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平成17年(行ケ)第10773号審決取消請求事件
平成18年10月25日判決言渡,平成18年10月4日弁論終結
判決
原告ノバルティスアクチェンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁護士阿部隆徳
訴訟代理人弁理士青山葆,岩崎光隆,伊藤晃
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人塚中哲雄,谷口博,徳永英男,田中敬規
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-14294号事件について平成17年6月20日にした
審決を取り消す」との判決。。
第2事案の概要
本件は,特許出願をして拒絶すべき旨の査定を受けた原告が,不服審判請求をし
たが,審判請求不成立の審決を受けたため,その取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本願特許出願日平成8年5月10日
(優先権主張1995年(平成7年)5月12日英国)
出願番号平成8年特許願第533792号
発明の名称抗真菌組成物
拒絶査定日平成14年4月30日
(2)審判請求平成14年7月29日(不服2002-14294号)
手続補正同年8月28日(甲3)
審決日平成17年6月20日
審決の結論「本件審判の請求は,成り立たない」。
審決謄本送達日平成17年7月5日
2本願発明の要旨
本願発明の要旨は,本願明細書(甲2及び3「特許請求の範囲」は手続補正書,
によって補正されている)に記載のとおりである(以下,請求項1記載の発明を。
「本願発明1」又は単に「本願発明」といい,本願発明1ないし5を一括して「本
願発明」ともいう。。)
【請求項1】遊離塩基または酸付加塩形の式Ⅰ
【化1】
で示されるテルビナフィンを,アゾール系α-メチルデメチラーゼ阻害剤と共14
に含む,アゾール耐性真菌株により引き起こされる真菌感染症の処置に使用するた
めの抗真菌組成物;ただし,上記真菌感染症はアゾール系α-メチルデメチラ14
ーゼ阻害剤単独による単独処置には応答しないものである。
【請求項2】テルビナフィンが塩酸塩形である,請求項1記載の組成物。
【請求項3】アゾール系α-メチルデメチラーゼ阻害剤がフルコナゾール14
である,請求項1記載の組成物。
【請求項4】アゾール系α-メチルデメチラーゼ阻害剤がイトラコナゾー14
ルである,請求項1記載の組成物。
【請求項5】アゾール耐性真菌株が酵母菌株である,請求項1記載の組成物。
3審決の理由の要旨
審決は,要するに,本願発明は,引用例(甲4)に記載された事項に基づいて容
易に発明することができたものと認められるから,特許法29条2項により特許を
受けることができない,というものである。
「2引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した特開平3-38521号公報(以下,引用例という。本訴
甲4)には,次の事項が記載されている。
()必須の成分としてアリルアミン系抗真菌剤と1H-トリアゾール系抗真菌剤とを含むこ1
とを特徴とする抗真菌性組成物(特許請求の範囲第1項)。
()“アリルアミン系抗真菌剤”というのは,例えばテルビナフィンとして知られている…2
…などが例示されるが,……これらは,生物学的に許容される得る塩,例えばハロゲン水素酸
塩,……などの形に変じられてもよい(2頁右下~3頁左上欄)。
()アリルアミン系抗真菌剤としてテルビナフィン,トリアゾール系薬剤としてフルコナゾ3
ール又はイトラコナゾールを使用した本試験結果が多種類の真菌に対する最小阻止濃度として
表-3及び表-4(判決注:いずれも省略)に示されている。
()本発明は,抗真菌組成物,例えば皮膚糸状菌症,カンジダ症,クリプトコッカス症,ア4
スペルギルス症等に対し,アリルアミン系抗真菌剤又は1H-トリアゾール系抗真菌剤を単独
で用いた場合に比べて,より広い抗菌スペクトルと強力な抗菌活性を有する組成物を提供でき
ることにより,上記真菌性疾病の治療に多大の効果をもたらす。特に,低濃度において高い抗
菌活性を得ることが可能となったことから,トリアゾール系抗真菌剤の欠点である強い副作用
を回避できるから,全身真菌症に対する薬剤として殊に有意義である(6頁左上欄)。
3対比・判断
ア請求項1に係る発明について
引用例にはアリルアミン系抗真菌剤と1H-トリアゾール系抗真菌剤とを含む抗真菌剤摘,(
示事項())が記載され,2種の抗真菌剤として具体的に抗真菌効果を本試験している組成物1
としてアリルアミン系抗真菌剤としてテルビナフィン,1H-トリアゾール系真菌剤としてフ
ルコナゾール又はイトラコナゾールを含む組成物(同())が記載されている。そして,フル3
コナゾール及びイトラコナゾールは,本願の請求項1を引用する請求項3及び4にアゾール系
14α-メチルデメチラーゼ阻害剤としてフルコナゾール又はイトラコナゾールが記載されて
いるから,当然に14α-メチルデメチラーゼ阻害剤である。
本願の請求項1に係る発明と引用例に記載の本試験に用いられた抗真菌組成物とを対比する
と,両者はテルビナフィンをアゾール系14α-メチルデメチラーゼ阻害剤と共に含む真菌感
染症の処置に使用するための抗真菌組成物である点で一致し,対象疾患を,前者は「アゾール
耐性真菌株により引き起こされる真菌感染症」と限定しているのに対して,後者は耐性菌株に
ついては何ら記載されていない点で相違する(‥‥。)
そこで,この相違点について検討する。
引用例の表-3及び表-4の最小阻止濃度(MIC)のデータは両薬剤の配合比と合計濃度
で記載されているので,これを個々の薬剤のMICとして換算して以下に4種の真菌について
示すと,
‥‥(表ー3及び表ー4は省略)
となり,フルコナゾール又はイトラコナゾール単独の抗真菌剤ではMICが25~100と感
受性の低い4種のカンジダ属の真菌に対して,テルビナフィンと併用した抗真菌組成物ではM
ICが031~625と2桁以上も低い値をもつのは,これらの真菌が併用した組成物に対..
して高い感受性をもつことが示されているものと認められる。
そして,引用例には,アゾール系抗真菌剤とテルビナフィンを併用することにより単独で用
いた場合に比べて広い抗菌スペクトルが得られること(同())も記載されているのである。4
そうすると,アゾール耐性真菌株がアゾール系14α-メチルデメチラーゼ阻害剤単独には
耐性をもつとしても,単独の抗真菌剤とこれに異種の抗真菌剤を組合せた組成物では,同じ真
菌に対する作用が異なることは上記引用例に記載の効果からみても明らかであり,しかも併用
した組成物は単独で用いた場合に比べて抗菌スペクトルが広くなること,つまり,単独では感
受性を持たない真菌に対しても抑止効果をもつようになることが示唆されているのであるか
ら,該耐性菌に対しても,引用例に記載のテルビナフィンをアゾール系14α-メチルデメチ
ラーゼ阻害剤と併用した抗真菌組成物を用いることは容易に当業者が想到できるものである。
‥‥
イ請求項2~5に係る発明について
請求項2~5に係る発明は,請求項1に係る発明のテルビナフィンを,テルビナフィンの
塩酸塩,とアゾール系14α-メチルデメチラーゼ阻害剤をフルコナゾール,イトラコナゾー
Candidaルと限定するか,又は耐性真菌株を酵母菌株に限定するものであるが,酵母菌株は
,等を含む株であるから,これらは引用例に記載されている範囲内のalbicansCandidaglagrata
事項()()であり,これらは当業者が適宜決定できる程度ものである」23。
第3原告の主張(取消事由)の要点
審決は,本願発明と引用例記載の発明(以下「引用発明」という)との相違点。
についての判断を誤った結果,本願発明が引用発明に基づき容易に発明をするこ
とができたものである,との誤った判断をしたものであるから,違法として取り
消されるべきである。なお,原告は,相違点の認定については,争うものではな
い。
1耐性菌に対する相乗的な薬理効果を予測することは困難であり,この点を否
定した審決の判断は誤りである。
2種の抗真菌剤を併用したからといって,それらの単独使用と比較してより広い
抗菌スペクトルやより強い抗真菌活性を発揮する(相乗効果)とは限らず(甲5~
8参照,仮に,ある菌に対して相乗効果が発揮される場合であっても,他の菌に)
対して相乗効果が発揮されるか否かは,対象とする菌の種類によって左右されるの
であり,このことは,関連技術分野でよく知られている。
したがって,2種の抗真菌剤の併用により,より広い抗菌スペクトルと強力な抗
菌活性を発揮することが認められたからといって,直ちに,その併用が,その抗真
菌剤に対する耐性菌による真菌感染症に対しても,有効であると予測することはで
きない。
2耐性菌は,自然環境で生育・増殖した株菌とは異なるのであり,ことに多剤
耐性菌が多数知られている状況では,たとえ,引用例に,2つの抗菌剤の併用が相
乗効果を奏することが示されていたとしても,それが耐性菌に対しても抑止効果を
発揮すると予測することは困難である。標的が耐性菌の場合には,むしろ,効果を
失った薬剤を併用してもやはり効かないであろうと考えるのが普通であり,耐性菌
D.Lawetal.,J.Antimicrob.Chemother.34が出現すると,本願明細書に記載の文献(
[]乙3)にあるように,全く別の薬剤を開発しようとし,単独では効1994659-668,
果を失った薬剤を組み合せて使用することは考えないのが普通である。
3そもそも,アゾール系薬剤に対する真菌の耐性が臨床上の問題として認識さ
れるようになったのは,比較的最近のことであり,AIDS患者に対して長期にわ
たり広く使用されるようになった後の平成3年頃から漸く注目され始めたものであ
る。したがって,引用発明が完成された平成元年当時又はその以前に,アゾール系
薬剤に対する真菌の耐性が着目されていたとは考えられない。事実,引用例は,相
乗効果を開示しているものの,その効果は,主として,活性スペクトラムの拡大,
活性の増強及び副作用の回避に向けられていたのであって,耐性菌に対しどのよう
な効果を有するかついては,全く触れるところがない。
テルビナフィンとアゾール系薬剤の併用による耐性真菌症に対する臨床上の効果
についての最初の報告は,平成10年(甲11)であり,平成3年から実に7年も
の長期間を要したという点は,本願発明の完成の困難性を裏付けるものである。2
剤の併用により相乗効果が発揮されても,その実用的投与量において,標的とす
る病原菌を死滅させるか,少なくともその増殖を抑止することができる程度の強
さの抗菌活性が発揮されるのでなければ,現実に抗菌薬として使用することはで
きないのである。
4被告は,当業者であれば,2種の抗真菌剤を併用したものにより,ある菌
に対して相乗効果が発揮されれば,他の菌に対しても相乗効果が発揮されること
を期待して,その併用剤について抗菌効果を試験することは,通常試みる程度の
ことであると主張するが,どのような菌種や菌株であれば相乗効果が発揮される
のかについて,これを予測する法則は知られてはいなかったのであるから,試験
結果に期待をかけることはあっても,試験結果自体を相当の蓋然性をもって予測
することは不可能である。
5本願明細書の前記文献(乙3)によれば,アゾール系薬剤に対する真菌の
耐性獲得の問題,すなわち,本願発明の技術的課題が当業者に既知のものであっ
たことは,被告の指摘するとおりであるが,本願発明はそのような既知の課題を
解決したものであって,その解決手段が新規であり,いかに引用例記載の2剤併
用を耐性真菌株の抑止に試みること自体が容易であったとしても,所望の結果が
得られることを期待するにとどまり,前記4に述べたように,現実に所望の結果
が得られることを相当の蓋然性をもって予測することができない以上,本願発明
の進歩性を否定することはできない。
第4被告の反論の要点
1原告が例示した証拠(甲5~8)は「相乗効果がある菌に対して発揮され,
れば,その菌に対してだけではなく,他の菌(耐性菌株を含め)に対しても発揮
されること」が本願当時(優先権主張日をいう。以下,同じ)に関連技術分野で。
よく知られていた事実であることを示すものである。したがって,すべての菌に
対して抑止効果を発揮するとは限らないとしても,当業者であれば,2種の抗真
菌剤を併用したものにより,ある菌に対して相乗効果が発揮されれば,他の菌に
対しても相乗効果が発揮されることを期待して,その併用剤について抗菌効果を
試験することは,通常試みる程度のことである。
しかも,本願当時において,抗菌剤の使用により抗菌剤に対する耐性菌株が出
現することは抗菌剤の分野において周知であり,ある薬剤に対する耐性菌株の出
現に対し,感受性のある別の薬剤の使用や新たな薬剤の開発が行われていること
も周知である。
そして,アゾール系抗真菌剤は,本願当時に公知の抗真菌剤であって,それに
対する耐性菌株の出現も知られていた。さらに「アゾール系抗真菌剤とテルビナ,
フィンを併用した抗真菌剤」は,アゾール系抗真菌剤と比べより広い抗菌スペク
トルを持つということは「アゾール系抗真菌剤とテルビナフィンを併用した抗真,
菌剤」の抗真菌作用の作用機序が,アゾール系抗真菌剤単剤とは異なることを示
唆するのであるから,そのような併用剤は,アゾール系抗真菌剤耐性菌株に対し
ても,抗菌作用を有することが期待されるのである。
したがって,アゾール耐性真菌株により引き起こされる真菌感染症の処置に使
用するための抗真菌剤として「アゾール系抗真菌剤とテルビナフィンを併用した,
抗真菌剤を採用することは当業者が適宜試みる程度のことであるそしてア」,。,「
ゾール系抗真菌剤とテルビナフィンを併用した抗真菌剤」は,種々の真菌に対し
相乗効果を示すことが引用例に記載されているのであるから,アゾール耐性真菌
,。株に対して相乗効果が発揮されることも当業者が予想し得る範囲のことである
2引用例の試験で2剤の抗菌剤の併用の相乗効果があるとされている菌株は
自然環境下で生育・増殖したものであり,耐性菌株について,種々の薬剤に耐性
を示す多剤耐性菌も多数知られているとしても,当業者が,耐性菌株に対しても
同様な相乗効果を発揮することを予測し得ることは,上記のとおりである。
3本件の相違点の判断においては,引用発明(平成元年出願)が完成された
,。当時にアゾール系薬剤に対する耐性に着目されていたか否かは直接関係しない
本願当時における当業者の技術常識をいうわけではないからである。そして,本
願の優先権主張日(平成7年5月12日)の前にも,アゾール系薬剤に対する真
菌の耐性が臨床上の問題として認識されていた。
4当業者であれば,2種の抗真菌剤を併用したものによりある菌に対して相
乗的な薬理効果が発揮されれば,他の菌に対しても相乗的な薬理効果が発揮され
ることを期待して,その併用剤について抗菌効果を試験することは,通常試みる
程度のことである。
5本願明細書記載の文献(乙3)によれば,アゾール系薬剤に対する真菌の
,,,耐性獲得の問題すなわち本願発明の技術的課題が当業者に既知のものであり
本願発明はそのような既知の課題を解決したものにすぎず,しかも,引用例記載
の2剤併用を耐性真菌株の抑止に試みること自体が容易であった以上,本願発明
の進歩性を肯定することはできない。
第5裁判所の判断
1本願発明について
ア本願明細書(甲2)の【発明の詳細な説明】には,次の事項が記載されて
いる。
「ア)本発明は,ヒト真菌感染症の処置に関するものである。本発明は,アゾール系フルコ(
ナゾールおよび/またはイトラコナゾールなどのアゾール系14α-メチルデメチラーゼ阻害
剤と共にテルビナフィンを含む,アゾール耐性酵母菌株により引き起こされる真菌感染症の処
置に使用する抗真菌組成物に関するものである(1頁本文1~4行)。
(イ)真菌は健康個体の消化管中に良性の共生生物としてしばしば存在するが,真菌,特に
カンジダ種は傷ついた宿主において広範な種類の重病を引き起こす。このような感染は明らか
に増加している。口腔咽頭のカンジダ症は,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症にかかっ
ている患者において,最もありふれた真菌感染症である。…これらの薬剤で最初に使用された
ケトコナゾールは慢性皮膚粘膜カンジダ症の処置に効能のあることがすぐに分かった。しかし
ながら,この薬剤を導入して間もなく,長期に及ぶ治療で生じてきたケトコナゾールの最小阻
害濃度(MIC)の上昇に関連した臨床的欠陥が報告された。…口腔咽頭カンジダ症は通常す
ぐにフルコナゾールに応答するが,完全に感染症を根絶するのは困難であり,治療完了後,数
カ月以内に再発することがしばしばである。この理由のために,多くのエイズ患者がフルコナ
ゾールを長期間に渡って連続的に,あるいは断続的に投与されている(1頁5~22行)。
(ウ)他のアゾールに比べて高い割合で,フルコナゾールに対する耐性が生じ,重要な臨床
問題となりつつあり,これは,特に,エイズ患者から,耐性を示す数多くのカンジダ株が単離
D.Lawetal.J.Antimicrob.Chemother.341994659-668されたことにより証明された例えば(,,[]
(判決注:乙3)参照(1頁23行~2頁2行))。
(エ)驚くべきことに,スクワレンエポキシダーゼ阻害剤であるテルビナフィン((登Lamisil
録商標))およびフルコナゾールおよび/またはイトラコナゾールのようなアゾール系14α
-メチルデメチラーゼ阻害剤との組合せ剤が,アゾール耐性真菌株に対して活性があることが
本発明により判明した。この化合物の組合せを用いることにより,アゾール耐性真菌株により
引き起こされるヒト真菌感染を処置する方法が提供される(2頁3~8行)。
(オ)すべての抗真菌剤の組合せが相乗または相加効果でさえ示すわけではなく,アンタゴ
E.Martinetal.Antimicr.Agentsandニスト様作用さえも文献に報告されている従って例えば。,,,
[]においては,フルコナゾールはアムホテリシンBのカンジダ殺Chemother.3819941331-1338
菌作用を弱めることが報告され;.()では,Abstr.Ann.MeetingAm.Soc.Microbiol871987392
におけるテルビナフィンおよびケトコナゾールの使用は抗真菌活性を全く亢進Candidaalbicans
しないことが報告され;()では,でテルビEur.J.Clin.Microbiol.Infect.Dis.71988732-735invitro
ナフィンはアゾールに対してアンタゴニスト様に作用するようであると記述され;および
()では組合せ療法においては,すべての抗真菌剤の組合せが相乗DrugsToday241988705-715
または相加効果でさえ示すとは限らないことがまた指摘されている(3頁1~11行)。
(カ)それ故,抗真菌剤を用いた組合せ療法は非常に予測不可能であるようである(3頁1。
2行)
(キ)このように,理論的基盤から,2つの別々の段階で単一の生合成経路を阻害する薬理
学的に活性な薬剤の組合せは,普通1つの段階のみに作用するものよりもより活性があると,
および,例えばテルビナフィンとフルコナゾールおよび/またはイトラコナゾールのようなア
ゾールとの組合せ剤は少なくとも相加活性は有すると期待するかもしれないが,驚くべきこと
に,理由は知られていないが,このような組合せ剤は,アゾールに対してすでに耐性である場
合でも効果を有し,すなわち,真菌株がアゾールに対して耐性になった状況でさえ相乗効果が
維持されている(3頁13~20行)。
(ク)アゾール耐性真菌株により引き起こされたヒト真菌感染の処置用の本発明の組合せ剤
は,フルコナゾールおよび/またはイトラコナゾールのようなアゾール系αメチルデメチ14-
ラーゼ阻害剤,および,遊離塩基,または例えば塩酸付加塩形などの酸付加塩の,式
(判決注:本願発明の【請求項1】中に記載の式に同じにつき省略)
で示されるアリールメチルアミンスクワレンエポキシダーゼ阻害剤であるテルビナフィンを含
む(3頁21行~4頁2行)。
(ケ)最も好ましいアゾールはフルコナゾールである。テルビナフィンは好ましくは医薬的
に許容可能な形であり,好ましくは塩酸塩形である。好ましい真菌は,好ましくは酵母菌であ
り,好ましくはカンジダ種であるならば,特にである。アゾール耐性誘導真Candidaalbicans
菌は表在性または全身性であり得,特に口腔咽頭である。それは,例えば皮膚または粘膜に対
して有害である(4頁3~7行)。
(コ)アゾール耐性は交又耐性(判決注:ある薬物に対して抵抗性を獲得すると,他の同様
な薬物に対しても同様な抵抗性を示すようになること)であり得,複数のアゾールを含む。
(4頁8行)
(サ)本発明の抗真菌組成物においては,アゾール系抗真菌剤の,アリールメチルアミン抗
真菌剤に対する重量比は幅広く変化し得るが,好ましくはからの範囲であり,よ100:11:500
り好ましくはからの範囲である。上記の範囲内の重量比において,アゾール系抗25:11:125
真菌剤とアリールメチルアミン抗真菌剤であるテルビナフィンを混合することにより,アゾー
CandidaalbicansCandidaTorulopsisglabrataCandidaル耐性真菌株特に酵母菌株例えば(=),,,,
および;例えばなどの株;まkruseiCandidatropicalisCryptococcusneoformansCryptococcus)
TrichophytonmetagrophytesTrichophytonCandidaたは例えばなどの株;特にカンジダ株特に,
により引き起こされた真菌症の処置において優れた結果が得られ得る(5頁3~12albicans。
行)
(シ)本発明の組成物は局所投与し得,調剤を調製するために,幅広い濃度(通常,組成物
の全重量の約%から約%の量である)の通常使用される医薬的担体に取り込み得る。0.110
本発明の組成物は,錠剤,カプセル剤または液状の形で経口投与用に使用し得,また,例えば
皮下投与,筋肉内注射または静脈内注射などの非経口投与にも使用し得る。本発明の組成物は
このように,通常,決まった組合せである。しかしながら,有効成分の投与はまた,自由な組
合せの形で,すなわち,例えばいろいろな順序で連続的に別々に行い得る(5頁13~19。
行)
(ス)有益な活性は,様々なアゾール耐性株を用いて,で示され得る。アッセイは有invitro
効性を確認してある薬物希釈系を用い,穴の平底微量希釈プレート中でRPMI培地961640
100g/ml0.006g/mlを用いて行う。テルビナフィン(塩酸塩形)およびアゾールをμからμ
の濃度で使用する。最小阻害濃度(MIC)は℃で時間インキュベートした後に決定3748
する。最小真菌致死濃度(MFC)は薬物処理細胞を薬物のない培地へと移した時間後に24
測定する。MIC決定に使用する終点は,%阻害(表1および4)あるいは(通常のよう100
80TerbFluItraに)%阻害(表2および3)である(=テルビナフィン;=フルコナゾール;
=イトラコナゾール;=カンジダ(5頁20~28行)C.)。
‥‥(判決注:表1乃至5は省略)」
イ以上によれば,本願明細書には,慢性皮膚粘膜カンジダ症の処置に有効なケ
トコナゾールには,長期に及ぶ使用に伴って,その最少阻害濃度(MIC)が上昇
するという臨床上の欠陥があることが報告されていたこと,ヒト免疫不全ウイルス
(HIV)感染症の患者にありふれた真菌感染症である口腔咽頭カンジダ症は,通
常,すぐにフルコナゾールに応答するが,再発防止を図って,これを長期間にわた
って,連続的ないしは断続的に投与すると,耐性を生ずるという臨床上の問題が認
識されつつあることなどを背景として,テルビナフィンとアゾール系14α-メチ
ルデメチラーゼ阻害剤との組合せ製剤がアゾール耐性真菌株に対して相乗効果を示
すことが判明し,本願発明に至ったこと,そして,一般に,すべての抗真菌剤の組
合せが相乗効果又は相加効果を示すわけではなく,組合せ次第ではアンタゴニスト
様作用(相互に打ち消し合う作用)を示すことも報告されている中で,アゾールに
,,対して耐性になった真菌株に対してもその相乗効果が維持されている本願発明は
驚くべき効果を有するものであり,予測不可能な効果であると認識していること,
が記載されているということができる。
2原告主張の取消事由について
原告は,本願発明の相乗的な薬理効果を予測することは困難であったと主張する
ので,検討する。
審決は,その説示に即すれば,一般論として,2種の抗真菌剤の併用がどのよう
な薬理効果を奏するかを論じた上,本願発明にいう相乗効果を奏するか否かについ
て,判断しているのではなく,既に2種の抗真菌剤の併用の相乗効果を奏するとさ
れた引用例によって,テルビナフィンとアゾール系阻害剤とを含む抗真菌組成物に
,「,,,,,ついて本発明は抗真菌組成物例えば皮膚糸状菌症カンジダ症…に対し
アリルアミン系抗真菌剤(判決注:テルビナフィンに相当)又は1H-トリアゾー
ル系抗真菌剤(判決注:アゾール系阻害剤に相当)を単独で用いた場合に比べて,
より広い抗菌スペクトルと強力な抗菌活性を有する組成物を提供できる(甲4の」
6頁左上欄の【発明の効果)という薬理効果を認定し,これに基づいて,テルビ】
ナフィンとアゾール系阻害剤という具体的組合せについて,アゾール耐性真菌株に
対しても,その組合せによる相乗効果が奏されることを困難なく予測ないしは期待
して,用いることができるか否かを判断したものである。
そして,本願明細書の1頁23行~2頁2行の記載及び同所に引用された前記文
献(乙3)によれば,本願当時,既に,耐性真菌の出現は当該技術分野における重
要な課題であったものであり,引用例に具体的に記載されたテルビナフィンとアゾ
ール系阻害剤を含む抗真菌組成物がより広い抗菌スペクトルを示すものであること
(適用可能な菌株の種類が多いこと,及び,強力な抗菌活性を有すること(相乗)
作用が得られるものであること)に基づいて,テルビナフィンとアゾール系阻害剤
,,を含む抗真菌組成物がある種のアゾール耐性真菌株誘起の真菌感染症に対しても
それぞれ単独で用いる場合とは異なる作用機序による相乗的な治療効果が得られる
ことを期待することは,当然のことであるというべきである。
したがって,引用例に接した当業者においては,その引用例に記載されたテルビ
ナフィンとアゾール系阻害剤を含む抗真菌組成物が,アゾール耐性真菌株誘起の真
菌感染症に対しても治療効果を有することを予測ないしは期待し,これを確認しよ
うと動機付けられるものというべきである。したがって,引用例に接した当業者が
耐性菌に対しても引用例記載の2剤併用の抗真菌組成物を用いることは容易に想到
できるものであり,原告主張の取消事由は理由がないことが明らかである。
3原告のその余の主張について
原告の主張(原告の主張(取消事由)の要点)は,以上の判示に照らし,いずれ
も失当であることが明らかである。
4結語
よって,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却を免れない。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
高野輝久
裁判官
佐藤達文

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