弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴人訴訟代理人は「原判決主文第二項を取り消す。被控訴人が昭和四五年四月一
五日控訴人に対してした昭和四一年ないし昭和四四年の、原判決別表記載の各従業
員に支払つた給与(賞与)につき各所得税を源泉徴収の上納付すべき旨の告知処分
及び各不納付加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負
担とする。」旨の判決を求め、被控訴人指定代理人は主文第一項同旨の判決を求め
た。
当事者双方の事実に関する主張及び証拠関係は、次に附加、訂正するほか原判決事
実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。但し、「原告」とあるのを
「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と読み替えるものとする。
一 控訴人の主張について
原判決七枚目表八行目終りの次に次のとおり附加する。
「なお控訴人の就業規則は五五才を定年と定めているが、これは五五才以後は五年
毎の退職金の支給をしないことを定めただけで、被控訴人のいうように五五才まで
の雇用関係の継続を保障したものではない。また被控訴人は、控訴人が中小企業等
退職金共済制度に加入しているのに、控訴人の従業員は五年の勤続期間を経過した
時点において中小企業事業団に右制度に基づく退職金の請求をしていないことを挙
げて勤務の継続を主張するが、控訴人の従業員が右の時点で右退職金を請求する
が、これをしないで勤続年数を通算する方法をとるかは各従業員の自由に選択する
ところであつて、使用者である控訴人の与り知るところではなく、右の点は本件金
員の退職金たる性質になんらの影響を及ぼすものではない。」 同九行目「2」と
ある部分から同裏九行目「該当する。」までを次のとおり訂正する。
「2元来退職金は終身雇用を基本とするわが国独得の制度で、一定期間継続して勤
務したことに対する功労金、賃金後払い、退職後の生活保障等の性質を併有してお
り、一律にいかなるものと規定することのできないものであるが、この制度も社会
経済情勢の変化に伴つてその支給形態に変動を生ずるにいたつた。勤務関係事体の
断絶がないにもかかわらず、その中途において一定の事由が生じた場合にそれまで
の勤務期間に基づいて計出された退職金額を支給し、ただしその後の勤務に対する
退職金については右の期間を通算しないといういわゆる退職金の打切り支給がそれ
であり、本件で問題とされている退職金支給方式もその一形態である。前述のよう
に、中小企業の労働者は倒産による退職金不支給の不安から、将来まとまつた退職
金の全額を貰うという不確かな期待よりも、額は少なくても今日の確実な支払を受
けることを強く希望し、他方企業者側も将来営業の縮小、停止等のため一時に多額
の従業員を離職させる場合に生ずべき過大な支出の必要という経理上の負担を予め
軽減しておくことを得策と考え、労使双方の利益の合致から期せずして一種の退職
金の打切り支払の方式が案出されるようになつたもので、それはいわばこれら関係
者の「生活の知恵」ともいうべきものである。
このような事態を反映して税務行政上も退職金の打切り支給につきこれを退職所得
として取り扱わざるをえなくなつており、国税庁の所得税基本通達(昭和四五年七
月一日)では、従業員が定年後引続き勤務する場合でも、その定年に達する前の勤
務期間にかかる退職手当として支払われる給与で、その後に支払われる退職手当の
計算上その給与の計算の基礎となつた勤務期間を一切考慮しないこととされている
ものについては退職所得として取り扱うべきものとし、また同じく昭和四九年九月
三〇日の改正法人税通達によれば、退職金を打切り支給した場合において、その支
給をしたことにつき相当の理由があり、かつ、その後は既往の在職年数を加味しな
いこととしているときは、それを退職給与として取り扱う旨定めている。
これらの通達からも明らかなように、今日においてはもはや退職による従業員たる
身分の現実の喪失は支給金員が退職所得に該当するための絶対的要件ではなく、い
わゆる退職金の打切り支給の場合にも、それが社会的合理性を有する理由に基づい
てなされるものである限り退職所得として取り扱わるべきものである。そして本件
給与規定による五年毎の退職金の支給の理由が前述のように社会的合理性を有する
理由に基づくものであり、かつ、右支給については勤務期間の非通算を条件とする
ことを定めていることに徴するときは、本件金員は前記通達にもいう相当な理由に
よる退職金の打切り支給に該当するものであり、法三〇条一項にいう退職所得とし
て取扱わるべきものといわなければならない。」
同七枚目裏一〇行目「原告従業員」から同八枚目表一行目終わりまでの部分を次の
とおり訂正する。
「通常全勤続期間を通算し計算した退職金については特別の控除、低税率を定めた
法三〇条、二〇一条の適用による利益を受けることができるものであるところ、控
訴人の給与規程により五年毎に退職金を受領した場合、これを被控訴人のように退
職金として取扱わず給与所得として課税すると、最終の五年未満の期間を基礎とし
た退職金だけが右法条の適用を受けるだけで、その余の従前すでに取得した分につ
いては、実質上退職金でありながらすべて右法条の適用による利益に浴することが
なくなるのみならず、かえつて賞与として所得に上積みされ、高率の税額を負担す
るという極めて不合理な結果になるのであり、かかる解釈運用の不合理性は明らか
である。」
同八枚目表二行目「4」の次に「(一)」を附加し、同八行目終りの次に次のとお
り附加する。
「(二)被控訴人係官は昭和四一年ころ控訴人に対し、法人税の関係で本件金員の
処理方法につき資産勘定欄の仮払金として処理するよう行政指導したので、控訴人
がこれに従つて処理したところ、被控訴人は昭和四三年六月控訴人に対しその性質
は従業員に対する貸金であるから利息金を収入に計上すべきであるとして更正処分
をしたので、控訴人は東京国税局に不服申立をし、その結果右更正処分が取り消さ
れた。すると、被控訴人はその後右金員が本来の意味の退職金ではなく、賞与であ
るとその見解を変更し、本件処分をするにいたつたのである。このような恣意的見
解の変更による処分は公権の濫用であるとの非難を免れない。」
二 被控訴人の主張について
原判決四枚目表末行目「もので」の次に「あり(所得税法三〇条一項))、退職と
は従業員について事業主と雇用関係が終了すること(中小企業退職金共済法二条二
項)で」を、同九枚目裏末行目「いること」の次に、本件金員の支払を受けた従業
員は中小企業退職金共済制度の契約をしているので、その事業団に対し退職金の請
求ができるのにその請求をした者が全くないこと、就業規則では定年を五五歳と定
めそれまで従業員の身分を保障していることなど」を、同一二枚目表二行目の終り
に行を代えて「なお、控訴人は会社の業態悪化による退職金不支給のおそれ等を回
避するための必要性を強調するが、かかる目的のためには、別に中小企業退職金共
済制度の利用のほか退職金積立などの方法があり、国はこれに対し給付補助の援助
をし、事業主の所得計算上も支出時の必要経費又は損金算入を認めており(所得税
法施行令七〇条二項、法人税法施行令一三五条)、また受給者については現実に支
給を受けるまではこれに課税しない取扱いとなつているのであつて、控訴人の主張
は根拠のないものである。」を各附加し、同三行目「したがつて」を「更にまた控
訴人は本件金員を退職金として取扱わない場合の不合理性を云々するが、もとも
と」と訂正し、同七行目「やむをえない。」の次に「(なお、この場合において
も、現実の退職に基因して支払われる退職金については、退職所得控除額の基礎と
なるその受給者の勤続年数は、控訴人の給与規定による五年毎の手当金の支給にか
かわらず、当初入社の日から現実に退職するまでの全勤続年数によつて計算される
取扱いとなつている。)のみならず、もし、控訴人の給与規程による手当金を退職
金とすると、かえつて本来給与所得であるものを給与規程の改正で容易に退職金に
転換することができ、不当に租税を免れる結果になるのである。」を、同一三枚目
表一行目終りの次に行を代えて「なお、被控訴人が当初本件金員を法人税に関する
経理上仮払金として処理すべき旨行政指導したのは、当時未だ本件金員の性質が明
らかではなかつたため、これが明確になるまでの暫定的措置としてそのような指導
をしたものにすぎず、その後控訴人が引続き退職金名義金員をその支出時に仮払金
として計上し、現実に退職した時にその後の勤務期間に対応する部分の退職金を支
給するとともに仮払金中当該従業員に関する部分を損金として退職金に振替計上す
るという経理処理をしていたので、右仮払金を貸金の性質を有するものとみて法人
税の更正処分をしたのであるが、その後右更正処分が取り消されたのち控訴人にお
いて従来仮払金として計上していた退職金名義金員を損金として退職金勘定に振替
計上するようになつたので、被控訴人はそれ以降所得税法上は右退職金名義金を支
出時における従業員の給与所得と、法人税上は同じく支出時の損金と認めて各更正
処分をしたのであり、その間に行政権行使の濫用と目すべき事由は存しない。」を
各附加する。
証拠(省略)
○ 理由
一 控訴人が昭和四五年四月一五日付で控訴人に対し、本件金員が給与所得(賞
与)にあたるとして、原判決添付別表記載の各従業員の各時点の所得から同記載の
所得税額(給与であるとした場合の税額が右額になることを含む。)を徴収し納付
すべき旨の告知処分、各不納付加算税賦課決定をしたことは当事者間に争いがな
い。
二 控訴人は、本件金員は所得税法(以下単に「法」というときはこれを指す。)
上の退職所得にあたり、これについては被控訴人に源泉徴収義務が存在しないもの
であるところ、被控訴人が右のようにこれを給与所得(賞与)であると認定し、給
与所得に課税される税額を右所得から源泉徴収して納付すべき旨の処分をしたのは
違法であると主張するので、まずこの点について判断する。
1 各成立に争いのない甲第五ないし第一〇号証、甲第一五ないし第一九号証、原
審における控訴人代表者尋問の結果から各成立が認められる甲第一号証の一ないし
三、甲第二、第三号証の各一、二、弁論の全趣旨から各成立が認められる甲第一な
いし第一四号証、原審における控訴人代表者尋問の結果を総合すると、次の事実が
認められる。
(1) 昭和四〇年ころ中小企業が営業停止をし従業員を退職金を支払わずに解雇
する事例が相次いで起つたため、控訴人の従業員労働組合は同年一二月ころ控訴人
に対し、控訴人がいつ営業停止し従業員解雇になるかもしれず、その際退職金も支
払わないのでは労働意欲も涌かないので、三年の期間毎に退職金に相当する金員を
支払つて欲しい旨の申込をした。これに対し控訴人は、当時の経営状態から経営が
危機に瀕することもありえる上その時に一時に多額の退職金を支払う財源に乏しい
状態であつたため、右申込に基づいて検討した結果、そのころ控訴人が設立後五年
未満であつたため遡及支払手続を要しない五年間で勤務期間を区切り、就職後五年
毎に退職金名義で手当を支給し、営業停止による解雇の場合の退職金支払を実質上
前払の形で保障し、合せて、控訴人の営業停止の際の退職金支払に要する経理上の
負担を軽減することとした。そして控訴人は、そのころ給与規程を右趣旨に改正
し、労働組合の同意をえた上、労働基準監督署にもその届出をした。
(2) 右改正給与規程は、一五条で「退職金は左の場合に支給する。(省略)
四、勤務年数が会社設立後又は本人の就職後満五か年、爾後満五か年を加算した時
期が到来した場合」と規定し、一六条で退職金の財源確保として中小企業退職金共
済制度による掛金をすることとするほか、退職金の算定について定め、一七条で
「第一五条第四項(第四号の誤り。以下同じ。)により退職金を支給した場合は従
来の在職年数は打切り既往の在職年数は在職年数には算入しないものとする。第一
五条第四項の場合は第一六条に規定する中小企業退職金共済制度による退職金は支
給せず、爾後に継続するものとする。」と規定しており、昭和四二年八月に改訂さ
れた給与規程にも各同旨規定が存する。しかし、他方同時に改訂された就業規則自
体においては、従業員として身分を失う事項を定めた一七条の規定中には右給与規
程により五年毎に退職金名義の手当を受領した際にその身分を失う旨の定めはな
く、また同一八条では「従業員の停年は満五五歳とする。」旨定め、定年までの従
業員の身分を保障している。
(3) 本件金員は、控訴人が各従業員に対し、右給与規定に基づく五年毎の期間
の退職金であるとの名目で支払つたものである。そして、右各従業員は、右退職金
支払の関係では退職扱いとされ、また、法二〇三条による退職所得申告もなされ
た。しかし、右五年の期間経過により手当の支給を受けた者は、その機会に自らの
意思によつて退職する者を除いては、改めて再入社のために一般の入社の場合にお
ける所要の手続等を経ることもなく当然のこととして従来のままの就労を継続し、
賃金その他の労働条件も従前のそれと全く変ることがなく(控訴人は中小企業退職
金共済制度に加入しているが、従業員に対しては就職後満一年を経過した後に右掛
金に見合う一、〇〇〇円を給料として支給し、これを控訴人において中小企業退職
金共済事業団に払い込むこととしているのに、前記満五年を経過した従業員につい
ては初年度から右掛金を払い込んでいる。)、ただ未使用有給休暇日数の次年度繰
越が打ち切られるにとどまつていた(なお、原審における控訴人本人尋問の結果に
よれば、五年の勤務期間を経過した者の経過後初年度の有給休暇日数は六日に減ぜ
られるとのことであるが、他方就業規則三〇条によれば、新たに入社した者につい
ては入社年度は年次有給休暇が与えられないものとされている。)。なお、各従業
員とも勤続期間五年を経過したときに前記退職金名義の金員を受けとるが、中小企
業退職金共済制度による退職金の受給申請をした者はなく、この関係では従前の勤
務期間は通算するものとして取り扱われている。
以上のとおり認められ、これを動かすに足りる証拠はない。
2 (一)所得税法上退職手当とは、「退職により一時に受ける給与及びこれらの
性質を有する給与に係る所得をいう」(三〇条一項)ものとされ、右の退職所得に
対する所得税については、通常の給与所得に比較して控除額が多く(同条二項以
下)、税率も軽減されている(二〇一条)。所得税法が退職所得につき右のような
所得税上の特別の優遇措置を認めた理由は、退職手当等退職を原因として支給され
る一時金は、一般に、その内容において退職者が長期間特定の事業所等において勤
務してきたことに対する報賞及び右期間中の就労に対する対価の一部分の累積たる
性質をもつとともに、その機能において受給者の退職後の生活を保障しようとする
ものであるところから、このように過去における勤労の代償を一時に取得し、か
つ、退職後の生活保障の趣旨をもつ所得に対して課税上通常の給与所得と同一に取
り扱い、一時に高額の所得税を課することは、公正を欠き、かつ、社会政策的にも
妥当ではない結果を生ずることを考慮し、これを避けるためであると考えられる。
それ故右規定における「退職により一時に受ける給与」に該当するためには、まず
第一に当該給与が従来の給与所得の源泉をなした勤務関係の終止によつてはじめて
生ずる給付であること、第二にその給付が従来の多かれ少なかれ長期間の勤務に対
する報賞ないしは従来の労務の対価の一部後払いたる性質を有すること、第三にそ
れが勤務関係終止の際に一時に支払われること(前記第一及び第二の要件をみたし
ても、例えば年金のようにその後継続して定期に支払われるものは所得税法上は一
般の給与所得として扱われる。)以上三つの要件を具備することを要するものとい
うべく、他方右規定にいう「これらの性質を有する給与」とは、形式上は右の三つ
の要件のいずれかを欠くようにみえる給与であつても、その実質において右要件の
要求するところに適合し、課税上右「退職により一時に受ける給与」と同一に取り
扱うことを相当とするものを指すものと解するのが相当である。そしてその反面に
おいて、形式上は右の三つの要件を充足するようにみえても、その実質においてこ
れに適合しないものは右規定にいう「退職所得」にあたるものとすることはできな
いのであり、このことは所得の法律上の形式を超えてその実質に着目するいわゆる
実質主義の立場に立つ税法の解釈適用上からも当然であるとしなければならない。
(二) 右の解釈に立つて本件の場合をみるのに、さきに述べたように、本件金員
は控訴人がその給与規定に基づき五年の勤務期間を経過した者に対し、その時点に
おいてその従業員がいつたん退職したものとして退職金としてこれを支給するもの
であるから、法形式上は一見上記三つの要件を充足するようにみえないではない。
しかしながら、前記認定事実によると、控訴人の従業員は、右のように勤務期間五
年を経過した時点においていつたん控訴人を退職したものとして退職金名義の金員
の支給を受けるが、実際にはこれによつて従来の雇用関係が終止するわけではな
く、格別の行為、手続を経ることもなくそのままほとんど従前と同一の労働条件の
下に就労を継続しており、退職金の計算上の勤務期間の五年毎の打切り、未使用有
給休暇の次年度繰越の否定等雇用関係の継続、廃止の問題とは本質的関係をもたな
い部分においてのみ通常の雇用関係継続の場合と異なる取扱がなされているにすぎ
ないことが認められる。してみると、他にかかる雇用関係が実質的に終了したこと
を認めしめるに足りる証拠のない本件においては、五年の勤続期間の経過により控
訴人からその時点において退職したものとして退職金を受けとる従業員は、実質的
には退職したものではなく、依然として控訴人との雇用関係を継続しているものと
いわざるをえないから、右の退職金なるものは、前記「退職により一時に受ける給
与」についての第一の要件を欠き、これに骸当しないものといわなければならな
い。
(三) 控訴人は更に、仮に本件の場合に雇用関係が継続し、「退職」の事実が肯
定されないとしても、かかる身分関係の断絶がないにもかかわらず退職金を支給す
べき社会的必要からいわゆる退職金の打切り支給なる方式によつてこれを支給する
事態が生じており、国税庁もかかる社会的実態を無視することができず、所得税等
に関する通達においてかかる退職金の打切り支給の場合をもなお退職所得である退
職手当等として取り扱うものとしているのであつて、本件金員の支給もまたかかる
社会的必要に基づく合理性、相当性を有する退職金の打切り支給の場合に該当する
から、右にいう退職手当等として取り扱われるべきものであると主張する。
(1) 控訴人の挙示援用する国税庁の通達は、下級行政庁に対して租税法規につ
いての解釈を示し、その運用について指示を与えたものにすぎず、国民及び裁判所
を拘束すべき法規範たる性質を有するものではないが、租税法規の解釈適用につい
ての重要な資料であることを失わないから、まず右通達について検討するのに、昭
和四五年七月一日の所得税基本通達三〇-二(乙第三号証の一、二)によれば、
「引き続き勤務する役員または使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給
与のうち、次に掲げるものでその給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計
算上その給与の計算の基礎となつた勤務期間をいつさい加味しない条件のもとに支
払われるものは、・・・・・・退職手当等とする。」とされ、「(1)新たに退職
給与規程を制定し、または・・・・・・相当の理由により従来の退職給与規程を改
正した場合において、使用人に対し当該制定または改正前の勤続期間にかかる退職
手当等として支払われる給与」「(2)使用人から役員になつた者に対しその使用
人であつた勤続期間にかかる退職手当等として支払われる給与・・・・・・」
「(4)いわゆる定年に達した後引き続き勤務する使用人に対し、その定年に達す
る前の勤続期間にかかる退職手当等として支払われる給与」等五つの項目が列挙さ
れている。これらの諸項目を審さに検討すると、まず右の(1)の場合は、その文
言からも明らかなように、新たな退職給与規程の制定又は相当な理由によるその改
正により、退職金の給付に関して抜本的な変動がなされ、その際従前の勤続期間に
対する退職金についての精算支給を相当とするような事態を生じた場合に、かかる
精算支給を退職金の打切り支給の形で行う限りこれを退職所得となる退職手当等と
みるべきものとしたものであり、また(2)の場合は、使用人と役員とでは勤務関
係の性質、内容、処遇等において根本的な性格の相違があるため、使用人が役員と
なつた段階において使用人当時の勤続期間に対する退職給与を精算支払うことに相
当な理由が存するところから、これを打切り支給として行う限り退職手当等とみる
べきものとしたものであり、更に(4)の場合は、定年後引き続き勤務する者につ
いても、定年前と定年後とでは勤務関係の性質、内容等に根本的な相違があること
右と同様であるから、これについても右と同一に取り扱うべきものとしたものであ
ると考えられ、その他の二項目も、いずれもこれらと同様の理由によりその打切り
支給を退職手当等として取り扱うべきものとしたものであると認められる。以上を
通覧してみると、右基本通達の立場は、およそなんらかの社会的必要性に基づいて
使用人としての身分の継続中にいわゆる退職金の打切り支給をした場合に、それが
一般的合理性を有するものと認められる限り広くこれを法にいう退職手当等として
取り扱うべきものとしたものではなく、勤務関係の性質や内容に重大な変動が生じ
たため従前の勤続期間についての退職給与を精算支給するものである点において従
前の勤務関係が終止した場合と実質上同視しうる場合、又は退職給与規程の制定又
は相当な理由に基づくその改正の結果として従前の勤続期間に対する退職給与の精
算支給の必要を生じたような特別の場合に限つてこれを右の退職手当等として取り
扱うという趣旨に出たものと解されるのである。そこで右の解釈に照らして本件の
場合をみると、本件においては控訴人の従業員につき五年の勤続期間の経過の前後
においてその勤務関係の性質、内容に重大な変動を生じた場合にあたらないことは
前述したところから明らかであり、また、本件は退職給与規程を改正した場合には
該当するが、そのために旧規程の下における勤続期間に対する退職給与の精算支給
を行つたというものではなく、改正された給与規程に基づき、その適用として新た
に給与を支給したというにすぎないから、右改正が通達にいう相当な理由があるか
どうかを問うまでもなく通達の掲げる(1)の場合にもあたらないのである。そし
て右通達の趣旨が妥当する場合が同通達の列挙する五つの場合に限られないとして
も、少なくとも本件の場合が右通達の趣旨とするところに適合する場合であると考
えられないことは上来説示に照らして明らかであるから、控訴人の上記主張は、右
通達の適用ないしはその趣旨の類推適用を論拠とするものである限り、理由がな
い。(なお、法人税に関する通達は所得税については適切でないが、右通達の立場
も所得税基本通達と趣旨を異にするものではないと考えられる。)
(2) 次に勤続期間を通算しないことを条件としてなされる退職金の打切り支給
は、かかる給与方式を採用する社会的必要性と相当性が存する限り、これを法三〇
条一項にいう退職手当等として退職所得に含ましめるべきであるとの主張について
考えるのに、控訴人が本件給与規程を改正し、勤続期間五年毎の退職金打切り支給
の方式を採用した理由は前記のとおりであり、これによつてみれば、控訴人がかか
る退職金名義の金員支払方式を採用したことには、それなりの理由が存したことを
肯認できないではない。しかしながら、このことから直ちに右給与を所得税法上退
職所得に該当する退職手当等に含ましめるのが相当であるとすることは早計であ
る。中小企業における倒産による退職金不支給の不安の解消や企業側における将来
の経理上の過度の負担発生防止の必要等の理由だけなら、これに対する対策として
は、退職時における退職金の一時支給の方法に代えて、毎月の賃金の上積み、定期
に支給すべき賞与の上積み、あるいは数年毎にその間の勤続に対する特別の賞与の
支給という方法によることも可能な筈であるし、更には退職時に支払われるべき退
職一時金を一定の計算方法によつて予め勤続期間中に分割前払の趣旨で給付する方
法も考えられなくはない。しかし右のような方法をとつた場合には、最後の例を除
いては右各給与が通常の給与所得として課税対象とされることは明らかであり、最
後の例の場合でも、その給与はもはや所得税法が退職手当等としてとらえた退職金
の範躊を脱し、通常の賞与とその実体を異にしないものに転化したものとして給与
所得の取扱を受けることを免れないものと考えられる。控訴人の採用した退職金支
給方式も実質的にはこれらの場合と同性質のものであり、これにつき五年の勤務期
間の満了によつて退職したものとして退職金を支給するという形式をとつたのは、
上記のような社会的必要性という理由だけではなく、右の給付金につき退職所得の
恩典を受けさせる目的のためであると考えなければ説明がつかないのである。して
みると、控訴人の主張する社会的必要性や相当性という理由だけでは、本件金員を
所得税法上の退職所得として取り扱われるべき退職手当等に含ましめることを相当
とする理由とはなりえないものといわなければならない。
それ故、控訴人の上記主張は結局理由がない。
(四) 控訴人はまた、本件金員を退職手当等として取り扱わなければ、控訴人の
従業員は退職金について特別の恩典を受けられないこととなり、不当であるとい
う。しかし、控訴人及びその従業員が上記のような給与方式を選択した以上、かか
る結果となるのはやむをえないところであり(ただし、最後に取得する退職金につ
いては退職所得としての所得税法上の恩典を受ける。)、これにつき所得税法上の
退職所得としての恩典を要求するのは、解釈論上の主張としては無理であるという
ほかはない。もつとも、かくては控訴人の従業員は、所得税法上の恩典は受けられ
るが支払の不確実性を伴う退職金制度を選ぶか、支払は確実であるが所得税法上の
恩典のない本件のような給与方式を選ぶかの二者択一を迫られることになつて不当
であるというが、これについては別に控訴人も加入している中小企業退職金共済制
度の利用による解決方法も存するのであつて、特段の不都合があるとは考えられな
いのである。
3 以上説示のとおりであるから、本件金員が所得税法三〇条一項の退職手当等に
該当し、又は該当するものとして取り扱うべきであるとする控訴人の主張はすべて
理由がなく、他方上記認定の事実関係に徴すると、本件金員は五年間の勤続に対す
る特別の賞与とみるべきが相当であるから、これを給与所得(賞与)として各支給
を受けた従業員から給与所得の税率を適用して得られる所得税額を源泉徴収の上納
付すべき旨告知した本件処分には、控訴人の前記主張の違法はない。
三 控訴人は、(1)本件金員は、経営危機における退職金支払の確保と経理負担
軽減の理由から退職金として支給したものであるところ、被控訴人は合理的理由が
なくこれを否認(税法上)したものである点において、また(2)被控訴人が控訴
人に対し誤つた行政指導をし、控訴人がこれに従つた処置をしたところ後に次々と
見解を変更して本件処分をするにいたつた点において、本件処分は行政権の行使を
濫用したもので違法であるから取消を免れないと主張する。
しかし、右(1)の点で被控訴人が税法上本件金員の支出を退職金とした点を否認
した(もつともこれは税法上の法人の行為・計算の否認ではなく、単に控訴人によ
る所得の性質の認定を否定したものにすぎないが)ことには相当の理由があつたこ
とは前述のとおりである。また、右(2)の点についてみるのに、課税庁が当初本
件金員の性質についての認識に欠け、その判断及びこれに基づく指導において控訴
人の主張するような混乱があり、その間の措置に必ずしも妥当といい難いものがあ
つたことはそのとおりであるが、しかしこれらの事情から直ちに被控訴人の本件告
知処分を行政権の濫用にあたるものとはなし難く、他にかかる濫用を肯定すべき事
実を認めるに足る証拠はない。
よつて、この点の控訴人主張は失当である。
四 以上のとおりであるから、控訴人の本件処分の取消の請求は失当として棄却す
べきところ、これと同趣旨の原判決は結局相当で本件控訴は理由がないのでこれを
棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官 中村治朗 石川義夫 高木積夫)
主文
1 原告の本件訴えのうち、被告に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和四七年
九月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める訴えを却下す
る。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が原告に対して昭和四五年四月一五日付でした昭和四一年四月分、同四二
年五月分、同四三年四月分及び同四四年五月分の各源泉所得税の納税告知処分及び
各不納付加算税賦課決定をいずれも取り消す。
2 被告は原告に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和四七年九月三日から支払
ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 本案前の申立て
主文第一項と同旨の判決
2 本案の申立て
(一) 原告の請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
第二 原告の請求原因
一 原告は、別表記載のとおり原告の従業員に対し、それぞれ支給金額欄記載の金
員(以下「本件金員」という。)を支給したところ、被告は、右金員の支給に対
し、昭和四五年四月一五日付で別表記載のとおりの各源泉所得税につき納税告知処
分(以下「本件処分」という。)及び各不納付加算税賦課決定をした。
二 しかし原告は、本件金員を退職金として支給したものであるから源泉徴収すべ
き所得税はなく、本件処分は違法である。また、右作公権力の行使に当たる公務員
である被告の違法な行為であり、これによつて原告は精神的損害等金三〇〇万円の
損害を被つた。
よつて、原告は被告に対し、右各処分の取消し並びに右損害賠償金三〇〇万円及び
これに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四七年九月三日から支払ずみまで民
法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三 被告の答弁
一 本案前の申立ての理由
被告は、原告が求める損害賠償請求に対して被告適格を欠くものである。
二 請求原因に対する認否
請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。
三 被告の主張
1 原告は、本件金員は原告の従業員給与規定(以下「給与規定」という。)第一
五条第四項(「勤務年数が会社設立後又は本人の就職後満五か年、爾後満五か年を
加算した時期が到来した場合には退職金を支給する」旨の規定)に基づき退職金と
して支給したものであるから、右支給についてはいずれも源泉徴収すべき所得税の
額はない、として処理していた。
2 しかし、所得税法上退職所得とは、本来退職しなかつたとしたならば支払われ
なかつたもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなつた給与に係
る所得をいうものであるところ、給与規定第一五条第四項に基づき退職金の支給を
受けた別表記載の各従業員は、当該金員の支給条件とされている「就職後満五か
年」を経過した後においても、従前と全く同一の勤務条件で引き続き原告の従業員
として勤務しており、現実に退職した事実はない。
したがつて、原告が右各従業員に退職金名義で支給した本件金員は、所得税法上退
職所得には該当せず、給与所得(同法第二八条)たる賞与(賞与の性質を有する給
与を含む。以下同じ。同法第一八六条)に該当することは明らかであるから、源泉
徴収義務者たる原告は本件金員の支払いに際し、所得税法第四編第二章所定の規定
により所得税の源泉徴収をしなければならないものである。
3 そこで被告は、年末調整の方式で別表記載のとおり課税もれの源泉所得税額を
算出し、国税通則法第三六条及び同法第六七条に基づぎ適法に本件処分及び各不納
付加算税賦課決定を行なつたものである。
なお、別表のうちA、B及びCの三名は、年の中途で現実に退職しているため、年
末調整の方式で課税もれの税額計算をすることはできず、賞与に対する源泉徴収の
方法によつた。
第四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
一 被告の主張に対する認否
被告の主張のうち、1の事実及び本件金員が所得税法上の給与所得たる賞与に該当
するとした場合の所得税額が別表記載のとおりとなることは認めるが、その余の主
張は争う。
二 原告の反論
1 本件金員は、給与規定第一五条第四項に該当し退職した従業員に支給したもの
であるから退職金に該当する。すなわち、原告のような中小企業においては、従業
員は常に倒産による退職金不支給の不安を抱いている。原告は従業員側の提案に基
づき、従業員にとつては五年毎に五年分の退職金にとどめることができること、一
方原告においては従業員が五年間は継続勤務することの確率を増加せしめ、かつ、
採用申込みも増加すること等の理由から、労使間の合意により昭和四〇年一二月二
三日給与規定第一五条第四項を設けたものである。同時に給与規定第一七条第二項
第一号に「第一五条第四項により退職金を支給した場合は従来の在職年数は爾後の
年数には算入しないものとする」と規定し、右退職金が賞与とは明らかに異なるも
のであることを明確にした。
そこで、原告従業員は、右給与規定にしたがい勤務年数が五年を経過した時点で退
職金を受領して退職し、再び原告を選択した者は原告に再就職することとしている
のである。
原告は、給与規定第一五条第四項に該当する従業員にはその約一か月前に右該当の
事実をあらかじめ告げるとともに再入社するか否かを確かめ、かつ、再入社の場合
は右該当日における給与を支給するが、年次有給休暇は新規入社であるから初年度
は六日に削減される旨を予告するのほかは特段の手続は行わない。なお、右削減措
置により後日有給休暇明細表が書き改めらられるほか、退職一覧表に記入される等
の内部手続が行われる。また、右該当者から所得税法第二〇三条に規定する退職所
得の受給に関する申告書の提出がなされている。
そして、その選択により再就職した者は、従前と同一条件で基本給、賞与を友給す
るほか、その地位、職務の内容等につき特段の変動はないが、給与規定第一七条第
二項第一号により従来の在職年数は爾後の在職年数には算入されないから、原告に
再就職しその後退職した従業員は、給与規定第一六条により退職時の基本給に給与
規定第一五条第四項該当日から右退職日までの勤務年数(年未満は切り捨て)を乗
じて退職金の支給を受けており、当初の入社時からの勤務年数は通算又は加算して
いない。
2 時代の推移につれて退職金制度もその変遷を見るに至つており、雇用関係を断
つこととなつた事実がないにもかかわらず、一定の事実を契機として退職金を打切
り支給することがしばしば行われ、税務についても所要の条件に該当する打切り支
給については、これを退職給与として取扱うことを余儀なくされている。すなわ
ち、昭和四九年九月国税庁改通達九-二-二四によれば、退職金を打切り支給した
場合において、その支給をしたことにつき相当の理由があり、かつ、その後は既往
の在職年数を加味しないこととしているときは、それを退職給与として取り扱う旨
定めている。本件金員も退職金の打ち切り支給であるから、右通達の趣旨からみ
て、本件金員は退職金に該当する。
3 原告従業員の退職金について被告主張のように課税すると、原告従業員は退職
所得の特別控除の特典を受ける機会を失うから不合理である。
4 給与規定第一五条第四項は、租税負担を不当に回避し又は軽減することを意図
して設定したものではなく、かつ、右条項の新設には社会経済的な合理的必要性が
存したのであり、本件金員は労使間の契約に基づき労使共に退職金という認識の下
に授受してきたのであるから、これを所得税法上の退職所得に当たらないとして否
認することは、否認権の濫用である。
第五 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
一 原告の反論に対する認否
原告の反論1のうち給与規定が原告主張のとおり改訂されたこと及び退職金の受給
者は、従来の在職年数は爾後の在職年数に算入されないほか、地位、職務内容につ
き変動のないことは認めるが、その余は知らない。
二 被告の再反論
1 原告が給与規定第一五条第四項の規定を設けたのは、原告と従業員との雇用契
約の終了を意図したものではなく、会社の業態悪化等による退職手当等の不支給の
危険を回避するためであることが明らかであり、本件金員は、原告従業員の退職に
より支給されたものとはいえないから退職所得に該当しない。
すなわち、原告が本件金員を支給する基因として従業員の退職という事実を不要と
していたことは、給与規定第一五条第四項が退職した場合を規定する第二項のほか
に規定されていること、第四項の文言自体において「爾後満五か年」が到来した場
合と規定し退職することを予定していないこと、また、給与規定第一七条第二項第
二号が「第一五条第四項の場合は第一六条に規定する中小企業退職金共済制度によ
る退職金は支給せず、爾後に継続する」旨規定していることから明らかである。
したがつて、給与規定第一五条第四項該当の事実を退職であるとするのは観念的な
擬制にすぎない。右条項に該当しても原告と従業員との雇用関係は断たれず、従業
員の地位、職務内容については従来と変動がないから、所得税法上の退職には当た
らない。
2 退職所得の範囲は従前から一定しており、近年広く解されてきたということは
ない。
法人税法基本通達(昭和四四年五月一日直審(法)二五国税庁長官通達)九-二-
二四の規定は、法人税の取扱いについての規定であり、また、昭和四九年九月三〇
日直法二-七一による改正は新しく発生した事例を念のため退職給与の例示として
加えたにすぎず、損金となる退職給与の範囲を拡大したものではない。
税務実務上、退職の事実がなく引き続き勤務する者に一時に支給される給与は、た
とえその名目が退職金等とされていても、原則としてその給与は所得税法上の退職
所得に該当せず給与所得として取り扱われるが、所得税基本通達(昭和四五年七月
一日直審(所)三〇国税庁長官通達)三〇-二の規定に該当する場合に限つて、引
き続き勤務する者に対し支払われるものであつても、例外としてその給与に係る所
得は所得税の計算上退職所得として取扱われている。
しかし、本件におけるように引き続き勤務する者に対し勤務年数五年経過ごとに一
時に支給された給与は、たとえ名義が退職金であつても右通達三〇-二に規定する
場合に該当せず、税務の取扱い上は、本件給与に係る所得を退職所得とすることは
できない。
3 退職所得に対する課税について、特別に租税負担の軽減の方途が講じられてい
るのは、退職金制度が我が国において生涯雇用と年功序列賃金の制度を基礎として
形成されてきたものであつて、その支払が退職を機会に一時に支給される点や、そ
の性格が老後の生活保障的な色彩を有すること等による担税力の弱さ等を考慮した
ものである。
退職時に支給する退職手当等に代えて勤務年数五年ごとに支給するという本件金員
の特性にかんがみると、通常収入の道を失うことになる退職という社会的事実を契
機として退職後の生活資金として支給される本来的な意味での退職金とは全く性質
を異にし、結局、本件金員の支給は、実質的には退職金制度を有しない企業におい
て五年ごとに勤続功労金を支給するに等しい。
換言すれば、原告は五年ごとに区切つて一定の従業員に退職金名義で賞与を支給す
るに等しいものであつて、このような性質の給与は、給与所得と同じ担税力を有す
るというべきであり、退職所得として租税負担を軽減する合理性は存しない。
したがつて退職所得に当たらない金員を従業員に支払つたからといつて退職所得控
除額の控除を受けられないことは当然であつて、その結果退職時に一時に退職給与
を支払う場合に比べて右の控除を受けられる合計金額が少額になつてもやむをえな
い。
4 租税回避行為とは、異常な取引形式を選択することによつて通常の取引形式を
選択した場合と同一の経済的成果を達成しながら租税負担を免かれあるいは軽減す
る行為をいうのであつて、その行為計算の否認とは、租税法に内在する租税負担の
公平の条理から課税庁がその納税者の選択した異常な取引形式の私法的な効力には
関与せず、税務計算上その行為計算によらず、通常あるべき取引形式に基づく合理
的な行為計算に引き直して課税することをいうのである。
被告は、本件処分をするについて、原告と従業員との間の勤務年数五年ごとの退職
金支給を異常な行為と認定して右の行為計算を否認したものではなく、原告が支給
した退職金名義の金員がその支給した事実関係及び所得税法上の関係規定からみ
て、退職所得に該当せず給与所得(賞与)に該当すると認定したうえ本件処分をし
たものである。
第六 被告の再反論1に対する原告の主張
原告としては、当初より退職金の支給には退職の事実を前提としていたものであ
る。すなわち、給与規定第一五条第四項は「勤務年数が会社設立後又は本人の就職
後満五か年、爾後満五か年加算した時期が到来し『退職』した場合」とすべきとこ
ろ、起草者が不なれのために「退職」の二字を脱落していただけのことである。
また、給与規定第一七条第二項第二号は、起草者の誤解に端を発したことから誤つ
た規定となつたものである。すなわち、原告は契約により一人当たり月額一〇〇〇
円の掛金を払い込むが、退職金は原告が支給するものではなく、本人の請求により
共済事業団が支払うものであり、原告には受領権もなく掛金の払込み以外は全て埓
外におかれている。
しかるに起草者はかかる事実関係を誤解しあたかも原告が支給するかの如く錯覚し
たために誤つた規定となつたものであり、右錯誤に根ざした規定を根拠とする被告
の主張は失当である。
第七 証拠関係(省略)
○ 理由
一 被告は行政庁であつて、権利義務の主体となり得ないから本件訴えのうち、被
告に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和四七年九月三日から支払ずみまで年五
分の割合による金員の支払を求める訴えについて、被告適格を有しない。よつて、
右訴えは不適法として却下を免れない。
二 請求原因一の事実(ただし、別表の昭和四二年五月六日の支給金額の計及び支
給金額の合計は、それぞれ六二四、五七五円及び二、六九四、八七五円の誤記と認
められる。)、被告の主張1の事実及び本件金員が所得税法上の給与所得たる賞与
に該当するとした場合の所得税額が別表記載のとおりとなることは、当事者間に争
いがない。
三 そこで、本件金員が所得税法上の給与所得たる賞与に該当するかどうかについ
て判断する。
所得税法上、退職所得とは、退職という事実に基因し一時に受ける給与及びこれら
の性質を有する給与に係る所得をいい、それは退職給与規定に基づいて支給される
ものであるかどうか、また、支給名義のいかんを問わないものと解すべきである。
1 原告は、本件金員は給与規定第一五条第四項の規定に該当し退職した従業員に
支給したものであるから退職金であると主張するので、まずこの点について判断す
る。
昭和四〇年一二月二三日に原告の給与規定が改訂され、第一五条第四項に「勤務年
数が会社設立後又は本人の就職後満五か年、爾後満五か年を加算した時期が到来し
た場合には退職金を支給する」旨の、第一七条第二項第一号に「第一五条第四項に
より退職金を支給した場合は従来の在職年数は爾後の年数には算入しないものとす
る」旨の各規定が設けられたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲
第一五、第一六号証、甲第一九号証、原告代表者尋問の結果により真正に成立した
と認められる甲第一号証の一ないし三及び原告代表者尋問の結果によれば、原告会
社においては従業員側から倒産による退職金不支給の不安を解消するため数か年毎
に退職金を支払つてほしいとの要望が出され、右各規定の改訂が行われたこと、そ
の際給与規定第一七条第二項第二号には「第一五条第四項の場合は第一六条に規定
する中小企業退職金共済制度による退職金は支給せず爾後に継続する」旨の規定が
設けられたこと、昭和四二年八月改訂後の給与規定にもそれぞれ同旨の規定があ
り、一方同時に改訂した後の就業規則第一七条によれば、従業員の身分喪失事由と
しては「一 死亡した時、二 退職を願い出て許可された時、三 停年に達した
時、四 解雇された時」が掲げられているにすぎないこと、就業規則第九条に「雇
用期間は雇用の日より満五年とし・・・・・・再雇用を妨げない」旨の規定が設け
られたのは、昭和四六年に至つてからであることが認められる。
右事実によつてみれば、原告が給与規定第一五条第四項の規定を設けたのは、会社
の倒産による退職金不支給に対する従業員の不安を解消するためであるが、同項の
規定は、退職金名義の金員の支給を勤務年数が会社設立後又は本人の就職後満五か
年に達した時期若しくは爾後満五か年を加算した時期の到来にかからしめているだ
けであつて、右規定自体からも、また前記就業規則第一七条や給与規定第一七条第
二項第二号と併せ考えても、原告が右の満五か年目ごとに従業員の身分の喪失を予
定していたとは解することができない。したがつて、給与規定第一五条第四項は、
「退職」の事実に基因して金員を支給するものではないというべきである。
これに対し、原告は、右給与規定第一五条第四項は起草者の不なれのため「退職」
の二字が脱落したもの、同規定第一七条第二項第二号も起草者の誤解に基づくもの
であると主張するけれども、右事実を認めるに足る証拠はない。また、同規定第一
七条第二項第二号は、その文言からして、第一五条第四項の場合には引き続き該当
者に係る共済契約を継続していくことを意図していたことは明らかであるのみなら
ず、原告代表者尋問の結果によれば、就職後満一年を経過した従業員に対しては中
小企業退職金共済制度の掛金に見合う一〇〇〇円を給料として支給することとし、
これを原告において中小企業退職金共済事業団に払い込む旨の給与規定の定めにも
かかわらず、満五年を経過し、原告のいわゆる再雇用をした者については、その初
年度においても原告は右掛金を払い込んでいることが認められる。
また、原告代表者は従業員は五年目ごとに退職し、再雇用を希望する人についての
み採用の手続を採る旨供述するけれども、同じく原告代表者尋問の結果によれば、
満五年の該当時に原告のいわゆる再雇用をしなかつた者はいないのみならず、昭和
四五年以前はその機会に退職届又は退職願も提出されず、また新規採用者のように
就業規則所定の履歴書や身元保証書等の提出を求めることもなかつたことが認めら
れ、給与規定第一五条第四項により金員が支給された従業員の地位、職務の内容等
については、同規定第一七条第二項第一号により従来の在職年数を爾後の年数に算
入しないとする外は、特段の変動がないこと、かつ、再入社の場合には従前と同一
条件で基本給、賞与を支給することは原告の自認するところであり、右基本給、賞
与は、前掲甲第一号証の一、第一五号証により認められる給与規定第四条に規定す
る新規採用者の扱いとは異なることが認められる。
もつとも、原告代表者尋問の結果によれば、原告のいわゆる再雇用者については、
新たに労働基準法第一〇七条所定の労働者名簿に記入がされること、また右の者の
年次有給休暇は入社初年度として六日とされるというのであるが、前者はたんに形
式的な書類上の措置にとどまるし、後者については、たとえそのような取扱いがさ
れていたとしても、前掲甲第一六号証によれば、新規採用者であるならば、就業規
則上は初年度は年次有給休暇は与えられない筈である(就業規則第三〇条)ことが
認められ、いずれも退職、再雇用を裏付ける事実とはいえない。
その他原告が給与規定第一五条第四項に該当する者をいつたん退職させ、再雇用し
ていたものと認めるに足る証拠はない。
そうすると、同項に基づき支給する金員は、いずれにせよ退職の事実に基因するも
のではなく、実質的には満五年目ごとに従業員に対し退職金名義で五年間の勤務に
対する功労金を支給するに等しいものであるから、臨時的に支給される給与、すな
わち賞与に該当するというべきである。
2 原告は仮に雇用関係を断つこととなつた事実がないとしても、一定の事実を契
機として退職金を打切り支給することがしばしば行われ、税務においても所要の条
件に該当する打切り支給については、これを退職給与として取扱つている(昭和四
九年九月国税庁改通達九-二-二四)から本件金員も退職金と認定して妨げないと
主張する。
成立に争いのない乙第一号証及び乙第三号証の一、二によれば、原告の指摘する通
達は法人税に関するものであつて、(法人税基本通達(昭和四四年直審(法)二
五)九-二-二四の昭和四九年直法二-七一による改正規定)所得税に関しては同
趣旨の定めが所得税基本通達(昭和四五年直審(所)三〇)三〇-二(1)にある
ことが認められ、右は使用者が退職金に関する制度を根本的に改め、その時点にお
いていつたん旧制度による退職金を計算し、これを打ち切り支給した場合に、それ
を退職金の性質を有する給与と認めるべきものとしたものと考えられる。これに対
し、給与規定第一五条第四項により支給される金員は、退職金に関する制度の改変
に伴うものではなく、あらかじめ給与規定の定めるところにより定期的反復的に支
給されるものであることからすれば、むしろ一定期間の勤務に対する功労金に等し
いものであること前示のとおりであり、右通達(1)の給与とはいちじるしくその
趣旨を異にするものであることが明らかであるから、これを退職金の性質を有する
給与ということはできない。したがつて、原告の右主張は理由がない。
3 原告は、本件金員について被告主張のように課税すると、原告の従業員は退職
所得の特別控除の特典を受ける機会がなくなり不合理であると主張するが、本件金
員が所得税法上の退職所得に該当しない以上、その受給者が退職所得控除額の控除
等を受けられないことは当然であつて、原告の右主張も理由がない。
四 原告は、給与規定第一五条第四項該当による退職金の支給は、租税負担を不当
に回避軽減することを意図してなされたものではなく、右条項の新設には社会経済
的な合理的必要性が存したのであるから、右退職金を所得税法上の退職所得に当た
らないとして否認することは、否認権の濫用であると主張する。
しかしながら、本件処分は、本件金員の支給を租税回避行為として否認してなした
ものではなく、右金員が退職所得には該当せず、給与所得に該当すると認定してし
たものであることは、被告の主張自体から明らかである。よつて、原告の右主張も
失当である。
五 以上のとおり本件処分には何ら違法はなく、これを前提とする各不納付加算税
賦課決定にも違法はない。
よつて、本件訴えのうち、被告に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和四七年九
月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める訴えはこれを却下
し、原告のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟
費用の負担につき、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文
のとおり判決する。
(別表)(省略)

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