弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高橋禎一の上告趣意(後記)について。
 同第一点について。
 所論は、事実誤認の主張に外ならないから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 (なお所論は詳細にわたり原判決の事実誤認を主張し、被告人の無罪たることを
強調するのであるが、記録により原判決の判示説明と挙示の証拠とを照合し調査し
てみると、原審の認定に到達することが不当であるとはいえない)
 同第二点について。
 所論は、法令違反の主張であつつて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお論
旨一に述べる証拠だけについていえば、所論のように本件詐欺の事実を認定する証
拠としては関係のないものといえるとしても、原判決挙示の他の証拠で認めること
ができる以上、右の一事によつて原判決を破棄すべき事由と認めることはできない。
また論旨二は原審が自ら事実の取り調をなさず単に書面審理によつて第一審の無罪
の判決を覆し有罪の認定をしたことを非難するが、刑訴四〇〇条但書の解釈として、
控訴裁判所は訴訟記録及び第一審で取り調べた証拠のみによつて直ちに判決するこ
とができると認める場合でも、常に新たな証拠を取り調べた上でなければいわゆる
破棄自判ができないものではないとするのが当裁判所の判例の示すところである(
後記弁護人伊能幹一同小林直人上告趣意第三点の項に掲げた判例参照)。従つて原
審が書面のみによつて事案を審理し自ら判決をしたからといつて違法であるとはい
えない。
 弁護人伊能幹一同小林直人の上告趣意(後記)について。
 同第一点及び第二点について。
 所論第一点は憲法三一条違反を主張するが、帰するところ事実誤認の主張に過ぎ
ないから、刑訴四〇五条の上告理由と認められない(論旨指摘のように、原判決の
事実認定において、被告人が「虚偽領収書一通の交付を受け」た点につき、事実と
していかなる関係に立つかの具体的の説明がないため、所論のような非難を生ずる
ことは否めないが、それだからといつて直ちに論旨主張のような結論となるものと
は認められない)。 次に所論第二点は原判決の審理不尽理由不備を主張するので
あつて法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条り上告理由に当らない。また原判決を
破棄しなければ著しく正義に反する事由も認められない。
 同第三点について。
 所論は、原判決は証拠調を経ていない証拠を罪証に供した違法があるとして、最
高裁判所の判例に違反すると主張するのであるが、所論引用の判例はいずれも旧刑
訴法に関するものであつて、新刑訴四〇〇条但書又は同三九四条の関係における本
件に適切でない。従つて所論判例違反の主張は理由がない。そして所論は刑訴三九
四条四〇四条の関係において、控訴審が破棄自判する場合刑訴三九四条にいわゆる
「第一審において証拠とすることができた証拠」のうちには少くとも第一審におい
て取り調べた証人の証言を記載した公判調書は含まれないから、控訴審は直接独自
の証人調をしないでこれを認定の資料として採用することはできないという趣旨の
主張をするが、かかる第一審の公判調書も第一審において証拠とすることができた
限り、もとより控訴審においてもそのまま証拠とすることができるのであつて、こ
れを反対に解すべき刑訴法の規定は認められない。論旨は刑訴三九四条は当該証拠
が控訴審においても証拠能力を有することを宣明したに止まり、証拠調の手続を免
除したものでないと主張するが、それは独自の見解であつて採用することができな
い。のみならず高橋弁護人上告趣意第二点について述べたように、控訴審が刑訴四
〇〇条但書によつて破棄自判する場合、新たに事実の取調ないし証拠調をしないで
第一審において取り調べた証拠のみによつてこれを行つても違法でないとするのは
当裁判所の判例とするところである(論旨第四点引用当裁判所昭和二五年四月二〇
日第一小法廷判決、同年一二月二四日第三小法廷判決、昭和二六年一月一九日第二
小法廷判決参照)。論旨はこの点においても理由がない。
 同第四点について。
 所論は原審が直接事実の取り調をしないで破棄自判したのは職権濫用であるとい
う理由をもつて、憲法一三条違反を主張するのである。しかし刑訴四〇〇条但書の
趣旨は第三点について説明したとおりであるから、原審の手続に違法はなく、所論
違憲の主張は前提を欠くことに帰し適法な上告理由と認められない。
 同第五点について。
 所論は事実誤認の主張であつて刑訴四〇五条の上告理由と認められない。
 よつて刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
 以上は裁判官小林俊三の少数意見を除く裁判官全員一致の意見である。
 裁判官小林俊三の少数意見及びこれに対する裁判官井上登の意見は次のとおりで
ある。
 裁判官小林俊三の少数意見。
 弁護人高橋禎一上告趣意第二点の二、弁護人伊能幹一同小林直人上告趣意第三点
第四点について。
 本件は原判決を破棄しこれを広島高等裁判所に差戻すべきものと考える。
 結論をいえば、本件のように第一審の無罪の判決に対し検察官より控訴があつた
場合、控訴審が有罪と認めるときは、原則として破棄差戻の判決をなすべきであり、
また破棄自判によつて有罪の判決を言渡すためには、直接自から事実の取調を行つ
た後でなければこれをなすことを許されないと考える。 (控訴審において第一審
の執行猶予を実刑に改め、又は他の刑を死刑に変更するような場合も、これに準じ
て考えられるが、本件はこの場合に当らないから、その理由を加えない。)
 (一)、本件において原審は、第一審が無罪とした詐欺の部分を破棄し被告人を
懲役八月に処したのであるが、その手続はすべていわゆる書面審理のみをもつて終
始し、第一審が結局無罪の認定に達したすべての証拠を、反対に有罪の証拠とする
に当り、単に書面又はその記載のみの判断によつたのであつて、かかる手続は原審
においてはじめて有罪の認定をする審判として違法たるを免れないと信ずる。原判
決の挙示する証拠は、書証として領収書謄本と租税払戻請求書謄本、その他は被告
人の第一審公判調書における供述記載の一部、及びA以下五名の証人の公判調書の
供述記載であるが、原審はこれらすべての証拠について、改めて自から被告人(多
くの場合弁護人を含む、以下同じ)の意見弁解を聴いた形跡なく、従つて右被告人
の第一審の供述調書の記載についても被告人にいかなる弁解があるかを述べる機会
を与えず、また五名の証人についても、控訴審が第一審の供述調書のみの判断によ
り生じた有罪の疑いについて、改めて被告人の意見弁解を聴くことすらなく、直接
これを取り調べた第一審と反対の心証を形成し、すべて書面上の理解により直ちに
有罪の証拠とする確定的な価値判断を与えたのである。かかる手続を是認すること
は単に刑訴法上の文理に根拠を置く消極的な理由と、控訴審が事後審であるという
ことにいわれなく執着するものであつて、刑事訴訟における有罪判決とその審判と
の本質的な関係についてなんら考慮を払わないものであると考える。
 (二)、一般にいつて、刑事の審判方式が現在の形をとるに至るまでに、時代と
国によつて多少の差はあろうけれども、はじめからその中心となつて貫かれている
部分は、裁判官が被告人を直接口頭で取り調べその弁解を聴き、最後に有罪無罪を
定めることであるといつていいであろう。そしてこの中心たる線に副つて生じた諸
原則、すなわち公開主義、直接口頭審理主義又は証拠裁判主義等は、人権思想の向
上に伴つて確立するに至つたのであるから、これらの原則は主として被告人に即し
て考察しなければならないのである。ところで現在のわが刑訴法は当事者主義を大
幅に拡張した結果、被告人の防禦権が著しく拡張され、また他方にもつぱら客観的
な証拠によつて事実を認定しようとする主義をさらに深くとり入れるに至つたから、
以前にもましてこれらの原則は尊重されなければならないのであり、特に直接口頭
審理主義と証拠裁判主義は、被告人がその防禦権を行使する最少限度の手掛りとし
て純粋に貫かれなければならないのである。しかるにこれらの原則は何を目的とし
て行われるかといえば、いうまでもなく唯一に被告人の有罪か無罪を定めるためで
ある(わが刑訴では有罪の判決は常に処断刑を伴つて言い渡されるが理において変
りはない)。この最終目的をほかにして、これらの原則それ自体に独立の目的があ
るわけではない。従つて刑事審判の生命ともいうべき有罪か無罪かを定めること自
体に関するかぎり、これらの原則は最後まで貫いて行われなければならないという
理由が当然出て来るのである。ところが第一審の無罪判決に対し検察官より控訴が
提起され、その控訴審が、破棄自判によつて有罪判決をする場合は、とりもなおさ
ず控訴審が有罪か無罪かを定める審判を行うことにほかならないのであるが、それ
にもかかわらず控訴審なるが故に、被告人の防禦権の基本的な保障である前記原則
か行われないとか、或はその例外であるとしなければならないような有力格段の理
由は全く認めることはできない。
 (三)、この関係において先ず考えなければならないのは、かかる場合は、控訴
審が結局公訴事実そのものを自から認定することに帰するのであつて、いいかえれ
ば控訴審ではじめて罪となるべき事実すなわち犯罪構成要件を具備する事実を証拠
によつて認定するということである。従つて厳格な証明を必要とするのであるが、
仮りに第一審で取り調べた証拠が手続上適法であり、証拠能力において欠けるとこ
ろがないとしても、その証明力に対する価値判断は、第二審の裁判官の全く自由に
定め得るところであり、また人間として異なる以上、その判断が第一審と異なるこ
とのあるのは当然であつて、審級の意義もここにあるのである。してみれば本件の
ように証拠の証明力について、第一審で一たん無に帰した証拠か、控訴審で逆に有
罪の証明力を認められることとなる関係においては、被告人は控訴審ではじめて公
訴事実すなわち罪となるべき事実を認定されるのであるから、控訴審として改めて
これらの証拠につき少くとも被告人の意見弁解を聴き本来の防禦方法を行う機会を
与えなければ、刑訴のもつとも重要な原則が被告人に行われない審判があることを
認めることとなり、その不当なるこというをまたないのである。
 (四)、これを別な面から本件について考えてみると、原判決の挙示する証拠は、
第一審の裁判官にとつて有罪の証明力を生じなかつたのであるから、これらの証拠
は控訴が提起されたときは、単に第一審において適法に証拠調が行われたという手
続上の価値が成立しているだけで、控訴審の裁判官にとつては、その証明力は全く
白紙の状態にあつたわけである。従つて控訴審の裁判官がこれらの証拠を新たに有
罪の証拠と判断する過程は、証明力に関するかぎり、控訴審の裁判官が独自の新し
い審判を行う道に入るのであつて、いいかえれば単に第一審の判決の当否を調査す
るだけで終ることのできない段階に入るのであり、いわばこの部分からは独自の創
造的形成を行うといつてもいいのである。もつとも控訴審の事後審としての調査の
範囲は、第一審判決の当否を判断するに必要な限度に止まることを原則とし、その
手続は狭義の調査をもつて足りる場合も多いのであるが、ひとたび調査の結果新た
に有罪の疑を生じその方向に進むときは、いわゆる審査の軌道を進みながら単なる
審査を越える段階に入るのであつて、この段階における被告人の地位はほとんど第
一審とかわらないと見なければならない。それゆえこの段階に入つたかぎり、控訴
審が自ら公訴事実を認定し判決にまで進むのは、控訴審本来の性格に適合しないの
であつて、第一審に差戻すのが正しいのであり、またもし破棄自判に熟する場合が
あれば、控訴審は自ら直接事実の取調を行うことによつて被告人を本来の防禦権を
行使し得る地位に置かなければ、結局被告人は控訴審であるというだけでいわれな
く刑訴の本旨とする保護を与えられないこととなるのである。(昭和二五年(あ)
第六四一号同二七年二月六日大法廷判決の小林補足意見参照、集六巻二号一四一頁。)
 (五)、この理は更新という手続と比べてみるとなお明らかである。開廷後裁判
官がかわつたときは、公判手続を更新しなければならないという刑訴の規定(刑訴
三一五条三一五条の二)は、直接審理主義を徹底するための重要な意義に立脚する
ことは異論がないであろう。これを第一審に即して考えてみると、裁判官がかわつ
たときは、事実の審理をやり直すことによつて、はじめて直接審理の要請に応える
判決をすることがてきるというのが更新の本旨であるから、過去において訴訟経済
上の見地から、訴訟関係人の同意によつてきわめて形式的な簡便手続が行われてい
たけれども、この便宜的慣行が更新本来の趣旨に正確に適合するものでないことは
もちろんである。そしてまた刑訴規則が後に規定を追加し、被告人又は訴訟関係人
に異議のないこと、又は同意あることを条件として、ある省略手続を明文をもつて
認めたのは、訴訟経済上の見地から無益なくりかえしを避けると共に、ともすれば
意味のない形式に流れることを止めようとする趣旨をもつていると解すべきである。
(昭和二六年一一月二〇日改正刑訴規則二一三条の二第一号但書第四号)。しかる
にこの刑訴規則はさらに明文をもつて、更新前の公判期日における被告人若しくは
被告人以外の者の供述調書又はその他の証拠は職権で取り調べなければならないと
し、もし特定の理由により取り調べない場合は、訴訟関係人に異議のないことを条
件としているのみならず、またこれらの証拠(特に供述調書も単に書面として)を
取り調べた後、さらにこれらについて訴訟関係人の意見及び弁解を聴かなければな
らないと定めている。(同条第三号本文及び但書、第五号、なお第二号参照)。こ
の趣旨は、供述調書についていえば、証拠として適法ではあるが、かわつた裁判官
が直接調べたものではないから、特に訴訟関係人の意見及び弁解を聴いて、要すれ
ば再び尋問する機会をも与えようとする考慮を含んでいるものと考える。そしてこ
のような趣旨は、はじめから更新ということに含まれる意義であつて、刑訴規則は
これを明らかにしたに過ぎないと解すべきものである。すなわちこの更新の意義か
ら推して考えてみても、控訴審は第一審と全く異なる裁判所であるから、第一審無
罪の控訴事件につき第一審で取り調べた書証と供述調書のみによつて有罪と認める
場合は、原則として破棄差戻の判決をなすべきであり、またもし破棄自判によつて
有罪の判決をする場合には、その前提として少くとも被告人の意見弁解を聴き然る
後の判断によらなけれはならないという結論に到達せざるを得ないのである。そし
てかくすることが被告人に対し欠くことのできない必要な手続であることは自から
また明らかであろう。
 (六)、原判決は他の証拠と共に五名の証人の供述調書を改めて有罪の証拠の中
に挙げているから、この関係についてさらに考えみると、これらの証人は第一審の
裁判官が直接その顔を見その声を聴いて判断した後有罪の証拠とするに足りないと
いう結論に達したのであるが、かかる場合控訴審の裁判官が、仮りに証人の供述調
書のみの判断によつて第一審判決の当否を審査するとすれば、それだけで第一審と
反対に有罪の心証を生ずることもあろうし、まして仮りにこれらの証人を再び自ら
取り調べることによつて第一審と反対の心証を形成することももちろんその自由と
するところである。しかしながら控訴審の裁判官が、直接自ら取り調べなかつた証
人の供述調書のみによつて、少くとも被告人の意見弁解を聴くこともなしに、常に
当然に有罪の判決までなし得ると解すると、被告人は何の機会も与えられない間に、
それらの証人の供述が書面の記載だけで第一審と逆に有罪の証拠となるという危険
にさらされるわけであつて、被告人はかかる場合の控訴審においてのみ特に著しく
不安な地位におかれるという不当な結果が生ずるのである。本来控訴審の裁判官が
証人の供述調書のみによつて有罪の心証を生じても、それは単に書面の上から生じ
た未確定の疑いと見るのを相当とし、これを判決の基礎となる証拠とするには、さ
らに事実の取調を行い少くとも被告人の意見弁解を聴き防禦の機会を与え、然る後
にその心証を確実に形成することが、前に述べた刑事審判の諸原則に副うゆえんで
あつて、このことは、かかる控訴審が刑事審判の最終の目的である有罪無罪を定め
る段階となつたということから出て来る当然の帰結であると考える。反対の解説は、
かかる証人に対する関係において、第一審と第二審とは、直接と間接という根本的
な条件の差があり、且つ第二審ではじめてこれらの証人の供述を有罪の証拠とする
という事実上の大きな差異を無視するものであつて、恰かも第一審と第二審とその
裁判官り判断能力に格段の差のあることを前提とするような不当な結果となるのを
否定し得ないであろう。(なおこれらの関係は、他の書証や被告人の供述について
も右に準じていえることである。)
 (七)、刑訴四〇〇条但書の趣旨について、最高裁判所小法廷の判例のいくつか
は、控訴審が破棄自判する場合は、訴訟記録並びに原裁判所において取り調べた証
拠で直ちに判決することができることをもつて足り、必しも常に控訴裁判所におい
て事実の取調をすることを要しないという解釈を採つている。この解釈は一般的な
趣旨として一応是認できる。しかし控訴審で第一審無罪の判決を覆えし、有罪の破
棄自判をする場合をもこの中に含めることは到底賛同することはできない。このよ
うな場合は、以上に述べた理由により、常に必ず事実の取調を行い要すれば証拠調
にも進まなければならないと解するのが正しいと考える。
 以上の理由により、各弁護人上告趣意の前掲論旨中、前述の理由に副う部分は結
局その理由あることとなるから、原判決を破棄しこれを原審に差し戻すを相当とす
るのである。
 裁判官井上登の意見。
 私は当、不当の問題としては小林裁判官の意見に全面的に賛成である。二審が書
面審理だけで、一審で信じた証拠を信ぜず、又は一審が信じなかつた証拠を信じて、
一審と反対の裁判をするが如きは全くよくないやり方である、事実審は決してかよ
うなやり方をすべきものでないと思う。私は控訴審の裁判長をして居た時 一審の
記録を見て、どうも一審の認定が怪しいと思つた時は必ず直接証拠調をやつて見た、
そうするとその結果やはり一審の認定でいいのだと思つたことが間々あつたのであ
る。しかし今の刑訴法では、二審が書面審理だけで一審と反対の裁判をすることを
禁ずる趣旨は出て来ないと思われる。即これを違法とする適確の根拠はないように
思われるのである。それ故既に当裁判所の判例もあることであるからそれに従つて
居るのである。又論理的にいえば、右の如き裁判を違法とするならば、一審で有罪
としたのを書面審理で無罪とすることも違法となるべく、又刑の量定についても同
じことがいえるであろう。しかしそう迄云わなくてもいいのではあるまいか。なお
又実際においても、書面だけで一審裁判を覆しても差支ない場合がないではない。
例えば一審が実験則上到底許されない認定をして居る場合(例、犯罪の行われた日
が暦上月のない日であることが明であるのに「月明でよく先方が見えた」という意
味の証言を採りこれを基礎として判決をした場合の如き)の如きは書面だけで反対
の裁判が出来る場合も有り得るのではなかろうか。あれやこれやで違法と迄はいい
切れずに居るわけである。(只所謂デユー・プロセスの問題としてなおよく考えた
いと思つて居る。)
  昭和二九年六月八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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