弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人本人の上告趣意第一章について。
 所論は違憲をいうけれども実質は単なる訴訟法違反の主張であつて(この点に関
する原審の判断は相当である。)適法な上告理由に当らない。
 同第二章について。
 所論は被告人の捜査官に対する各供述調書は任意性を欠くと前提して違憲違法を
いうけれども、その任意性を疑うべき点は認められないとした原審の判断は相当で
あるから(なお憲法三七条二項は、裁判所は被告人又は弁護人から申請した証人は
不必要と思われる者まで悉く尋問しなければならないという趣旨ではないこと既に
当裁判所の判例〔昭和二二年(れ)第二三〇号同二三年七月二九日大法廷判決、集
二巻九号一〇四五頁〕とするところである。従つて第一審裁判所が被告人の右各供
述調書の任意性を争うため、被告人が再度申請した所論証人Aを喚問しなかつたか
らといつて同裁判所の措置を目して右憲法の条項に違反するものということはでき
ない。)所論違憲違法の主張はすべて前提を欠くものであつて適法な上告理由に当
らない。
 同第三章について。
 所論は第一審裁判所の弁論の分離、併合の措置を非難する単なる訴訟法違反の主
張であつて適法な上告理由に当らない。
 同第四章について。
 所論は原審の証拠の取捨判断を非難しひいて事実誤認を主張するものであつて適
法な上告理由に当らない。
 同第五章及び爾余の論旨について。
 所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであつて適法な上告理
由に当らない。
 弁護人吉田和夫の上告趣意第一点について。
 所論は違憲をいうけれどもその実質は単なる訴訟法違反の主張であつて(この点
に関する原審の判断は相当である。)適法な上告理由に当らない。
 同第二点について。
 所論は違憲を主張する。しかし憲法三七条二項後段の法意は、裁判所は、被告人
側の申請にかかる証人のすべてを取り調べなければならないというのではないこと
及び同条項にいう「公費で自己のため証人を求める権利を有する」という意義は、
「刑事被告人は裁判所に対して証人の喚問を請求するには、何ら財産上の出捐を必
要としない。証人訊問に要する費用、すなわち証人の旅費、日当等はすべて国家が
これを支給するのであつて、訴訟進行の過程において被告人にこれを支弁せしむる
ことはしないのであつて、被告人の無資産などの事情のために充分に証人の喚問を
請求するの自由が妨げられてはならないという趣旨」であることは、当裁判所の判
例(昭和二三年(れ)第八八号同年六月二三日大法廷判決、集二巻七号七三四頁、
同年(れ)第三一六号同年一二月二七日大法廷判決、集二巻一四号一九三四頁)と
するところである。右各判例の趣旨に徴すれば、右憲法三七条二項後段の規定は、
所論の如く、裁判所が被告人側申請の証人を一旦採用した以上、その証人が所在不
明のため召喚状の送達ができないときは、裁判所において公費でその証人の所在調
査を遂げた上、これが喚問をなす義務をも裁判所に負わしめたものと解することは
できない。記録によれば、所論証人Aは、被告人の捜査官に対する供述調書の任意
性を争うため弁護人から申請された証人であつて第一審裁判所はこれを採用して取
調を了したところ被告人から公判期日外において同一立証趣旨で同証人の再喚問の
申請があつたこと、同裁判所はこれが採否の決定を記録上明確にしていないが同証
人に対して再び召喚状を発していること、その召喚状は同証人の所在不明のため送
達不能に帰したものであること、その後弁論終結に当り、同裁判所において右証人
の採用を取り消す旨の明示的な決定もなく、弁護人からも被告人からも何らの異議
申立もなく、そのまま結審されていること明らかである。以上のような手続の経過
よりみれば、同証人の尋問申立が一旦採用せられたけれども、その所在不明のため
黙示的に右決定が取消され右尋問申立が却下せられたものであり、被告人及び弁護
人においてもこれに異議がなかつたものと推認せられる。されば第一審裁判所の訴
訟手続には法令違反がないといわなければならないのであつて、第一審裁判所が右
証人喚問決定を取り消す旨の決定をするに先立ち公費で右証人の所在調査を遂げる
措置に出でなかつたからといつてこれを目して憲法三七条二項に違反するというこ
とはできない。従つて第一審判決を支持した原判決の違憲を主張する論旨は、結局
において、理由がない。
 同第三点について。
 所論は違憲をいうけれども、被告人の捜査官に対する各供述調書が任意性を欠く
とは認められないとした原審の判断は相当であるから所論違憲の主張はその前提を
欠くものであつて適法な上告理由に当らない。
 同第四点について。
 所論は事実誤認の主張であつて適法な上告理由に当らない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条、一八一条一項但書により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り判決する。
  昭和三八年一二月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   竪   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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