弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えのうち行政文書開示決定の義務付けを求める部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1総務大臣が原告に対し平成17年8月19日付けでした行政文書不開示決定
を取り消す。
2総務大臣は,原告に対し,原告が平成17年8月1日に開示請求をした行政
文書の開示決定をせよ。
第2事案の概要
本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」
という)4条1項の規定に基づいて,総務大臣に対し,行政文書の開示請求。
をした原告が,文書不存在を理由に不開示決定を受けたことから,当該不開示
決定の取消しと,開示請求に係る行政文書の開示決定の義務付けを求める事案
である。
1前提となる事実
原告は,平成17年8月1日,情報公開法4条1項の規定に基づき,総務(1)
大臣に対し,請求する行政文書の名称等を「電波により頭の中の考えが字や
映像になったり,指をさされたり,右,左手を上げたり,いる場所がわから
ないのに人がくる理由がわかる文書」として,当該文書の開示請求をした
(以下当該文書を「本件文書,当該開示請求を「本件開示請求」とい」
う(乙1。。))
総務大臣は,平成17年8月19日,本件開示請求について「開示請求(2),
に係る行政文書を作成・取得しておらず,文書不存在であるため」との理。
由を付して,本件文書を不開示とする決定(以下「本件不開示決定」とい
う)をするとともに,これを原告に通知した(乙2。。)
原告は,平成17年8月29日,本件不開示決定を不服として,総務大臣(3)
に対し,異議申立てをするとともに(乙3,同年11月16日,本件訴訟)
を提起した。
総務大臣は,情報公開・個人情報保護審査会への諮問を経て,平成17年(4)
12月28日,原告に対し,前記の異議申立てを棄却する旨の決定をした(3)
(乙7ないし乙9。)
2当事者の主張
被告の主張(1)
ア本件不開示決定の取消請求について
本件文書は,電波によって直接的に,人の思考が字や映像にされ,又は,
人が指を指す,手を上げる,若しくはその人には分からないはずの他人の
居場所を訪れることがあるという前提で,そのような現象が起こる理由に
ついて明らかにする文書であると考えられる。
しかしながら,電波によって上記のような現象が引き起こされるとは想
定されていないことから,総務省においては,当該現象に関する調査,研
究等は実施していない。
また,総務省において,このような現象が起こる理由を明らかにする行
政文書の有無につき,事務室及び書庫の探索を行ったほか,関係部署にこ
れを保有していないか照会したところ,そのような文書は存在しないこと
が確認された。
以上によれば,本件文書は存在しないことが明らかであるから,本件不
開示決定は適法であり(情報公開法9条2項,その取消しを求める原告)
の請求には理由がない。
イ行政文書開示決定の義務付けの訴えについて
本件不開示決定は適法であり,取り消されるべきものではないから,本
件開示請求に対する開示決定を求める原告の訴えは不適法である(行政事
件訴訟法37条の3第1項2号。)
原告の主張(2)
原告は現在も頭(脳)の中に電波を入れられているということは,電波が
人体に与える影響に関する研究などを原告の脳を使って医学的及び工学的な
観点から研究しているのと同じである。総務省は,生きた人間,生命,人体
を使って研究を進めているのであるから,本件文書を開示すべきである。
第3当裁判所の判断
1本件不開示決定の取消請求について
情報公開法の規定に基づいて行政文書の開示請求を受けた行政機関の長は,
開示請求に係る行政文書を保有していないときは,開示をしない旨の決定をす
ることとされている(情報公開法9条2項。)
本件文書の存在に関しては,総務大臣が,情報公開・個人情報保護審査会に
対し平成17年10月6日付けで提出した諮問書添付の理由説明書の中で,
「総務省では,電波を安全に安心して利用できる環境を確保するため,電波が
人体に悪い影響を与えないよう電波防護指針に基づいた規制を行っているほか,
電波防護指針の基準値よりも弱い電波であっても人体に何らかの影響があるの
ではないかとの懸念に応えるため,電波が人体に与える影響に関する研究の推
進等を行っているところである。電波が人体に与える影響に関する研究につい
ては,国際保健機関(WHO)等を中心とした国際機関とも協調し,電波が,
がんの発生,免疫機能,神経系等に与える影響について医学的及び工学的な観
点から,研究を進めているが,不服申立人が主張する『頭の中の考えが字や映
像になったり,指をさされたり,回りの人が右,左手を上げたり,いる場所が
わからないのに人がくる』という現象が,電波によって引き起こされるとは,
想定されていないことから,当該現象に関する調査及び研究は実施しておらず,
さらに,不服申立人が存在を主張する行政文書の有無について,事務室及び書
庫の探索を行ったほか,省内関係部署が作成又は取得した事実がないか照会を
行ったところ,不服申立人が存在を主張する行政文書は存在しないことが確認
できたので,総務省において該当する文書を作成又は取得したことはない」。
と説明している(乙7。また,総務省総合通信基盤局総務課調査係の担当職)
員が,平成17年9月1日,本件文書を保有していないかどうかを総務省内の
関係部署に照会したところ,いずれの部署からも,保有していない旨の回答が
あったことが認められる(乙10の1,2。)
社会通念上「電波により頭の中の考えが字や映像になったり,指をさされ,
たり,右,左手を上げたり,いる場所がわからないのに人がくる」という現象
が客観的に存在するものとは認められず,当該現象に関する調査及び研究が総
務省その他の関係機関において実施されているものとは容易に想定し難いから,
当該現象が生じる理由について説明した文書が存在する蓋然性もまた,極めて
低いものといわざるを得ない。このことと,上記のような総務大臣の説明及び
総務省内の関係部署からの回答の状況とを併せ考慮すれば,本件不開示決定が
行われた当時において,本件文書は不存在であったものと認められる。したが
って,文書不存在を理由として本件文書の開示をしないこととした本件不開示
決定は適法である。
2行政文書開示決定の義務付けを求める訴えについて
本件訴えのうち行政文書開示決定の義務付けを求める部分は,情報公開法に
よる開示請求に対して不開示決定がされたことを不服として,当該開示請求に
係る行政文書の開示決定をすべき旨を命ずることを求める訴訟であるから,行
政事件訴訟法3条6項2号の義務付けの訴えに該当するものである。
ところで,行政事件訴訟法37条の3第1項2号は,同法3条6項2号の義
務付けの訴えは,申請を却下し又は棄却する旨の処分がされた場合においては,
当該処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるとき
に限り,提起することができると定めている。
これを本件についてみると,本件不開示決定が取り消されるべきものでない
ことは前記1に説示したとおりであり,同決定が無効又は不存在でないことも
明らかである。
そうすると,本件の義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項2
号の要件を満たさないから,不適法な訴えであるといわざるを得ない。
第4結論
以上の次第で,本件訴えのうち行政文書開示決定の義務付けを求める部分は
不適法であるから却下し,原告のその余の請求は理由がないから棄却すること
とし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
鶴岡稔彦裁判長裁判官
古田孝夫裁判官
潮海二郎裁判官

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