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裁判例


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平成11年(行ケ)第429号 審決取消請求事件(平成13年1月15日口頭弁
論終結)
          判         決
   原      告   株式会社鶴見製作所
代表者代表取締役   【A】
訴訟代理人弁理士   本   田   紘   一
同豊   田   正   雄
   被      告   株式会社荏原製作所
代表者代表取締役   【B】
訴訟代理人弁護士   福   田   親   男
同近   藤   惠   嗣
          主         文
 特許庁が平成10年審判第35507号事件について平成11年10
月22日にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、名称を「水中ポンプ」とする発明(特許第2782569号、昭和
61年12月16日出願の実願昭61-192312号を原出願とする分割出願で
ある実願平4-34155号を平成4年5月22日に特願平4-130776号と
して出願変更、平成10年5月22日設定登録。以下「本件発明」という。)の特
許権者である。原告は、平成10年10月23日、本件特許につき無効審判を請求
し、特許庁は、同請求を平成10年審判第35507号事件として審理した結果、
平成11年10月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、
その謄本は、同年12月1日、原告に送達された。
 2 本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の
特許請求の範囲の記載
   中間ケーシングに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを取り付け
るとともに、下部ケーシングの側面を覆うようにストレーナを取付けた水中ポンプ
において、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設け、前記ストレ
ーナと下部ケーシングと上部ケーシングとを前記中間ケーシングに共締固着する複
数本のボルトを設け、前記ストレーナは下部ケーシングカバーと係合する段部を有
し、そして前記ストレーナの底面は段部以外の所で下部ケーシングカバーから離れ
て設けられており、前記複数本のボルトの各々は、ストレーナの段部より下部ケー
シングカバーと下部ケーシングと上部ケーシングを貫通して中間ケーシングに螺合
しており、前記段部の外周端は壁部分がなく開放されていることを特徴とする水中
ポンプ。
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、(1) 本件発明の特許は、明細
書及び図面の記載が不備であって平成6年法律第116号による改正前の特許法3
6条3項及び4項の規定に違反する出願に対してされたものということはでき
ず、(2) 本件発明は、上記原出願(以下「本件原出願」という。)前に頒布された
刊行物であるサービスブック「日立水中ビルジポンプB-PS250A」(審判甲
第1号証・本訴甲第3号証、以下「引用例」という。)に記載された発明並びに意
匠登録第479929号公報(審判甲第4号証・本訴甲第5号証)、特公昭44-
20312号公報(審判甲第5号証・本訴甲第6号証、以下「周知例」という。)
及び実公昭38-23277号公報(審判甲第6号証・本訴甲第7号証)に記載さ
れた本件原出願前に周知の構成に基づいて、当業者が容易に発明をすることができ
たということはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は、本件明細書又はその図面(以下「本件図面」という。)の記載が不
備であることを看過し(取消事由1)、引用例記載の発明(以下「引用例発明」と
いう。)及び周知例記載の発明(以下「周知例発明」という。)の認定を誤り、本
件発明の容易想到性の判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取
り消されるべきである。
 1 取消事由1(明細書及び図面の記載不備の看過)
  (1) 審決は、「本件発明の特許は、明細書及び図面の記載が不備である出願に
対してされたものであるとすることはできない。」(審決書25頁6行目~8行
目)と判断したが、誤りである。
    本件発明は、「下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバー」を設
けることを構成要件とするものであるが、この構成要件は、本件原出願の明細書
(以下「原出願明細書」という。)に記載がなく、その分割出願(以下「本件分割
出願」という。)の明細書(以下「分割出願明細書」という。)に記載されたもの
である。本件明細書にも、「底面を覆う」とした点についての技術的意義が記載さ
れておらず、本件図面に記載された実施例は、下部ケーシング全体を下部ケーシン
グカバーが覆っているものである。下部ケーシングカバーが下部ケーシングの底面
を覆うことが本件発明の構成要件であるというためには、その技術的意義が発明の
詳細な説明により裏付けられていなければならず、その裏付けがない以上、「底面
を覆う」という構成に関する本件明細書の記載は不備である。
  (2) 審決は、「『下部ケーシングカバーが下部ケーシングの底面を覆う』とし
た点の技術的意義は、『上部及び下部ケーシング4、5はいずれも弾性材で作られ
ているので、各ケーシングの接合面Sをシールし、且つ、ボルト8のない部分でも
充分シールできる様にする』及び『ストレーナを充分に薄くしても、下部ケーシン
グカバーによりボルトの締結力を維持する』ためであり、このことは、本件特許公
報の【0003】及び【0012】等に記載されている。」(審決書23頁13行
目~24頁2行目)と判断する。
    しかしながら、審決が引用する本件明細書の【0003】は、従来例であ
る図4の説明であって、本件発明の説明ではない。また、審決の引用する【001
2】の記載は、下部ケーシングカバーが下部ケーシングを覆っているので、ストレ
ーナを薄くすることができ、この結果、ボルトの締結力も維持できるとの意味であ
る。したがって、これら記載は、下部ケーシングを覆う下部ケーシングカバーの説
明であって、下部ケーシングの「底面」を覆う下部ケーシングカバーの説明ではな
いから、「底面を覆う」ことの技術的意義を記載したものではない。
  (3) さらに、審決は、「本件特許公報の図面には、『下部ケーシングが下部ケ
ーシングカバーで全部覆われた』こと、即ち『底面を覆う』ことが記載されてお
り、」(審決書24頁3行目~5行目)と判断するが、誤りである。本件図面は、
本件発明の実施例を説明するための補助的な役割を担うものであるが、本件図面で
は、側面及び底面を覆うものが示されており、底面が覆われたことが記載されてい
るとはいえない。
 2 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)
  (1) 引用例発明の認定の誤り
    一般に、水中ポンプでは、ポンプケーシングとモータケーシングとが合体
して設けられるため、両者の境目は共有される壁となり、この壁は、両者の中間に
あるために「中間ケーシング」と呼ばれるほか、「ケーシングカバー」等、様々な
名称で呼ばれている。ポンプケーシングとモータケーシングとを仕切る中間にある
仕切壁の部分は、両者の中間にあるために中間ケーシングと呼ばれているにすぎ
ず、格別特徴のある構造ではない。したがって、引用例発明の「ケーシング」と
「モートルケーシング」との間にある「シールオサエ」が「中間ケーシング」に相
当するから、「甲第1号証(注、引用例)には、本件発明の『中間ケーシング』に
相当する部材は存在しない。」(審決書15頁5行目~7行目)とする審決の認定
は、誤りである。
  (2) 周知例発明の認定の誤り
    周知例発明において、「ライニング」は、実質的にボリュート室のポンプ
ケーシングを形成しているのであるから、本件発明における弾性材製の上部ケーシ
ング及び下部ケーシングに相当するものである。従来、弾性材は強度がないため
に、剛性のある鉄材などが補強材として設けられており、周知例発明におけるポン
プ・ハウジングの底部分は、ライニングの補強材、すなわち、本件発明の下部ケー
シングカバーに相当する。また、ポンプ・ハウジングの上方部分は、ポンプケーシ
ングを形成する上部ケーシングとモ一夕ケーシングとの中間に設けられ、ポンプ室
とモータ室との隔壁となる部分であって、本件発明の中間ケーシングに相当する。
したがって、「甲第5号証(注、周知例)には、ポンプケーシングとモータケーシ
ングとの間に設けられる『中間ケーシング』が存在しない。そして、甲第5号証の
『ポンプハウジングの上方部分6及び底部分5』はポンプケーシングを形成するも
のであるから、本件発明の『上部ケーシング及び下部ケーシング』に相当し、甲第
5号証の『上方部分6及び底部分5』は『弾性材を被覆されたケーシング』である
のに対して、本件発明の『上部ケーシング及び下部ケーシング』は『弾性材製のケ
ーシング』である点で相違している。」(審決書17頁11行目~18頁1行目)
とする審決の認定は、誤りである。
  (3) 容易想到性の判断の誤り
    上記のとおり、引用例発明には、本件発明の「中間ケーシング」に相当す
る構成が存在するから、両者の相違点は、引用例発明に弾性材製の上下部ケーシン
グがないということに尽きる。そして、上記相違点に係る構成は、周知例に記載さ
れており、しかも、弾性材の上下部ケーシングをポンプケーシングとして形成する
場合に、上下部ケーシングを共締固着する複数本のボルトで中間ケーシングに取り
付けるものも周知例に示されている。そうすると、本件発明は、引用例のポンプケ
ーシングを、摩滅しやすい砂利等を含む水中ポンプにおいて、周知例に示されるよ
うな弾性材の上下部ポンプケーシングを採用したものにすぎないのであるから、引
用例発明及び周知例発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、「本件発明が、・・・当業者が容易に発明をすることができたものと
することはできない。」(審決書22頁13行目~末行)とする審決の判断は、誤
りである。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(明細書及び図面の記載不備の看過)について
  (1) 本件発明は、弾性材製の上下分割ケーシングを用いた水中モータポンプに
おいて、上下のケーシング間のシールを確実にすることを目的としたものである。
すなわち、ケーシングが弾性材で作られていると、ポンプが作動した際に発生する
圧力でケーシングが変形し、ボルト間でシール性が悪くなる。そこで、本件発明で
は、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設ける構成を採用したの
である。本件明細書には、ボルトの締め付け力がその段部から下部ケーシングカバ
ーを介して上下のケーシングにほぼ均等に印加されるために、上下のケーシングの
接合面には全周にわたってほぼ均一な力が作用し、この接合面を確実にシールする
ことができる旨記載されている。そうすると、下部ケーシングカバーは、ボルトの
締め付け力を円周全体に均一に配分する作用を有するものであり、下部ケーシング
と上部ケーシング間のシールを図るためには、少なくとも、下部ケーシングの底面
が覆われていることが必要かつ十分であることは、当業者に自明の事項である。
  (2) また、これに対応する記載として、原出願明細書には、ストレーナはディ
スタンスカラーを介して下部ケーシングカバーを押圧し、下部ケーシングと上部ケ
ーシング間のシールを図るようになっているとの記載があり、本件発明の「段部」
は、原出願明細書におけるディスタンス体の一実施例であるから、本件明細書の記
載と原出願明細書の記載にそごはない。そして、下部ケーシングカバーが下部ケー
シング全部を覆うことは、底部を覆うことを含んでいるのであるから、下部ケーシ
ングの全部を覆う実施例が記載されている以上、本件発明について底部を覆う実施
例の記載があるというべきである。
 2 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について
  (1) 引用例発明の認定の誤り
    中間ケーシングは、ポンプケーシングの一部であると同時にモータケーシ
ングの一部であるから、引用例のモートルケーシングの下部を本件発明の中間ケー
シングに対応させて上部ケーシングに対応する部分がないと説明することも、これ
を上部ケーシングに対応させて中間ケーシングに対応する部分がないと説明するこ
とも、説明の仕方の問題であって、いずれも誤りではない。そして、上下分割ケー
シングのポンプにあっては、上部ケーシングがなければポンプが構成されないか
ら、審決は、後者の説明を採用して、引用例のモートルケーシングの下部及びシー
ルオサエが、本件発明の上部ケーシングに相当するものではない旨認定したのであ
り、この認定に誤りはない。そして、本件発明の上部ケーシングに対応する部分と
は別の部材としての中間ケーシングが引用例発明に存在しないことは、審決の認定
するとおりである。
    原告は、引用例発明のシールオサエが本件発明の中間ケーシングに相当す
る旨主張するが、この部分は、軸受けのオイルシールに蓋をして押さえている部分
であり、水中モータポンプ全体の基本構造を成す部分ではない。したがって、この
部分を独立させて中間ケーシングと呼ぶことはあり得ない。むしろ、審決認定のよ
うに、この部分がモートルケーシングの下部と一体を成すと見る方が自然である。
また、引用例発明のボルトはモートルケーシングのねじ穴にねじ込まれるのである
から、シールオサエが本件発明の中間ケーシングに相当しないことは明らかであ
る。
  (2) 周知例発明の認定について
    原告は、周知例についても引用例に係る上記主張と同様の主張をしている
が、この点でも審決に誤りはない。
    また、原告は、周知例発明のライニングは、本件発明の弾性材の分割上下
部ケーシングに相当する旨主張するが、審決は、ポンプ・ハウジングがゴム製保護
ライニングにより内部を被覆されている周知例の記載に基づいて、周知例発明のポ
ンプ・ハウジングの上方部分及び底部分が弾性材を被覆されたケーシングであると
認定したのであり、この認定には何の誤りもない。そして、本件発明の意義は、剛
性のない上下ケーシングの接合面におけるシールを確実に行うことにあり、剛性を
有する部材に弾性材が被覆されたケーシングは、ボルトのない部分で接合面が開い
てシールが破れるという課題が存在しないから、弾性材製のケーシングと異なる構
成であることは明らかである。
  (3) 容易想到性の判断について
    以上のとおり、引用例発明及び周知例発明に係る審決の認定に誤りはな
く、本件発明は、引用例発明に周知例発明を組み合わせても、当業者が容易に発明
をすることができたということはできないから、審決の進歩性の判断に誤りはな
い。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(明細書及び図面の記載不備の看過)について
  (1) 本件明細書(甲第2号証)には、以下の記載がある。
   ア 【0011】・・・本発明では、ストレーナの段部より下部ケーシング
カバーと下部ケーシングと上部ケーシングを貫通して中間ケーシングに螺合するボ
ルトを締め付けることにより、ストレーナと下部ケーシングと上部ケーシングが中
間ケーシングに共締固着される。その結果、中間ケーシングとストレーナの段部
(或いは下部ケーシングカバー)とにより挟み付けられて圧縮された上部及び下部
ケーシングに対しては、比較的均一にボルトの締付力(圧縮応力)が作用するの
で、上部及び下部ケーシング接合面は確実にシールされる。【0012】また、ス
トレーナを充分に薄くしても、下部ケーシングカバーによりボルトの締結力を維持
することができる。(4欄49行目~5欄15行目)
   イ 【0016】ストレーナ7の段部15と中間ケーシング3とは、その間
で下部ケーシングカバー6と下部ケーシング5と上部ケーシング4とをサンドイッ
チ状にはさんでいる。したがって、ボルト13の締付け力は該段部15から下部ケ
ーシングカバー6を介して上下のケーシング4、5にほぼ均等に印加される。その
ために、上下のケーシング4、5の接合面には、全周にわたって略々均一な力が作
用し、この接合面を確実にシールすることができる。(5欄37行目~45行目)
   ウ 【0022】(2) ストレーナの段部より下部ケーシングカバーと下部ケ
ーシングと上部ケーシングを貫通して中間ケーシングに螺合するボルトを締め付け
れば、上部ケーシングと下部ケーシングとの接合面に略々均一な力が作用する。そ
のため、シールが確実に行われる。・・・【0024】(4) ストレーナが弾性材製
の上下のポンプケーシングの側面を覆い、弾性材の損傷を防止している。(6欄2
0行目~34行目)
  (2) 上記の記載によると、本件発明において、下部ケーシングカバーは、スト
レーナの段部と下部ケーシングに挟まれ、ボルトの締め付け力を上下のケーシング
にほぼ均等に作用させる役割を担うものと認められる。そして、ボルトによる締め
付けは、下部ケーシング底面において行われるのであるから、上記の役割を担うた
めには、下部ケーシング底面に下部ケーシングカバーが密着していれば足り、下部
ケーシング側面にカバーがあるか否かとは無関係というべきである。また、上記記
載によれば、弾性材から成る下部ケーシングは、ストレーナで覆われており、これ
により損傷を防止しているのであるから、下部ケーシング側面を下部ケーシングカ
バーが覆わない場合が示唆されていると認められる。
    そうすると、本件明細書には、下部ケーシングカバーが下部ケーシングの
底面を覆うことに技術的意義があり側面を覆うことを要しない旨記載されていると
いうべきであるから、本件発明の実施例において下部ケーシングカバーが下部ケー
シング全体を覆っているからといって、特許請求の範囲にも下部ケーシング全体を
覆う旨記載することを要するものではない。また、「下部ケーシングの底面を覆
う」という記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記
載されているということができるから、本件明細書に、原告主張の記載不備はな
い。
  (3) 原告は、原出願明細書に「底面を覆う」ことの記載がない旨主張する。確
かに、原出願明細書(甲第19号証)には、実用新案登録請求の範囲に「下部ケー
シングカバーで覆われた下部ケーシング」と記載され、すべての実施例(第1図~
第4図)において、下部ケーシングカバーは下部ケーシングの側面をも覆ってお
り、また、原出願明細書には上記(1)のア~ウに相当する記載もないことから、原出
願明細書に「下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設け」との構成
が記載されていると解することは困難である。しかしながら、本件明細書に記載不
備があるかどうかは、専ら本件明細書の記載に基づいて判断すべき事項であって、
原出願明細書に記載されている内容は、本件明細書における記載不備の判断に影響
を及ぼすものではない。原出願明細書に上記記載がないことは、本件分割出願等の
適法性に係る問題であるが、原告が審判においてこの点につき主張し判断を経てい
ない以上、本件訴訟においてこの点を審理判断すべき限りではない。
  (4) よって、本件明細書及び本件図面に原告主張の記載不備はないから、取消
事由1は理由がない。したがって、本件発明の要旨は、本件明細書の特許請求の範
囲に記載されたものと認められる。
 2 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について
  (1) 周知例(甲第6号証)には、「ポンプ・ハウジングの底部分は5、その上
方部分は6で示されている。ポンプ・ハウジングはゴム製保護ライニングでもって
内部を被覆されるようになされており、しかしてこのライニングは、ポンプ・ハウ
ジングの下方部分では数字7、ハウジングの上方部分では数字8によって示されて
いる。」(3欄28行目~33行目)との記載がある。この記載及び第1図によれ
ば、周知例発明においては、上から順に、「ポンプ・ハウジングの上方部分6」、
「ゴム製保護ライニング8」、「ゴム製保護ライニング7」及び「ポンプ・ハウジ
ングの底部分5」が配置されていると認められる。他方、本件発明においては、上
から順に、「中間ケーシング」、「弾性材製の上部ケーシング」、「弾性材製の下
部ケーシング」及び「下部ケーシングカバー」が配置されている(本件発明の要
旨)。
    周知例において、ポンプケーシングの最上部に位置する「ポンプ・ハウジ
ングの上方部分6」は、本件発明のモーターケーシングに相当する電動機室とポン
プケーシングの中間に位置するものともいえるから、本件発明の「中間ケーシン
グ」に相当するというべきである。そうすると、周知例発明の「ゴム製保護ライニ
ング8」、「ゴム製保護ライニング7」及び「ポンプ・ハウジングの底部分5」
は、それぞれ、本件発明の「弾性材製の上部ケーシング」、「弾性材製の下部ケー
シング」及び「下部ケーシングカバー」に相当する。そして、周知例発明の「ゴム
製」と本件発明の「弾性材製」には差異がなく、両発明において対応する部材は、
材質面においても一致する。
    また、本件明細書(甲第2号証)には、「ポンプケーシングPCは弾性材
例えばゴムで作られた上部ケーシング4と同様に弾性材製の下部ケーシング5とを
備え、これらのケーシング4、5によってボリュート室Vが画成され、その中にモ
ータMによって回転するインペラ1が収納されている。」(3欄1行目~6行目)
との記載がある。周知例(甲第6号証)第1図においては、羽根車4(本件明細書
におけるインペラ1に相当する。)がゴム製保護ライニング8及び7によって形成
される空間内に収納されることが明確に図示されており、ゴム製保護ライニング8
及び7がボリュート室Vを画成していることは明らかである。そうすると、機能面
からも、本件発明の上部ケーシング及び下部ケーシングに相当するのは、周知例発
明2のゴム製保護ライニング8及び7であるというべきであり、このことは、上記
の配置順序から対比した結果と一致するものである。
    したがって、「甲第5号証の『ポンプハウジングの上方部分6及び底部分
5』はポンプケーシングを形成するものであるから、本件発明の『上部ケーシング
及び下部ケーシング』に相当し」(審決書17頁14行目~17行目)とする審決
の認定は、本件発明と周知例発明との構成の対応を誤っていることになるから、
「甲第5号証の『上方部分6及び底部分5』は『弾性材を被覆されたケーシング』
であるのに対して、本件発明の『上部ケーシング及び下部ケーシング』は『弾性材
製のケーシング』である点で相違している。」(同17頁17行目~18頁1行
目)との認定も誤りであり、さらに、「甲第1号証(甲第2号証の1,甲第4号
証)、甲第5号証、甲第6号証のいずれにも、本件発明の『中間ケーシング』及び
『下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバー』について記載されておら
ず」(同21頁10行目~14行目)との認定も誤りである。
    被告は、周知例発明には弾性材を被覆されたケーシングにおいてはシール
が破れるという課題が存在しないと主張するが、周知例(甲第6号証)第1図によ
れば、剛性を有する部材であるポンプ・ハウジングの上方部分6と底部分5とは接
しておらず、接しているのは弾性材製のライニング8と同7であるから、周知例発
明にも、本件発明と同様、シールが破れるという課題が存在するというべきであ
る。
  (2) 容易想到性の判断について
    審決は、引用例発明について、「水中ポンプにおいて、前記ストレーナ4
1とケーシング46とケーシングパッキン42とを前記モートルケーシング9に共
締固着する三本の取付けねじ43・・・を設け、前記ストレーナ41はケーシング
46と係合する段部を有し、そして前記ストレーナ41の底面は段部以外の所でケ
ーシング46から離れて設けられており、前記三本の取付けねじ43の各々は、ス
トレーナ41の段部よりケーシング46とケーシングパッキン42を貫通してモー
トルケーシング9に螺合しており、前記段部の外周端は壁部分がなく開放されてい
る水中ポンプ。」と認定し(審決書7頁3行目~15行目)、また、引用例には、
「本件発明の『中間ケーシングに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを
取り付けた水中ポンプにおいて、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバ
ーを設け、前記ストレーナと下部ケーシングと上部ケーシングとを前記中間ケーシ
ングに共締固着する複数本のボルトを設け、前記ストレーナは下部ケーシングカバ
ーと係合する段部を有し、そして前記ストレーナの底面は段部以外の所で下部ケー
シングカバーから離れて設けられており、前記複数本のボルトの各々は、ストレー
ナの段部より下部ケーシングカバーと下部ケーシングと上部ケーシングを貫通して
中間ケーシングに螺合している』事項について記載されていない。」(審決書16
頁11行目~17頁5行目)と認定する。
    そうすると、審決が認定した本件発明と引用例発明の相違点は、本件発明
が中間ケーシングに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを取り付けた水
中ポンプであるのに対し、引用例にはこの記載がない点(以下「相違点1」とい
う。)、本件発明が下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設けてい
るのに対し、引用例にはこの記載がない点(以下「相違点2」という。)、ボルト
により共締固着される対象として、本件発明が中間ケーシング、上部ケーシング、
下部ケーシング及び下部ケーシングカバーが含まれるのに対し、引用例にはこの記
載がない点(以下「相違点3」という。)並びに本件発明ではストレーナ段部の係
合する対象が下部ケーシングカバーであるのに対し、引用例ではこの記載がない点
(以下「相違点4」という。)である。
    相違点1及び2は、前記のとおり、周知例に記載された構成であるとこ
ろ、引用例発明及び周知例発明はいずれもポンプに係るものであり、一般に当業者
がこれらを組み合わせることは容易であって、これを妨げるべき特段の事情はうか
がえないから、引用例発明に対して周知例に記載された相違点1及び2に係る構成
を採用することは、当業者にとって容易であるというべきである。引用例発明のボ
ルトは、ストレーナからモートルケーシングにまで及んでいるのであるから、その
間に存在する部材も当然に貫通するものである。そうすると、引用例発明に相違点
1及び2に係る構成が採用された水中ポンプ、すなわち、中間ケーシングがあり、
これに弾性材製の上部ケーシング及び下部ケーシングを取り付け、下部ケーシング
の底面を覆う下部ケーシングカバーを設けた水中ポンプにあっては、ボルトによ
り、中間ケーシング、上部ケーシング、下部ケーシング及び下部ケーシングカバー
が必然的に共締固着されることとなるから、相違点3に係る構成も、技術上当然に
採用されることとなる。また、引用例発明に相違点1及び2に係る構成が採用され
れば、下部ケーシングの底面を覆う下部ケーシングカバーを設けた水中ポンプにお
いて、段部が係合する対象が下部ケーシングカバーとなることは技術上当然の結果
である。そうすると、当業者が引用例発明に対して周知例発明の具備する相違点1
及び2に係る構成を採用することが容易である以上、相違点3及び4に係る構成を
採用することもまた容易である。したがって、本件発明は、引用例発明及び周知例
発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
 3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由2は理由があり、審決は
本件発明の進歩性に関する認定判断を誤ったものであって、この誤りが審決の結論
に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
   よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠  原  勝  美
            裁判官   石  原  直  樹
            裁判官   長  沢  幸  男

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