弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人諫山博の上告趣意第一点について。
 論旨は、要するに、本件に関し議会又は議長の告訴告発がなかつたことは顕著な
事実であるから、本件各公訴事実については、すべて公訴棄却の判決がなされるべ
きであつたのにかかわらず、これに反する判断をした原判決は、地方議会について
も当然認められるべき憲法上の大原則のひとつである議会自治・議会自律の原則に
関する法理の解釈適用を誤つたものであるというにある。
 しかし、憲法上、国権の最高機関たる国会について、広範な議院自律権を認め、
ことに、議員の発言について、憲法五一条に、いわゆる免責特権を与えているから
といつて、その理をそのまま直ちに地方議会にあてはめ、地方議会についても、国
会と同様の議会自治・議会自律の原則を認め、さらに、地方議会議員の発言につい
ても、いわゆる免責特権を憲法上保障しているものと解すべき根拠はない。もつと
も、地方議会についても、法律の定めるところにより、その機能を適切に果たさせ
るため、ある程度に自治・自律の権能が認められてはいるが、その自治・自律の権
能が認められている範囲内の行為についても、原則的に、裁判所の司法審査権の介
入が許されるべきことは、当裁判所の判例(昭和三〇年(オ)第四三〇号同三五年
三月九日大法廷判決、民集一四巻三号三五五頁参照)の示すとおりである。そして、
原判決の指摘するような言論の域を超えた実力の行使については、所論のような議
員の免責特権その他特別の取扱いを認めるべき合理的な理由は見出しがたいといわ
なければならない。
 また、現行法上、告訴告発を訴訟条件とする場合には、法律にその根拠のあるこ
とが必要であつて、その根拠に基づくことなく、地方議会の議事進行に関連して議
員が犯した刑事犯罪について、単に地方議会の自治・自律の原則を根拠として、議
会又は議長の告訴告発を訴訟条件と解すべきであるとか、司法権の介入を許さない
という主張は、肯認することができない
 論旨はすべて採用できない。
 同第二点について。
 所論は、公訴事実第一(議長に対する公務執行妨害の事実)について、事実誤認、
単なる法令違反を主張し、原審の証拠の取捨判断を非難するものであつて、いずれ
も適法な上告理由に当らない。
 なお、所論は、被告人らの本件所為は刑法九五条一項にいう暴行に当らないとい
う。しかし、右条項にいう暴行は、公務員に対する不法な有形力の行使で、職務執
行の妨害となるべき程度のものであることを要するが、現実に妨害の結果の発生を
必要とせず(昭和二四年(れ)第二八九八号同二五年一〇月二〇日第二小法廷判決、
刑集四巻一〇号二一一五頁)、また、暴行は、公務員に向けられることを要するが、
直接に公務員の身体に加えられることを必要としない(昭和二五年(れ)第一七一
八号同二六年三月二〇日第三小法廷判決、刑集五巻五号七九四頁、昭和三一年(あ)
第四六二五号同三四年八月二七日第二小法廷決定、刑集一三巻一〇号二七六九頁)
とする当裁判所の判例に照らし、被告人らの本件所為が右暴行に当るものとした原
判決の判断は正当である。
 また、所論は、議長の職務執行の違法性を主張し、違法な職務執行に対しては公
務執行妨害罪は成立しないという。しかし、議長のとつた本件措置が、本来、議長
の抽象的権限の範囲内に属することは明らかであり、かりに当該措置が会議規則に
違反するものである等法令上の適法要件を完全には満していなかつたとしても、原
審の認定した具体的な事実関係のもとにおいてとられた当該措置は、刑法上には少
なくとも、本件暴行等による妨害から保護されるに値いする職務行為にほかならず、
刑法九五条一項にいう公務員の職務の執行に当るとみるのが相当であつて、これを
妨害する本件所為については、公務執行妨害罪の成立を妨げないと解すべきてある。
 さらに所論は、本件各所為は正当な業務行為又は実質的違法性を欠く行為である
といい、正当防衛、緊急避難および期待可能性の不存在を主張するが、これらの主
張を斥けた原審の判断は正当である。
 同第三点について。
 所論は、公訴事実第二(議長に対する監禁、職務強要の事実)についての事実誤
認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。(所論は、結局、
原審の証拠の取捨判断に対する非難に帰するものであつて、原判決に所論のような
事実誤認ないし法令の解釈適用の誤り等の違法は認められない。)
 同第四点について。
 所論は、公訴事実第三(議員に対する監禁の事実)についての事実誤認、法令違
反のほか、判例違反を主張する。しかし、事実誤認、法令違反の論旨は、原審の証
拠の取捨判断に対する非難に帰着するものであり、判例違反の論旨は、本件の被害
者らは、脱出しようとすれば、容易にこれをなし得た状况にあつたという原判示に
そわない事実を前提とするものであつて、不適法であり、以上、いずれも上告適法
の理由に当らない。
 弁護人河上丈太郎(名義)、同美村貞夫の上告趣意について。
 論旨は、要するに、議会における議事および議事手続の当不当、有効無効の判断
のごときは、司法裁判所の審査の対象とすべきでないのにかかわらず、これに法的
判断を加えた原判決は、憲法違反であり、かつ、判例違反であるというにある。
 しかし、本件について司法審査権が及ばないことを主張する点は、本件のような
議員の所為に関する刑事犯罪の成否について、所論のように、司法裁判所の審査権
が及び得ないと解すべき理田はなく、ことに、地方議会における議事やその手続に
ついて、所論の主張の許されないことは、弁護人諫山博の上告趣意第一点について
説示したところから自ら明らかというべきである。また、判例違反の論旨は、論旨
引用の判例はいずれも本件に不適切であるから、採用することができない。
 論旨は、すべて排斥を免れない。
 弁護人河上丈太郎(名義)外一五名の上告趣意第一点について。
 論旨は、要するに、原審が議会又は議長の告訴告発に基づくことなく司法権の介
入を認め、有罪の判決をしたのは、憲法上の議会自治・議会自律の原則に関する法
理の解釈を誤つた違憲違法があるという。しかし、所論は、結局、弁護人諫山博の
上告趣意第一点について説示したところと同一の理由により排斥を免れない。
 同第二点について。
 論旨は違憲をいうが、その実質は、結局、多数決によつても討論の省略は許され
ないという単なる法令違反の主張であつて、上告適法の理由に当らない。
 同第三点について。
 論旨は、採証の誤りに基づく事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、上告適
法の理由に当らない。
 同第四点および第五点について。
 論旨は、一審判決第一の事実に関する事実誤認および単なる法令違反の主張であ
つて、上告適法の理由に当らない。(なお、所論中、議長の公務執行が違法である
との主張、被告人らの所為は正当業務行為であるとの主張、被告人らの行為につい
ての正当防衛、超法規的違法性阻却の主張等がすべてとるを得ないことは、弁護人
諫山博の上告趣意第二点について説示したところによつて明らかである。)
 同第六点および第七点について。
 論旨は、いずれも事実誤認の主張であつて、上告適法の理由に当らない。
 弁護人松井康浩の上告趣意第一点について。
 論旨は、原判決は憲法に違反して、裁判権の及ばない事項について裁判をした違
法があるという。しかし、弁護人河上丈太郎(名義)、同美村貞夫の上告趣意につ
いて説示したとおり、県議会における本件犯罪行為について司法裁判所の審査権が
及ばないと解すべき理由はなく、所論は、排斥を免れない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決の違憲(七六条三項違反)をいうが、その実質は、被告人らの所
為は正当な公務の遂行であり、本件は、公務と公務の衝突にすぎないとして、刑法
九五条一項の解釈適用の誤りをいう単なる法令違反の主張であつて、上告適法の理
由に当らない。
 弁護人森長英三郎の上告趣意第一点について。
 論旨は、要するに、地方議会についても憲法五一条と同旨の原則が存在すること
を前提として、地方議会の自律権・自主権を主張し、被告人らに刑事責任が認めら
れるべきでないこと、本件所為は地方議会の自律権にまかされるべき放任行為であ
ること、および本件の被害者である議長や議員は違法に議事を進行したことによつ
て本件所為の程度のことは当然受忍すべき義務を負うべきことを主張する。しかし、
弁護人諫山博の上告趣意第一点について説示したように、憲法五一条の趣旨をその
まま直ちに地方議会にあてはめ、国会と同様に、地方議会の自治・自律の原則を認
めるべき根拠はなく、地方議会について、司法権の介入が排除されるものでないこ
とは、前示のように、すでに当裁判所の判例とするところである。結局、所論は、
排斥を免れない。
 同第二点について。
 所論は、単なる法令違反の主張であつて、上告適法の理由に当らない。(なお、
所論は、議事運営の違法を主張し、公務執行妨害罪の成立を否定すべしとするが、
所論を採用し得ないことは、弁護人諫山博の上告趣意第二点について説示したとお
りである。)
 同第三点について。
 所論は、原判決が公訴事実第二につき不法監禁を認めたのは、経験則違背であり、
また、公訴事実第三につき不法監禁を認めたのも経験則違反であるというが、いず
れも事実誤認、単なる法令違反の主張に帰するものであつて、上告適法の理由に当
らない。
 弁護人柳沼八郎の上告趣意第一点について。
 論旨は、公訴事実第二の脅迫の意義について、判例違反をいう。しかし、所論は、
原判示にそわない事実を前提とする判例違反の主張であつて、その前提を欠き、上
告適法の理由に当らない。
 同第二点について。
 論旨は、公訴事実第二につき、職務強要罪における脅迫についての法令の解釈適
用を誤つた違法があるという。しかし、所論は、単なる法令違反の主張であつて、
上告適法の理由に当らない。(なお、原判決は、被告人らの相手方に申し向けた言
葉だけでなく、不法に監禁したという事実をも含めて、「A議長をしてその身体の
危険を感得畏怖させる等A議長に脅迫を加え」た旨を判示しているのであつて、理
由不備、審理不尽等、所論の違法は認められない。)
 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決す
る。
  昭和四二年五月二四日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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