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平成17年4月5日宣告
平成16年(わ)第64号,第83号,第116号
被告人Aに対する業務上過失致死傷,道路運送車両法違反,貨物自動車運送事業法
違反,被告会社Bに対する道路運送車両法違反,貨物自動車運送事業法違反各被告
事件
主文
被告人Aを禁錮2年及び罰金40万円に,被告会社Bを罰金40万円にそれ
ぞれ処する。
被告人Aにおいてその罰金を完納することができないときは,金5000円
を1日に換算した期間,同被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社B(以下「被告会社」という)は,一般貨物運送事業等を営む自動車。
運送事業者,被告人Aは,その代表取締役であるが,
第1被告人Aは,被告会社の業務に関し,平成13年9月7日,函館市a町b番
c所在のC陸運支局において,北海道運輸局長に対し,整備管理者変更届を提
出する際,情を知らないDをして,被告会社従業員のEが自動車の整備又は改
造に関して5年以上実務の経験を有する旨の虚偽の事実を記載した整備管理者
変更届を提出させ,もって,整備管理者を変更したとき虚偽の届出をした,
第2被告人Aは,被告会社の業務に関し,平成15年11月5日ころ,北海道檜
山郡d町字e町f番地所在の被告会社本社営業所において,新たに大型貨物自
動車1台(青森FかG号)を被告会社の事業の用に供して,営業所に配置する
事業用自動車の数を変更して増車するに当たり,あらかじめその旨を国土交通
大臣に届け出なければならないのにこれをせず,もって,法令の規定による届
出をしないで事業用自動車に関する事業計画の変更をした,
第3被告人Aは,被告会社の使用する車両の整備管理業務を総括するとともに,
自動車運転の業務に従事するものであるが,同年12月22日ころ,前記大型
貨物自動車左後前輪の取付部にホイール付きタイヤ(直径103センチメート
ル,重量112キログラム)2本を固定するハブボルト8本のうち1本が折損
して,同取付部に同タイヤが完全に固定されていない状態にあり,走行中に同
取付部から同タイヤが離脱するおそれがあることを了知したのであるから,同
車両を運転するに当たっては,新たなハブボルトを取り付けるなどして,同取
付部に同タイヤを完全に固定する修理を施すとともに,同修理が完了するまで
は同車両の運転を厳に差し控えるべき業務上の注意義務があるのにこれを怠
り,同修理を施さず漫然上記状態を放置した上,平成16年2月18日午後4
時30分ころ,同町字g町h番地所在の被告会社資材置場から同車両の運転を
開始した過失により,同日午後4時35分ころ,同町字i町j番地付近道路に
おいて,同車両を上記状態のまま時速約60キロメートルで走行させた際,同
取付部から同タイヤ2本を離脱させた上,うち1本を折から同車両の左側歩道
上を対向歩行中のH(当時3歳)及びI(当時64歳)に衝突させてそれぞれ
路上に転倒させ,よって,Hに頭蓋底骨折等の傷害を,Iに全治約10日間を
要する左下腿挫裂創等の傷害をそれぞれ負わせ,同月19日午前3時42分こ
ろ,函館市k町l丁目m番n号所在のJ病院において,Hを上記傷害に基づく
頭部外傷後の脳機能障害により死亡するに至らせた
ものである。
(法令の適用)
被告人Aについて
被告人Aの判示第1の所為は平成14年法律第89号(道路運送車両法の一部を
改正する法律)附則9条により同法による改正前の道路運送車両法111条,11
0条1項3号,52条に,判示第2の所為は貨物自動車運送事業法78条,76条
2号,9条3項,同法施行規則6条に,判示第3の所為のうち,業務上過失致死の
点及び業務上過失致傷の点は刑法211条1項前段にそれぞれ該当するところ,判
示第3の罪は1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前
段,10条により1罪として犯情の重い業務上過失致死の罪の刑で処断することと
し,判示第3の罪について所定刑中禁錮刑を選択し,以上は同法45条前段の併合
罪であるから,同法48条1項により判示第3の罪の禁錮と判示第1及び第2の各
罪の罰金とを併科することとし,罰金刑については同条2項により判示第1及び第
2の各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期及び金額の範囲内で被告人Aを禁錮
2年及び罰金40万円に処し,その罰金を完納することができないときは,同法1
8条により金5000円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置することと
する。
被告会社について
被告人Aは被告会社の代表者であり,被告会社の業務に関し,判示第1及び第2
の各違反行為をしたものであるから,被告会社につき,判示第1の所為は平成14
年法律第89号(道路運送車両法の一部を改正する法律)附則9条により同法によ
る改正前の道路運送車両法111条,110条1項3号,52条を,判示第2の所
為は貨物自動車運送事業法78条,76条2号,9条3項,同法施行規則6条をそ
れぞれ適用して処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同
法48条2項により各罪所定の罰金の多額を合計した金額の範囲内で被告会社を罰
金40万円に処することとする。
(量刑の事情)
業務上過失致死傷の事案について
被告人Aに課された注意義務は,新たなハブボルトを取り付けるなどして本件車
両左後前輪の取付部にタイヤ2本を完全に固定する修理を施すとともに,その修理
が完了するまで運転を避止するというものであり,被告会社の代表者として同社が
使用する車両の整備管理業務を総括し,自ら自動車運転の業務に従事する被告人A
にとって,最も基本的なものである。被告人Aは,平成15年12月22日ころ,
本件車両を修理に出した際,修理業者からハブボルト1本の折損の事実を告げられ
て,修理の必要性を認識するとともに,平成12年秋ころ,被告会社の従業員が別
の車両を運転中,ハブボルト全部が折損しタイヤを脱輪させたことを知っていたほ
か,自らも平成15年11月17日ころ別の車両を運転中にハブボルト数本が折損
しタイヤを脱輪させかけた経験を有していたのであるから,未修理のまま本件車両
を走行させることの危険性も十分承知していた。にもかかわらず,被告人Aは,同
年12月23日ころ,本件車両を修理業者から引き取り,年末で繁忙であったこと
から,被告会社の従業員に運転を継続させ,そのうち,ハブボルトの折損の事実す
ら失念し,修理を施すことなく放置し,本件事故に至った(本件事故までの本件車
両の走行距離は6251キロメートルにも及ぶ。かかる被告人Aの態度は,後。)
記の違反に加え,法定定期点検整備が行われていなかったこと,日常点検が実施さ
れていなかったこと,整備不良車両による運送を行っていたこと等の事情から強く
看て取れる杜撰な車両管理,そして安全運行の確保に対する意識の低さに起因する
ものである。実際,平成16年1月に入ってから,本件車両を修理に出す時間的余
裕があったのであり,被告人Aが所要の修理を施しておけば,容易に本件事故を回
避し得たのである。これらの事情も考慮すれば,本件過失は重大であるといわなけ
ればならない。また,被害者両名は,歩道上を歩いていたのであるから,何らの落
ち度も認められないのであって,その過失は一方的でもある。被害者Hが死亡し,
同Iが傷害を負った結果が重大であることは多言を要しない。被害者らに衝突した
タイヤは,判示のごとく直径103センチメートル,重量112キログラムと巨大
なものであり,本件車両から脱輪したもう1本のタイヤが衝突した家屋の壁面等の
損壊状況に照らしても,タイヤが高速度で回転して被害者Hらに衝突した衝撃の凄
まじさがうかがえる。被害者Hは,野球選手や消防士になりたいなどと語っていた
というが,まさに無限の可能性を秘めた人生をわずか3年余りという短さで突如と
して閉ざされたのであって,その無念さを表す言葉が見当たらない。また,笑顔や
明るさで家庭を和ませ,あるいは瘉す存在であった被害者Hを失った家族の悲嘆が
甚大であることは,母親の証言からも十分うかがえる。被害者Hの遺族は,保険金
受領後も被告人Aを宥恕していないが,それは母親らが傍聴を重ね,本件事故の原
因を理解するにつれ,被告人Aの安全運行に対する配慮を欠いた姿勢を許せないと
する心情故からであり,今なお遺族が被告人Aに対して厳しい処罰感情を抱いてい
るのも無理からぬところである。
道路運送車両法違反,貨物自動車運送事業法違反の事案について
被告人Aは,被告会社の整備管理者が保有車両の整備管理等を適正に実施してい
るように装うため,当初名義を借りた知人から被告会社の従業員に整備管理者を変
更する際,自ら修理業者に依頼して同従業員が法の要求する5年以上の整備実務経
験を有していないにもかかわらず,かような経験を有しているとの内容虚偽の経歴
証明書を入手し,整備管理者変更届をした。また,被告人Aは,本件車両を一時的
に借り受けただけであるとして増車手続をせずに,本件車両の管理をあいまいなも
のにした。このように各違反は,貨物自動車の整備管理や貨物自動車運送事業の適
正な運営に関する法の趣旨をないがしろにするものであって,被告会社の代表者で
ある被告人Aの遵法精神の欠如を示すものといえる。
他方,被告人Aが,当公判廷において「一生懸けて罪を償っていく。被害者H,
の供養を行う。補償についてもできる限りの努力をしていく」などと述べ,遺族。
に対し,既に455万円を支払い,保険金のほかに500万円を支払う旨申入れて
いること,被害者Iに対する治療費を負担し,物損被害についても弁償しているこ
と等に照らせば,被告人が本件を悔悟し,反省を深めていると認められること,自
賠責保険及び任意保険から合計4493万円余りが被害者Hの遺族に支払われたこ
と,被告人Aには罰金刑に処せられたほか前科がないこと,被告会社は,本件後,
北海道運輸局長の命令に従って整備管理者の変更をはじめとする保有車両の整備管
理体制の改善を図ったこと,その他被告人Aの健康状態等同被告人及び被告会社の
ために酌むことができる事情が認められる。
被告人Aについては,その刑事責任には重いものがあり,同被告人のために酌む
ことができる事情を十分考慮しても,同被告人に対しては,刑の執行を猶予するの
が相当とはいえず,主文の刑を免れない。
(求刑被告人Aに対し禁錮3年6月及び罰金40万円,被告会社に対し罰金40
万円)
平成17年4月5日
函館地方裁判所刑事部
裁判長裁判官園原敏彦
裁判官伊藤聡
裁判官深野英一

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