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平成22年9月28日判決言渡
平成21年(行ケ)第10344号審決取消請求事件
平成22年7月15日口頭弁論終結
判決
原告日立工機株式会社
訴訟代理人弁護士井坂光明
訴訟代理人弁理士井沢博
被告マックス株式会社
訴訟代理人弁護士田倉保
訴訟代理人弁理士七條耕司
同高田修治
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2005−80121号事件について平成21年9月18日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1当事者間に争いのない事実
(1)本件特許
原告は,発明の名称を「打込機」とする特許第2842215号の特許(以
下「本件特許」という。)の特許権者であり,本件特許は,平成6年4月22
日に出願され(優先権主張平成5年9月22日,日本),平成10年10月2
3日に設定登録されたものであり,登録時の請求項の数は8である(甲32)。
(2)本件審決に至る経緯
ア第1次審決に至る経緯
被告は,平成17年4月19日,特許庁に対し,本件特許を無効にする
ことについて審判(無効2005−80121号。以下「本件無効審判」
という。)を請求し,これに対し,原告は,平成17年7月15日付けで訂
正請求をした(以下「本件第1訂正」という。)。特許庁は,同年11月8
日,「訂正を認める。特許第2842215号の請求項1∼7に係る発明に
ついての特許を無効とする。特許第2842215号の請求項8に係る発
明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」
という。)をした。
イ第1次審決に対する取消訴訟
原告及び被告は,それぞれ第1次審決の取消しを求めて,審決取消訴訟
(知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10842号,第10847
号)を提起した。その後,原告は,本件特許につき訂正審判請求をした(訂
正2005−39230号)。知的財産高等裁判所は,平成18年1月30
日,特許法181条2項により第1次審決を取り消す旨の決定(以下「第
1次取消決定」という。)をした。
ウ第2次審決に至る経緯
第1次取消決定が効力を生じたことにより再開された本件無効審判の手
続において,特許法134条の3第5項本文により,平成18年2月20
日に訂正請求がなされたとみなされた(以下「本件第2訂正」という。)。
その後,被告は,平成18年3月31日付けで弁駁書を提出するとともに,
フランス第1510942号公報(甲6。以下「刊行物1」という。)等の
証拠を追加提出した。
特許庁は,平成18年5月18日,原告に対し無効理由通知書,被告に
対し職権審理結果通知書をそれぞれ発送した。これに対し,原告は,平成
18年6月19日付けで意見書を提出するとともに訂正請求をした(以下
「本件第3訂正」という。)。
特許庁は,平成18年10月16日,「訂正を認める。特許第28422
15号の請求項1乃至5に係る発明についての特許を無効とする。」との審
決(以下「第2次審決」という。)をした。
エ第2次審決に対する取消訴訟
原告は,第2次審決の取消しを求めて,審決取消訴訟(知的財産高等裁
判所平成18年(行ケ)第10516号)を提起した後,本件特許につき
訂正審判請求をした(訂正2006−39199号)。知的財産高等裁判所
は,平成19年2月14日,特許法181条2項により第2次審決を取り
消す旨の決定(以下「第2次取消決定」という。)をした。
オ第3次審決に至る経緯
第2次取消決定が効力を生じたことにより再開された本件無効審判の手
続において,原告は,平成19年3月5日付けで訂正請求をした(以下「本
件第4訂正」という。)。
特許庁は,平成19年9月28日,「訂正を認める。本件審判の請求は,
成り立たない。」との審決(以下「第3次審決」という。)をした。
カ第3次審決に対する取消訴訟
被告は,第3次審決の取消しを求めて,審決取消訴訟(知的財産高等裁
判所平成19年(行ケ)第10380号)を提起した。知的財産高等裁判
所は,平成20年11月27日,第3次審決には判断遺脱の違法があると
して,第3次審決を取り消した(以下「前訴判決」という。)。
キ本件審決に至る経緯
前訴判決が確定したことにより再開された本件無効審判の手続において,
特許庁は,平成21年5月21日付けで,本件第4訂正後の特許請求の範
囲の請求項1ないし4に係る特許は特許法29条2項に違反する旨の無効
理由通知を原告にするとともに,同旨の職権審理結果通知を被告にした。
その後,原告は,平成21年6月24日付けで意見書を提出するとともに,
訂正請求をした(以下「本件第5訂正」という。)。
特許庁は,平成21年9月18日,「訂正を認める。特許第284221
5号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との審
決(以下「本件審決」という。)をし,同年10月1日,その謄本は原告に
送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件第5訂正後の本件特許の願書に添付した明細書(甲32)の特許請求の
範囲の請求項1ないし4の各記載は,次のとおりである(以下,これらの請求
項に係る発明を項番号に対応して,「本件発明1」などといい,これらをまとめ
て「本件発明」という。)。
「【請求項1】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,側面が
接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合体
を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持するマ
ガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を有
し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部はド
ライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内するよ
うにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリガ
近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビット
ガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された平
板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段と
を備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライ
ブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,前記コンタクトア
ームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン側から前記ビット
ガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの順に配列し,先頭
の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受けるようにし,前記止
具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置しな
いように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持すると共に,
前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタクトアームの部分
に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの下端まで貫通して
設け,該射出穴から止具を打出すようにし,コンタクトアーム先端部は下方
に行くに従って細くなるように先細りの形状としたことを特徴とする打込機。
【請求項2】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,側面
が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合
体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持する
マガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を
有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部は
ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する
ようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリ
ガ近傍まで延び,下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビッ
トガイドの前面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持された
平板状のコンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段
とを備え,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドラ
イブビットの駆動を開始させるようにした打込機であって,
前記コンタクトアームの前面にプレートを設けることにより,前記マガジン
側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記プレートの
順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受ける
ようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクト
アームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに
支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コンタ
クトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアームの
下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし,コンタクトア
ーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし,前記平
板状のコンタクトアームの中間部に前記ビットガイドの前記ドライブビット
を案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延びた2個の案内部を設け,
該案内部を,前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で,前
記ビットガイドに沿って上下動させる構成としたことを特徴とする打込機。
【請求項3】前記押圧手段を,前記2個の案内部を下方に押圧する2個の
スプリングにより構成したことを特徴とする請求項2記載の打込機。
【請求項4】ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,側面
が接着剤を介して連結された多数の止具よりなる止具集合体及び該止具集合
体を前進させるためスプリングによって押圧される給送部材を収納支持する
マガジンと,マガジン前端に設けられ,上記止具集合体が通過する給送路を
有し,少なくとも前面が平板状のビットガイドを備え,上記給送路の一部は
ドライブビット及びドライブビットにより打撃される先頭の止具を案内する
ようにした打込機であって,打込機本体に設けられたトリガと,上端がトリ
ガ近傍まで延び,反マガジン側の前面に射出路を設けた平板状のコンタクト
アームと,コンタクトアームをスプリングによって下方に押圧する押圧手段
とを備えた打込機であって,前記コンタクトアームの前面にプレートを設け
ることにより,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアー
ムの中間部,前記プレートの順に配列して,前記平板状のコンタクトアーム
の中間部を前記ビットガイドの平板状の前面と前記プレートとの間で上下移
動するようにし,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなくプレートで受
けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタ
クトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイ
ドに支持すると共に,前記ビットガイドの給送路の下端より突出した前記コ
ンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コンタクトアー
ムの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すようにし,コンタク
トアーム先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状とし,コ
ンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみ前記ドライブビットの
駆動を開始させると共に打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタ
クトアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触して前記ドライブビ
ットが前記止具から外れないようにしたことを特徴とする打込機。」
3本件審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件審決は,本件第5訂正を認
めた上で,本件発明についての特許は,刊行物1記載の発明に実公昭56−6
303号公報(以下「刊行物2」という。)記載の発明を適用することにより容
易に想到し得るものであり,特許法29条2項に該当するから,無効とすべき
ものであるとしたものである。
本件審決は,上記判断をするに当たって,刊行物1,2記載の発明の内容,
本件発明と刊行物1記載の発明との一致点・相違点について,次のとおり認定
した(なお,審決書30頁25行,27行,39頁32行,36行に「引用例
1」とあるのは,「刊行物1」の誤記と認められる。また,刊行物1に添付され
た図2,7,8は,別紙図面1ないし3のとおりであり,刊行物2に添付され
た第4図は,別紙図面4のとおりである。)。
(1)刊行物1記載の発明1
打込み71を内蔵した箱状支持体29の下方に位置し,多数の針Aよりな
る針A集合体及び該針A集合体を前進させるためばね107によって押圧さ
れるU金具106を収納支持するマガジン90と,マガジン90前端に設け
られ,上記針A集合体が通過する垂直開口部88を有し,前面が平板状のブ
ロックの一方の部分73aを備え,上記垂直開口部88の一部は打込み71
及び打込み71により打撃される先頭の針Aを案内するようにした止め金打
機であって,
上端がバルブ制御ロッド32に固定された止め具78の先端を支持するリ
ング77に到達し,下端がブロック73下端より下方に突出し,中間部がブ
ロックの一方の部分73aの前面に設けられると共にブロックの一方の部分
73aに上下動可能に支持された接触子80と,接触子80を下方に押圧す
る押圧手段とを備え,接触子80が上昇することにより打込み71の駆動を
開始させるようにした止め金打機であって,
前記接触子80の前面にブロックの他方の部分73bを設けることにより,
前記マガジン90側から前記ブロックの一方の部分73a,接触子80の中
間部,前記ブロックの他方の部分73bの順に配列し,先頭の針Aの前面を
閉鎖保持されているドア84で受けるようにし,前記針A集合体が通過する
垂直開口部88とドア84との間に接触子80が位置しないように前記接触
子80の中間部をブロックの一方の部分73aに支持し,ブロックの一方の
部分73aとドア84との間の溝82にある針Aを打出すようにした止め金
打機。
(2)刊行物1記載の発明2
刊行物1記載の発明1において,前記接触子80の中間部にブロック73
の前記打込み71を案内する垂直開口部88の部分の両側に沿って上方に延
びた2個の接触子80の部分を設け,該接触子80の部分を,ブロックの一
方の部分73aの平板状の前面と他方の部分73bとの間で,ブロックの一
方の部分73aに沿って上下動させる構成とした止め金打機。
(3)刊行物1記載の発明3
打込み71を内蔵した箱状支持体29の下方に位置し,多数の針Aよりな
る針A集合体及び該針A集合体を前進させるためばね107によって押圧さ
れるU金具106を収納支持するマガジン90と,マガジン90前端に設け
られ,上記針A集合体が通過する垂直開口部88を有し,前面が平板状のブ
ロックの一方の部分73aを備え,上記垂直開口部88の一部は打込み71
及び打込み71により打撃される先頭の針Aを案内するようにした止め金打
機であって,
上端がバルブ制御ロッド32に固定された止め具78の先端を支持するリ
ング77に到達した接触子80と,接触子80を下方に押圧する押圧手段と
を備えた止め金打機であって,
前記接触子80の前面にブロックの他方の部分73bを設けることにより,
前記マガジン90側から前記ブロックの一方の部分73a,接触子80の中
間部,前記ブロックの他方の部分73bの順に配列して,接触子80の中間
部をブロックの一方の部分73aの平板状の前面と他方の部分73bとの間
で上下移動するようにし,先頭の針Aの前面を閉鎖保持されているドア84
で受けるようにし,前記針A集合体が通過する垂直開口部88とドア84と
の間に接触子80が位置しないように前記接触子80の中間部をブロックの
一方の部分73aに支持し,ブロックの一方の部分73aとドア84との間
の溝82にある針Aを打出すようにし,接触子80が上昇することにより打
込み71の駆動を開始させるようにした止め金打機。
(4)刊行物2記載の発明
ハウジング1の下方に位置した釘打出し用ノーズ2Bを備えた空気式釘打
機であって,
ハウジング1に設けられた手動トリガ3と,上端である作業端11が手動
トリガ3近傍まで延びるセイフテイアーム8Aと,当該セイフテイアーム8
Aに組み付けられ,下端が釘打出し用固定ノーズ2Bより下方に突出する釘
打出し用可動ノーズ23と,セイフテイアーム8Aを下方に押圧する圧縮コ
イルスプリング9とを備え,セイフテイアーム8Aが上昇し,手動トリガ3
が操作された時のみドライバによる釘の打出しを生起させるようにした空気
式釘打機であって,
前記釘打出し用固定ノーズ2Bのドライバガイド孔20の下端よりも突出
した釘打出し用可動ノーズ23の部分にドライバガイド孔20と同一の径で
同軸のドライバガイド孔20aを前記釘打出し用可動ノーズ23の下端まで
貫通して設け,該ドライバガイド孔20aから釘を打出すようにした安全装
置として十分に機能するとともに釘打込点を正確に定めることのできる空気
式釘打機。
(5)本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点及び相違点
ア一致点
ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具より
なる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押
圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,
上記止具集合体が通過する給送路を有し,前面が平板状のビットガイドを
備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃
される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,
下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドの前
面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持されたコンタクト
アームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタ
クトアームが上昇することを1つの要因としてドライブビットの駆動を開
始させるようにした打込機であって,
前記コンタクトアームの前面に部材を設けることにより,前記マガジン
側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記部材の順
に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなく部材で受けるよう
にし,前記止具集合体が通過する給送路と部材との間にコンタクトアーム
が位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持
し,止具を打出すようにした打込機。
イ相違点
(ア)相違点1
止具集合体に関して,前者は,側面が接着剤を介して連結されたもの
であると特定しているのに対して,後者は,止具集合体に相当する針A
集合体が連結されたものであるのかどうか不明な点。
(イ)相違点2
ドライブビットの駆動を開始させる手段に関して,前者は,打込機本
体に設けられたトリガと,上端がトリガ近傍まで延びるコンタクトアー
ムとを有し,コンタクトアームが上昇し,トリガが操作された時のみド
ライブビットの駆動を開始させているのに対して,後者は,コンタクト
アームに相当する接触子80が上昇することにより打込み71の駆動を
開始させるものであって,トリガを特に有していない点。
(ウ)相違点3
コンタクトアームの形状に関して,前者は,「平板状」としているのに
対して,後者は,コンタクトアームに相当する接触子80の形状が不明
な点。
(エ)相違点4
部材に関して,前者は,一体部材としてのプレートを用いているのに
対して,後者は,ブロックの他方の部分73bとドア84とを合わせた
ものとしている点。
(オ)相違点5
止具の打出しに関して,前者は,ビットガイドの給送路の下端より突
出したコンタクトアームの部分に前記給送路に連続する射出穴を前記コ
ンタクトアームの下端まで貫通して設け,該射出穴から止具を打出すよ
うにしているのに対して,後者は,コンタクトアームに相当する接触子
80にそのような射出穴を有していない点。
(カ)相違点6
コンタクトアーム先端部の形状に関して,前者は,コンタクトアーム
先端部は下方に行くに従って細くなるように先細りの形状としているの
に対して,後者は,コンタクトアームに相当する接触子80の先端部は
そのような形状ではない点。
(6)本件発明2と刊行物1記載の発明2との一致点及び相違点
ア一致点
ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具より
なる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押
圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,
上記止具集合体が通過する給送路を有し,前面が平板状のビットガイドを
備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビットにより打撃
される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,
下端がビットガイド下端より下方に突出し,中間部がビットガイドの前
面に設けられると共にビットガイドに上下動可能に支持されたコンタクト
アームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを備え,コンタ
クトアームが上昇することを1つの要因としてドライブビットの駆動を開
始させるようにした打込機であって,
前記コンタクトアームの前面に部材を設けることにより,前記マガジン
側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記部材の順
に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなく部材で受けるよう
にし,前記止具集合体が通過する給送路と部材との間にコンタクトアーム
が位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビットガイドに支持
し,止具を打出すようにし,前記コンタクトアームの中間部にビットガイ
ドの前記ドライブビットを案内する給送路の部分の両側に沿って上方に延
びた2個の案内部を設け,該案内部を,ビットガイドの平板状の前面と部
材との間で,ビットガイドに沿って上下動させる構成とした打込機。
イ相違点1ないし6
前記(5)イ(ア)ないし(カ)と同じ。
(7)本件発明3と刊行物1記載の発明2との一致点・相違点
ア一致点
前記(6)アと同じ。
イ相違点
(ア)相違点1ないし6
前記(5)イ(ア)ないし(カ)と同じ。
(イ)相違点7
本件発明3は,押圧手段を,2個の案内部を下方に押圧する2個のス
プリングにより構成としたものであるのに対して,刊行物1記載の発明
2は,そのような押圧手段を用いていない点。
(8)本件発明4と刊行物1記載の発明3との一致点及び相違点
ア一致点
ドライブビットを内蔵した打込機本体の下方に位置し,多数の止具より
なる止具集合体及び該止具集合体を前進させるためスプリングによって押
圧される給送部材を収納支持するマガジンと,マガジン前端に設けられ,
上記止具集合体が通過する給送路を有し,少なくとも前面が平板状のビッ
トガイドを備え,上記給送路の一部はドライブビット及びドライブビット
により打撃される先頭の止具を案内するようにした打込機であって,
コンタクトアームと,コンタクトアームを下方に押圧する押圧手段とを
備えた打込機であって,
前記コンタクトアームの前面に部材を設けることにより,前記マガジン
側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中間部,前記部材の順
に配列し,コンタクトアームの中間部を前記ビットガイドの平板状の前面
と前記部材との間で上下移動するようにし,先頭の止具の前面をコンタク
トアームでなく部材で受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路
と部材との間にコンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアー
ムの中間部をビットガイドに支持すると共に,止具を打出すようにした打
込機。
イ相違点
(ア)相違点1ないし6
前記(5)イ(ア)ないし(カ)と同じ。
(イ)相違点8
コンタクトアームに関して,本件発明4は,反マガジン側の前面に射
出路を設けているのに対して,刊行物1記載の発明3は,そのような射
出路を有しない点。
(ウ)相違点9
コンタクトアームを下方に押圧する手段に関して,本件発明4は,「ス
プリング」と特定しているのに対して,刊行物1記載の発明3は,その
ような押圧手段を用いていない点。
(エ)相違点10
本件発明4は,打込み反力によって打込機本体が上昇した時コンタク
トアームが下降しコンタクトアーム前面が止具に接触してドライブビッ
トが止具から外れないようにしたのに対して,刊行物1記載の発明3は,
そのように特定されていない点。
第3取消事由についての原告の主張
本件審決には,以下のとおり,刊行物1記載の発明1の認定の誤り(取消事
由1),本件発明1と刊行物1記載の発明1の一致点・相違点の認定の誤り(取
消事由2),本件発明1についての容易想到性の判断の誤り(取消事由3),本
件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り(取消事由4),本件発明1と同様の本
件発明2ないし4に関する認定・判断の誤り(取消事由5)があるから,取り
消されるべきである。
1取消事由1(刊行物1記載の発明1の認定の誤り)
(1)本件審決は,刊行物1には,「前記接触子80の前面に他方の部分73
bを設けることにより,前記マガジン90側から前記ブロックの一方の部分
73a,接触子80の中間部,前記ブロックの他方の部分73bの順に配列
し,先頭の針Aの前面を閉鎖保持されているドア84で受けるようにし」と
記載されていると認定するが,刊行物1にはそのような記載はない。刊行物
1には,「ブロック73は,互いに溶接された2個の部分から構成される。ブ
ロックの一方73aは,打込み71が内部で摺動する溝82を有し,綴じら
れる針Aが,この溝に配置される。他方の部分73bにはガイド81が設け
られており,接触子80がこのガイドの内部を通過している。」と記載されて
いる(刊行物1の訳文4頁8ないし11行目)から,刊行物1記載の発明1
は,ブロックの一方の部分73a(以下,単に「73a」という場合がある。)
ともう一方の部分73b(以下,単に「73b」という場合がある。)を溶接
することによりブロック73を構成し,73bに貫通孔であるガイド81を
設けるとともに,このガイド81に接触子80を貫通するように構成されて
いる。
したがって,刊行物1記載の発明1は,マガジン側から73aの前面に7
3bを溶接により一体化して配置し,該73bに貫通孔を設けて,その貫通
孔内部を接触子80が通過するようにしたものであって,マガジン側からみ
て73a,接触子80,73bの順番に配列されているとはいえない。
(2)73aと73bは,前記1(1)のとおり,溶接によって一体とされ
た部材であるから,刊行物1記載の発明1の認定に当たり,これを別々の部
材として扱うことは,妥当を欠く。刊行物1記載の発明1は,打込み71が
通過する溝82を有する一体部材であるブロック73において,溝82が設
けられた中央部から離間した2箇所に接触子80が通過するガイド81が設
けられており,溝82の前面にドア84が設けられている構造である。そし
て,ブロック73が73aと73bの2つの部分に分けて記載されているの
は,製造過程において別部材であったことを示したものにすぎない。
したがって,刊行物1記載の発明1の構成としては,飽くまでブロック7
3は一体のものであると認定されるべきであり,本件審決が認定した刊行物
1記載の発明1は技術的事項を正しく認定しておらず誤りがある。
(3)被告は,刊行物1記載の発明1について,通常の釘の打込時には73
bとドア84が一体化して機能しており,両者を合わせて一体と見る本件審
決の判断に誤りはない旨主張する。しかし,打込時と打込時以外とに分けた
ときに,打込時には一体として機能するからドア84と73bを合わせた部
材を本件発明1のプレートと対比させるのが相当であるとするならば,打込
時とそれ以外の時にも常に一体でありビットガイドとして機能している73
aと73bとから構成されるブロック73を,本件発明1のビットガイドに
相当する部材としない理由を説明することができない。
また,被告は,刊行物1記載の発明1の配列構成について,マガジン側か
らみて73aが近くにあり,接触子80が73aの次に配置され,更に73
bが接触子80の次に配置されているから本件審決の認定に誤りはないと主
張する。しかし,ドア84はマガジン側からみて接触子80の側方に位置す
るのであるから,接触子80の前方に位置する部材ではないにもかかわらず,
73bとドア84とを合わせることによりドア84の位置が接触子80の前
方に転換されるのは相当でない。
2取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点・相違点の認定
の誤り)
(1)本件審決は,本件発明1の「ビットガイド」,「コンタクトアーム」,「プ
レート」が,それぞれ順に,刊行物1記載の発明1の「ブロック73の一方
の部分73a」,「接触子80」,「ブロック73の他方の部分73bとドア8
4を合わせたもの」に相当すると認定して対比を行っているが,以下のとお
り,対比すべき部材を誤ったものであり,これに基づく一致点・相違点の認
定も誤っている。
(2)刊行物1記載の発明1のブロック73は,母材としては73aと73
bとが存在するものの,接合面同士を融接,固相接合等により一体化したも
のであるから,製造過程はさておき,部材としては単一である。このように
一体化されたブロック73の部分73bを他方の部分73aから切り離し,
別の部材であるドア84と合わせて,一部材と解することは,合理性を欠く。
また,73bとドア84とは,それぞれ固有の役割を有する部材であると
ころ,本件審決は,本件発明1におけるビットガイド,コンタクトアーム,
プレートの関係が,マガジン側からみてビットガイド,コンタクトアームの
中間部,プレートの順に配列されていること,先頭の止具はコンタクトアー
ムではなくプレートで受けていることに着目し,上記の関係を満たすため,
便宜上,刊行物1記載の発明1において,「ブロック73の他方の部分73b
とドア84とを合わせたもの」なる部材を想定したにすぎず,それぞれ固有
の役割を有する73bとドア84を理由もなく合わせて1つの部材とし,こ
れと本件発明1の「プレート」を対比することは相当でない。73bとドア
84を一体化するという構成は刊行物1に記載されていないし,記載されて
いるに等しいと認められる根拠もない。刊行物1記載の発明1において先頭
の止具の前面を受けるという機能を果たしているは,73b及びドア84で
はなく,ドア84のみである。
さらに,刊行物1記載の発明1では,73bには切り込み83が設けられ,
この切り込みを開閉できるようにドア84が取り付けられているところ,ド
ア84を73bと合わせて1つの部材とすると,針詰まりが生じてもその針
を除去することができなくなるとの不都合が生じる。
したがって,本件発明1のビットガイドが73aに,本件発明1のプレー
トが73bとドア84を合わせたものに,それぞれ相当する部材であるとし
た本件審決の認定は失当であり,一致点,相違点の認定判断も失当である。
(3)刊行物1記載の発明1は,前記1(1)のとおり,ブロック73の部
分73bにガイド81を設け,接触子80はこのガイド81の内部を貫通す
るように構成されている上,接触子80は平板状をしたものでなく,針状あ
るいは棒状をしたものであるから「前面」に相当する面を有しないし,接触
子80を取り囲むような形状に73bが形成されており,接触子80の「前
面」に部材(73bとドア84とを合わせたもの)が配置されているともい
えない。これに対し,被告は,棒状又は針状のコンタクトアームにおいても
「面」を認識することは可能であると主張する。しかし,認識される面は円
周面だけであり,前面,後面,側面等を区別した面を認識することはできず,
接触子80は周囲をブロック73により囲まれているから,ブロック73の
中から接触子80の左右に位置する部分を取り出した場合と,上下に位置す
る部分を取り出した場合とではマガジン側からみた配列は異なったものとな
り,部分の取り出し方によりその配列を変化させることができるから,被告
の主張は,相当とはいえない。
また,刊行物1記載の発明1において,仮に73aがビットガイドに当た
るとしても,73aの前面の同じ面に,部材(73bとドア84とを合わせ
たもの)と接触子80が並置されているのであって,マガジン側からみてビ
ットガイド,コンタクトアームの中間部,部材の順に配列されていない。
さらに,本件発明1は,ビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレ
ートの順に配列し,平板状のコンタクトアームをビットガイドとプレートの
間で上下動できるように配置しながら先頭の止具は,コンタクトアームでな
くプレートで受けるようにしているのに対し,刊行物1記載の発明1は73
aの前面であって,互いに離間した位置に,止具集合体が通過する給送路と
接触子80とを並置し,しかも接触子80の形状が針状或いは棒状であるた
めに,先頭の止具の前面を接触子80で受けることができないから,本件発
明1と刊行物1記載の発明1では,先頭の止具の前面をコンタクトアームで
受けないようにするための構成において相違する。
したがって,本件審決が認定した本件発明1と刊行物1記載の発明1の一
致点のうち,少なくとも「前記コンタクトアームの前面に部材を設けること
により,前記マガジン側から前記ビットガイド,前記コンタクトアームの中
間部,前記部材の順に配列し,先頭の止具の前面をコンタクトアームでなく
部材で受けるようにし,前記止具集合体が通過する給送路と部材との間にコ
ンタクトアームが位置しないように前記コンタクトアームの中間部をビット
ガイドに支持し,止具を打出すようにした」との点を一致点とした認定判断
は誤りである。
3取消事由3(本件発明1についての容易想到性の判断の誤り)
(1)本件発明1は,コンタクトアームを仕上げ建材の溝の底に押し付けた
状態でトリガを引くことにより止具を打出す打込機において,建材に押し付
ける部材の中心位置と止具が出射する部材の中心位置がずれていると止具が
溝の外側に打込まれることがあることを解決課題として,同課題を解決しよ
うとしたものであるのに対し,刊行物1記載の発明1は,トリガとコンタク
トアームを備えた打込機ではない上,接触子の押し付けた位置に止具を打込
むことを意図していない大型の止め金打機構であり,上記のような技術課題
は有していない。
したがって,本件発明1についての容易想到性の有無を判断するに当たっ
て,刊行物1記載の発明1を引用発明とすることは誤りである。
(2)刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用すると,以下のと
おり,本件審決が認定する一致点に係る構成を壊すことになる。
すなわち,刊行物1記載の発明1は,73bに貫通孔よりなるガイド81
を設け,接触子80がこのガイド81内を貫通するように構成されていると
ころ,本件審決は,マガジン側からみてビットガイド,コンタクトアーム(接
触子)の中間部,部材(プレート)の順に配列されていることを本件発明1
と刊行物1記載の発明1との一致点と認定している。他方,刊行物2記載の
発明は,釘打出し用固定ノーズ2Bのドライバ孔20の下端より突出した可
動ノーズ23の部分にドライバガイド孔20aを貫通して設け,該ドライバ
ガイド孔20aから釘を打出すとともに,セイフテイアーム8Aを可動ノー
ズ23に接続するように構成されており,上記可動ノーズ23の先端が被打
込材に押し付けられ,セイフテイアーム8Aの作業端11が移動すると,ト
リガ3を引いて釘を打ち込めるようになる。
刊行物2記載の発明のセイフテイアーム8Aが安全装置として機能するた
めには,その先端がトリガ3の位置まで延在する必要があるから,固定ノー
ズ2Bの外周に配置される必要がある。仮に,刊行物2記載の発明を刊行物
1記載の発明1に適用して,刊行物1記載の接触子80に代えて刊行物2記
載のセイフテイアーム8Aを用いるとするならば,73b内のガイド81内
を接触子80が貫通するという刊行物1記載の発明1の構成が壊れ,上記ビ
ットガイド,コンタクトアーム(接触子)の中間部,部材(プレート)の配
列を壊さざるを得なくなる。
(3)刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用することにより,
本件発明の特徴に到達したというためには,少なくとも刊行物1に刊行物2
記載の発明を適用する示唆等の存在が必要であるが,以下のとおり,刊行物
1と刊行物2は,互いに相容れない技術的事項を開示しているから,組み合
わせることはできない。
すなわち,刊行物1記載の発明1では,先頭の止具を接触子とは離間した
位置にあるドアで受けるため,また,接触子80がガイド81内でブロック
73を垂直に貫通してリング77に到達し,このリングに固定されるため,
必然的に,接触子80について,ブロック73の中心位置の打込み(ドライ
ブビット)が上下する位置より周辺位置のガイドを貫通するように配置する
必要がある。一方,刊行物2記載の発明では,釘打出し用可動ノーズ23の
ドライバガイド孔20aが釘打出し用固定ノーズ2Bのドライバガイド孔2
0と連続する必要があるから,可動ノーズ23はドライブビットの上下動の
位置と同一の位置に配置する必要がある。以上のとおり,刊行物1記載の発
明1は,接触子80の上下動する位置をドライブビットの上下動の位置から
外れた場所にすることを教示しているのに対し,刊行物2記載の発明は,可
動ノーズ23の上下動する位置を,ドライブビットの上下動の位置と同一の
場所にする必要を教示している。したがって,刊行物1記載の発明1と刊行
物2記載の発明は,互いに相容れない技術内容を教示するものであるから,
これらを組み合わせることはできない。
(4)本件発明1は,止具を建材に打込むと打込み反力により手で保持する
打込機本体が上方に持ち上げられ,降下するコンタクトアーム先端により建
材の表面を傷付けたり,ドライブビットが止具から外れて取付け部材の表面
に打撃痕を残したりすること,止具にかかる押圧力がコンタクトアームに作
用している場合,その押圧力に勝ってコンタクトアームを押し下げると,建
材の表面を傷付けやすいことを問題とし,これを解決しようとするものであ
る。これに対し,刊行物1記載の止め金打機は,T形の溝2を含む支持体1
を有し,この溝によって対応する断面のレール3に組み立てられている上,
箱状支持体29全体を管から供給する圧縮空気により下降させるような大型
の機械であり,たとえ打込み反力が発生しても,箱状支持体29全体が持ち
上げられ前方に移動することは技術常識上考えられない。そうすると,接触
子の先端部を刊行物2記載の位置に移し,かつ貫通孔を設けてその貫通孔か
ら止具を打出すようにしてみても,課題の解決に至ることはないから,刊行
物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用することに合理性はない。
4取消事由4(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)
本件発明1は,以下のとおり刊行物1,2記載の発明では奏し得ない格別の
作用効果を奏する。
(1)本件特許の明細書に記載されているように,仕上げ建材を取り付ける
場合は,釘打機の先端部を溝に挿入して止具を溝内に打込むのが一般的であ
る。しかし,取付部材の溝の幅は3.5mm程度と狭いため,止具をビット
ガイドから打出すのではなく,先細りの形状としたコンタクトアームから打
出すことが極めて有効な技術になる。この点に関し,本件発明1は,平板状
のコンタクトアームの中間部がビットガイドとプレートにより挟まれた状態
で両方にガイドされて上下動し,ビットガイドの止具通路と,コンタクトア
ームの貫通孔通路との連続性を高精度で維持することができるため,1mm
程度の細い止具を止具詰まりなどの故障を生じることなくコンタクトアーム
先端部から打出すことが可能となっている。これに対し,刊行物2記載の発
明は,1本1本が太くかつ長い釘を装填する,いわゆる「ばら釘打機」であ
るため,円筒状固定部材2Bの内面を摺動して上下動するように円筒状可動
部材23を形成するところ,止具の直径が1mm程度の細いものである場合,
円筒状部材も直径の小さい薄い形状となり,打込み反力に耐えられるような
強度をもたせることが困難となる上,1mm程度の細い止具を円筒状固定部
材内の所定位置に給送すること自体も困難となる。
以上のとおり,刊行物1記載の発明1に,刊行物2記載の発明を適用して
も,直径1mm程度の細い止具を打出して仕上げ建材を取り付ける打込機を
実現することはほとんど不可能であるから,上記作用効果は,刊行物1,2
から予測できない格別な作用効果というべきである。
なお,本件発明の請求項1には,「側面が接着剤を介して連結された多数の
止具よりなる止具集合体」と記載されているところ,側面同士が接着剤によ
り連結された止具集合体は,通常,仕上げ建材等の固定に用いられるもので
あり,釘軸が極めて細く,釘頭が小頭形状をしているから,本件発明1が細
い止具を打込むための打込機であることは,特許請求の範囲に実質的に記載
されているといえる。
(2)本件発明1によれば,打込み反力により打込機本体が上方に持ち上げ
られても,コンタクトアームが下降したときに止具の頭部から外れることな
く,取付部材の表面に打撃痕を生じないという作用効果があり,同効果は,
止具集合体が通過する給送路とプレートとの間にコンタクトアームが位置
しないようにコンタクトアームの中間部をビットガイドに支持するという
構成,平板状のコンタクトアームの中間部を前記ビットガイドの前面と前記
プレートとの間で上下動するという構成,更にコンタクトアームの射出穴か
ら止具を打出すという構成を併せ備えることにより発揮される。
これに対し,刊行物2記載の発明は,円筒状の可動部材から止具を打出す
という構成は備えているが,円筒状の可動部材の上下動がぶれないように支
持するガイドがないから,打込機本体が持ち上がったときに,可動部材が直
径1mm程度の細い止具の頭部を正確にとらえるように下降することはで
きない。
以上のとおり,上記の作用効果も刊行物1,2記載の発明では奏し得ない
ものであるから,予測し得ない格別の効果というべきである。
5取消事由5(本件発明2ないし4に関する判断の誤り)
本件審決は,本件発明2ないし4に関し,本件発明1と同様の認定・判断を
しているが,前記のとおり本件発明1に関する本件審決の認定・判断は誤りで
あるから,本件発明2ないし4に関する認定・判断もまた誤りである。
第4被告の反論
1取消事由1(刊行物1記載の発明1の認定の誤り)に対し
(1)刊行物1記載の発明1では73aと73bが溶接されているが,本件
発明1においても,実施例(本件特許の明細書添付の図1(別紙図面5)参
照)では,プレート10はビットガイド12に2個のねじ11で装着固定さ
れており,釘の打込動作時において一体として機能しているという点では全
く同じであり,これらの2つの部材を溶接するかねじで固定するかは,製造
方法上の相違はあっても,部材としての相違はない。
また,「コンタクトアームの前面」に設けられた部材は,本件発明1ではプ
レートという1個の部材であるのに対し,刊行物1記載の発明1では73b
とドア84という2個の部材から構成されているが,修繕時以外の通常の釘
打込動作時にはヒンジ85a,横軸85,ローレットねじ87,板バネ86
によって一体となり,1つの部材として機能している。
したがって,本件審決が,刊行物1記載の発明1について,73aと73
bを分けた上,73bとドア84が一体となってプレートという1つの機能
を果たしていると認定したことに誤りはない。
(2)本件発明1における部材は,特許請求の範囲によれば,マガジン側か
らみた配列は示されているが,ビットガイドとプレートとの接合方法につい
ては何らの限定もないから,ビットガイドとコンタクトアームの前面の部材
との接合方法は,溶接によるものであっても(刊行物1の実施例),ねじによ
るものであっても(本件発明1の実施例),部材の配列に影響を与えるもので
はない。
したがって,刊行物1記載の発明1において,73bとドア84とを合わ
せた「部材」は,マガジン側からみて73a,接触子80の中間部の次に配
列し,先頭の針Aを当該部材で受けるようにし,針A集合体が通過する垂直
開口部と当該部材との間に接触子80が位置しないように接触子80の中間
部を73aに支持するようにしたものと認定した本件審決に誤りはない。
なお,先頭の止具をコンタクトアームで受けずにプレートで受けるという
構成さえ満たすならば,先頭の止具からの押圧力がコンタクトアームに影響
を及ぼさないという効果が得られるから,上記「配列」の順序が効果に結び
ついているわけではなく,技術的観点からの独自性は存在しない。
(3)本件審決は,刊行物1記載の発明1において,73b及びドア84の
機能に着目して,打込機の作動時において先頭の止具に直接接触しているの
はドア84であるが,ドア84が先頭の止具の押圧力に抗することができる
のは,横軸85,ばね86,ローレットねじ87によって73bに固定され
ているからであるとして,73bとドア84を合わせた「部材」を一体とみ
て,接触子80の中間部の次に配列され,先頭の針Aを当該部材で受けるよ
うに構成していると認定したのであって,同認定に誤りはない。
2取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点・相違点の認定
の誤り)に対し
(1)原告は,刊行物1記載の発明1の73bとドア84が別部材であるこ
とを理由として,本件発明1のプレートに相当せず,本件発明1と刊行物1
記載の発明1を対比するときは,ドア84とプレートを対比すべきであると
主張する。
しかし,複数の部材であっても,1つの機能を果たすことは可能であり,
機能の観点からは,1つの部材であるか複数の部材であるかにより,差異が
生じるものではない。本件発明1において,コンタクトアームの前面に設け
られた部位が果たす役割・機能は,単に先頭の止具を受けるというものにすぎ
ず,刊行物1記載の発明1においてはドア84が先頭の止具を受けているが,
ドア84には横軸85があり,その両端が73bに貫通された穴に挿入され,
かつ,機械の故障時以外はねじ87によって閉鎖保持されているのであるか
ら,通常の釘の打込み時においては73bとドア84が一体化して機能して
いる。
この点に関し,本件審決は,73bとドア84を一体と見て,刊行物1記
載の発明1において先頭の止具を受けているのは,ドア84ではなく,「閉鎖
保持されているドア84」であると認定し,本件発明1のプレートと刊行物
1記載の発明1の「閉鎖保持されているドア84」を対比の対象としている
のであって,本件審決の上記認定に誤りはない。
(2)本件発明1では,「配列」に関しては,マガジン側からの順序が規定さ
れているだけであるから,「配列」と「面」とは,本件発明1の構成上,影響
を及ぼすものではない。
この点に関し,原告は,本件発明1について,平板状のコンタクトアーム
がビットガイドの「前面」に設けられていると述べるが,本件発明1の実施
例(別紙図面5参照)によれば,コンタクトアーム5とビットガイド12は,
「面」を同じくしており,「前面」にはなく,「面」によってコンタクトアー
ムとビットガイドの「配列」の順序を決めるのは,妥当を欠く。また,原告
は,刊行物1記載の発明1の接触子が平板状ではないと主張する。しかし,
本件発明1の特許請求の範囲における「前面」の意義は,ビットガイドの形
状が平板状であることを示しているにすぎず,他の部材との位置関係を規定
するものではないから,原告のこの点の主張は,失当である。
なお,刊行物1において,実施例の接触子80は棒状のものが使われてい
るが,特許請求の範囲の原文では「touches」(「touche」の複数形。「touche」
とは「触れる,接触」のこと。)と記載されているだけであり,この「接触」
のために,形状が限定されているわけではない。
したがって,刊行物1において「接触子」の形状に限定があることを前提
とした原告の主張は失当である。
3取消事由3(本件発明1についての容易想到性の判断の誤り)に対し
(1)原告は,刊行物1記載の発明1は,トリガとコンタクトアームを備え
た打込機でない上,接触子80の押しつけた位置に止具を打ち込むことを全
く意図していない大型の止め金打機構であるから,本件発明1の技術課題を
有しないと主張する。
しかし,トリガとコンタクトアームについては,刊行物2を含む従来周知
の事項であって,トリガとコンタクトアームを備えたものとすることは,当
業者にとって,容易に想到することができるものである。また,刊行物1記
載の発明1においても,位置決めをしなければ止具の打ち込みができない上,
コンタクトアームを押しつけた位置に止具を打ち込むという技術的思想,す
なわち釘打込点を正確に定めることは,刊行物1と技術分野を共通にする刊
行物2において開示された技術的事項であり,そのために,コンタクトアー
ムの先端部を射出穴(孔)にするという技術的思想は,甲11,13,15
等の発明にも開示されているように従来周知の事項である。
なお,原告は,刊行物1記載の発明1について,「大型の止め金打機構」で
あることを前提として,その開示内容を限定するが,刊行物1の特許請求の
範囲には「大型の」とか「止め金」というような限定はなく,刊行物1記載
の発明1も本件発明1と同じく止具の打込機構である点で相違はない。
(2)原告は,刊行物1及び刊行物2の記載には,相容れない教示内容が示
されているから,刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とを組み合わせ
ることは容易ではないと主張する。しかし,原告の指摘する根拠となる記載
は,刊行物1及び刊行物2のそれぞれの実施例を前提とするものであって,
そのような前提には誤りがある。刊行物1には,先頭の止具をコンタクトア
ームではなく,プレートで受けることにより,止具集合体からの押圧力がコ
ンタクトアームに掛からないという技術事項が開示されており,これに,刊
行物2において開示されている,コンタクトアームの先端部分の中心に射出
穴(孔)を設けるとの構成を適用することには,何ら阻害要因はない。仮に,
実施例を前提として,容易想到性の有無について検討したとしても,刊行物
1記載の発明1の接触子80も刊行物2記載の発明の可動ノーズ23も,い
ずれも被加工物に接触する部材であって,本件発明1のコンタクトアームの
先端部分に相当するものであるから,被加工物に接触する部材をどのような
構成にするかは,設計事項にすぎない。
したがって,刊行物1の構成に刊行物2の構成を適用することについて,
阻害要因はない。
なお,原告は,刊行物1は,ドライブビットと接触子とを離間した位置に
設けるという技術を開示するのに対し,刊行物2は,ドライブビットとコン
タクトアームとを同一の場所に設けるという技術を開示している点で,刊行
物1に刊行物2を適用することは困難である旨主張する。しかし,①本件発
明1と刊行物1記載の発明1とは,接触子(コンタクトアーム)の中間部に
おいて先頭の止具を受けない構造とし,ドライブビットとコンタクトアーム
が離れている点で共通し,その技術的思想は一致していること,②本件発明
1と刊行物2記載の発明とは,ドライブビットとコンタクトアームの先端部
を同一の場所に設けるという構造という点で共通していることから,刊行物
1に刊行物2を適用することは容易である。
(3)「打込み反力」は,ドライブビットを下方に駆動させて,その先端に
ある止具を被加工物に打ち込む場合に,その下方の動きと正反対のベクトル
方向に発生する反力のことであり,このような打込み反力は作用・反作用の
関係から発生するものであって,如何なる打込機においても共通して発生す
る。刊行物1記載の発明1においても,ドライブビットが止具を被加工物に
打ち込む場合には,その反対の方向に「打ち込み反力」が発生する。そして,
「打込み反力」に起因する前ズレの解決課題に対しては,刊行物2において,
「ドライバが釘を被打込材に打込む際の反力を空気式釘打機全体が受けて被
打込材から離れる方向に移動しても,・・・正確にガイドできる」と記載され
ているとおり,解決方法が開示されている。
4取消事由4(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)に対し
本件発明1には,公知技術を組み合わせた効果を超える格別の作用・効果は
ない。また,原告は,本件発明1について,「直径1mm程度の細い釘を打ち込
む構造」を採用したことによって,顕著な作用効果が発生すると主張するが,
同構造は,特許請求の範囲に記載されていないから,主張自体失当である。
5取消事由5(本件発明2ないし4に関する認定・判断の誤り)に対し
原告の主張は争う。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,原告が主張する取消事由には理由がなく,本件審決を取り消す
べき違法は認められないから,原告の請求を棄却すべきものと判断する。その
理由は,以下のとおりである。
1取消事由1(刊行物1記載の発明1の認定の誤り)について
(1)原告は,刊行物1に「前記接触子80の前面にブロックの他方の部分
73bを設けることにより,前記マガジン90側から前記ブロックの一方の
部分73a,接触子80の中間部,前記ブロックの他方の部分73bの順に
配列し,先頭の針Aの前面を閉鎖保持されているドア84で受けるようにし」
との構成が記載されているとする本件審決の認定は誤りであると主張する。
(2)しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
刊行物1には,次の記載がある(甲6。訳文4頁4ないし16行)。
「接触部は,・・・通常はブロック73の下に突出する。止め金打機を降下
すると,接触部は,針を留めるべき物体Oと接触し,その場合,接触部はリ
ング77とロッド32を持ち上げてバルブ36を制御し,バルブにより止め
金打ち操作が引き起こされる。
ブロック73は,互いに溶接された2個の部分から構成される。ブロック
の一方73aは,打込み71が内部で摺動する溝82を有し,綴じられる針
Aが,この溝に配置される。他方の部分73bにはガイド81が設けられて
おり,接触部80がこのガイドの内部を通過している。
前記接触部の他方の部分は,また,横軸85に連結されるドア84が取り
付けられる切込み83を含み,ローレットねじ87を用いてブロック73に
固定される板ばね86が,通常,このドアを閉鎖保持する。ドアは,機械の
故障を修理したい場合,開けることができる。このためには,ローレットね
じ87をゆるめて,板ばね86を片側に軸回転させてからドアを開けて故障
した針を除去する。」との記載がある。
また,刊行物1には,マガジン側からみてブロック73の一方の部分73
a,接触子80の中間部,ブロック73のもう一方の部分73bの順に配置
され,先頭の針Aの前面を73bに閉鎖保持されているドア84で受ける実
施例が図示されている(別紙図面1ないし3参照)。
したがって,本件審決の認定には誤りはない。
(3)これに対し,原告は,73aと73bは溶接によって一体とされた部
材であるから,刊行物1記載の発明1の認定において,これを別個のものと
して,認定することは,相当でないと主張する。この点,確かに,前記刊行
物1の記載及び図2,7,8(別紙図面1ないし3)によれば,73aと7
3bは溶接によって一体とされた部材であるが,打込機の打込動作時に一体
として機能していることに照らして,本件発明1との対比の前提として,本
件審決が上記のとおり認定したことに誤りがあるとはいえない。
また,原告は,刊行物1記載の発明1において,ドア84は,マガジン側
からみて接触子80の側方に位置しており,ドア84と73bを合わせるこ
とにより,ドア84の位置が接触子80の前方に転換されることは相当でな
いと主張する。しかし,前記刊行物1の記載及び図2,7,8(別紙図面1
ないし3)によれば,73bの73aと接する側には,接触子80が内部を
通過するガイド81が設けられており,接触子80の前方に73bが設けら
れているとの位置関係にあることが認められる上,73bにはドア84が取
り付けられ,針詰まり等の機械の故障の場合以外には通常閉鎖保持されてい
るところ,これを一体としてみれば,マガジン側からみて73a,接触子8
0の中間部,ドア84と一体となった73bの順に配列されているものと認
められる。
さらに,原告は,棒状又は針状のコンタクトアームにおいて,認識される
面は円周面だけであり,接触子80は周囲をブロック73により囲まれてい
るから,ブロック73の中から接触子80の左右に位置する部分を取り出し
た場合と,上下に位置する部分を取り出した場合とではマガジン側からみた
配列は異なったものとなるし,部分の取り出し方によってその配列を変える
ことができると主張する。しかし,接触子(コンタクトアーム)を棒状又は
針状にするか平板状にするかは自在であって,その相違により,配列関係が
異なることに結びつくものではなく,本件審決の認定が誤りであるというこ
とはできない。
(4)以上のとおり,本件審決には刊行物1記載の発明1の認定の誤りは認
められず,原告主張の取消事由1には理由がない。
2取消事由2(本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点・相違点の認定
の誤り)について
(1)原告は,本件審決が,本件発明1と刊行物1記載の発明1との一致点・
相違点の認定に関し,刊行物1記載の発明1について,溶接され一体となっ
てブロック73を構成する73aと73bを別々に取り出した上,先頭の止
具の前面を受けているのはドア84であるにもかかわらず,73bとドア8
4を合わせて1つの「部材」と認定して,これと本件発明1のプレートと対
比したことは誤りである旨主張する。
(2)しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,前記
1(3)のとおり,本件発明1のプレートとビットガイドについて,部品と
して別個のものが打込動作時には固定されて一体として機能するものである
ことは,刊行物1記載の発明1の73a,73bと同様である点にかんがみ
れば,73aと73bを別々に取り出して対比の対象とすることが不当とい
うことはできない。また,前記刊行物1の記載及び図2,7,8(別紙図面
1ないし3)によれば,刊行物1記載の発明1において,「接触部の他方の部
分」(73bを示すものと解される。)は,横軸85に連結されるドア84が
取り付けられる切込み83を含み,ローレットねじ87を用いてブロック7
3に固定される板ばね86が通常このドアを閉鎖保持していること,73b
とドア84は一体となって先頭の止具の前面を受けるように構成されている
ことが認められる。そうすると,刊行物1記載の発明1において,閉鎖保持
された状態のドア84と73bは,打込動作時においては一体となって本件
発明1のプレートに相当する機能を有するものであるから,本件審決が,本
件発明1と刊行物1記載の発明1の対比に当たり,本件発明1では,一体部
材としてのプレートを用いているのに対して,刊行物1記載の発明1では,
ブロックの他方の部分73bとドア84とを合わせたものである点を相違点
4と認定したことに誤りはない。
(3)原告は,73bとドア84を合わせることは,刊行物1記載の発明1
の機能を損なう旨主張するが,ドア84は,針詰まり等の修理時に開くもの
であって,通常の打込動作時においてこれを合わせて一体とみることにより
何ら機能を損なうことはない。また,原告は,刊行物1には,開閉可能なド
ア84を73bと一体化するという構成は記載されておらず,記載されてい
るに等しいと認める根拠もないと主張するが,本件審決は,上記のとおり,
刊行物1記載の発明1のドア84は,通常は閉鎖保持されているものであっ
て,閉鎖保持された状態のドア84と73bは,打込動作時には一体となっ
ていることから,本件発明1のプレートを閉鎖保持された状態のドア84と
一体となった73bとすることは当然の設計事項であることを前提として対
比しているのであって,このような対比が妥当を欠くということもできない。
さらに,原告は,打込動作時に一体として機能していることを理由に73b
とドア84を合わせた部材を本件発明1のプレートと対比させるのが妥当で
あるとするならば,打込動作時とそれ以外の時にも常に一体でありビットガ
イドとして機能している73aと73bから構成されるブロック73を本件
発明のビットガイドに相当する部材としない理由がない旨主張する。しかし,
本件発明1のビットガイド12は,止具集合体が通過する給送路121を有
しているところ,刊行物1記載の発明1において上記給送路に相当するもの
を備えているのは73aに限られており,ブロック73が全体としてビット
ガイドとして機能していると解することはできず,本件発明1のビットガイ
ドと刊行物1記載の発明1のブロック73を対比することは相当でないから,
原告の上記主張は,理由がない。
また,原告は,刊行物1記載の発明1において,接触子80には「前面」
に相当する「面」を有しないし,接触子80を取り囲むような形状に73b
が形成されており,接触子80の「前面」に部材(73bとドア84とを合
わせたもの)が配置されているとはいえない旨主張する。しかし,前記1(2)
のとおり,接触子(コンタクトアーム)を棒状又は針状にするか平板状にす
るかの相違により,配列関係が異なることに結びつくものではない。
さらに,原告は,刊行物1記載の発明1において,仮に73aがビットガ
イドに当たるとしても,73aの前面の同じ面に,部材(73bとドア84
とを合わせたもの)と接触子80が並置されているのであって,マガジン側
からみてビットガイド,コンタクトアームの中間部,部材の順に配列されて
いない旨主張する。しかし,前記1(3)のとおり,73bの73aと接す
る側には,接触子80が内部を通過するガイド81が設けられており,接触
子80の前方に73bが設けられているとの位置関係にあることが認められ
る上,73bとドア84を一体としてみれば,マガジン側からみて73a,
接触子80の中間部,ドア84と一体となった73bの順に配列されている
ものと認められる。
原告は,本件発明1は,ビットガイド,コンタクトアームの中間部,プレ
ートの順に配列し,平板状のコンタクトアームをビットガイドとプレートの
間で上下動できるように配置しながら先頭の止具はコンタクトアームでなく
プレートで受けるようにしているのに対し,刊行物1記載の発明1は73a
の前面であって,互いに離間した位置に,止具集合体が通過する給送路と接
触子80とを並置し,しかも接触子80の形状が針状或いは棒状であるため
に,先頭の止具の前面を接触子80で受けることができないのであるから,
コンタクトアームで受けないようにするための構成が本件発明1と刊行物1
記載の発明1では相違する旨主張する。しかし,刊行物1記載の発明1にお
いても,上記のとおり,マガジン側からみて73a,接触子80の中間部,
ドア84と一体となった73bの順に配列され,先頭の止具の前面を接触子
(コンタクトアーム)でなくドア84と一体となった73b(プレート)で
受けるようにし,止具集合体が通過する給送路とプレートとの間に接触子(コ
ンタクトアーム)が位置しないように接触子(コンタクトアーム)の中間部
をビットガイドに支持するよう構成されているものと認められるから,本件
発明1と刊行物1記載の発明1とで,止具集合体からの押圧力が接触子(コ
ンタクトアーム)にかからないようにするための構成において,相違すると
いうことはできない。
(4)以上のとおり,本件審決には本件発明1と刊行物1記載の発明1との
一致点・相違点の認定の誤りは認められず,原告主張の取消事由2には理由
がない。
3取消事由3(本件発明1についての容易想到性の判断の誤り)について
(1)原告は,本件発明1では,コンタクトアームを被加工物に押し付けた
状態でトリガを引くことにより止具を打出す打込機において,建材に押し付
ける部材の中心位置と止具が出射する部材の中心位置がずれていると止具が
被加工物の溝の外側に打込まれることがあるなどの解決課題が存在するのに
対し,刊行物1記載の発明1は,大型の止め金打機構であって,上記のよう
な解決課題がないから,課題を解決するために,刊行物2記載の発明等を適
用することは考えられない旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,刊行物1
記載の発明1の明細書(甲6)には,「本発明は,好適には所定の位置に調整
可能なフレームを主に含み,前記フレームに対して摺動可能なたとえば箱状
の支持体内に,この支持体の摺動方向に平行な軸を中心として回転式に止め
金打機構が取り付けられた,配向可能な止め金打機を目的とする。」(訳文1
頁15行ないし17行)と記載され,刊行物1記載の発明1においても,打
込機構自体が移動することは想定されており,位置決めが必要であることが
示唆され,また,刊行物2記載の発明の明細書(甲3)においても,「本考案
の目的は被打込材の狭い凹みの内部でも,・・・釘打込点を正確に定めること
のできる空気式釘打込機を提供することである。」との記載がある(3頁6欄
27ないし30行)。そうすると,刊行物1記載の発明1も刊行物2記載の発
明も共に打込機の発明であって,打込の位置決めといった課題を共通にする
ものであり,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用するに当た
って,これを妨げる要素はないといえる。
(2)原告は,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用し,刊行
物1記載の発明1の接触子80に代えて刊行物2記載の発明のセイフテイア
ーム8Aを用いると,73b内のガイド81内を接触子80が貫通するとい
う構成が壊れ,本件審決が認定する本件発明1と刊行物1記載の発明1との
一致点,すなわちマガジン側からみてビットガイド,コンタクトアームの中
間部及びプレートという配列を壊すことになる旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,刊行物1記
載の発明1は,接触子(コンタクトアーム)の中間部において先頭の止具を
受けない構造であって,ドライブビットとコンタクトアームは離れている。
また,刊行物2記載の発明は,刊行物1記載の発明1の接触子(コンタクト
アーム)の先端部に相当する可動ノーズ23に,ビットガイドから通じてい
る射出穴を貫通して設ける構造になっている(別紙図面4参照)。したがって,
刊行物1記載の発明1の接触子(コンタクトアーム)の先端部に,刊行物2
記載の発明のセイフテイアーム8Aから可動ノーズ23にかけての構成を適
用したとしても,73b内のガイド81内を接触子80が貫通するという構
成や,マガジン側からみてビットガイド,コンタクトアーム(接触子)の中
間部,プレートという配列を壊すことにはならない。
(3)原告は,刊行物1記載の発明1は,ドライブビットの上下動する位置
と接触子の上下動する位置を離間した位置に設けるという技術を開示してい
るのに対し,刊行物2記載の発明は,ドライブビットの上下動する位置と可
動ノーズ(コンタクトアーム)の上下動する位置を同一の場所にするという
技術を開示しており,互いに相容れない技術的思想を組み合わせることにな
るから,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用するとの示唆等
の存在が認められない旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,前記のとお
り,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用しても,本件発明1
と共通するマガジン側からみてビットガイド,コンタクトアーム(接触子)
の中間部,プレートという配列を壊すことにはならない。また,刊行物1に
記載された,先頭の止具を,コンタクトアーム(接触子80)ではなく,プ
レート(73b及びドア84)で受けることによって,止具集合体からの押
圧力がコンタクトアームにかからないとの構成に加えて,刊行物2において
開示された,コンタクトアームの先端部分の中心に射出穴を設けるという構
成を適用することが,技術的に相容れないものであり,適用が困難であると
はいえない。
なお,刊行物1記載の発明1の接触子80は,被加工物に接触したか否か
を検知するプローブ(探針装置)の役割を有する部材であるのに対し,刊行
物2記載の発明及び本件発明1のコンタクトアームは,トリガを引いたとき
に止具を打ち出しても安全か否かを決定する安全装置としての役割を有する
部材であり,打込機の打撃開始の契機に関し,刊行物1記載の発明1では,
被加工物への接触子の接触のみであるが,刊行物2記載の発明及び本件発明
1では,被加工物への接触子ないしコンタクトアームの接触に加えて,トリ
ガの作動が必要な構造となっており,接触子ないしコンタクトアームが安全
装置としての機能を果たすものである。しかし,探針装置としての役割を果
たす接触子に,安全装置としての役割を果たす接触子ないしコンタクトアー
ムの技術思想を適用することができないとは認め難い上,被加工物への接触
とトリガ作動を連動させることは,従来周知の技術であり,設計事項である
というべきである。
(4)原告は,本件発明1は,止具を建材に打込むと打込み反力により手で
保持する打込機本体が上方に持ち上げられ,降下するコンタクトアーム先端
により建材の表面を傷付けたり,ドライブビットが止具から外れて取付け部
材の表面に打撃痕を残したりすることを解決課題として,これを解決しよう
としているのに対し,刊行物1記載の発明1は大型の止め金打機構であり,
たとえ打込み反力が発生しても,箱状支持体全体が持ち上げられ前方に移動
することは技術常識上考えられないから,刊行物1記載の発明1に刊行物2
記載の発明を適用する示唆がない旨主張する。
しかし,打込機においては,大小にかかわらず,止具を建材に打込むと作
用・反作用の関係で打込み反力が生じるから,これにより打込機本体が上方
に持ち上げられ,降下するコンタクトアーム先端やドライブビットにより取
付け部材の表面を傷つけるという共通の課題が生じる上,本件発明1も刊行
物1記載の発明1も共に打込機自体の大きさの限定はされていない。
したがって,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用する示唆
がないとはいえない。
(5)原告は,本件発明1について,止具にかかる押圧力がコンタクトアー
ムに作用している場合,その押圧力に勝ってコンタクトアームを押し下げる
と,建材の表面を傷付けやすいことを問題とし,これを解決しようとしてい
るが,刊行物1記載の発明1は止具にかかる押圧力を接触子で受け止めるこ
とができない構造であり,上記問題を有しないと主張する。
しかし,前記2(3)のとおり,本件発明1と刊行物1記載の発明1とで,
止具集合体からの押圧力が接触子(コンタクトアーム)にかからないように
するための構成において相違するということはできず,上記原告の主張は採
用することができない。
(6)以上のとおり,原告の上記主張はいずれも採用することができず,本
件審決には本件発明1についての容易想到性の判断の誤りは認められず,原
告主張の取消事由3には理由がない。
4取消事由4(本件発明1の顕著な作用効果の判断の誤り)について
(1)原告は,本件発明1は,コンタクトアームの中間部がビットガイドの
前面に設けられ,コンタクトアームの前面にプレートが設けられていること
により,コンタクトアームの上下動にぶれがないため,ビットガイドの止具
通路とコンタクトアームの貫通孔通路との連続性を高精度で維持することが
でき,直径1mm程度の細い止具を止具詰まりなどの故障を生じることなく
コンタクトアーム先端部から打ち出すことが可能となるのであって,上記作
用効果は刊行物1,2から予測し得ない格別な作用効果である旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,①刊行
物1記載の発明1は,本件発明1と同様にマガジン側からみて73a(本件
発明1のビットガイドに相当),接触子80(本件発明1のコンタクトアーム
に相当)の中間部,73b(本件発明1のプレートに相当)の順に配列して
いること,②これに刊行物2記載の発明を適用すると,ブロック73の垂直
開口部88の下端よりも突出した接触子80の部分に垂直開口部88に連続
した射出穴を接触子の下端まで貫通して設け,該射出穴から止具に相当する
針Aを打ち出すような構成となること,③上記各構成を組み合わせたものは,
本件発明1と同様に,針Aは固定されたブロックの一方の部分73aの針通
路(本件発明1のビットガイドの止具通路に相当)と,上下動する接触子8
0の部分に設けられる射出穴(本件発明1のコンタクトアームの貫通孔に相
当)通路の両方を通って打ち出されることになり,接触子80(本件発明1
のコンタクトアームに相当)の上下動のぶれを回避することができ,73a
の針通路(本件発明1のビットガイドの止具通路に相当)と,ブロック73
の垂直開口部88の下端よりも突出した接触子80の部分に設けられる射出
穴(本件発明1のコンタクトアームの貫通孔に相当)通路との連続性を高精
度に維持できることが認められる。したがって,本件発明1に,原告主張の
ような,顕著な作用効果が存在するものではなく,容易想到であるとの判断
を左右するものとはいえない。
(2)原告は,本件発明は,止具集合体が通過する給送路とプレートとの間
にコンタクトアームが位置しないようにコンタクトアームの中間部をビット
ガイドに支持するという構成,平板状のコンタクトアームの中間部をビット
ガイドの前面とプレートの間で上下動するという構成及びコンタクトアーム
の射出穴から止具を打ち出すという構成を備えることにより,打込み反力に
より打込機本体が上方に持ち上げられても,コンタクトアームが下降したと
きに止具の頭部から外れることなく,取付部材の表面に打撃痕を生じないと
いう作用効果を有し,上記作用効果は刊行物1,2から予測し得ない格別な
作用効果である旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,前記2
(3)のとおり,刊行物1記載の発明1においても,止具集合体が通過する
給送路と部材(プレート)との間にコンタクトアームが位置しないようにコ
ンタクトアームの中間部をビットガイドに支持し,止具を打ち出すように構
成されており,この構成によりコンタクトアームの中間部がビットガイドの
前面とプレートとの間で上下動することが可能であり,原告の主張する上記
作用効果は,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用した場合に
当然に奏する作用効果を超えるものではなく,予測し得ない格別な作用効果
であるということはできない。
(3)原告は,刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用しても,
直径1mm程度の細かい止具を打ち出して仕上げ建材を取り付ける打込機を
実現することは不可能であるとも主張する。
しかし,この点の原告の主張も採用できない。すなわち,前記のとおり,
刊行物1記載の発明1に刊行物2記載の発明を適用することにより,ビット
ガイドの止具通路とコンタクトアームの貫通孔通路との連続性を高精度で維
持するとともに,打込み反力により打込み機本体が持ち上がった直後にも,
コンタクトアームには給送路部材の押圧力が加わっていないためにすばやく
下降し,このときコンタクトアームはビットガイドとプレートに挟まれた状
態で下降動作するため,被加工物の溝から外れることはないという作用効果
を生じるものであり,原告の主張に係る作用効果が格別のものとはいえない。
(4)以上のとおり,原告の上記主張はいずれも採用することができず,本
件審決に本件発明1の顕著な作用効果の判断についての誤りは認められず,
原告主張の取消事由4には理由がない。
5取消事由5(本件発明2ないし4に関する認定・判断の誤り)について
前記1ないし4のとおり,本件発明1についての本件審決の認定・判断に誤
りはないから,それを前提とする本件発明2ないし4に関する本件審決の認
定・判断にも誤りはない。
6結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に本件審決には
これを取り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主張するが,
いずれも,理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
知野明
(別紙)図面1
図面2
図面3
図面4
図面5

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