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平成15年(ワ)第3184号 著作物利用差止等請求事件 
口頭弁論終結日 平成16年12月3日
判決
原       告    株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィ
原       告    A
上記両名訴訟代理人弁護士 内藤篤
上記復代理人弁護士    大橋卓生
被       告    ユニバーサルミュージック株式会社
同訴訟代理人弁護士    中野憲一
同            宮垣聡
主文
1 被告は,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するDVD商品
を複製又は頒布してはならない。
2 被告は,「キャロル」のCDアルバム『ザ★ベスト』の特典製品である
「スペシャルDVD」を複製又は頒布してはならない。
3 被告は,前項の「スペシャルDVD」の在庫品を廃棄せよ。
4 被告は,第2項の「スペシャルDVD」に収録された「ファンキー・モ
ンキー・ベイビー」のプロモーション映像について,複製,上映,放送,その他の
利用をしてはならない。
5 被告は,前項の「ファンキー・モンキー・ベイビー」の映像のマスター
テープを廃棄せよ。
6 被告は,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィに対し,49
13万2214円及びこれに対する平成15年2月22日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
7 被告は,原告Aに対し,金100万円及びこれに対する平成15年2月
22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告らのその余の請求を棄却する。
9 訴訟費用は,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィと被告と
の間においては,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィに生じた費用の
5分の4を原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィの負担とし,その余は
被告の負担とし,原告Aと被告との間においては,原告Aに生じた費用の30分の
29を原告Aの負担とし,その余は被告の負担とする。
10 この判決は,第6項及び第7項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文1ないし5と同旨
2 被告は,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するビデオカセット
商品を製造し,頒布してはならない。
3 被告は,原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィに対し,金2億4
160万8890円及びこれに対する平成15年2月22日(訴状送達の日の翌
日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告Aに対し,金2000万円及びこれに対する平成15年2月2
2日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告は,別紙1記載の謝罪広告を,朝日新聞,日本経済新聞及び読売新聞の
各全国版並びにスポーツニッポン及びサンケイスポーツの各紙に掲載せよ。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 当事者
  原告株式会社テル・ディレクターズ・ファミリィ(以下「原告会社」とい
う。)は,昭和50年に設立された,テレビ番組を中心とする映像制作事業を営む
株式会社である(甲27)。
  原告A(以下「原告A」という。)は,テレビ番組の制作会社である株式
会社テレビマンユニオンに所属するディレクターであったが,昭和49年に同社か
ら独立し,昭和50年に原告会社を設立し,以降,原告会社の代表取締役である。
  被告は,録音・録画物の企画・制作及び販売等を業とする株式会社であ
る。被告の前身は,日本フォノグラム株式会社(以下「日本フォノグラム」とい
う。)である。日本フォノグラムは,B,C,D,Eをメンバーとするロックバン
ド「キャロル」が所属していたレコード会社であったが,平成7年にマーキュリ
ー・ミュージックエンタテインメント株式会社に商号を変更し,同社は,平成12
年に音楽関係の事業を被告に営業譲渡した。被告は,これにより,日本フォノグラ
ムが有する音楽関係の著作権その他すべての権利関係を承継した(乙14)。
(2) 本件作品の製作・放送
  昭和50年4月13日,キャロルの解散コンサートが行われた。そのと
き,別紙2のとおりの内容の『グッドバイ・キャロル』と題される,同コンサート
のシーン等を中心とするドキュメンタリー映画の著作物(検甲2。以下「本件作
品」という。)が製作された。本件作品の撮影は,原告会社によって行われ,原告
Aが監督をした。
  本件作品は,同年7月12日,株式会社東京放送(以下「TBS」とい
う。)により,『グッドバイ・キャロル』のタイトルで,同テレビの「特番ぎんざ
NOW!」という番組において放送された(甲1の1)。
(3) 本件ビデオの販売
  日本フォノグラムは,昭和59年ころ,本件作品を別紙3のとおりの内容
に編集し直し,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライブ』と題するビデオカセット
商品(以下「本件ビデオ」という。)として製作販売し,この際,モノラルからス
テレオへの音源の入れ替え,映像の劣化や肖像権の問題等に対処するため,映像の
編集を行ったが,日本フォノグラムは,この編集作業を原告会社に依頼し,原告会
社がこの編集作業を行った。
  本件ビデオの発売に関して,日本フォノグラムは,原告Aに許諾料を支払
う旨の提示はしなかった。
(4) 本件DVDの販売
  被告は,平成15年1月22日,『燃えつきるキャロル・ラスト・ライ
ブ』と題するDVD商品(検甲3。以下「本件DVD」という。)を製作販売し
た。本件DVDは,本件ビデオの媒体をDVDにしたもので,本件ビデオと映像が
同一であり,その内容は,別紙3のとおりである。
  被告は,本件DVDの製作及び販売について,原告会社から明示の許諾を
受けていない。
(5) 特典DVDの販売
  被告は,本件DVDと同時に『ザ★ベスト』と題するキャロルのベスト盤
CD(以下「本件CD」という。)を発売した。被告は,この両商品の宣伝のため
に,いわゆるプロモーションビデオ映像を作ろうと企図し,本件作品の一部を使用
して合成し,ワイプ処理で切り刻んだような効果の編集をするなどして,「ファン
キー・モンキー・ベイビー」のプロモーション映像を製作した(以下「本件プロモ
ーション映像」という。)。被告は,本件プロモーション映像をテレビ放映(スポ
ット及び番組エンディングテーマとして使用),街頭大型ビジョン上映,レコード
ショップ店頭上映,本社受付等での上映などを行うことによって,本件CD及び本
件DVDを宣伝した。また,本件プロモーション映像を,本件CDの初回購入特典
として,DVDに収録し(以下「特典DVD」という。),これを本件CDに付加
して販売した(検甲4)。
  被告は,本件プロモーション映像及び特典DVDの映像製作及びその利用
について,原告会社から明示の許諾を受けていない。また,本件プロモーション映
像及び特典DVDにおいては,そのオリジナル映像を撮った監督が原告Aである旨
の記述はない。
2 本件は,原告会社が本件作品の著作権(複製権,頒布権,上映権,放送権及
び翻案権)に基づき,原告Aが著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)に基
づき,被告に対し,本件ビデオ及び本件DVDが本件作品を複製したものであり,
特典DVD及び本件プロモーション映像が本件作品を翻案し,著作者人格権を侵害
するものであるなどと主張して,①著作権法112条1項に基づき,本件ビデオ,
本件DVD及び特典DVDの複製及び頒布の差止め並びに本件プロモーション映像
の複製,上映,放送等の差止め,②同条2項に基づき,特典DVD及び本件プロモ
ーション映像のマスターテープの廃棄,③民法709条に基づき,損害賠償,④著
作権法115条に基づき,謝罪広告を請求する事案である。
  被告は,請求棄却の判決を求め,担保を条件とする仮執行免脱宣言を求め
た。
3 争点
(1) 本件作品の著作者及び著作権者は誰か。
(2) 本件ビデオは原告会社の著作権を侵害するか。
(3) 本件DVDは原告会社の著作権を侵害するか。
(4) 特典DVD及び本件プロモーション映像は原告会社の著作権及び原告Aの
著作者人格権を侵害するか。
(5) 損害の発生の有無及びその額
(6) 謝罪広告の必要性
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(著作者及び著作権者)について
〔原告らの主張〕
(1) 本件作品の製作経緯
 キャロルのマネージメント会社であった有限会社バウハウス(以下「バウ
ハウス」という。)の会長職を辞して間もないF(以下「F」という。)は,昭和
50年ころ,原告Aの仕事を手伝っており,その縁があって,原告Aは,キャロル
の解散コンサートが昭和50年4月に開催されることを知り,これを撮影したいと
考えるようになった。原告Aは,キャロルがレコードデビューをする前の昭和47
年ころから,テレビ東京で原告Aが製作していた番組に出演させたりするなどし
て,キャロルのリーダーであるB(以下「B」という。)と親交をあたためていた
からである。
 原告会社は,昭和50年4月9日に法人として設立登記がなされ,キャロ
ル解散コンサートは,同年4月13日に開催された。原告会社は,本件作品の撮
影・編集に要する資金を集めるために,本件作品についての企画書を作って,これ
をテレビ局のTBSに持ち込み,TBSの放映料を製作資金にあてようと考えた。
しかし,できあがった映像を見てから最終的な判断をしたいと言われた。
 そこで,原告会社は,原告Aの妻や親類から借金をして,製作資金を工面
して,解散コンサート風景やメンバー達のオフステージの表情,親衛隊「クール
ズ」の言動などを撮影して,これらを編集し,本件作品を製作した。原告Aは,原
告会社によるかかる製作行為に参加することを原告会社に約束した上で,本件作品
の監督を務めた。
 完成した本件作品をTBSに持ち込んだところ好評で,結局TBSで放映
されることが決定し,同年7月12日『グッドバイ・キャロル』のタイトルで同局
において放送された。TBSは放映料を原告会社に対して支払った。
 放送された本件作品について,テレビ評等は,好意的に扱い,東京新聞で
は本件作品を原告会社の第1回作品として紹介している。また,原告会社にとって
は法人として設立されて最初の作品であったため,ダイレクトメール用のはがきな
どにおいて,本件作品を第1回制作作品と大書して印刷し,取引先等に配ったりも
した。
 TBSによる放映後,当時の日本フォノグラムの担当者であるHから申入
れがあったので,原告会社は,本件作品の地方テレビ局への放映を許諾する権利を
日本フォノグラムに譲渡し,本件作品のコピーを同社に提供した。したがって,被
告が保管しているとする本件作品のマスターテープは,本件作品のオリジナルでは
ない。
  以上の経緯からすれば,本件作品の著作者は原告Aであり,著作権者は原
告会社である。本件作品の製作について,発意と責任を有していたのは原告会社で
ある。原告会社は,誰にも委託されずに本件作品を自主制作作品として製作したの
である。
(2) 被告の主張への反論
  原告らは,キャロルのマネージメント会社であったバウハウスの社長G
(以下「G」という。)からも日本フォノグラムからも撮影料200万円を受け取
った記憶はないが,仮に被告が主張するとおりだったとしても,原告会社は,発注
者に対して製作を完成する義務を負っており,映画製作費用もキャストやスタッフ
等への支払,機材の損傷の弁償など自己の負担としていることになるから,映画製
作者の地位は揺るがない。
  被告は,コンサート開催自体に関する費用負担を映画の製作費として考え
ているようであるが,別の目的のために作られた環境を撮影の背景に選んだからと
いって,その背景の製作費が映画の製作費となることはない。また,被告は権利処
理は全て被告が行ったと主張するが,権利処理の主体と著作権者か否かは無関係で
ある。
  TBSへ放映許諾をし,そこからの放映料を受領したのは原告会社であ
り,事前の放送合意はなかったとはいえ,原告会社らは本件作品をテレビ局で放送
するべく,限られた時間内に編集を終えてTBSに持ち込み,放映に漕ぎ着けたの
であるから,製作の進行管理と完成の責任を負っていたのは原告会社にほかならな
い。監督である原告Aやカメラマンをはじめ,出演者のキャロルのメンバーやクー
ルズに参加依頼・出演依頼をしたのは原告Aである。出演者に出演料の支払がなけ
れば映画製作者になれないということはない。
〔被告の主張〕
(1) 本件作品の製作経緯
ア 昭和50年当時,Gと日本フォノグラムとの間で,解散コンサートのL
Pレコードのプロモーションに使用すること及び将来何らかの態様で利用すること
を目的として,解散コンサートの撮影を行うことが話し合われ,日本フォノグラム
において本件作品の製作が決定された。Gは,知人である原告Aが代表者を務める
原告会社に撮影を依頼した。
イ 本件作品製作のための費用として,原告らからの見積もりに基づき,2
00万円を日本フォノグラムから原告会社に対して支払った。この製作費用は最終
的にはGが負担し,日本フォノグラムからGに支払われる解散コンサートを素材と
する商品についての原盤製作協力印税と相殺することとされた。すなわち,商品が
売れて,日本フォノグラムがGに対し,製作費用以上の原盤製作協力印税の支払義
務を負う場合は,製作費用はGの負担となり,原盤製作協力印税が同額未満の場合
は,日本フォノグラムも製作費用の一部を負担するのである。本件では,日本フォ
ノグラムは,製作費用を超える原盤製作協力印税を負担したので,結果的に,Gが
製作費用を負担した。
ウ 本件作品の権利関係について,Gと日本フォノグラムとの間で締結され
た契約書(乙7)8条では,原盤に対するGの権利を日本フォノグラムに移転する
ことが規定されているので,Gは日本フォノグラムに対して原盤を製作して納入す
る義務を負っており,本件作品を完成させて納入すべき義務を負担していた。この
原盤製作の対価として,日本フォノグラムは前記原盤製作協力印税を支払う義務を
負担したのである(前記契約書4条)。
エ Gは,解散コンサートの会場の選択と費用の支払,機材の搬入と費用の
支払,キャロルのメンバーへの報酬の支払,コンサートスタッフの費用の支払,ク
ールズへの協力依頼を行った。本件作品にクールズの映像を入れることは,日本フ
ォノグラム内で話し合われていたことである。本件作品のみならず,後の本件ビデ
オ,本件DVD等の販売に際しても,日本フォノグラムは,映画製作者として,実
演家や出演者との権利処理も行った。解散コンサートの開催,LPレコード発売,
本件作品の撮影は,当初から一体として企画されたものであるから,本件作品の製
作費用として,解散コンサート開催費用も含まれる。
オ 本件作品撮影後,そのマスターテープは,日本フォノグラムで保管し,
現在では,同社から音楽関係の事業について営業譲渡を受けた被告が保管してい
る。原告らから本件作品のマスターテープの引渡しを要求されたことはない。
カ 本件作品製作後,日本フォノグラムのUが担当となって,全国の放送局
で本件作品を放映してLPレコードのプロモーションをしてもらうよう働きかけ,
TBSで放送された。また,日本フォノグラムは,本件作品のビデオテープを複数
のテレビ局に貸与したが,キャロル解散コンサートのLPを宣伝する目的のためだ
ったことから,いずれのテレビ局に対しても,本件作品の放送について,一切対価
を請求しなかった。
キ 当時,キャロルと専属契約(乙8)を締結していたのは,日本フォノグ
ラムであり,キャロルは日本フォノグラムの専属アーティストとして,日本フォノ
グラムのレコーディングのために,日本フォノグラムの指示に従い実演を行うこと
とされていた。キャロルは,この専属契約に基づき解散コンサートを行ったのであ
り,日本フォノグラムのみが,適法に撮影を行い,その映像を固定する権限を有し
ていた。
ク 原告らは,本件作品が製作された昭和50年から本訴提起前の交渉がな
されるまで約28年間もの間,本件ビデオの販売が行われたにもかかわらず,本件
作品の著作権に関する主張を一切していない。日本フォノグラムの担当者が,パッ
ケージに「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と記載された本件ビデオを原
告Aに持参したときも,原告らから何らの権利主張もされなかった。他方,日本フ
ォノグラムは,本件作品の著作権者として本件作品を各地のテレビ局に持参して,
キャロルのプロモーションのために放送させ,昭和59年には,原告Aに依頼して
本件作品を編集した本件ビデオを発売している。これらの一連の行為は,本件作品
の著作権を日本フォノグラムが有していたからこそできたものである。
(2) 著作権法15条(職務著作)による著作権取得
 以上のとおり,本件作品の対象である解散コンサートを企画し,準備し,
その模様を収録したLPレコードを製作,発売し,そのプロモーションのために解
散コンサートを撮影することを企画したのは,全て日本フォノグラムであるから,
本件作品は,日本フォノグラムの発意に基づいて作成されたものである。
 「法人等の業務に従事する者」とは,典型的には法人の従業員であるが,
外部の者との間においても,法人等に著作権を原始的に帰属させることを当然の前
提とする指揮命令関係がある場合には,かかる指揮命令に服する者も含まれる。キ
ャロル解散コンサートは,日本フォノグラムの企画,管理下で実施され,当時,キ
ャロルの実演を収録して原盤を製作する権利を有していたのは,キャロルと専属契
約を締結していた日本フォノグラムであった。原告らは,日本フォノグラムの企
画,費用,指揮命令によって撮影,編集等の作業を行ったにすぎない。したがっ
て,本件作品は,日本フォノグラムの業務に従事した原告会社が職務上作成したも
のである。
 「法人等の名義の下に公表するものであること」とは,法人等の著作名義
で公表することを予定している著作物であれば足りる。本件作品は,LPレコード
のプロモーション目的として製作されたものであるから,各地の放送局に無料で放
送させることを前提としており,各放送局が自局の制作番組として放送できるよ
う,あえて,「制作・著作日本フォノグラム」と表示していないが,著作者名を表
示して公表するのであれば,日本フォノグラムの著作名義で公表することを予定し
ていた。現に,本件ビデオには,「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と表
示されている。
 したがって,著作権法15条により,本件作品の著作権は,日本フォノグ
ラムが原始的に取得した。
(3) 著作権法29条1項による著作権取得
 本件作品は映画の著作物であるところ,LPレコードのプロモーションの
ために,日本フォノグラムが企画し,その費用により製作し,撮影に必要なキャロ
ルの許諾も得たのであるから,日本フォノグラムが映画製作者であり,原告会社
は,日本フォノグラムによる映画製作に参加することを同社に約束していたので,
著作権法29条1項により,日本フォノグラムに著作権が帰属する。
 仮にGが共同製作者として共同著作権を取得したとしても,日本フォノグ
ラムとの昭和50年5月15日付契約書により,Gの持分は日本フォノグラムに移
転されている。
(4) 著作権の譲受による取得
  仮に,本件作品の著作権を原告会社が原始的に取得したとしても,昭和5
0年4月18日にテープの編集を終え,完成版のビデオを原告らがGに引き渡した
時点で,本件作品に対する著作権はGに譲渡された。そして,同年5月15日付け
契約書(乙7)により,Gから日本フォノグラムに移転し,平成12年に同社から
被告への営業譲渡に伴って被告に移転した。
2 争点(2)(本件ビデオ)について
〔原告らの主張〕
 昭和59年,Bは,自分のコンサート映像をビデオカセット商品として,当
時のワーナー・パイオニア株式会社から発売しようと考えたが,その冒頭に本件作
品の映像を一部使用したいと考え,日本フォノグラムの社長と直談判して,ワーナ
ー・パイオニア株式会社から発売されるビデオに本件作品の映像を一部使用するこ
との同意,すなわち専属解放の同意を得て,その代わりに本件作品自体をビデオカ
セット商品として,日本フォノグラムが発売することを同社に対して許諾した。
 原告Aは,この経緯をBから聞いて,本件作品が日本フォノグラムからビデ
オカセット商品として発売されることを承認したが,これは著作権者である原告会
社に対して許諾料を支払う旨の契約の提示があることを条件としたものであった。
しかし,日本フォノグラムから契約の提示はなく,原告Aも忙しさにかまけてその
ままになってしまった。
 したがって,本件ビデオは,相当額の許諾料を支払うとの条件が成就してい
ないので,著作権者である原告会社の許諾なしに本件作品が複製されたものという
ことになる。なお,本件ビデオは,本件作品を再編集したものではあるが,原告A
が自らビデオ化のために手直ししたもので,翻案したものではない。日本フォノグ
ラムの提供した写真素材なども使用したのは事実であるが,それにより著作権の帰
属に影響が生ずるものではない。
〔被告の主張〕
 本件ビデオを作成するにあたっては,日本フォノグラムは,Bがキャロルの
元メンバーから本件ビデオ販売についての承諾を取りつけることを交換条件とし
て,Bが他社から発売する映像作品「●●●●ヒストリー」に本件作品の映像の使
用を認めたものである。また,キャロルの各メンバー及びクールズのあるメンバー
に対し,慣行上,金銭の支払がなされたが,これらの処理を行ったのは,日本フォ
ノグラムである。
 本件ビデオは,本件作品のモノラル音源を日本フォノグラムが録音していた
ステレオ音源と入れ替え,最後に使用している「エデンの東」の音源を異なるオー
ケストラの演奏に変更し,新たにキャロルのメンバーの写真を挿入し,映像に一定
の編集を加えたものであるから,本件作品と実質的に同一であるとはいえない。
「エデンの東」の音源や新たに挿入した写真の権利処理は,日本フォノグラムが行
った。日本フォノグラムは,原告会社に本件作品の映像の編集作業を依頼し,原告
Aが編集作業を行った。このとき,日本フォノグラムから原告会社に対し,編集作
業代金が支払われている。その際もその後も原告らからは,何の請求もなかった。
本件ビデオのパッケージには,「制作・著作・日本フォノグラム株式会社」と記載
されていたが,原告らからは,何の抗議もなかった。
 以上のとおり,原告らは,本件作品製作と同様,本件ビデオ製作の全体には
関与せず,単なる編集作業の委託を受けたに過ぎないものであって,映画の著作物
である本件ビデオの製作者として,本件ビデオの製作を企画し,費用を負担し,必
要な権利処理を行ったのは,日本フォノグラムである。したがって,本件ビデオの
著作権者は,日本フォノグラムであり,営業譲渡に伴い,著作権が被告に移転され
たものである。
3 争点(3)(本件DVD)について
〔原告らの主張〕
 本件DVDは,本件ビデオをそのままDVD版にしたものであって,本件ビ
デオと同様に著作権者である原告会社の許諾なしに本件作品が複製されたものであ
る。
〔被告の主張〕
 本件DVDは,本件ビデオの媒体をVHSビデオからDVDに変更したもの
であるから,その著作権者は,当時既に本件ビデオの著作権を有していた被告であ
る。
 仮に原告会社が本件作品の著作権者であったとしても,本件ビデオを発売す
るときに本件DVDへの使用についても同意済みである。
4 争点(4)(特典DVD,本件プロモーション映像)について
〔原告らの主張〕
 特典DVD及び本件プロモーション映像は,本件作品の一部の映像に大幅な
改変を加えて作成されたものであり,著作権者である原告会社及び著作者である原
告Aのいずれの許諾もなしに作成され,原告Aが監督をした旨の表示もなかった。
 したがって,特典DVD及び本件プロモーション映像は,原告会社の著作権
(翻案権)及び原告Aの著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害する
ものである。
〔被告の主張〕
(1) そもそも,特典DVDの映像は,本件作品に含まれる映像を素材として製
作されたものではあるが,新たに製作した別個の著作物であるから,本件作品の翻
案ではない。
 本件作品は,ステージの前後に固定した2台のカメラと2台の移動カメラ
が捉えた合計4つの映像から,1つを選択して構成されたコンサートの映像と,コ
ンサート以外の映像を織り交ぜ,編集したところに表現上の本質的特徴があり,個
々の映像自体,特にライブ演奏を記録した部分は,演出行為,細かいカメラ割りな
どを伴わず,カメラフレームや露出の決定などもライブ演奏の記録という性質上,
非常に限定されているから,ほとんど創作性は認められない。特典DVDの映像
は,このような創作性を認め難い個々のシーンが矢継ぎ早に次々と入れ替わるもの
であって,本件作品の表現上の本質的特徴として,創作性のよりどころとなる編集
の成果を全く利用していない。したがって,特典DVDに接した者が,本件作品の
表現上の本質的特徴を感得することはないから,特典DVDは,本件作品の翻案で
はない。
 したがって,本件作品の著作権者が誰であるかにかかわらず,特典DVD
の映像の著作権は,これを製作した被告に原始的に帰属しており,仮に原告Aが本
件作品の著作者人格権を有していたとしても,これを侵害しない。
(2) 仮に特典DVDが本件作品を改変したものであるとしても,本件作品がプ
ロモーション用に製作されたものである以上,その改変が成されることや,約4分
30秒程度の短いプロモーションの映像を作成した場合に,著作者の名称を表示し
ないことも,原告らは当初から了解済みであったというべきである。
5 争点(5)(損害)について
 〔原告らの主張〕
(1) 利益賠償の適用について
 原告会社は,主位的に著作権法114条2項による損害額を請求するもの
である。
ア これに対し,被告は,まず,原告会社においては,ビデオやDVDを製
作し販売している実績がないため,利益賠償を主張することができないと主張す
る。
 しかし,それは法律の明文にない要件を導入したことになり,誤った解
釈である。仮に権利者において当該権利に係る著作物利用を現実に行っていること
が本項適用の前提条件であるとするならば,その旨が条文上明記されていてしかる
べきであり,条文の文言に全て表現しつくすことが困難である場合も立法技術とし
ては通常あり得ることであるが,条項の適用場面を制限する定型性のある前提をあ
えて省略するような立法は不適切である。原告会社は,テレビ番組を中心とした映
像作品の企画,製作を専ら行う会社であり,映像作品のライセンス事業は数多く行
っている。
イ また,被告は,原告会社は解散コンサートを収録した商品を適法に製造
販売するための実演家の許諾を取得していないので,本件DVDを自ら製造販売で
きないと主張する。
 しかし,原告会社こそが実演家からの許諾を取得したのであって,被告
こそこのような許諾の取得について立証をなし得ていない。また,そもそも利益賠
償の要件として原告会社が侵害と目された製品の製造販売を実際に行っていること
を要求するのは法律解釈として誤っている。
ウ いわゆるコンテンツ産業において,ソフト部分とハード部分の機能分化
は普遍的に存在しており,物理的素材としてのDVD盤を作る会社や,商品として
梱包されたDVDをレコードショップ等に卸売りして配給する会社は,レコード会
社の外部の第三者である。したがって,著作物を製作販売するための設備,技術を
有するかどうかを前提として,利益を得る蓋然性を論じるのであれば,そもそも今
日の日本のコンテンツ産業一般においては誰も利益賠償を得る適格性が存しないこ
とになる。
エ 仮に,被告が主張するように「原告会社がビデオ販売をしていること」
を利益賠償の前提と考えた場合であっても,製造販売とは,結局のところ,製造と
販売に関する費用を自ら負担しているということであり,このような意味における
製造販売については,原告会社はこれを業として行っている。Bの実演を収録した
ビデオ商品「THESTARINHIBIYA」及び「●●●●ストーリー」に関して,原告会
社は株式会社音との間で一切の費用を2分の1ずつ負担し,売上げを2分の1ずつ
取得する旨の共同製作・販売契約を締結した(甲51,52)。
(2) 本件ビデオによる損害
ア 主位的請求 3706万9851円 
 本件ビデオについても,本件DVDと同様に音及び映像からなる商品で
あるから,下記(3)ア記載のとおりの本件DVDの利益率69.3%(利益額1億7
056万2779円÷売上げ2億4608万9025円)をもとに各商品の利益を
計算する。
 被告は,平成5年以降本日まで,本件ビデオを,小売価格3689円
(税込み3873円)のものを6897本(レーザーディスク商品を含む。),2
427円(税込み2548円)のものを1万7508本販売したとのことであり,
卸価格は定価の75%である。
 したがって,本件ビデオに係る利益は,次のとおり,3706万985
1円である。
(3873円×6897本+2548円×1万7508本)×75%×6
9.3%=3706万9851円 
イ 予備的請求 1783万0616円
 レコード会社がアーティストのライブ映像などをテレビ局などの外部権
利元からの供給に頼る場合には,権利元に支払う印税率は,ビデオグラムの小売価
格の20%程度になる。ものによっては25%から30%程度になることもある。
こうした場合,外部権利元はビデオグラム商品として発売するにあたっての権利ク
リアランスは,レコード会社に委ねるのが常である。すなわち,本件において,日
本フォノグラムが権利クリアランス業務を行ってもなお,原告会社に小売価格の2
0ないし30%程度の印税を支払うのが正当なのである。本件では,キャロルとい
う知名度の高いアーティストの映像作品であることに鑑みれば,25%の著作権料
率が相当である。
 したがって,著作権法114条3項に基づく原告の損害額は,次のとお
り,1783万0616円である。
(3873円×6897本+2548円×1万7508本)×25%=1
783万0616円
ウ 被告は,本件ビデオに関する原告会社の金銭請求権は発生していないと
主張するが,原告らは,対価の合意がなされ,かつ対価が実際に支払われることを
条件として,日本フォノグラムに本件ビデオの複製・頒布を許諾したものである。
対価の合意は結局されなかったから,許諾はなかったことになる。
  仮に,原告会社が条件を付けずに日本フォノグラムに本件ビデオの販売
を許諾していたとしても,原告会社は相当の対価請求権を当然有していたはずであ
るから,契約を前提とした相当対価請求権又は契約不存在を前提とした不当利得請
求権を有するというべきである。
  被告の主張では,「●●●●ヒストリー」に15分間本件作品の一部を
使用することの対価として47分間の本件作品全部を無償でビデオ化できることに
なり,バランスを失している。
  また,被告は,原告会社が本件ビデオの編集作業を行い,それに対して
報酬が払われていると主張するが,編集スタッフとしての立場と著作権者としての
立場は全く異なり,性質の違う対価なのであるから,編集作業の報酬が支払われた
から著作権料は支払われなくていいことにはならない。
  (3) 本件DVDによる損害
ア 主位的請求 1億7056万2779円
(ア) 本件DVDの消費税込みの小売価格は,3675円(消費税込)で
あり,卸価格はその75%であり,販売数量は8万9284枚であるから,本件D
VDの売上げは,2億4608万9025円(3675円×8万9284枚×75
%)である。
  なお,被告は,売上げは消費税を含まずに計算し,控除すべき費用に
ついては消費税を含めて計算しているが,売上げについても消費税を加算して計算
すべきである。
  また,原告会社は,本件作品の頒布権のみならず複製権の侵害も主張
しているのであるから,いったん違法に複製され,頒布され,これにより被告が利
益を受けた以上,被告側の事情により返品がされたとしても,これを控除すべきで
はない。
(イ) 本件DVDに係る利益は,別紙4のとおり,売上げから経費を控除
した1億7056万2779円が相当である。
  被告は,利益賠償における被告利益額から経費を控除しているが,著
作権法114条2項における「利益」とは「純利益」ではなく,当該侵害品により
利益を受けるために新たに発生した費用のみが「粗利益」額から控除すべき費用で
あり,被告の主張する費用控除のうち,次の費目は過大である。その余の費用の控
除は認める。
a 被告がB所属事務所である株式会社音へ支払ったとする小売価格の
20%相当の印税額は,根拠も示されていない以上,経費として控除することは許
されない。プロデュース印税としても,せいぜい小売価格の2%前後であるが,本
件作品で株式会社音は何のプロデュース行為も行っていないのだから,不当な支出
である。
b 被告が有限会社オークランドへ支払ったとする3.75%の印税は
根拠が不明で,経費として控除することは許されない。原盤製作協力印税であると
しても,原告らが本件DVDの発売に先立って,著作権者として名乗りを上げてい
るにもかかわらず,漫然と支払われたもので,経費としては認められない。
c 被告は,宣伝販促費を経費として計上しているが,これは本件DV
Dの宣伝販促のほか,特典DVDを同梱した本件CDに対する宣伝販促も含んでい
る。したがって,これらを仕訳する必要があるところ,両者の売上げの比は,本件
DVDが38.9%,本件CDが61.1%であるから,本件DVDの宣伝販促費
として控除が許されるのは,宣伝販促費合計額1952万5124円の38.9%
である759万5273円である。
d 被告は,ビクターエンタテインメント株式会社(以下「ビクター」
という。)に純売上げの2%を販売手数料として支払ったとするが,通常販売委託
契約では,運送費等は販売受託先が負担するものであるから,何のための手数料で
あるか開示されなければ関連性がないものとして控除を認めるべきではない。
e 部門費(人件費,一般管理費)は,本件DVDの製作の有無にかか
わらず,被告に恒常的に生ずるものであるから,かかる部門費は控除すべきではな
い。
(ウ) なお,被告は,本件DVDの演奏部分は,被告が音源を差し替えて
ステレオ化したものであり,それによって被告の貢献が全体の50%になると主張
するが,失当である。
  多様な構成要素から成る映像作品において,音楽のみを取り出してそ
の貢献度が全体の半分であるというならば,例えば映画の製作費の半分が音楽に費
やされたり,二次使用料(劇場用映画がビデオ化されたりテレビ放映される際に楽
曲の著作権者や脚本家等に支払われる金額)も音源の権利者が半分を取得するとい
うことになるが,非常識である。
  また,原告らが撮影し録音したオリジナルの収録物には,そもそもキ
ャロルの全く同じ演奏が録音されていたものであって,ただテレビ放映を目的とし
ていたからモノラルで録音されていたにすぎない。すなわち,被告が行ったこと
は,録音物としての音に関して,0を100にしたのではなく,50を100にし
たにすぎない。
  本件作品は,純然たる作家性のあるドキュメンタリー作品であり,原
告Aの演出家としての手腕が評価されたのは,キャロルのメンバーがオープンカー
で喋るシーンを移動中継車を駆使して撮影した箇所などである。コンサートの演奏
部分がモノラルからステレオに差し替えられたことは,ドキュメンタリー作品とし
ての本件作品においては従たる意義しかない。
  このことは定量的にも観測できる。本件作品の約28%は,インタビ
ューなどのため被告による音源の差し替えがないか,差し替えに意味がない部分で
ある。
  これらを総合的に考察すると,被告による音源の差し替えを貢献とし
て評価するとすれば,5%程度が妥当である。
イ 予備的請求 8202万9675円
 前記ア(ア)のとおり,本件DVDの1枚当たりの消費税込みの小売価格
は3675円であり,販売数量は8万9284枚である。
 前記(2)イのとおり,著作権料率は25%が相当なので,著作権法114
条3項の受けるべき金銭の額は,次のとおり,8202万9675円となる。
3675円×8万9284枚×25%=8202万9675円
(4) 特典DVDによる損害 
ア 主位的請求 1848万8100円
 特典DVDの付いた初回出荷の本件CDの消費税込みの小売価格は32
00円であり,卸価格はその75%であり,販売数量は16万1335枚である。
 被告は,特典DVDについては利益が出ていないと主張するが虚構であ
る。
 本件DVDにおける利益率は69.3%(利益額1億7056万277
9円÷売上げ2億4608万9025円)であるから,本件CDが被告にもたらし
た利益は,2億6833万2372円(3200円×16万1335枚×75%×
69.3%)である。
 特典DVDが付いた本件CDは,25曲の音のみの楽曲と2曲の映像を
伴った楽曲の演奏が収録されている1個の商品であるから,全体としての商品が稼
ぎ出した全利益を楽曲の頭割りで算定する。被告の主張によれば,音源と映像は2
分の1ずつであるから,頭割りの算定上,特典DVDの収録曲は2倍にして算定す
ると,特典DVDに収録された「ファンキー・モンキー・ベイビー」には,全体の
6.89%(2÷29)が振り分けられる。
 したがって,原告会社の受けるべき利益は,次のとおり,1848万8
100円である。
2億6833万2372円×6.89%=1848万8100円
イ 予備的請求889万2785円
  前記アのとおり,特典DVDの付いた初回出荷の本件CDの消費税込み
の小売価格は3200円であり,本件CDの売上枚数は,16万1335枚であ
り,そのうち6.89%が「ファンキー・モンキー・ベイビー」の映像に割り当て
られる。実施料率は25%が相当である。
  したがって,特典DVDに関し著作権法114条3項により受けるべき
金銭の額は,次のとおり,889万2785円である。
3200円×16万1335枚×6.89%×25%=889万2785

(5) 本件プロモーション映像による損害 1548万8160円
 レコード会社においては,プロモーション協力の対価としてレコードの小
売価格の3%程度をアーティストの所属事務所などに支払うことがある。本件プロ
モーション映像もテレビ,ウェブサイト,店頭などにおいて,本件DVDと本件C
Dの販促のために利用されており,こうしたプロモーション印税相当の支払に匹敵
する。
 特典DVDの付いた初回出荷の本件CDの消費税込みの小売価格は320
0円である。
 したがって,本件CDの売上げに,本件プロモーション映像が与えた影響
を著作権法114条3項により受けるべき金銭の額として換算すると,次のとおり
1548万8160円となる。
3200円×16万1335枚×3%=1548万8160円
(6) 原告会社の損害のまとめ
ア 主位的請求
本件ビデオによる損害           3706万9851円
本件DVDによる損害         1億7056万2779円
特典DVDによる損害           1848万8100円
本件プロモーション映像による損害     1548万8160円
合計                 2億4160万8890円
イ 予備的請求
本件ビデオによる損害           1783万0616円
本件DVDによる損害           8202万9675円
特典DVDによる損害            889万2785円
本件プロモーション映像による損害     1548万8160円
合計                 1億2424万1236円
(7) 原告Aの損害 2000万円
 原告Aは,本件プロモーション映像をテレビで見て,かつての自分の監督
作品が切り刻まれて放送されたことに衝撃を受けた。この著作者人格権侵害の慰謝
料は,2000万円を下らない。
 〔被告の主張〕
(1) 利益賠償の適用について
ア 仮に原告会社が本件DVDの映像について著作権を有しており,被告に
対し,本件DVDの製造販売行為について損害賠償請求権を有するとしても,損害
額として被告が得た利益額の賠償を求めることはできない。
  著作権法114条2項は,侵害行為と損害との因果関係及び損害額の立
証が困難であることに照らし,著作権者の立証の困難性を救済するために,侵害者
が得た利益をもって著作権者の被った損害額であると推定するものである。推定さ
れるのは,侵害行為と損害との間の因果関係及び損害額であって,損害が発生した
こと自体は,著作権者が立証しなければならない。
 著作権法114条2項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利
益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得
られる蓋然性があることに基づく規定であるから,損害が発生したというために
は,著作権者自身が,著作権侵害とされる行為がなされていた時期に,侵害品と競
合する商品を自ら製造販売していたことが必要である。そうでなければ,侵害品が
なければ,その分だけ著作権者の商品が売れたはずであるという補完関係がなく,
侵害行為から得られた利益を著作権者の損害と推定するための事実的な基礎を欠く
からである。本件では,自らビデオ商品やDVD商品の製造販売を行っていない原
告会社は,被告と同様に本ビデオ商品や本DVD商品の製造販売を行って利益を得
られる蓋然性はないから,同項の適用はない。
イ 仮に,著作権法114条2項の適用を受けるためには,著作権者が著作
権侵害とされる行為がなされた期間中に,自ら著作物を利用していなくても,著作
権の保護期間中に利用する可能性があれば,同項の適用があると解したとしても,
原告会社が自ら本件DVDの製造販売を行う蓋然性は低く,利用許諾による権利行
使を行う蓋然性が高いことから,同項は適用すべきではない。
  また,原告会社は,解散コンサートが行われた昭和50年から約30年
経った現在においても,自ら製造ないし販売元となってレコードやDVDを販売し
たことがないのであるから,今後もレコード会社への利用許諾はしても,自らが製
造販売の主体になる蓋然性は低い。
ウ さらに,著作権者が著作権法114条2項に基づく損害額を主張するこ
とができるのは,著作権者が著作物を利用する権利を専有し,自らの権原のみに基
づいて著作物を利用することが可能であり,他方,侵害者により販売等のされる侵
害品が真正品と同内容のものとして互いに排他的な競争関係に立つことから,侵害
品の販売等による利益をもって著作権者が真正品の販売等により得ることのできた
はずの利益と等価関係に立つという擬制が可能なことによるものというべきであ
る。
  本件DVDに収録されている解散コンサート収録時,キャロルと日本フ
ォノグラムとは,専属契約を締結していた。すなわち,キャロルは,日本フォノグ
ラムの専属アーティストとして,日本フォノグラムのレコーディングのために,日
本フォノグラムの指示に従い実演を行うものとされ,レコーディングされた原盤の
所有権及び録音権,録画物に対する著作権法上の全ての権利は日本フォノグラムに
帰属する。したがって,解散コンサートについては,キャロルは日本フォノグラム
に対して著作隣接権を譲渡しているのであって,被告は営業譲渡によって,日本フ
ォノグラムから同権利を承継取得している。
  原告会社は,本件DVDの映像について著作権を有していたとしても,
キャロルの実演を収録する権限を有しておらず,キャロルの実演を収録することの
許諾も得ておらず,そこに収録されている実演についての著作隣接権を有していな
い。解散コンサートを収録した商品を適法に製造販売することについての著作隣接
権の利用許諾も受けていない以上,本件DVDを自ら,あるいは第三者に委託して
適法に製造販売することはできないのであるから,被告が得た利益をもって,原告
会社が得ることができたはずの利益と等価関係に立つと擬制することはできず,同
項を適用できない。
エ 原告会社は,今日のコンテンツ産業における分業の実態を主張するが,
分業によって各当事者の担当業務が限定されているならば,各当事者が得られる利
益も各担当業務から得られる利益に限定されるのであり,被った損害の填補を目的
とする損害賠償制度において,自らの担当業務上,およそ得られるはずのない利益
についてまで逸失利益の賠償を求められないのは当然である。種々の当事者が関与
して各自の利益の累積として得られるところの製作販売による利益を著作者のみの
逸失利益として認められないのである。
オ 原告会社は,ビデオの製造販売を業として行っていると主張するが,現
実には,原告会社が行っているのは,映像原盤を株式会社音又は有限会社カムスト
ックと共同で製作するところまでで,その後のこれらの作品を発売するための様々
な業務は,すべて株式会社音や有限会社カムストックが行っている。また,製造
費,広告宣伝費,音楽著作権使用料などの費用も,株式会社音や有限会社カムスト
ックが立替払し,その後,売上げが上がった段階で,立替金回収後の損益を折半し
ている。すなわち,原告会社は商品の製造,宣伝及び販売に関し,何のリスク,作
業又は役割も負わず,単に最初の製作費の出資に対するリターンを受けとるにすぎ
ないから,実質的には株式会社音又は有限会社カムストックが事業主体であり,原
告会社は事業主体であるとはいえない。
(2) 本件ビデオに関する損害
 昭和59年に本件ビデオを発売するに際し,その前年に日本フォノグラム
は,本件作品の撮影を担当した原告らに編集作業を委託して報酬を支払った。原告
らは,「●●●●ヒストリー」に本件作品の一部を使用するに際し,日本フォノグ
ラムが専属解放に同意することを条件として,原告会社が日本フォノグラムに対
し,本件作品を有償でビデオ化することを許諾したと主張するが,日本フォノグラ
ムが原告らに本件作品のビデオ化に関して対価を支払うという合意がされた事実は
ない。また,本件ビデオ発売後平成14年末まで,原告らから日本フォノグラムに
も被告にも,本件ビデオについて著作権使用料の請求がされたことはない。
 したがって,仮に原告会社が本件作品の著作権者であったとしても,本件
ビデオについては,著作権の使用料は発生しない。
(3) 本件DVDに関する損害
 ア 本件DVDは,本件ビデオの媒体をDVDに変更したものである。した
がって,仮に原告会社が本件作品の著作権者であったとしても,本件ビデオを発売
するときに本件DVDへの使用についても同意済みであるし,日本フォノグラムが
対価を支払う合意はされていないので,本件DVDについて,著作権の使用料は発
生しない。
イ 仮に,本件DVDに本件ビデオについての許諾の効果が及ばない場合
は,本件DVDに関する損害は,著作権法114条3項により,以下のとおり26
5万6199円である。
本件DVDは,1枚あたりの税抜き小売価格は3500円であり,販売
数量は,8万9284枚である。DVDというパッケージとして販売するために費
用がかかるため,販売数量に85%を乗じて,パッケージ費用を控除する。
 製作者の印税率としては,日本フォノグラムとGとの契約書(乙7)で
は3.75%とされている。しかし,本件では,原告らは解散コンサートの収録に
ついて許諾を得ておらず,キャロルへのギャラの支払やコンサート開催についての
費用等を全く負担していないこと,挿入されているキャロルの元メンバーの写真や
エンディングに使用されている「エデンの東」の権利処理も日本フォノグラムが行
ったこと,原告らが担当したのは,単なる撮影業務だけであることに照らせば,印
税料率は2%で十分である。
 本件DVDは,音源は日本フォノグラムから被告が承継したステレオ音
声を用いており,当業界の慣行では,映像のみの製作者への印税は2分の1とな
る。キャロルが解散コンサートとして演奏を行った模様を収録した音楽ビデオが本
件DVDの商品価値であり,通常の映画作品とは異なる。音楽ビデオである本件D
VDとしては,オリジナルの収録物のモノラル音声では商品価値はなく,被告によ
るステレオ音声への音源差し替えがなければ本件DVDは発売できなかった。テレ
ビ用のドキュメンタリー番組の面は,解散コンサートを収録しているということと
比較すれば貢献度は低い。音源の入っていない部分は,いわば付け足しの部位にす
ぎない。
 したがって,本件DVDに関し著作権法114条3項により受けるべき
金銭の額は,次のとおり,265万6199円となる。
3500円×8万9284枚×85%×2%×1/2=265万6199

ウ 仮に,損害額を著作権法114条2項による逸失利益とする場合は,以
下のとおり,2346万2129円(円未満切り捨て)を超えることはない。
(ア) 本件DVDの販売による売上げは,卸売価格(小売価格3500円
×75%=2625円)に販売枚数8万9284枚を乗じた2億3437万050
0円であるが,実際の売上げは,返品分268枚を控除した2億3366万700
0円である。
  原告会社は,返品されても控除すべきではないと主張するが,利益額
をもって損害額とするのであれば,返品された商品についての利益は発生しないの
であって,しかも本件DVDのような音楽作品の場合,返品は不可避に生じるもの
であって,原告会社が販売を行っても同様の返品が生じることは避けられない。し
たがって,不可避に生ずる返品については,損害額から控除すべきである。
  なお,原告会社は,売上げについても消費税を加算して計算すべきで
あると主張するが,売上げに課される消費税は,被告を通過して必ず国に納入され
るのであるから,消費税相当額は,当初から被告に帰属し得ないものであり,利益
額に含めないのは当然である。
(イ) この売上げを上げるために必要な経費としては,別紙5に列挙した
とおりの費用が必要であり,これらの費用は,仮に原告会社において本件DVDを
販売するとしても必要になるものである。したがって,これらの経費を前記売上げ
から控除した4692万4259円が本件DVD全体の逸失利益の額である。な
お,控除すべき費用については,被告は実際に消費税額を付加した金額を支出して
いるのであるから,費用として控除すべきである。
  一般論として,同項による「利益」とは限界利益と解する立場が妥当
するとしても,本件では原告会社はそもそも製品の製造販売をしておらず,原告会
社が本件DVDの製造販売によって被告と同様に利益を得ようとすれば,労働力や
設備を新たに導入しなければならないから,このような経費を全て控除した純利益
の金額をもって賠償額を認定すべきである。
  控除すべき費用等は,以下のとおりである。
a リベート(乙118)         2442万2370円
b 製造費                1394万4432円
 製造費の内訳は,原盤代10万5000円(乙32),ケース代3
11万5560円(乙32。35円×8万9016枚×1.05),ディスク代8
90万1600円(乙32。100円×8万9016枚×1.05),ジャケット
印刷代(別途新譜時製版代及び別途新譜時改版代を含む。)116万3251円
(乙33。145万9683円×8万9016枚/11万1700枚×1.05)
である。
c マスタリング費用             63万0000円
 マスタリング費用の内訳は,音声6万3000円(乙35),映像
マスタリング23万1000円(乙36),映像オーサリング33万6000円
(乙37)である。
d 印税                 6281万8917円
  印税の内訳は,B分の印税55万5418円(乙44),D分の印
税50万9133円(乙45),I分の印税50万3991円(乙46),C分の
印税48万8562円(乙47),株式会社ミューコム分の印税106万1555
円(乙48),株式会社音に対する印税4884万3018円(乙43),有限会
社オークランドに対する印税786万5863円(乙49のうち,DVDと記載し
てある項目)の合計5982万7540円に消費税を加えた6281万8917円
である。
 5982万7540円×1.05=6281万8917円
  なお,株式会社音に対する印税は,日本フォノグラムがラストライ
ブのビデオ商品を発売する際に,Bとキャロルの楽曲,フィルムを使用する場合
に,Bの許諾がいる旨の合意をしたことを根拠としている。日本フォノグラムから
営業譲渡を受けて,Bとの契約関係を承継した被告としては,かかる合意を無視で
きない。原告会社が本件DVDを製造販売するとしてもBからは同様の要求がさ
れ,これに応じなければBは製造販売の許諾をしないであろうことは明らかであ
る。したがって,原告会社の損害を推定する上でも,株式会社音に対する印税額は
控除すべきである。
 また,被告は,有限会社オークランドに印税を支払ったが,被告
は,契約書(乙7)4条でGが取得した原盤製作協力印税請求権を有限会社オーク
ランドが承継した(乙14)ことに基づき支払を遂行しているのであり,何ら不当
なことではない。
e 著作権印税              1663万3045円
f 肖像使用(乙34)            21万0000円
g 宣伝販促費              1926万0394円
  本件DVDと本件CDとは,同時に発売されたものであるが,レコ
ード店に置くポップ,ポスター等,一方の商品のみを対象とした広告物がほとんど
であり,支出する際の費目としては,本件DVD用と本件CD用の販促活動費は,
分別されるのがほとんどである。かかる分別に従って集計したものを基本とし,い
ずれに対する出費であるか不明なものは,販売額に応じた按分計算をして分配する
と,本件DVDの宣伝販促費は,以下の(a)ないし(d)を合計した合計1926万
0394円となる。
  (a) 乙第50ないし90号証の合計1836万7133円
  (b) 乙第101号証ないし105号証の合計72万6810円
 (c) サンプル盤(581枚)の製造費9万1130円
 (d) 乙第116号証及び117号証に対応した支払金額合計を,本
件DVDと特典DVDを含んだベスト盤CDの売上比で按分した7万5321円
h デザイン費                11万0754円
 本件DVDのジャケットのデザイン費の内訳は,文字入力・版下代
3万0114円(乙92),改版代8万0640円(乙91。7万6800円×
1.05)である。
i 搬送費(乙118)           615万0914円
j ビクター手数料(乙118)       490万7007円
  被告はビクターとの契約に基づき実際に運送費を負担しているので
あって(乙120),ビクターの販売手数料は,被告が運送費を負担することを前
提として決定されたものであるから,変動費であることが明らかな運送費は当然に
経費控除すべきである。
k 部門費(人件費,一般管理費)     3765万4908円
 侵害者の利益額をもって著作権者の損害額と推定しているのは,侵
害者が得た利益をそのまま著作権者に返還させる趣旨ではなく,侵害行為がなけれ
ば,侵害者が得た利益を著作権者が得られたであろうという補完関係があることに
よる。本件では,そもそも本件DVDの製造を行っていない原告会社が本件DVD
を製造販売するためには,新たな部門費が不可避的に発生する。したがって,原告
会社が出費することが明らかな部門費(人件費,一般管理費)は控除すべきであ
る。
(ウ) さらに,上記のうち,原告らが作業を担当したのは,本件DVDの
映像部分であるから,原告らの貢献度は最大限に評価しても50%を超えるもので
はない。したがって,仮に原告会社に逸失利益の賠償がされるとしても,上記(イ)
の額に2分の1を乗じた金額である2346万2129円(円未満切り捨て)を超
えることはない。
(4) 特典DVDに関する損害
ア 仮に,特典DVDが翻案権侵害であるとしても,その損害は,次のとお
りである。
 特典DVDは,平成15年に発売されたCD「キャロル/ザ★ベスト」
の初回発売分に特典として付されていたものである。特典DVD付きの本件CD
は,これがないものよりも134円価格が高いことから,特典DVDの価格は13
4円と考えるのが相当である。
 平成15年第2期までの特典DVD付きの本件CDの販売枚数は,16
万1335枚である。
 前記(3)イのとおり,販売数量に85%を乗じて,パッケージ費用を控除
する。また,製作者の印税率は2%が相当である。さらに,音源は日本フォノグラ
ムのものを使用しているので,映像のみの製作者への印税は2分の1とする。
 特典DVDには,原告らが撮影した解散コンサートの映像を素材にした
映像を使用した「ファンキー・モンキー・ベイビー」と,原告らとは無関係の映像
を使用した「ルイジアンナ」の2曲が収録されているので,更に2分の1を乗じる
ことになる。
 したがって,特典DVDに関し著作権法114条3項により受けるべき
金銭の額は,次のとおり,9万1880円となる。
134円×85%×16万1335枚×2%×1/2×1/2=9万18
80円
イ 仮に,損害額を著作権法114条2項による逸失利益とする場合は,そ
の額は次のとおりである。
  特典DVDの販売による売上げは,卸売価格(小売価格135円の75
%の小数点以下を四捨五入した101円)に販売枚数16万1335枚を乗じた1
629万4835円であるが,返品が22万1291円分あるため,実際の売上げ
は,返品分を控除した1607万3544円である。
  この売上げを上げるために必要な経費としては,別紙6に列挙したとお
りの費用が必要であり,これらは仮に原告会社において特典DVDを販売するとし
ても必要になる。したがって,これらの経費を上記売上げから控除したものが,逸
失利益の額であるが,本件では経費が上回り,利益は出ていない。
(5) 本件プロモーション映像による損害
 プロモーション印税を支払う慣行は,アーティストが所属する会社におい
て,プロモーション活動を実際に行い,その対価としてレコードの売上げの一定料
率を支払うものであり,本件のように既に収録された映像を使用する場合に,販促
物の使用料を宣伝対象である商品の売上げに応じて支払うというものではない。プ
ロモーション印税を宣伝対象である商品の売上げの一定料率とする趣旨は,プロモ
ーション活動を積極的に行う動機付けをアーティスト側に与えることにあるから,
本件のように収録済みの映像の使用について,宣伝対象である商品の売上げを基礎
に使用料額を算定するという合理性はない。
(6) 消滅時効
  仮に,本件作品の著作権が原告会社に認められるのであれば,10年を経
過した販売行為に対する不当利得に基づく請求及び3年を経過した販売行為に対す
る不法行為に基づく請求については,被告は消滅時効を援用する。
6 争点(6)(謝罪広告)について
 〔原告らの主張〕
 本件プロモーション映像は,テレビを始めとする各種メディアによって多く
の人々の目に触れるところとなった。また,本件プロモーション映像を収録した特
典DVDの販売に先立って,その権利侵害性につき,被告は原告らから明確な警告
を受けたにもかかわらず,あえてその発売を強行して,多数の消費者のもとに,原
告Aの著作者人格権及び原告会社の著作権を侵害した特典DVDを頒布したもので
ある。
 したがって,原告らは,被告に対し,別紙1記載のとおりの謝罪広告掲載の
請求権を有するものである。
 〔被告の主張〕
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 証拠から認められる事実
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 昭和50年4月13日,B,C,D及びEをメンバーとするロックバン
ド「キャロル」の解散コンサートが行われた。
  解散コンサートは,キャロルのマネージメント会社であったバウハウス
の社長であるGが企画し,バウハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を行
った。すなわち,バウハウスは,解散コンサートの会場の選択,会場費用の支払,
機材の搬入と費用の支払,キャロルメンバーへの報酬支払,コンサートスタッフの
費用の支払,コンサートのポスターやチラシの製作,保険契約の締結(乙28ない
し30)等のコンサートの運営に関する一切の業務を行い,コンサート費用一式の
支払をした(乙23の1,24の1及び2,25の1及び2)。Gは,ラストライ
ブのステージをどのように構成するかを考え,コンサート全体のプロデュースを行
った。コンサートのちらし(乙27)には,「企画・制作★バウハウス」との記載
がある。
イ 原告Aは,Gと合意の上,解散コンサートの撮影をすることになった。
同原告は,昭和50年4月9日,テレビ番組を中心とする映像製作を目的とする原
告会社を設立した。
  本件作品の撮影は,原告会社によって行われ,原告Aが監督をした。原
告会社は,カメラマン,音声等スタッフと撮影・音声機材等を,テレビ技術会社で
ある株式会社パビック(以下「パビック」という。)に発注して行った。パビック
は,原告Aと事前の打合せを行い,同原告の指示に従ってカメラ位置を定め,撮影
したものである(甲10,11,27)。
  解散コンサート当日,コンサート会場での演奏の収録は,4台のカメラ
を中継車につなぎ,ライブ演奏に合わせてカメラを切り換え,スイッチングで1本
化して録画した(甲27)。カメラは,ステージ後方ドラムスの後のイントレの上
に固定カメラ1台と舞台の上に手持ちカメラ1台,客席の中のイントレの上に固定
カメラ2台の陣容で撮影した(甲24ないし27)。原告Aは,オープンカーに乗
ったキャロルのメンバー4人が親衛隊クールズのバイクに囲まれ併走しながら1人
ずつ解散への想いを語るシーンを,大型VTR録画機を積み込んだ車を走らせなが
ら,ハンディカメラでキャロルやクールズを狙って撮るという,当時としては新し
いビデオ撮影方法を採用した(甲10,27)。  
ウ 当時,原告Aとしては,本件作品を製作するにあたり,製作費の工面は
二の次のようなところはあったが,事前に当てがあるに越したことはないと考え,
以前から面識のあったTBSのプロデューサーJ及びKに相談に行った。しかし,
企画段階ではTBS側が難色を示し,撮影編集済みの映像を見て,良ければ放送す
るとの対応だったので,自主制作で撮影編集等を行うことになった(甲27)。
  原告らは,解散コンサートから数日後に行った番組全体の編集作業で,
スイッチングで1本化して録画したものと,ハンディカメラでのファンへのインタ
ビュー等を原告Aの演出方針に従って構成し,やや長めの時間で編集した(CM抜
きで正味51分。検甲1)。原告Aは,このように編集して完成した映像(TBS
のスタッフ表示のスーパーテロップ等を入れていないもの)をTBSのJプロデュ
ーサーに持ち込み,その形で試写を行った。そして,その結果として,本件作品を
TBSで放映できることになった(甲3,27)。
  その後,原告Aは,TBSの指示で,番組として決められた時間ちょう
どになるように(CM抜きで正味48分)編集し直した(検甲2)。編集段階で,
原告Aは,編成も兼務していたKプロデューサーに確認を取り,TBSの指示通り
黒味を入れ,TBSからの指示により,Kプロデューサーの名前と制作著作TBS
のスーパーテロップを入れて納品した(甲27,検甲2)。なお,CMを挿入する
には,Kに連絡してCMの回数・秒数を確認することが不可欠であり,テレビ局の
フォーマットを知らなければテレビ局へ納品すらできない(甲27)。
エ 原告会社は,昭和50年6月19日,TBSとの間で,TBSでの1回
の放送に限って,本件作品の放送権を譲渡する旨の契約を締結した(甲39)。対
価は150万円であり(3条),TBSから原告会社に支払われた。
  本件作品は,同年7月12日,TBSの「特番ぎんざNOW!」という
番組において,『グッドバイ・キャロル』のタイトルで,テレビ放送された(甲1
の1)。
  なお,TBS放送前のクレジットは,「技術 パビック,プロデューサ
ー L(原告会社社員)・G,ディレクター A,制作協力 テル・ディレクター
ズ・ファミリィ」となっており,TBSで放送されたクレジットは,「技術 パビ
ック,プロデューサー L・K,ディレクター A,制作協力 テル・ディレクタ
ーズ・ファミリィ,制作著作 TBS」となっている(甲38,検甲1,2)。
  原告会社がTBSと契約した後で,日本フォノグラムから原告会社に話
があり,地方テレビ局への番組販売権は,日本フォノグラムへ譲渡することにした
が,対価は支払われていない(原告本人)。原告Aは,このとき日本フォノグラム
のHに対し,TBS放送用に加工したテープの一段階前の編集途中のテープを地方
番組販売用(地方番販用)として引き渡した(原告本人)。
そして,本件作品は,昭和50年7月12日から翌51年5月1日ま
で,TBSをはじめ多数回全国で放送され(甲40),その詳細は,原告会社にも
報告されていた。
オ 当時の新聞には,本件作品は原告会社の第1回作品として報道された
(甲1の1)。原告会社も,自社の第1回制作番組として本件作品を広告していた
(甲2)。
カ 本件作品の撮影費については,パビックの技術料は200万円を超えた
が,初製作でもあり,値引きをした200万円を原告会社からパビックに支払っ
た。また,撮影機材を提供したパビックが原告会社に対し,火災で被った損害10
1万7000円を請求したので(乙26の2),いったん原告会社はこれをパビッ
クに支払った上,バウハウスに請求し(乙26の1),Gからその支払を受けた。
その他編集費や人件費などを合わせると,本件作品の製作に合計で約400万円を
要した(原告本人)。
(2) 前記(1)の認定の事実によれば,原告Aは,本件作品の企画段階から完成
に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の監督を務め,撮影機材等の手配を
し,クールズを撮影することやファンのインタビューを入れることなど作品の内容
を決定し,撮影,編集作業のすべての指示を自ら行ったものということができる。
(3) 被告は,以上認定の事実に反する主張をするので,以下検討する。
ア 製作の経緯について
  被告は,本件作品は,日本フォノグラムにおいて,解散コンサートのL
Pレコードのプロモーションに使用すること等を目的として製作が決定された旨主
張し,日本フォノグラムのキャロル担当のディレクターであったM及びHの陳述書
(乙5,6),Gの陳述書(乙4,23の1)にも同旨の記載がある。
  他方,原告らは,昭和50年当時は,レコード会社がプロモーションの
ためにアーティストの映像を撮るという考えはなかったと主張し,原告Aの本人尋
問の結果及び陳述書(甲27),Fの陳述書(甲5),株式会社ワーナーパイオニ
アの洋楽部制作課長であったNの陳述書(甲12)にも同旨の記載がある。
  昭和50年当時,洋楽では既にアーティストの映像を用いたレコードの
宣伝がされていたこと(乙6,13),昭和50年には,家庭用ビデオテープレコ
ーダーが販売されていたこと(乙11),本件作品が全国で多数回テレビ局で放送
されていることなどの事実に照らせば,昭和50年当時にレコード会社がプロモー
ションのために映像を撮ることは,あり得ないこととはいえないと解される。そし
て,キャロルのメンバーであるBもプロモーションのために撮影を行うことを認識
していたこと(乙20),LPレコードが発売されたこと(乙7),本件作品が日
本フォノグラムを通じて,全国で多数回テレビ放送されていること(甲40)など
からすれば,少なくとも日本フォノグラムの側は,LPレコードのプロモーション
に使用するつもりであったものと推認される。
  他方,原告Aが,前記のように自らTBSへ本件作品を売り込んでいる
ことからすると,原告Aは,日本フォノグラムが本件作品をプロモーション用に使
用するつもりであったことを知らなかったものと推認される。そして,原告Aが述
べるように,同原告が撮影を思い立ち,Gないしバウハウスや日本フォノグラムに
許諾を求めたのか,Gを始めとする被告側関係者が述べるように,バウハウスが原
告Aに撮影を依頼したのかを,直ちに確定することはできない。
  したがって,原告AとG及び日本フォノグラムとの間には,認識に差が
あるままに,原告Aにおいて解散コンサートを撮影することだけを合意して,撮影
が行われたのではないかとも推測されるが,いずれにせよ,原告Aが本件作品の企
画段階から完成に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の全体的形成に創作的
に寄与したことを左右するに足りない。
イ 撮影,編集の段取りについて
(ア) 被告は,Gが原告会社に撮影を依頼した旨主張し,日本フォノグラ
ムの社員Oの陳述書(乙1)にも,日本フォノグラムが原告会社に撮影を依頼し,
日本フォノグラムの指示に従って,原告会社が撮影編集した旨の記載がある。
  しかしながら,Oは,本件作品が撮影された昭和50年4月に日本フ
ォノグラムに入社したばかりの新入社員であって,解散コンサートでチーフカメラ
マンを務めたPも舞台監督を務めていたQも,撮影現場で日本フォノグラムが何か
指示したことは全くないし,Oが解散コンサートの撮影に立ち会っていたことの記
憶もないと述べており(甲10,11),Oのような新入社員が撮影に関して何ら
かの指示を出せるような立場にいたとは考えにくい。
  また,Oは,原告Aが,ステージの前後に固定した2台のカメラと移
動する2台のカメラが捉える合計4つの映像から1つを選択し,編集する等の作業
を行った旨述べるが(乙1),次のaないしcに照らし,措信し難い。
a 当時の撮影状況について,カメラは,ステージ後方ドラムスの後の
イントレの上に固定カメラ1台と舞台の上に手持ちカメラ1台,客席の中のイント
レの上に固定カメラ2台の陣容であったことは,当時の写真からも客観的に明らか
であり(甲24ないし26),Oの陳述書に記載されているカメラの陣容は誤って
いること。
b 本件作品は,そもそも2インチテープに録画されたものであるとこ
ろ,昭和50年当時の2インチVTR録画機は,大きくて1台の重量は数トンもあ
る上高価であり(甲30,31),これを4台も手配して,4台のカメラの映像を
それぞれ別の2インチVTR録画機に収録することは不可能であったこと(甲2
7)。
c テープに収録された画像は,映画フィルムのようには目で見ること
ができないので,編集するにはテープに記録されたタイムコードを介して行わなけ
ればならないが,2インチVTR時代にはタイムコードは実用化されておらず,そ
のような編集は全く不可能であったから(甲32),当時は4つの映像を編集室に
おいて1つに編集する方法自体が開発されておらず,4台のカメラで別々に録画し
たコンサート映像を編集することはできないこと(甲27)。
(イ) なお,被告は,撮影終了後,マスターテープは日本フォノグラムが
買い取って保管し,原告らから本件作品のマスターテープの引渡しを要求されたこ
とはない旨主張し,Oの陳述書(乙1)及びGの陳述書(乙4,23の1)にも,
同旨の記載がある。
  しかしながら,Gが撮影テープを原告Aから買い取ったことの裏付け
であるとするメモ(乙23の2)は,何のビデオかも特定されておらず,不明確な
ものであること,また,原告Aは,後述のとおり,その後,TBSにテープを持ち
込んで放映してもらうよう交渉し,TBSの指示によりCMを入れるための編集作
業をしているのであるから,すべての権利をGに譲渡していたとは考えられないこ
とからすれば,被告関係者の上記陳述は,直ちに措信し難い。上記陳述は,原告A
がTBS用のテープを編集し終わった後で,地方番販用のテープを日本フォノグラ
ムに引き渡した事実と混同している可能性を否定できない。
(ウ) よって,原告らの主張どおり,撮影及び編集作業は,原告ら主導で
行われ,日本フォノグラムは,ほとんど関与しなかったと認められる。
  なお,Gは,クールズを撮影するなどのアイデアをGが提供したと陳
述するが(乙4),たとえそうであったとしても,それは単にアイデアを提供した
だけであり,撮影を日本フォノグラム又はGが主導して行っていたことにはならな
い。また,Gが行ったという打合せ等は,解散コンサートの主催者としての決定及
び協力であり,著作物たる本件作品の製作を主導して行っていたことにはならな
い。
ウ TBSでの放送について
  被告は,日本フォノグラムが働きかけて本件作品がTBSで放送された
旨主張し,Gの陳述書(乙23の1)及びHの陳述書(乙6)にも同旨の記載があ
る。
  しかしながら,当時TBSのプロデューサーであったJの陳述書(甲
3,8)及び当時TBSの編成兼務で「ギンザNOW」のプロデューサーをしてい
たKの陳述書(甲4,9)には,日本フォノグラムでキャロルを担当していたHか
らもUからも,同人らに対して何らの交渉や連絡はなかったことが記載されている
ことに照らし,G及びHの上記陳述は信用できない。また,TBSと原告会社の契
約書(甲39)が存在することからすると,TBSに本件作品を持ち込んで放映し
てもらったのは,原告会社であり,放送権料もTBSから原告会社へ支払われてい
ると認められる。
エ 費用の負担について
(ア) 被告は,本件作品製作のための費用はGが負担し,日本フォノグラ
ムが原告会社に支払った旨主張し,Gの陳述書(乙4,23の1),Mの陳述書
(乙5)及びHの陳述書(乙6)にも同旨の記載がある。
  しかしながら,日本フォノグラムが撮影費用として200万円を原告
会社に支払ったことについては,原告Aは否認しており,これを認めるに足りる客
観的な証拠はない。むしろ,前記認定のとおり,原告Aが日本フォノグラムに相談
することなく,TBSに本件作品を持ち込み,TBSにより放送されて150万円
の対価の支払も受けていることからすると,原告Aが本件作品の撮影費用を負担し
ており,それを回収するためにTBSに本件作品を持ち込んだとも推測できる。
  なお,原告Aは,妻から借金をするなどして本件作品の製作に要した
約400万円を負担した旨供述するが(原告本人),原告会社が本件作品の製作費
をすべて負担したと認めるに足りる客観的な証拠があるわけではない。
(イ) また,前記1(1)アのとおり,解散コンサートは,Gが企画し,バウ
ハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を行い,コンサート費用一式の支払
をしたものである。しかし,これは,あくまでもコンサートの主催に関する費用で
あり,クールズのオートバイ走行やファンへのインタビュー等が含まれた本件作品
の製作の費用とは異なるものであるから,バウハウスが,解散コンサートの運営に
関する費用の支払をしたことをもって,本件作品の製作に関する費用をすべて日本
フォノグラム又はバウハウスが負担したとまでは認められない。
(ウ) このように,費用の負担に関しては,原告会社の側も日本フォノグ
ラム又はバウハウスの側もすべての費用を負担したとまではいえない。
2 争点(1)(著作者及び著作権者)について
(1) 本件作品の著作者
  著作権法16条は,「映画の著作物の著作者は,・・・(中略)・・・制
作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的
に寄与した者とする。」と規定している。
  本件においては,前記1で認定したとおり,原告Aは,本件作品の企画段
階から完成に至るまでの全製作過程に関与し,本件作品の監督を務め,撮影機材等
の手配をし,クールズを撮影することやファンのインタビューを入れることなど作
品の内容を決定し,撮影,編集作業のすべての指示を自ら行っており,本件作品の
「全体的形成に創作的に寄与した者」と認められる。
  したがって,本件作品の著作者は,原告Aである。
(2) 著作権法15条(職務著作)の主張について
 被告は,本件作品は,日本フォノグラムの職務著作であると主張する。
ア 著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮
監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが
法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物
の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作
者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」である
ことを要する。そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかで
あるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の「法人等の業務に従事する
者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたとき
に,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその
者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態
様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮
して,判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第216
号同15年4月11日第二小法廷判決・裁判集民事209号469頁)。
イ 日本フォノグラムと原告Aとの間には,雇用関係は認められない。そこ
で,原告Aが日本フォノグラムの指揮監督下において労務を提供するという実態に
あり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるか
どうかを検討する。
 前記1(3)アのとおり,原告AとG又は日本フォノグラムとの間に,本件
作品の撮影をすることについて合意があったことは認められるが,G又は日本フォ
ノグラムが原告Aに撮影を委託したものであるのか,原告AがG又は日本フォノグ
ラムに撮影の許可を求めたものであるのかは,明確には認定できない。
 しかし,仮にG又は日本フォノグラムが原告Aに撮影を委託したもので
あったとしても,前記1(1)イ及び1(3)イで認定したとおり,本件作品の内容の決
定,撮影,編集等は,すべて原告A又は原告会社によって行われ,日本フォノグラ
ムは製作に全く関与していなかったこと,前記1(1)ウで認定したとおり,原告A
は,本件作品を日本フォノグラムに相談なく,TBSと交渉して放送に至ったこと
からすると,本件作品の製作に関して,原告Aは日本フォノグラムの指揮監督下に
あって,日本フォノグラムの手足として撮影だけを担当したものとはいえず,原告
Aと日本フォノグラムは,映画製作会社とレコード会社の対等な契約関係を前提と
して,本件作品の撮影を行ったものであると認められる。
 なお,日本フォノグラムから原告Aに本件作品に関し支払った金銭があ
るか否かは明らかでないが,仮に撮影代金が支払われているとしても,パビックへ
の支払など,撮影に関する支払は,すべて原告A又は原告会社から行われているこ
とは,前記1(1)カ認定のとおりであるから,上記認定を左右するに足りない。
 したがって,原告Aは,日本フォノグラムの「業務に従事する者」には
該当しない。
ウ 原告Aが「業務に従事する者」に該当しないことに加えて,本件作品
が,日本フォノグラムの名義の下に公表されたものではないこと(甲38,検甲
1,2)に照らしても,本件作品が日本フォノグラムの職務著作であるとの主張
は,理由がない。
(3) 本件作品の著作権の帰属
ア 著作権法29条1項は,「映画の著作物・・・(中略)・・・の著作権
は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束
しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と規定している。そして,同法2
条10号は,映画製作者とは,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をい
う。」と規定している。
 著作権法29条が設けられたのは,①従来から,映画の著作物の利用に
ついては,映画製作者と著作者との間の契約によって,映画製作者が著作権の行使
を行うものとされていたという実態があったこと,②映画の著作物は,映画製作者
が巨額の製作費を投入し,企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作
物であること,③映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し,それら
すべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになるこ
となどを考慮すると,映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属するとするのが相
当であると判断されたためである。
 著作権法2条10号の文言と上記の趣旨からみて,「映画製作者」と
は,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義
務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的
な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。
イ 前記(2)イで認定したとおり,仮に日本フォノグラム又はバウハウスのG
が原告Aに本件作品の撮影を委託したものであったとしても,原告Aは,日本フォ
ノグラム又はバウハウスの指揮監督下にはなく,日本フォノグラム又はバウハウス
と対等な契約関係にあったものである。
  そして,前記1(1)ウで認定したとおり,原告会社は,本件作品を日本フ
ォノグラムに相談することなく,TBSと交渉して放送に至っており,本件作品の
納品先は日本フォノグラム又はバウハウスではなく,TBSであったと考えられる
こと,TBSとは,対等に契約を締結して報酬を受け取っていることが認められ,
TBSでの放送後に日本フォノグラムが本件作品を各地方で多数回放映しているこ
とについては,原告Aが地方番組販売権を日本フォノグラムに譲渡したと供述して
いること(原告本人)と矛盾しない。
  さらに,前記1(1)カで認定したとおり,仮に最終的には日本フォノグラ
ムから原告Aに撮影代金が支払われていたとしても,パビックへの支払など,撮影
に関する支払は,すべて原告会社が行っていること,また,前記1(1)イ及び1(3)
イで認定したとおり,解散コンサートを主催し,開催費用を負担したのはバウハウ
スのGであっても,本件作品に係るパビックへの支払,機材調達等,撮影に関する
事項は,対外的手続も含め,すべて原告会社が行っていると考えられること,本件
作品の撮影方針等には,日本フォノグラム及びバウハウスは,全く関与していない
ことが認められる。
  これらの事実からすると,原告会社は,①特にTBSとの関係におい
て,本件作品に関する権利が帰属する主体として契約を締結し,放送権料に関する
経済的な収入の主体となっており,②パビックに対しては,撮影を発注する主体と
して契約を締結し,撮影費用等に関する経済的な支出の主体となっており,③日本
フォノグラムに対しても,本件作品の著作権が帰属する主体として,地方番組販売
権を日本フォノグラムに譲渡したものである。したがって,本件において,映画の
著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属す
る主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支
出の主体ともなる者に該当するのは,原告会社であると認められ,日本フォノグラ
ム又はバウハウスではない。
  よって,本件作品の映画製作者は,原告会社である。
(4) 著作権の譲り受けについて
  被告は,昭和50年4月18日にテープの編集を終え,完成版のビデオを
原告らがGに引き渡し,著作権がGに譲渡されたと主張する。
  しかしながら,前記1(3)イ(イ)認定のとおり,裏付けとなるメモは,何の
ビデオかも特定されておらず,不明確なものであること,その後,原告AがTBS
にテープを持ち込んで放映してもらうよう交渉していること,TBSの指示により
CMを入れるための編集作業を原告Aが行っていることからして,原告らがGにテ
ープを引き渡した事実があったとは認められない。
  したがって,被告の上記主張は理由がない。
(5) その余の被告の主張について
ア 被告は,当時,キャロルと専属契約を締結していたのは,日本フォノグ
ラムであり,日本フォノグラムのみが,適法に撮影を行い,その映像を固定する権
限を有していたと主張する。
  確かに,日本フォノグラムとキャロルのメンバーは,昭和47年11月
10日,専属契約を締結しており(乙8),その第5条には,レコーディングされ
た原盤の所有権及び録音物,録画物に関する著作権法上のすべての権利は日本フォ
ノグラムに帰属すると記載されていた。また,日本フォノグラム及びGとBとは,
昭和50年5月15日,キャロルの解散コンサートのレコードに関する契約を締結
しており(乙7),第4条には,日本フォノグラムは,録音物又は録画物を発売し
た場合,GとBに対し,原盤製作協力印税(印税率3.75%)を支払うとされ,
第8条には,本契約に基づき製作された原盤の所有権,原盤権及び著作権法上のす
べての権利は日本フォノグラムに帰属するものとするとされている。
  しかしながら,そもそも上記各契約が,解散コンサートそのもののみな
らずクールズのオートバイやファンのインタビューをも内容に含む,ドキュメンタ
リー映画たる本件作品を直接の対象としているか否かは必ずしも明確ではないか
ら,これらの契約の存在をもって,日本フォノグラムが本件作品の映画製作者であ
ることの根拠とはいえない。仮に,Bや日本フォノグラムが,上記各契約により本
件作品の著作権等の権利が日本フォノグラムにあることを前提としていたとして
も,上記各契約は,あくまで日本フォノグラムとBないしキャロルのメンバーとの
契約であって,本件作品の著作権の原始的な帰属主体である原告会社の関与しない
ところで,本件作品の著作権の帰属主体が第三者の合意によって決められるもので
はない。
  また,Bと日本フォノグラムは,昭和52年10月31日,Bの実演に
係るキャロルのフィルムを上映又は第三者に許諾するときは,Bと協議する旨の覚
書を締結したが(乙3),その中で,本件作品は,日本フォノグラムの制作・著作
であることを確認している。
  しかしながら,Bの行動は,必ずしも原告Aの意を受けたものであると
はいえないし,当事者間の意識にかかわらず,著作権の原始的な帰属主体は著作者
である(著作権法17条)から,客観的に著作者としての要件を満たさない者につ
いて,著作権が原始的に帰属することはあり得ず,これらの事実のみをもって,日
本フォノグラムが著作権者であると認めることはできない。
イ 被告は,日本フォノグラムが地方のテレビ局に放送させ,本件ビデオを
販売したことをもって,著作権を有する根拠であると主張する。
  しかしながら,地方のテレビ局による放送については,前記認定のとお
り,原告会社が日本フォノグラムに対し本件作品の著作権のうち,地方番組販売権
を譲渡したものであるから,著作権帰属の根拠とはなり得ない。また,本件ビデオ
の販売についても,後記3のとおり,原告らが許諾を与えていたことに照らせば,
日本フォノグラムが著作権を有することの根拠とはなり得ない。
ウ したがって,本件作品の著作権は,著作権法29条により,原告会社に
帰属すると認められる。
(6) 小括
  以上によれば,本件作品の著作者は原告Aであり,著作権者は原告会社で
ある。
3 争点(2)(本件ビデオ)について
(1) 争いのない事実及び証拠によれば,次の事実が認められる。
ア 本件ビデオは,昭和59年に編集販売されたものであるが,本件ビデオ
の編集作業は,原告Aにおいて,自らが編集をやらないのであれば,本件ビデオの
販売には同意しないと主張して,原告Aが行ったものである。編集作業には,原告
会社が日本フォノグラムに地方番販用に引き渡したテープと,原告会社が持ってい
たTBSで放送したテープを使用した(原告本人)。
  本件ビデオを発売する際,編集が必要だった理由は,キャロルの親衛隊
として参加していた者の中に本件ビデオにはしてほしくないと言う者がいたり,他
のレコード会社の専属アーティストになっていた者が登場する部分を削除する必要
があったからである。写真についての利用許諾を得たのは日本フォノグラムである
(乙1)。
イ 本件ビデオには,本件作品の映像に加えて,「涙のテディーボーイ」と
「やりきれない気持」の映像が加えられているが,これも原告Aが撮影して,加え
たものであり(TBS放送前のテープ(検甲1)には入っていたもの),本件作品
から大きく変わったわけではない。本件ビデオは,別紙2及び3を比較して明らか
なとおり,本件作品と曲の順番が変動し,ファンのインタビューが多少カットさ
れ,クールズの走行シーンが多少カットされ,Vのモノローグがカットされ,とこ
ろどころにキャロルの写真が挿入されている。また,この編集作業で,音源をモノ
ラルからステレオに差し替えられた。なお,本件ビデオの内容は検甲第3号証と同
じである。
ウ 本件ビデオのパッケージには,「制作・著作・発売元日本フォノグラム
株式会社」と記載されている(乙1)。本件ビデオを発売するときの歌詞カードの
クレジットは,ディレクターが原告A,プロデュースが原告会社となっている(甲
6)。
(2) 著作権侵害の成否
  著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させ
るに足りるものを再製することをいうと解すべきである(最高裁昭和50年(オ)
第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁)。そし
て,複製には,表現が完全に一致する場合に限らず,具体的表現に多少の修正,増
減,変更等が加えられていても,表現上の同一性が実質的に維持されている場合も
含まれるというべきである。
  本件ビデオは,前記(1)イのとおり本件作品を編集し直したものであり,具
体的表現に多少の修正,増減,変更等が加えられているものの,表現上の同一性が
実質的に維持されていると評価することができるので,本件作品の複製に該当す
る。
  他方,前記(1)ア記載のとおり,本件ビデオの編集作業は,原告Aが,編集
を原告A自らにやらせないのであれば,本件ビデオの販売には同意しないと主張し
て,その結果自ら編集作業を行ったものである。
  原告Aも,その本人尋問において,ビデオを作成して販売することに関し
ては,Bがバーターで話を決めてきたことなので,納得していると供述していると
おり,本件ビデオについては,原告A又は原告会社は,本件作品の複製物であるこ
とを認識した上で,複製販売を日本フォノグラムに許諾していたものと認められ
る。
  したがって,本件ビデオの複製頒布については,許諾に基づくものであ
り,著作権侵害とはいえない。
(3) 原告会社は,対価が支払われることを条件にして,本件作品を有償でビデ
オ化することを許諾したのであるから,対価が支払われなければ著作権侵害に該当
すると主張する。  
  しかし,原告Aは,このような条件を日本フォノグラムに対して提示して
おらず,対価を支払うとの合意がされた証拠はない。その後,本件ビデオ発売後平
成14年末まで,原告会社が日本フォノグラムに対しても被告に対しても,本件ビ
デオについて著作権使用料の請求をしていなかったことに照らすと,原告会社は,
日本フォノグラムに対し,本件作品を無償で本件ビデオとして発売することを許諾
したものと認められる。
  なお,仮に対価の支払の条件を留保した上での許諾であったとしても,著
作権法63条2項で許諾を得た者は,「その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内
において」,その許諾に係る著作物を利用することができると規定されているとこ
ろ,対価の支払は,「条件」には当たらないと解すべきであるから,利用者が対価
を支払わない場合であっても,その利用が著作権侵害になるわけではない。
  したがって,原告らの本件ビデオに関する主張は,理由がない。
(4) 小括
  以上のとおり,本件ビデオは,本件作品に係る原告会社の著作権を侵害す
るものとはいえない。
4 争点(3)(本件DVD)について
(1) 争いのない事実及び証拠によれば,次の事実が認められる。
  本件DVDは,本件ビデオと映像は同一である。そして,本件DVDのク
レジットは,「DirectorA,ProducedbyTELLDIRECTOR'SFAMILY,CNIPPON
PHONOGRAMCO.,LTD.,PresentedbyMUSICTOKYOCOMPANY」となっている(検甲
3,弁論の全趣旨)。
(2) 著作権侵害の成否
  本件DVDの内容は,本件ビデオと同一であるから,本件作品の複製に該
当する。
  被告は,原告らが本件ビデオ発売時に許諾したことにより,本件DVDの
発売も許諾したことになると主張する。
  著作権法63条2項は,前項の許諾を得た者は,「その許諾に係る利用方
法及び条件の範囲内において」,その許諾に係る著作物を利用することができると
規定している。上記「利用方法及び条件」には,例えば,文庫本としての出版とか
カセットテープへの録音等の利用形態も含まれ,著作権者が一方的に付することが
できるものである。そして,許諾によって得られる利用の範囲は,取引慣習や社会
通念等を前提にして,著作権者の許諾の意思表示を合理的に解釈して判断すべきも
のである。 
  本件DVDについては,本件ビデオと内容は同じであっても,本件ビデオ
の複製の許諾がされた昭和59年当時,原告会社ないし原告Aが,約20年後にキ
ャロルのCDの販売に伴い,日本フォノグラムから営業譲渡を受けた被告によって
DVDが販売されることをも念頭に置いていたと解することはできない。よって,
媒体が変わることにより上記「利用方法及び条件」が変わることになるから,本件
DVDの製造販売に際しては,再び原告会社の許諾が必要であるにもかかわらず,
被告は許諾を得なかった。
(3) 小括
  したがって,被告が,原告会社の許諾なくして,本件DVDを複製,頒布
した行為は,複製権侵害に該当する。
よって,本件DVDの複製,頒布の差止請求は理由がある。
5 争点(4)(特典DVDと本件プロモーション映像)について
(1) 争いのない事実及び証拠によれば,次の事実が認められる。
 特典DVDは,平成15年に発売されたCD「キャロル/ザ★ベスト」の
初回発売分に特典として付されていたものである。
本件作品から使用された曲は「ファンキー・モンキー・ベイビー」1曲の
みであるが,映像としては,本件作品のうち,解散コンサートの炎上シーン,クー
ルズ走行シーン,キャロルの車上シーン,インタビューシーン,演奏シーンの中で
も印象的なシーンがアトランダムに流れ,ところどころに写真が挿入され,めまぐ
るしくオーバーラップしながら,上記シーンが切り替わるものである。時間として
は約4分30秒と短いものの,本件作品の中で特徴的な映像が使用されていること
から,特典DVDに接した者は,元の映像が本件作品であることは容易に看取で
き,本件作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる(検甲4)。
  また,特典DVD及び本件プロモーション映像には,原告Aの氏名は表示
されていない。
(2) 著作権侵害の成否
  本件作品に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつ
つ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表
現することにより,これに接する者が本件作品の表現上の本質的な特徴を直接感得
することができるものを創作した場合には,本件作品の翻案に当たる(最高裁平成
11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号83
7頁参照)。
  前記(1)によれば,特典DVDは,本件作品に依拠し,かつ,その表現上の
本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,
新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が本件作品の
表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものということができる。よっ
て,原告らの許諾を受けることなく作成した特典DVD及びこれを放映した本件プ
ロモーション映像は,いずれも本件作品に係る原告会社の翻案権及び原告Aの同一
性保持権を侵害するものである。
  また,特典DVD及び本件プロモーション映像には,原告Aの氏名は表示
されていないから,原告Aの氏名表示権を侵害するものといえる。
(3) 被告は,本件作品がプロモーション用に製作されたものである以上,原告
らは当初から了解済みであったと主張する。
  しかしながら,少なくとも原告らとしては,本件作品がプロモーション用
に製作されるとの認識はなかったことは,前記認定のとおりである。また,仮にプ
ロモーション用の製作であったとしても,当然に他人による改変を前提としている
とはいえない。原告Aは,他人によって改変されることを嫌って,本件ビデオ作成
時に自ら編集を行ったほどであるから,原告Aの特典DVDに対する許諾を推認す
ることもできず,他に原告らの許諾を認めるに足りる証拠はない。
(4) 小括
  以上のとおり,特典DVD及び本件プロモーション映像は,本件作品に係
る原告会社の翻案権並びに原告Aの同一性保持権及び氏名表示権を侵害するもので
ある。
よって,特典DVDの複製,頒布の差止め及び廃棄請求並びに本件プロモ
ーション映像の利用の差止め及びそのマスターテープの廃棄請求は,理由がある。
6 争点(5)(損害)について
(1) 本件ビデオについて
 前記3認定のとおり,原告会社は,日本フォノグラムに対し,本件ビデオ
の製作販売について,許諾をしたと認められるから,本件ビデオの製作販売行為に
よる損害賠償請求には理由がない。
(2) 本件DVDについて
ア 本件DVDを複製,頒布した被告の行為は,原告会社の著作権を侵害す
るものであり,上記侵害については,被告に少なくとも過失があると認められるか
ら,被告はこれによって原告会社が被った損害を賠償すべきである。
イ 著作権法114条2項適用の可否
(ア) 著作権法114条2項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にあ
る利益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益
を得られる蓋然性があるという前提に基づき,侵害者が侵害行為により得た利益の
額をもって著作権者の逸失利益と推定する規定であると解される。
  したがって,同項の適用が認められるためには,著作権者が侵害者と
同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要である。
(イ) 本件については,以下の事実が認められる。
a 有限会社カムストックと原告会社は,昭和58年7月1日,「●●
●●ヒストリー」の原盤を株式会社シービーエス・ソニーに提供し,ビデオディス
クに複製し販売頒布せしめる目的をもって,株式会社ワーナー・パイオニアに対し
てビデオカセットによる上記原盤に基づき製作された商品を販売委託する目的で共
同製作を行う旨の契約を締結した(甲52,56)。同契約においては,原盤製作
費,ビデオカセットの製造に要する費用は,有限会社カムストックと原告会社がそ
れぞれ50%の割合で負担している。
b 株式会社音と原告会社は,平成13年11月26日,Bの実演によ
る「THESTARINHIBIYA」の原盤を株式会社ソニー・ミュージック・エンタテイン
メントに提供し,DVDによる上記原盤に基づき製作された商品を販売委託をする
目的をもって共同製作を行う旨の契約を締結した(甲51,57)。同契約によれ
ば,原盤製作費もDVD製造に要する費用も,原告会社と株式会社音がそれぞれ5
0%の割合で負担している。
c 原告会社は,今後も株式会社音と共同製作を行う旨の申込みをした
(甲54,55)。
d 原告会社は,映像作品の企画製作を行う会社であり,映像をDVD
化することはさほど困難な作業ではない。
 以上の事実からすれば,原告会社は,他社と契約すること等により,
本件作品を利用してDVDを製造販売する方法を有しており,被告と同様の方法で
著作物を利用し,同様の利益を得られる蓋然性があったものと認められる。
(ウ) 被告は,原告会社が行っているのは,作品の製作までで,その後の
発売業務や費用の負担は,株式会社音や有限会社カムストックが行っており,原告
会社は事業主体ではないと主張し,株式会社音の代表取締役Rの陳述書(乙12
2)にも,それに沿う記載がある。
  しかし,原告会社が自己の作品をDVD化して製造販売し,著作権料
のみならず,その販売利益を享受している事実がある以上,原告会社は,本件作品
についてもこれを利用し,被告と同様の利益を得られる蓋然性があったということ
ができ,発売に関して原告会社が実際に行う業務の内容や費用の負担割合などがど
のようなものであろうと,著作権法114条2項の適用に障害はないというべきで
ある。
(エ) 被告は,解散コンサート収録時,キャロルと日本フォノグラムが専
属契約を締結しており,原告会社はキャロルの実演を収録する権限やそこに収録さ
れている実演についての著作隣接権を有していなかったから,原告会社が本件DV
Dを製作販売することはできないと主張する。
  前記2で認定したとおり,日本フォノグラムは,Gを通じて解散コン
サートを撮影しその映像を収録することを原告会社に許諾していたと認められるか
ら,許諾を得て収録した映像の著作権は,映画製作者たる原告会社に帰属するので
あり,原告会社が著作権を有する本件作品を自らDVD化して販売することに何ら
問題はない。
そして,映画の著作物である本件作品は,キャロルの実演を録音し,
録画する権利を有する日本フォノグラムの許諾を得て録音され,録画されたもので
あり,キャロルの実演については,著作権法91条2項,95条の2第2項によ
り,実演家の録音権,録画権及び譲渡権が及ばないから,原告会社が本件作品の複
製物であるDVDを製作販売することが著作権法上も可能である。
  また,仮にDVDの販売にキャロルの許諾が必要であるとしても,キ
ャロルと日本フォノグラムとの専属契約の締結は,原告会社がDVD販売について
キャロルからの許諾を得ることにつき事実上の障害とはなり得るものの,上記専属
契約は,永久に存続するものではないし,現に,キャロルのメンバーであるC及び
Dが原告会社に許諾をしたように(甲33ないし35),キャロルが原告会社に許
諾を与えることもあり得るのであるから,原告会社によるDVDの販売が,法律上
絶対に不可能というわけではない。
  よって,キャロルと日本フォノグラムとの専属契約の存在は,本件作
品の著作権者である原告会社との関係では,著作権法114条2項の適用の可否を
決定するものとはいえず,損害額の算定において,原告会社が被告と同様の方法で
著作物を利用して利益を得られる蓋然性がないことの根拠とはならない。
(オ) 以上のとおりであるから,原告会社の本件DVDに関する損害は,
著作権法114条2項に基づいて算定することとする。
ウ 被告の得た利益の額
(ア) 売上額
  本件DVDの1枚当たりの税抜き小売価格は3500円である(争い
のない事実)。卸売価格は,小売価格3500円に75%を乗じた2625円であ
る(乙118,119)。原告らは,売上げについても消費税を加算して計算すべ
きであると主張するが,売上げについての消費税は,被告の利益にならないことが
明らかであるから,売上げに含めて算定すべきではない。なお,費用についての消
費税は,それだけ被告が現実に支出しているのであるから,費用に含んで算出すべ
きである。
 本件DVDの販売枚数は,8万9284枚であり(争いのない事
実),268枚が返品された(乙118)。原告会社は,返品分を控除すべきでな
いと主張するが,著作権法114条3項による場合と異なり,侵害者の利益の額を
損害の額と推定する同条2項においては,返品分によって利益が生じていないので
あるから,これを売上げに計上すべきではない。
 したがって,本件DVDの売上げは,卸売価格2625円に返品分を
控除した販売枚数8万9016枚(8万9284枚-268枚)を乗じた2億33
66万7000円となる。
(3500円×75%)×(8万9284枚-268枚)=2億336
6万7000円
(イ) 控除すべき費用
 著作権法114条2項において,侵害者が「その侵害の行為により利
益を受けているとき」に損害の額を推定される「利益の額」とは,売上額から,侵
害者が侵害品の製造販売を行うために,行わなかった場合に比べて追加的に必要と
なった費用を控除した額を指すものというべきである。そこで,控除すべき費用額
を検討する。
a リベート(販売手数料)        2442万2370円
 リベート(販売手数料)2442万2370円(乙118)を控除
すべきことについては,当事者間に争いがない。
b 製造費                1394万4432円
 製造費1394万4432円を控除すべきことについては,当事者
間に争いがない。
c マスタリング費用             63万0000円
 マスタリング費用63万円を控除すべきことについては,当事者間
に争いがない。
d 印税                 6281万8917円
(a) B分の印税55万5418円(乙44),D分の印税50万9
133円(乙45),I分の印税50万3991円(乙46),C分の印税48万
8562円(乙47),株式会社ミューコム分の印税106万1555円(乙4
8)を控除すべきことについては,当事者間に争いはない。
(b) 原告会社は,株式会社音に対する印税が不当な支出であると主
張する。しかしながら,日本フォノグラムが本件ビデオを発売する際に,Bとキャ
ロルの楽曲やフィルムを使用する場合には,Bの許諾が必要である旨の合意をし
(乙2の2,乙3),日本フォノグラムを承継した被告が,B所属事務所である株
式会社音に対し,実際に4884万3018円の印税を支払ったこと(乙43)に
照らせば,本件DVDを製作販売するのに必要な費用であると考えられるから,同
支出4884万3018円は,費用として控除されるべきである。
(c) また,原告会社は,有限会社オークランドに対する印税につい
ても,不当な支出であると主張する。しかし,これは日本フォノグラムとGとの契
約に基づく原盤製作協力印税が根拠となり,オークランドがGから印税受取権を承
継したことによるものである(乙7,14)。そして,前記1(1)アのとおり,解散
コンサートは,Gが企画し,バウハウスがコンサートの運営に関する一切の業務を
行い,コンサート費用一式の支払をしたことからすれば,この原盤製作協力印税と
は,純粋な映像著作権料というよりは,Gがキャロルの解散コンサートを主催した
費用を回収するための方策とも考えられるから,原告会社が映像の著作権者として
本件DVDを製作販売する場合には不要になる費用であるとはいえない。したがっ
て,同支出も費用として控除されるべきである。
 そして,株式会社オークランドに対する本件DVDに関する印税
は,乙第49号証のうち,DVDと記載してある項目の786万5863円であ
る。
(d) 印税額は,上記(a)ないし(c)の合計5982万7540円
(55万5418円+50万9133円+50万3991円+48万8562円+
106万1555円+4884万3018円+786万5863円)に5%の消費
税を加えた6281万8917円である。
5982万7540円×1.05=6281万8917円
e 著作権印税              1663万3045円
 著作権印税とは,JASRACを通じて楽曲の作詞者,作曲者,編
曲者に支払う著作権使用料のことであり,1663万3045円を費用として控除
すべきことについては,当事者間に争いがない。
f 肖像使用                 21万0000円
 Sに対する肖像使用料21万円(乙34)を控除すべきことについ
ては,当事者間に争いがない。
g 宣伝販促費               734万4782円
(a) 宣伝販促費を控除すべきこと自体については,当事者間に争い
がない。
(b) 宣伝販促費の算定方法について,当事者間に争いがあるが,宣
伝販促費に関する証拠(乙50ないし90,101ないし117)のうち,明らか
に本件DVD用又は本件CD用のいずれかであると認められるもの以外は,合計額
を本件DVDと本件CDの総売上比で按分して算定するのが相当である。本件DV
Dと特典DVD付きの本件CDは,同時期に発売されており,宣伝販促費も両者の
宣伝のために使用されたと考えられるからである。
なお,乙第116号証については,証拠上本件DVD又は本件C
Dのための宣伝販促費であるとは認められないので,控除すべき費用として認めら
れない。
(c) 上記証拠のうち,本件CD(UMCK9525)用であること
が証拠そのものから認められるものは,乙第63号証,乙第65及び第66号証の
一部,乙第83,101,106ないし115号証である。
(d) 本件DVD(UMBK1524)用であることが証拠そのもの
から認められるものは,乙第65号証(5万9595円×1.05=6万2574
円,円未満切り捨て),乙第66号証(7万9530円×1.05=8万3506
円,円未満切り捨て),乙第67号証(3万0694円),乙第74号証(2万1
000円),乙第80号証(1万0500円)の合計20万8274円である。被
告は,乙第101ないし105号証も本件DVD用の宣伝販促費であると主張する
が,これを認めるに足りる証拠上の記載はない。
(e) 上記証拠を除いた乙第50ないし62,64,68ないし7
3,75ないし79,81,82,84ないし90,102ないし105,117
号証は,本件DVDと特典DVD付きの本件CDのいずれの宣伝販促費かを判別す
ることができないので,その合計額1801万6592円を本件DVDと特典DV
D付きの本件CDの売上比で按分する。本件DVDの売上げは,前記(ア)のとお
り,2億3366万7000円{2625円×(8万9284枚-268枚)}で
ある。特典DVD付きの本件CDの売上げは,3億6380万3184円{228
6円×(16万1335枚-2191枚)}である(乙119。ただし,返品枚数
は被告の主張の限度で認める。)。したがって,上記合計額のうち,本件DVD分
は,次のとおり,704万6180円となる。
1801万6592円×2億3366万7000円/(2億336
6万7000円+3億6380万3184円)=704万6180円(円未満切り
捨て)
(f) 被告は,サンプル盤として581枚製造していることが認めら
れるので(乙32),前記bの製造費と同様に算定したサンプル盤の製造費9万0
328円は,宣伝販促費として控除する。
100円×581枚×1.05=6万1005円(ディスク代)
35円×581枚×1.05=2万1351円(ケース代,円未満
切り捨て)
145万9683円×581枚/11万1700枚×1.05=7
972円(円未満切り捨て)
6万1005円+2万1351円+7972円=9万0328円
(g) 本件DVDの宣伝販促費は,上記(d)(e)(f)を合わせた73
4万4782円とするのが相当である。
 20万8274円+704万6180円+9万0328円=734
万4782円
h デザイン費                 3万0114円
 本件DVDのジャケットのデザイン費については,文字入力・版下
代として3万0114円(乙92)を被告が支出したことが認められ,被告が本件
DVDの製造販売を行うために,行わなかった場合に比べて追加的に必要となった
費用と認められるから,これを控除すべきである。
 被告が主張する改版代8万0640円(乙91。7万6800円×
1.05)については,前記bの製造費のうちジャケット印刷代として含まれてい
る(乙33の別途新譜時改版代7万6800円と同じものと認められる。)ので,
費用としては斟酌されているから,再び控除することはしない。
i 搬送費                 615万0914円
 搬送費615万0914円を控除すべきことについては,当事者間
に争いがない(乙118)。
j ビクター手数料             490万7007円
 原告会社は,ビクター手数料は控除すべきでないと主張する。しか
し,被告はビクターと販売業務受委託契約を締結しており(乙120,121),
本件DVDの販売による売上げに直接の影響を及ぼしていると認められる。したが
って,前記に認定した本件DVDの売上げをあげるために必要な経費として,控除
すべきである。
 その金額は,490万7007円と認められる(乙118)。
k 部門費                        0円
 被告は,原告会社が本件DVDを製作販売するためには,新たな部
門費(人件費及び一般管理費)が発生するとして,控除すべきであると主張する。
しかし,人件費及び一般管理費は,被告の事業において日常的に発生しているもの
であり,本件DVDの製作販売特有の費用として生じたものではない。したがっ
て,費用としては控除すべきではない。
l 費用合計 
 上記aないしjで認められる費用を控除すべきであり,その合計
は,1億3709万1581円である。
(ウ) 寄与度
 本件DVDは,音源は日本フォノグラムから被告が承継したステレオ
音声を用いていることに争いはない。本件DVDは,ドキュメンタリー映画でもあ
るが,キャロルという人気の高いロックバンドの解散コンサートを記録したもので
あり,全編を通してキャロルの音楽が中心に据えられているといえる。したがっ
て,映像とともに音楽も重要な役割を占めているから,本件作品の寄与度は2分の
1とする。
(エ) 損害額 
 本件DVDの売上げ2億3366万7000円(前記(ア))から費用
合計1億3709万1581円(前記(イ))を控除した額に寄与度2分の1(前記
(ウ))を乗じた額が原告会社の請求できる利益賠償額となる。したがって,本件D
VDの製作販売による原告会社の損害は,次のとおり,4828万7709円とな
る。
(2億3366万7000円-1億3709万1581円)×1/2=
4828万7709円(円未満切り捨て)
(3) 特典DVDについて
ア 特典DVDを複製,頒布した被告の行為は,原告会社の著作権及び原告
Aの著作者人格権を侵害するものであり,上記侵害については,被告に少なくとも
過失があると認められるから,被告は,これによって原告会社が被った損害を賠償
すべきである。
イ 主位的請求について
 著作権法114条2項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利
益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得
られる蓋然性があることに基づく規定であると解される。
 特典DVDは,前記5認定のとおり,著作者である原告A及び著作権者
である原告会社に無断で本件作品の映像を切り貼りして作成したものであり,その
出来映えも原告らの意に沿うものではなく,原告Aは,著作者人格権侵害を主張
し,慰謝料の請求をしているほどである。そうすると,原告会社は,被告と同様の
方法で,自ら本件作品の映像を切り貼りして,特典DVDを製作することはあり得
ない。したがって,原告会社が特典DVDを利用して利益を得られる蓋然性は認め
られないから,著作権法114条2項に基づく損害の主張も認められない。
ウ 予備的請求について
(ア) よって,特典DVDの販売による損害は,著作権法114条3項に
基づき算定することとする。
(イ) 販売額
  特典DVD付きの本件CDは,これがないものよりも135円価格が
高く,著作権使用料の算定においても135円とみなされているから,特典DVD
の価格は135円とするのが相当である(乙93,94)。原告会社は,500円
であると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
  特典DVD付きの本件CDの販売枚数は,16万1335枚である
(乙119)。著作権法114条3項に基づく損害の算定にあたっては,翻案権を
侵害する特典DVDを複製した時点で,複製に関し受けるべき原告会社の損害は発
生しているのであるから,その後返品されたかどうかは損害額の算定に影響しな
い。
(ウ) 寄与度
  特典DVDには,本件作品を素材にした映像を使用した「ファンキ
ー・モンキー・ベイビー」と,本件作品とは無関係の映像を使用した「ルイジアン
ナ」の2曲が収録されているので,2分の1を乗じることになる。
  特典DVDの音源につき被告のものを使用していることは,当事者間
に争いがないので,映像部分に当たる本件作品の貢献度を2分の1として,これを
乗じることとする。
(エ) 著作権の行使につき受けるべき金銭の額
  原告らは,使用料の割合が25%であると主張し,権利元に支払う印
税率は,ビデオグラムの希望小売価格の20%から26%程度になるという陳述書
(甲36)が存在し,被告が株式会社音に対して支払っている印税率は20ないし
22%であることも認められる。しかし,原告らが主張する割合が映像部分の著作
権者が受けるべき金銭の割合として一般的であると認めるに足りる証拠はない。他
方,被告は,日本フォノグラムとGの契約(乙7)における原盤製作協力印税の割
合を根拠に,使用料の割合として2%が相当であると主張するが,前記原盤製作協
力印税は,あくまでも日本フォノグラムに著作権があることを前提として,解散コ
ンサートを主催したGへの経費の支払であると考えられるから,これを著作権使用
料の基準とすることはできない。
  上記の事情に前記1で認定した本件作品の製作経緯や,本件作品につ
いての原告ら,日本フォノグラム,Gらの関与の程度などを総合考慮し,原告会社
が受けるべき金銭の額は,売上げの10%と認める。
  したがって,特典DVDにつき,原告会社が著作権の行使につき受け
るべき金銭の額は,次のとおり,54万4505円となる。
 135円×16万1335枚×1/2×1/2×10%=54万450
5円(円未満切り捨て)
(4) 本件プロモーション映像による損害について
ア 本件プロモーション映像を放送,上映した被告の行為は,原告会社の著
作権及び原告Aの著作者人格権を侵害するものであり,上記侵害については,被告
に少なくとも過失があると認められるから,被告は,これによって原告会社が被っ
た損害を賠償すべきである。
イ 被告が,原告らの許諾を受けることなく,本件プロモーション映像をテ
レビ放映(スポット及び番組エンディングテーマとして使用),街頭大型ビジョン
上映,レコードショップ店頭上映,本社受付等での上映などを行うことによって,
本件DVD及び本件CDを宣伝し,本件DVD及び本件CDを販売したことは,当
事者間に争いがない。もっとも,放送ないし上映の正確な回数を認めるに足りる証
拠はないが,これにより原告会社に損害が発生したことは認められるから,著作権
法114条の5により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,その額を
30万円と認めるのが相当である。
なお,原告会社の主張する損害額を認めるに足りる証拠はない。
(5) 原告会社の損害
  したがって,原告会社の損害額は,次のとおり,4913万2214円と
なる。
4828万7709円+54万4505円+30万円=4913万2214

(6) 原告Aの慰謝料について
 原告Aは,本件作品の著作者であるにもかかわらず,被告により無断で本
件作品を改変され,その氏名を表示されることなく,特典DVDとして販売され,
本件プロモーション映像をテレビ放送等されたのであり,これによる精神的損害を
被ったと認められる。
 この著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害による慰謝料は,
本件に現れた一切の事情を勘案して,100万円と認めるのが相当である。
(7) 消滅時効について
 被告は,消滅時効を援用すると主張するが,損害として認められる本件D
VD及び特典DVDの販売を開始したのは,平成15年1月22日であり,本件訴
訟提起は,平成15年2月14日であり,消滅時効が完成しないことは明らかであ
るから,被告の上記主張は理由がない。
7 争点(6)(謝罪広告)について
 原告らは,名誉回復措置として謝罪広告を求めているが,財産権侵害を理由
に名誉回復措置を求める原告会社の主張は失当であるし,原告Aの著作者人格権の
侵害による損害は,前記慰謝料の支払で填補されており,これ以上に名誉回復措置
が必要であると認めるに足りる証拠はない。
 したがって,原告らの名誉回復措置請求は理由がない。
8 結論
  以上のとおりであるから,原告会社の請求は,①複製権,頒布権に基づく本
件DVDの複製・頒布の差止め,②翻案権に基づく特典DVDの複製・頒布の差止
め及び廃棄,③複製権,上映権,放送権に基づく本件プロモーション映像の利用の
差止め及びマスターテープの廃棄,④損害賠償として4913万2214円の支払
の限度で理由がある。
  原告Aの請求は,①同一性保持権,氏名表示権に基づく特典DVDの複製・
頒布の差止め及び廃棄並びに本件プロモーション映像の利用の差止め及びマスター
テープの廃棄,②損害賠償として100万円の支払の限度で理由がある。
  原告らのその余の請求は理由がない。
  担保を条件とする仮執行免脱宣言は相当でないから付さないこととして,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官   高  部  眞  規  子
    裁判官東  海  林     保
 
           裁判官   瀬  戸  さ  や  か
(別紙4)
売上げ     2億4608万9025円(3675円×8万9284枚×75%)
リベート      2442万2370円
製造費       1394万4432円
マスタリング費用    63万0000円
印税         611万0036円
著作権印税     1646万3221円
肖像使用        21万0000円
宣伝販促費      759万5273円
搬送費        615万0914円
費用合計      5110万3876円(リベートは除く。)
純利益(売上げ-リベート-費用合計) 1億7056万2779円
(別紙5) 本件DVD      
 
売上げ    2億3437万0500円(3500円×75%×8万9284枚)
返品        70万3500円(3500円×75%×268枚)
純売上げ   2億3366万7000円
リベート    2442万2370円
製造費1394万4432円
原盤代10万5000円(何枚製造しても)
ケース代311万5560円(35円×8万9016枚×1.05)
ディスク代890万1600円(100円×8万9016枚×1.05)
ジャケット印刷代116万3251円(145万9683円×8万9016枚/
11万1700枚×1.05)
マスタリング費用  63万0000円
印税      6281万8917円
B        55万5418円
D        50万9133円
I        50万3991円
C        48万8562円
株式会社ミューコム  106万1555円
株式会社音      4884万3018円
有限会社オークランド 786万5863円
(合計5982万7540円×1.05=6281万8917円)
著作権印税   1663万3045円
肖像使用      21万0000円
宣伝販促費   1926万0394円
デザイン費     11万0754円(ジャケット文字入力・版下代+改版代)
搬送費      615万0914円
ビクター手数料  490万7007円(2億3366万7000円×2%×1.05)
部門費     3765万4908円
費用合計  1億8674万2741円(リベート含む。)
純利益      4692万4259円
映像分として×1/2 2346万2129円
(別紙6) 特典DVD    
売上げ      1629万4835円
135円×75%=101.25小数点以下四捨五入
101円×16万1335枚
返品         22万1291円(101円×2191枚)
純売上げ     1607万3544円
リベート      167万9972円
製造費 1963万4391円
1枚当たりの単価117.50円×16万1335枚×1.05
マスタリング費用   10万5000円
印税         16万4263円
B        4万2208円
D        3万8723円
I        3万8336円
C        3万7174円
(合計15万6411円×1.05=16万4263円)
著作権印税     169万8707円
映像原盤使用料    52万5000円(TV神奈川パフォーマンス映像)
宣伝販促費      13万1434円
デザイン費       1万4380円
搬送費        42万3111円
ビクター手数料    33万7545円(1607万3544円×2%×1.05)
部門費       259万0215円
費用合計     2730万4018円(リベート含む。)
純利益      -1123万0474円
曲数按分として×1/2 -561万5237円
映像分として×1/2  -280万7619円

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