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平成26年(行ク)第58号,第59号,第60号,第61号,第62号仮の差
止め申立事件
主文
1近畿運輸局長は,本案事件の第一審判決の言渡しから60日を経過するまで
の間,申立人らに対し,各自が届け出た別紙2(届出運賃目録)記載の各運賃
が平成26年2月28日付け近運自二公示第64号に定める公定幅運賃の範囲
内にないことを理由として,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自
動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に定め
る運賃変更命令をしてはならない。
2近畿運輸局長は,本案事件の第一審判決の言渡しから60日を経過するまで
の間,申立人らに対し,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車
運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法16条の4第3項に定める運
賃変更命令に従わないことを理由として,同法17条の3第1項に定める輸送
施設の当該一般乗用旅客自動車運送事業のための使用の停止又は一般乗用旅客
自動車運送事業の許可の取消しをしてはならない。
3申立人らのその余の申立てをいずれも却下する。
4申立費用はこれを4分し,その1を申立人らの負担とし,その余は相手方の
負担とする。
理由
第1申立ての趣旨
近畿運輸局長は,本案事件の第一審判決の言渡しから60日を経過するまで
の間,申立人らに対し,各自が届け出た別紙2(届出運賃目録)記載の各運賃
が平成26年2月28日付け近運自二公示第64号(以下「本件公示」とい
う。)に定める公定幅運賃の範囲内にないことを理由として,運賃変更命令,
輸送施設の使用停止処分等いかなる処分もしてはならない。
第2事案の概要
1本件は,京都市域交通圏(58号事件関係),大阪市域交通圏(59号事件
関係),神戸市域交通圏(60号事件関係),大津市域交通圏(61号事件関
係)ないし湖南交通圏(62号事件関係)を営業区域として,一般乗用旅客自
動車運送事業(以下,特に必要がある場合を除いて「タクシー事業」といい,
タクシー事業を経営する者を「タクシー事業者」という。)を営む申立人らが,
近畿運輸局長(国土交通大臣からその権限の委任を受けている。)に届け出た
運賃が特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化
及び活性化に関する特別措置法(以下「特措法」という。)16条1項に基づ
いて近畿運輸局長が本件公示によって指定するタクシー事業に係る旅客の運賃
の範囲(以下,国土交通大臣又はその権限の委任を受けて地方運輸局長が定め
る当該運賃を「公定幅運賃」という。)内にないことを理由として,特措法1
6条の4第3項に基づく運賃変更命令(以下「本件運賃変更命令」という。),
特措法17条の3第1項に基づく輸送施設の当該タクシー事業のための使用の
停止又は事業許可の取消し(以下,輸送施設の当該タクシー事業のための使用
の停止を「本件自動車等の使用停止処分」,事業許可の取消しを「本件事業許
可取消処分」とそれぞれいい,本件運賃変更命令,本件自動車等の使用停止処
分及び本件事業許可取消処分を併せて「本件不利益処分等」という。)を受け
るおそれがあるなどと主張して,本件不利益処分等の差止め等を求める本案事
件を提起するとともに,本件不利益処分等の仮の差止めを求めている事案であ
る。
2関係法令等
別紙3(関係法令等)のとおり
(以下,別紙3において定義した略語を用いる。)
3前提事実(当事者間に争いのない事実のほか各項記載の疎明資料等により認
められる事実等。なお疎明資料に枝番のあるものは,特に断らない限り枝番を
含む。)
(1)当事者等
申立人らは,国土交通大臣からその権限の委任を受けた近畿運輸局長から,
一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)の認可を受け,それぞれ以下
の交通圏を含む地域を営業区域として,タクシー事業(一部につきハイヤー
事業をも含む。)を経営する株式会社又は自然人(個人)である(疎甲B
3)。
申立人a株式会社,申立人b,申立人c,申立人d,申立人e,申立
人f,申立人g,申立人h,申立人i,申立人j,申立人k,申立人l,
申立人m,申立人n及び申立人oにつき,京都市域交通圏
申立人p株式会社につき,大阪市域交通圏
申立人q株式会社につき,神戸市域交通圏
申立人r株式会社につき,大津市域交通圏及び湖南交通圏
近畿運輸局長は,国土交通大臣から輸送施設の当該事業のための使用の停
止若しくは事業の停止又は許可の取消しの権限の委任を受けている地方運輸
局長である(特措法18条,特措規則11条1項)。
(2)申立人らによる運賃の届出
申立人p株式会社を除くその余の申立人らは,平成26年3月28日付け
で,申立人p株式会社は同月31日付けで,それぞれ特措法16条の4第1
項に基づき,近畿運輸局長に対して運賃の届出を行った。なお,申立人らが
近畿運輸局長に届け出た上記運賃は,別紙2のとおりである。(疎甲B4)
(3)近畿運輸局長等による行政指導,勧告等
近畿運輸局担当者は,上記(2)の各届出に係る運賃が公定幅運賃の範囲内
にないと認め,平成26年4月3日から同月21日にかけて,申立人らに対
し,電話等により,運賃を公定幅運賃の範囲内に変更するよう複数回の行政
指導を行った。
近畿運輸局長は,近畿運輸局担当者による行政指導にもかかわらず申立人
らが運賃変更届出を行わなかったことから,同月22日,申立人らに対し,
公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出を同年5月7日までに行
うよう勧告(以下「本件勧告」という。)を行い(疎甲B5),本件勧告に
もかかわらず申立人らが同日までに運賃変更届出を行わなかったことから,
同月8日,申立人らに対して,予定される不利益処分を特措法16条の4第
3項に基づく運賃変更命令として,弁明書等の提出期限を同月22日と定め
て弁明の機会の付与の通知をした(疎乙15)。
(4)本件申立ての提起等
申立人らは,平成26年5月1日,本案事件を提起するとともに,本件申
立てをした(当裁判所に顕著な事実)。
4争点
(1)適法な差止めの訴えの提起があるか。
(2)償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか。
(3)本案について理由があるとみえるか。
(4)公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか。
5当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(適法な差止めの訴えの提起があるか。)について
(申立人らの主張の要旨)
ア処分の蓋然性について
タクシー事業者が届け出た運賃が本件公示に定める公定幅運賃の範囲内
にない場合に発令される運賃変更命令は,本件通達(疎甲A7)で明確に
発令手順が定められている。そして,申立人らは,公定幅運賃の範囲内に
ない運賃を届け出ており,これ自体が本件自動車等の使用停止処分の理由
となるものであるし,公定幅運賃の範囲内にない運賃を届け出たことを理
由として,本件通達の記載内容のとおり,近畿運輸局長から,複数回の行
政指導を受けた後に本件勧告を受けている上,弁明の機会付与の通知を受
けている。したがって,申立人らに対し,指定範囲外の運賃設定に対する
本件自動車等の使用停止処分のみならず,本件運賃変更命令がされる蓋然
性は明らかに存在する。
そして,申立人らが本件運賃変更命令に違反すれば,初違反として60
日車の自動車等の使用停止処分がされるとともに,申立人らに対して2回
目の本件運賃変更命令が発令され,この本件運賃変更命令に違反した場合
には申立人らに対し本件事業許可取消処分がされることとなる以上,本件
運賃変更命令違反に対する本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可
取消処分がされる蓋然性も明らかに存在している。
したがって,申立人らは本件不利益処分等を受ける蓋然性がある。
イ補充性について
本件運賃変更命令は,その処分の性質上,処分と同時に申立人らに公定
幅運賃の範囲内にある運賃の届出義務を課すものであって,これに従わな
い場合にされるその後の手続及び処分が既に想定されており,初違反には
60日車の自動車等の使用停止となる本件自動車等の使用停止処分がされ,
再違反には本件事業許可取消処分がされるなど,反復継続的かつ累積加重
的に重い処分がされる(本件運賃変更命令がされるとわずか2か月足らず
で本件事業許可取消処分に係る聴聞手続が開始される。)上,本件運賃変
更命令に違反して運賃を収受したときは刑事罰が科されることとなるから,
事後的に本件不利益処分等(本件運賃変更命令,本件自動車等の使用停止
処分及び本件事業許可取消処分)の効力を争うことにより申立人らの被害
回復を図ることはできない。
したがって,本件不利益処分等によって生じる損害を避けるため他に適
当な方法があるときには当たらず,補充性の要件に欠けるところはない。
(相手方の主張の要旨)
ア処分の蓋然性について
本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分は,いずれも本
件運賃変更命令に違反したとき(本件事業許可取消処分にあっては,本件
自動車等の使用停止処分の後,2回目の本件運賃変更命令に違反したと
き)にされる処分であると解され,また,本件運賃変更命令の発令手続を
定めた本件通達(疎甲A7)及び行政手続法に従って処分ごとに実施され
る弁明の機会の付与を経てされることが予定されているのであって,その
過程において申立人らが特措法に適合する運賃に変更する旨の届出を行う
ことが期待され,事情が変更する場合もあると考えられる。そして,先行
処分である本件運賃変更命令の後にされることが予定されている本件自動
車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分(後行処分)は仮定の判断
を重ねるものである。そうすると,現時点において,少なくとも本件自動
車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分については,処分がされる
蓋然性があるとはいえない。
イ補充性の要件について
本件運賃変更命令並びに同命令に違反することによってされる可能性が
ある本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分の有効性を争
う方法としては,事後的にこれら処分の取消訴訟等を提起する方法があり,
むしろこれが法の予定している通常の方法であるし,本件運賃変更命令に
よって申立人らが負うこととなる直接的な法的義務は,公定幅運賃の範囲
内の運賃に変更する届出を行うことにとどまるから,本件不利益処分等が
される前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困
難なものとはいえない。また,本件運賃変更命令を受けた場合でも,本件
運賃変更命令に従って公定幅運賃の範囲内に運賃を変更して営業を継続し
た上で,公定幅運賃の範囲内にない運賃でタクシー事業を営むことができ
る地位にあることの確認の訴えを提起するなどの方法によって争うことも
可能である。したがって,補充性の要件を満たすとはいえない。
(2)争点(2)(償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるか。)
について
(申立人らの主張の要旨)
ア近畿運輸局長による運賃変更命令によって申立人らの届出運賃が違法と
評価されてしまうと,申立人らはタクシー事業を適法に行うことができな
くなり,申立人らの収入が激減するほか,違法な運賃で営業を行っている
業者であるとのレッテルを貼られ,あたかも違法事業を行っているかのよ
うなイメージが市民に定着し,これまで安い運賃で良質なサービスを提供
するという企業理念の下に独自の予約システムを活用するなどして効率的
な経営をしてきた企業イメージが大きく損なわれ,企業の信用が毀損され
る。そして,本件運賃変更命令は,前記(1)(申立人らの主張の要旨)イ
のとおり,処分と同時に申立人らに公定幅運賃の範囲内にある運賃の届出
義務を課すものであって,これを前提として,その後に本件自動車等の使
用停止処分あるいは本件事業許可取消処分等の反復継続的かつ累積加重的
に重い処分が想定されている上,本件運賃変更命令に違反して運賃を収受
したときは刑事罰が科されることとなる。そうすると,申立人らが本件運
賃変更命令をされた場合には,申立人らは廃業せざるを得ない状況に追い
込まれ,極めて深刻な打撃を受ける。
他方,申立人らとしては,本件運賃変更命令に従うことは,これまで掲
げてきた安価な運賃で良質なサービスを提供するという企業理念が崩れ,
これまでに培ってきた「利用者から選んで乗車してもらう」という前提が
失われるから,申立人らの企業イメージや経営スタイルが成り行かなくな
り,事業の基盤ともいうべき利用者が申立人らに寄せる信頼や信用を喪失
することとなり,事業の継続自体が危ぶまれ,倒産の危機に陥る事態とな
る。そうすると,仮に申立人らが本件運賃変更命令に従ったとしても,事
業継続が危ぶまれる深刻な打撃を受ける。
イ上記アのとおり本件運賃変更命令は申立人らに極めて深刻な打撃を与え
るものであるところ,同命令は処分と同時に申立人らに公定幅運賃の範囲
内にある運賃の届出義務を課すものであるから,同命令がされた場合には,
同命令の取消訴訟を提起した上で執行停止の申立てをしたとしても,執行
停止の判断がされる前に同命令に違反して運賃を収受したとして刑事罰を
科されることも,同命令に定められた運賃変更届出期間が経過することも
十分に想定されるところである。そうすると,本件運賃変更命令がされた
場合に申立人らが被る損害は,同命令の取消訴訟等の提起や事後的な金銭
賠償によって回復することが困難なものであることは明らかである。
加えて,既に,申立人らは,公定幅運賃の範囲内にある運賃の届出をす
るよう本件勧告を受けていることを併せ考慮すると,所定の手続を経た上
で,申立人らに本件運賃変更命令がされることは必至というべきであるか
ら,償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があることは明らか
である。
(相手方の主張の要旨)
ア本件運賃変更命令を受けた場合であっても,期限までに公定幅運賃の範
囲内に運賃を変更することにより,営業を継続することができるから,同
命令を受けることにより申立人らの営業の継続に直ちに支障を来すことは
ないし,同命令は申立人らが収受する運賃の高額化を求めるものであるか
ら,同命令に従うことが申立人らに損害を生じさせることになるとは限ら
ない。そして,仮に申立人らに損害が生じるとしても,経済的損失であっ
て,金銭賠償が可能なものである。
イ仮に申立人らに対して本件自動車等の使用停止処分又は本件事業許可取
消処分がされたとしても,本件自動車等の使用停止処分又は本件事業許可
取消処分によって申立人らが被る可能性がある損害は,運送による収入を
逸することによる経済的損失であって,金銭賠償による回復が可能なもの
であるし,本件自動車等の使用停止処分における自動車等の使用停止の程
度は60日車にとどまるから,申立人らの事業基盤に深刻な影響を与える
ものではないし,処分の取消し又は執行停止によって処分がされる前の状
態に回復することができるという点において,「償うことのできない損
害」には当たらない。
ウ申立人らは,申立人らの信用等が害されるなどと主張するが,非常に抽
象的であるし,申立人らが顧客から違法営業とみられてしまうとしても,
本件不利益処分等によるものというより,申立人らが公定幅運賃の範囲内
にない運賃の届出をしたことによるものに過ぎないから,申立人らの主張
は失当である。
(3)争点(3)(本案について理由があるとみえるか。)について
(申立人らの主張の要旨)
アタクシー事業者である申立人らには,営業の自由に裏打ちされた運賃設
定の自由があり,これに対する制約は規制目的を達するために必要最小限
のものでなければならない。公定幅運賃制度の目的は,準特定地域の指定
要件と同様に,①タクシー事業の供給過剰を回避し,②地域の輸送需要に
的確に対応しなければ,事業者の健全な経営を維持しつつ,輸送の安全及
び利用者の利便を確保して,公共交通機関としての機能を十分に発揮する
ことができないこと,③タクシー事業の適正化及び活性化を推進すること
にあると解されるが,タクシーの運賃を規制したところで,タクシーの供
給過剰状態が回避されることはあり得ないし,運賃の規制が輸送の安全に
資するとも考えられないし,多様な運賃の選択肢があることが利用者の利
便に資するはずであって,運賃に対する規制のみによって事業者の経営が
健全化されるとも考えられない。
そして,公定幅運賃制度は,事業者間の競争を制限する規制であり,タ
クシー事業者の関与なく決められる公定幅運賃を前提とし,その範囲内に
ない運賃による事業遂行を認めないものであって,事業者に対しては「本
人の力ではいかんともなし得ないような条件」を定める規制である以上,
厳格にその合理性を審査する必要がある。
そして,公定幅運賃制度は,標準的なタクシー事業者の原価及び利潤を
元に運賃を定め,それ以外の運賃を一切認めない制度であるところ,「標
準的」とされる事業者がどのようなものであるかは全く不明であるし,仮
に「標準的」とされる事業者が観念されるとしても,そのような事業者の
経営状態を元にして導かれた運賃を全てのタクシー事業者の運賃に適用す
る合理的根拠は一切ないというべきであるから,営業の自由に対する制約
として許容される最小限度の制約を明らかに超えた過度な規制である。
イ本件公示で指定された公定幅運賃の範囲は,初乗り運賃の上限運賃から
下限運賃までの範囲(差額)は最大でも40円であって,約3%から約
7%程度の幅しかないから,本件公示による運賃規制は価格統制を行うも
のに等しく,同一地域同一運賃を強制するものである。そうすると,本件
公示による公定幅運賃制度は,各タクシー事業者の適切な運賃設定の自由
を排除し,公正な競争を完全に阻害するものであるから,私的独占の禁止
及び公正取引の確保に関する法律の趣旨に明らかに反するし,タクシー事
業の適正化及び活性化を推進するという特措法1条の目的にも反すること
となる。
本件公示で指定された公定幅運賃の範囲は,従前の自動認可運賃の範囲
を単にスライドさせたものであるところ,自動認可運賃制度は,個別申
請・個別審査を原則とする道路運送法上の認可制の下で,行政における認
可審査に要する時間や労力の節減を図るために,個別審査を回避して自動
的に認可を行う運賃範囲を予め設定したものに過ぎなかったのであるから,
自動認可運賃の範囲をそのまま公定幅運賃の範囲にスライドさせること自
体,著しく合理性を欠くものであるし,このようにして決められた公定幅
運賃の範囲の下限を下回る運賃が排除される理由も不明である。そして,
仮に自動認可運賃の範囲をそのまま公定幅運賃の範囲にスライドさせるこ
とが許されるとすれば,従前,自動認可運賃の範囲内にはないものの個別
審査により認可基準に適合するとされていた運賃についても同様にスライ
ドさせることによって公定幅運賃の範囲内の運賃と同様に扱われるように
すべきであって,これを一切排除することになる本件公示に合理性は全く
ない。
加えて,本件公示で指定された公定幅運賃の範囲は,タクシー運賃の不
当な高額化を図るものであって,タクシー事業者に適正利潤を超えた利潤
を取得させるものであるし,利用者の利便を害することはあってもその利
便に資するものではない。
したがって,本件公示は,公定幅運賃制度を受けてその運賃の幅の上限
と下限を指定するものであるが,その指定された運賃の範囲が著しく狭く,
同一地域同一運賃を強制するものであって,私的独占の禁止及び公正取引
の確保に関する法律の趣旨にも抵触する著しく不合理な規制であるし,本
件公示において定める運賃は不当に高く,申立人らに対して大幅な運賃の
値上げを強制するとともに利用者の利便を著しく損なうものであるから,
明らかに不合理な規制となっているのであって,申立人らの営業の自由を
著しく侵害する以上,これに従ってされる近畿運輸局長の本件不利益処分
等にはその裁量権の範囲の逸脱又は濫用があることは明らかである。
(相手方の主張の要旨)
ア近畿運輸局長による公定幅運賃を定めた公示について,特措法16条2
項各号に定める基準及び同法17条の3第1項が抽象的,概括的なもので
あり,同基準に適合するか否かは,行政庁の専門技術的な知識と公益上の
判断を必要とし,ある程度の裁量的要素があることを否定することはでき
ない。したがって,本件不利益処分等をすべきでないことがその処分の根
拠となる法令の規定から明らかであるとはいえない。
イ(ア)公定幅運賃制度は,道路運送法の運賃認可制度を基本として,利用
者保護,輸送の安全確保,不当差別的取扱いの禁止等を基底に置きつつ,
供給過剰あるいはそのおそれのある地域における値下げ競争に伴う運転
者の労働条件の悪化に起因したサービス・安全の低下の防止を図るとと
もに,公定幅運賃の範囲内での競争により,運賃面以外の面での健全な
競争を促すことを目的とするものであって,このような目的自体,道路
運送法及び公共の福祉に適合する正当なものである上,このような目的
を達成するためにどのような制度を設けるのが適切かは,広汎な立法裁
量に委ねられるべき事柄であり,「特定地域」,「準特定地域」という
二層構造を新たに設けて地域ごとの実情を考慮し,上記目的の実現をよ
り実効的なものとするために,公定幅運賃制度を設けたのであって,こ
れにより,不当競争の防止や劣悪な労働条件の改善等の効果があること
は明らかであるから,当該制度は上記目的を達成する上で必要であり,
かつ,合理的なものであって,当該制度が憲法に違反するとは到底いえ
ない。
(イ)そして,本件公示において定める公定幅運賃の範囲は特措法16条
2項各号に定める基準に適合するものでなければならないところ,当該
各号に定める基準は抽象的,概括的なものであり,当該基準に適合する
か否かは,行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし,
ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない。そして,
公定幅運賃制度の運用については,法令に基づいたものであるから,近
畿運輸局長に上記裁量の範囲の逸脱・濫用はない。
(4)争点(4)(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか。)について
(相手方の主張の要旨)
仮に本件不利益処分等の仮の差止めが認められた場合には,国土交通大臣
等による運賃変更命令がされないことを見越して申立人らと同等あるいはそ
れ以下の運賃を設定して届け出る事業者が現れるおそれがあり,特定地域又
は準特定地域として指定された地域においては,特措法の目的を達成するど
ころか,運賃が無規制化し,運賃認可制度の趣旨が没却され,タクシー事業
に係る市場が大きく混乱する事態に陥るおそれがあるから,公共の福祉に重
大な影響を及ぼすおそれがある。
(申立人らの主張の要旨)
申立人らが届け出た運賃は,申立人らが近畿運輸局長から認可を受けた運
賃に平成26年4月からの消費税増税分を上乗せした金額であるから,従前
に認可を受けていた運賃をそのまま踏襲するものであるし,公定幅運賃制度
が開始された後においても,申立人らは適正にタクシー事業を継続している
のであって,申立人らが事業を行う交通圏において何らの混乱や不都合も生
じていない。したがって,本件不利益処分等を仮に差し止めたところで,公
共の福祉に重大な影響など生じるはずもない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(適法な差止めの訴えの提起があるか。)について
(1)行政事件訴訟法は,本案訴訟の判決前における仮の救済に関し,行政庁
の処分その他公権力の行使に当たる行為については,民事保全法による仮処
分を排除し(行政事件訴訟法44条),差止めの訴えが本案となる場合につ
いて仮の差止めの制度を定めている(同法37条の5第2項)。そして,仮
の差止めは,これが本案である差止めの訴えの厳格な要件の審査を経て行政
庁が具体的な処分をすべきでないことを命ずる本案訴訟の判決の前に裁判所
が仮にこれを命ずる裁判でありながら,実質的には本案訴訟の裁判と同様の
内容を仮の裁判で実現するものであるから,「差止めの訴えの提起があつた
場合」とは,適法な差止めの訴えの提起があった場合をいうものと解すべき
である。
(2)そして,差止めの訴えの訴訟要件については,まず,一定の処分がされ
ようとしていること(行政事件訴訟法3条7項),すなわち,行政庁によっ
て一定の処分がされる蓋然性があることが,救済の必要性を基礎付ける前提
として必要となる。
本件申立ての趣旨は第1記載のとおりであるところ,本件においては,申
立人らは,申立人らが公定幅運賃の範囲内にない運賃の届出をしたことを理
由とする本件自動車等の使用停止処分,申立人らが行政庁担当者らによる行
政指導にもかかわらず届出運賃を公定幅運賃の範囲内のものに変更しないこ
とを理由とする本件運賃変更命令並びに同命令に従わないことを理由とする
本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分の仮の差止めを求め
るものと解される。
そして,本件においては,前記前提事実(2)のとおり,申立人らは既に公
定幅運賃の範囲内にない運賃の届出をしているから,これを理由として本件
自動車等の使用停止処分がされる蓋然性があるというべきである。
また,近畿運輸局長においては,自動車局長が発出した公定幅運賃制度に
従った運賃届出がされるように運賃変更命令の発令の手続を定めた本件通達
に従い,同旨の公示(別紙3の4(4)参照)を定め,前記前提事実(2)及び
(3)のとおり,既に公定幅運賃の範囲内にない運賃の届出をした申立人らに
対し,近畿運輸局担当者らをして行政指導をした上で本件勧告をし,本件勧
告を受けたにもかかわらず運賃変更届出を行わない申立人らに対して本件運
賃変更命令の発令をする前段階として,弁明書の提出期限を定めて弁明の機
会の付与をしていること,更に,本件通達及び別紙3の4(4)の公示によれ
ば,本件運賃変更命令がされた後,早ければ僅か2か月程度の間に同命令に
従わないことによる60日車の本件自動車等の使用停止処分と2回目の本件
運賃変更命令を経て,本件事業許可取消処分に係る聴聞手続が開始されるこ
ととなることからすると,既に複数回の行政指導及び本件勧告がされ,さら
に本件運賃変更命令を予定される不利益処分とする弁明の機会の付与の通知
もされている申立人らについて,現段階において,申立人らが届出運賃を公
定幅運賃の範囲内のものに変更しないことを理由とする本件運賃変更命令並
びに同命令に従わないことを理由とする本件自動車等の使用停止処分及び本
件事業許可取消処分がされる蓋然性があると認められる。
したがって,申立人らについて,本件不利益処分等がされる蓋然性がある
と認められる。
(3)また,差止めの訴えの訴訟要件については,「その損害を避けるため他
に適当な方法があるとき」ではないこと,すなわち補充性の要件を満たすこ
とが必要であるとされている(行政事件訴訟法37条の4第1項ただし書)。
申立人らに対して本件運賃変更命令がされた場合には,直ちに同命令に違
反する状態になることはないとしても,同命令の発令から運賃変更届出の期
限となる15日の期間を経過した後には同命令に違反したことを理由として
初違反で60日車の自動車等の使用の停止となる本件自動車等の使用停止処
分が,再違反で本件事業許可取消処分がされることとなる上,本件運賃変更
命令に違反して運賃を収受した場合には刑事罰が科されるのであり,しかも,
上記(2)のとおり,本件運賃変更命令から2回目の本件運賃変更命令を経て
本件事業許可取消処分に係る聴聞手続が開始されるまでの期間も,早ければ
2か月程度と短期間であることからすると,本件運賃変更命令の発令から同
命令に違反する状態が生じるまでの期間も短く,また,短期間のうちに同命
令に違反したことを理由として本件自動車等の使用停止処分や本件事業許可
取消処分にまで至るものであって,反復継続的かつ累積加重的に処分がされ
るものといえる。そして,申立人らは,このような短期間のうちにされる反
復継続的かつ累積加重的な処分によってタクシー事業を行うことができなく
なることに照らせば,処分がされた後に取消訴訟等を提起するとともに執行
停止の申立てをすることによって実効的な救済を受けることも困難であると
いわざるを得ないから,処分がされる前に差止めを命ずる方法による以外に
適当な方法は見いだし難いものということができる。したがって,本件不利
益処分等(本件運賃変更命令,本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許
可取消処分)との関係でも補充性の要件を欠くものではないと解される。
また,本件においては,前記前提事実(2)のとおり,申立人らは既に公定
幅運賃の範囲内にない運賃の届出をしているから,これを理由として本件自
動車等の使用停止処分がされるおそれがあるというべきところ,同処分も初
違反,再違反と繰り返されるものであって,上記のとおり,申立人らは公定
幅運賃の範囲内にない運賃の届出をしたことに端を発して短期間の内に反復
継続的かつ累積加重的に処分がされる状況に至っていることに照らせば,上
記と同様に補充性の要件を欠くものではないと解すべきである。
(4)したがって,申立人らによって提起された本案事件(差止めの訴え)は,
処分の蓋然性や補充性の要件を満たすものとして,適法な訴えの提起である
と認めることができる。
2争点(2)(償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるといえる
か。)について
(1)行政事件訴訟法37条の5第2項にいう「償うことのできない損害を避
けるため緊急の必要」の要件の趣旨
行政事件訴訟法37条の5第2項は,仮の差止めの要件として処分がされ
ることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある
ことを定めているところ,これは,差止め訴訟(本案訴訟)の訴訟要件であ
る「重大な損害を生ずるおそれがある場合」(同法37条の4第1項)や,
処分の執行停止の要件である「重大な損害を避けるため緊急の必要があると
き」(同法25条2項)よりも加重された要件である。
その趣旨は,処分の仮の差止めが,具体的な行政処分がされる前にされる
もので,しかも,処分の差止めの訴えに係る本案訴訟の判決の前に,裁判所
が具体的な処分をすべきでないことを仮に命ずる裁判であり,本案訴訟の結
果と同じ内容を仮の裁判で実現するものであることから,仮の差止めにおい
ては,本案訴訟である差止めの訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそ
れ」よりも厳格な要件として,本案訴訟の判決を待っていたのでは「償うこ
とのできない損害」を生じ,これを避けるために緊急の必要がある場合であ
ることを要件としたものと解される。
そうすると,処分がされることにより生ずる償うことのできない損害を避
けるため緊急の必要があるといえるためには,ひとたび違法な処分がされて
しまえば,当該申立人の法的利益が侵害され,その侵害を回復するのに後の
金銭賠償によることが不可能であるか,社会通念に照らしてこれのみによる
ことが著しく不相当と認められることが必要であり,損害を回復するために
金銭賠償によることが不相当でない場合や,処分が後に取消判決によって取
り消され,又は執行停止の決定により処分の効力,処分の続行又は手続の続
行が停止されることによって損害が回復され得るような場合には,上記要件
を充足しないというべきである。
(2)予想される処分の内容
申立人らは,前記前提事実(3)のとおり,近畿運輸局長から本件勧告を受
けたにもかかわらず運賃変更届出を行わなかったことから本件運賃変更命令
を発令する前段階としての弁明の機会の付与の通知を受け,同命令の対象と
なっている以上,同命令がされる状況である上,同命令を受けたにもかかわ
らず運賃変更届出を行わなければ,特措法16条の4第3項の運賃変更命令
違反に当たるものとして,別紙3の4(1)の処分基準公示により,初違反に
つき60日車の自動車等の使用を停止する処分,再違反につき事業許可取消
処分を受けることが予想される。
また,申立人らは,前記前提事実(2)のとおり,既に公定幅運賃の範囲内
にない運賃の届出を行っているから,特措法16条の4第2項に定める運賃
の設定違反(指定範囲外の運賃設定)に当たるものとして,処分基準公示に
より,初違反につき20日車の自動車等の使用を停止する処分,再違反につ
き40日車の自動車等の使用を停止する処分を受けることが予想される。
(3)本件不利益処分等により生ずる償うことのできない損害を避けるため緊
急の必要があるか。
アまず,届出運賃を公定幅運賃の範囲内のものに変更しないことを理由と
する本件運賃変更命令並びに特措法16条の4第3項の運賃変更命令違反
に当たることを理由とする本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可
取消処分について,以下,検討する。
前記1(3)のとおり,申立人らに対して本件運賃変更命令がされた場合
には,同命令の発令から15日経過後には同命令に違反したことを理由と
して初違反で60日車の自動車等の使用の停止となる本件自動車等の使用
停止処分が,再違反で本件事業許可取消処分がされることとなるのであり,
しかも,前記1(2)のとおり,本件運賃変更命令から2回目の本件運賃変
更命令を経て本件事業許可取消処分に係る聴聞手続が開始されるまでの期
間も,早ければ2か月程度と短期間である。また,本件運賃変更命令に違
反して運賃を収受した場合には刑事罰が科されるのであって,同命令は刑
事罰をもって公定幅運賃の範囲内にない運賃での営業を禁止しようとする
ものであるといえる。このように,本件運賃変更命令の発令から同命令に
違反する状態が生じるまでの期間も短く,また,短期間の内に同命令に違
反したことを理由として本件自動車等の使用停止処分や本件事業許可取消
処分にまで至るものである上,本件運賃変更命令に違反して運賃を収受し
た場合には刑事罰を科されるのであって,短期間のうちに反復継続的かつ
累積加重的に処分がされることによって,申立人らは本件運賃変更命令に
沿わないタクシー事業の遂行を禁じられることとなる。そして,申立人ら
はこのような短期間のうちにされる反復継続的かつ累積加重的な処分によ
ってタクシー事業を行うことができなくなることに照らせば,処分がされ
た後に取消訴訟等を提起するとともに執行停止の申立てをすることによっ
て実効的な救済を受けることも困難であるし,これらの処分の内容やこれ
が申立人らに与える影響等に照らせば,これら処分が取り消された後に一
定の金銭賠償がされたとしても,これによって損害が十分に償われるとは
認め難いといわざるを得ない。
そうすると,本件においては,届出運賃を公定幅運賃の範囲内のものに
変更しないことを理由とする本件運賃変更命令並びに特措法16条の4第
3項の運賃変更命令違反に当たることを理由とする本件自動車等の使用停
止処分及び本件事業許可取消処分により,申立人らに「償うことのできな
い損害」が生じるということができ,これを避けるために緊急の必要があ
ると認められる。
イ次に,特措法16条の4第2項に違反して運賃の設定をしたこと(指定
範囲外の運賃設定)を理由とする本件自動車等の使用停止処分は,初違反
として20日車の自動車等の使用の停止であり,再違反は40日車の自動
車等の使用の停止となるものであるから,これらの処分がされた場合にも
申立人らに一定の経済的損害が生じ,また,社会的評価の低下を招くこと
を否定することはできない。
しかし,申立人らに生じる損害のうち,公定幅運賃の範囲内にない届出
(その範囲を下回る運賃の届出)をしたことを理由としてされる上記処分
によって生じる社会的評価・信用の低下が当然に償うことのできない損害
に当たるとみることはできないし,上記処分がされた後においても,その
取消しの訴え等をもって同処分の違法性を争い,勝訴判決を得ることがで
きれば,そのことを関係先に周知するなどすることによって相当程度回復
が可能であるというべきである。そして,上記の経済的損害についても,
本件自動車等の使用停止処分が20日車(再違反につき40日車)の自動
車等の使用の停止にとどまることからすると,運送収入の減少によって相
応の経済的損害が生じることは否定できないとしても,その損害の回復を
金銭賠償によることが不相当であるとはいえない(申立人らのうち,いわ
ゆる個人事業主形態の者については,法人形態の者と同一に論じ得ない面
があるとしても,上記処分の内容及び程度に照らせば,個人事業主形態の
申立人らの事業基盤に深刻な影響を及ぼすおそれがあると認めるに足りる
事情があるとはいえない。)。
(4)したがって,本件運賃変更命令が発令された場合並びに同命令に違反し
たことを理由とする本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分
がされた場合については,これら処分がされたことにより申立人らに償うこ
とのできない損害が生じると認められ,これを避けるために緊急の必要があ
ると認めることができる。他方,運賃の設定違反(指定範囲外の運賃設定)
を理由とする本件自動車等の使用停止処分については,これがされたとして
も申立人らに償うことのできない損害が生じるとは認められない。
3争点(3)(本案について理由があるとみえるか。)について
(1)公定幅運賃制度(特措法16条の4)は憲法22条1項に反するか。
ア職業活動としての営業は,本質的に社会的かつ経済的な活動であって,
その性質上,社会的相互関連性が大きいものであるから,憲法22条1項
において保障される営業の自由は,それ以外の憲法の保障する自由,殊に
いわゆる精神的自由に比較して,公権力による規制の要請が強く,同項の
規定においても,特に「公共の福祉に反しない限り」という留保が明記さ
れている。このように,営業は,それ自身のうちに何らかの制約の必要性
が内在する社会的かつ経済的な活動であるところ,その種類,性質,内容,
社会的意義や影響が極めて多種多様であるため,その規制を要求する社会
的理由ないし目的も千差万別で,その重要性も区々にわたり,これに対応
して,現実に営業の自由に加えられる制限としての規制措置も,それぞれ
の事情に応じて各種各様の形をとることからすれば,当該規制措置が憲法
22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるか
どうかは,これを一律に論ずることはできず,具体的な規制措置について,
規制の目的,必要性,内容,これによって制限される営業の自由の性質,
内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定され
なければならない。そして,上記のような検討と考量をするのは,第一次
的には立法機関(立法府の制定した法律により行政立法の権能の委任を受
けた行政機関を含む。)の権限と責務であり,その憲法適合性の司法審査
に当たっては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,
そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,上記立
法機関の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題
としてこれを尊重すべきである。もっとも,その合理的裁量の範囲につい
ては,事の性質上おのずから広狭があり得るのであって,裁判所は,具体
的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべき
ものといわなければならない。(最高裁判所昭和43年(行ツ)第120
号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)
イ(ア)別紙3の1のとおり,タクシー事業者(一般乗用旅客自動車運送事
業者)は,旅客の運賃及び料金を定め,国土交通大臣の認可を受けなけ
ればならないとされ,国土交通大臣がこの認可をしようとするときの基
準として,①能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加え
たものを超えないものであること,②特定の旅客に対し不当な差別的取
扱いをするものでないこと,③他の一般旅客自動車運送事業者との間に
不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであることなどが
あげられている(道路運送法9条の3第1項,2項)。
(イ)そして,タクシー事業者の運賃等の設定は,個別申請,個別認可に
よることとされているが,各地域に膨大な数のタクシー事業者が存在し
ており,全ての事業者の運賃を個別に審査し,その適否を個別に判断す
ることは事実上困難であり,集団的に処理せざるを得ない側面がある。
そこで,こうしたタクシー事業の実態を踏まえ,上記(ア)の運賃認可の
基準を考慮し,これらの基準に適合することが合理的に推認される一定
の範囲内の運賃については,行政運用上の措置として,個別事業者の原
価計算書類等を個別に審査することなく,申請が出されれば自動的に認
可することとする(この申請が出されれば自動的に認可される運賃を
「自動認可運賃」という。)とともに,自動認可運賃の下限を下回る,
いわゆる「下限割れ運賃」については,認可基準に適合することが合理
的に推認される運賃額を下回っていることとなり,労働条件及び事業の
収益基盤の悪化を招き,それにより輸送の安全確保に支障を来したり,
不当競争を引き起こしたりすることが懸念されるとして,個別に厳正な
審査を行うこととしている。(疎甲A2,疎乙1)
(ウ)そして,平成21年2月頃,通常国会において,特定地域における
一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法案
(政府案)(以下「特措法(政府案)」という。)が審議され,運賃・
料金の認可基準を道路運送法の中で見直すべきか否かといった点につい
て検討されたが,衆議院及び参議院の各国土交通委員会は,特措法(政
府案)を可決する際,いずれも,概要,今後策定される運賃のガイドラ
インにおいて,各地域の実情を踏まえ,タクシーの安全を確保するため
の適切な運賃水準が確保されるよう,自動認可運賃の幅を縮小するとと
もに,下限割れ運賃の審査を厳格化する措置,あるいは下限割れ運賃の
防止に必要な措置を講じることなどを内容とする附帯決議をし,各議院
の議決の下に同年10月1日に同法が施行された(疎乙6,7)。
(エ)平成25年10月30日,タクシーの過剰供給による運転者の労働
条件の悪化や,それに伴う輸送の安全の低下等を防止するとともに,利
用者の利益を向上させることを目的に,いわゆる議員立法によって特措
法の改正等を内容とする特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業
の適正化及び活性化に関する特別措置法等の一部を改正する法律案が国
会に提出され,衆議院本会議及び参議院本会議での可決を経て,同法律
案に基づく法律(特措法の改正を含む。)は平成26年1月27日に施
行された。
特措法の改正により,供給過剰地域や供給過剰となるおそれのある地
域における運賃値下げ競争に伴う運転者の労働条件の悪化に起因したサ
ービス・安全性の低下の防止を図るとともに,公定幅運賃の範囲内での
競争によって,サービス面などの運賃以外での健全な競争を促すことを
目的として,公定幅運賃制度が採用されている(特措法16条1項)。
(疎乙9)
ウ以上のとおり,公定幅運賃制度は,国会におけるタクシー事業の運賃・
料金の認可基準の見直し等の議論を踏まえて制定されたものであって,そ
の目的は,運転者の労働条件の悪化に起因したサービス・安全性の低下の
防止とサービス面などの運賃以外での健全な競争を促すことにあるところ,
その目的自体は国民の生命・身体等にも関わる重要な利益を保護するもの
であって,公共の福祉に合致するものということができる。その一方で,
公定幅運賃制度は,タクシー事業者の運賃・料金の設定の自由を制限する
ものであるが,職業選択の自由そのものに制約を課すものではなく,職業
活動としての営業の内容ないし態様に対する制約の範疇に属するものとい
える。また,公定幅運賃制度は,タクシー事業者の営利活動・事業の重要
な要素である収益に直結する運賃・料金の定めを直接規制するものであっ
て,その規制ないし制約の程度は小さくはないものの,これによって規制
されるのは,特定地域又は準特定地域として指定される一定の地域内にお
ける一定の幅の範囲内にない運賃・料金を定めて行う営業にとどまるもの
で,タクシー事業者においてもその幅の範囲内においては運賃・料金の設
定の自由が残されている。そして,運転者の労働条件の悪化に起因したサ
ービス・安全性の低下の防止とサービス面などの運賃以外での健全な競争
を促すためにどのような規制手段・態様を採用するのが適切妥当であるか
は,主として立法政策の問題として,立法機関の裁量的判断に待つほかな
いことに照らすと,特措法により定められた公定幅運賃制度自体について
は,その必要性と合理性についての立法機関の判断にその裁量の範囲の逸
脱又は濫用を認めることはできないから,憲法22条1項に反するとはい
えない。
(2)本件公示は違法か。
ア特措法16条1項,16条の4第1項,2項は,公定幅運賃制度を定め
てこれが妥当する地域内に営業所を有するタクシー事業者に対して,公定
幅運賃の範囲内の運賃を国土交通大臣等に届け出るよう求めるものである
が,その運賃の範囲については,同法16条2項で考慮要素としての基準
を提示するほか,具体的な額に関しては何らの規定を置いていない(別紙
3の2(3),(4),(5)ア,イ)。そして,上記(1)ウのとおり,公定幅運賃
制度は,運転者の労働条件の悪化に起因したサービス・安全性の低下の防
止とサービス面などの運賃以外での健全な競争を促すことにあり,当該タ
クシー事業者の事業の実態を踏まえた地方運輸局長の専門的・技術的判断
が必要であることを踏まえると,公定幅運賃としてどのような幅の運賃を
定めるかは,地方運輸局長の合理的な裁量に委ねられていると解される。
もっとも,タクシー事業者が収受する運賃・料金の額を一定の範囲に定め,
その範囲内にない運賃・料金による営業を許さない点で,タクシー事業者
の営業の自由と抵触するおそれがあるものであることに照らせば,地方運
輸局長の裁量権の範囲は一定の制約を受けることはいうまでもないことで
あって,地方運輸局長の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があった
場合には,当該判断は違法となると解される。
イ本件に係る公定幅運賃等は,以下のとおりである。
(ア)本件公示において定められた公定幅運賃の範囲は,別紙3(別添)
のとおりであるところ,これらは,別紙3の4(2)の「公定幅運賃の範
囲の指定方法等について」(平成26年1月27日付け近運自二公示第
39号)に従い,京都市域地区を除く地区については,従来の自動認可
運賃の初乗り運賃額に108/105を乗じて10円単位に四捨五入し
た額を改定初乗り運賃額とし,改定による増収が事業収入全体で108
/105の範囲内となるよう改定加算距離を調整することを基本とし,
これにより各地域のタクシー運賃を変更し,京都市域地区については,
既に平成26年1月17日付けで運賃改定(改定率9.90%)の認可
を行い,その実施日を同年4月1日としていたため,運賃改定による新
運賃を基準に上記の考え方による消費税率引上げ分の転嫁を行う(運賃
改定前の自動認可運賃からの改定率は,運賃改定率(9.90%)に消
費税率引上げ分(108/105)を加えたもの)ものであった(疎甲
A5,6)。
(イ)申立人らが営業所を置く交通圏において定められていた自動認可運
賃の範囲は,別紙4のとおりである。
ウ上記に認定したところによれば,本件公示において定められた公定幅運
賃の範囲は,従前から定められていた自動認可運賃の範囲を消費税率の変
更等を考慮してスライドさせたものであって,両者は一定の運賃幅をいう
ものとして共通する。しかるに,自動認可運賃は,前記(1)イ(イ)のとお
り,運賃認可の基準を考慮し,これらの基準に適合することが合理的に推
認される一定の範囲内の運賃については,個別事業者の原価計算書類等を
個別に審査することなく,申請が出されれば自動的に認可することとした
行政運用上の措置に過ぎないもので,自動認可運賃の範囲内にない運賃で
あっても法令に則り個別に審査してその適否の判断がされていたというも
のであるから,自動認可運賃の下限と上限の幅もおのずと限定されていた
と理解することができるのに対し,公定幅運賃はその範囲内にない運賃を
届け出ることが行政処分を伴う形で禁じられるだけでなく,その範囲内に
ない運賃を届け出た場合にはその変更が命じられ(運賃変更命令),この
命令に違反して運賃を収受した場合には刑事罰が科されるなど,公定幅運
賃の範囲内にない運賃による営業を厳しく禁じるものであって,届け出た
運賃が自動認可運賃の範囲内にない場合と公定幅運賃の範囲内にない場合
とでは,その法的効果や届出をした事業者の地位は全く異なるものとなっ
ている。そして,これを自動認可運賃制度の下において,自動認可運賃の
下限を下回る運賃について個別審査を経てその認可を受けて営業をしてい
たタクシー事業者からみると,公定幅運賃制度の下においては,自動認可
運賃の範囲を公定幅運賃の範囲にスライドさせるに当たって用いられた割
合的数値(消費税の税率の変更等が基準とされる。)を用いて従前(公定
幅運賃制度の適用前)に認可を受けていた運賃に修正(増額)を施した運
賃によって営業することが禁じられる結果となる。そうすると,近畿運輸
局長において,公定幅運賃の範囲をどのように定めるかについて裁量を有
しており,「地域指定において新たに運賃原価等を見直す必要性が乏しい
こと等を勘案し」たこと(別紙3の4(2)参照。疎乙13)を考慮したと
しても,その範囲内にない運賃での営業を禁ずる公定幅運賃の範囲を自動
認可運賃の範囲と同様に狭く解する必然性があるとは解されないし,自動
認可運賃の下限を下回る運賃について厳格な個別審査を経た上で,道路運
送法9条の3第2項に定める基準に適合するものとして,その認可を受け
て営業していたタクシー事業者の利益(これ自体,営業の自由に裏付けら
れた利益である。)を具体的にしんしゃくした上で公定幅運賃の範囲が定
められたものとはうかがえないところであり,その結果,本件に係る公定
幅運賃の下限は,申立人らの各届出運賃額(従前の認可運賃に消費税の税
率変更分を反映させたもの)よりも60円ないし180円程度も上回るも
の(ただし,約1.8kmないし約2km程度における運賃額)であって,
かかる公定幅運賃の範囲の上限及び下限を定める本件公示は,その前提と
なる事実の基礎を欠き,社会通念に照らして妥当性を欠くものとして,近
畿運輸局長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものといえる。
エ上記のとおり,本件公示は近畿運輸局長の有する裁量権の範囲を逸脱し
又は濫用したものといえるから,近畿運輸局長が申立人らに対して本件運
賃変更命令,本件運賃変更命令に違反したことを理由としてする本件自動
車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分をすることもまたその裁量
権の範囲を超え又はその濫用となるものといえ,本案について理由がある
とみえるということができる。
4争点(4)(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか。)について
相手方は,前記第2の4(4)(相手方の主張の要旨)のとおり,本件不利益
処分等について仮の差止めが許容された場合には公共の福祉に重大な影響を及
ぼすおそれがあると主張するが,抽象的なおそれをいうに過ぎず,申立人らに
対する本件不利益処分等のうち本件運賃変更命令,本件運賃変更命令に違反し
たことを理由とする本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可取消処分に
ついて仮の差止めをしたとしても,これにより公共の福祉に重大な影響を及ぼ
すおそれがあるとは認められない。
5まとめ
よって,申立人らの本件申立ては,本件運賃変更命令,本件運賃変更命令に
違反したことを理由とする本件自動車等の使用停止処分及び本件事業許可取消
処分について,本案事件の第一審判決の言渡しから60日を経過する日までの
間,仮に差止めを求める範囲で理由があるから同限度で認容し,その余の部分
については理由がないからこれらを却下することとし,申立費用の負担につい
て行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を適
用して,主文のとおり決定する。
平成26年5月23日
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官田中健治
裁判官新宮智之
裁判官松本諭
(別紙3)
関係法令等
1道路運送法
(1)一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者は,旅客の運賃及び料金を定め,
国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同
様とする。(9条の3第1項)
(2)国土交通大臣は,上記(1)の認可をしようとするときは,[ア]能率的な経営の
下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること,
[イ]特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと,[ウ]他の一般旅
客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないも
のであること,[エ]運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣
がその算定の基礎となる距離を定めたときはこれによるものであること,との各
基準によって,これをしなければならない(9条の3第2項)。
2特措法(特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化
及び活性化に関する特別措置法)の定め
(1)国土交通大臣は,特定の地域において,一般乗用旅客自動車運送事業が供給
過剰(供給輸送力が輸送需要量に対し過剰であることをいう。以下同じ。)であ
ると認める場合であって,当該地域における一般乗用旅客自動車運送事業の[ア]
事業用自動車一台当たりの収入の状況,[イ]法令の違反その他の不適正な運営の
状況,[ウ]事業用自動車の運行による事故の発生の状況に照らして,当該地域に
おける供給輸送力の削減をしなければ,一般乗用旅客自動車運送事業の健全な経
営を維持し,並びに輸送の安全及び利用者の利便を確保することにより,その地
域公共交通としての機能を十分に発揮することが困難であるため,当該地域の関
係者の自主的な取組を中心として一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性
化を推進することが特に必要であると認めるときは,当該特定の地域を,期間を
定めて特定地域として指定することができる(特措法3条1項)。
(2)国土交通大臣は,特定の地域において,一般乗用旅客自動車運送事業が供給
過剰となるおそれがあると認める場合であって,当該地域における一般乗用旅客
自動車運送事業の上記(1)[ア]ないし[ウ]に掲げる状況に照らして,当該地域の輸
送需要に的確に対応しなければ,一般乗用旅客自動車運送事業の健全な経営を維
持し,並びに輸送の安全及び利用者の利便を確保することにより,その地域公共
交通としての機能を十分に発揮することができなくなるおそれがあるため,当該
地域の関係者の自主的な取組を中心として一般乗用旅客自動車運送事業の適正化
及び活性化を推進することが必要であると認めるときは,当該特定の地域を,期
間を定めて準特定地域として指定することができる(特措法3条の2第1項)。
(3)国土交通大臣又はその権限の委任を受けた地方運輸局長(以下「国土交通大
臣等」という。)は,上記(1)又は(2)の規定により特定地域又は準特定地域を指
定した場合には,当該特定地域又は準特定地域において協議会が組織されている
ときは,国土交通省令で定めるところにより,当該協議会の意見を聴いて,当該
特定地域又は準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃
(国土交通省令で定める運賃を除く。)の範囲を指定し,当該運賃の範囲を,そ
の適用の日の国土交通省令で定める日数前までに,公表しなければならない。こ
れを変更しようとするときも,同様とする。(特措法16条1項,18条,特定
地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に
関する特別措置法施行規則(以下「特措規則」という。)11条1項)
(4)上記(3)の規定により指定する運賃の範囲は,[ア]能率的な経営を行う標準的
な一般乗用旅客自動車運送事業者が行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る適正
な原価に適正な利潤を加えた運賃を標準とすること,[イ]特定の旅客に対し不当
な差別的取扱いをするものでないこと,[ウ]他の一般旅客自動車運送事業者の間
に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること,との各基準
に適合するものでなければならない(特措法16条2項)。
(5)ア上記(3)の規定により運賃の範囲が公表された特定地域又は準特定地域内に
営業所を有する一般乗用旅客自動車運送事業者は,当該運賃の範囲の適用後に
当該特定地域又は準特定地域において行う一般乗用旅客自動車運送事業に係る
旅客の運賃を定め,あらかじめ,国土交通大臣に届け出なければならない。こ
れを変更しようとするときも,同様とする(特措法16条の4第1項)。
イ上記アの運賃は,当該特定地域又は準特定地域について上記(3)の規定によ
り指定された運賃の範囲内で定めなければならない(特措法16条の4第2
項)。
ウ国土交通大臣等は,上記アの規定により届け出られた運賃が,上記イの規定
に適合しないと認めるときは,当該一般乗用旅客自動車運送事業者に対し,期
間を定めてその運賃を変更すべきことを命ずることができる(特措法16条の
4第3項,18条,特措規則11条1項)。
エ特定地域若しくは準特定地域の指定が解除された際又は特定地域若しくは準
特定地域の指定期間が満了した際現に当該特定地域又は準特定地域において行
われている一般乗用旅客自動車運送事業について上記アの規定により届け出ら
れた運賃は、当該運賃が当該特定地域又は準特定地域について上記(3)の規定
により指定された運賃の範囲内にある場合には,上記1(1)の認可があったも
のとみなす(特措法16条の4第6項)。
(6)国土交通大臣等は,一般乗用旅客自動車運送事業者が特措法又は同法に基づ
く命令若しくは処分に違反したときは,6月以内の期間を定めて輸送施設の当該
一般乗用旅客自動車運送事業のための使用の停止若しくは一般乗用旅客自動車運
送事業の停止を命じ,又は許可を取り消すことができる(特措法17条の3第1
項,18条,特措規則11条1項)。
(7)上記(5)ウの規定による命令に違反して,運賃を収受した者は,100万円以
下の罰金に処する(特措法20条の3第4号)。
(8)法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その
法人又は人の業務に関し,上記(7)の違反行為をしたときは,行為者を罰するほ
か,その法人又は人に対しても,上記(7)の罰金刑を科する(特措法21条)。
3告示・通達について
(1)国土交通大臣は,前記2(2)に基づき,平成26年1月24日付けで,「特定
地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に
関する特別措置法施行規程」と題する告示(平成26年国土交通省告示第56
号)を定め,当該告示において,近畿運輸局長が定める営業区域のうち,「京都
市域交通圏」,「大阪市域交通圏」,「神戸市域交通圏」,「大津市域交通圏」
及び「湖南交通圏」等を準特定地域として指定した(4条)(疎甲A4)。
(2)自動車局長は,平成26年1月24日付けで「特定地域及び準特定地域にお
ける一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法第16
条の4第3項に基づく運賃の変更命令について」と題する通達(平成26年1月
24日国自旅第408号。以下「本件通達」という。)を各地方運輸局長等に宛
てて発出した。本件通達は,概要,①事業者の届出運賃が公定幅運賃の範囲内
にない場合,当該事業者に対し,公定幅運賃に適合する運賃を届け出るよう状況
に応じて複数回の指導を行うこととし,②上記①の指導後,正当な理由なく公
定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出がされない場合,公定幅運賃の
適用日以後に,[ア]公定幅運賃の範囲内の運賃を設定した運賃変更届出を15日
以内に行うこと,[イ]当該期間までに運賃変更届出を行わない場合は,運賃変更
命令の対象となることを勧告し,③上記②の勧告から15日経過後,当該事業
者が公定幅運賃に適合する運賃を設定した運賃変更届出を行わない場合は,運賃
の変更命令を発動することを前提に行政手続法に基づき当該事業者に対し弁明書
の提出の通知を行った上で,運賃変更届出書の提出期限として15日程度の期限
を付した運賃変更命令を発令することとし,④当該命令書に記載した提出期限
までに,公定幅運賃の範囲内の運賃への変更届出がされない場合は,運賃の変更
命令違反に該当するものとして,行政処分に係る所定の手続に移行することなど
が定められている。(疎甲A7)
4公示について
(1)近畿運輸局長は,「一般乗用旅客自動車運送事業者に対する行政処分等の基
準について」と題する公示(平成21年近運自監公示第11号,近運自二公示第
34号,近運技保公示第6号。なお,平成26年4月25日付け改正後のもの。
以下「処分基準公示」という。)を定め,特措法16条の4第3項の運賃変更命
令に違反した場合,初違反(違反を確認した日から過去3年以内に同一営業所に
おいて同一の違反による行政処分等がない場合における当該違反をいう。)は6
0日車の自動車等の使用を停止する処分,再違反(違反を確認した日から,過去
3年以内に同一営業所において同一の違反による行政処分等を1度受けている場
合の当該違反をいう。)は事業許可取消処分を行い,特措法16条の4第2項に
違反して運賃の設定をした場合(指定範囲外の運賃設定)には,初違反につき2
0日車の自動車等の使用を停止する処分,再違反につき40日車の自動車等の使
用を停止する処分を行う旨公示した。
なお,処分基準公示には,行政処分等を行う場合において,違反を確認した日
から過去3年以内に同一営業所において同一の違反による行政処分等を2度以上
受けている場合を累違反とし,行政処分等を加重する旨の定めがある。
(以上につき,疎乙12)
(2)近畿運輸局長は,タクシーの公定幅運賃の指定に関し,「公定幅運賃の範囲
の指定方法等について」(平成26年1月27日付け近運自二公示第39号)を
定め,「①公定幅運賃の範囲の指定にあたっては,当該範囲を指定する趣旨が
運送法(注-道路運送法)第9条の3第2項に基づく認可基準の趣旨と合致して
いることに加え,地域指定において新たに運賃原価等を見直す必要性が乏しいこ
と等を勘案し,従来から審査基準公示に基づいて設定された自動認可運賃の範囲
を,公定幅運賃の範囲として指定することとする。」とし,「②特定地域等の
指定前に運賃改定申請がなされており,運賃改定(消費税率引き上げに伴う運賃
改定を含む。)が特定地域等の指定と同時又は指定直後に行われる場合において
も,①の趣旨を勘案し,改定された自動認可運賃の範囲を,公定幅運賃の範囲と
して指定することとする。」とした(疎乙13)。
(3)近畿運輸局長は,本件公示(「一般乗用旅客自動車運送事業の公定幅運賃の
範囲の指定について」と題する公示(平成26年2月28日付け近運自二公示第
64号。ただし,平成26年3月25日付け改正後のもの。)を定め,別添(た
だし,抜粋)のとおり,公定幅運賃の範囲を指定した(疎乙14)。
(4)近畿運輸局長は,前記3(2)の通達を受けて,これと同旨の内容を定める「特
定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化
に関する特別措置法第16条の4第3項に基づく運賃の変更命令について」と題
する公示(平成26年1月27日付け近運自二公示第40号)を定めた(疎乙1
1)。

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