弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「(一)原判決を取消す。被控訴人の訴を却下する(第一次的申
立)。(二)仮りに右第一次的申立が認容されないときは、原判決中控訴人敗訴の
部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する(第二次的申立)。
 (三) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、左に付加するほかは、原判決事実摘示
と同一であるからこれを引用する。
 一、 控訴人の主張
 (一) 昭和四五年一〇月二六日横浜家庭裁判所において被控訴人に対し失踪宣
告がなされ右宣告は同四六年一月二五日確定したので、被控訴人は当事者能力を欠
くにいたつたから、本件訴は不適法なものとして却下さるべきものである。
 (二) 前記本案前の申立がいれられないとしても、被控訴人の本訴請求は次の
理由により全部棄却さるべきである。すなわち、前記失踪宣告により訴外Aが死亡
した昭和四〇年一二月五日当時被控訴人が生存していなかつたことが確定されたか
ら、右Aの有していた損害賠償債権を同人から被控訴人が相続によつて承継するこ
とはあり得ず、被控訴人が右Aの死亡を原因とする慰籍料請求権を取得するいわれ
もないこととなるからである。
 二、 被控訴人の主張
 控訴人主張の失踪宣告の存在およびその確定の点は認めるがその余は争う。
 三、 証拠関係(省略)
         理    由
 <要旨>一、はじめに、本件訴の却下を求める控訴人の本案前の申立について判断
する。
 いずれも成立に争いのない乙第五ないし第七号証によれば、「横浜家庭裁判所に
おいて昭和四五年一〇月二六日被控訴人(不在者)に対し失踪を宣告する旨の審判
がなされ(同庁昭和四四年(家)第七四五号事件)右審判は昭和四六年一月二五日
確定し、右失踪宣告の効果として被控訴人は昭和三八年六月二三日死亡したものと
看做されること。」が認められ、本件訴状が原裁判所に提出されたのが、右の被控
訴人が死亡したものと看做される日よりのちである昭和四三年一二月三日であるこ
とは本件記録上明らかである。
 そこでこのような場合における訴訟の帰すうについて考えるに、本件の場合は、
家庭裁判所によつて当時不在者であつた被控訴人の財産管理人に選任されたAが被
控訴人の法定代理人としての権限に基づいて本訴を提起したのであるから、右の訴
提起により被控訴人を原告とする訴訟が適法有効に成立したのであり、その後にお
いて失踪宣告がなされた結果たまたま被控訴人が死亡したと看做される時期が訴提
起前の時点まで遡及したもので、当初から当事者能力を欠いていたのではない。そ
して、訴訟成立後当該訴訟の当事者に対して失踪宣告がなされた場合、失踪者の地
位につき相続等の実体上の承継が起り得べきものであるときは失踪者が死亡したと
看做される時期において右承継があつたこととなるが、訴訟上の地位の承継手続は
失踪宣告の審判が確定してはじめてこれを執り得るものであるから、失踪者が死亡
したと看做される時期が訴提起ののちであれば承継の手続がとれるのに、右時期が
訴提起以前に遡及する場合には失踪者の訴訟上の地位を承継する途がないとするの
は権衡を失するものといわねばならない。
 よつて、本件の場合は訴訟係属中に被控訴人が死亡した場合と同様に取扱うのを
相当とするから、被控訴人に対し失踪宣告がなされたからといつて、控訴人主張の
ように本訴を訴訟の当事者につき当事者能力を欠く不適法な訴として当然に却下し
なければならないものではない。(ちなみに、本件訴訟は、口頭弁論終結時におい
て、従来本訴の追行にあたつていた被控訴人の法定代理人において委任した訴訟代
理人が存在するから訴訟手続の中断は生じない。)
 なお、控訴人は本件訴の却下を求める理由として訴提起当時被控訴人が失踪宣告
の要件を備えた不在者であつたことをも主張する。しかし、右のような不在者とい
えども失踪宣告があつてはじめて死亡したものと看做されるのであつてみれば、失
踪宣告の要件を具備しあるいは失踪宣告の申立が家庭裁判所に係属中であるからと
いつてただちに訴訟要件の欠缺をきたすものではないから控訴人の右主張は理由が
ない。
 そうすると、本訴の却下を求める控訴人の本案前の申立は却下を免れない。
 二、 つぎに本案について判断する。
 被控訴人の主張の本訴の訴訟物は、昭和四〇年一二月五日訴外Bにより加えられ
た不法行為(交通事故)によつて同日死亡した訴外亡Aが右不法行為を原因として
取得し同訴外人の母である被控訴人において前同日の相続により承継取得した控訴
人に対する損害賠償請求権および右不法行為に基づき被控訴人が取得した同人固有
の控訴人に対する損害賠償(慰籍料)請求権である。
 そうすると、前認定のとおり被控訴人は昭和三八年六月二三日死亡したものと看
做されることからして、被控訴人においてその死亡ののちにおいて訴外Aにつき生
じた相続により同訴外人の地位を承継する余地はなく、前記不法行為がなされた時
点において生存していなかつた被控訴人において右不法行為を原因とする損害賠償
請求権を直接取得すべきいわれもない。
 したがつて、本件不法行為の成否や損害の有無等について判断するまでもなく、
被控訴人においてその主張のような損害賠償請求権を有していないことが明らかで
あり、同人の本訴請求は失当として全部棄却すべきである。
 三、 よつて、原判決中、右と結論を異にし被控訴人の請求を認容した部分は不
当であつて、本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人敗訴の部分を取消して被
控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第
八九条を適用して、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 浅賀 栄 裁判官 川添万夫 裁判官 秋元隆男)

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