弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
検察官に対し,A作成の平成19年1月15日付捜査復命書の開示を命ずる。
Bに対する処分結果を記した書面(不起訴裁定書等)及びBの処分結果に至る証拠一式
の証拠開示請求をいずれも棄却する。
理由
1証拠開示請求の前提となる弁護人らの予定主張
弁護人らは,被告人に対する重過失傷害被告事件について,車道の端に停止していた被
告人運転の自転車や被告人の手,同自転車後部に同乗していた被告人の子の足にBの運転
する普通自動二輪車が接触したのであるから,その結果転倒したBが負傷した事故(以下
「本件事故」という。)について,被告人に重過失があったと認めるには合理的な疑いが
残ると主張する予定であるとする。
2開示請求の趣旨及び理由の要旨
本件請求の趣旨は,検察官に対し,Bに対する処分結果を記載した不起訴裁定書等の書
面(以下「不起訴裁定書等」という。)及びBの処分結果に至る証拠一式(以下「B関係
証拠」という。)並びにA作成の平成19年1月15日付捜査復命書(以下「本件捜査復命書」
という。)の開示を命じる決定を求めるというものであり,その理由は,要するに,弁護
人らの前記予定主張を前提に,被告人の防御の準備のためには,前記予定主張に関連する
証拠である不起訴裁定書等及びB関係証拠並びに本件捜査復命書の全てについて開示を受
ける必要があるが,検察官がその全部又は一部の開示に応じないこれらの証拠について,
開示命令を求めるというものである。
これに対し,検察官は,不起訴裁定書等については刑事訴訟法316条の20にいう証拠には
当たらず,B関係証拠についても開示を求める証拠の特定を欠く上,いずれについても開
示の必要性が認められないとし,また,本件捜査復命書についても,通報者の氏名住所と
いった個人特定事項は前記予定主張との関連性が希薄で,個人特定事項の不開示を希望し
ている通報者のプライバシーの保護を考慮すると開示の必要性も認められないとして,弁
護人らの開示請求は理由がないと主張している。
3当裁判所の判断
・不起訴裁定書等について
刑事訴訟法における証拠とは,事実の存否を認定する根拠となる資料であり,当該事実
に関するものであれば,作成の経緯,理由や作成者の主観に関わらず証拠となると解され
るから,不起訴裁定書等についても,刑事訴訟法316条の20にいう証拠に当たる(検察官に
よる不起訴処分それ自体を立証する場合には,不起訴裁定書等はその証拠となり得る。)。
しかしながら,本件における弁護人らの前記予定主張の内容や,本件事故に対するBの
過失の有無及びその程度が本件の争点となり得ることを考慮しても,本件事故の態様やB
の過失の有無に関する検察官の判断,評価を記載したに過ぎない不起訴裁定書等は,Bや
被告人の過失の有無及びその程度を認定する根拠となる資料とは言えないから,前記予定
主張との関連性は認められないのであり,その開示が被告人の防御の準備のために必要で
あるとも認められない。
したがって,弁護人らの本件請求のうち,不起訴裁定書等の証拠開示を求める点につい
ては理由がない。
なお,弁護人らは,開示請求に対し不開示理由を告げなかった検察官の対応は刑事訴訟
規則217条の24に反する違法なものであるとするが,弁護人らの主張によっても,検察官は,
不開示としたものについて関連性や必要性に欠けると回答していたのであるから,このよ
うな検察官の対応が直ちに上記規則に反するものとは言えず,これが上記判断に影響を及
ぼす事情でないことは明らかである。
・B関係証拠について
前記のとおり,本件では,本件事故の態様や,Bの過失の有無及びその程度が争点とな
り,また争点となり得ることからすると,Bを被疑者として作成,収集された証拠書類で
あっても,本件事故の態様や,Bの走行状況等その過失の有無等の前提となる事実に関す
るものであれば,前記予定主張との関連性や開示の必要性が認められる場合はあると考え
られる。
しかしながら,種々の事情を総合考慮して処分を決する検察官が収集したB関係証拠に
は,本件事故に関する資料のみならず,Bの身上に関する資料など多様な資料が存在する
ところ,例えばBの身上や前科前歴に関する資料については,前記予定主張と当然に関連
するものではなく,被告人の防御の準備のためにその開示が必要であるとも言えない上,
その開示が個人の家族関係や犯罪歴をみだりに公表するという弊害を生ずることは明らか
である。このように,B関係証拠は,その全てについて前記予定主張との具体的な関連性
や開示の必要性が認められるものではなく,他方で開示による弊害の認められる資料も含
まれることからすると,その全ての開示を求めた弁護人らによるB関係証拠の開示請求は,
刑事訴訟法316条の20の要件を満たすものとは言えない。
したがって,弁護人らの本件請求のうち,B関係証拠の証拠開示を求める点についても
理由がない。
・本件捜査復命書について
弁護人らは,本件請求において,検察官から既にその大部分が開示されている本件捜査
復命書のうち,氏名が明らかにされた通報者についてはその住所の,氏のみを明らかにさ
れた通報者についてはその名及び住所について検察官が開示を拒んでいるとして,これら
の点を含めた本件捜査復命書全部の開示を求めているものと解される。
ところで,前記予定主張の内容に照らせば,本件事故直後の状況や被告人が倒れていた
位置及び体勢など,本件事故の態様を認定する根拠となる事実を認識,記憶していた可能
性のある上記通報者2名の説明や供述は前記予定主張と関連する証拠と言えるところ,これ
らの者の個人特定事項についても,その実在性や本件事故との関係などを確認し,その説
明や供述内容の信用性を検討するために必要な資料であると言えるから(そうであるから
こそ,これら個人特定事項が本件捜査復命書に記載されているものと考えられる。),通
報者の名や住所が記載された本件捜査復命書は,その全部が前記予定主張と関連する証拠
であると認められる。
そして,上記のとおり,通報者2名の個人特定事項が各自の実在性,関連性や説明,供述
の信用性判断に必要な資料であることからすると,その説明や供述内容が明らかとなった
後であっても,被告人の防御の準備のためにはその開示が必要であると認められる。
なお,検察官の主張するとおり,その個人特定事項が記載された本件捜査復命書全部を
開示することにより,これらの事項の不開示を希望する通報者2名のプライバシーが侵害さ
れることになるが,目的外使用の禁止など法が定める枠内で,弁護人らに対し,目撃者2名
の名や住所が記載された本件捜査復命書が開示されることにより生ずる通報者2名のプラ
イバシー侵害の程度は比較的軽微と言えるのであり,このような開示による弊害と上記の
とおりの開示の必要性を比較すれば,本件捜査復命書全部の開示を認めるのが相当である。
したがって,弁護人らの本件請求のうち,本件捜査復命書の開示を求める点については
理由がある。
・以上の検討によれば,弁護人らの本件請求のうち,本件捜査復命書の開示を求め
る点については理由があり,不起訴裁定書等及びB関係証拠の開示を求める点については
理由がないから,刑事訴訟法316条の26第1項により,検察官に対し本件捜査復命書の開示
を命じ,不起訴裁定書等及びB関係証拠の開示請求はいずれも棄却することとする。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判官・佐藤建)

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