弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金五万円に処する。
     右罰金を完納できないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労
役場に留置する。
     押収に係る別紙目録記載物件はこれを没収する。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添附した弁護人正木昊、同高橋銀治名義の控訴趣意書記
載のとおりで、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。
 論旨第二点について。
 原判決添付の没収品目録に絵葉書(袋入り)四〇八組同八一八九枚となつている
ものが、実はA寺のいわゆる「秘仏」の写真で、これを絵葉書というのは正確でな
いこと所論のとおりである。しかし右物件は警察官が押収したとき以来、原審に於
て証拠として提出され原裁判所に領置されるまで一貫して絵葉書として表示されて
来たのであり、被告人も原審公判廷でこれを絵葉書と称している事実も存するので
ある。してみれば、原判決がこれを没収すべきものとして判示するに当つて、没収
物件目録に絵葉書と表示したこと自体何等非議すべきではない。むしろ従前の表示
どおり絵葉書とせずに突如として判決中に写真何組と表示するが如きことは、場合
によれば疑義を生じ、何を没収したか不明となる虞がないでもない。(本件ではか
かる虞は絶無に近いと認められるではあろうが。)それ故原判決はかかる疑義を生
じないようにするため、多少その実質とは異つていても、従前の取扱上の名称を踏
襲し、絵葉書と表示したわけで怪しむに足りない。
 <要旨>そこで右「秘仏」写真が猥褻物に該当するか否かをみるに、この写真に輯
録されたものの第一、二輯合計十二枚の中原審が猥褻物たることを否定した
西蔵大聖歓喜天像とはりがたとを除いて爾余は性器そのものを表現しているか又は
性器を人に擬らえ衣裳その他に宗教的な紛飾を施してあるか或は男女両性がことさ
ら性行為中であることを暗示する姿態をとりつつ抱擁しているかであつていずれに
せよ性器或は性交を表現したもののみなのであるから、人の性欲を刺激興奮せし
め、通常人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものたること
明白であり、刑法第百七十五条の猥褻物に該当することはいうまでもないところで
ある。
 所論は
 (一) 性器は古代社会に於て洋の東西を問はず、原始宗教の対象であつたし、
今日もなお性器を神体として祀り、或は真面目に礼拝の対象としている多数国民の
あることを否定し得ないところ本件写真の実物の多くは右の如き礼拝の対象物たり
しものであり、本質上猥褻物ではない。
 (二) 又「秘仏」は大正十三年以来多年A寺で展示され来り、戦時中は文芸品
美術品に対する弾圧から一時封印しておいたが、戦後再び寺院の戦災による建物改
築のための寄附金募集と地本a町の観光地としての繁栄のために下田警察署あてに
公開を公認されるよう願書を提出し、これが静岡地方検察庁に申達された結果検察
官から詳細な調査を受けたが、公開を禁止する旨の指示を受けておらず、被告人始
めB町長達も公開を黙認されたものと信じて観覧に供して来たのであり、町を訪れ
た名士には町当局が、わざわざ本件秘仏写真集を贈呈するを常としたのみならず各
地展覧会にも右写真の出品されたこと数多く、又学術書等にも本件秘仏写真が掲載
されてあり、いずれも美術品又は学術品として扱はれてきた。
 (三) 従つて秘仏自体本質的には猥褻物とは異るのであるから、その写真も猥
褻物といえないし、被告人は拝観者にも自ら案内説明をし未成年者等には拝観を許
さないよう注意し、入場者でなければ写真は購入できなかつたのである。然るに秘
仏の陳列は罪とならないものとして起訴を受けず、特定の人々に直接販売する目的
で所持した写真についてこれを犯罪と断じたことは民を網すもので刑法の目的に反
する。
 というのである。
 思うに古代の社会では、人智も発達せず、性交、姙娠、出産という生命力の発生
してくる由来を理解できないので、性そのものに神秘的な力を感じ、性器を崇拝す
るという風習を生じ、我が国各地に散在している社祠堂宇の類の中には現時なお性
器を模した本件の「秘仏」と類似したものを以つて神体としているものがあり、地
方民衆の尊崇を受けている事実を窺えないわけではない。しかし近代宗教は古代の
性器崇拝から転化したものではなく、これと全然無関係なものであり、現時に於け
る性器崇拝的風習の遺物の如きも、その実性器を性器と知りつつ礼拝しているわけ
ではなく、祭神の本体が何であるかを知らず、かつ又知ろうとせず、昔からのいい
つたえに従つて神聖なものとし畏み崇めているだけの事で、そのべールを剥ぎ実体
を白日の下に曝すならば、何人と雖もこれを崇拝するの愚をやめるに至るであろう
(証人Cの証言参照。)本件秘仏も同様であつて、その中には嘗つては民衆の崇敬
の対象であつたかも判らないものも存するが、今や一個の蒐集品としてはA寺内に
移されてしまえば聖なるものといいつたえを伝承する人とてなく、いわば宗教的ベ
ールを剥がされた存在に過ぎないのである。してみればそれが嘗て民衆の尊敬を受
けていたというだけでは、その本質が猥褻物であることを否定し得ないところとい
わなければならない。又学術書に本件と同様の写真の一部が掲載されたり従前屡々
展覧会に秘仏写真が出陳されたからとて、学術的或は美術的価値が(もしそのよう
な価値があるとしても)その猥褻物と認定することを妨げるものでもない。
 而して記録を調査するに、A寺は由来日蓮宗の一寺院であるが、同寺を詣でる人
々は日蓮宗の信者とは限らないのであり、格別宗教的にA寺と結びついているわけ
でなく、単に行楽の旅路を、a町にとり、A寺の「秘仏」の事を聞きつたえてその
観覧を求めるもの大部分なのであるから、これらの人々は秘仏を見ることにより性
的な刺激興奮を味はい猟奇心を満足させんとするにあつて秘仏を学問的に研究し、
或は美術的に鑑賞しようというのではないことが明白であると同時に、A寺住職た
る被告人もこの事を知り旅客の性的好奇心に媚びることにより収益を図らんがため
に、猥褻物たる秘仏を人々の観覧に供し、その写真を販売してきたものと認められ
るのである。従つて右写真は不特定多数の観光客に販売するためのもので所論のよ
うに特定の者のみに販売する目的であつたと云えないのであり、被告人が秘仏の観
覧に際し自ら案内説明し、未成年者には拝観を許さない等多少の注意を払つていた
としても、被告人の所為が刑法に触れないものとすることはできない。なるほど被
告人から秘仏の公開を許されんことを求めa警察署に願書を提出した結果、静岡地
方検察庁から秘仏の調査に来た事実及びその後秘仏の公開を禁止すべしとの指示を
受けたことのない事実は記録上認められないではない。しかし被告人がそれ故に秘
仏の公開を許されたものと信じていたとまでは認められないのみならず、本件処罰
の対象となつた所為は右秘仏の公開自体ではなく、秘仏の写真を作成し販売の目的
で所持したとの所為であり、このような所為は写真の携帯も容易でこれを買い求め
た人々の手から更に転々することも考えられるし、従つていつ何処で何人の目に触
れないでもないことを考えると、秘仏の観覧を許すことよりも一層その弊害が大き
いといわなければならない。それ故原審が右所為を処罰したことは当然で、所論の
ように民を網するなどという非難は当らず、論旨はそれ故いずれもその理由がな
い。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長裁判官 近藤隆蔵 裁判官 吉田作穂 裁判官 山岸薫一)

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