備するか否か不明である」とした審決の
認定は,首肯し得る。
 いずれにしても,原告の主張は採用の限りではない。
 2 取消事由2(訂正発明と引用発明1との相違点の判断の誤り)について
 (1) 原告は,本件を検討する前提として,入れ側内部制御と,抜き側内部制御に
ついて主張する。
 証拠(甲2ないし4,6ないし8,10)及び弁論の全趣旨によれば,車両空調
用等に使用される可変容量圧縮機におけるクランク室内の圧力を制御する手段の中
には,原告のいう入れ側制御と抜き側制御が存在すること,入れ側制御は,吐出室
とクランク室とを連通する給気通路とその給気通路を開閉する開閉弁とを設けるも
のであって,圧縮機の作動当初の冷房負荷が高い状態では開閉弁は閉じているか
ら,その後吸入圧力の低下を検出して開閉弁を開くように制御するのに対し,抜き
側制御は,クランク室と吸入室とを連通する逃し通路とその逃し通路を開閉する開
閉弁とを設けるものであって,圧縮機の作動当初の冷房負荷が高い状態では開閉弁
は開いているから,その後吸入圧力の低下を検出して開閉弁を閉じるように制御す
るという違いがあること,そして,入れ側制御においては,開閉弁を開いて吐出ガ
スの流入によりクランク室の圧力を急激に上昇させることが可能であるから,冷房
負荷を急激に減少させることができるが,逆に,開閉弁を開いた状態から閉じる状
態にしたときには,クランク室のガスがブローバイガスの逃し通路を介して吸入室
に吐出することで生ずるクランク室の圧力低下の速度が遅いので,冷房負荷を急激
に上昇させることはできないこと,一方,抜き側制御においては,開閉弁が閉じら
れクランク室の圧力が高い状態のときに弁を開いて,クランク室の圧力を急激に減
少させ冷房負荷を急激に上昇させることが可能であるが,逆に,開閉弁を開いた状
態から閉じる状態にしたときには,ブローバイガスがシリンダー室とピストン間に
形成される隙間からクランク室内に流入することで生ずるクランク室の圧力上昇の
速度は遅いので,冷房負荷を急激に減少させることはできないことが認められる
(なお,原告の主張によれば,原告は,上記のような開閉弁を感圧手段による圧力
の検出によって制御するものを内部制御とし,外部からの信号によって開閉弁を制
御するものを外部制御とし,特に,上記内部制御の構成を維持しながら外部からの
信号により感圧手段の設定圧を可変として制御するものを内部・外部制御と称して
いることが認められる。これらの制御手段は,上記抜き側制御及び入れ側制御との
組み合わせによって,より細かく分類されるものである。)。
 (2) 上記証拠によれば,訂正発明及び引用発明1は入れ側制御を,引用発明2は
抜き側制御を採用しているものと認められる。
 そして,引用発明3について検討するに,刊行物3(甲8)には,次のような記
載がある。
 『実用新案登録請求の範囲
 ドライブシャフトを中心として複数個のボアを設け,各ボアには圧縮室を存して
ピストンを進退自在に嵌挿させ,ボアの圧縮室側の一端は吸入室と吐出室に対して
ピストンの進退を介して選択的に連通させる事が可能な如く設けるとともに各ボア
の他端はクランク室と連通させて設け,同クランク室には上記ドライブシャフトに
対して環状に形成する回転斜板をその傾斜角を可変出来る様にドライブシャフトを
囲撓する如く取付けると共に同回転斜板には揺動板をその回転が規制された状態に
て揺動する事が可能な如く取付け,同揺動板と前記各ピストン間をコンロッドにて
連結させてなる揺動斜板型圧縮機において,クランク室と,吐出室若しくは吸入室
間を連通路にて繋ぎ,その通路中に通路開閉を司る電磁弁を設け,同電磁弁を,例
えば車室温度と,圧縮機の回転数,エンジン回転数,吸気マニホールド負圧,アク
セル踏み込み量等を制御信号として検知し,同制御信号に基づき電磁弁の開閉を行
なうアンプと接続した事を特徴とする揺動斜板型圧縮機における斜板の揺動角制御
機構。』
 『考案が解決しようとする問題点
 しかして上記提案にあっては例えば車が長時間に亘って炎天下に置かれていた場
合等車室内が異常に高温度の状態にある場合において,車室内の温度が未だ設定温
度迄下がらないうちに吸入圧力が設定庄力(大気圧プラスばね37の付勢圧)を下
回ってしまう事に起因して最大容量の圧縮作用状態より容量ダウンの圧縮作用状態
に切り換えられて仕舞い,車室温度を短時間の間に設定温度迄下げる事が出来ない
点,即ち急冷房作用(クールダウン)が得られない点に第1の問題点を有する。
 又,車を加速させるべくエンジンの回転数を上げた場合において吸入圧力が低下
するのに伴いクランク室内圧力が上昇して圧縮容量をダウンさせる作用が得られる
のであるが,この最大容量にて圧縮する状態(100%運転状態)より圧縮容量を
ダウンさせる状態(小容量運転状態)への切り換えが,吸入圧力が設定圧力に下が
るのを待って行なわれるため,加速開始時機と一致せず,回転数がある程度上がっ
た後に徐々に行なわれる点,即ち速やかな加速作用が得られない点に第2の問題点
を有する。
 本考案は上記の様な問題点を解決するためにその改善を試みたものであって,最
大容量にて圧縮する作用状態(100%運転状態)より圧縮容量をダウンさせる作
用状態(小容量運転状態)への切り換えを時間的及び量的に自由にコントロールす
る事が出来る様にする事によって,運転者のニーズに呼応して急冷房性能及び加速
性能を高める事が出来る様にする点にその解決すべき問題点を有する。』
 『30は吐出室7とクランク室13間を繋ぐ連通路であって同連通路30には電
磁弁31が介在させて設けられる。そして同電磁弁31にはアンプ35が接続さ
れ,同アンプ35は,例えば吸入圧力,吸入温度,車室温度,圧縮機の回転数,エ
ンジン回転数,吸気マニホールド負圧,アクセル踏み込み量等を制御信号として検
知し,同制御信号を介して電磁弁の開閉を行なう様に設けられる。』(10頁8~
16行)
 『第2図は第2の実施例を表わす図面であって,連通路30は吸入室6とクラン
ク室13間を繋ぐ様に設けられる。そして同連通路30には第1の実施例と同様電
磁弁31を介在させて設けるに,同電磁弁31は車室内の冷房負荷が大きい状態に
おいては電磁弁31が開かれた状態にあり,又冷房負荷が減少するのに伴い,電磁
弁31を閉じる状態が得られる様に設けられる。そして同電磁弁31にはアンプ3
5が接続され,同アンプ35において,例えば吸入圧力,吸入温度,車室温度,圧
縮機の回転数,エンジン回転数,吸気マニホールド負圧,アクセル踏み込み量等を
制御信号として検知し,同制御信号の内何れか一つ或いは二つ以上の制御信号を介
して電磁弁の開閉を行なう様に設けられる。』(14頁19行~15頁13行)
 『考案の効果
 本考案は以上の様に構成されるものであって,上記の様にクランク室と,吐出室
若しくは吸入室間を繋ぐ連通路に介在させて電磁弁を設け,同電磁弁を,例えば車
室温度と,圧縮機の回転数,エンジン回転数,エンジンの吸気マニホールド負圧,
アクセル踏み込み量等を制御信号として開閉させる様にした事により,最大容量の
圧縮状態からその容量をダウンさせる状態への切り換えをドライバー及び車の状況
に応じて自由に且つ速やかにコントロールする事が出来るに至った。そしてこの様
に最大容量の圧縮状態からその容量をダウンさせる状態への切り換えを自由にコン
トロールする事が出来る事により,急冷房性能(クールダウン)と加速性能を選択
して高める事が出来るに至った。』
 以上の記載によれば,刊行物3には,本件出願前,吸入圧力の変化に応じて揺動
板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御するようにした可変容量圧縮機において,
車室温度,エンジン回転数,アクセル踏み込み量等を制御信号として圧縮容量を制
御する際に,開閉弁を吐出室からクランク室への給気通路に設置し,吐出室内のガ
スを吐出室からクランク室へ導入することによってクランク室の揺動板の傾斜角を
変化させて圧縮容量を制御する入れ側制御と,開閉弁をクランク室から吸入室への
抽気通路に設置し,クランク室から吸入室へのブローバイガスの流出を止めること
によってクランク室の揺動板の傾斜角を変化させて圧縮容量を制御する抜き側制御
とが開示されており,かつ,両者は,任意に選択可能な手段と認識されていたこと
が認められる。
 なお,原告は,刊行物3は入れ側外部制御と抜き側外部制御の実施例を開示する
にすぎず,引用発明3は内部制御に必須な感圧手段とは無縁の制御形態を採用する
技術思想であると主張する。確かに,刊行物3は,給気通路又は逃し通路に外部的
な制御を行う電磁弁を設けることを開示しているが,従来技術として,吸入圧力の
低下を検出して開閉弁を開くように制御する感圧手段を有する弁制御手段が記載さ
れており,また,電磁弁は,容量ダウンへの切り換えを時間的及び量的に自由にコ
ントロールすることができるものであるから,刊行物3によってともに開示された
入れ側制御と抜き側制御という両制御方式の関係をどのように解するかという観点
からは,原告のいう外部制御と内部制御の区別に特段の意義があるとはいえない。
そして,刊行物3には,入れ側制御と抜き側制御とが同等のものとして記載されて
いるから,両制御手段が任意に選択可能な手段として開示されていることは明らか
である。
 (3) 引用発明2について検討するに,引用発明2は,抜き側制御によるものであ
る。しかし,刊行物2は,「発明が解決しようとする問題点」として,「特段に低
い蒸発温度を必要としたり,逆に負荷低減のために低容量で運転したいなどの要求
があっても感圧手段の圧力設定値を変えることができないので,これに対応するこ
とができなかった。」(2頁左下欄11~15行)とのことを挙げ,「発明の効
果」として,「以上の説明により明らかなように,本発明によれば,調整弁の開閉
を駆動する感圧手段の圧力設定値を別に付加された外部制御手段により任意に制御
することが可能となり,これによって吸入圧力とクランク室圧力との差を広範囲に
設定し,結果的にピストンのストローク,すなわち圧縮容量を好ましい値に調整で
きるから,媒体に低い蒸発温度を維持させたり,低容量の運転により負荷の低減を
可能にするなど,得られる効果は大きい。」(4頁右下欄18行~5頁左上欄7
行)との記載がされている。
 これらによれば,引用発明2は,調整弁の開閉を駆動する感圧手段の圧力設定値
を,可変荷重入力手段により外部から任意の時期に任意の量だけ変化させて,圧縮
容量を制御する容量可変型圧縮機であるものと認められる(引用発明2が抜き側内
部・外部制御であるとの点は,原告の自ら主張するところであると解される。)。
なお,前記引用例3の記載にも照らせば,上記の「媒体に低い蒸発温度を維持させ
たり」とは,車内が異常に高温度の状態にある場合に急冷房性能(クールダウン)
を選択することであり,「低容量の運転により負荷の低減を可能にする」とは,加
速性能を選択するものと解するのが相当である。
 (4) 以上によれば,引用発明1と引用発明2とは,入れ側制御と抜き側制御の違
いがあり,吸入圧力の変化に応じて揺動板の傾斜角を変化させる作用機序(メカニ
ズム)において異なるといえる。しかし,引用発明3が示すように,入れ側制御と
抜き側制御とは,車両空調用の圧縮機として任意に選択可能なものと認識されてい
たものである上,引用発明2に記載されている,感圧手段の圧力設定値を変えるこ
とにより,特段に低い蒸発温度を必要としたり,逆に負荷低減のために低容量で運
転したいなどの要求に応じるという課題は,引用発明1においても共通する必要な
課題であるから,引用発明1と引用発明2とは,異なる技術分野に属するものでは
なく,同一の技術分野に属するといって差し支えなく,また,引用発明2の可変荷
重入力手段を引用発明1に適用することに格別の困難はなく,これを妨げる特段の
事由はないというべきである。
 (5) 原告は,引用発明2の可変荷重入力手段が「ガスの導入時期を任意に制御す
る」との審決の認定が誤りであると主張する。
 しかしながら,引用発明2は,調整弁の開閉を駆動する感圧手段の圧力設定値
を,可変荷重入力手段により外部から任意の時期に任意の量だけ変化させて,圧縮
容量を制御する容量可変型圧縮機であることは前認定のとおりであり,開閉弁の開
閉時期及び開度は任意である。確かに,抜き側制御を採る引用発明2において,
「ガスの導入時期を任意に制御する」との審決の説示,特に「導入」との表現が適
切であるかは疑問の余地があるものの,審決の一連の説示に照らせば,引用発明1
に適用されるのは,引用発明2に開示された,外部から感圧手段の圧力設定値を変
える可変荷重入力手段であると解されるから,上記の点は,審決の結論に影響を及
ぼすものではない。
 (6) 原告は,仮に引用発明1に引用発明2の適用を試みたとしても,引用発明2
の「通常の圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可変荷重を加え
て,該感圧手段の圧力制御点を可変としクランク室から吸入室に帰還されるブロー
バイガスの帰還量を任意に制御する可変荷重入力手段」からは,当業者といえど
も,訂正発明の「通常の圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可変
荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変とし吐出室からクランク室に導入さ
れる吐出ガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力手段」という加
速時等に迅速に圧縮容量を減少する構成には容易に想到し得ないと主張する。
 検討するに,審決は,引用発明2の「通常の圧縮運転において,感圧手段に外部
からの信号による可変荷重を加えて,該感圧手段の圧力制御点を可変とし開閉弁が
開閉する通路を介して導入されるガスの導入時期及び導入量を任意に制御する可変
荷重入力手段に係る技術思想」を引用発明1に適用して,訂正発明の構成にするこ
とが容易であると説示している。審決の説示の一部には前記の疑問の余地があるも
のの,前判示のように,引用発明1に適用されるのは,引用発明2に開示された,
外部から感圧手段の圧力設定値を変え,開閉弁の開閉時期及び開度を任意に制御す
る可変荷重入力手段であると解される。そうすると,この可変荷重入力手段を引用
発明1(原告のいう入れ側内部制御)の弁制御手段に適用すれば,入れ側制御にお
ける「通常の圧縮運転において該感圧手段に外部からの信号による可変荷重を加え
て,該感圧手段の圧力制御点を可変とし吐出室からクランク室に導入される吐出ガ
スの導入時期及び導入量を任意に制御する可変荷重入力手段」となるのである(原
告のいう入れ側内部・外部制御となる。)。したがって,訂正発明の構成に想到す
るのが容易であるとした審決の判断は,是認し得るのであって,原告の主張は,採
用することができない。
 なお,加速時等に迅速に圧縮容量を減少することは,請求項に記載されていない
から,訂正発明の構成ではないが,引用発明2の可変荷重入力手段を引用発明1に
適用した可変容量圧縮機は,加速時等に迅速に圧縮容量を減少することができるも
のである。
 3 取消事由3(訂正発明の効果の予測性の判断についての誤り及び訂正発明の
顕著な作用効果の看過)について
 (1) 原告は,刊行物2に記載された「負荷低減のために低容量で運転したいなど
の要求があっ」たときとは加速時等のことを示唆しているとの審決の判断は誤りで
あると主張する。
 しかしながら,刊行物2の上記記載は,前判示のとおり,刊行物3の記載にも照
らせば,加速性能を選択するものと解するのが相当であるから,原告の主張は,採
用することができない。
 また,原告は,引用発明2の可変荷重入力手段が,加速時等に感圧手段の圧力制
御点を可変して開閉弁を閉じることができるとしても,加速時等の外部信号によっ
て直ちに圧縮容量を減少することはできず,訂正発明と引用発明2との間には,加
速信号の入力から圧縮容量が低減されるまでの応答時間に約20倍程度の差が存在
し,訂正発明は格別顕著な効果を奏するのであって,引用発明1及び引用発明2か
ら訂正発明における「加速カット」を予測することはできないと主張する。
 しかしながら,訂正明細書(甲3添付)には,「加速カット」の用語はないばか
りか,加速時等に圧縮容量を減少させることは例示されているが,直ちに減少させ
るとは記載されていないのであって,結局,訂正発明が「加速カット」の作用効果
を奏することは,訂正明細書に記載された事項ではないというほかない。また,と
もに原告のいう外部制御の構成をも有する訂正発明と引用発明2とを比べた場合,
原告のいう「加速カット」の作用効果は,入れ側制御に起因するものであって(前
記入れ側制御に関する認定を参照),引用発明2は抜き側制御であるから,確か
に,両者に差異が生じる。しかし,審決のように,引用発明2の可変荷重入力手段
を引用発明1の弁制御手段に適用すれば,前記のように入れ側制御の可変荷重入力
手段となるのであって,訂正発明と同様の「加速カット」の作用効果を奏すること
は明らかである。よって,訂正発明の効果は,容易に予測可能というべきである。
 原告の主張は,採用することができない。
 (2) 原告は,訂正発明と引用発明2とだけを性能比較すれば十分であり,実験結
果によれば,引用発明2は圧力制御点を可変しても訂正発明の加速カット応答性と
の間には約20倍程度の相違が存在するので,出願時点における訂正発明の効果の
非予測性を証明するものであると主張する。
 しかしながら,原告の主張は,引用発明1の入れ側内部制御に引用発明2の可変
荷重入力手段を適用した可変容量圧縮機は,本件特許の出願当時に存在しないの
で,性能比較をする必要がないとの趣旨をいうものであるが,失当である。引用例
を組み合せることに容易に想到し得るのであれば,引用例を組み合わせたものを基
に効果の予測性が検討されるべきであって,出願時に現存するもののみと比較する
だけでは足りないというべきである。そして,前判示のとおり,引用発明2の可変
荷重入力手段を引用発明1の弁制御手段に適用すれば,入れ側制御の可変荷重入力
手段となり,訂正発明と同様の「加速カット」の作用効果を奏すると認められるの
であるから,効果の予測性はあるというべきである。
 また,原告は,引用発明1は迅速に圧縮容量を減少させる速応性を有するとの審
決の判断は誤りであるとも主張する。
 しかしながら,前判示のとおり,入れ側制御は,抜き側制御と比較して,圧縮容
量を減少させるときの迅速化が可能である。そして,引用発明2の可変荷重入力手
段を引用発明1の弁制御手段に適用すれば,入れ側制御の可変荷重入力手段とな
り,訂正発明と同様の「加速カット」の作用効果を奏すると認められることも前判
示のとおりであるから,審決の判断に誤りはない。
 原告主張の取消事由3は理由がない。
 4 取消事由4(「訂正拒絶する理由2」の判断の誤り)について
 既に判示したところに照らし,また,原告の主張の趣旨に照らして審決を精査し
ても,原告主張の取消事由4も理由がない。
 5 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  東京高等裁判所第18民事部
      裁判長裁判官   塚  原  朋  一
         裁判官   塩  月  秀  平
         裁判官   田  中  昌  利

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