弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役八月及び罰金三千円に、同Bを懲役六月及び罰金二千円
に各処する。 右罰金を完納することができないときは金百円を一日に換算した期
間その被告人を労役場に留置する。
     但し両名に対しこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予す
る。
         理    由
 本件控訴の趣意は、被告人Aの弁護人藤井稔、被告人Bの弁護人佐々木禄郎の各
提出した控訴趣意書の通りであるから、これを各引用する。
 藤井、佐々木両弁護人の控訴趣意事実誤認の主張について、
 被告人両名が原判示の日時、場所において、盗品である判示物品を買い受けたこ
とは、挙示の証拠によつて明らかであつて被告人等もこれを認めて争わないところ
である。被告人等は買受当時右物品はいずれもいわゆ<要旨>る荷後と信じ盗品であ
るとは知らなかつたと弁解するのであるが、いわゆる荷後として運搬者の自由処分
に委かされる物は、貨物運搬に従事する者が善良なる管理者の注意を以つて
これに当つても、なお自然に荷造包装より漏出ないしは脱落したもので、その分量
も当該貨物の数量に比しきわめて少量で、その集収引渡のために特に時間と労力を
費いやすことが、その物の価格に比し却えつて不経済で、社会通念上その物の所有
者においても権利を放棄したものと認め得られる場合に限るものと解すべきであ
る。従つてこの意味における荷後の生ずる貨物には性質上また運搬の形態上自から
限界があり、原審証人Cの証言の如く本件物品の如きはいわゆる荷後となるような
性質のものではないことは明かである。このようなことは多年古物商に従事し、こ
の種の物品の取扱に明るい被告人等においては、当然に弁えていたものと認めるの
が相当であるから、被告人等の右弁解は採用することができない。しかして原判決
の挙げる各証拠に、D作成の始末書、被告人両名の司法警察員及び検事に対する各
供述調書を綜合すれば、被告人両名は一二の例外を除きいずれも午前四時ないし午
前六時の早朝または夜間、被告人Aは十貫ないし百余貫、被告人Bは十五貫ないし
二百余貫に達する相当多量の古金属類を、船員であることの明らかな相手方より買
受けているのであつて、右例外の場合と雖もその物品が銅線であつたりその分量が
多量であることにより、その賍物性を感知すべき筋合にあつたものといわなければ
ならない。しかして被告人等もまた検事に対しては売主の方では荷後だと言つては
いたがどうせ多少は抜き取つた物もあるかも知れないとは思つたが、それは船員の
役得であるから買つてやつてもよいと思つて買い受けた旨供述しているのである。
以上の各証拠を綜合判断すると、原判決摘示の各事実を認めるに足り同判決の事実
の認定には結局誤りはない。しかし原判決が被告人等の知情を証明するについて、
最も重要なりと認められるD作成の始末書、前顕証人Cの証言、及び被告人等の司
法警察員及び検事に対する各供述調書を証拠に引用することなく、ただ挙示の証拠
のみ列挙するに止めたのは、証拠の判示として不十分であるから、原判決は理由に
不備あるものとして破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条、第三百七十八条第四号に従い原判決を破棄
し、同法第四百条但書によりつぎの通り自判する。
 原判決の認定した事実は原判決の掲げた各証拠の外にD作成の始末書、原審第二
回公判調書中の証人Cの供述及び被告人各自の犯罪事実につき当該被告人の司法警
察員竝びに検事に対する各供述調書を綜合してこれを認めることができる。しかし
てこれを法律に照すと被告人等の各所為は刑法第二百五十六条第二項に各該当し、
右はそれぞれ刑法第四十五条前段の併合罪となるので、懲役刑については同法第四
十七条、第十条を適用し、被告人Aに対しては犯情最も重い原判決第一の五の罪の
刑に、被告人Bに対しては同第三の四の罪の刑に各併合加重をし、罰金刑について
は同法第四十八条第二項に従つてその合算額の範囲内において量定することとし、
被告人Aを懲役八月及び罰金三千円に、同Bを懲役六月及び罰金二千円に各処し、
右罰金を完納することができないときは、刑法第十八条により金百円を一日に換算
した期間、その被告人を労役場に留置すべく、情状により刑法第二十五条を各適用
しこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を各猶予する。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 宮本誉志男 判事 盛麻吉 判事 幸田輝治)

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