弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
本件申立てを却下する。
訴訟費用は申立人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 申立ての趣旨
1 東京地方裁判所が平成元年一〇月一六日同裁判所昭和六〇年(ヨ)第二五九一
号実用新案権仮処分申請事件についてした仮処分命令は、申立人において裁判所が
相当と認める金額の保証を立てることを条件としてこれを取り消す。
2 訴訟費用は被申立人の負担とする。
3 仮執行宣言
二 申立ての趣旨に対する答弁
 主文同旨
第二 当事者の主張
一 申立の理由
1 仮処分命令の存在
 被申立人は、申立人のした別紙目録記載の勾配自在形プレキヤストコンクリート
側溝(以下「本件側溝」という。)の製造及び販売が被申立人の有する登録第一六
一七九八六号実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考
案」という。)を侵害するとの理由で、申立人を債務者として、東京地方裁判所に
仮処分申請(同裁判所昭和六〇年(ヨ)第二五九一号)をし、同裁判所は、右申請
に基づき、平成元年一〇月一六日、「一 債務者は本件側溝を製造し販売してはな
らない。二 債務者が占有する前項の物品の占有を解いて、福井地方裁判所執行官
にその保管を命ずる。三 執行官はその保管に係ることを公示するため適当な方法
をとらなければならない。」との仮処分命令(以下「本件仮処分命令」という。)
を発した。
2 特別事情の存在
 民事訴訟法七五九条にいう特別の事情については、被保全権利の金銭補償可能性
又は債務者の被る異常損害のいずれかが認められれば特別の事情が存在するという
べきであるところ、本件においては、次のとおり特別の事情がある。
(一) 被保全権利の金銭補償可能性
(1) 被申立人は、工業所有権等の管理を主たる業とする株式会社であり、本件
考案を自ら実施することなく、申請外北越ヒユーム管株式会社(以下「北越ヒユー
ム管」という。)をはじめとする全国約一三〇社に対して本件実用新案権について
通常実施権を許諾してその実施料収入を得ているにすぎない。したがつて、仮に申
立人の本件側溝の製造及び販売が本件実用新案権を侵害しているとしても、これに
より被申立人の被る損害は、結局、実施料に相当する金額であり、金銭による補償
が可能である。この点に関して、被申立人は、被申立人会社は北越ヒユーム管及び
申請外株式会社ホクエツ(以下「ホクエツ」という。)等の会社と共に「北越グル
ープ」を構成するものであつて、被申立人会社が技術開発及び工業所有権管理を、
北越ヒユーム管が製造を、ホクエツが販売をそれぞれ担当するものであると主張し
ているが、仮にこれら「北越グループ」各社の間に株式の持ち合い、株主の共通、
役員兼任等の事実があるとしても、これら各社は、別個の法人である以上、それぞ
れ独立の法的存在として自己の責任と計算において行動することが求められている
のであるから、その関係は、実用新案権の許諾者と実施権者との関係にすぎない。
被申立人は、実用新案権者として、実施権者との関係で当然に差止請求権を行使す
る義務を負うという訳ではなく、被申立人の被る損害は、実施料相当額というべき
である。
(2) 被申立人は、本件仮処分命令が取り消されるときは、申立人の本件側溝の
製造販売により、本件考案の実施品として北越グループをはじめ被申立人から許諾
を受けた実施権者が「VS側溝」の名称で製造販売する勾配自在形プレキヤストコ
ンクリート側溝(以下「VS側溝」という。)の価格が下落して、北越グループ
は、これにより多大の損害を被ると主張するが、福井県をはじめ他府県において
も、勾配自在形プレキヤストコンクリート側溝(以下「自由勾配側溝」という。)
につき需要が供給を上回つている現状であるうえ、申立人の市場占有率は福井県に
おいてすら約一四パーセントにすぎないので、本件仮処分命令が取り消されたとし
ても、販売競争が直ちに激化するとか、売り込みが困難になるとか、販売価格が引
き下げられるとか、販売宣伝費用が増加するというようなおそれはない。また、工
業所有権を有する者が実施許諾に当たり実施権者に対して製品の販売価格ないし販
売量に制約を課することは、独占行為、競争制限ないし不公正な取引方法に該当
し、独占禁止法違反となるものであつて、権利者としては、ひとたび実施許諾を行
うときは、許諾製品の販売価格や販売量についての調整機能を失わざるを得ない。
この点からすれば、被申立人が許諾製品の販売価格の下落や販売量等を自己の被る
損害との関係で主張することは、失当である。更に、従来の取引の経緯からみて、
顧客に顕著な値引を提示して市況を下落させた者は、常にVS側溝を販売する被申
立人側の実施権者であつたのであるから、被申立人が申立人側の販売者による値引
を主張するのは、失当である。更にまた、被申立人から実施権の許諾を受けている
北越グループをはじめとする業者について最近数年間における売上高及び純利益額
をみるに、ホクエツ及び北越ヒユーム管は、いずれも近年供給力を倍増して事業規
模を拡大してきたもので、売上高、純利益額とも年々増加して、同業他社と比較し
てもとび抜けた好業績をあげているものであり、福井県下においては、取扱製品の
うち五五パーセントがVS側溝であることからすれば、被申立人が値下がりによる
損失を受けているとは思われない。また、被申立人から実施権の許諾を受けている
北越グループ以外の業者についてみても、近年は増収増益を示しているものであつ
て、損失を受けているとは考えられない。
(3) 申立人の本件側溝は、輸送上の制約から、その販路が工場から八〇キロメ
ートル以内程度に限定されており、主として公共事業に使用されるものであるか
ら、その販売価格や販売数量の確定に困難はない。したがつて、本件においては、
被申立人は、申立人による本件側溝の販売価格及び販売数量を知ることが困難では
ないから、損害額の算定立証が困難であるとはいえない。
(二) 申立人の被る異常損害
(1) 申立人の直接損害
ア 申立人は、鯖江工場をはじめ若狭工場、滋賀工場等において本件側溝の販売を
行つていたものであるが、本件側溝は、実質的には、全部公共事業に使用され、当
該公共事業の実施は、毎会計年度後半に集中していることから、申立人は、需要期
開始前にあらかじめ供給力に不足する分を製造して、価格として一億円を下らない
在庫量を準備していた。また、需要期におけるユーザーの需要に対応するために
は、前記の在庫に加えて申立人の全生産力をフルに稼働させて生産を行う必要があ
る。本件仮処分命令により、申立人は、前記在庫量の出荷を禁止されたうえ、更
に、全工場における製造と今後の販売を禁止された。これにより予定されていた売
買代金の入金は不可能となり、申立人は、製造設備及び在庫品製造のための投資に
ついての金利負担により圧迫を受けることになる。
イ 一般に、建設業者が工事を受注した場合には、その工事に含まれるコンクリー
ト製品をブロツクメーカーに一括発注するため、側溝ブロツクの供給については、
側溝工事以外の工事用のコンクリート製品(カルバート、積みブロツク、境界ブロ
ツク、L型擁壁ブロツク、基礎杭、法枠ブロツク、U字溝等、多品種かつ大量のコ
ンクリート二次製品)の需要が伴うものであるところ、申立人における本件側溝の
供給もまた、側溝工事の一部をなすものにすぎず、本件仮処分命令により本件側溝
の供給が不可能となることにより、申立人は、他のコンクリート製品の販売にも致
命的な影響を受けることになる(ちなみに、工事種別による側溝ブロツクと他のコ
ンクリート製品の割合は、一定ではないが、例えば、道路工事の場合は五〇対五〇
程度、区画整理事業の場合は三〇対七〇程度、宅地造成工事の場合は一〇対九〇程
度である。)。
ウ 申立人は、福井県において実施されている九八箇所の公共工事のために本件側
溝を供給する契約を締結しているところ、本件仮処分命令により供給を禁止された
ものであつて、後記のとおり、一部の顧客との間では契約解除等の了承を得たもの
の、顧客からの厳しい履行請求に対応することができず、深刻な事態に陥つてい
る。ユーザーにおいては、今後申立人との取引停止の動きもあり、本件仮処分命令
が取り消されず維持されるときには、これが現実化するおそれが極めて大きい。
エ 以上のような状況に照らせば、本件仮処分命令が取り消されず維持されるとき
には、申立人の経営が重大な危機に瀕することは明白である。
(2) 公共工事への影響
ア 申立人は、福井県において実施されている九八箇所の公共工事のために本件側
溝を供給する契約を締結しているところ、本件仮処分命令により供給を禁止された
ものであつて、困難な状況に陥つている。すなわち、福井県における平成元年度後
半における申立人の本件側溝の需要は、約一万本と見積もられるところ、申立人の
在庫品の出荷が不可能となり、かつ、申立人による本件側溝の製造が禁止される
と、同県における自由勾配側溝の供給量は、到底需要を充足することができない。
イ 申立人は、本件側溝の技術的な欠陥に鑑み、かねてからその設計変更を検討し
てきたものであるところ、平成元年一〇月から設計変更後の新製品(以下「設計変
更品」という。)の製造を開始したことから、前記九八箇所の公共工事のうち発注
者の了解を得て契約を合意解除した約二五件を除き、設計変更品を納入することを
発注者に申し入れ、一部については了承を得た。しかしながら、製造設備の変更、
製造工程・部品数の増加、ユーザー・ゼネコンにおける設計変更品への切り替えへ
の抵抗等の事情から、出荷することのできる数量に制約があり、市場の需要に応じ
ることは到底できない。
ウ また、北越グループらの製造販売するVS側溝は、本件側溝とは規格が異な
り、天端巾が本件側溝より三ないし五センチメートル広いことから、前記公共工事
につきVS側溝をもつて本件側溝に代替することは、車道幅員の縮小を伴い、ま
た、側溝の外側に新たな用地の確保を必要とする場合が生ずるなどの問題があるほ
か、事業主体である市町村等において標準設計を示したうえでの採用後の代替は手
続上容易でないなど、困難な点が多く、事実上不可能である。
エ これらの公共工事は、公共事業としての性質上予算制度の制約があり、今予算
年度末(平成元年度末)までに完成させる必要があるところ、もともと工事計画上
時間的余裕が乏しいものであるから、この点からも、VS側溝をもつて本件側溝に
代替することは困難である。
オ 更に、福井県をはじめとする地方公共団体においては、現在、膨大な量の自由
勾配側溝を要する工事の計画を準備中であり、今後、今会計年度後半中には公共工
事が集中することが予想されるものであつて、本件仮処分命令を取り消すことなく
しては、これらの公共工事を今年度中に実施することは困難である。
 福井県における昨年度(昭和六三年度)一月ないし三月の側溝ブロツクの需要
は、合計約一万八〇〇〇トンであり、今年度の同時期には昨年度を上回る需要が予
測されるところ、昨年度における北越グループのVS側溝の供給量に照らせば、そ
の後の同グループの生産量の増大を勘案しても、なお、今年度同時期における公共
工事による需要量に、同グループ及び被申立人側の実施権者のみをもつて対応する
ことは不可能である。おそらく、工事発注者は、被申立人を説得して、申立人側の
業者による本件側溝の出荷に明示ないし黙示の同意を与えさせることにより事態を
一応収拾し、年度末までに工事を完成させるものとみられるが、それにしても、本
件仮処分により申立人の製造販売が禁じられている状況では、需給関係の混乱は避
けられない。
カ 申立人は、福井県を中心としてその事業を運営し、コンクリート二次製品の安
定供給に努力を傾け、それなりの実績をあげてきたものと自負している。工事発注
者たる地方公共団体からの要請があれば、それに対応するための環境を作り出すた
めの努力は、いかなる時においても怠ることができないのが、地域社会における供
給者、供給設備を保有している者の社会的責任であり、このような申立人の社会的
職責の遂行に支障を生ずることを避ける観点からも、本件仮処分命令は取り消され
るべきである。
(3) ユーザーへの影響
ア 前記公共工事の施工者として既に本件側溝を発注しているユーザーとしては、
申立人からの本件側溝の納入がなされないときには、工期までに工事が完成せず、
工事代金の回収ができないことになる。その額は、本件側溝の代金価額の約一〇倍
にも達するものであつて、ユーザーは、回復不能な経済的損失を被ることになる。
イ 更に、前記のとおり、福井県をはじめとする地方公共団体において、自由勾配
側溝を要する工事の計画を準備中であり、今後、今会計年度後半中には公共工事が
集中することが予想されるところ、これらの工事を受注して施工する建設業者とし
ても、本件仮処分命令の取消しなくしては、工事に必要な側溝ブロツクを調達する
ことができず、年度末までに工事を完成することが不可能となる。
(4) 被申立人側の事情
ア 既に述べたとおり、本件仮処分命令の取消しにより被申立人の被る損害は、実
施料に相当する金額であつて金銭による補償が可能である。更に、加えるに、本件
仮処分命令が取り消されたとしても、福井県等における今年度の側溝ブロツクの需
給状況に照らせば、販売競争の激化、被申立人側における売り込みの困難化、販売
価格の下落、販売宣伝費用の増加といつたおそれはなく、また、被申立人から実施
権の許諾を受けている北越グループをはじめとする業者は、最近数年間における売
上高及び純利益額を増加して、好業績をあげているものであつて、仮処分命令の取
消しにより損害を受けるとは考えられない。
イ 本件実用新案権に係る製品は、実質的には、全部が公共工事に使用されるもの
であり、加えて、本件実用新案権は、異議申立てによりいつたん拒絶査定となり、
権利は成立しないものと一般に考えられて、多数の企業がこの観測のもとに事業を
開始していたところ、審判を経て登録されたものであつて、これらの事情が存在す
ることに照らせば、被申立人において無制約に差止請求権を行使することは、権利
濫用をもたらすおそれなしとしない。
(5) 本件実用新案権の無効事由の存在
 本件実用新案権には、無効事由が存在する。すなわち、本件実用新案権に関し昭
和五一年九月三日になされた分割出願は、要旨変更に当たるので、原出願日遡及の
効果は認められず、他方、右分割出願の考案に係る製品は、おそくとも同年三月に
は公然と実施されていたから、これにより、本件考案は、公知公用となつていたの
である。申立人は、昭和六一年九月二日、右事由を理由として本件実用新案権につ
いて無効審判を請求して、現在、右審判は、特許庁において審理されているもので
あつて、申立人としては、無効審決がなされるものと理解している。なお、ここに
いう要旨変更とは、原出願における明細書の記載の一部が分割出願において無視さ
れて、無制約な補正がなされ、これにより要旨変更がなされている点を問題とする
ものである。なおまた、右補正により成立した本件実用新案権は、側溝形成後の躯
体の目的整合性、安全性、耐久性に問題を含む製品までも包含するような権利に拡
大されており、この点からも、原明細書に開示された内容と異なることは明らかで
あるが、現に、本件考案の実施品であるVS側溝について作業中に破損する等の事
実が発生して、石川県土木部、愛知県半田市土木課及び静岡県浜松市建設部から耐
久性の改善についての指導ないし要望が行われているものであつて、この事実は、
右要旨変更についての申立人の主張を裏付けるものである。
(三) 以上のとおり、仮に申立人の本件側溝の製造及び販売が本件実用新案権を
侵害しているとしても、これにより被申立人の被る損害は、金銭による補償が可能
であり、また、本件仮処分命令により、申立人は、異常損害を被つている。他方、
申立人は、本件仮処分命令の本案訴訟(東京地方裁判所昭和六〇年ワ第一三六七七
号実用新案権侵害差止請求事件。以下「本件本案訴訟」という。)の第一審判決に
対する強制執行停止申立事件(東京高等裁判所平成元年ウ第一二〇九号)において
金五〇〇〇万円を担保として既に提供しているほか、更に、保証金が追加的に必要
とされるときは、裁判所の判断に従つてこれを提供する用意があるから、本件仮処
分命令は、これを取り消すべきものである。
二 申立ての理由に対する被申立人の認否及び主張
1 仮処分命令の存在について
 申立ての理由1の事実は認める。
2 被保全権利の金銭補償可能性について
(一) 申立ての理由2(一)については、このうち、被申立人が工業所有権等の
管理を主たる業とする株式会社であること、本件考案を自ら実施していないこと及
び北越ヒユーム管をはじめとする全国で一〇〇社を超える業者に対して本件実用新
案権について通常実施権を許諾してその実施料収入を得ていることは、認めるが、
その余の申立人の主張は、争う。
(二) 被申立人は、製品開発及び工業所有権の管理を担当する会社であり、株式
を持ち合い、同一役員による兼任関係にある次の各社と共に北越グループを構成し
て、同グループ内において、それぞれ次のとおり各部門を担当しているものであ
る。
北越ヒユーム管 製造
北越コンクリート株式会社 製造
ホクエツ 販売
被申立人会社 製品開発及び工業所有権管理
 したがつて、被申立人自身は、コンクリート製品の製造販売を行つていないが、
北越グループとしてはその製造販売を本業としており、実質的には、被申立人自身
が製造販売しているのと同一である。
 そして、同グループは、次のとおり、申立人の侵害行為によつて回復し難い損害
を被つているのである。
 北越グループは、コンクリート製品の製造販売を本業としており、常に、新製品
を開発し、その普及を図つてきたものであり、自由勾配側溝も、その一つである。
北越グループは、昭和五〇年に自由勾配側溝を開発し、昭和五一年四月一五日にそ
の考案である本件考案について実用新案登録出願をした後にこれを製品化し、同年
三月から、「勾配可変側溝」の名称(昭和五六年に「VS側溝」に名称変更)でそ
の普及につとめた結果、年を追つて普及し、地域によつては自由勾配側溝が道路用
側溝ブロツクの主流を占めるに至つた。北越グループの営業地域は、東北、関東、
北陸地方であるところ、コンクリート製品の運搬の非容易性により供給地域が工場
から一定範囲内に限定されることから、自由勾配側溝の普及を図るため、地域の実
情に応じて各社に本件考案の実施許諾を行い、実施権者によるVS普及会を組織し
て規格を統一してきた結果、全国で一〇〇社を超える各社に実施許諾を行い、全国
的に供給することができる態勢を整備するに至つた。そして、福井県についても、
北越グループは、工場を設け、自社生産と実施許諾により供給態勢を確立しようと
していたところ、自由勾配側溝の優秀さと成長性に着目した申立人は、VS側溝の
形状を若干修正した形状の自由勾配側溝の意匠について昭和五四年一一月九日に意
匠登録出願をし、その意匠に係る側溝を門型側溝と称する製品として販売した。こ
れが本件側溝である。福井県においては、申立人をはじめとする業者が組合員とな
つて福井県コンクリート二次製品工業組合という共販組織を結成し、申立人は、門
型側溝を組合規格として、この組合を通じて本件側溝の共同販売を行つてきた。そ
して、更に、申立人は、自社の門型側溝の型をホクコン型と称して、各地の業者に
実施許諾することにより、被申立人自身の本件実用新案権侵害にとどまらず第三者
による侵害をも行わせてきたのである。
 申立人の総売上高中に本件側溝の売上高の占める割合は、一パーセントにも満た
ない僅少なものであり、申立人は、そのような本件側溝をおとり商品として、他の
コンクリート製品の売り込み、他製品の販売により利益をあげるという販売方針を
とつているものであつて、このため、申立人は本件側溝の販売に当たつて思い切つ
た値引きを行つており、その結果として、自由勾配側溝の適正価格はトン当たり一
万九〇〇〇円程度であるのに、福井県における販売価格は、一万五〇〇〇円程度ま
で下落している。これに対して、北越グループの場合は、福井県下においては、V
S側溝の売上が全体の五五パーセントを占め、鯖江工場に至つては、その生産の九
五パーセントがVS側溝であることから分かるように、VS側溝が主力商品であ
る。福井県において年間約三万五〇〇〇トンのVS側溝を供給している北越グルー
プとしては、申立人の値引きにより多大の損害を被つているものである。
 申立人は、ホクエツ及び北越ヒユーム管等が利益をあげていることを理由に損失
を受けているとは言い難いと主張するが、これら各社の利益は、企業努力に基づく
ものであり、申立人の侵害行為がなければ、更に多額の利益をあげていたはずであ
つて、これをもつて申立人の侵害行為による損害を否定する根拠とはなし得ない。
そもそも、他の商品を含めた会社全体の決算をみて増収増益となつているから損失
がないということはできず、また、権利者が赤字にならなければ仮処分の必要性が
ないなどということもできない。
 加えて、福井県下においては、侵害品であるホクコン型が地元の利を生かし、仮
処分申請中にもかかわらず、売上をのばし、その結果、北越グループの市場占有率
は、昭和五七年に七〇パーセントであつたものが、平成元年一二月現在では五〇パ
ーセントにまで下降している。
 本件実用新案権の存続期間は、平成二年四月一五日までであるところ、ここで本
件仮処分命令を取り消すときには、申立人側の製品が一挙に売上を伸ばし、市場占
有率を高めるおそれがある。このようなことでは、本件実用新案権の独占権として
の意味は、全く失われ、被申立人の開発努力は報われないことになるばかりか、将
来の市場占有率の帰すうにも大きく影響することとなる。
(三) 被申立人は、実施料を対価として北越グループ以外の各社にも本件考案の
実施許諾をしているものであつて、許諾をした実用新案権者として、これらの実施
権者のためにも、申立人による侵害行為を差し止める義務を負うものである。ま
た、一方で実施料を支払つている実施権者があり、他方で実施料の支払なく侵害行
為を行つている者がいる状況を放置するときは、実施権者としては、実施料を支払
う意味が失われるものであつて、このような観点からも、被申立人には差止めを求
める必要性がある。
 更に、本件の場合、被申立人は、需給関係を考慮して地域別に実施許諾を行つて
いるものであり、申立人の侵害行為は、申立人の実施計画を妨害するとともに、こ
のような実施計画に基づいて実施許諾を受けた実施権者の利益を害することにな
る。
(四) 申立人の主張は、要するに、侵害行為を行つても、本案判決の確定を待つ
て実施料相当額を損害賠償額として支払えば民事上の責任は尽くされるというに帰
するが、これは、独占権である実用新案権の本質を無視するものである。被申立人
は、実用新案権者として誰に実施を許諾するかの自由を有しているものであつて、
被申立人がVS普及会を組織して計画的に実施許諾をしているときに、ほしいまま
に侵害行為を行い、事後的に実施料相当額を支払えば足りるというのでは、被申立
人と実施権者との間の実施契約は無意味に帰してしまうのであつて、申立人の主張
は、明らかに失当である。
 そもそも新技術の開発には多額の先行役資が必要であつて、これを商品として普
及させるにも、多大の費用を要する。ところが、侵害者にとつては、これらの負担
は全く不要であることから、正当な権利者ないし実施権者より低価格による販売が
可能となり、有利な条件の下で市場における競争を行うことが可能である。仮処分
による早期における差止めを認めず、事後的な損害賠償で足りるというのでは、企
業の開発意欲を阻害し、工業所有権制度の本質が崩壊することになる。
 前述のように、本件実用新案権の存続期間は、平成二年四月一五日までであり、
期間満了前六か月にしてようやく権利の本質である独占的実施を実現し得たのに、
ここで本件仮処分命令が取り消されるときには、被申立人としては、もはや差止請
求権を行使する機会は永久に失われ、反面、申立人は、取消しを好機として一挙に
市場占有率を向上させる行動にでることが予想されることから、将来の市場占有率
の帰すうにも、大きな影響を与えることとなるのである。
(五) よつて、本件仮処分命令が取り消されるときは、被申立人に対し、単なる
金銭補償をもつては回復し難い損害を与えるものである。
3 申立人の被る異常損害について
(一) 申立ての理由2(二)は、争う。
(二)(1) 申立人の直接損害について
ア 申立人は、全国に一六工場を有しているが、そのうち本件側溝を製造している
のは、福井県所在の鯖江工場と若狭工場である。主として製造しているのは、この
うち鯖江工場であり、若狭工場には二〇〇本程度の在庫しか存在しない。被申立人
は、本件仮処分命令の執行として、鯖江工場において二〇八四本の本件側溝を執行
官保管とした。そして、その額は、合計約三〇〇〇万円である。主力工場である鯖
江工場における在庫が右程度の量であるから、その他に若狭工場及び滋賀工場分を
加えても、一億円の在庫があるという申立人の主張は、いかにも過大であつて、認
めることはできない。
イ 需要期を控えてフル生産をする必要があるとの主張については、それは、侵害
行為を更に拡大しようとするものである。このような行為を防止しようとすること
こそが仮処分の目的にほかならないのであつて、このような事情が取消事由となら
ないことは明らかである。
ウ 売買代金の入金が遅れ、金利負担を生じて経営を圧迫するという点について
は、仮処分の執行に当然に伴う不利益であつて、特別事情に該当するものではな
い。
 申立人の経営状態をみるに、昭和六三年度における売上高は一七九億九七〇〇万
円、経常利益は一一億二一〇〇万円となつている。申立人の主張によれば、平成元
年度後半における申立人の本件側溝の需要は、約一万本と見込まれるというのであ
るから、一本平均約一万五〇〇〇円(申立人提出の疎明資料による。)として計算
しても一億五〇〇〇万円であるから、総売上高に占める本件側溝の割合は、前年の
総売上高を基準としても、〇・八パーセントにすぎない。したがつて、本件仮処分
命令により本件側溝の製造販売を差し止められたからといつて、申立人の経営に影
響を与えるものとは到底いえない。
エ また、本件側溝の主力工場である鯖江工場の従業員は、二〇名前後にすぎず、
しかも、同工場では、本件側溝以外の多種多様な製品も製造しているから、本件仮
処分命令により申立人会社の従業員の雇用状態に影響を与えるということもない。
オ 申立人は、本件仮処分命令により本件側溝の供給が不可能となることにより、
他のコンクリート製品の販売にも致命的な影響を受けることになると主張するが、
申立人の総売上高中に本件側溝の占める割合は僅少であり、本件側溝を製造してい
るのが申立人会社の一六工場のうちの一部にすぎないことからすれば、他のコンク
リート製品に影響しているとしても、そのことが申立人の経営をゆるがすようなも
のとはいえない。申立人の本件側溝をおとり商品とする他製品の販売により、被申
立人は、多大な損害を被つているものであり、この点からすれば、かえつて、本件
仮処分を取り消したときの被申立人の不利益の方が大きいというべきである。
カ 受注先から厳しい態度をもつて納期の履行を求められ、これに対応することが
できないとの主張については、これは、すべて申立人自身による侵害行為によつて
生じた当然の帰結であり、仮処分に伴う必然的な不利益として申立人において甘受
すべきものである。
キ 本件側溝を製造販売する行為が本件実用新案権を侵害するものであることは明
らかであつて、申立人の販売納入先はすべて工事業者であることから、これら工事
業者が本件側溝を使用する行為もまた、本件実用新案権の侵害行為となるものであ
る。申立人が本件側溝の納入を更に継続しようというのは、取引先の業者の侵害行
為を助長する行為であつて、厳に慎むべきことである。
ク 実用新案権の侵害は、実用新案法五六条の規定により刑事罰の対象となつてい
ることからすれば、仮に本件仮処分命令が取り消されたとしても、申立人として
は、本件側溝の販売をすることはできないはずである。
ケ 本件仮処分命令の発令の経緯についていえば、本件仮処分命令は、債務者であ
る申立人にとつて突然に発令されたものではなく、申立人としては、発令を予測し
てこれに対応する措置をとる時間的余裕が十分あつたものである。すなわち、本件
仮処分命令は、昭和六〇年に本件本案訴訟の提起に伴つて申請され、本案訴訟の第
一審判決の言渡しの後に発令されたものであつて、その間に四年間の期間があり、
申立人としては、本案訴訟の推移に鑑み、本件仮処分命令の発令を予想して、本件
側溝の納入先に迷惑のかからないような措置をとる時間的余裕が十分にあつたもの
である。しかるに、そのような措置をとることもなく、漫然と本件側溝の製造販売
を継続したまま本件仮処分命令の発令を迎えたため、納入先から契約履行について
厳しい要求を受けたからといつて、それは、自己の行為に基づくものとして甘受す
べきものである。
コ 福井県コンクリート二次製品工業組合所属の業者のうち、従来本件側溝を販売
していた一〇社は、いずれも、本件本案訴訟の第一審において本件側溝の実用新案
権侵害を認める判決がなされた後は、本件側溝の販売を中止している。しかるに、
申立人のみが、本件仮処分命令の取消しを得てまで本件側溝の製造販売を行わねば
ならないとする必要性は、全く存在しない。
サ 更に、申立人が、本件側溝について設計変更をして既に設計変更品を製造販売
しており、また、申立人において設計変更品の品質の方が優れていると考えている
のであれば、なおさら本件仮処分命令を取り消す必要はないことになる。
シ また、申立人は、魚津市農林土木課発注の魚津市慶野地内の工事現場に平成元
年一二月一八日に本件側溝二〇本を、富山市農林部土地改良発注の富山市八町地町
の工事現場に同年一一月一五日からの工事期間中に本件側溝三二本をそれぞれ納入
したほか、本件仮処分命令の執行後も、鳥取県の大山工場においてCH側溝と称す
る侵害品を製造販売している。このように本件仮処分命令に違反する行為を行つて
いながら、その取消しを求めることは許されないものである。
(2) 公共工事への影響について
 申立人は、本件仮処分命令によつて公共工事に支障を生じていると主張するが、
そのような事実はない。
 申立人の主張する具体的な工事現場については、いずれも側溝工事に支障を生ず
ることなく工事が実施されている。申立人が工事に支障を生じている旨当初主張し
ていた各工事現場については、本件側溝に替えてVS側溝が使用され、あるいは本
件仮処分命令が発令されているにもかかわらず、その後に申立人あるいはその下請
ないし関連会社から本件側溝に該当する門型側溝が納入されて側溝工事が終了して
いる。
 申立人は、本件側溝とVS側溝との代替は困難であると主張するが、代替可能で
ある。公共工事が発注される際の設計書においては、特定の製品名が指定されるこ
とはなく、公共工事を落札した工事施工者において、自由勾配側溝としてVS側溝
とホクコン型側溝のいずれを採用するかは、自由である。VS側溝の天端巾が本件
側溝より若干広いことで、車道幅員との関係等から代替性に困難をもたらすことは
なく、この点についての申立人の主張は、失当である。現に、工事の支障を申立人
が当初主張していた泊関連道整備工事(発注者小浜市、施工者杉本組)では、本件
側溝に替えてVS側溝が使用されている。
 北越グループに属する北越ヒユーム管、北越コンクリート工業株式会社のほか、
被申立人から実施許諾を受けているVS普及会所属の各社を併せると、福井県及び
隣接各県(ただし、京都府を除く。)で一六社一八工場があり、富山県に三社があ
る。そして、福井県内五社六工場の生産能力は、一か月約九六〇〇本(約三〇〇〇
トン)であり、平成元年一〇月末において一万七五一〇本の在庫量を有するもので
ある。このように、被申立人側において十分な代替供給能力があるのであるから、
本件仮処分命令の取消しなくして十分に需要に対応することができる。
 以上のとおり、本件仮処分命令によつて公共工事に支障を生じている事実はな
い。
(3) ユーザーへの影響について
 前述のとおり、本件仮処分命令の発令後も公共工事に支障を生じている事実はな
く、また、本件側溝とVS側溝との代替が可能であるから、本件側溝のユーザーに
おいて工事完成不能による損失を被る旨の申立人の主張は、失当である。
(4) 被申立人側の事情について
 本件仮処分命令が取り消されるときは、被申立人が金銭補償をもつては回復し難
い重大な損害を被ることは、既に述べたとおりである。前述のような申立人側の事
情と本件仮処分命令が取り消された場合の被申立人の重大な損害を比較すれば、本
件において仮処分の取消事由があるとはいえない。
(5) 本件実用新案権の無効事由について
 申立人は、本件実用新案権に無効事由がある旨の主張を、本件本案訴訟におい
て、また、本件仮処分の審理においても主張しているが、本案訴訟第一審判決にお
いて右主張は認められておらず、申立人の請求している無効審判においても、申立
人の主張が認められる可能性はない。なお、福井県コンクリート二次製品工業組合
も、本件実用新案権について無効審判を請求していたが、昭和六三年一〇月一九日
に請求は成り立たない旨の審決がなされている。申立人が無効審判において無効事
由として主張するところは、右審判における主張と比べて特に新しいものはなく、
この点からも、申立人の無効審判請求が排斥されることは明らかである。
 VS側溝について、石川県土木部、愛知県半田市土木課及び静岡県浜松市建設部
から耐久性の改善についての指導ないし要望が行われている事実はなく、申立人の
主張は、事実に反する。
 以上のとおり、本件実用新案権の無効についての申立人の主張は、失当である。
三 被申立人の主張に対する申立人の反論
1 被申立人の主張3(二)(1)シについて
 申立人が富山市八町地町の工事現場に本件側溝三二本を納入したことは認める。
本来、設計変更品を納入の予定であつたところ、現場の手違いにより本件側溝を納
入してしまつたものであり、工事残の八九本については設計変更品に切り替えた。
申立人は、本件仮処分命令の執行後においては、各工場事業所に対して仮処分命令
遵守の指示を行つていたものであるが、関係工場が九工場に達することもあり、結
果として指示の徹底が不十分であつたことは認めざるをえない。
 申立人が魚津市慶野地内の工事現場に納入した自由勾配側溝二〇本は、川崎製鉄
株式会社、日新製鋼株式会社、前田製管株式会社等の申立人を含めた六社の共同開
発に係るSB型消・流雪溝であつて、本件考案の技術的範囲に属するかどうか疑問
であり、また、本件仮処分命令の対象ともなつていない。
 鳥取県大山工場の製造品は、既に、設計変更品に切り替えている。
2 同3(二)(2)について
 申立人が工事に支障を生じている旨当初主張していた各工事現場については、申
立人による契約解除の申入れが受け入れられ、他社製の門型側溝が納入され、ある
いは設計変更品への切り替えが認められて、いずれも工事に支障を生じていないこ
とは認める。なお、泊関連道路工事については、申立人による契約解除の申入れが
受け入れられたものであり、右解除後本件側溝に替えてVS側溝が使用されたかど
うかは知らない。
第三 証拠関係(省略)
       理   由
一 仮処分命令の存在
 申立ての理由一1(仮処分命令の存在)の事実は、当事者間に争いがない。
二 特別事情の存在
 申立人は、本件仮処分命令を取り消すべき特別の事情としては、被保全権利の金
銭補償可能性又は債務者の被る異常損害のいずれかが認められれば特別の事情が存
在するというべきであるところ、本件においては、この双方が存在すると主張する
ので、順次判断する。
1 被保全権利の金銭補償可能性について
 仮処分中には、金銭補償を受けることにより終局目的を達することができるもの
もあり、このような事情の認められる場合には、この一事をもつて民事訴訟法七五
九条にいう特別の事情が存在すると解することができる。右にいう金銭補償によ
り、終局の目的を達することができる場合とは、被保全権利が財産権であつて金銭
賠償が可能であることを必要とすることは当然であるところ、単に抽象的に金銭賠
償が可能であるというだけでは不十分であつて、被保全権利の実現と金銭補償によ
つて受ける利益とが、等価値でなければならない。およそ仮処分によつて保全しよ
うとする権利は、その性質上必ずしも金銭的利益と等価値ではないが、個々の具体
的場合においては、例外的にこれを等価値とみることができる場合もあるので、そ
のような場合に限り、これを理由として保証を条件とする仮処分の取消しを命ずる
ことができるものと解すべきところ、等価値であるかどうかについては、被保全権
利の性質、従来の権利行使の状態、当該仮処分の種類内容、仮処分の必要性の程
度、仮処分の取消しによつて債権者に生ずる不利益の内容及びその蓋然性、債権者
による損害賠償請求権行使の難易度等の諸般の事情を総合して判断すべきものであ
る。
 これを本件についてみるに、本件仮処分の被保全権利は、実用新案権に基づきそ
の侵害の停止及び予防を求める差止請求権であるところ、およそ実用新案法が事後
の損害賠償にとどまらず、実用新案権者が権利侵害の停止又は予防を請求すること
ができることを規定している(同法二七条)のは、一般に実用新案権に対する侵害
においては、権利者の被る損害が金銭的利益に止まるものではないと解されること
から、事後における金銭賠償のみでは侵害からの救済が不十分であり、差止請求権
に関する定めを要するという趣旨によるものと解するのが相当である。実際、実用
新案権を含めて工業所有権については、その権利の本質は独占権にあるのであり、
その権利の行使は、製品の製造販売を通じて権利者ないし実施権者の業界ないし市
場における地位に密接に関連するものであつて、法律に基づいて付与される独占的
地位の保障なくしては、権利者ないし実施権者の経営の存立すら危うくなることも
まれではないというべきである。これらの点からすれば、同法による差止請求権を
被保全権利とする仮処分にあつては、特段の事情のない限り、事後における金銭補
償によつて仮処分の終局の目的を達することはできないというべきである。
 そこで、これを本件仮処分についてみるに、被申立人が工業所有権等の管理を主
たる業とする株式会社であつて、本件考案を自ら実施することなく、北越ヒユーム
管等の北越グループ各社をはじめとする一〇〇社を超える業者に本件実用新案権に
ついての通常実施権を許諾してその実施料収入を得ていることは、当事者間に争い
がないから、被申立人の、本件仮処分命令によつて保全される利益のうちには、北
越グループ各社をはじめとする実施権者のVS側溝の販売量ないし売上高の減少の
防止、ひいては、被申立人がこれら実施権者から実施料として取得すべき報酬その
他の金銭的利益の減少の防止が含まれていることが認められ、この限りにおいて
は、金銭補償により目的を達し得るということができる。
 しかしながら、本件考案を自ら実施することなく他人に通常実施権を許諾して実
施料収入を得ているという一事のみをもつて、直ちに、被申立人の被保全権利が金
銭的利益と等価値であると判断することはできない。すなわち、実用新案権者とし
ては、一般に、通常実施権を許諾するに当たり、実施許諾すべき企業の生産能力な
いし販売能力、収益状況、労使関係、経営状態、業界あるいは地域における地位等
の諸要素を考慮のうえ、製品の製造量、運送手段、販売戦略、市場状況等の分析結
果などを勘案してこれを決定するのが通例であるというべきところ、実用新案権者
の許諾を得ない侵害者により製品の製造販売がなされるときは、その結果引き起こ
される過度の販売競争に基づく製品流通の混乱、製品価格の下落等により当該実用
新案権自体の価値が侵害されるおそれがあり、また、実用新案権者において法律上
あるいは契約上当然に侵害者の行為を差し止めるべき義務を負うかどうかはさてお
くとしても、侵害者の行為を放置するときは、実施権者との関係で困難な立場とな
り、ひいては、工業所有権の開発ないし管理を行う者としての社会的地位を危うく
するおそれすら否定することができないものというべきである。
 本件においては、成立に争いのない疎甲第四、第五号証、第三〇号証の一ないし
四、疎乙第一ないし第六号証、第九号証、第一一ないし第一四号証、第二〇ないし
第二四号証、第二五号証の一、二(本件においては、疎甲号各証及び疎乙号各証
は、いずれも成立について当事者間に争いがないので、以下、書証の成立の真正に
ついての摘示を省略する。)及び弁論の全趣旨によれば、(1)被申立人は、北越
ヒユーム管、北越コンクリート株式会社、ホクエツの各社と株式を持ち合い、同一
役員による兼任関係にあつて、これら各社と共に北越グループを構成し、同グルー
プ内において製品開発及び工業所有権の管理の部門を担当する会社であること、
(2)北越グループは、コンクリート製品の製造販売を主たる業務としているとこ
ろ、昭和五〇年に自由勾配側溝を開発し、昭和五一年四月一五日にその考案である
本件考案について実用新案登録出願をした後これをVS側溝として製品化し、その
普及につとめた結果、VS側溝は、同グループの主力商品となつていること、
(3)コンクリート製品の運搬の非容易性により供給地域が工場から一定範囲内に
限定されることから、自由勾配側溝の普及を図るため、地域の実情に応じて各社に
本件考案の実施許諾を行い、実施権者によるVS普及会を組織して規格を統一して
きた結果、全国で一〇〇社を超える各社に実施許諾を行い、全国的に供給すること
ができる態勢を整備するに至つたこと、(4)福井県下においては、北越グループ
は、VS側溝の売上が全体の五五パーセントを占め、年間約三万五〇〇〇トンのV
S側溝を供給していること、(5)申立人は、昭和五四年一一月九日に自由勾配側
溝の意匠について意匠登録出願をし、その意匠に係る側溝を門型側溝の名称で製品
化した本件側溝を販売するほか、自社の門型側溝の型をホクコン型と称して各地の
業者に実施許諾し、また、福井県においては、福井県コンクリート二次製品工業組
合という共販組織を通じて本件側溝の共同販売を行つてきたこと、(6)自由勾配
側溝の分野における製品は、従来北越グループのVS側溝のみであつたところ、申
立人が本件側溝の販売により参入して以来、市場における競争から、VS側溝の売
込みが困難化し、これに伴つてVS側溝の市場占有率及びその価格も下降してお
り、特に福井県においては、VS側溝の市場占有率が昭和五二年度における一〇〇
パーセントから昭和五七年度に七〇パーセント、昭和六三年度に五〇パーセントと
次第に下降しているほか、自由勾配側溝の価格が隣接他県に比べて低価格となつて
いること、以上の事実が認められる。
 右認定の事実によれば、被申立人は、許諾を受けた実施権者との間に経営上密接
な関係を有するものであり、また、本件仮処分命令が取り消されるときは、申立人
による本件側溝の製造販売により、本件考案の実施品であるVS側溝の販売に重大
な支障をもたらし、その結果、北越グループないしVS普及会からなるVS側溝販
売網の維持に困難を生ぜしめ、ひいては、北越グループの一員として工業所有権の
管理を担当する被申立人の地位自体を危うくするおそれを否定することはできない
ものというべきであるから、被申立人が本件仮処分命令によつて保全される利益が
実施料収入に相当する金銭的利益にとどまるということはできず、被保全権利が金
銭補償によつて受ける利益と等価値であるということはできない。
 また、前認定の事実に加えるに、本件実用新案権の存続期間は平成二年四月一五
日までであり(この事実は、当裁判所に顕著である。)、ここで本件仮処分命令を
取り消すときには、被申立人が差止請求権を行使する機会はもはや失われ、将来の
市場占有率の帰すうにも大きな影響を与えることが容易に推認されることをも併せ
て考慮すれば、本件仮処分命令の取消しにより被申立人の被る損害の範囲及び損害
額の立証は著しく困難であるといわなければならない。してみると、申立人に保証
を立てさせて本件仮処分命令を取消したとしても、被申立人において損害賠償請求
権を行使するに当たり損害額の立証に著しい困難をきたす不利益を被るものであつ
て、右保証は現実には被申立人の損害補償のための担保とはなり得ないというべき
であるから、この点からも、本件仮処分命令の被保全権利が金銭補償によつて受け
る利益と等価値ということはできない。
 以上、いずれの点からしても、本件仮処分の被保全権利は、金銭補償により終局
の目的を達することができる場合には該当しないから、この点に関する申立人の主
張は、採用することができない。
2 申立人の被る異常損害について
 債務者において、仮処分の存続により、通常被るべき損害に比較して多大な損害
を被る事情が認められる場合には、これをもつて民事訴訟法七五九条にいう特別の
事情が存在すると解することができる。債務者の被る損害が通常に比較して過大な
ものであるかどうかについては、被保全権利の性質、当該仮処分の種類内容等を勘
案のうえ、仮処分を取り消すことによつて債権者の被る不利益ないし損害と仮処分
により債務者が被る損害とを比較衡量して、社会通念に従つて判断すべきものであ
る。
 そこで、本件について検討する。
(一) まず、申立人の直接損害として申立人が主張する点について判断するに、
疎甲第三号証、第二三号証の一、疎乙第六、第七、第一二、第一三号証及び弁論の
全趣旨によれば、(1)申立人は、全国に一六工場を有して、本件側溝のほか、カ
ルバート、積みブロツク、境界ブロツク、L型擁壁ブロツク、基礎杭、法枠ブロツ
ク、U字溝等、多品種コンクリート製品の製造販売を行つていること、(2)申立
人の右工場のうち本件側溝を製造しているのは、福井県所在の鯖江工場と若狭工場
であり、鯖江工場が主力であること、(3)本件側溝については、平成元年一〇月
現在において若狭工場には二〇〇本程度の在庫しか存在せず、被申立人が同月二三
日に鯖江工場において本件仮処分命令の執行をした際には二〇八四本(価額約三〇
〇〇万円相当)の在庫があり、これを、執行官保管としたこと、(4)鯖江工場の
従業員は、二〇名前後であつて、同工場では本件側溝以外の製品も製造しているこ
と、(5)申立人の昭和六三年度における売上高は一七九億九七〇〇万円、経常利
益は一一億二一〇〇万円であるところ、平成元年度後半における申立人の本件側溝
の需要は約一万本と見込まれ、この価額は、約一億五〇〇〇万円(一本平均約一万
五〇〇〇円)であることが認められ、以上認定の事実に照らせば、本件側溝を製造
しているのは、申立人の工場の一部であつて、本件側溝は、申立人の製造販売する
多種類の製品の一部にすぎず、その売上高が申立人の総売上高中に占める割合も、
一パーセントに満たないと認められるものであり、この点からすれば、仮に申立人
主張のように、本件側溝を販売することができないことにより、売買代金の入金の
遅れに伴う金利負担が生じ、本来一括発注されるはずの他のコンクリート製品の売
上や顧客との今後の取引にも影響を与えるとしても、これらが申立人の経営に深刻
な危機的状況をもたらすものと認めることはできず、また、申立人の従業員の雇用
状態に重大な影響を与えるものとも認められない。
 他方、本件仮処分命令の発令の経緯についていえば、本件仮処分命令は、昭和六
〇年一一月一三日に本件本案訴訟の提起に伴つて申請され、本案訴訟と並行して債
務者審尋を経て審理され、本案訴訟の第一審判決の言渡しの後に発令されたもので
あつて、申請から発令までの間に三年一一か月余りの期間があつたものであり、こ
の事実は、当裁判所に顕著である。
 これらの事情を総合考慮すれば、本件仮処分命令により申立人がある程度の不利
益を被つていることは認められるものの、申立人の経営に深刻な影響を与えるもの
とはいえず、他方、本件仮処分命令発令の経緯に照らせば、申立人主張のような事
態のうちには、むしろ、本件本案訴訟及び本件仮処分手続の審理期間中に申立人が
本件側溝の販売施策として講じてきた企業活動に起因するというべきものが相当程
度存在するものといわざるを得ないものである。
 以上によれば、申立人の直接損害に関する申立人の主張は、採用することができ
ない。
(二) 次に、本件仮処分命令の公共工事への影響として申立人が主張する点につ
いて検討する。およそ債務者以外の第三者に生ずる事情を仮処分取消しの特別の事
情として主張することが許されるかどうかについては、民事訴訟法七五九条の趣旨
に照らせば、債務者以外の第三者に生ずる事情は、仮処分取消しの特別の事情とし
ては本来認められないものというべきである。もつとも、第三者に生ずる事情が、
ひいては債務者に異常損害をもたらすものであるような場合においては、債務者の
被る異常損害の一事情として考慮の対象となるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、本件仮処分命令の公共工事への影響として申立人が
主張する内容が右のような場合に該当するかどうかはしばらくおくとしても、申立
人が工事に支障を生じている旨当初主張していた各工事現場については、申立人に
よる契約解除の申し入れが受け入れられ、他社製の門型側溝が納入され、あるいは
設計変更品への切り替えが認められて、いずれも工事に支障を生じていないこと
は、当事者間に争いのないところであり、また、申立人主張に係る自由勾配側溝の
供給不足による平成元年度後半の公共工事実施の困難化については、本件全証拠に
よつても、本件仮処分命令が存続する場合に公共工事実施につき重大な支障が生ず
ることを認めるに足りる疎明があるとはいえないから、いずれにしても、この点に
関する申立人の主張は、採用の限りでない。
(三) 本件仮処分命令のユーザーへの影響として申立人が主張する点について
も、申立人が主張する内容が前記のような場合に該当するかどうかはさておくとし
ても、本件全証拠によつてもユーザーにおいて回復不能な経済的損失を被ることを
認めるに足りる疎明があるとはいえないから、この点に関する申立人の主張も、採
用することができない。
(四) 被申立人側の事情については、本件仮処分命令を取り消す場合に被申立人
の被る損害は前認定のとおりであつて、被申立人は、金銭補償により償うことので
きない不利益を被るものというべきであるから、この点に関する申立人の主張もま
た、採用するに由ない。
(五) 本件実用新案権の無効事由の存在に関して申立人の主張する点について
は、本件全証拠によつても、本件実用新案権の無効が明白であると認めるに足りる
疎明があるとはいえず、申立人の主張は、採用の限りでない。
(六) 以上の諸事情を総合すれば、結局、債務者である申立人において、本件仮
処分命令の存続により、通常被るべき損害に比較して多大な損害を被るとは認めら
れないから、この点に関する申立人の主張は、採用するに由ないものといわざるを
えない。
3 以上によれば、本件においては、民事訴訟法七五九条にいう特別の事情につい
て、被保全権利の金銭補償可能性及び債務者の被る異常損害のいずれも認められな
いというべきである。
二 結論
 従つて、申立人の本件申立ては、結局、いずれも理由がないこととなるから、こ
れを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主
文のとおり判決する。
(裁判官 清永利亮 三村量一 若林辰繁)
目録
図面及び説明に示される可変側溝と称する勾配自在形プレキヤストコンクリート側

図面の説明
第一図 平面図
第二図 側面図
第三図 正面図
第四図 平面図中央横断図
第五図 側壁外側に凹みのあるものの斜視図
第六図 側壁上部が外方に張り出しているものの斜視図
符号の説明
1 側壁部
2 耐力梁部
3 欠番
4 上面開口部
5 段部
6 全面開放底部
構造の説明
 対向する左右の側壁部11と、その両端上部を連結する上面が水平で下面が円弧
をなす耐力梁部2とが一体に形成され、上面は開口部4が設けられ、底部6は全面
開放となつている。5は上面開口部4に蓋をはめ込んだ場合に係止するための段部
である。
<9138-001>
<9138-002>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛